競馬好きのライターが送るウマ娘コラム。今回は番外編として新シナリオで注目される海外レース、凱旋門賞に挑戦したウマ娘たちを特集する。
プロジェクトL'Arc
新シナリオで注目
先日、上記のキービジュアルとともに発表されたウマ娘プリティーダービーの新シナリオ「プロジェクトL'Arc」。
競馬においてL’Arcと言えば、正式名称「The Qatar Prix de l’Arc de Triomphe」の略称として使われ、すなわちフランス凱旋門賞を指す。
過去にも描かれた凱旋門賞
ウマ娘で凱旋門賞と言えば、過去にはメインストーリー第1部の最終章でエルコンドルパサーとモンジューの戦いが史実を元に描かれたことがある。スペシャルウィークを主軸に描かれた98年世代の壮大な物語の一部として、ウマ娘では初めて海外の史実馬モンジューが実名で登場するなど最終章に相応しい作品に仕上がっていた印象だ。
こんどは、我々トレーナーが日々育成に励む育成シナリオのテーマ(凱旋門賞が目標レースになるのか現時点で不明だが)としてどのようなドラマを見せてくれるのか期待が高まるばかりだ。
凱旋門賞とは
フランスのパリ郊外に位置するパリロンシャン競馬場で行われる、世界最高峰レースの一つ。毎年10月の頭に行なわれる。
創設は第一次世界大戦終戦直後の1920年と、100年以上の歴史がある。2022年までの全101回の開催において欧州調教馬以外の優勝はなく、芝の中距離レースにおける最も高い壁としてあり続けている。
凱旋門賞が行なわれるパリロンシャン競馬場の2400m外回りコースは、最後の直線の手前にあるなだらかなコーナー、通称フォルスストレート(偽りの直線)が名物として知られている。パワーを要する深い芝と、仕掛けどころの難しいトリッキーなコース形状が挑戦者の前に立ちはだかる。
開催場所 | フランス・パリロンシャン競馬場 |
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距離 | 芝2400m(右回り) |
出走条件 | 3歳以上 牡・牝(騙馬は出走不可) |
賞金 | 賞金総額 5,000,000ユーロ(1着賞金2,857,000ユーロ) ※2023年のデータ |
日本調教馬の挑戦史
2022年までに、延べ30頭以上(同一馬による複数回の出走を含む)が挑戦したが、まだ優勝した馬はいない。これまでの日本調教馬の最高着順は2着(4回)。
その中で、ウマ娘のキャラクターに名を連ねる史実馬は7頭。先述のエルコンドルパサーを含め、時系列にその挑戦の軌跡を見ていこう。
シリウスシンボリ
1986年 第65回
「追いかけてこいよ!」のセリフのとおり、日本調教馬による海外遠征の先駆者と言える。(シリウスシンボリが凱旋門賞に挑戦した1986年以前には、1969年のスピードシンボリと1972年のメジロムサシの二頭。)
ダービー馬シリウスシンボリの海外挑戦は、およそ2年間にもおよぶ異例の長期遠征であった。85年の日本ダービーを制したあと、日本を離れてイギリス、ドイツと欧州各地の競馬場を渡り歩き、その後本拠地をフランスに定めて長期滞在。
遠征2年目の86年には、凱旋門賞と同じロンシャン競馬場の2400mで行なわれたGⅢフォワ賞2着を経て凱旋門賞に出走することとなった。
第65回 凱旋門賞レース結果
着順 | 14着 |
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勝ち馬 | ダンシングブレーヴ |
凱旋門賞では、欧州の一流馬たちの前にシリウスシンボリは14着に敗れた。
この年の凱旋門賞をレコード勝ちしたダンシングブレーヴは、この時点で欧州の史上最強馬と称えられた。歴代の凱旋門賞馬の中でも特に評価の高い一頭である。引退後には日本でも種牡馬生活を送り、キングヘイローなど多くの活躍馬を輩出した。
シリウスシンボリのコラム記事
エルコンドルパサー
1999年 第78回
シリウスシンボリの挑戦から13年の時を経て凱旋門賞に挑戦したのが、エルコンドルパサー。この13年という空白の期間で日本調教馬のレバルが大きく飛躍したことを世界に知らしめた。
98年世代の一頭であるエルコンドルパサーは、外国産馬のためクラシック出走権を持たず、3歳時はNHKマイルカップとジャパンカップのタイトルを獲得。翌年、凱旋門賞を最大目標に据えた長期遠征が敢行された。
凱旋門賞までの歩み
遠征初戦となったG1イスパーン賞(ロンシャン1850m)2着のあと、G1サンクルー大賞(サンクルー2400m)とG2フォワ賞(ロンシャン2400m)を連勝。前哨戦を快勝したことで有力馬の1頭として凱旋門賞へ向かった。
第78回 凱旋門賞レース結果
着順 | 2着 |
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勝ち馬 | モンジュー |
好スタートから押し出されるように先頭に立ったエルコンドルパサーがそのまま逃げる展開となる。最大の敵と見られていたモンジューは5,6番手を追走。
エルコンドルパサーはフォルスストレートも落ち着いてクリアし、直線に入っても脚色は衰えず逃げ切りを図るが、ただ一頭驚異的な末脚で迫るモンジューとの一騎打ちとなり、残り100mほどの地点でかわされてしまった。
3着馬には大きく差を開いて2着を確保し、世界トップクラスの力があることを示した。
前年にシーキングザパールとタイキシャトルが海外G1を制して世界の扉を開いたのに続いて、凱旋門賞制覇もすぐに手が届く。そう思わせてくれたのが、この年のエルコンドルパサーだった。2000年代に入って日本から海外へ挑戦する馬が増えたのも、これが大きなターニングポイントになったと言えるだろう。
エルコンドルパサーのコラム記事
マンハッタンカフェ
2002年 第81回
エルコンドルパサーの2着から3年後、日本を席巻していた大種牡馬サンデーサイレンス産駒から最初の凱旋門賞挑戦者となったのがマンハッタンカフェである。
体質が弱く出世が遅れたマンハッタンカフェは、2001年の菊花賞で初G1タイトルを獲得すると、その年の有馬記念、翌年の天皇賞(春)を制覇してG1を3連勝。瞬く間に国内最強に登り詰めた。
かつてサクラローレルで凱旋門賞に挑戦するはずだった小島太調教師の夢を載せて、3年前にエルコンドルパサーで惜しくも2着だった蛯名騎手とのコンビで凱旋門賞に挑むこととなった。
第81回 凱旋門賞レース結果
着順 | 13着 |
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勝ち馬 | マリエンバード |
もともと輸送に弱く遠征先では馬体重が減ってしまうタイプだったが、この頃には体質が強化されおり万全の状態で臨むことができた。
実績ではエルコンドルパサーにも見劣りしない日本最強馬の凱旋門賞参戦。3年前以上の成績も期待されたが、なんとレースでは途中から失速してしまい13着(16頭立て)に敗れた。残念ながらレース中に故障を発症していたことが分かり、これが引退レースとなってしまった。
なお、マンハッタンカフェが出走してから9年後の2011年には産駒のヒルノダムールが凱旋門賞に出走し、日本調教馬として初めて父子で凱旋門賞出走を果たした。
マンハッタンカフェのコラム記事
第16回:伝説世代の遅れてきた大物 マンハッタンカフェの物語
タップダンスシチー
2004年 第83回
マンハッタンカフェから2年後、2004年に凱旋門賞に挑戦したのはタップダンスシチー。ウマ娘ではまだ育成することはできないが、実装された暁には是非とも新しいシナリオで育成してみたいキャラクターの一人である。
6歳時のジャパンカップを逃げ切って初G1タイトルを獲得したタップダンスシチーは、7歳になった翌年の春には宝塚記念を制覇。遅咲きのいぶし銀が、7歳秋にフランス凱旋門賞に挑む。
まさかの輸送トラブル
タップダンスシチーの凱旋門賞挑戦プランは、現地に早めに入って調整するのではなく、日本で仕上げて直前輸送というものだった。
日本での調整は順調に行なわれ、レースの約1週前に輸送してフランスに渡る予定であったが、輸送機のトラブルによって日程に狂いが生じる。一時は渡航を諦めるところだったが、レースの2日前にどうにか輸送することに成功して出走が叶った。
第81回 凱旋門賞レース結果
着順 | 17着 |
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勝ち馬 | バゴ |
思わぬ直前輸送を強いられたタップダンスシチーは、大幅な馬体減などもなく調子を保っているかに思われたが、レース当日は激しく入れ込む様子を見せていた。
レースでは直前の入れ込みが影響したか精彩を欠き、17着と不本意な結果に終わった。
タップダンスシチーの育成ストーリーでは、ウマ娘ならではのIfの物語によって、当時の悔しさを晴らすような演出が見られるのだろうか。
ナカヤマフェスタ
2010年 第89回、2011年 第90回
2006年には、無敗の三冠馬ディープインパクトの挑戦をも跳ね返した凱旋門賞。日本の名だたる名馬たちをもってしても凱旋門賞馬の座は遠かった。
そして、エルコンドルパサーの2着から10年以上が過ぎた2010年、その偉業に最も近づいたのがナカヤマフェスタである。
凱旋門賞までの歩み
3歳時のクラシックではダービー4着が最高着順で、さほど目立った成績を残したわけではなかった。しかし4歳になって宝塚記念を人気薄で制覇すると、凱旋門賞挑戦を表明。
ナカヤマフェスタを管理するのはエルコンドルパサーと同じ二ノ宮敬宇厩舎。そして凱旋門賞の鞍上は蛯名正義騎手に決まり、これはエルコンドルパサーと同じチームであった。陣営が選択した遠征プランは、ぶっつけではなく前哨戦を使うプラン。現地滞在で結果を残した11年前の経験が存分に活きる。
前哨戦として参戦したG2フォワ賞(ロンシャン2400m)で2着と上々の結果を残して凱旋門賞へと駒を進めた。
第89回 凱旋門賞レース結果
着順 | 2着 |
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勝ち馬 | ワークフォース |
前哨戦で力のいる馬場への適性を見せたものの、凱旋門賞当日は重馬場となる。中団を進んだナカヤマフェスタは、道中で何度か大きな不利を受けながらも怯むことなく徐々に進出を開始。直線では力強く先頭に立つと、そのまま押し切るかに思われた。
しかし、内から差してきたワークフォースと熾烈な叩き合いの末、わずかにかわされたところがゴールだった。エルコンドルパサー以来の2着。それもアタマ差。凱旋門賞制覇に日本馬がもっとも近づいた瞬間であった。
第90回 凱旋門賞レース結果
着順 | 11着 |
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勝ち馬 | デインドリーム |
翌年、同じローテーションで凱旋門賞に挑戦したものの、前年の成績を上回ることはできずフォワ賞4着、凱旋門賞は11着に敗れた。
なお、日本調教馬が2年連続で凱旋門賞に挑戦したのはこれが初めて。このとき一緒に出走したのがマンハッタンカフェ産駒のヒルノダムール(10着)であり、凱旋門賞挑戦の歴史を感じさせる一戦でもあった。
ナカヤマフェスタのコラム記事
ゴールドシップ
2014年 第93回
2010年代にはほぼ毎年のように凱旋門賞に出走するようになっていた日本馬にとって、確実に凱旋門賞制覇のチャンスが近づいていた。2012年、2013年にはナカヤマフェスタと同じステイゴールドを父に持つオルフェーヴルが2年連続で2着を記録した。
そして2014年、同じくステイゴールド産駒のゴールドシップが凱旋門賞に挑んだ。
凱旋門賞までの歩み
3歳時に皐月賞、菊花賞のクラシック二冠と有馬記念を勝ったゴールドシップは、4歳時、5歳時の宝塚記念を連覇してこの時点でG1レースを5勝。そして宝塚記念連覇の直後に凱旋門賞挑戦が決まる。
ローテーションは、札幌記念を使ったあとに凱旋門賞というプラン。札幌の芝コースは洋芝が使われており、欧州の深い芝に対する適性をはかる目的もあった。
G1馬が4頭集まった札幌記念では、3歳牝馬のハープスターに敗れて2着。そのハープスターと、須貝厩舎の同僚ジャスタウェイと共に凱旋門賞出走のため渡仏した。
第93回 凱旋門賞レース結果
着順 | 14着 |
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勝ち馬 | トレヴ |
フランスに渡ってから順調に調整され、万全の状態で出走を迎える。
迎えた凱旋門賞のレース本番。スタートするといつものようにダッシュがつかず最後方からの競馬となる。ここからゴールドシップらしい早めのマクリが見られるかと思ったが、なかなか順位を上げることができず後方に沈み、14着に終わった。
血統的にも、パワー溢れる走りからも好走が期待されていただけにショックな敗戦となってしまった。この年の日本馬の着順は3歳牝馬のハープスターが6着、ジャスタウェイが8着。優勝したのは前年の凱旋門賞で日本のオルフェーヴルに5馬身差をつけて圧勝していた地元フランスの牝馬トレヴ。これで凱旋門賞を連覇して歴史的名牝として名を残した。
ゴールドシップのコラム記事
サトノダイヤモンド
2017年 第96回
2017年に挑戦したサトノダイヤモンドは、現状ウマ娘になっているキャラクターの中では最後に凱旋門賞に挑戦した史実馬ということになる。
2016年の日本ダービーでサトノダイヤモンドが2着に敗れた際の勝ち馬マカヒキが、その3歳秋に日本のダービー馬として果敢に挑んだ凱旋門賞で14着。改めて壁の高さを感じさせる結果だったが、その翌年には成長したサトノダイヤモンドがダービー馬に続いて凱旋門賞に挑戦した。
凱旋門賞までの歩み
3歳秋にクラシック最後の一冠・菊花賞を制したサトノダイヤモンドは、その後キタサンブラックと名勝負を演じた有馬記念で1着とG1を連勝。4歳になってからは早々に最大目標を凱旋門賞に定め、天皇賞(春)ではキタサンブラックの3着に敗れたものの予定通り凱旋門賞遠征プランを敢行する。
ローテーションはフォワ賞から凱旋門賞という、日本馬の好走パターンが組まれた。
第96回 凱旋門賞レース結果
着順 | 15着 |
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勝ち馬 | エネイブル |
前哨戦のフォワ賞は、重馬場に苦労して4着。この年はパリロンシャン競馬場ではなくフォワ賞も凱旋門賞もシャンティイ競馬場で行なわれた。そして本番でも重馬場となり、相変わらずパワーを要求される馬場状態を攻略することができず15着。馬場適性を痛感させられる結果となってしまった。
勝ち馬は3歳牝馬のエネイブル。翌年も凱旋門賞を連覇した指折りの名馬である。
サトノダイヤモンドのコラム記事
凱旋門賞をどう描くか
思えば、いにしえから競馬ゲームにおける海外レースの頂点と言えば凱旋門賞だった。史実をベースにIfのストーリーを練り上げるウマ娘では、どんなふうに凱旋門賞が描かれるのだろうか。あの欧州最強馬やあの名牝も実名で登場するのかも知れない。
日本調教馬による凱旋門賞制覇がいつか現実になる日を夢に見ながら、ゲームの中で育成した愛バ(ウマ娘)で凱旋門賞に挑もうではないか。
ありがとう、ウマ娘。
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