競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第72回。今回は、名脇役として短距離界を盛り上げた「ビコーペガサス」について熱く語ります。
短距離界の名脇役
G1勝ちはなくとも
ビコーペガサスと言えば、90年代の短距離レースを振り返るとかなりの確率で遭遇することができる短距離ランナー。筆者の記憶の中でも、短距離の大レースにはいつもビコーペガサスがいたような気すらする。
G1勝ちこそあと一歩手が届かなかったが、時代を担った名マイラー・スプリンター達とともに記憶に残る名脇役・ビコーペガサスの史実を追っていく。
仔馬時代
血統
父Danzigはアメリカでたった3戦(全勝)で怪我により現役引退した快速馬。種牡馬として大成功を収め、日本調教馬でもG1勝ちのヤマニンパラダイスやアグネスワールドなどの活躍馬が出たことでよく知られている。
母Condessaも英G1勝ちのある活躍馬で、ビコーペガサスは超良血の外国産馬である。
小柄な馬体
期待の血統の仔馬ではあったが、小柄で見栄えしないこともあって10万ドル程度の価格で購買され日本へ輸入された。
同じマル外の女傑ヒシアマゾンや、三冠馬ナリタブライアンらがいる1993年デビューの世代である。
2歳時
メイクデビュー
デビューは2歳の11月。京都競馬場のダート1200m新馬戦に登場すると、1番人気に応えて9馬身差の圧勝デビューを飾る。さすがDanzig産駒というスピードを見せつけた。
ダートで連勝
2戦目は、暮れの阪神で行われたさざんか賞(1勝クラス・ダート1400m)。ここもスピードで圧倒し、2着に5馬身差をつけて楽勝。その2着馬はのちにダート路線のチャンピオンになるライブリマウントだったのだから、この時点で相当なダート適性とスピードの持ち主だったことがわかる。
3歳時
ヒシアマゾン登場
年が明けて3歳になると、芝レースに初参戦。当時は距離1600mで行われていたG3京成杯(現在は2000m)に登場。前年のG1阪神3歳牝馬ステークス(現・阪神ジュベナイルフィリーズ)を勝って断然の一番人気に支持されたヒシアマゾンに挑む。
ダートで連勝中のビコーペガサスは3番人気。ゲートが開くと、互いに8頭立ての5,6番手中団につけた。そして直線で弾けたのはビコーペガサス。メンバー最速の末脚を繰り出して突き抜け、ヒシアマゾンに2馬身差をつけてゴールした。
ヒシアマゾンに勝利
ヒシアマゾンは、このあと年末の有馬記念でナリタブライアンとのタイマン勝負で2着となるまで破竹の重賞6連勝を成し遂げるのだから、この京成杯でヒシアマゾンに土をつけたビコーペガサスの勝利は価値の高いものだったと言える。
骨折休養
京成杯のあと、残念ながら骨折で休養を余儀なくされる。外国産馬のため3歳春に大きな目標レースはなかったが、無傷の3連勝を飾ってこれからという時の戦線離脱となった。
復帰戦でヒシアマゾンと再戦
およそ5ヶ月のブランクを経て、6月のニュージーランドトロフィーで復帰。当時はダービーの時期に東京競馬場で行われる短距離G2戦として、ダービーに出走権のない外国産馬や短距離馬が集結するレースだった。
すでにクイーンカップ→クリスタルカップと連勝して軌道に乗ったヒシアマゾンとの再戦。ビコーペガサスは中団から鋭く差してくるも、届かず3着まで。敗れはしたものの、ヒシアマゾンを上回る上がりタイムを記録し、骨折の影響を払拭する走りを見せた。
惜敗続き
春の最終戦は、G3中日スポーツ賞4歳ステークス。当時は中京の1800mで行われていた。ビコーペガサスの単勝オッズは1.2倍と断然の1番人気。距離をマイルから1ハロン延長してどうかというところだったが、結果は2着。
やや最後の切れ味を欠いたことから、以降は1600m以下のレースに専念することとなった。
秋
古馬との対戦
夏場を休養にあて、秋は古馬に混じって短距離の王道を歩む。
マイルチャンピオンシップに向けてG2スワンステークスで復帰すると、初めて掲示板を外す7着。サクラバクシンオーやノースフライトといった強力な古馬たちに跳ね返されてしまった。
マイルチャンピオンシップ
続くG1マイルチャンピオンシップでは、ノースフライトの5着。掲示板を確保して、短距離G1戦線での戦いに目処がつく結果となった。
スプリンターズステークス
そして3歳シーズンを締めくくる最終戦、G1スプリンターズステークス。中団後方に控えて末脚にかけたビコーペガサスは、直線でよく追い込んで2着に食い込んだ。
1番人気のサクラバクシンオーが好位から抜け出して圧巻のレコード勝ちで連覇を達成した4馬身後ろで、激しい2着争いを制しての価値ある2着だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
4歳時
再び骨折
古馬になって飛躍が期待されたビコーペガサスだったが、再び骨折。春は安田記念を目標にじっくりと休養・回復に務めることになる。
復帰
安田記念に向けて、ダートのオープン栗東ステークスで復帰。脚元への負担も考えてのダート参戦だったが、2歳時にダートで連勝したこともあり適性は証明済み。
2番人気と期待されたが、中団のまま7着に終わった。
人気落ちの安田記念
二度の骨折の影響が心配されたが、安田記念では本来の走りを取り戻す。10番人気とすっかり人気も落ちてしまったが、後方待機策から直線だけで勝ち馬から0.2秒差の4着まで追い込んだ。
しかしその後は1番人気を集めたG3阪急杯で12着と人気に応えられず夏休みに入った。
秋
放牧で立て直して迎えた秋初戦、初コンビとなる武豊騎手でG3セントウルステークスに出走。
同期の快速馬エイシンワシントンが逃げて作ったペースを後方集団の10番手付近から追走すると、最後の直線で溜めていた末脚を爆発させてまとめて差し切ってゴール。ヒシアマゾンを下した京成杯以来、久しぶりの勝利を掴み取った。
マイルチャンピオンシップ
武豊騎手とのコンビで重賞2勝目を挙げたビコーペガサスは、マイルチャンピオンシップでは有力馬の一頭に挙げられた。G1では自身初となる1番人気。マイルチャンピオンシップでは前年まで1番人気が11年連続で連対中で、この年もビコーペガサスが軸として期待された。
前走と同様、後方待機の追い込み策。道中は15番手と最後方に近い位置取りから直線で追い込んだが、惜しくも届かず4着まで。勝ったトロットサンダーの切れに屈し、3着には巨漢の新鋭ヒシアケボノが食い込んだ。
スプリンターズステークス
前年サクラバクシンオーの2着だったスプリンターズステークス。横山典弘騎手に乗り代わったビコーペガサスにももちろんG1初制覇が期待されたが、ここで立ちはだかったのがヒシアケボノ。550キロを超える巨体から繰り出す迫力の走りで話題となっていた。
スタートすると、7,8番手あたりで折り合ったヒシアケボノをすぐ後ろでマークするように追走するビコーペガサス。最終コーナーにかけて迫力満点で上がっていくヒシアケボノの内にビコーペガサスも並走して最後の直線へ。
直線に入ると、一旦は先頭に立った小柄なビコーペガサスを覆いかぶさるかのような豪快なフットワークで交わしたヒシアケボノが先頭でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ビコーペガサスにとっては悔しい2年連続の2着となった。
5歳時
善戦続き
前年秋のG1戦線を4→2着と善戦したビコーペガサスは、そのまま善戦マンの流れを引き継いでいく。
6歳初戦のG3ダービー卿チャレンジトロフィーでは3着と、あと一歩届かないレースが続いた。
高松宮杯
この年から春の短距離G1として新設された高松宮杯(現・高松宮記念)で初代王者を目指す。
1番人気は昨秋の短距離王ヒシアケボノ。そして同期の三冠馬ナリタブライアンの参戦も大きな話題となっていたレースだ。
スタートすると、いつもより前でレースを進めるビコーペガサス。ヒシアケボノ、フラワーパークといった有力馬のすぐ後ろ射程圏内から差し切りを狙った。
しかし直線でフラワーパークに突き放され、2馬身半差をつけられて2着でゴール。ヒシアケボノに競り勝ち、ナリタブライアンにも先着したものの、これがG1レースで三度目の銀メダルとなった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
遠い勝ち星
その後は、安田記念5着で春の戦いを終えて夏場は休養。
秋はスワンステークス2着とまずまずの滑り出しから始動するも、G1制覇が期待されたマイルチャンピオンシップ、スプリンターズステークスで9着、7着。スプリンターズSでは勝負どころで受けた不利もあって不完全燃焼に終わってしまった。
6歳時
フェブラリーステークス
6歳になったビコーペガサスは、ダートG1として生まれ変わったフェブラリーステークスに初代王者を目指して参戦。2歳時にダートで見せた適性を呼び覚まして悲願のG1制覇を狙う。
しかしあいにくの天気に見舞われ、水浸しの不良馬場となったレースを制したのはシンコウウインディ。
ビコーペガサスもダート適性の片鱗を見せて4着まで追い込んだが、果敢な挑戦は実らずG1勝利には届かなかった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
シルクロードステークス
フェブラリーステークス後は芝の短距離に戻ってG3シルクロードステークスへ。
快速牝馬エイシンバーリンが日本レコードを樹立したレースで2着に入り、結局これが掲示板にビコーペガサスが載った最後のレースとなった。
引退
翌年7歳時の高松宮記念でも6着と、常にいいところまでいく末脚は年を重ねても健在だった。そして不良馬場の中をタイキシャトルが圧勝した伝説の安田記念での13着を最後に引退した。
短距離界の名脇役として
サクラバクシンオーの時代からヒシアケボノやフラワーパークといった名スプリンター達としのぎを削り、タイキシャトルの時代まで。長きにわたり短距離の大レースにはたいてい顔を出し、相手が誰であろうといつも自分の力を出し続けた。
G1に手が届かなくとも、短距離界の名脇役として長くファンに愛されたビコーペガサス。ウマ娘となった今はG1制覇を夢見て合体技の練習に余念がない。早くG1で勝利を果たしてヒーローになった姿を見たいものである。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ビコーペガサス。
史実のビコーペガサス
基本情報 | 1991年2月8日生 牡馬 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 Danzig 母 Condessa(父Condorcet) |
馬主 | (有)レジェンド |
調教師 | 柳田次男(栗東) |
生産者 | Robert Steven Stable(米国) |
通算成績 | 27戦4勝 |
主な勝ち鞍 | 94’京成杯(G3),95’セントウルステークス(G3) |
生涯獲得賞金 | 3億5785万円 |
エピソード①ビコーペガサスとヒシアケボノ
ヒシアケボノがスプリンターズステークスを勝った時の馬体重560キロに対して、2着のビコーペガサスは432キロ。その体重差は130キロ近くにもなり、当時話題になった。
JRAのG1を勝った馬として最高馬体重記録保持者のヒシアケボノが極端に大きかったためだが、大型馬の多い短距離馬のなかで比較的小柄だったビコーペガサスとの対比は遠近感がおかしく見えるほどの凸凹ぶりであった。
今週の一枚
アオハル杯で撮影した一枚。主役として育成する日が待ち遠しい。
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