競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第97回。今回はヒット中の劇場版ウマ娘でも注目のウマ娘、ダンツフレームについて熱く語ります。
いつかは主役へ
最強世代の一角
公開中の劇場版『ウマ娘プリティーダービー 新時代の扉』の評判がいい。すでに2回目、3回目を観たというトレーナーも多いと聞く。今回は、劇場版のメインキャラクターの中でもジャングルポケットやアグネスタキオンら強力なライバル達に負けず人気を獲得しているウマ娘、ダンツフレームの史実を追っていく。
幼少期
血統
父ブライアンズタイムはナリタブライアンやマヤノトップガン、タニノギムレットといった大物を排出した名種牡馬。母インターピレネーは現役時代は重賞勝ちこそないものの、二冠牝馬ベガと同期で桜花賞にも出走した活躍馬だった。
関係者の期待は低めだった!?
のちのダンツフレームとなる鹿毛の牡馬については、牧場時代から関係者の評価はあまり高くなかった。当時の関係者のコメントによれば「のんびりしている」「大人しくて優しい」という性格面はいいとして、体型的な特徴として「でっぷりした」「ぶくぶく太った」といった表現や、しまいには「牛みたい」と形容されるほど、あまり見栄えのいいタイプの馬ではなかった。
実際、素人目から見てもお腹のあたりがコロンとした印象を受けた記憶がある。ブライアンズタイム産駒にはこういった特徴を持つタイプが割と多く、「見た目が当てにならない種牡馬」という評価もあるくらいだ。
2歳時
メイクデビュー
栗東の山内研二厩舎に入厩したダンツフレームは、当初は山内調教師自身からの期待もさほど高くはなく、しかしながらその評価に反して調教の動きは素質を感じさせるものを見せていた。
仕上がりも早く2歳の6月、函館開幕週の新馬戦(ダート1000m)でデビューを迎えると1番人気の支持を集めた。藤田伸二騎手を背に道中5番手から脚を伸ばしたものの、先に抜け出した勝ち馬には離されてしまい2着となった。
そして中2週で挑んだ同条件の2戦目(函館ダート1000m)ではきっちりと差し切り、見事に勝ち上がりを決めた。
連勝
間隔を開けて9月の阪神で芝のレースに初出走。オープン特別のききょうステークス(阪神芝1400m)では武豊騎手を背に、断然の1番人気に応えて鮮やかな勝利で連勝。
続いて、出世レースとして知られた野路菊ステークス(阪神芝1600m)は河内騎手との初コンビで再び断然の1番人気。ここも危なげなく勝って3連勝。トントン拍子で同世代の上位にその名を連ねた。
ここで放牧に出されると、2歳G1には目もくれず4戦3勝の成績で2歳のシーズンを終えた。
3歳時
クラシックへ向けて
年が明けて3歳のシーズンを迎えると、きさらぎ賞でいよいよ重賞レースに初挑戦。待ち受けていたのは新馬戦→若駒ステークスと連勝中のアグネスゴールドと、3戦3勝のシャワーパーティといった評判馬だった。
3番人気ダンツフレームと武豊騎手のコンビは好位追走からいったんは完全に抜け出したものの、最後の直線で鋭い末脚を繰り出したアグネスゴールドに屈して2着まで。それでも3着以下は引き離しており力は示した一戦であった。
重賞初勝利
続いて、中一週でマイルのG3アーリントンカップに出走。武豊騎手とのコンビ継続で単勝オッズは1.2倍の抜けた一番人気に支持された。
中団待機で脚をためると、スローペースの逃げから最後まで粘るキタサンチャンネルをきっちりハナ差で差し切って勝利。重賞初制覇を果たしクラシック戦線へ名乗りを上げた。
クラシック開幕
豪華メンバーが集結
ダンツフレーム陣営は皐月賞トライアルはパスし、あくまで最大目標をダービーに据えたが武騎手の進言もあって皐月賞出走を決定。ご存知のとおり、この年のクラシック戦線は例年にも増してハイレベルな精鋭たちが顔を揃え、いよいよ開幕するクラシック本番に向けて爪を研いでいた。
皐月賞
二強
そして迎えた牡馬クラシック一冠目の皐月賞。ここまで3戦無敗、それも圧倒的な走りで歩みを進めてきたアグネスタキオンが単勝オッズ1.3倍と抜けた一番人気。2番手に3.7倍でジャングルポケットが続き二頭の一騎打ちが濃厚となっていた。3番人気のダンツフレームのオッズは16.8倍であるから、いかに二頭の評価が抜けていたかということだ。
ゲートが開いた直後、ジャングルポケットが躓いて落馬寸前という場面もあったが事なきを得た。1コーナーまでのポジション争いでゴチャつく場面も見られる中、アグネスタキオンは好位につけ、藤田伸二騎手と再コンビのダンツフレームは中団から。
最後の直線を迎えると、アグネスタキオンが堂々と先頭に躍り出る。直後から、ジャングルポケットとダンツフレームが併せ馬で追いかける。人気上位3頭の追い比べとなったが、アグネスタキオンが先頭でそのままゴール。ジャングルポケットとの追い比べを制したダンツフレームが2着でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
残念ながら、勝ったアグネスタキオンはレース後に屈腱炎が判明。ここまでハイレベルな戦いを牽引してきた世代のトップがダービーを前に姿を消してしまった。
主役不在のダービー
日本ダービー
絶対的な主役が欠けてしまったダービーだったが、皐月賞上位組とNHKマイルカップを勝って参戦してきた外国産馬のクロフネの対決が注目を集めた。
皐月賞では落馬寸前の不利を跳ね返して3着のジャングルポケットが1番人気。2番人気にクロフネ、3番人気に皐月賞2着のダンツフレームが続き、三強の争いが予想された。ダンツフレームの鞍上には、戦線離脱したアグネスタキオンの主戦を務めた河内騎手。野路菊ステークス以来二度目のコンビとなった。
直前まで降った雨により重馬場でのスタート。曇天の空模様の中ゲートが開くと、ダンツフレームは好スタートから中団までポジションを下げて折り合いをつける。ジャングルポケットとクロフネもその直後につけ互いに牽制し合うような展開となる。
逃げたテイエムサウスポーの大逃げにより縦長のとなった馬群は最後の直線へ向かう。直線に入ると先行勢が後退し、インコースを突いた伏兵のダンシングカラーが抜け出す。そして、外に持ち出されたダンツフレームとジャングルポケットが二頭併せ馬で追い込んでくる。
ダンシングカラーを交わした二頭のマッチレースは内ジャングルポケット、外ダンツフレーム。最後は叩き合いから一歩抜け出したジャングルポケットが先頭でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ダンツフレームは皐月賞に続いてあと一歩届かずの2着と涙をのんだ。
菊花賞へ向けて
夏休みを挟んで秋は三冠最後の菊花賞。この時点では距離適性を考慮して菊花賞か天皇賞かで決めかねていたダンツフレーム陣営だったが、ハードな調教を積んだうえで菊花賞へと向かった。
菊花賞
マンハッタンカフェ登場
秋初戦の神戸新聞杯では上がり馬のエアエミネムの4着と不安の残る滑り出し。菊花賞では武豊騎手とのコンビに戻り、ジャングルポケットに次ぐ2番人気で発走を迎えた。
スタートすると、最後方待機策でスタミナを温存しつつ脚をためるダンツフレームと武騎手。レース後半は最速の上がりを駆使して追い上げたが届かず、4着ジャングルポケットから3/4馬身遅れての5着まで。春二冠ともに2着だったダンツフレームにとって悲願のクラシック制覇はならなかった。
勝ったのはダークホースのマンハッタンカフェ。3000mの長丁場で一気に素質を開花させた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
マイル路線へ
菊花賞後、ダンツフレームは中距離G1には向かわず適性を求めてマイル路線へ。古馬との初対戦となったマイルチャンピオンシップでは、菊花賞から一気の距離短縮にも関わらず5着と掲示板を確保する走りを見せて3歳シーズンを締めくくった。
4歳時
安田記念
古馬になったダンツフレームは、目標を安田記念→宝塚記念に定めて京王杯スプリングカップ4着を経て春のG1戦線へと向かった。
香港のG1を連勝してきた1番人気エイシンプレストンが注目を集める中、マイル路線で初G1制覇を目指すダンツフレームは離れた2番人気の評価。鞍上は乗り替わりで池添謙一騎手。
外枠8枠17番から好スタートを決めると、徐々に中団まで下げて府中の長い直線勝負にかける。最後の直線に入ると、真ん中から芦毛のアドマイヤコジーンが先頭に躍り出る。そして大外からダンツフレームが鋭い末脚を発揮して追い込んでくる。一完歩ごとに差を詰めたが、アドマイヤコジーンにクビ差及ばずの2着。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
これでダンツフレームはG1で三度目の2着となり、シルバーコレクターのキャラクターが定着しつつあった。
主役へ
宝塚記念
マイルでG1馬の仲間入りまであと一歩と迫ったダンツフレームは、春のグランプリ宝塚記念で久しぶりの中距離戦に挑む。
同世代を代表するジャングルポケットやマンハッタンカフェら主役不在のメンバー構成となったこの年の宝塚記念。12頭の出走馬の中で強敵は一つ上の世代の二冠馬エアシャカールだったが、菊花賞以来勝ち星から遠ざかっており、藤田騎手とのコンビ復活で悲願のG1制覇を狙うダンツフレームが1番人気に支持された。
スタートすると、3番人気の3歳馬ローエングリンが果敢に先手を奪って逃げる展開。ダンツフレームは好位4番手につけてこれを追う。
最終コーナーで早めに仕掛けたエアシャカールが先頭に並びかける。最後の直線に入ると、内からローエングリンが二枚腰を使って再び突き放す。エアシャカールは脚色が鈍り、代わってダンツフレームとツルマルボーイの二頭が馬体を併せて追い上げる。
そして、今度こそ先頭を譲るまいとダンツフレームが頭一つ前に出たところがゴールだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
同世代のライバルたちが不在の中で主役の座をしっかりと務めたダンツフレームが、待望のG1タイトルを手にした瞬間だった。
秋は成績が低迷
夏場を休養に当てて疲労を癒やす。秋はひと叩きして天皇賞(秋)→マイルチャンピオンシップというローテーションで主役としてG1戦線の中心を歩むはずだったが、成績が低迷してしまう。
初戦の毎日王冠で5着のあとは天皇賞でデビュー以来初めて掲示板を外す14着、そしてマイルチャンピオンシップでも17着と大敗を繰り返した。
5歳以降
復活をかけて異例のローテ
マイルチャンピオンシップ後は休養に入り立て直しを図った。そして5歳のシーズンを迎えると、復帰初戦のマイラーズカップ4着で復活の兆しを見せる。
つづいて、マイルから3200mの天皇賞(春)へ向かうという驚きのローテーションで距離延長に対応できるか疑問視されたが、本来の粘り強い走りが戻りヒシミラクルの5着と掲示板を確保してみせた。
新潟大賞典
天皇賞のあとは中1週でハンデ重賞のG3新潟大賞典(新潟芝2000m)に出走。59キロのトップハンデを背負いながらも、さすがにここでは格上というメンバーの中で宝塚記念以来久しぶりの1番人気に支持された。
ダンツフレームは終始後方を進み、新潟の長い直線勝負にかける。最後の直線、ダンツフレームはメンバー中最速の上がり3ハロン33.7の切れ味で直線一気の差し切り勝ち。G1馬の貫禄を見せて宝塚記念以来の勝利をあげた。
安田記念
復活の勝利を挙げたダンツフレームは再び中1週で安田記念に出走。ともにG1を勝った鞍上藤田騎手とのコンビが復活し、前年2着の雪辱なるかと期待された。
1番人気のローエングリンをマークするように好位で折り合うと、絶好のポジションで最後の直線を迎える。1年前と同じように勝ち負けに持ち込みたいところだったが、最後は他馬と脚色が一緒になってしまい後ろから末脚を発揮して差し切ったアグネスデジタルの5着でフィニッシュした。
引退
宝塚記念を最後に
その後は、ディフェンディングチャンピオンとして宝塚記念に出走したが、ヒシミラクルの7着まで。秋シーズンの開幕前に屈腱炎を発症して引退種牡馬入りすることが決まった。
二度目のデビュー
引退撤回、競走馬復帰
種牡馬入りを控えて放牧先で休養していたダンツフレームだったが、なんと引退を撤回して地方競馬から再デビューという驚きの決断が下される。
復帰の背景
晩年の成績低迷や、ブライアンズタイム産駒が種牡馬として苦戦していたことなどもあって種牡馬としての期待値が低下してしまったこともあり、一旦は種牡馬入りではなく乗馬として余生を過ごすことも検討されていたようだ。しかし、そうこうしているうちに屈腱炎の経過が良好であったことから、「それならばもうひと花咲かせてやりたい」という関係者の思いから現役復帰が決まったという。
地方競馬で復帰
こうして、ダンツフレーム異例の再デビューが決定。地方の荒尾競馬(熊本・現在は廃止)に移籍し、能力審査をパスして復帰戦を迎えた。
復帰初戦は6歳の10月、荒尾競馬場ダート1500mのオープン戦かんなづき特別。2年前の宝塚記念勝ち馬が出走するとあって1番人気で迎えられた。結果は2着だったが、脚元も問題なく当初の予定通り次は浦和競馬へ移籍した。
南関東で転戦し、二度目の引退へ
浦和に移籍後は、南関東を転戦。浦和記念9着、東京大賞典14着を経て、年が明けて7歳になった川崎記念での11着というのを最後に、今度こそ本当に引退が決まった。
引退後のダンツフレームは乗馬としてのセカンドキャリアが決まっていたのだが、残念ながら川崎記念のあとから体調を崩してしまっていた。結果的に重度の肺炎という診断で回復は叶わず、7歳という若さで早逝してしまった。
ウマ娘で紡がれるダンツフレームの物語
そんなダンツフレームの物語は、ウマ娘においてはまだ未完。ジャングルポケットの育成ストーリーでもライバルの一人としてたびたび登場しては癒やしのひと時を与えてくれている。
この先、彼女自身が育成ウマ娘として実装される時、ダンツフレームの不屈の成長物語はどんなものになるのだろうか。主役として描かれるダンツフレームの活躍を楽しみに待ちたい。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ダンツフレーム。
史実のダンツフレーム
基本情報 | 1998年4月19日生 牡 鹿毛 |
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血統 | 父 ブライアンズタイム 母 インターピレネー(父 サンキリコ) |
馬主 | 山元哲二 |
調教師 | 山内研二(栗東)→宇都宮徳一(荒尾)→岡田一男(浦和) |
生産牧場 | 信岡牧場(北海道浦河町) |
通算成績 | 26戦6勝 |
主な勝ち鞍 | 02’宝塚記念 |
生涯獲得賞金 | 5億1142万円 |
エピソード①宝塚記念はG1初勝利の宝庫
リアルの競馬では今週、春のグランプリレースである宝塚記念が行われる。ダンツフレームが悲願のG1初制覇を成し遂げた宝塚記念。その歴代優勝馬を見てみると、ここでG1馬の仲間入りを果たしたという馬が数多くいることに気づくだろう。
ウマ娘でも有名な名前を挙げていくと、メジロライアンやマーベラスサンデー、サイレンススズカ、メイショウドトウといった錚々たる名馬たちがこの宝塚記念でG1初制覇を遂げている。
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