競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第93回。今回は最強の2勝馬と呼ばれた個性派、サウンズオブアースについて熱く語ります。
最強の2勝馬
愛された名脇役
いつの時代の競馬にも名馬の影に隠れた名脇役の存在が欠かせない。現役当時「最強の2勝馬」と呼ばれた愛すべき個性派、サウンズオブアースの史実を追っていく。
血統
父はネオユニヴァース
サウンズオブアースの父は二冠馬ネオユニヴァース。初年度からダービー馬ロジユニヴァースを出し、二世代目のヴィクトワールピサはドバイワールドカップを勝つなど、すでに種牡馬として成功をおさめていたネオユニヴァースの6世代目にあたる。
母のファーストバイオリン(父Dixieland Band)は米国からの輸入繁殖牝馬で、交配相手には主にサンデーサイレンス系種牡馬が選ばれた。母、母の父とも音楽に関連するワードが入っている。ウマ娘のサウンズオブアースが才能豊かなヴァイオリニストなのももちろん母の馬名が由来だろう。
メイクデビュー
秋の京都開催でデビュー。芝2000m新馬戦は単勝1.9倍の1番人気に支持されたが5着に敗れ、その後も2戦続けて1番人気に応えることができず年内の初勝利はおあずけとなった。
3歳時
初勝利
3ヶ月の休養を経て3歳になると、2月の未勝利戦(京都芝2000m)。鞍上には短期免許で来日中のC.デムーロ騎手を迎え、4戦連続の1番人気。
スタートを出ると先行集団の直後で折り合いをつけて、直線ではアドマイヤハレーとの一騎打ちに競り勝って1着でゴール。4戦目で待望の初勝利をあげた。
クラシック路線へ
続いて、皐月賞の出走権をかけて若葉ステークス(阪神芝2000m)に出走。2着までに入れば優先出走権を得ることができたが、惜しくも3着とあと一歩のところで皐月賞出走は叶わなかった。
2勝目、最後の勝ち星
はなみずき賞
自己条件に戻って1勝クラスのはなみずき賞(阪神芝2000m)に出走。前走の若葉ステークスと同じ条件で2勝目を目指す。デビュー戦以来のコンビとなった福永祐一騎手に導かれ、ハナ差の大接戦をものにして勝利。2勝目をあげてオープン入りを果たした。
のちに最強の2勝馬と呼ばれるサウンズオブアースにとって、文字通りこの2勝目が生涯最後の勝ち星となる。
ダービーへ向けて
続いてダービートライアルのG2京都新聞杯へ進んだサウンズオブアース。混戦模様の中、これまでの最低人気となる8番人気ながらも日本ダービーの優先出走権をかけて、自身初の重賞に挑んだ。
人気各馬が中団より後方に控える展開を、サウンズオブアースも真ん中あたりでじっくり脚をためて虎視眈々とチャンスを窺う。
直線では先行勢の脚色が鈍り、差し追い込み勢が一気に押し寄せる。サウンズオブアースも中団からしぶとく末脚を伸ばし、勝ったハギノハイブリッドからは1馬身1/4差をつけられたものの際どい2着争いを制して2着を確保。重賞に入っても通用する底力を見せてダービーの出走権を手に入れた。
日本ダービー
最高のセッションを
世代の頂点を競うダービーに駒を進めたサウンズオブアース。皐月賞馬イスラボニータを筆頭に、世代の精鋭たちが顔を揃えた。
ゲートが開くと、1番人気のイスラボニータを見る位置取りにつけたサウンズオブアース。皐月賞4着から逆転を狙うワンアンドオンリーもやや後ろ、差のないポジションをキープした。
直線に入ると、イスラボニータが抜け出し二冠へ向けて堂々と先頭に立つ。サウンズオブアースは手応えがなくなり徐々に後退。代わってワンアンドオンリーがイスラボニータに追いすがる。
最後はワンアンドオンリーがかわして先頭に立つと、イスラボニータに3/4馬身差をつけて先頭でゴールを駆け抜けた。定年を間近に控えた名伯楽・橋口弘次郎調教師に、悲願のダービー制覇を届けた。
なおイスラボニータが2着を守り、サウンズオブアースは11着に終わった。
菊花賞へ向けて
サウンズオブアースの秋初戦、菊花賞トライアルのG2神戸新聞杯から始動する。ダービー馬ワンアンドオンリーも菊花賞へのステップとしてここに出走しており、他にも勢いのある夏の上がり馬たちが菊花賞への切符を狙う。
サウンズオブアースは中団後方から末脚を発揮して上位に進出すると、ワンアンドオンリーと春二冠には不出走のトーホウジャッカルと3頭の叩き合いを演じる。ここでは、ワンアンドオンリーがダービー馬の意地を見せて接戦を制し、サウンズオブアースが2着、トーホウジャッカルが3着に入り菊花賞の出走権を獲得した。
菊花賞
G1でも
クラシック三冠の最後を飾る菊花賞。秋初戦で順調な滑り出しを見せたワンアンドオンリーが抜けた1番人気、2番人気以下には皐月賞2着馬のトゥザワールド、上がり馬トーホウジャッカル、堅実な走りが目立つサウンズオブアースと続いた。
スタートすると、先行馬が緩みのない流れを作って縦長の隊列となる。内ラチ沿いの5番手あたりにつけたトーホウジャッカルが最終コーナーで2番手まで進出すると、直線で力強く抜け出す。
その直後、道中は中団につけていたサウンズオブアースがいつの間にか内からスルスルと順位を押し上げトーホウジャッカルに迫る勢いだ。
内のサウンズオブアースが突き抜けるかに見えたが、トーホウジャッカルがもうひと伸びして再び突き放し先頭でゴール。サウンズオブアースは惜しくも2着。3着ゴールドアクターには3馬身半差をつけて白熱の優勝争いを演じてみせた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
サウンズオブアースにとって、これで重賞レースでは3度目の2着。あと一歩勝ちきれないものの、G1でも通用する力をつけていることを証明した。
4歳時
シルバーコレクターの大先輩
菊花賞後は休養に入り、古馬になったサウンズオブアースはG2日経賞から始動。前年の菊花賞2着馬が、はなみずき賞以来久しぶりに1番人気の支持を集めた。
このレースには、偉大なるシルバーコレクターの先輩であるウインバリアシオンも出走していた。世代としてはサウンズオブアースより3つ上、三冠馬オルフェーヴルと同世代である。
結果は、同世代の4歳馬アドマイヤデウスが抜け出して完勝。2馬身ほど後方で繰り広げられた熾烈な2着争いをウインバリアシオンが譲らず貫禄の2着。サウンズオブアースは2着からアタマ+アタマ差の4着だった。
天皇賞(春)
春の大目標だった天皇賞は、稀代のくせ馬ゴールドシップが得意のマクリで6つ目のG1タイトルを獲得する一方で、サウンズオブアースは本来の堅実な走りを見せることができず9着に終わった。
遠い勝ち星
秋緒戦の京都大賞典では、春のグランプリ・宝塚記念を制して台頭してきた1つ上の世代のラブリーデイが重賞3連勝。
サウンズオブアースはこれに食い下がったものの惜しくも2着。重賞レースではこれが4度目の2着となった。
有馬記念
各世代のスターたち
ジャパンカップ5着のあとは有馬記念に出走。グランプリレースらしく、これが引退レースの6歳馬ゴールドシップ、5歳馬の大将格ラブリーデイ、そして菊花賞を勝ったキタサンブラックと各世代のスターホースたちが集う豪華な顔ぶれとなった。
スタートすると、3歳馬キタサンブラックが果敢に先頭を奪ってレースを引っ張る。4歳勢のゴールドアクター、サウンズオブアース、牝馬のマリアライトが先行集団を形成しこれを追う。ラブリーデイは中団で折り合い、ゴールドシップは最後方を追走した。
ゴールドシップがこの馬らしいマクリを見せて場内を沸かせる中、逃げるキタサンブラックがまだ粘る。そして先行勢からゴールドアクターが抜け出しを図ると、一度は6番手あたりに順位を下げていたサウンズオブアースもワンテンポ遅れて仕掛けていく。
粘るキタサンブラックに、ゴールドアクターとマリアライトが襲いかかり、見ごたえのある直線の攻防にサウンズオブアースが加わる。最後はゴールドアクターが先頭に立ち、サウンズオブアースがクビ差まで迫ったところがゴールだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
サウンズオブアースにとってG1での2着は菊花賞以来。重賞レースでは5度目の2着となり、いつからか「最強の2勝馬」と呼ばれるようになっていた。
5歳時
2着スタート
5歳のシーズンは、前年と同じく日経賞から始動。
グランプリホースとなったゴールドアクターを人気で上回りサウンズオブアースが1番人気。天皇賞へ向けて好スタートを切りたいところだったが、ゴールドアクターに3/4馬身及ばず2着。3着にはマリアライトが入り、結果として5歳世代の3頭が有馬記念と同じ順番で上位を占めた。
サウンズオブアースは6度目の重賞2着でこの年のスタートを切った。
立ちはだかるキタサンブラック
春の大目標だった天皇賞・春では、本格化してきたキタサンブラックが逃げ切り勝ちをおさめたの対し本来の堅実な走りとは程遠い15着と大敗してしまった。
そして夏を挟んで秋緒戦の京都大賞典でもキタサンブラックの前に4着に敗れた。
ジャパンカップ
打倒キタサンブラック
ジャパンカップでも、いよいよ名馬への道を歩み始めたキタサンブラックにサウンズオブアースら5歳勢が挑む。
いつものように逃げるキタサンブラックに、ワンアンドオンリー、ゴールドアクターが2,3番手で続く。サウンズオブアースは中団から末脚勝負にかける。
府中の長い直線に入ると、後続を突き放すキタサンブラック。好位を追走していたワンアンドオンリーやゴールドアクターは差を詰めることができず、代わって後ろからサウンズオブアースとシュヴァルグランが猛追。
しかし、最後まで衰えなかったキタサンブラックがそのまま押し切り、2馬身半遅れてサウンズオブアースがシュヴァルグランとの2着争いを制してゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
サウンズオブアースはこれでG1レースでは3度目の2着。最強の2勝馬健在の走りだった。
6歳以降
ジャパンカップの2着を最後に、少しずつ成績は下降。6歳以降は札幌記念での2年連続4着というのが最高着順だったが、ドバイへの遠征も敢行(ドバイシーマクラシック6着)するなど中長距離路線の名脇役として大きな怪我もなく走り続けた。
タイトルには手が届かず引退
重賞2着7回、獲得賞金4億超え
ついに重賞タイトルには手が届かず引退となったが、重賞で7度の2着(うちG1での2着3回)という最強の2勝馬と呼ばれるに相応しい立派な成績を残した。獲得した賞金額は重賞未勝利馬としては破格の4億6千万円にものぼった。
これだけの成績を残しながらも種牡馬になれなかったというのは厳しい現実を思い知らされる一方で、その個性を活かしてウマ娘として登場したことがファンの多さを物語っている。育成ウマ娘になってより一層際立つサウンズオブアースの個性は、錚々たる名バが揃うウマ娘の中でも1,2を争うほどの存在感だ。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、サウンズオブアース。
史実のサウンズオブアース
基本情報 | 2011年4月12日生 牡 黒鹿毛 |
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血統 | 父 ネオユニヴァース 母 ファーストバイオリン(父 Dixieland Band) |
馬主 | 吉田照哉 |
調教師 | 藤岡健一(栗東) |
生産牧場 | 社台ファーム(北海道千歳市) |
通算成績 | 30戦2勝(JRA29戦2勝、海外1戦0勝) |
主な勝ち鞍 | はなみずき賞 |
主な2着 | ’14菊花賞、’15有馬記念、’16ジャパンカップ |
エピソード①世代格差を描く育成ストーリー
サウンズオブアースの育成ストーリーでは、たびたび世代同士の力関係に着目されている。
しかし徐々に存在感を増していき、皐月賞馬イスラボニータはマイル路線で長く一線級の活躍を見せたし、ゴールドアクターや牝馬のマリアライトは本格化してそれぞれグランプリホースに。クラシックではまだ完全に埋もれていたモーリスは国内外のG1を6勝して世界にその名を轟かせた。
名脇役として多くのファンに愛されたサウンズオブアースを含め、実に多彩な顔ぶれの世代だったと言える。
エピソード②強烈な個性
史実では馬体の美しさにも定評があり、パドックではいつもピカピカの馬体が目を引いていた。ウマ娘のサウンズオブアースはと言うと、貴族のような華麗な外見と強烈な個性とのギャップが魅力的なキャラクターだ。
中でも、ゴールドシップやテイエムオペラオーといったウマ娘界を代表する濃いキャラクター達と絡むことで相乗効果を生み出し、トレーナーたちを楽しませてくれている。
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