競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第104回。今回は、秋の天皇賞で世代を越えて快挙を成し遂げたエリートホース、「バブルガムフェロー」について熱く語ります。
既成概念を打ち破っての天皇賞制覇
歴史の礎になった挑戦
今週末に東京競馬場で開催される第170回天皇賞(秋)。この伝統の一戦において、歴史に残る勝利を果たした一頭がバブルガムフェローである。古馬が圧倒的に有利と言われていた時代に、いかにしてその既成概念を打ち破ったのか。歴史を切り開いた秋の天皇賞馬「バブルガムフェロー」の史実を追っていく。
若駒の挑戦を跳ね返してきた天皇賞史
秋の天皇賞が現在と同じ条件(東京芝2000m)となったのはミスターシービーが勝った1984年から、そして3歳馬が出走できるようになったのが1987年である。
この年から3歳以上による秋の中距離王決定戦という位置づけとなったものの、長らく3歳馬や牝馬による優勝はなく事実上は古馬の牡馬が歴代優勝馬に名を連ねていた。
一つには、3歳の有力馬はクラシック路線を歩むのが当然という時代に、距離適性に多少の不安があろうとも秋は菊花賞に挑むのが王道だったため、秋の天皇賞が3歳馬に開放されて以降も挑戦する3歳馬の絶対数が少なかったことがあるだろう。例外としてクラシック出走権がなかった3歳馬オグリキャップの挑戦をタマモクロスが跳ね返したことは有名な話である。
そして1995年の天皇賞・秋、大種牡馬サンデーサイレンスの初年度産駒の一頭だったジェニュインという皐月賞馬が距離適性を重視して菊花賞ではなく天皇賞に挑んでハナ差の2着という好勝負を演じた。これがバブルガムフェローが天皇賞に出走する1年前のことである。
父は大種牡馬サンデーサイレンス
アメリカ血統
母バブルカンパニー(父Lyphard)は、アメリカで競争生活を終えたあとに繁殖牝馬として優秀な実績を挙げており、社台ファームの吉田照哉氏によってセリで購入され日本に輸入された。
交配相手には同時期に導入された期待の新種牡馬サンデーサイレンスが選ばれる。最初の一頭は残念ながらデビューを迎えることができなかったが、続けてサンデーサイレンスと種付けされて1993年に誕生した鹿毛の牡馬がのちのバブルガムフェローである。
幼少期から見栄えが良くバネのある動きを見せており、同世代のサンデーサイレンス産駒の中でも早い時期から期待を集める一頭となった。
サンデーサイレンス旋風
1994年にサンデーサイレンスの初年度産駒がデビューすると活躍馬が続出。朝日杯で産駒最初のG1馬となったフジキセキを筆頭にクラシック戦線をまさに席巻した。
フジキセキが怪我により早期離脱してもなお層は厚く、皐月賞=ジェニュイン、オークス=ダンスパートナー、ダービー=タヤスツヨシという具合にサンデーサイレンス旋風が吹き荒れたのである。
そんな中、バブルガムフェローを含むサンデーサイレンス二世代目の2歳馬たちもデビューを迎えようとしていた。
2歳時
藤沢和雄厩舎からデビュー
2歳になると美浦の藤沢和雄厩舎に入厩。関東のリーディングトレーナーにも素質を高く見込まれており、厩舎初のクラシック制覇にも期待がかかった。
10月の東京開催の芝1800m新馬戦でデビューを迎える。鞍上は名手・岡部幸雄騎手。藤沢厩舎との繋がりは深く、当時厩舎のエースだったタイキブリザードをはじめ多くの所属馬の手綱を握っていた。藤沢和雄調教師がかつて調教助手として野平祐二厩舎に従事していた頃、岡部騎手は同厩舎所属のシンボリルドルフの主戦を務めていたこともあり、そこからウマ娘ではバブルガムフェローの育成ストーリーにチラッと会長が顔を出すシーンもある。
単勝1.3倍に支持されたデビュー戦はタイム差なしの3着に惜敗するが、同開催の最終日、同条件の新馬戦を逃げ切って初勝利をあげた。
この日のメインレースで行われた天皇賞(秋)では、果敢に古馬に挑んだ3歳馬のジェニュインがサクラチトセオーにハナ差の2着。ジェニュインの鞍上はこの日の第3レースでバブルガムフェローを勝利に導いた岡部幸雄騎手であった。
連勝
続くオープン特別の府中3歳ステークスも同じく東京の1800m。ここで初めて1番人気を譲り、サクラスピードオーに次ぐ2番人気となった。
レースでは、逃げたマイネルモーメントのゆったりしたペースを2番手で追走し、直線では馬なりのまま抜け出して先頭に立つと、追いすがるサクラスピードオーの追撃を振り切って先頭でゴール。連勝でオープン馬の仲間入りを果たした。
G1の舞台へ
朝日杯3歳ステークス
デビューから府中の1800mを続けて使ってきてここまで3戦2勝。向かった先は中山のマイルで行われる2歳チャンピオン決定戦、G1朝日杯3歳ステークス(現・朝日杯フューチュリティステークス)。
1番人気の支持を集めたバブルガムフェロー。好スタートを決めて好位につけると、スムーズに流れに乗る。
3~4コーナーにかけて、中団にいた武豊騎手騎乗エイシンガイモンが早めに動いて外から上がっていくが、バブルガムフェローと岡部騎手は慌てず騒がず内で動かないまま。
直線に入ると、エイシンガイモンが一気に抜け出してそのままリードを広げていこうかというところを、軽く仕掛けられたバブルガムフェローはすぐさま反応して追撃を開始。あっという間にエイシンガイモンに並び、たいして強く追われないままこれを抜き去り悠々と先頭でゴールしてみせた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
前年のフジキセキに続いてサンデーサイレンス産駒による連覇を達成し、翌年のクラシックが楽しみになる勝ちっぷりだった。
サンデー四天王
朝日杯でバブルガムフェローが2歳チャンピオンとなったあと、暮れの阪神で行われたもう一つの重要な2歳重賞ラジオたんぱ杯3歳ステークス。現在のG1ホープフルステークスの前身にあたる名物重賞だったが、ここには翌年のクラシックでも有望視される素質馬が多数出走。
ここで1~3着までを独占したサンデーサイレンス産駒のロイヤルタッチ、イシノサンデー、ダンスインザダークはいずれもクラシック候補として見られ、いずれバブルガムフェローを加えた4頭はサンデーサイレンス四天王と呼ばれる存在となっていく。
3歳時
皐月賞へ向けて
2歳王者として迎える3歳シーズン、バブルガムフェローは皐月賞トライアルのG2スプリングステークスから始動する。
ここでは無傷の3連勝で出走してきたダンディコマンドと一騎打ちの様相。しかし、蓋を開けてみれば2歳王者バブルガムフェローの一強というレース内容だった。
スタートしてから中団後方を追走する初めてのレース運びだったにも関わらず、直線で仕掛けられると瞬時に反応して鋭い末脚を発揮。まだまだ手応えに余裕を残したまま差し切って力の違いを見せつけた。
皐月賞を前に
クラシック開幕に向けて順調なスタートを切ったバブルガムフェローだったが、皐月賞を目前に控えた1週前追い切りの直後に骨折が判明。長期離脱を余儀なくされることになった。
春のクラシック
最有力候補のバブルガムフェローの離脱、そして前哨戦を勝ったダンスインザダークも熱発で皐月賞を回避するなど、クラシック戦線は混沌とした状態となった。
そんな中で一冠目の皐月賞を勝ったのはサンデー四天王の一角イシノサンデー。2着にロイヤルタッチが入りサンデーサイレンス産駒のワンツー決着となった。
そして続く日本ダービーでは、彗星の如く現れたフサイチコンコルドが3戦目という史上最小キャリアでダービー馬となった。トライアルを勝って1番人気で臨んだダンスインザダークは2着、ロイヤルタッチとイシノサンデーはそれぞれ4着と6着に敗れた。
復帰
天皇賞へ
春から夏にかけて治療に専念したバブルガムフェローは幸い順調な回復を見せ、秋には復帰の目処が立つ状態となった。
そして、目指すレースは三冠ラストの菊花賞ではなく秋の天皇賞。藤沢和雄調教師は距離適性を重視したうえで、バブルガムフェローの素質をもってすれば古馬相手でも通用すると睨んでの参戦だった。
毎日王冠
休養明けの復帰第一戦はG2毎日王冠。骨折明け、初の古馬との対戦となったが、春はNHKマイルカップを勝ったもう一頭の3歳馬タイキフォーチュンと人気を分け合い2番人気の支持。
レースでは4番手から抜け出しを図ったが、本来の瞬発力を発揮することができず3着まで。UAEから参戦した伏兵の外国馬アヌスミラビリスが快勝した。
史上初の3歳馬Vへ
天皇賞(秋)
前年にジェニュインがあと一歩まで迫った3歳馬による天皇賞制覇。バブルガムフェローが勝てば史上初の快挙となる。
この年の天皇賞には例年以上と言われるほどハイレベルなメンバーが揃い、春秋連覇がかかるサクラローレル、破竹の重賞4連勝中のマーベラスサンデー、変幻自在のマヤノトップガンら豪華な顔ぶれとなっていた。
また、藤沢厩舎のエース格タイキブリザードがアメリカ遠征のため、調教師、岡部騎手ともに不在。バブルガムフェローには乗り替わりで蛯名正義騎手が騎乗することになった。
ゲートが開くと、好スタートを切ったバブルガムフェローと蛯名騎手のコンビはスッと3番手につける。比較的スローに淡々と流れるペースを好位のインで追走する。
最終コーナーを回り、最後の直線へ。抜群の手応えをキープしたまま追い出しをギリギリまで我慢しながら馬場の真ん中へ出すと、いよいよ鞍上のゴーサイン。力強く先頭に躍り出るバブルガムフェロー。外からマヤノトップガンが差を詰める。
マヤノトップガンと馬体を併せての追い比べとなるが、バブルガムフェローが抜かせない。さらに後方からはマーベラスサンデーとサクラローレルも追い込んでくる。
しかし、3歳馬のバブルガムフェローが歴戦の猛者たちに先頭を譲り渡すことなく、マヤノトップガンに半馬身差をつけて1着でゴール板を駆け抜けた。その瞬間、これが悲願のG1初勝利だった蛯名騎手の右手が大きく挙がった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
最強クラスのメンバーが揃った一戦で、古馬の壁を打ち破る3歳馬による天皇賞制覇が達成された。バブルガムフェローが成し遂げた快挙は、長い天皇賞の歴史の中で新たな扉を開く金字塔となった。
ジャパンカップ
続くジャパンカップでは、有力古馬勢が出走を回避する中で日本の大将格として出走。鞍上も主戦の岡部騎手に戻り凱旋門賞馬エリシオをはじめとした強豪外国馬を迎え撃つ。
しかしながら、まったくらしさを出せないまま13着と大敗。心配された故障もなく、なんとも不可解な敗戦を喫してしまった。
その後は、計画されていた海外遠征も白紙に戻されて休養に入った。
4歳時
宝塚記念
迎えた4歳のシーズン。古馬となって初戦のG2鳴尾記念を快勝。リフレッシュして本来の姿を取り戻したバブルガムフェローは、春の目標レース宝塚記念へと駒を進めた。
ここでは岡部騎手が前走で安田記念を勝ったタイキブリザードに騎乗するため、再び蛯名正義騎手とのコンビ結成。1番人気はマーベラスサンデー、2番人気タイキブリザード、3番人気バブルガムフェローの三強対決に注目が集まる。
ゲートが開くと、中団5,6番手につけて先行集団を追走。前にはタイキブリザード、マーベラスサンデーは後ろから。
中盤でペースが上がると徐々に仕掛けて進出を開始し、最終コーナーでは早め先頭のタイキブリザードを追って外から並びかける。
最後の直線、タイキブリザードを競り落として先頭に立とうかというところ、直後からマーベラスサンデーが最後の末脚を伸ばしてバブルガムフェローを捉えてゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
天皇賞連覇へ
毎日王冠
秋は、勝てば史上初となる天皇賞(秋)連覇を目指す。初戦の毎日王冠から主戦の岡部騎手に戻り、1番人気に応えて勝利。重賞5勝目を挙げて大一番へ順調なスタートを切った。
女帝との一騎打ち
天皇賞(秋)
迎えた秋の天皇賞。連覇を狙うバブルガムフェローの前に立ちはだかったのは、女帝エアグルーヴ。同世代のオークス馬は牝馬として17年ぶりの天皇賞制覇を狙う。単勝オッズはバブルガムフェロー1.5倍、エアグルーヴ4倍という順で2頭に人気が集中した。
ゲートが開くと、若き3歳馬サイレンススズカが軽快に飛ばしてレースを引っ張る。いつもどおり好スタートから好位3番手につけたバブルガムフェローに対し、エアグルーヴは中団6,7番手あたりでマーク。
サイレンススズカが大きなリードを開いたまま迎えた府中の長い直線は、ほどなくして人気2頭のマッチレースとなる。
馬場の真ん中から、内にバブルガムフェロー、1頭分ほどの間をあけて外にエアグルーヴが揃って上がってくる。しだいに併せ馬状態となり、互いに一歩も譲らぬ壮絶なたたき合い。エアグルーヴがわずかに前に出ると、3着以下を引き離して並んでゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
見ごたえのある2強対決を制したエアグルーヴが17年ぶりの牝馬による天皇賞馬となった。2頭の馬連配当は290円の固い決着であった。
なお、同世代でサンデー四天王の一角に数えられたロイヤルタッチは4着。意外にもバブルガムフェローとロイヤルタッチが同じレースで直接対決したのはこれが初めてのことだった。
ジャパンカップ
続くジャパンカップでは、エアグルーヴとの再戦となったがさすがに強力な外国勢を迎えて一騎打ちとはいかず、ヨーロッパのチャンピオンホースの一頭だったピルサドスキー(ファインモーションの兄にあたる)を加えた三つ巴となった。
最後の直線では、エアグルーヴとバブルガムフェローが中央から抜け出しを図り、天皇賞の再現となりそうなところへ内を強襲したピルサドスキーが力強く伸びて二頭を差し切って優勝した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
引退、種牡馬入り
バブルガムフェローは、このジャパンカップをラストランに現役を引退し種牡馬入り。故障により早期にターフを去った先輩のフジキセキや同期のダンスインザダークらとともに、サンデーサイレンスの後継種牡馬として大きな期待を背負って第二の馬生へと入った。
バブルガムフェローが成し遂げた3歳馬による天皇賞制覇という快挙は、あとに続く馬たちにとって新たな道しるべとなったことはその後の歴史が証明している。
とりわけ同じ藤沢和雄厩舎からは、バブルガムフェローが勝った天皇賞から8年後の2002年にシンボリクリスエスが3歳で天皇賞制覇。そして翌年には史上初の秋の天皇賞連覇という偉業を達成している。
バブルガムフェロー、そして同期の女帝エアグルーヴが切り開いた道はいずれも大きく広がり、今や天皇賞に限らず秋の大レースで3歳馬や牝馬が活躍する時代が到来している。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、バブルガムフェロー。
史実のバブルガムフェロー
基本情報 | 1993年4月11日生 牡馬 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父サンデーサイレンス 母バブルカンパニー(父Lyphard) |
馬主 | 社台レースホース |
調教師 | 藤沢和雄(美浦) |
生産者 | 社台ファーム(北海道千歳市) |
通算成績 | 13戦7勝 |
主な勝ち鞍 | 96’天皇賞・秋、95’朝日杯3歳ステークス |
生涯獲得賞金 | 5億5443万円 |
エピソード①サンデー四天王
ウマ娘のバブルガムフェロー育成ストーリーでも物語の主軸となっている「四天王」の存在。史実では、バブルガムフェロー、ダンスインザダーク、イシノサンデー、ロイヤルタッチの4頭を指して実際にメディアなどで使われた表現である。
バブルガムフェロー以外の三頭も四天王の名に恥じぬ活躍を見せた。イシノサンデーは皐月賞を勝ったのちにダートにも挑戦する二刀流として活躍。
ロイヤルタッチはG1こそ勝てなかったが、皐月賞と菊花賞で2着。ウイニングチケットの弟という良血ゆえの大きすぎる期待に十分に応えた。
そしてダンスインザダークは菊花賞を勝ったあとに残念ながら故障で早くに引退したが、種牡馬としても産駒のデルタブルースが菊花賞を勝って父子菊花賞制覇を果たした。
ウマ娘のコラム記事一覧
キャラクター関連コラム
番外編コラム
ディープインパクト | 緑スキル持ちの競走馬たち |
名牝達の競演 | 一時代を築いた名門・メジロ家 |
本格参戦が待ち遠しいウマ娘① | 本格参戦が待ち遠しいウマ娘② |
凱旋門賞に挑んだウマ娘たち | 『夏の上がり馬』たち |
愛すべき『善戦ホース』たち | アニメ3期ウマ娘予習特集 |
アニメ3期世代の産駒たち |
レース関連コラム
宝塚記念 | 秋華賞 |
菊花賞 | 天皇賞(秋) |
エリザベス女王杯 | マイルチャンピオンシップ |
ジャパンカップ | 有馬記念 |
ログインするともっとみられますコメントできます