競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第117回。今回は牝馬の時代を彩った名バイプレイヤーとして知られる、カレンブーケドールについて熱く語ります。
2019世代に欠かせぬ存在
牝馬の時代をひたむきに
2019牝馬クラシック世代といえば、桜花賞馬グランアレグリア、オークス馬ラヴズオンリーユー、秋華賞馬クロノジェネシスの3頭が中心の世代と言って間違いないだろう。当コラムでもすでに特集した3頭は、いずれも競馬史に名を刻んだ名牝たちである。
今回はそんな2019牝馬クラシック世代において、ひたむきな走りで頂点を目指し続けた名脇役・カレンブーケドールの史実を追っていく。
ウマ娘のカレンブーケドール

カレンブーケドール自身はまだ育成ウマ娘として実装されていないものの、ライバルたちの育成ストーリーにたびたび登場するため、優しい性格と何よりもその可憐な姿に惚れ込んだトレーナーも多いことだろう。
公式プロフィール

花の世話やフラワーアレンジメントが好きな、優し過ぎるほどに優しいウマ娘。常に他人を慮り、心を砕き、相手の気持ち第一で行動しがち。それゆえいろいろと強烈な同世代ウマ娘たちの中で埋もれがちだが、その実力は間違いなく本物。 『時代』という花束には欠かせない一輪。
幼少期~デビューまで
血統
カレンブーケドールは父ディープインパクト、母ソラリア(父Scat Daddy)という血統。母馬のソラリアは繁殖として日本に輸入されて2番目の仔としてカレンブーケドールを産んだ。カレンブーケドールの兄弟には現オープンのサンライズソレイユ(父キズナ)などがいる。
アーモンドアイと同厩
2歳になるとカレンブーケドールと名付けられ、美浦の国枝栄厩舎へ入厩。馬名の意味は「冠名+黄金の花束(仏語)。勝利の大輪を咲かせてほしい」
同厩舎の一つ上の世代にはアーモンドアイがおり、のちの歴史的名牝が牝馬三冠路線を歩んでいるところであった。

2歳時
メイクデビュー
デビューは10月の東京競馬場開幕週、芝1600m新馬戦にエントリー。評判馬も集まりフルゲート18頭立てとなった一戦、北村宏司騎手騎乗のカレンブーケドールは3番人気でスタートを迎えた。
中団で折り合い、直線はメンバー最速の上がり33.0で追い込んだが惜しくもアタマ差届かず2着まで。このレースを勝ったのはダノンキングリー。この世代の牡馬クラシック路線において中心的な一頭であり、のちにG1安田記念を勝つことになる。また、4着のジャスティンは長くダートの短距離路線で活躍するなど、振り返ってみてもハイレベルな新馬戦であったことがわかる。
初勝利
2戦目の未勝利戦では1番人気に支持されたものの3着と勝ちきれず、態勢を立て直して12月の中山の未勝利戦へ。鞍上にはO.マーフィー騎手を迎えた。
好位4,5番手から、最後の直線で粘るシングフォーユーを差し切って先頭でゴール。こんどは単勝1.8倍の1番人気に応えて待望の初勝利を挙げた。
この年、国枝厩舎の先輩馬アーモンドアイは見事に牝馬三冠を達成。ジャパンカップも制して年度代表馬に選出された。

3歳時
クイーンカップ
未勝利を脱して3歳のシーズンを迎えたカレンブーケドール。一息入れての年明け初戦は格上挑戦でG3クイーンカップに挑戦する。
阪神ジュベナイルフィリーズ2着のクロノジェネシス、同3着のビーチサンバら好メンバーによる争い。

カレンブーケドールは戸崎圭太騎手に乗り替わり、4番人気から上位を目指したがクロノジェネシスの4着止まりだった。2着にもビーチサンバが入り、2歳戦の実績馬同士の決着となった。
オークス出走を目指して
ここで牝馬三冠レースの一冠目である桜花賞出走を断念してオークスへの参戦を目指す。格上挑戦でリステッド競走のスイートピーステークスに出走。このレースで津村明秀騎手が初騎乗となった。
同じ国枝厩舎で2連勝中のセリユーズが1番人気の支持を集め、カレンブーケドールは2番人気。しかしレースではカレンブーケドールがシングフォーユーとセリユーズとの接戦を凌いで勝利。2勝目を挙げてオークス出走を手繰り寄せた。
オークス
波乱を演出
牝馬クラシック二冠目のオークス。桜花賞馬グランアレグリアがNHKマイルカップへ向かったため混戦模様となった。

桜花賞3着のクロノジェネシスを抑えて1番人気になっていたのは忘れな草賞を快勝してきたラヴズオンリーユー。ここまで3戦無敗の未知なる魅力に注目が集まっていた。2勝目を挙げたばかりのカレンブーケドールは12番人気の低評価。

ゲートが開くと、好スタートを決めて好位に取り付く。内にクロノジェネシスを見ながら5番手で折り合い、1番人気のラヴズオンリーユーは中団で脚をためる展開。
人気薄のジョディーが淀みのない逃げでレースを引っ張る。クロノジェネシスと並んで好位を追走していたカレンブーケドールは、最終コーナーから津村騎手のゴーサインに反応して先頭に並びかけていく。

先行勢を早めにつかまえて先頭に躍り出たカレンブーケドール。内からクロノジェネシスも馬体を併せてくるが、カレンブーケドールが突き放す。そのまま押し切るかというところへ、外からラヴズオンリーユーが凄い脚で追い込んできた。

最後まで食い下がったカレンブーケドールをねじ伏せたラヴズオンリーユーが先頭でゴールした。カレンブーケドールはわずかクビ差で大金星を逃したのだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
勝ちタイムは2分22秒8でレースレコードを更新。12番人気を覆してタイム差なしの2着に健闘したカレンブーケドールが人気二頭に割って入り波乱の立役者となった。
秋華賞へ向けて
夏休みでリフレッシュし、秋は秋華賞トライアルのG3紫苑ステークスから始動。春の実績馬も見当たらず比較的手薄なメンバーの中でオークス2着の実績は断然。
ここはカレンブーケドールが1番人気に応えたいところだったが、3着と勝ち切ることができず重賞初制覇はお預けとなった。
秋華賞
一騎打ちの末に

牝馬三冠のラスト、秋華賞。桜花賞馬グランアレグリア、オークス馬ラヴズオンリーユーがともに不在で混戦模様。
人気はトライアルのローズステークス勝ちで評価再上昇の2歳女王ダノンファンタジー。オークス3着からぶっつけで臨んだクロノジェネシスは4番人気にとどまり、カレンブーケドールが2番人気と期待を集めた。

ゲートが開くと好スタートを決めて好位をキープ。前に行きたい馬を行かせて7,8番手で折り合いをつけたカレンブーケドールと津村騎手。ビーチサンバとコントラチェックがハナを競いハイペースでレースが進む。
中団のインで脚を溜めて最終コーナーに差し掛かる。直線に入ると、先行勢を目掛けて外からクロノジェネシスが末脚を繰り出す。内ラチ沿いから進路を切り替えたカレンブーケドールがクロノジェネシスの内に馬体を併せて馬群の狭いところへ潜り込む。

二頭の叩き合いは切れ味で上回ったクロノジェネシスに軍配が上がり、最後は2馬身差をつけて快勝した。カレンブーケドールはオークスに続いて2着でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ジャパンカップ
アーモンドアイに続け

牝馬三冠の戦いではシルバーメダルに終わったカレンブーケドール。陣営はエリザベス女王杯ではなくジャパンカップを選択。前年に同じローテーションを歩んだアーモンドアイは、3歳牝馬ながら優勝していた。

海外馬の参戦はなかったものの、3頭のダービー馬(ワグネリアン、マカヒキ、レイデオロ)をはじめ大阪杯馬スワーヴリチャード、ジャパンカップ馬シュヴァルグランなど歴戦の牡馬たちに重賞未勝利の3歳牝馬が挑む。馬場状態はあいにくの重でスタートを迎えた。
カレンブーケドールは最内1枠1番から好スタートを決めると無理なく先行して4番手につけた。逃げるダイワキャグニーを見ながらインコースをロスなく回って3、4コーナーから徐々に進出を開始。手応え良く2番手まで上がって最後の直線へ。
粘り込みを図るダイワキャグニーを外から交わしてカレンブーケドールが先頭に立つ。そしてダイワキャグニーを挟んで内ラチ沿いを伸びてきたスワーヴリチャードとの熾烈な叩き合いとなる。
最後まで力強く伸びたスワーヴリチャードからわずかに遅れ、2番手でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
国枝調教師が完璧なレースと評した内容での2着は、オークスからG1レース3戦連続の2着でもあった。シルバーコレクターと呼ぶ声も聞こえてきたが、一線級の牡馬に対しても十分に通用する能力を示し、翌年以降の飛躍を予感させた。
4歳時
京都記念

年が明けて4歳の初戦はG2京都記念。同期のクロノジェネシスもここから始動し、秋華賞以来の再戦に注目が集まり牝馬二頭が人気の中心に。単勝オッズはクロノジェネシス2.7倍、カレンブーケドール2.8倍と拮抗していた。
カレンブーケドールはこの馬としては珍しく後方からのレースで末脚勝負にかけたが、好位からスムーズなレース運びで直線弾けたクロノジェネシスに2馬身半差をつけられ完敗を喫した。
ドバイ中止の憂き目に
その後はドバイシーマクラシックへの出走を目指して調整され、実際に出国したが新型コロナの影響により現地入り後に中止が決まり無念の帰国となった。
帰国後は調整に時間を要して春は全休。秋に備えることとなった。
オールカマー
秋はG2オールカマーで復帰したカレンブーケドール。好位から抜け出して重賞制覇まであと一歩というところだったが最後に差されて悔しいハナ差の2着。これで前年の秋華賞から4レース連続で2着となった。
ジャパンカップ
そして前年2着だったジャパンカップに参戦。この年の第40回ジャパンカップはアーモンドアイ、コントレイル、デアリングタクトの三冠馬3頭の夢の競演が実現した伝説的なレース。

レースでは、厩舎の先輩でもあるアーモンドアイが若き無敗の三冠馬二頭を相手に見事勝利。カレンブーケドールは、2着コントレイル、3着デアリングタクトに続いてハナ差の4着に入り、さすがの堅実な走りを披露したのだった。
有馬記念

暮れのグランプリ有馬記念ではクロノジェネシスの5着。宝塚記念との春秋グランプリ制覇を達成した同世代のライバルは、本格化を迎えて一段上の世界へと駆け上がっていった。
一方、カレンブーケドールはこの年4戦して未勝利に終わったのだった。
5歳時
日経賞
5歳シーズンの初戦はG2日経賞。久しぶりの1番人気に支持され、そろそろ重賞のタイトルも欲しいところ。
ところがデアリングタクト世代の4歳牝馬ウインマリリンを捉えることができず2着。これで通算7度目の2着。重賞では6度目であった。
天皇賞・春
春の目標レースとして、長距離の頂点を競う天皇賞・春を選択。牝馬にとって過酷な距離だが、この年はカレンブーケドールのほかにも日経賞勝ちで勢いのあるウインマリリン、そしてひと際小柄な牝馬メロディーレーンが参戦していた。
改修中の京都競馬場に変わって阪神競馬場の3200mで開催された天皇賞・春。スタートすると、ハナを切ったディアスティマを見ながら好位3番手につけたカレンブーケドール。鞍上は3歳時のクイーンカップ以来となる戸崎圭太騎手。
直線ではいったん先頭を伺う見せ場を作ったカレンブーケドールだったが、最後は菊花賞馬ワールドプレミア、そして1番人気ディープボンドに差されて3着でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
宝塚記念

春のドリームレース宝塚記念。1番人気はグランプリ3連覇を狙うクロノジェネシス。2番人気には無敗で大阪杯を勝ったレイパパレ、そしてカレンブーケドールが3番人気と、牝馬の時代を象徴するように牝馬たちが上位人気を占めた。

レースは伏兵のユニコーンライオンが絶妙な逃げで粘り込むところをクロノジェネシスが豪快に差し切って連覇を達成。カレンブーケドールは馬券圏内の争いからは2馬身ほど離されての4着となった。
ラストラン
その後、秋は休み明けぶっつけで天皇賞・秋に出走して12着と自身初の掲示板を外す敗戦を喫し、結果的にこれがラストランとなった。
引退
2019年の牝馬クラシックの争いでは2度の2着。そしてその年のジャパンカップでも2着。いつG1を勝ってもおかしくない成績をおさめたカレンブーケドールは、G1どころかその後勝ち星を挙げることができなかった。
それでもデビューから16戦続けて掲示板を確保した堅実な走りで4億円以上の賞金を積み重ねた。相手が女傑だろうが牡馬だろうが常にひたむきな走りを見せた名脇役。カレンブーケドールもまた、牝馬の時代を創ったヒロインの一頭に違いない。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、カレンブーケドール。
史実のカレンブーケドール
基本情報 | 2016年4月23日 牝 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父ディープインパクト 母ソラリア(父Scat Daddy) |
馬主 | 鈴木隆司 |
調教師 | 国枝栄(美浦) |
生産牧場 | 社台ファーム(北海道千歳市) |
通算成績 | 17戦2勝 |
主な勝ち鞍 | 19’スイートピーステークス |
エピソード①母として
繁殖入り初年度には同期のライバルたちと同じくエピファネイアと交配され、初年度産駒の牡馬は今年2歳を迎えた。セレクトセールでは3億円を超える高額で取引された期待馬はハムタンと名付けられデビューに向けてスタンバイ。
そしてちょうど今週末、函館の新馬戦でのデビューが予定されており、小倉でデビュー予定のベレシート(クロノジェネシスの初年度産駒)ともども注目を集めている。いよいよ2019年牝馬クラシック世代の二世たちの物語が始まろうとしている。

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