競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第12回。今回は唯一無二の個性派逃げ馬「ツインターボ」について熱く語ります。
ウマ娘のツインターボ
アニメ版でも大人気
アニメ版ウマ娘プリティーダービー第2期において、主役級のトウカイテイオーやメジロマックイーンに劣らないほどの人気者といっていいキャラクターであるツインターボ。このウマ娘の活躍がアニメ2期の物語に深みを与えていると言っても過言ではないだろう。今回のコラムでは、アニメでもファンに感動を与える走りを見せてくれたツインターボの史実を追っていく。
ツインターボの代名詞
個性「大逃げ」
ツインターボと言えば「大逃げ」が代名詞で、勝つ時は逃げ切り圧勝、負ける時は惨敗と、レースぶりだけでなく成績も極端だった。その圧勝のなかにG1レースが含まれるかと言うと、否。G1レースは未勝利である。それどころか、3回出走していずれも二桁着順の大敗である。
それでも記憶に残る逃げ馬と言えば、サイレンススズカと肩を並べるほどの知名度と人気を誇るのはなぜか。無謀にも見える大逃げ作戦がハマった時の圧倒的な爽快感と、逆にほとんどの場合が馬群に飲み込まれて惨敗してしまうわけだが、それはそれで哀愁があるというか憎めない姿だったりする。そう、ツインターボという馬は、結果がどちらにせよ見ていて楽しい稀有なエンターテイナーだったのだと思う。
同世代
1988年産まれのツインターボは、アニメでご存知のとおりトウカイテイオーと同世代である。そしてナイスネイチャとは誕生日が3日しか違わない。この年代のウマ娘がみなトウカイテイオーを意識しているのは知ってのとおりだが、実際の競馬においてもトウカイテイオーを中心に回っていたのは間違いない。しかしツインターボがトウカイテイオーと同じレースで走ることは一度もなかった。
気性難
ツインターボがいつから逃げていたかというと、デビュー戦からずっと逃げ一辺倒である。デビューは3歳の3月とかなり遅くなったが、それは気性的な問題があったためだ。人を乗せることを嫌がり思うように調教が進まなかったことと、何よりゲート試験になかなか合格することができなかった。そんな性格のため、騎手が無理にコントロールするより、気の向くままに逃げるという作戦を取ったというのが実情のようだ。
3歳時
メイクデビュー
苦労したゲート試験に合格し、ようやく3歳の3月に新馬戦出走にこぎつける。因みにこの時の馬体重438キロは、生涯の最高馬体重である。デビュー前に思うような調教ができずに絞りきれなかったのだろうか?ツインターボといえば410キロ台の小柄な馬というイメージがあるので、デビュー戦の馬体重を知って少し驚いた。そんなデビュー戦は、中山ダートの1800mを鮮やかに逃げ切り勝ちを収めた。
逃げる
2戦目は芝に変わり、中山芝2000mのレースを逃げ切り2連勝。ダートで勝ち上がってきたツインターボは11頭中の7番人気という伏兵だった。ダービー出走をかけて挑んだトライアルレースの青葉賞(東京芝2400m)では直線で失速して9着。初黒星を喫すると、続く自己条件のレース(東京芝2000m)では粘りを見せたものの5着。もちろんいずれも作戦は逃げだが、東京競馬場では2連敗だった。
重賞挑戦
中山で2連勝のあと、東京で2連敗。長い直線はツインターボの逃げ脚質には合っていなかったのかもしれない。そして小回り平坦コースの福島競馬場で確信することとなる。G3ラジオたんぱ賞(福島芝1800m)に出走したツインターボは大きなリードを開いて逃げると、最後まで粘り切り重賞初制覇を飾った。
中山で
3勝目を挙げてオープンクラス入りを果たしたツインターボは、秋に向けて夏は休養にあてられた。そして満を持して復帰戦に選んだのはデビューから2連勝を飾った相性のいい中山競馬場で行われるG2セントライト記念。菊花賞を目指す強敵の中には、春にダービーで2着だったレオダーバンもいる。もちろんそのダービーを勝ったのはトウカイテイオーだが、骨折によりこの秋は不在である。
セントライト記念は、逃げたツインターボが直線でも粘りを見せ、ゴール前までもつれてクビ差の2着と惜敗する。ダービー2着のレオダーバンはツインターボからさらにクビ差の3着だった。
福島で
セントライト記念2着のあと、菊花賞には向かわず福島記念へ。重賞勝ちのある福島競馬場だ。ラジオたんぱ賞以来の福島で逃げ切りこそ決まらなかったものの1馬身差の2着に粘った。秋になって重賞レースで連続の2着。強敵相手にも安定した成績を残してきたツインターボがいよいよG1レースに挑戦する。
有馬記念
ツインターボのG1初登場は暮れの大一番、有馬記念。注目はメジロマックイーン。この秋は天皇賞(秋)で1位入線からの進路妨害で降着となり、ジャパンカップは4着という成績。アニメでも描かれる不振に陥っていた時期だ。そして2番人気に同期のナイスネイチャ。菊花賞こそ4着と善戦止まりだったものの、夏以降に重賞3勝と波に乗っていた。
ツインターボが4,5馬身のリードを保ち逃げる展開。得意の中山コースでどれだけ粘るか期待されたが、直線までもたずにずるずると馬群に飲み込まれていった。勝ったのは驚きの14番人気ダイユウサク。メジロマックイーン2着、ナイスネイチャ3着と続いた。ツインターボは大きく離れた14着でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
4歳以降
長期休養
有馬記念後、調子を崩したツインターボは立て直しに時間を要する。長期休養を経て復帰したのは4歳の秋、1年近くが経とうとしていた。
復帰戦は福島競馬場のオープン戦、福島民友カップ。得意の福島で1番人気に支持されたツインターボだったが、いいところなく最下位に終わった。ツインターボが中央競馬のレースで1番人気におされたのはこれが最初で最後のレースとなった。
復調の兆し
なかなか調子の上がらないツインターボだったが、間隔を開けながら中山の重賞レースに続けて出走。G3日刊スポーツ賞金杯とG2中山記念は、ともに6着だった。それほど大きく失速することもなく、相性のいい中山競馬場で復調の兆しを見せた。
覚醒
ターボエンジン全開
そして新潟のレースを挟んで舞台は再び相性のいい福島競馬場。夏の福島の名物重賞、G3七夕賞である。逃げ・先行馬が揃ったメンバーの中、大外16番枠に入ったツインターボは迷うことなく先頭に立つ。逃げ馬を得意としていた中館英二騎手と初コンビを組んだツインターボは、得意の福島で水を得た魚のように気持ちよく逃げた。
実況アナウンサーが「ターボエンジン全開!」というフレーズを何度も口にする会心の逃げを披露し、ハイペースで逃げてそのまま2着に4馬身差をつけて圧勝。福島で2つ目となる重賞勝利をあげた。
テイオーのアンポンターン!!
アニメ2期では、同世代のスターであるトウカイテイオーを意識しまくっているツインターボ。度重なる怪我に悩まされるテイオーに挑戦状を送りつけるなど、ターボなりの鼓舞をする姿が印象的だ。そして引退を決心するテイオーに向かって言い放つのだ。「ターボ勝つから!絶対逃げ切って勝つから!テイオーのアンポンターン!!」
ベストレース
オールカマー
そして再現されたのがツインターボのベストレースと言われるG3オールカマーである。スタート直後から先手を奪い、最初のコーナーに差し掛かる頃には大きくリードを広げる。2番手のホワイトストーンに10馬身近い差をつけて逃げる。ホワイトストーンから後続にはさらに同じくらいの差が開く超縦長の展開となった。
1番人気のライスシャワーや桜花賞馬シスタートウショウらハイレベルの出走メンバーだったが、ツインターボの大逃げの前に成すすべはなかった。大きなリードを保ったまま直線に差し掛かったツインターボは、そのまま5馬身差をつけてゴールまで駆け抜けた。
天皇賞(秋)
勢いに乗ったツインターボは天皇賞(秋)で2度目のG1に挑む。才能が覚醒したかのような鮮やかな逃げ切りで重賞2連勝中のツインターボは3番人気。しかし序盤からハイペースで飛ばしたツインターボは直線で早々に力尽き、最下位に沈んでしまった。やはり東京競馬場はこの馬には合わないようだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
負けっぷりも人気
その後は中山競馬場や福島競馬場のレースを中心に使われたものの、七夕賞、オールカマーで見せた痛快な逃げ切り劇の再現を期待するファンに応えることはできなかった。しかし、負けても負けても逃げ切りを目指して先頭を走り、そして力を使い果たして後ろの順位で完走する姿もまた人気だった。競争生活の晩年は地方競馬に移籍して1勝をあげ、中央からの通算6勝をすべて逃げ切り勝ちであげた。
エンターテイナー
有馬記念
最後に、3度目のG1挑戦となった94年の有馬記念を観て締めくくりたい。三冠馬ナリタブライアンと、それに挑む女傑ヒシアマゾン。ゲームのメインストーリー第4章でも描かれたレースだ。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
見たことがないくらいの大逃げで沸かせたツインターボは、やはり一流のエンターテイナーである。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ツインターボ。
史実のツインターボ
基本情報 | 1988年4月13日 牡 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 ライラリッジ 母 レーシングジイーン(父 サンシー) |
馬主 | 黒岩晴男 |
調教師 | 笹倉武久(美浦) |
生産牧場 | 福岡敏宏(北海道・静内町) |
通算成績 | 35戦6勝(中央22戦5勝、地方13戦1勝) |
主な勝ち鞍 | ’93七夕賞(G3)、’93産經賞オールカマー(G3)、’91ラジオたんぱ賞(G3) |
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