競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第52回。今回はメインストーリー最終章に登場した欧州最強馬「モンジュー」について熱く語ります。
日本の夢を打ち破った欧州最強馬
最終章でまさかの実名登場
前回のツルマルツヨシに続いて、メインストーリー最終章からこの馬を取り上げる。凱旋門賞でエルコンドルパサーの前に立ちはだかった欧州最強馬モンジュー。アニメ版では「ブロワイエ」という別の名前で登場していたが、実名での登場には驚かされた。
最終章とともに史実を追う
モンジューについてのレース記録や映像で紹介できるものはそれほど多くない。そのため今回もメインストーリー最終章の登場シーンを振り返りながらモンジューの史実を追っていく。
※前回と同様、本稿にはメインストーリー最終章のネタバレを含むため、まだプレイしていないというトレーナーは先に最終章の前後編を堪能して欲しい。
血統
重厚な欧州血統
モンジューの父サドラーズウェルズは、イギリス・アイルランドで通算14度もリーディングサイアーを獲得した大種牡馬である。モンジューはアイルランド産まれのフランス調教馬だが、そのフランスでもサドラーズウェルズは大成功を収めている。凱旋門賞をはじめ欧州でG1級競争を6勝したモンジューはその代表産駒として有名だ。
ちなみにエルコンドルパサーの母父もサドラーズウェルズで、同馬が備えるパワーの一因になっていると考えられる。他にはモンジューとは同世代であるテイエムオペラオーの父オペラハウスもサドラーズウェルズ産駒の一頭だ。
2歳時
2歳時は2戦2勝
98年の9月、フランス・シャンティ競馬場の芝1600mでデビュー戦を勝利で飾ったモンジュー。続くロンシャン競馬場芝1800mのアイソノミー賞では不良馬場、3頭立てという特殊な条件だったが連勝して2戦2勝とした。
3歳時
世代の頂点へ
3歳になると、重賞レースへ出走。ロンシャン競馬場芝2100mのG2グレフュール賞ではまたも重馬場となったが、3連勝でクラシック路線へ名乗りをあげる。仏ダービーの前哨戦、G1リュパン賞で2着に敗れて初黒星を喫するものの、仏ダービー(ジョッケクルブ賞)本番で巻き返す。ロンシャン競馬場の芝2400mで行われた仏ダービーでは2着に4馬身差をつける余裕を見せて優勝。フランスの3歳世代の頂点に立った。
生まれ故郷でも
仏ダービー馬となったモンジューは、生まれ故郷のアイルランドへ凱旋。カラ競馬場で行われたG1アイリッシュダービー(芝2400m)でも2着に5馬身差をつける圧勝で2つ目のタイトルを手にした。
秋は凱旋門賞へ
二つのダービーを制したモンジューは、夏場を休養にあて秋は凱旋門賞を目標に据えた。9月にG2ニエル賞で復帰すると、この前哨戦を僅差でものにして7戦6勝とし、この年の凱旋門賞の最有力候補として本番へと駒を進めた。
El Condor Pasa
その頃エルコンドルパサーは
この年、凱旋門賞を目標に日本から異例の長期滞在でフランスの中距離路線に参戦していたエルコンドルパサー。フランスでの初戦、5月のロンシャン競馬場で行われたG1イスパーン賞で2着に惜敗。しかしこの後7月のG1サンクルー大賞では、超ハイレベルと言われた好メンバーを相手に圧勝。一躍凱旋門賞の有力馬に名乗りを上げた。
フォワ賞
サンクルー大賞で負った外傷による影響で一頓挫あったものの、立て直して臨んだ前哨戦G2フォワ賞を勝利。本番と同じロンシャン競馬場の芝2400mで結果を残して、凱旋門賞制覇の期待は益々大きくなった。
欧州特有の深い芝にも慣れ、力のいる重馬場も克服済みのエルコンドルパサーに死角は見当たらなかった。
凱旋門賞
エルとモンジュー
10月3日のロンシャン競馬場。前日までに降った大雨の影響でロンシャンの馬場は史上稀なほど水を含んだ不良馬場となった。キングジョージなどG1級レースを3連勝中だった有力馬の一頭デイラミ陣営は直前まで出走を悩んだ末に出走を決断したが、馬場状態を問わないタイプのモンジューとエルコンドルパサーの一騎打ちムードとなった。
好スタートから先頭を奪ったのはエルコンドルパサー。他に競りかける馬もおらず、マイペースの逃げに持ち込んだ。モンジューは5,6番手でエルコンドルパサーを見ながら虎視眈々とレースを進めた。
日本の競馬場にはない変わった形状の最終コーナーを周って、最後の直線へ入る。エルコンドルパサーが力強くリードを拡げ、そのまま脚色は衰えず逃げ切り濃厚かと思われたが、一頭だけ重い馬場をものともせずに2番手から抜け出してきたのは、モンジューだった。
一気にエルコンドルパサーに並びかけると、交わして前に出る。エルコンドルパサーも食い下がり、再び差し返す根性を見せたがわずかに及ばず、モンジューが先頭でゴールを駆け抜けた。
現地へ応援に駆けつけた日本のファン、日本から深夜に中継を見守ったファンの夢は、フランスの3歳馬によって打ち砕かれた。
3着馬とは6馬身もの差が開き、モンジューとエルコンドルパサーの一騎打ちであった。これでモンジューは名実ともに欧州最強馬となった。
欧州最強馬、ジャパンカップへ
招待を受諾
凱旋門賞を制したモンジューはジャパンカップの招待を受諾し、参戦が決定。エルコンドルパサーを破った欧州最強馬の参戦は大変な話題となった。
スペシャルウィーク
日本の総大将
日本国内の中長距離路線では、黄金世代のダービー馬スペシャルウィークが中心的な存在だった。春は盤石の強さで天皇賞を制したものの、宝塚記念では宿敵グラスワンダーに完敗。この秋は、凱旋門賞の翌週に行われた京都大賞典で7着と惨敗して評価を落としていた。
しかし天皇賞(秋)で見事に復活。春秋天皇賞制覇を成し遂げたスペシャルウィークが日本の総大将として欧州最強馬を迎え撃つ。
ジャパンカップ
世界の強豪集結
11月28日、迎えたジャパンカップ当日。1番人気はモンジュー、2番人気にスペシャルウィークが続いた。馬場は良馬場。
スタートすると、日本のアンブラスモアが先手を奪ってスペシャルウィークは中団後方に控える。注目のモンジューはスペシャルウィークのさらに後方からレースを進める。
先に仕掛けたのはスペシャルウィーク。向正面、大ケヤキの手前から徐々に進出を開始すると、3コーナーから最終コーナーにかけて外を周って5,6番手あたりまで上がってきた。
府中の長い直線に入ると、逃げたアンブラスモアの後ろから香港のインディジェナスが先頭に並んでくる。しかし外から抜群の手応えで抜け出したのはスペシャルウィーク。さらに外から英ダービー馬ハイライズとモンジューが続いて追い込んでくる。
しかし日本の総大将スペシャルウィークの脚色は衰えず、内で粘るインディジェナスに1馬身1/4差をつけて先頭でゴール。
モンジューは鬼気迫る追い込みを見せたが届かず、3着ハイライズから3/4馬身遅れて4着に終わった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
日本の総大将スペシャルウィークは、鞍上の武豊騎手にダービー初勝利をプレゼントしたのと同じ府中の舞台で、今度はジャパンカップ初勝利をもたらした。しかも、エルコンドルパサーを破った欧州最強馬を下しての会心の勝利だった。
カルティエ賞受賞
ジャパンカップでは来日からレースまでの日程が厳しく調整が間に合わなかったという話もあり、モンジュー陣営は「もう少し早く来日すれば」と悔やんだ。
しかし、凱旋門賞まで8戦7勝で3つのG1級レースを制した実績を残し、この年のカルティエ賞最優秀3歳牡馬を受賞した。カルティエ賞とは、JRA賞(年度代表馬など)のヨーロッパ版である。
4歳時
さらに勝利を積み重ねる
帰国して4歳となったモンジューは5月までたっぷり休ませて完全に立て直し、復帰すると大レースを次々に制覇。
G1タタソールズゴールドCを皮切りに、前年にエルコンドルパサーが勝ったサンクルー大賞を圧勝、そして日本からエアシャカールも出走していた英国の最高峰G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスも制覇し、不動のヨーロッパチャンピオンの座に君臨した。
凱旋門賞連覇ならず
前哨戦のフォワ賞も勝って、古馬になってから負けなしの4連勝。凱旋門賞の連覇は濃厚と思われたが、斤量差で有利な3歳勢に遅れをとって4着。偉業達成はならなかった。
引退
凱旋門賞で破れたあとは英チャンピオンステークスで2着、米ブリーダーズカップターフでの7着を最後に引退が決まった。
エルコンドルパサーと頂点を争った凱旋門賞、そして同じ年に来日してジャパンカップに参戦した流れは日本競馬にとって重要なシーンとなった。欧州最強馬モンジューは、日本馬の前に立ちはだかると同時に自信を与えてくれる存在でもあり、日本競馬の歴史のなかで最も重要な外国馬の一頭と呼べるだろう。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、モンジュー。
史実のモンジュー / Montjeu
基本情報 | 1996年4月4日生 牡 鹿毛 |
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血統 | 父 Sadler's Wells 母 Floripedes(父Top Ville) |
調教師 | John Edward Hammond(フランス) |
生産国 | アイルランド |
通算成績 | 16戦11勝 |
主な勝ち鞍 | 99'仏ダービー,99'愛ダービー,99'凱旋門賞,00'タタソールズゴールドC,00'サンクルー大賞,00'キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス |
生涯獲得賞金 | 約2,263,832ポンド |
エピソード① 種牡馬として
引退後は種牡馬として、やはり欧州向きのパワーと底力を兼ね備えた産駒を多く輩出した。初年度産駒から、凱旋門賞の父子制覇を達成したハリケーンランや、英ダービー馬モティヴェイターらを出した。
今週の一枚
凱旋門賞で世界の壁となって立ちはだかったモンジュー。世界一へあと僅かに迫ったエルコンドルパサーとの一騎打ちは見応えがあった。
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