競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第86回。今回は、サトノ家に初の海外G1タイトルをもたらした国際派「サトノクラウン」について熱く語ります。
サトノ初の海外G1制覇
アニメ3期でも脚光
絶賛放映中のアニメ「ウマ娘プリティーダービーseason3」での活躍回と連動するように、アプリのほうでもサトノクラウンが育成ウマ娘として実装された。
アニメ11話場面カットより
サトノ家の悲願のために
アニメでも描かれたとおり、ひとつ下のサトノダイヤモンドとともにサトノ家の悲願であるG1制覇に何度も何度も挑んだ末に、名前に相応しい栄冠を手にする。先に国内G1制覇を果たしたダイヤモンドに続き、海外G1・国内G1を制覇を成し遂げたサトノクラウンの史実を追っていく。
キタサン世代の中心的存在
サトノクラウンはキタサンブラックやドゥラメンテと同じ2012年生まれで、2015年クラシック世代の一頭。ウマ娘においてはキタサンブラックのライバルと言えばサトノダイヤモンドだが、史実の上でより多く対戦しているのはサトノクラウンのほうである。
また、同じ美浦の堀宣行厩舎所属ということもあってか、ウマ娘ではドゥラメンテと同部屋で暮らしている。
2歳時
メイクデビュー
10月の最終週の東京競馬場でデビュー。芝1800mの新馬戦に登場すると、ディープインパクト産駒の期待馬アンタラジーと人気を分け合い2番人気。
前評判どおり二頭のマッチレースとなり、中団待機から直線弾けたサトノクラウンが、後方から伸びてきたアンタラジーに1馬身半差をつけて先頭でゴールした。
東スポ杯2歳ステークス
二戦目は格上挑戦でG3東京スポーツ杯2歳ステークスを選択。新馬戦と同じ東京芝1800mの舞台で重賞制覇に挑む。
スタート前にゲート内で立ち上がってしまいヒヤッとさせたが、レースでは後方から強烈な末脚を繰り出して差し切り勝ち。2連勝で重賞タイトルを手に入れた。
その後はゲート再審査を課されたこともあり、2歳G1には出走せず翌年のクラシックに向けてじっくりと調整が進められた。
3歳時
弥生賞
クラシックシーズン開幕に合わせて、皐月賞トライアルのG2弥生賞から始動する。相手にはホープフルステークス(G2)勝ち馬のシャイニングレイや札幌2歳S(G3)勝ち馬ブライトエンブレム、のちのNHKマイルカップ優勝馬クラリティスカイなど素質馬が顔を揃えた。
2歳時には府中の長い直線を存分に活かして後ろからの競馬で差し切り勝ちを収めていたが、この日は先行勢をマークする4,5番手のポジションを追走。やや重の馬場も直線の急坂もものともせずに難なく抜け出して快勝した。
これで無傷の3連勝。小回りの中山にも対応したことで、本番の皐月賞でもV最有力候補に躍り出た。
同厩のライバルが立ちはだかる
皐月賞
これまで3勝のうち2戦でコンビを組んだ福永祐一騎手が、もう一頭のお手馬リアルスティールに騎乗したことから、新たにルメール騎手を鞍上に迎えたサトノクラウンが堂々の1番人気。
そのリアルスティールに前走スプリングステークスで土をつけて3戦全勝のキタサンブラック、荒削りながら素質は一番の良血馬ドゥラメンテら、初対戦の強敵が立ちはだかる。
レースは、直線入り口で大きく外へ膨らみながらも驚異的な切れ味を発揮したドゥラメンテが圧勝。リアルスティール、キタサンブラックと続き、サトノクラウンは出遅れ気味のスタートや直線でドゥラメンテに寄られる不利も響き6着に敗れた。
アニメ3期の第一話で描かれたとおり、同厩のドゥラメンテが衝撃的な強さを見せつけてクラシック1冠目を勝利した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
日本ダービー
クラシック二冠目の日本ダービーでは、皐月賞馬ドゥラメンテが1倍台の1番人気に支持される。皐月賞2着のリアルスティールが2番人気で続き、2戦2勝の府中で巻き返しを図るサトノクラウンは3番人気。
スタートから慌てることなく後ろから5番手ほどの位置取りにつけたサトノクラウン。ライバルのドゥラメンテはちょうど中団あたりで折りあった。
最後の直線に入ると、皐月賞より早めに仕掛けられたドゥラメンテが真ん中から堂々と抜け出す。外に出されたサトノクラウンが持ち前の末脚を発揮して追い上げるが、差は縮まらずドゥラメンテが危なげなく二冠を達成した。
サトノクラウンは同じサトノの苦労人(初勝利までに5戦を要した)サトノラーゼンにわずかに届かず3着となったが、皐月賞では後塵を拝したリアルスティールやキタサンブラックに先着した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
天皇賞に挑戦するも…
ドゥラメンテの骨折休養により主役不在となった秋は、菊花賞には向かわず天皇賞(秋)へ。ここでは古馬の壁に跳ね返されて17着と大敗。秋はこの一戦のみで休養に入った。
4歳時
京都記念
年が明けて古馬となったサトノクラウンは、2月14日に行われたG2京都記念(京都芝2200m)で復帰。あいにく重馬場となったが、やや重の弥生賞での走りからサトノクラウンにとって不安はない。
鞍上にはドゥラメンテの主戦騎手M.デムーロを迎え、重馬場を苦にもせず先行策に出る。そのまま直線でも脚色は衰えず抜け出すと、3馬身差をつける快勝。
大敗後の休み明けということもあって6番人気と低評価だったが、久しぶりにこの馬らしい走りで重賞3勝目。春の古馬中距離G1戦線を前に復活ののろしをあげた。
香港遠征
ここで陣営は長距離の天皇賞(春)ではなく香港のG1クイーンエリザベス2世カップを選択。馬場状態も渋り気味で好走が期待されたが、出走13頭中の12着に終わり帰国した。
低迷期の間にサトノの悲願成る
帰国後は立て直して宝塚記念に向かったが、マリアライトの6着。秋は2年連続で参戦した天皇賞で厩舎の看板馬モーリスの14着。またしても低迷期間を過ごした。
その間に、サトノダイヤモンドが菊花賞を勝ってサトノの悲願が達成された。
再びの香港で花開く
香港ヴァーズ
同年12月、天皇賞後は国内G1ではなく再び香港に挑戦することが決まる。狙うは2400mの香港ヴァーズ。日本からは他に、オークス馬ヌーヴォレコルトとマイル重賞3勝のスマートレイアーというタフな牝馬二頭がエントリー。
最大の目玉は、ブリーダーズカップターフ勝ち馬で凱旋門賞でも2着のハイランドリール。香港ヴァーズのディフェンディングチャンピオンとして連覇を狙う同馬は、正真正銘ヨーロッパの最強格と言える強豪である。
サトノクラウンは香港の名手、マジックマンことJ.モレイラ騎手を鞍上に迎え大一番に挑んだ。
スタートすると先頭に立ってレースを引っ張る大本命ハイランドリール。サトノクラウンは中団の内ラチ沿いで虎視眈々と脚を溜めた。
直線に向くと、ハイランドリールがあっという間に後続を突き放し独走体制に入ったかに見えた。ところが、馬群の中でじっと我慢していたサトノクラウンが、狭い隙間を縫うようにスルスルと抜け出してくると、前を行くハイランドリールに迫る。
ゴールまで残り200メートル地点でまだ3馬身ほどの差があったが、100メートルあたりからハイランドリールの脚色が鈍ったところで形勢が逆転。一完歩ずつ差を縮めると、ゴール手前でついに捉えた。
モレイラ騎手のマジックのような進路取りに導かれ、秘めた能力を発揮したサトノクラウンが鮮やかに海外G1制覇を成し遂げた。
レース映像
引用元:HKJC公式チャンネル
5歳時
京都記念
海外G1の王冠を手に入れたサトノクラウンは、5歳シーズンは国内に専念して国内G1獲りを目指す。始動戦は前年快勝したG2京都記念。
サトノダイヤモンド世代のダービー馬マカヒキなど実力馬を相手に、得意のやや重馬場の中で貫禄を見せて快勝。見事京都記念の連覇を達成した。
大阪杯
すでにG1を3勝して完成の域に近づいていた1番人気キタサンブラックに対し、真っ向勝負を挑んだものの6着と完敗。中距離に狙いを定めるサトノクラウンは、次なる戦いの舞台である宝塚記念へと向かう。
大阪杯を勝ったキタサンブラックはこのあとの春の天皇賞を連覇して5つ目のG1タイトルを獲得。現役最強を証明した。
ついに国内G1を制覇
宝塚記念
単勝オッズ1.4倍と圧倒的な人気を背負うキタサンブラック。サトノクラウンにとっては、同期のこの怪物を倒さないことには国内G1タイトルを手に入れることは出来ない。
スタートすると、同じく同期の引き立て役に甘んじてきたシュヴァルグランが果敢に先頭に立ってレースを引っ張る展開。珍しく行きっぷりの良くないキタサンブラックは3番手から。サトノクラウンが抑えきれないくらいの手応えで後に続く。
直線に入ると、伸びあぐねるキタサンブラックの外からサトノクラウンが並ぶ間もなく抜け出すと、内でしぶとく粘るゴールドアクターを競り落とし、先頭でゴールを駆け抜けた。
国内G1ではなかなか結果が出せなかったサトノクラウンが、ついに王者キタサンブラックを下して国内G1をも制覇した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
不良馬場の決戦
天皇賞(秋)
勝ったサトノクラウンと、9着に沈んだキタサンブラックは、ともに夏の休養を挟んでぶっつけで天皇賞(秋)へ。ピークを迎えていたサトノクラウンと、復権を期すキタサンブラックが史上稀に見る不良馬場の中で激突した。
スタートで出遅れて絶体絶命に追い込まれたのがキタサンブラック。サトノクラウンは中団のインコースをロスなく進む。
3コーナーから4コーナーにかけて、内からスルスルとキタサンブラックと武豊騎手が上がっていき、いつの間にか4,5番手の位置にまでつけていた。
全馬ドロドロになりながら迎えた最後の直線、内をついたキタサンブラックが早々と先頭に立つと、不良馬場の中を追ってくるのはただ一頭、サトノクラウンだった。
キタサンブラックの内に進路を取ったサトノクラウンが馬体を併せる。壮絶な叩き合いの末、キタサンブラックが最後まで凌ぎ切って優勝。天皇賞春秋連覇の偉業とともに復活を遂げた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
死闘を経て
再び世界へ
歴史に残る死闘を演じた天皇賞ですべてを出し尽くしたかのように、続くジャパンカップ10着、有馬記念13着と大敗。しかし有馬記念で有終の美を飾ったキタサンブラックとは対象的に、サトノクラウンは翌年も現役を続ける。
春は国際派のこの馬らしくドバイへ遠征してドバイシーマクラシックで7着。その後は連覇を狙った宝塚記念で12着、ジャパンカップ9着という結果を残して引退種牡馬入りした。
意外なことに、サトノクラウンは生涯で一度しか1番人気を背負ったことがない。デビューから3連勝で臨んだ皐月賞がその唯一の1番人気であり、香港ヴァーズを勝ったあとに連覇を飾った京都記念ですら3番人気だった。
デビュー前から注目を浴び続けたサトノダイヤモンドと歩んだ道程は異なれど、最終的には不屈の心で国内外のG1を勝ち取ったサトノクラウン。種牡馬となってからもダイヤの煌きに負けず劣らず、瞬く間にダービー馬を輩出して注目の存在となっている。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、サトノクラウン。
史実のサトノクラウン
基本情報 | 2012年3月10日生 牡馬 黒鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 Marju 母 ジョコンダII(父Rossini) |
馬主 | (株)サトミホースカンパニー |
調教師 | 堀宣行(美浦) |
生産者 | ノーザンファーム(北海道安平町) |
通算成績 | 20戦7勝(JRA17戦6勝、海外3戦1勝) |
主な勝ち鞍 | 16’香港ヴァーズ、17’宝塚記念 |
生涯獲得賞金 | 6億3210万円(JRA4億8603万、海外940万5000HKドル) |
エピソード①血統
父Marjuはアイルランド産の競走馬で、現役時代にはイギリスのマイルG1セントジェームズパレスステークスを勝った。種牡馬として多くのG1馬を輩出して成功を収めたが、日本ではあまり馴染みがないなかで、父の最終世代から出たのが日本における唯一の活躍馬サトノクラウンだった。
父の産駒で有名なのは香港のインディジェナスだろうか。ジャパンカップに3度参戦して、スペシャルウィークが勝った1999年には2着に入っているため記憶に残っているファンもいることだろう。
育成ストーリーでは、サトノクラウンが香港のウマ娘達と一緒にトレーニングに励むシーンがたびたび描かれている。
エピソード②種牡馬として
サトノクラウン産駒は2022年に初年度産駒がデビュー。その初年度産駒の中から、いきなり2023年のダービー馬である「タスティエーラ」という大物が誕生した。
サトノクラウンの育成シナリオにチラッと登場する緑の目の少女はタスティエーラのことではないかと話題にもなった。
ホーム画面では、サトノクラウンがこんなセリフを。
なお「タスティエーラ」の馬名の由来は、イタリア語でキーボードを意味し、タスティエーラの母系には代々音楽にまつわる言葉が含まれる馬名がつけられているのだ。
サトノクラウンの種牡馬としての物語はまだまだ始まったばかり。今後の産駒たちの活躍が期待される。
2023年の結びに
ウマ娘で競馬を学ぶ
ところで、サトノクラウンの育成ストーリーをプレイして感じたことがある。それは、育成の中でストーリーやセリフに盛り込まれた競馬に関する内容が、以前より専門性が増しているのではないかということである。
例えば、レース前に作戦を練るシーンで次のようなセリフがある。
と、こんな具合だ。実際にレースが行われる競馬場のコース形態や直線の長さ、その他の特徴など、レース攻略の鍵となるポイントが具体的に盛り込まれている。
それもそのはず、ウマ娘から競馬にハマったというトレーナーの皆さんも、競馬歴はもう2年、3年になってきている。もはやビギナーの域を越えてかなりの競馬通になっている方も多いことだろう。
ウマ娘も、そんなトレーナー達の成長に合わせてよりコアな情報を盛り込んできているのではないか。サトノクラウンの育成を通して、そんなことを感じた2023年師走のある日であった。
この年末は競馬もウマ娘もまだまだ盛り沢山。キタサンブラック、ドゥラメンテ、サトノクラウンといったアニメ3期世代の二世産駒たちも多く参加するドリームレース有馬記念を見届け、さらにはウマ娘アニメ3期の最終回も見逃せない。JRA締めくくりのホープフルステークスでは、ウマ娘のジャージカラーの勝負服が初の中央G1制覇成るか応援したい。
最後に、今年も当コラムにお付き合いいただいたトレーナーの皆さん、ありがとうございました。
ウマ娘のコラム記事一覧
キャラクター関連コラム
番外編コラム
ディープインパクト | 緑スキル持ちの競走馬たち |
名牝達の競演 | 一時代を築いた名門・メジロ家 |
本格参戦が待ち遠しいウマ娘① | 本格参戦が待ち遠しいウマ娘② |
凱旋門賞に挑んだウマ娘たち | 『夏の上がり馬』たち |
愛すべき『善戦ホース』たち | アニメ3期ウマ娘予習特集 |
アニメ3期世代の産駒たち |
レース関連コラム
宝塚記念 | 秋華賞 |
菊花賞 | 天皇賞(秋) |
エリザベス女王杯 | マイルチャンピオンシップ |
ジャパンカップ | 有馬記念 |
ログインするともっとみられますコメントできます