競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第125回。今回は、待望の育成ウマ娘実装となった女傑、ブエナビスタについて熱く語ります。
目次
牝馬の時代を継ぐ女傑
劇的なレースの数々

待ちに待った育成ウマ娘実装と言っていいだろう。劇的なレースでファンを魅了した稀代の女傑、ブエナビスタの史実を追っていく。
ウマ娘のブエナビスタ
ウマ娘のブエナビスタは、これまでの限られた登場シーンを見る限りでは明るくて優しくて誰にも好かれる優等生ウマ娘といった印象だった。
その印象はこのたび実装された育成ストーリーを見ても変わらないどころか、ウマ娘の中でも1,2を争うと言っていい真にピュアな正統派ヒロインであった。トレーナーと二人三脚で真っ直ぐに歩んでいく姿に心が洗われる思いだ。
公式プロフィール

純真無垢な心を持つ、優等生ウマ娘。明るく素直で人懐こく、誰にでも愛情深く接し、自分ごとのように感情移入してしまうタイプ。以前、あるレース観戦で目にした『絶景』――そこに辿り着き、大切な“約束”を果たすためにトゥインクル・シリーズをひた走る。
同期のライバルはレッドディザイア
同期のライバルウマ娘の一人、レッドディザイア。

ブエナビスタの育成ストーリーに登場するかたちで、彼女のキャラクターも徐々に見えてきた。この機会に、当コラム第123回で書いたレッドディザイアの物語も是非とも併せて読んでみてほしい。
▶第123回 レッドディザイアの物語幼少期~デビューまで
血統
ブエナビスタは父スペシャルウィーク、母ビワハイジ(父Caerleon)という血統。母のビワハイジは現役時代はエアグルーヴと同世代で、無敗で阪神3歳牝馬ステークス(現・阪神ジュベナイルフィリーズ)を勝ち、その後は牝馬ながらダービーにも出走するなど活躍した。繁殖牝馬としての実績も素晴らしく、ブエナビスタの兄にはアドマイヤジャパン(ディープインパクト世代で菊花賞2着など)やアドマイヤオーラ(ウオッカ世代でダービー3着など)がいる。
父のスペシャルウィークについては、トレーナーの皆さんに今更説明の必要もないだろう。

絶景
2歳になると「ブエナビスタ」(スペイン語:素晴らしい景色、絶景)と名付けられ、栗東の松田博資厩舎に入厩。兄のアドマイヤジャパン、アドマイヤオーラ(当時現役)も管理した縁の厩舎からデビューを目指した。

2歳時:いきなり伝説
メイクデビュー
血統的にも注目されていたブエナビスタだったが、調教でもデビュー前から評判になるほどの動きを見せる。そうして兄たちと同等かそれ以上の期待を集めてデビューを迎えた。

デビューは菊花賞当日の京都競馬場、芝1800m新馬戦。のちに「伝説の新馬戦」と呼ばれることになる有名なレースである。
1番人気は単勝2.3倍でブエナビスタ。鞍上は安藤勝己騎手。差がなく2.7倍でスペシャルウィーク産駒の牡馬リーチザクラウン、やや離れた3番人気にアンライバルドと続いた。

ゲートが開くと、出遅れ気味のスタートから行き脚がつかず後方の位置取りとなったブエナビスタ。レースは少頭数の新馬戦らしくスローなペースで進み、後方の各馬にとっては厳しい展開。
直線へ向くと、逃げたエーシンビートロンが粘り込みを図るところへ3番手追走からいい手応えでアンライバルドが捕えて抜け出す。そして、とても届かないだろうという位置から猛然と追い込んできたのがリーチザクラウンとブエナビスタ。
アンライバルドがそのまま振り切って先頭でゴールし、1馬身¼差の2着にリーチザクラウン、さらに¾馬身差の3着にブエナビスタと入線した。
伝説の理由
勝ったアンライバルドは順調にクラシック路線へ進み、のちに皐月賞を勝つ。2着のリーチザクラウンもこのあと勝ち上がってG3きさらぎ賞勝ちなどを経て、クラシックではダービー2着、菊花賞では1番人気に支持された。父スペシャルウィークと同じ武豊騎手とのコンビということもあって人気の人馬であった。
さらに、4着だったスリーロールスがその菊花賞を8番人気で制し、いよいよこの時の新馬戦がやばかったということになり、伝説の新馬戦と呼ばれるに至った。その後、このレースで逃げて5着だったエーシンビートロンまでもが8歳になって交流重賞Jpn3サマーチャンピオンを勝って重賞勝ち馬の仲間入り。ファンを驚かせたのである。
初勝利
デビュー戦を勝利で飾ることはできなかったブエナビスタだったが、2戦目の未勝利戦(京都芝1600m)では単勝1.2倍の圧倒的な1番人気に支持される。
そして初戦よりはスタートも出て後方集団の9番手あたりを追走すると、直線ではほとんど持ったままの手応えであっという間に抜け出して快勝。2着に3馬身差をつけて初勝利をあげた。

阪神ジュベナイルフィリーズ
11月15日の未勝利を勝ったばかりのブエナビスタが向かったレースはG1阪神ジュベナイルフィリーズ。フルゲート18頭を超える32頭が出馬登録をしたため、ブエナビスタを含む1勝馬の17頭が6枠の出走可能枠をかけた抽選対象となった。その6/17の抽選を突破したブエナビスタは晴れて出走可能となった。

迎えた2歳牝馬の頂点を競うG1阪神ジュベナイルフィリーズ。賞金上位馬や重賞勝ち馬に抜けた評価のライバルが不在の中、抽選を突破したブエナビスタが単勝2.2倍で断然の1番人気。それだけ未勝利勝ちの内容が印象的だった。

7枠13番からスタートすると、やはり行き脚の鈍いブエナビスタは後ろから3番手まで下げて後方からの競馬。それでも安藤勝己騎手は焦ることなく終始後方を追走しじっくり脚をためる。

3,4コーナーで各馬が仕掛けてもまだ後方3番手のまま。ようやく最終コーナーから直線入口で大外へと持ち出されると、そこからは他の馬が止まって見えるような末脚を繰り出して直線一気のゴボウ抜き。それもまだまだ鞍上の手応えは余裕たっぷりなのだから恐れ入った。ブエナビスタが文字通りの圧勝でG1初制覇を成し遂げた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
この勝利により、母娘同一G1制覇(ビワハイジが勝った時は阪神3歳牝馬ステークス)を達成。この年のJRA賞最優秀2歳牝馬に選出された。
3歳時:レッドディザイアとの牝馬三冠争い
桜花賞
年明け初戦のチューリップ賞では良馬場と言えども直前に降った雨の影響に若干の不安要素がある中、それでも自慢の末脚が鈍ることはなく快勝。年をまたいで3連勝で桜花賞へと駒を進めた。

牝馬クラシック一冠目の桜花賞。ブエナビスタの単勝オッズは1.2倍という圧倒的な支持を集めた。2番人気には年明けデビューから2連勝でここへ辿り着いたレッドディザイア。

5枠9番に入ったブエナビスタは、五分にスタートを出るとスッと後方に控えて追い込みの構え。レッドディザイアは大外枠から中団後方の外につけた。
終始後方から2,3番手を進んで最終コーナーに差し掛かると、横に広がった馬群のさらに外へと進路を取って最後の直線へ。
2,3馬身前にいたレッドディザイアが鋭い末脚を発揮して先行勢を捉えて先頭に立つ。その外にジェルミナルを挟んで馬体を併せていったブエナビスタは安藤騎手のステッキが入ると一気に加速。

ジェルミナルを置き去りにし、レッドディザイアを捉えるとそのままゴールまで一直線。最後はレッドディザイアに1/2馬身差をつけて優勝。桜の冠を手中に収めた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
オークス
二冠をかけて

牝馬クラシック二冠目のオークスでは、ブエナビスタの単勝1.4倍に対し、レッドディザイアが6.0倍と桜花賞より接近。桜花賞を経て明確にレッドディザイアがライバルと認められたということだろう。

スタートすると、4枠7番ブエナビスタは後ろに控えて後方2番手で折り合いをつける。対する2枠3番レッドディザイアは中団のインにつけ虎視眈々と末脚をためる。
勝負は最後の直線へ。レッドディザイアが内のほうから馬群を割って抜け出してくる。ブエナビスタはいつも通り大外へ進路を取って追い込み態勢に入る。

レッドディザイアが抜け出して先頭に立つと、リードを2馬身、3馬身と広げてゴールを目指す。普通であればセーフティリードにも思えたが、外からただ1頭ブエナビスタが追ってくる。一完歩ごとに差を詰めると、ゴール前でついに馬体が並ぶ。どちらが前に出ているか分からない大接戦となった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
結果はブエナビスタがわずかハナ差だけ差し切っていた。ブエナビスタが5連勝で二冠を達成して春の牝馬クラシック戦を終えたのだった。
凱旋門賞挑戦プラン
二冠を達成したあとには、陣営から凱旋門賞への挑戦が発表された。前哨戦の札幌記念を勝って凱旋門賞へというプランだったが、札幌記念でよもやの2着。その結果、凱旋門賞挑戦は白紙となり、国内で牝馬三冠の達成を目指すこととなった。
また、札幌記念の敗戦後に行われた検査で蟻道(爪の病気)が確認され、爪の治療と馬体の回復が計られた。
秋華賞

迎えた秋華賞当日。爪の状態も回復したブエナビスタが牝馬三冠に挑む。三冠を阻止すべく立ちはだかるレッドディザイアは、秋初戦のローズステークスを2着と勝ちきれず、ブエナビスタが不動の1番人気。しかしながらオッズはブエナビスタ1.8倍、レッドディザイア3.2倍となり、オークス時よりも接近していた。

ゲートが開くと、ブエナビスタは最後方待機ではなく10番手あたりのインで折り合い、レッドディザイアをぴったりマーク。
馬群が縦長になる中、先に仕掛けたのはレッドディザイア。3コーナー付近から徐々に上がっていき、最終コーナーでは先行集団を射程に入れて最後の直線へ。ブエナビスタはまだ馬群の中だ。
直線に入るとレッドディザイアが馬群を縫って抜け出しを図る。ブエナビスタも内ラチ沿いから進路を探しながらレッドディザイアの外へと持ち出し、追い込み態勢に入る。

レッドディザイアがそのまま振り切るか、ブエナビスタの末脚が上回るか激しい追い比べ。またしても二頭がまったく並んだところがゴールだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
三冠成らず
長い写真判定の結果、今度はレッドディザイアがハナ差で勝利。さらに審議の結果、ブエナビスタが3位入線のブロードストリートの進路を妨害したとして3着に降着。苦い敗戦を喫してしまった。
なお、写真判定と審議が重なったことにより着順確定までには15分以上もの時間がかかり、降着処分に関しても議論の的となる結果となった。
降着・失格の制度については2013年に大幅に基準が変更されたことで、昨今はこうした降着処分を見ることは大幅に少なくなった。
エリザベス女王杯
秋華賞後はエリザベス女王杯に出走。ライバルのレッドディザイアはジャパンカップへ向かうことが発表された。

ここは単勝1.6倍の1番人気に応えて前走の敗戦を払拭したいところだったが、まさかの展開に。
スタート直後からハナに立った11番人気の伏兵クイーンスプマンテと、これを追走した12番人気テイエムプリキュアの2頭が徐々に後続を引き離し大逃げの展開。

3番手との差は20馬身近く、後方待機策のブエナビスタとは何十馬身離れたことだろうか。さすがに安藤騎手が早めに仕掛けて上がっていくも時すでに遅し。最終コーナーを回っても前の2頭ははるか先を走る。
ブエナビスタは上がり33秒を切る驚異的な末脚で追い込んだものの3着まで。前の2頭がそのまま1,2着で入線し大波乱を巻き起こしたのだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ブエナビスタを支持した多くのファン(筆者含む)が、競馬に絶対はないということを思い知らされたのだった。
有馬記念
そして年末のグランプリレース有馬記念へ。ブエナビスタはファン投票では10万票以上を集め、3年連続1位のウオッカと僅差の2位で選出された。

前走ジャパンカップを勝ったウオッカが競争中の鼻出血発症に対する出走停止中ということで不出走。有馬記念当日はブエナビスタが並み居る強豪を抑えて1番人気を集めた。
同年春のグランプリ宝塚記念を勝ったドリームジャーニー、中山巧者マツリダゴッホといった歴戦の古馬勢に惜敗続きのブエナビスタが挑む。鞍上はデビューからコンビを組んだ安藤勝己騎手から横山典弘騎手に乗り替わりとなった。

そして同世代の牡馬勢には、あの新馬戦で戦った面々が顔を揃えた。皐月賞馬アンライバルド、菊花賞馬スリーロールス、ダービー2着のリーチザクラウン。すでにG13勝のブエナビスタを入れた4頭が翌年の有馬記念に出走しているという、改めてものすごい新馬戦だったことがわかる。

ゲートが開いてスタートすると、リーチザクラウンが先頭に立ってレースを引っ張る展開。1枠2番ブエナビスタは好スタートからそのまま5,6番手のインにつけて折り合いをつけた。これまでほとんどのレースで後方待機策だったブエナビスタの新しい一面を初コンビの横山典弘騎手が引き出すか。内には同じ勝負服のアンライバルド。
淡々とレースが進む中、中盤を過ぎて2周目の3コーナーに差し掛かったところで中団にいたスリーロールスが失速して後退していく。
最終コーナーに差し掛かると、中山の仕掛けどころを馬が知っていると言われたマツリダゴッホがいい感じで上がっていく。連れてブエナビスタもそれを追うように外から上がって最後の直線へ。
直線に入ると、ブエナビスタが前を行くマツリダゴッホを捉えて先頭に立とうとするところへ、1列後ろから上がってきたドリームジャーニーが馬体を併せてくる。

そこからは同じ勝負服の2頭によるマッチレース。内ブエナビスタ、外ドリームジャーニーどちらも譲らない。最後にドリームジャーニーが半馬身ほど前に出てそのままの態勢でゴール。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ブエナビスタは惜しくも2着に敗れオークス以来の勝利を掴むことはできなかったが、数々の牝馬を跳ね返してきた2500mの大舞台で見せた堂々たる走りからは、翌年のさらなる飛躍を期待せざるを得ないのだった。

4歳時:海外、マイル、そして王道
久々の勝利
4歳になると、京都記念から始動してドバイ参戦というプランが発表された。そして初戦の京都記念では有馬記念で激闘を演じたドリームジャーニーらを退けてオークス以来となる久々の勝利。幸先の良いスタートを切ると同時に、ドバイシーマクラシックへの出走が正式に決定した。
ドバイへ
ドバイワールドカップ挑戦のために先にドバイ入りしていたレッドディザイアと合流。ウオッカロス(前哨戦の後に鼻出血発症で回避し引退。レッドディザイアの物語を参照されたし)で落ち込むレッドディザイアの心を癒やすという大切な役割も果たした。
ドバイシーマクラシックでは、O.ペリエ騎手の騎乗により海外G1制覇を目指す。レースでは後方待機策で脚をためると、直線で持ち前の鋭い末脚を発揮して馬群を縫うように追い上げる。
しかし突き抜けるまであと少しという勝負どころで前が詰まり、ブレーキをかけるロスが発生。立て直して再び加速する勝負根性を見せたものの、勝ち馬に3/4馬身ほど及ばず2着でゴールした。
その後、レッドディザイアとともに帰国の途についた。
ヴィクトリアマイル
レッドディザイアと再戦
ドバイから帰国後は検疫を経て帰厩。春の目標をヴィクトリアマイルに定めて調整された。最強のライバル、レッドディザイアと秋華賞以来の再戦に挑む。

ともにドバイ以来のブエナビスタとレッドディザイアが人気を分ける。ブエナビスタが1.5倍の1番人気、レッドディザイアが5.7倍で3番人気以下は10倍以上という一騎打ちの様相。
ゲートが開くと、各馬きれいに揃ったスタート。ブエナビスタは後ろから5,6番手につけ、少し前にレッドディザイアという位置取り。
最後の直線に入ると、前に行った各馬を差し・追い込み勢が一気にのみ込む。馬場の真ん中を突いたレッドディザイアと、その外からはブエナビスタも末脚を繰り出して追い込んでくる。
坂を登り切って横にズラッと広がった馬群が一団となったままゴールを目指す。その中から、内をついたヒカルアマランサスが抜け出したところへ、外を伸びたブエナビスタが迫る。最後にクビ差だけブエナビスタが差し切ったところがゴールだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ウオッカの記録と同タイムのタイレコードで制したブエナビスタが4つ目のG1タイトルを手にした。
大混戦となったゴール前、勝ち負けからわずかに遅れを取ったレッドディザイアは4着だった。
ナカヤマフェスタ登場
ブエナビスタはファン投票1位で春のグランプリ宝塚記念に出走。阪神JF~桜花賞まで3戦3勝と相性のいい阪神競馬場に久しぶりに凱旋する。
好スタートから4,5番手の好位を追走。有馬記念以降、追い込み一辺倒ではない競馬もすっかり板についてきた。
直線で前を行くアーネストリーを捉えて先頭に立つと、そのまま押し切るかに思われたが外から脚を伸ばしてきたナカヤマフェスタに差されて2着。有馬記念に続いて秋春グランプリで連続の2着となった。
この時は8番人気の伏兵だったナカヤマフェスタは、秋に挑戦した凱旋門賞であっと言わせる走りを見せることになる。

天皇賞・秋
牝馬の時代を継ぐ
秋は前哨戦を使わずぶっつけで天皇賞に出走。落馬負傷で戦列を離れていた横山典弘騎手に代わり、フランスのC.スミヨン騎手が騎乗することとなった。

1番人気は1枠2番ブエナビスタで2.2倍。宝塚記念3着から札幌記念を勝ってここへと進んできた6枠12番アーネストリーが2番人気に推された。

ゲートが開くと、スミヨンとブエナビスタは内枠から馬なりに出て中団9,10番手あたりのインで折り合いをつけた。
最後の直線に入ると、固まっていた馬群が徐々にバラけていく。じっと追い出しを我慢していたブエナビスタのスミヨン騎手は、前が開いたその瞬間にゴーサインを出す。すると、馬群を割ってあっという間にブエナビスタが抜け出し突き抜けた。

レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
秋春グランプリ2着、ドバイの2着と牡馬相手にも引けを取らないことは証明済みだったが、ついに牡馬混合のG1、それも天皇賞・秋を見事勝ちきって5つ目のG1タイトルを手に入れた。
同時に、父スペシャルウィークとの父娘同一G1制覇も達成した。

審議の悪夢再び
ジャパンカップ
いよいよ王道を歩み始めたブエナビスタはジャパンカップへ。鞍上はスミヨン騎手が天皇賞から継続騎乗となった。

凱旋門賞2着の実績を引っ提げて帰国したナカヤマフェスタを筆頭に、宝塚記念馬アーネストリー、天皇賞・春の勝ち馬ジャガーメイル、3歳勢からもダービー馬エイシンフラッシュ、凱旋門賞帰りの皐月賞馬ヴィクトワールピサ、前走の天皇賞で2着に入ったペルーサ、ダービー・菊花賞2着馬ローズキングダムとメンバーが揃った一戦。

道中は後方から5番手を追走したブエナビスタは、最終コーナーで外を回って10番手くらいのポジションで最後の直線へ。
先に抜け出したのは道中2番手につけていたヴィクトワールピサ。それを追うのは真ん中から抜けてきた武豊騎手鞍上のローズキングダム。そして大外からブエナビスタがスミヨンの右ムチに応えて2頭に迫る。
そこで内に切れ込んだブエナビスタと内にいたヴィクトワールピサに挟まれる格好となったローズキングダムは進路がなくなり武豊騎手が立ち上がる場面が発生。
レースはブエナビスタが力強く差し切って先頭でゴールしたが、審議の赤ランプが。
30分にもおよぶ長い審議の結果「1位入線のブエナビスタは急に内側に斜行してローズキングダムの進路を妨害した」として降着を告げるアナウンスが。

G1レースで1位入線した馬が降着となるのは、1991年の天皇賞・秋におけるメジロマックイーン、そして2006年のエリザベス女王杯におけるカワカミプリンセスにつづく3例目。ブエナビスタは前年の秋華賞でも2着から3着への降着を経験しており、G1レースで2度の降着は前例のないことであった。

なお、この結果繰り上がりで優勝したのはローズキングダム。致命的な不利を受けながらも体勢を立て直してヴィクトワールピサをハナ差交わしたことが栄冠に繋がった。
有馬記念
降着処分で大きな話題となってしまったブエナビスタだったが、年末の有馬記念にはファン投票1位で選出され出走。スミヨン騎手との3度目のコンビにかかる期待は変わらず単勝1.7倍の支持を集めた。

レースは上がり馬のトーセンジョーダンが思い切って逃げてゆったりした流れで引っ張る展開。ブエナビスタは中団後方で脚を溜める。
終盤に差し掛かると2番手につけていたヴィクトワールピサとM.デムーロ騎手の手応えがいい。最終コーナーを回って直線に向くと、トーセンジョーダンを競り落としたヴィクトワールピサが早くも先頭に立ち後続を突き放す。
ブエナビスタはまだ中団。スミヨン騎手のゴーサインに応えてスイッチが入ると、驚異的な末脚でグングンと差を詰める。それでも届かないかというところで更にひと伸びして2頭が並んでゴール。勝敗は写真判定に委ねられた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
写真判定の結果、1着はヴィクトワールピサ、ハナ差2着にブエナビスタで確定した。グランプリはこれで3戦連続の2着。それでも、負けて強しと言える内容で激闘続きの1年を締めくくった。
年度代表馬
ブエナビスタは4歳シーズンを終えて、牝馬として史上4頭目となるJRA賞年度代表馬に選出された。ヴィクトリアマイルと天皇賞・秋の2つのG1勝利に春秋グランプリとジャパンカップでの2着。ドバイでも2着。国内外で7戦というハードなローテーションに耐え、どこの競馬場でも全力で駆け抜けたブエナビスタの1年は感動を与えるものだったと思う。
5歳時:絶景へ
ドバイワールドカップ
5歳シーズン初戦は再びドバイへ渡り、ドバイワールドカップに出走。ヴィクトワールピサが日本調教馬として初めて同レースを勝ったことで有名なレースで8着という結果に終わった。
女王対決
帰国後は前年と同じローテーションでヴィクトリアマイル連覇を狙う。鞍上はこのレースから岩田康誠騎手に乗り替った。

前年の牝馬三冠馬アパパネとの初対戦が注目を集め、単勝オッズはブエナビスタが1.5倍で1番人気、アパパネが4.1倍の2番人気。3番人気以下は10倍以上と、かつてのライバルだったレッドディザイアとの一騎打ちを彷彿させる女王をかけた対決。
レースは最後の直線で先に抜け出した3番人気馬レディアルバローザをめぐり、まずアパパネが並んで前に出たところへブエナビスタが詰め寄って三頭の大接戦。激しい叩き合いの末にアパパネに軍配が上がり新女王に。ブエナビスタはクビ差まで追い詰めたが2着に敗れた。
惜敗続き
その後、2年連続出走の宝塚記念ではアーネストリーが先行策から抜け出したところを後方から追い込んだものの捉えきれず2着。これでグランプリレースは4戦連続2着となった。
天皇賞・秋
秋は前年と同じく天皇賞・秋へ直行。1番人気で連覇に挑んだが、トーセンジョーダンの4着。ブエナビスタが馬券圏外(4着以下)となったのは国内レースではこれが初めてであった。
ジャパンカップ
絶景に辿り着く
前年先頭でゴールしながらも降着に泣いたジャパンカップに出走。改めて、父スペシャルウィークとの父娘制覇に挑む。
このレースで、これまでデビュー以来一度も1番人気を譲ったことがなかったブエナビスタが、ついに2番人気でレースを迎える。外国馬の大将格は、凱旋門賞勝ち馬のドイツ馬デインドリーム。こちらがブエナビスタを差し置いて1番人気を集めた。

ゲートが開くと、1枠2番から好スタートをきったブエナビスタは5,6番手のインにつけて折り合いをつける。
前を行く外国馬ミッションアプルーヴドとトーセンジョーダンがペースを刻み、レースが動いたのは最終コーナー手前。ウインバリアシオンがまくっていって先頭に並びかけて大欅を通過。ブエナビスタと岩田騎手は動かず内で脚を溜めている。
最後の直線に入ると、トーセンジョーダンがウインバリアシオンを差し返して残り200mあたりで単独先頭に立つ。ブエナビスタも5,6番手集団の馬群の中から狭いスペースを突いて上がってくる。

トーセンジョーダンが粘り強く先頭をキープし、そのまま押し切ろうかというところへブエナビスタが外から襲いかかる。
ラスト100mは2頭の叩き合いが続き、最後にブエナビスタが前に出て、それでも食い下がるトーセンジョーダンを凌ぎきって先頭でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
前年無念の降着だったジャパンカップを自らの力で勝ち取り、劇的な勝利をおさめたブエナビスタに湧き上がる東京競馬場。キャリアの終盤を迎えているであろうブエナビスタの勇姿と、岩田コールを受けて鞍上で涙を流すジョッキー、それを出迎える関係者の姿が印象的なシーンであった。これぞまさに「絶景」と思える美しい瞬間だ。

これで、天皇賞・秋に続きジャパンカップでも父スペシャルウィークとの父娘同一G1制覇を果たしたのだった。
新時代の王と邂逅
ファン投票1位に選出された有馬記念では、当年のクラシック三冠馬オルフェーヴルとの対戦が待っていた。ブエナビスタにとってはこれが引退レースとなる。

1番人気は三冠馬オルフェーヴル。2番人気にブエナビスタ。3番人気トーセンジョーダン、4番人気ヴィクトワールピサと続く。グランプリらしく豪華メンバーが揃った。

これまで不思議と最内1枠に入ることが多かったブエナビスタ。最後も1枠1番からのスタートで有終の美を飾れるか。
ゲートが開くと、アーネストリー、ヴィクトワールピサら先行勢が牽制しながらゆったりした流れでレースが進む。超スローの展開を4番手の内で我慢するという今までに経験したことがないようなレースを強いられたブエナビスタは、最後の直線ではいつもの伸びを発揮することができず7着に終わった。
そんな中でも王者の強さを見せたのがオルフェーヴル。ブエナビスタから引き継ぐように現れた金色の王が次の時代を作っていく。

引退式
有馬記念当日の最終レース終了後にはブエナビスタの引退式が執り行われた。幾度となく劇的なレースを見せてくれた稀代の女傑ブエナビスタの最後の勇姿を見るために残ったファンの数はおよそ6万人という。
ブエナビスタが競馬場で見せてくれた数々の景色を思い出しながら、最後の絶景を目に焼き付けたのだった。

ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ブエナビスタ。
史実のブエナビスタ
| 基本情報 | 2006年3月14日 牝馬 黒鹿毛 |
|---|---|
| 血統 | 父スペシャルウィーク 母ビワハイジ(父Caerleon) |
| 馬主 | サンデーレーシング |
| 調教師 | 松田博資(栗東) |
| 生産牧場 | ノーザンファーム(北海道早来町) |
| 通算成績 | 23戦9勝(国内21戦9勝、海外2戦0勝) |
| 主な勝ち鞍 | 08’阪神JF,09'桜花賞,オークス,10’ヴィクトリアマイル,天皇賞・秋,11’ジャパンカップ |
エピソード①引退式で見せた涙
引退式でブエナビスタの右目から一粒の涙がこぼれているというシーンは有名だ。

ウマ娘のブエナビスタが涙もろいのもこのシーンが元になっているのだろう。
エピソード②連続1番人気の記録
デビュから実に19戦連続で1番人気(海外レースを除く)に支持され続けたブエナビスタ。これはテイエムオペラオーの15戦連続を抜いて史上最多ということらしいが、この先もこの記録を抜くような馬はそうそう出てこないのではないだろうか?
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名牝達の競演 | 一時代を築いた名門・メジロ家 |
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