競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第24回。今回は、新春にふさわしい「マチカネフクキタル」について熱く語ります。
新春にふさわしい馬名
福よ来い
引用元:JRA日本中央競馬会
2022年最初のコラムの主人公は誰にしようか。年末にそんなことを考えていると、ウマ娘のガチャ情報が更新された。そして追加された育成ウマ娘、サポートカードの顔ぶれを見ていて心が決まった。そう、もっとも新春にふさわしいのは、誰よりもおめでたい名前を持つこの娘「マチカネフクキタル」しかいないではないか。
ということでマチカネフクキタルの史実を追っていく。本年も当コラムをよろしくお願いします。
フクキタルとシラオキ様
名牝系の血統
マチカネフクキタルと言えば、トレーナーならすぐに頭に浮かぶであろうシラオキ様。ウマ娘内でフクキタルが神と崇める存在である。スペちゃんの回でも触れたが、シラオキとはマチカネフクキタルの血統を遡ることで現れる祖先の名前である。いわゆる名牝系と呼ばれる由緒正しき血統の偉大なる母がシラオキその馬である。
2歳時
メイクデビュー
デビューは2歳の11月30日。この頃はまだ気性が幼く、コントロールの難しいところが残っていたマチカネフクキタル。デビュー戦の阪神競馬場ダート1200m新馬戦では、3コーナーで大きくコースを外れる荒々しいレースぶりながらも、そこから立て直して3着に追い込むなど素質の片鱗も見せた。この時の勝ち馬は後の桜花賞馬キョウエイマーチ。メジロドーベルとクラシックを争うこの馬が、2着に大差をつけての圧勝だった。
気性難
芝に変わった2戦目でも、真っ直ぐ走らなかったことが響いて4着。このレースの上位にも後にスプリングステークスなど重賞3勝をあげるビッグサンデーがおり、レベル自体は高いメンバーだったと言える。
3歳時
休養後、初勝利
蹄の不具合により約3ヶ月の休養をはさんだマチカネフクキタルは、3歳の3月に復帰。そして休養明け初戦のダート1800m未勝利戦を5馬身差で楽勝すると、続く芝1600mの君子蘭賞で2着と健闘。ここから先、すべて芝のレースに出走することとなる。
2勝目、そしてスズカ登場
京都競馬場の1勝クラス、ムーニーバレーRC賞(芝1800m)で1番人気に応えて2勝目をあげると、ダービートライアルのプリンシパルステークスに出走。日本ダービーへの出走権をかけて競うレースには、あの馬の名前もあった。サイレンススズカである。
ウマ娘のフクキタル育成でも友人として度々登場するサイレンススズカはマチカネフクキタルと同世代で、このプリンシパルステークスでダービーへの最終切符が欲しい一頭だった。そして、サイレンススズカ1着、クビ差2着のフクキタルがともに優先出走権を獲得した。
日本ダービー
世代の頂点を決する舞台にたどり着いたマチカネフクキタル。人気は11番人気とさすがに穴馬扱いの評価。一番人気はメジロブライト。皐月賞馬のサニーブライアンは低評価の6番人気。サイレンススズカは4番人気だった。
レースは、皐月賞馬サニーブライアンが軽快に逃げる展開。この頃はまだサイレンススズカが逃げ馬として定着する前だった。マチカネフクキタルは5,6番手集団から進め、最終コーナーから直線にかけては先頭を伺おうかという見せ場十分のレース振りを見せる。
結局、逃げたサニーブライアンがそのまま押し切って二冠を達成。マチカネフクキタルは激しい上位争いに加わったものの、最後に馬群に飲み込まれて7着に終わった。
3番手で先行策を取ったサイレンススズカは伸びを欠いて9着だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
3勝目
ダービーの後、福島競馬場の芝1700mさくらんぼステークスに出走すると、1番人気に応えて快勝。秋に向けて賞金を加算して夏場を休養にあてることができた。
菊花賞への道
神戸新聞杯
およそ2ヶ月の休養でリフレッシュしたマチカネフクキタルは、菊花賞トライアルのG2神戸新聞杯から始動。サイレンススズカ、ダービー2着のシルクジャスティスらとの再戦となった。
そして、ひと夏を越して成長したマチカネフクキタルの姿がそこにはあった。最後方からのレースとなったマチカネフクキタルは、直線で目の醒めるような末脚を繰り出し、逃げ切り濃厚だったサイレンススズカを差し切ってそのまま1馬身1/4差をつけて優勝。一躍、世代のトップ争いに名乗りを上げる勝ちっぷりで重賞初制覇となった。
京都新聞杯
当時、菊花賞へと続くレース日程は現在とは異なり、神戸新聞杯(阪神)と京都新聞杯(京都)の2つが関西圏で行われ、中山のセントライト記念を加えた3つのトライアルレースが組まれていた。さて、マチカネフクキタルは神戸新聞杯を制したあと、もう一つの菊花賞トライアルである京都新聞杯にも出走した。ちなみに現在、京都新聞杯は5月に行われている。
神戸新聞杯の勝ちっぷりから1番人気の支持を集めたマチカネフクキタルは、中団待機からの差し切りを決めて連勝。ダービー3着のメジロブライトら有力馬を抑えて菊花賞トライアルを連勝したのだった。
菊花賞
距離不安を覆して
トライアルを連勝したマチカネフクキタルだったが、菊花賞に対しては距離の壁という一抹の不安を抱えていた。なぜなら、血統からは中距離までが適性と見られていたからである。そのため、2つの重要トライアルを連勝したにも関わらず3番人気に甘んじることとなった。
1番人気はG2京都大賞典で古馬を破ったシルクジャスティス。2番人気は京都新聞杯で3着だったメジロブライト。どちらもフクキタルがトライアルで勝ってきた馬だった。
抜群の好スタートから、抑えて3番手につけて1周目のスタンド前を通過。インコースにじっと待機するマチカネフクキタルを何頭かが交わしていき5,6番手の位置取りで2周めに差し掛かる。3コーナーで徐々にペースが上がると、後ろからメジロブライトやシルクジャスティスも外目を突いて上がっていく。マチカネフクキタルはインコースで仕掛けのタイミングをじっと待っていた。
馬群が固まったまま最後の直線に向くと、外側からメジロブライトが先頭に躍り出る勢い。しかし横に広がった馬群の真ん中を割って、マチカネフクキタルが一瞬の切れ味を発揮して一気に抜け出す。1馬身ほど抜け出すと、そのまま後続を振り切ってゴール。距離不安説を覆し、菊花賞馬に輝いた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
夏のさくらんぼステークスから4連勝、重賞3連勝で世代の頂点へ登り詰めたマチカネフクキタル。春の二冠馬サニーブライアンがケガで早期にリタイアした同世代の中では頭一つ抜けて強い、そんな印象を受けたレースだった。
4歳以降
ケガと不振の始まり
世代最強の座につき、これから中長距離路線を引っ張っていく存在になると思われたマチカネフクキタルだったが、古馬になってからはその勢いを完全に失ってしまう。蹄や球節といった脚元の不調が再発したこともあり、菊花賞後は半年ほどの長期休養。
復帰戦の金鯱賞は、サイレンススズカの伝説の一つに数えられるレースだ。サイレンススズカが異次元の逃げで圧勝する一方、2番人気の期待に応えられず6着に終わる。
新たな世代に飲み込まれ
その後、秋以降になると自身の不振に加えて新たな世代の波に飲み込まれるように敗戦を重ねる。ひとつ下の世代から、スペシャルウィークやグラスワンダーら黄金世代が台頭してきたのだ。グラスワンダーが3歳にして有馬記念を制覇すると、翌年には天皇賞(春)でスペシャルウィーク、宝塚記念でグラスワンダー、というように勢力図が世代ごと塗り替えられてしまった。同世代の星サイレンススズカももういない。
引退
古馬未勝利のまま
5歳になってからG2京都記念、G2産経大阪杯で二度の2着を記録した以外は、上位争いに加わることもできなかった。それでも、強力な年下世代を相手にしながら6歳の宝塚記念を最後に引退するまで中長距離の王道を歩み続けた。
二冠馬サニーブライアン、覚醒したサイレンススズカが離脱したことによって、結果的には谷間の世代のような立場になってしまったが、4連勝で菊花賞馬に登り詰めた3歳の秋、最強にもっとも近かったのはこの馬だったのではないだろうか。
ウマ娘で
この年始は、ウマ娘でフクキタルの画像を集めるために育成をしながらじっくりとストーリーを味わってみた。おめでたい名前と個性的な衣装、脳天気な神頼みキャラとは裏腹に、菊花賞を境に苦悩する姿やスズカとの関係など、どちらかというと悲哀すら感じる大人のストーリー展開に、グッとくる。そこから立ち直る様子は、やはりトレーナーとして嬉しいものである。今年も、ウマ娘が描く史実とIFの世界観を存分に楽しませてもらいたい。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、マチカネフクキタル。
史実のマチカネフクキタル
基本情報 | 1994年5月22日生 牡 栗毛 |
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血統 | 父 クリスタルグリッターズ 母 アテナトウショウ(父 トウショウボーイ) |
馬主 | 細川益男 |
調教師 | 二分久男(栗東) |
生産牧場 | 信成牧場(浦河町) |
通算成績 | 22戦6勝 |
主な勝ち鞍 | ’97菊花賞,’97京都新聞杯(G2),’97神戸新聞杯(G2) |
生涯獲得賞金 | 3億7,024万円 |
エピソード①笑う門には福来る
冠名マチカネの馬たち
マチカネフクキタルと言えば第一に、そのおめでたい馬名が印象的だ。マチカネは馬主・細川氏の冠名。ウマ娘でも人気のマチタンさんことマチカネタンホイザと同じ馬主さんである。マチカネという冠名は、細川氏にゆかりのあった待兼山(まちかねやま)から取っているのだが、これに何かしらの単語を組み合わせると何とも印象に残るというか不思議な響きの馬名に仕上がるのである。
有名なところでは、フクキタルと同期のワラウカド。「ワラウカドにはフクキタル」ということで、同期の2頭はデビュー前の段階から馬名で話題となったものだ。実はこの2頭、命名するために公募が行われた馬たちである。多くの馬を所有していた馬主の細川氏が、ある時の取材で馬名を考える苦労を語ったことからきっかけで公募が行われることになり、8000件を超える応募の中からこのようなめでたい馬名のコンビが誕生したという経緯である。ことわざを2頭に分けて命名するというアイデアも秀逸だが、その2頭がともに活躍したことがまた偉かった。1頭のフクキタルはJRAの菊花賞馬となり、ワラウカドのほうはダート路線で息の長い活躍をし、地方交流重賞の東海菊花賞を制している。どちらも仲良く菊花賞馬というわけだ。
他にも、フクキタルの育成時のセリフに出てくる「マチカネイワシミズ」や「マチカネコイノボリ」なども実在した馬名である。
エピソード②お姉ちゃん
悲運の兄
フクキタルの育成ストーリーには、お姉ちゃんの話がよく出てくる。フクキタルが小さい時に亡くなったお姉ちゃんがいたというエピソードだ。
この話は、実際にあったエピソードが元となっている。フクキタルが産まれる3年前、フクキタルの母アテナトウショウに種牡馬クリスタルグリッターズを交配されて産まれた牡馬がいた。高い素質が見込まれていたその仔馬は、頚椎の異常が原因でデビューすることなくこの世を去ったそうだ。その後、同じクリスタルグリッターズを交配して産まれたのが後のマチカネフクキタルである。
この記事を書いたライター
ライターE | |
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BNW世代(93年~)から競馬を追いかけているガチガチの競馬ファン。最近は少し離れ気味だったが、ウマ娘をきっかけに競馬への情熱を取り戻す。 持ち前の競馬知識を活かして、ウマ娘ファンと競馬の間の橋渡しに少しでも貢献したいと思っている。 |
ライターEについて
- 年齢:マルゼンスキーの1コ下らしい
- 初恋の相手:エアグルーヴ
- 推しウマ娘:ミホノブルボン、マルゼンスキー、会長、ビコーペガサス・・・みんなかわいい
- 好きな競馬場:東京競馬場、大井競馬場(トゥインクル最高)
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