競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第105回。今回は、平成の三強として知られるBNWの一角であり最強兄弟の兄、「ビワハヤヒデ」について熱く語ります。
三強から最強へ
勝利の方程式を極めて
ウマ娘プリティーダービーの新シナリオ「走れ!メカウマ娘」の主要キャラクターとして、久しぶりに脚光を浴びているウマ娘、ビワハヤヒデ。当コラムではBNWとして取り上げたことはあったが、今回改めてその軌跡を辿ってみる。平成三強の一角から、やがて勝利の方程式を極めて最強の兄へと至った「ビワハヤヒデ」の史実を追っていく。
生まれと血統
福島生まれの持ち込み馬
母パシフィカス(父Northern Dancer)は、イギリスのセリ市で購入されて繁殖牝馬として輸入された。シャルードというマイナー種牡馬の仔を身ごもったまま来日したパシフィカスは、検疫に予定以上の時間を要した関係で当初予定していた北海道の早田牧場新冠支場ではなく成田空港から近い福島県の早田牧場本場へ移送されて出産を迎えた。
したがって、のちのビワハヤヒデは福島生まれの持ち込み馬という珍しい生い立ちの競走馬となった。
2歳時
レコード連発のスピード
2歳時のビワハヤヒデは、のちに長距離G1を勝つイメージとは違ってマイル以下の距離で活躍。それもレコードを立て続けに記録するほどの有り余るスピード能力で他馬を圧倒していた。そのためウマ娘のビワハヤヒデの距離適性もマイルCという高い評価となっているのだろう。
メイクデビュー
9月の阪神競馬場・芝1600m新馬戦でデビューを迎える。鞍上は当時5年目の岸滋彦騎手で2番人気の支持を集めた。
レースではスローペースの展開を好位で折り合い、直線であっという間に抜け出すと後続をぶっちぎって衝撃の大差勝ちを収めた。勝ちタイムは遅かったが2着馬に1.7秒差をつける圧勝であった。
レコード勝ち
続くオープンのもみじステークス(京都芝1600m)では新馬戦の内容から1番人気の支持を集める。そしてここでもスピードの違いを見せつけ、1分34秒3のレコード勝ち。1600mのタイムをデビュー戦から4秒も縮めてみせた。ほかの重賞勝ち馬やのちにジャパンカップを勝つマーベラスクラウン(3着)らをまったく寄せ付けなかった。
レコードで重賞制覇
続いて出走したのは1ハロン短縮の1400mとなるG2デイリー杯3歳ステークス。距離不足の心配もよそに好位追走から難なく抜け出して快勝。単勝1.7倍の圧倒的な1番人気に応え、またしてもレコードとなる好時計を記録してデビューから3連勝とした。
朝日杯3歳ステークス
無傷の3連勝でG1朝日杯3歳ステークスに出走。単勝オッズ1.3倍という抜けた1番人気を集めた。
ビワハヤヒデを脅かすような強力なライバルは見られないと思われたが、デビュー2連勝とこちらも負け知らずの外国産馬エルウェーウィンとのマッチレースとなり、激しい叩き合いの末にハナ差先着を許して初黒星を喫した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
敗れはしたものの、この時点でビワハヤヒデに対する評価は高くクラシックの有力候補に位置づけられた。
そしてこの2週間後の最終週、中山のホープフルステークスを勝ったウイニングチケットと阪神のラジオたんぱ杯3歳ステークスを勝ったナリタタイシンがそれぞれクラシック戦線に名乗りを挙げたのだった。
3歳時
皐月賞へ向けて
年が明けて3歳となったビワハヤヒデは、クラシック本番を睨んでG3共同通信杯4歳S(芝1800m)に出走。距離延長と初めての府中での走りに注目が集まったが、先行したマイネルリマークにわずかアタマ差届かず2着惜敗となった。
乗り替わり
皐月賞トライアルの若葉ステークスでは、2戦続けての惜敗が影響して岸滋彦騎手から関東の名手・岡部幸雄騎手に乗り替わりとなった。
レースではすんなりと3番手につけて直線で前を捕まえると、ほとんど馬なりのまま2馬身差をつけて楽勝。勝ちきれなかった前2走の嫌な流れを断ち切る快勝となり、これ以降ビワハヤヒデの引退まで継続する岡部幸雄騎手との名コンビ誕生の瞬間だった。
春のクラシック開幕
皐月賞
クラシック一冠目の皐月賞。前評判では、前哨戦を勝って駒を進めてきたビワハヤヒデ(2番人気・3.5倍)とウイニングチケット(1番人気・2.0倍)の2強ムード。弥生賞でウイニングチケットに敗れたナリタタイシン(3番人気・9.2倍)が離れた3番手評価につけていた。
ゲートが開くと大外18番枠から徐々に内へ進出して好位のポジションを確保。終始外を回らされる厳しい展開ながらもいい手応えのまま最終コーナーへ差し掛かる。外からウイニングチケットも馬体を併せて上がってくる。
直線に入ると、追いすがるウイニングチケットを競り落として単独先頭のまま残り100メートル。栄冠まであとわずかのところで、後方待機策から直線一気の追い込みを繰り出したナリタタイシンが並ぶ間もなく差し切って先頭でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
最後方から鮮やかな直線一気を決めたナリタタイシンの末脚は「カミソリの切れ味」と評された。そして戦前は三番手評価だったナリタタイシンが皐月賞を制したことで、この世代は三強として見られるようになった。
日本ダービー
クラシック二冠目、世代の頂点を決める一戦、第60回日本ダービー。皐月賞の結果を受けての人気はまさに三つ巴。1番人気はウイニングチケットで3.6倍。2番人気ビワハヤヒデ3.9倍、3番人気ナリタタイシン4.0倍という拮抗したオッズとなった。
スタート直後に一頭落馬のアクシデントもあり騒然とした一周目のスタンド前。大歓声の中で三強の位置取りは、ビワハヤヒデが中団前めの7番手あたり、ウイニングチケットはその後ろ11~2番手、ナリタタイシンは最後方というポジションで通過した。
先手を取ったアンバーライオンが飛ばして馬群は徐々に縦長の隊列となる。淀みのないペースを刻んで終盤に差し掛かると、各馬仕掛けて最終コーナーから直線へ。
いつの間にかスルスルとビワハヤヒデより前に出たウイニングチケットが先に抜け出す。ビワハヤヒデは内を突いて差を詰める。遅れてナリタタイシンも馬場の中央からライバルの二頭を目掛けて伸びてくる。
熾烈な三頭の叩き合いとなり、内からビワハヤヒデ、外からナリタタイシンが交わそうとするがウイニングチケットももうひと伸びして抜かせない。最後はウイニングチケットがビワハヤヒデに半馬身のリードをつけて先頭でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
絶対に抜かせない根性を見せたウイニングチケットが1番人気に応えて名手・柴田政人騎手に悲願の初ダービー制覇を届けた。
実りの秋へ向けて
ハードトレーニング
ビワハヤヒデの浜田調教師は、春二冠で惜敗を喫したビワハヤヒデに対してあと少しの差を埋めるべく夏場も放牧に出さずトレーニングを課して鍛えた。
ビワハヤヒデはこのハードトレーニングに耐えて着実に力をつけ、秋のラスト一冠奪取へと向かうのだった。
神戸新聞杯
秋初戦は菊花賞トライアルのG2神戸新聞杯(阪神芝2000m)。春のクラシックを争った強力なライバルは不在でここは負けられない一戦。
ビワハヤヒデは、すんなりハナに立って逃げたネーハイシーザーの2番手で折り合い、直線でそのネーハイシーザーを楽に交わして1馬身半の差をつけて勝利。3着馬はさらに8馬身離れていたため、圧勝と言える内容だった。
最後の冠は渡さない
菊花賞
11月の京都開催2日目。クラシック三冠のラスト菊花賞は、現在の開催日程より遅く秋の天皇賞の翌週に行われていた。
トライアル快勝のビワハヤヒデが同じくトライアルの京都新聞杯で勝利してきたダービー馬ウイニングチケットを抑えて1番人気の支持を集め、単勝オッズは2頭の一騎打ちの様相。不調が伝えられる皐月賞馬ナリタタイシンは離れた3番人気。
ゲートが開くと、4枠7番から好スタートを切ったビワハヤヒデがすんなりと2,3番手の好位につける。ウイニングチケットは中団で折り合いをつけ、最後方にナリタタイシン。
長丁場の3000mを走るにあたって折り合いは重要である。その点、ビワハヤヒデは鞍上の岡部騎手がピタリと折り合いをつけて気分よさげにスムーズに追走していた。
最終コーナーで早くも先頭に立つと、あとはビワハヤヒデの独壇場。岡部騎手のゴーサインに応えて加速すると、あとは後続を突き放す一方だった。後方から追い込んで2着に入ったステージチャンプに5馬身差をつける圧勝劇で、ビワハヤヒデが悲願のG1初制覇を成し遂げた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ビワハヤヒデが記録した勝ちタイムは前年ライスシャワーのレコードを塗り替える好記録で、夏を越してのたしかな成長を印象付けた。一方でウイニングチケットは3着、ナリタタイシンはどうにかゴールしたものの後方のまま17着に沈んだ。
有馬記念
クラシック三冠が終わり、ビワハヤヒデは暮れのグランプリ有馬記念に出走。1週前に同じ中山競馬場で行われた朝日杯3歳ステークス(現・朝日杯フューチュリティS)を弟のナリタブライアンが勝って兄弟G1制覇を達成したばかりである。
ジャパンカップ勝ち馬のレガシーワールドや、骨折で長期休養明けのトウカイテイオーら歴戦の古馬との初対戦だったが、堂々の1番人気はビワハヤヒデ。菊花賞後に出走したジャパンカップで3着に入ったウイニングチケットも3番人気の支持を集め、BNW世代のレベルが高く評価されていた表れであろう。
レースでは、ビワハヤヒデが好位から抜け出す横綱相撲で勝利を手にするかに思われたが、このレースの主役は他にいた。
三度目の骨折明けで1年振りのレースだったトウカイテイオーの奇跡の復活である。直線で抜け出したビワハヤヒデにただ一頭食い下がり、最後はグイっと伸びてビワハヤヒデの前に出ると先頭でゴール。トウカイテイオーが見事な復活劇で日本中の競馬ファンを感動の渦に巻き込んだのだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
年度代表馬
この年ビワハヤヒデは、G1菊花賞1着のほかに皐月賞、ダービー、有馬記念で2着3回が評価されJRA賞の最優秀4歳牡馬および年度代表馬に選出された。安田記念と天皇賞(秋)の二つG1を勝ったヤマニンゼファーを差し置いての年度代表馬には賛否両論あったものの、翌年の走りをもって自ら強さを証明していくことになる。
4歳時
勝利の方程式、極まる
充実の3歳秋シーズンを終え、迎えた4歳のシーズン。古馬となったビワハヤヒデは、その安定感のあるレースぶりに益々磨きがかかり、勝利の方程式を完全に確立していった。
まずは年明け初戦のG2京都記念を7馬身差で圧勝。2番手追走から抜け出してこれだけの差をつけられては他の馬にチャンスはないに等しい。
天皇賞(春)
春の目標レースとなるのは、まずは伝統の長距離G1天皇賞(春)。
この年、京都競馬場の改修により春の盾をかけた一戦は阪神競馬場での開催となっていた。
小回りコースの長距離という条件が不安視されたこともあったが、ふたを開けてみれば単勝1.3倍の断然人気を背負うビワハヤヒデと岡部騎手。レースではいつも通りスタートを決めて2番手を追走。道中いつになく行きたがる面を見せるなど折り合いに苦労する様子を見せたものの、それでも終盤落ち着きを取り戻すともはや勝利の方程式を覆す要素は見当たらなかった。
最終コーナーを手応え十分に回ってくると、岡部騎手は後ろの仕掛けを待ってから追い出す。調子を取り戻したナリタタイシンが迫るものの、三強から最強の座に就こうというビワハヤヒデを脅かすまでには至らなかった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
宝塚記念
続いて春のグランプリ宝塚記念。ナリタタイシン、ウイニングチケットといった同期のライバルは不在。二冠牝馬ベガは近走の牡馬混合G1では精彩を欠いており、ビワハヤヒデの一強と見られた。
そしてレースはビワハヤヒデが単勝1.2倍という圧倒的な支持に応えて5馬身差をつけて快勝。この春にクラシック二冠を圧勝した弟ナリタブライアンに引けを取らないレース内容で、最強の兄であることを世に知らしめた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
勝利の方程式を極めたビワハヤヒデのレースぶりは、好位追走から抜け出して突き放すという後続に付け入るスキを与えないもので時に憎らしいほどの強さであった。
夢の兄弟対決へ
秋のローテーション
宝塚記念のあとは厩舎で夏を過ごしたビワハヤヒデ。陣営からは秋のローテーションについて発表され、オールカマーから天皇賞・秋、そして有馬記念というプランだった。ジャパンカップを回避したことには賛否あったが、天皇賞・春秋連覇を果たした後にナリタブライアンとの兄弟対決が見られるかもしれないということについては大きな夢を抱かせるものに違いなかった。
天皇賞・春秋制覇へ向けて
秋初戦、G2オールカマーに出走したビワハヤヒデの馬体重は休み明けながら-4kgの470キロ。この夏の記録的な猛暑の影響があったかもしれないがデビュー以来最小の馬体重だった。
それでも、圧倒的一番人気に応えてウイニングチケットらを抑えて勝利。これで年内負けなしの4連勝とし、通算では重賞7勝目を挙げた。
まさかの結末
天皇賞・秋
そして運命の天皇賞・秋。弟ナリタブライアンの三冠達成は濃厚と見られていただけに有馬記念での兄弟対決に向けて負けられない。
ところがレースは思わぬ結末を迎えてしまうこととなった。ビワハヤヒデは道中3番手につけて終盤を迎え、勝利の方程式ではここからあっという間に抜け出すはずだが、いつもの伸びが見られない。2番手につけていたネーハイシーザーに突き放され、最後は後ろからも交わされて5着でゴール。入線後に岡部騎手が下馬する様子から、ビワハヤヒデに何らかの異常が発生したことを物語っていた。
診断の結果、レース中に左前屈腱炎を発症しており全治1年以上の見込みということで引退が決定。これがラストランとなってしまった。
夢の兄弟対決は実現せず
その後、菊花賞で7馬身差をつけてクラシック三冠を達成したナリタブライアンは、有馬記念でも初対戦の古馬や同世代の女傑ヒシアマゾンを退けて怪物ぶりを見せつけた。
勝利の方程式を極めた兄ビワハヤヒデと、規格外の強さの弟ナリタブライアン。競馬ファンの誰もが待ち望んでいた兄弟対決は夢と消えた。実現していれば、結果はどうあれ歴史に残る名勝負となったに違いない。
競馬にタラレバは禁物ということを承知の上で、当時見たかったIFの物語を見せてくれるウマ娘で実現する姉妹対決を噛みしめている。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ビワハヤヒデ。
史実のビワハヤヒデ
基本情報 | 1990年3月10日生 牡馬 芦毛 |
---|---|
血統 | 父シャルード 母パシフィカス(父Northern Dancer) |
馬主 | (有)ビワ |
調教師 | 浜田光正(栗東) |
生産者 | 早田牧場(福島県伊達郡) |
通算成績 | 16戦10勝 |
主な勝ち鞍 | 93’菊花賞、94’天皇賞・春、宝塚記念 |
生涯獲得賞金 | 8億1,769万円 |
エピソード①幼少期のケガ
現役時代は、デビューしてから春のクラシックまでをコンスタントに出走しながらタフに走り続け、夏休み返上でハードトレーニングを課されても大きな故障などせずに自身の成長に変えて見せたビワハヤヒデ。ラストランとなった天皇賞で故障するまでは頑丈で健康な、まさに無事是名馬という馬だった。
しかしながら、幼少期には競争生命を危ぶまれるほどの大怪我をして治療を受けたという過去も。夢の兄弟対決を前に無念のリタイアとなった結末と併せて、やはり競走馬にとって怪我はつきものだということを認識させられる。それゆえに新育成ストーリーの「走れ!メカウマ娘」では、「もう一度走りたい」という博士の夢に対して理解を示し協力する立場として描かれたのだろう。
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