競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第88回。今回は、ウマ娘でも史実でもドバイが大好きな「ヴィブロス」について熱く語ります。
目次
夢のドバイで躍動
私をドバイに連れてって
ドバイに憧れる末っ娘気質の甘えん坊キャラ、ヴィブロス。「ちょ~セレブなドバイに連れてって!」と無邪気に甘えるウマ娘のヴィブロスは、史実の育ちの良さ(血統)や戦績をとてもわかり易く反映したキャラクターではないだろうか。
誰もが認めるドバイ大好きっ娘、ヴィブロスの史実を追っていく。
生まれと血統
三姉妹の末っ娘
ヴィブロスは、皆さんご存知の通りヴィルシーナ、シュヴァルグランの妹。特にヴィルシーナとは父も同じディープインパクト。毛色も同じ青毛の姉妹ということでウマ娘での仲良しぶりもうなずける。
ヴィブロスがデビューするまでに、すでに4つ上の姉ヴィルシーナがG1ヴィクトリアマイル連覇を成し遂げており、同時期に活躍した1つ上の兄シュヴァルグラン(父ハーツクライ)とヴィブロスの相次ぐG1制覇によって、偉大な母ハルーワスウィートの名をさらに高めたと言える。
ヴィブロスの育成ストーリーにも登場する三姉妹の両親はともに有名人。セリフなどから、パパのモデルは実際の馬主である元プロ野球選手・大魔神こと佐々木主浩氏であることが伺える。
2歳時
メイクデビュー
姉や兄と同じ栗東の友道厩舎に入厩したヴィブロスは、ヴィルシーナの全妹というその血統から当然のように注目を集める存在。ただ、比較的小柄な仔が多い母の産駒の中でもひときわ華奢で、2歳の秋を迎える時点でようやく400キロを越えるかというほどだった。
注目のデビュー戦は10月24日の京都競馬場、芝1600m新馬戦。馬体重は414キロでデビューを迎えた。ヴィルシーナを小さくしたような青毛の馬体にファンの期待を集め、単勝オッズは1.3倍と断然の1番人気。
短期免許で来日中のC.デムーロ騎手を背にスタートすると、2番手につけて抜け出しをはかったものの、逃げ馬を捉えることができず2着でゴールした。勝ったクラシックリディアは母にG1馬ブルーメンブラットを持つこちらも良血馬だった。
初勝利
小柄でまだ体質に弱いところがあったため、馬体の回復具合を見つつ迎えた2戦目は11月21日の未勝利戦(京都芝1800m)。馬体重は6キロ減の408キロ。今度はデムーロ兄弟の兄であるミルコ・デムーロ騎手を鞍上に迎えた。
新馬戦と同じくスタート良く2番手につけると、今度はきっちり直線で抜け出して後続を抑えて初勝利を飾った。
体調不良で休養
初勝利をあげたヴィブロスだったが、喉鳴り(のどなり)の症状が見られ、手術のため休養を余儀なくされた。
また、消化器系にも不調が見られたため、なかなか状態が上向いてこなかった。
3歳時
姉の雪辱を目指して
3歳になり、ようやく復帰の目処がついた頃には春のクラシック開幕は目前に迫っていた。ヴィブロスには、姉ヴィルシーナが果たせなかった牝馬三冠路線での雪辱という期待もかかっていた。
そのため、復帰戦には格上挑戦で桜花賞トライアルのチューリップ賞が選ばれたが、手術後の休み明けで状態もひと息だったか12着と大敗。このときの上位2頭がのちの桜花賞馬ジュエラーとオークス馬シンハライトだったことを考えると、非常にハイレベルなメンバー構成だったと言える。
春のクラッシック出走へ最後の望みを託し、中1週空けて再び格上挑戦で挑んだフラワーカップでも12着に終わった。これで事実上、桜花賞出走の道はほぼついえた。
飛躍の秋へ
ここで間隔を空けてじっくりと態勢を立て直され、約4ヶ月後の夏の中京開催での復帰が決まる。中京芝2000mの1勝クラス、鞍上には新たに福永祐一騎手を迎えた。
フラワーカップ時に406キロまで減っていた馬体重はデビュー戦と同じ414キロまで回復。喉鳴りの症状も落ち着いており、休み明けでも状態は確実に上向いていた。
スタートして中団後方につけると、ゆったりとした流れの中で折り合いをつけて脚を溜める。手応えよく終盤に差し掛かると、直線で弾けるようにメンバー最速の末脚を繰り出して2着に4馬身差をつける快勝。
2000mの距離もこなし、実りの秋へと繋がる待望の2勝目をあげた。
秋華賞へ向けて
紫苑ステークス
秋華賞出走に向けてトライアルのG3紫苑ステークス(中山芝2000m)に出走。中山競馬場は大敗したフローラステークス以来だったが、春とは状態が違う。ここで秋華賞の優先出走権獲得を目指す。
1番人気はオークス3着の実力馬ビッシュ。ヴィブロスは前走の勝ちっぷりが評価されて3番人気に支持された。
道中は前走同様に中団後方に位置取り、終盤の末脚勝負にかける展開となった。ところが、勝負どころの3コーナーあたりに差し掛かったところで馬群がごちゃついて、鞍上の福永騎手が大きくバランスを崩すほどの不利を受けてしまう。
そこからどうにか態勢を立て直し、直線では鋭く追い込んで2着を確保。秋華賞の優先出走権を獲得した。勝ったビッシュには離されたものの、3コーナーの不利がなければ、と思わせる走りで本番に希望を繋いだ。
念願の舞台
秋華賞
牝馬三冠の最後の舞台にようやくたどり着いたヴィブロス。
本命と目されていたオークス馬シンハライトが、前哨戦のローズステークスを勝った後に屈腱炎を発症し、直前で戦線離脱。一気に混戦模様となった中で強敵と見られるのは、桜花賞馬ジュエラー(2番人気)と、前走で対戦したビッシュ(1番人気)。ヴィブロスと福永騎手のコンビは3番人気。
18頭フルゲートの4枠7番におさまりゲートが開く。好スタートをきると、やや行きたがる素振りを見せるものの抑えて中団あたりにポジションをキープ。中団馬群の後方でうまく折り合いをつけると、3~4コーナーにかけて徐々に進出。
ギリギリまで追い出しを我慢し、最後の直線で満を持してゴーサインが出されると大外を一閃。デビュー時と変わらぬ414キロの小柄な馬体を一杯に使って豪快に差し切った。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
姉ヴィルシーナがジェンティルドンナに阻まれて届かなかった牝馬三冠レース。4年の時を経て、妹のヴィブロスが春まで悩まされた体質面の課題を克服して最後の一冠を見事制して見せた。
4歳時
ドバイ挑戦
秋華賞後は休養を挟んで4歳となったヴィブロス。春の目標レースとなるのは、UAEのドバイで行われるビッグイベント「ドバイワールドカップデー」の国際G1ドバイターフ。
その招待を受けて挑戦することが決まったヴィブロスは、遠征前の一戦としてG2中山記念に出走した。
中山記念
古馬初戦、重賞級の牡馬と混じっての一戦には前年のドバイターフ勝ち馬リアルスティールの名前もあった。
ヴィブロスは、秋華賞から10キロ増の424キロでの出走。休養中にかなり馬体が増えているとの情報もあり、ゆっくりとした成長曲線を描く姉や兄の例に漏れず、ヴィブロスもこの時点ではまだまだ成長途上だったということだろう。
ここでは挑戦者の立場のヴィブロスは4番人気に支持されたが、4,5番手の位置から直線で弾けるような末脚は見られず5着に終わった。
ドバイへ
ドバイターフ(1年目)
中山記念後は予定通りドバイターフ(芝1800m)に挑戦。ドバイシーマクラシックに挑むサウンズオブアースらとともに日本勢ただ一頭の牝馬として現地入りした。メイダン競馬場の芝は日本馬にとって比較的相性がよく、先述のとおりドバイターフにおいても前年の覇者リアルスティールを含めて過去3頭の日本馬が制していた。
ドバイワールドカップデー当日はあいにくの雨となり、馬場はやや重。ヴィブロスの鞍上はJ.モレイラ騎手に乗り替わり、世界の強豪に挑む。
スタートすると、ヴィブロスは馬群の後方インコースにつけて虎視眈々と脚をためる。後ろから3頭目の位置で最後の直線に入ると、モレイラ騎手の見事な手綱捌きで内から外へと馬群を縫うように上がっていくと、最後は外から豪快に差し切って先頭でゴール。
日本での実績からは世界で通用するかどうか懐疑的な見方もあったが、ドバイの地で秘めた素質を開花させたヴィブロスが前評判を覆して快挙を成し遂げた。
秋
異国の地で2つ目のビッグタイトルを手にしたヴィブロスは、帰国後は休養に入り、遠征の疲れを癒やした。
夏を越して馬体重はこれまでで最も重い434キロと、ヴィブロスも肥ゆる秋。秋の目標レースは、エリザベス女王杯。牝馬最強を証明するためには負けられない立場だった。そしてルメール騎手との新コンビで臨んだ前哨戦・府中牝馬ステークスで勝ち馬とクビ差の2着とまずまずの結果を経てエリザベス女王杯へ向かった。
エリザベス女王杯
国内2つ目のG1タイトル獲得を目指すヴィブロスが1番人気。好スタートから4,5番手の好位を追走したものの、スローペースで折り合いを欠いたこともあってか直線で伸びきれず、5着に敗れた。
勝ったのは秋華賞3着から挑戦した3歳馬モズカッチャン。府中牝馬ステークスでヴィブロスを下した上がり馬のクロコスミアが2着に入り、上位を伏兵勢が占める結果となった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
5歳時
同じローテーションでドバイへ
エリザベス女王杯のあとは休養を挟んで、5歳のシーズンを迎える。その間に、ヴィブロスはドバイターフ制覇が評価されてJRA賞の最優秀4歳以上牝馬に選出された。
この春の目標であるドバイターフ連覇を目指して、前年と同じローテーションが組まれた。
前哨戦の中山記念では3番人気で8着と見せ場なく終わってしまうが、予定通りドバイへ渡る。
ドバイターフ(2年目)
鞍上に新馬戦以来のC.デムーロ騎手を迎え、ディフェンディングチャンピオンとして臨む2年目のドバイターフには、他にリアルスティールや1つ下の秋華賞馬ディアドラなど5頭の日本馬が参戦した。
スタートすると、前年と同じように後方待機策。最後の直線に入り、外に持ち出されると持ち前の弾むような走りで末脚を繰り出す。先に抜け出した英国調教馬のベンバトルには離されたものの、日本馬同士の激戦となった2番手争いを制して2着に入った。
連覇こそ成らなかったが、2年連続での好走で相性の良さを印象付けた。
宝塚記念
帰国後は、状態を見て春のグランプリ宝塚記念に参戦。秋華賞以来となる福永祐一騎手とのコンビ復活となったヴィブロスは3番人気の支持を集めた。
同世代のサトノダイヤモンドや、前年の覇者サトノクラウン、菊花賞馬キセキといった強豪が顔を揃えた一戦は、上位人気馬が総崩れとなる波乱の結末。ヴィブロスも後方から差す競馬で見せ場をつくったものの4着までだった。
引退レース
香港マイル
秋初戦の天皇賞で8着とした後は、香港の国際G1レースである香港マイルに出走。これがヴィブロスにとって引退レースになると報じられていた。
圧倒的な1番人気は地元のビューティージェネレーション。日本からはヴィブロスのほかにマイルCS勝ち馬のペルシアンナイトや安田記念勝ち馬のモズアスコットらマイル王者が参戦していた。
海外慣れしているヴィブロスは、ここ香港でも特にイレ込むこともなく落ち着いた様子で、引退レースでも力を出せる仕上がりにあった。
レースが始まると、主導権を取った1番人気のビューティージェネレーションが他馬を寄せ付けず圧勝。勝ち馬の3馬身後ろの2着争いには、後方から追い込んだヴィブロスが食い込んで海外での強さをここ香港でも発揮してみせた。
引退撤回しドバイへ
ドバイターフ(3年目)
香港での好走を見たオーナーサイドは、一度は決めていた現役引退を撤回。翌春のドバイターフへの出走を表明した。もはや彼女にとってドバイは第二の故郷みたいなものか。
6歳の春、前年の三冠牝馬アーモンドアイ、このあとヴィブロス以上に世界中を転戦することとなるディアドラとともに三度目のドバイへ行くことになったヴィブロス。今回はドバイシーマクラシックに出走する兄シュヴァルグランも一緒だ。
正真正銘のラストランとなったドバイターフは、日本が世界に誇る歴史的女傑アーモンドアイに続いての2着。引退を引き伸ばした判断が正しかったことを自ら証明し、大好きなドバイでのラストランを彼女らしい走りで締めくくった。
さらに、シュヴァルグランも同じ日に行われたドバイシーマクラシックで2着と好走したため、ドバイの地で兄妹仲良く2着を記録したのだった。
三姉妹はそれぞれ引退後は種牡馬、繁殖牝馬として第二の馬生を送っている。いずれウマ娘にも二世世代たちが登場し、より賑やかになったファミリーの姿を見られる日が来るかもしれない。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ヴィブロス。
史実のヴィブロス
基本情報 | 2013年4月9日生 牝馬 青毛 |
---|---|
血統 | 父 ディープインパクト 母 ハルーワスウィート(父Machiavellian) |
馬主 | 佐々木主浩 |
調教師 | 友道康夫(栗東) |
生産者 | ノーザンファーム(北海道安平町) |
通算成績 | 17戦4勝(JRA13戦3勝、海外4戦1勝) |
主な勝ち鞍 | 16’秋華賞、17’ドバイターフ(UAE) |
生涯獲得賞金 | 9億5374万円(JRA約1億8609万円,海外約7億6764万円) |
エピソード①繁殖牝馬として
引退後は繁殖牝馬として、第二の馬生を過ごしているヴィブロス。これまでに、初仔のヴィンセドリス(父ロードカナロア・牡馬)と二番仔のシヴァース(父モーリス・牡馬)がデビューして現役で走っている。(2024年1月現在)
これからも姉ヴィルシーナ、種牡馬として最初の世代を送り出したばかりのシュヴァルグランとともに、ハルーワスウィート一族の血脈を拡げてくれることだろう。
ちなみに、ヴィブロスがドバイターフに挑戦した2年目(2着)の時の優勝馬であるベンバトルは種牡馬として日本に輸入されている。いつかこのドバイターフ覇者同士の仔がドバイを走ってくれる可能性もゼロではない?とか、そんな夢を馳せるのも競馬ならではのロマンである。
エピソード②ちょ~セレブな賞金
ヴィブロスの生涯獲得賞金を見ると、日本円換算で総額9億円を超えるのだが、そのうち海外での獲得賞金額が実に7億円以上。同じG1級レース2勝の姉ヴィルシーナの倍以上を獲得しているのだ。そりゃあ、ドバイに憧れるのも無理はない。
まだ歴史がそれほど長くないドバイ(UAE)やサウジアラビアといった中東諸国のビッグレースは賞金額が高いこともさることながら、イベントとしても盛大に華やかに行われるため、世界中から一流馬が集まる競馬の祭典として定着してきている。
エピソード③ドバイマイスター
ヴィブロスの引退レースとなったドバイターフ2着の際には、元JRAジョッキーの安藤勝己さんが自身のtwitterアカウント(現X)上で「ドバイマイスター」と評し、ドバイでの走りを称賛した。
そんなドバイマイスター・ヴィブロスの実装とともにウマ娘にもドバイのレース実装があるか?と期待されたが、今回はお預けとなったようだ。日本馬が多く活躍してきた歴史を振り返ると、いつかウマ娘たちがドバイの競馬場を走る姿を見たいものだ。
ウマ娘のコラム記事一覧
キャラクター関連コラム
番外編コラム
ディープインパクト | 緑スキル持ちの競走馬たち |
名牝達の競演 | 一時代を築いた名門・メジロ家 |
本格参戦が待ち遠しいウマ娘① | 本格参戦が待ち遠しいウマ娘② |
凱旋門賞に挑んだウマ娘たち | 『夏の上がり馬』たち |
愛すべき『善戦ホース』たち | アニメ3期ウマ娘予習特集 |
アニメ3期世代の産駒たち |
レース関連コラム
宝塚記念 | 秋華賞 |
菊花賞 | 天皇賞(秋) |
エリザベス女王杯 | マイルチャンピオンシップ |
ジャパンカップ | 有馬記念 |
ログインするともっとみられますコメントできます