競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第113回。今回は天皇賞・春連覇の名ステイヤー、漆黒の怪物ことフェノーメノについて熱く語ります。
漆黒の怪物
ステイゴールド一族の長距離砲

父譲りの善戦ホースから長距離界の絶対王者へ。今回は「漆黒の怪物」ことフェノーメノの史実を追っていく。
ウマ娘のフェノーメノ
つい先日育成ウマ娘として実装されたばかりのフェノーメノ。ゆかりのある天皇賞・春の開催が近いこの時期にこそ活躍させたいウマ娘である。

ちなみに筆者はガチャ絶不調でまだフェノーメノに出会えておらず、早くまめちんのボスになりたい思いを募らせている。
公式プロフィール
風紀委員会に所属する正義感が強いウマ娘。 日々パトロールや地域のボランティア活動に精を出しており、その姿はさながら優しく頼れる皆のお巡りさん……と言いたいところだが、鋭すぎる眼光のせいか近所の子どもたちからは、すごーく怖がられてしまっているそうな。

血統
フェノーメノの父はステイゴールド。オルフェーヴルのひとつ下、ゴールドシップと同じ世代で父の黄金期を形成していく。
小柄だった父の産駒はドリームジャーニーを筆頭にコンパクトな馬体の馬が多いが、本馬はデビュー前の時点で500kg近い立派な馬体の持ち主だった。青鹿毛の真っ黒な馬体は迫力満点。

ゴールドシップも500kgを超える立派な馬体であり、同期の白と黒のこの二頭は父の産駒の中でもちょっと異質な存在と言える。
2歳になると、ポルトガル語で怪物の意味を持つ「フェノーメノ」と命名され、美浦の戸田博文厩舎へ入厩した。
2歳時
メイクデビュー
デビューは10月の東京開催、秋の天皇賞が行われる当日。天皇賞と同条件の芝2000m新馬戦にエントリーした。鞍上は岩田康誠騎手で4番人気でスタートを迎える。

ゲートが開くと、好スタートを決めて2番手につける。スローペースを最後まで好位で折り合って追走すると、直線では早めに抜け出して後続を凌ぎきりデビュー戦を勝利で飾った。
初黒星
続いてホープフルステークス(G1昇格前のオープン特別)に出走。好メンバーの新馬戦を勝った内容を見込まれて1番人気の支持を集めたが、中団のまま混戦を抜け出すことができず7着に終わった。
3歳時
2勝目
3歳初戦は自己条件の1勝クラスで2勝目を目指す。新馬戦と同じ東京芝2000mの舞台で、先行策から危なげなく抜け出して快勝。このときの2着馬はのちに天皇賞秋を勝つスピルバーグだった。

皐月賞へ向けて
オープン入りしたフェノーメノは、クラシック一冠目の皐月賞出走を目指してトライアルのG2弥生賞に出走。
2戦2勝のアダムスピークに次ぐ2番人気に支持されたが、中団後方から直線で追い込んで6着まで。優先出走権を得ることはできなかった。
青葉賞
目標をダービーに切り替え、ダービートライアルのG2青葉賞に出走。ここで蛯名正義騎手に乗り替わりとなり、のちの名コンビ誕生となった。

新馬戦、1勝クラスと全2勝を挙げている相性の良い東京競馬場で1番人気に推されたフェノーメノ。スタートすると中団で折り合い脚をためる。最後の直線に入ると、目の覚めるような末脚を繰り出して一気に突き抜け快勝。蛯名正義騎手に導かれて重賞初制覇でダービーへの切符を手に入れた。
日本ダービー

本番と同じ条件の青葉賞を制したフェノーメノは、ここまで府中では負け無しの3戦3勝。舞台適性と勢いを武器に皐月賞上位組に挑む。
迎え撃つ皐月賞組は、2着だったワールドエースが1番人気、脅威のワープで皐月賞馬となったゴールドシップが僅差の2番人気、3着のディープブリランテが3番人気で続く。フェノーメノは5番人気。

スタートすると、青葉賞と同じように中団で折り合いをつけるフェノーメノと蛯名正義騎手。前へ行った2頭が飛ばして馬群は徐々に縦長の隊列に。ディープブリランテは逃げ馬から離れた3,4番手の先行策、ワールドエースやゴールドシップは中団後方に構える。
最後の直線に入ると、粘るトーセンホマレボシを交わして抜け出したのはディープブリランテ。フェノーメノと同じサンデーレーシングの勝負服に身を包んだ鞍上はかつてのパートナー岩田康誠騎手。追う、蛯名正義騎手とフェノーメノ。馬場の外を通って突き抜けようかという末脚でディープブリランテに迫る。内外離れて、二頭が並んだところがゴールだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
写真判定の結果はハナ差届かず2着。青葉賞勝ち馬からダービー馬は出ていないというジンクスを破ることはできなかった。蛯名正義騎手にとっても、悲願のダービー制覇にあと一歩届かず。悔しい惜敗に涙を見せた。
実りの秋へ
ダービー後は夏休みでリフレッシュし、秋に備える。秋初戦は菊花賞トライアルのセントライト記念。これまで2戦してともに着外と中山では結果が出ていなかったが、ここはダービー2着の実力を見せて勝利。重賞2勝目を挙げてG1へ向けて好スタートをきった。
天皇賞・秋

トライアルを勝ったフェノーメノだったが、陣営は菊花賞ではなく天皇賞・秋を選択。得意とする府中で古馬に挑戦する。
この年は、NHKマイルカップの勝ち馬カレンブラックヒルが毎日王冠で古馬を撃破するなど、3歳馬のレベルが高いとされており、フェノーメノが1番人気、カレンブラックヒルが3番人気とそれぞれ高い支持を集めていた。
対する古馬勢も、香港G1馬ルーラーシップやダービー馬エイシンフラッシュ、前年の勝ち馬トーセンジョーダンといったG1馬が顔を揃えた。

ゲートが開くとシルポートが飛ばして逃げる。カレンブラックヒルが離れた2番手を追走し、フェノーメノも早め4番手につけた。
シルポートの大逃げに湧く東京競馬場。大きなリードを保ったまま最後の直線に差し掛かると、後ろの各馬も仕掛けて追い上げ態勢に入る。
直線半ばでシルポートが失速すると、最内を突いて抜け出したのはダービー馬エイシンフラッシュ。そして外からフェノーメノも良い脚で伸びてくる。内エイシンフラッシュ、外フェノーメノ。内外離れた叩き合いはゴール前まで続いたが、エイシンフラッシュが半馬身のリードを守りきり、天覧競馬の天皇賞を先頭でゴールした。

レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
フェノーメノはダービーに続いて2着。善戦ホースとして知られた父ステイゴールドのイメージが重なり始めていた。
ジャパンカップ
続くジャパンカップでは、1歳上の三冠馬オルフェーヴルと、同世代の三冠牝馬ジェンティルドンナの三冠馬対決に注目が集まった。

二頭の歴史に残る激闘の陰に隠れてフェノーメノは5着。これで3歳シーズンを終え、翌年に向けて休養に入った。
4歳時:悲願成就へ
日経賞

年が明けて4歳シーズンを迎えると、日経賞から始動。3歳時のダービー、天皇賞・秋2着の実績から格上の存在。ここは断然の1番人気に応えて危なげなく勝利を収め、悲願のG1タイトル獲得へ向けて好スタートをきった。
天皇賞・春

日経賞後は春の天皇賞で自身初の3000m超えの長距離レースに挑む。前年の秋、3000mの菊花賞は回避したが、日経賞の走りからも長距離をこなせるだけのスタミナを備え、何よりステイゴールド産駒にしては気性が大人しく折り合いに不安がない点が強みだった。

最大のライバルとして立ちはだかるのはゴールドシップ。その菊花賞を制して二冠馬となった後は有馬記念も勝ち、今年はオルフェーヴル、ジェンティルドンナらと現役最強を競う立場。初戦の阪神大賞典を勝って目下4連勝中と絶好調である。

フェノーメノはスタートを決めて中団までポジションを下げて折り合う。ゴールドシップは出負け気味のスタートで最後方から。
レースはサトノシュレンが早いペースで引っ張り、途中から大逃げに持ち込む展開。終盤にかけてスタミナがないとついていけないようなタフなレースとなる。

フェノーメノと蛯名正義騎手は、2周目の3,4コーナーから仕掛けて徐々にポジションを上げていくと、最終コーナーで先頭に並びかける。連れて上がった武豊騎手のトーセンラーを競り落として単独先頭に立つと、内ラチ沿いを懸命に伸びる。ゴールドシップは5番手あたりで伸びあぐねている。

必死に追う蛯名騎手とそれに応えるフェノーメノ。人馬一体となり最後まで大きなストライドで走りきったフェノーメノが悲願のG1制覇を成し遂げた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ダービー2着から続いたG1での惜敗続きに終止符を打ち、見事に春の盾を手中に収めた。
宝塚記念

天皇賞馬として春のグランプリ・宝塚記念に出走。ドバイ遠征帰りの最強牝馬ジェンティルドンナと、天皇賞からの巻き返しを狙うゴールドシップとの三強対決の構図となった。

ところが、レースは三強の前評判を覆してゴールドシップの独壇場。スタート直後から鞍上の内田騎手が追って追って気合をつけられると、この馬らしからぬ積極策で好位4番手につけた。その前にジェンティルドンナ、フェノーメノは5,6番手からという隊列。

最後の直線に差し掛かると、大逃げのシルポート目掛けて三強が襲いかかる。しかし、ジェンティルドンナをマークする絶好の形でレースを進めたゴールドシップが力強く抜け出すと、追いすがるジェンティルドンナとフェノーメノを突き放して圧勝した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
2着には伏兵のダノンバラードが食い込み、三強決着とはならなかった。
脚元不安で休養
宝塚記念の後は夏休みを挟んでリフレッシュ。秋の天皇賞を目標とする予定だったが、秋初戦を前に左前脚繋靱帯炎を発症して出走を回避。秋は全休して治療に専念し、翌春に備えることとなった。
5歳時:連覇へ
怪我から復帰
宝塚記念以来となる長期休養明け初戦は、前年に勝った日経賞。ウインバリアシオンに次ぐ2番人気だったが、直線でもうひと伸びがなく5着。馬体も減っておりいまだ復調途上といった印象であった。
天皇賞・春
日経賞のあとは順調に上向き、減っていた馬体も回復。春の天皇賞連覇を狙う。

前年のダービー馬キズナとゴールドシップ、そして悲願のG1タイトルを目指すウインバリアシオンら豪華なメンバーが揃った一戦。フェノーメノも4番人気まで評価を下げたものの、ディフェンディングチャンピオンとして迎え撃つ。


全馬ゲートにおさまり、スタートするとゴールドシップが出遅れて最後方から。フェノーメノは中団につけて、キズナ、ウインバリアシオンら有力馬はいずれも後方待機策で脚をためる。

中団のインでピタリと折り合いロスなく進んだフェノーメノと蛯名正義騎手。最後の直線に入ると、馬場の真ん中から鋭く抜け出し、併せ馬となったウインバリアシオンを抜かせない。

後方から追い込んだキズナと人気薄ホッコーブレーヴも凌ぎきり、先頭でゴール。見事に春の天皇賞連覇を飾った。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
春の天皇賞連覇は、メジロマックイーン、テイエムオペラオーに続いて史上3頭目の快挙。怪我からの完全復活を遂げるとともに、漆黒の怪物フェノーメノの名を歴史に刻んでみせた。
秋以降
春の天皇賞連覇のあとは、春秋連覇をかけて秋まで休養。そして偉業がかかる秋の天皇賞で復帰したが、レース前からイレ込みが激しくゲート内でも落ち着かない。レースではまるで精彩を欠いて14着と大敗を喫した。
その後、ジャパンカップではここまで名コンビを組んできた蛯名正義騎手が当年の皐月賞馬イスラボニータに騎乗するため乗り替わりとなり、結果も9着と振るわず。続く有馬記念も10着に終わった。
3連覇目指すも
6歳シーズンも現役続行して春の天皇賞3連覇を目指したが、日経賞8着のあとに屈腱炎を発症して引退が決まった。
オルフェーヴル、ジェンティルドンナ、ゴールドシップといったいずれも歴史に名を残すライバルたちの中にあって、自らが最も輝く舞台を見つけ出して二度も頂に立った漆黒の怪物フェノーメノ。ともに悔しさを乗り越えた蛯名正義騎手とのコンビも印象的だった。正義は勝つ。

ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、フェノーメノ。
史実のフェノーメノ
基本情報 | 2009年4月20日生 牡 青鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 ステイゴールド 母ディラローシェ(父Danehill) |
馬主 | サンデーレーシング |
調教師 | 戸田博文(美浦) |
生産牧場 | 追分ファーム(北海道平取町) |
通算成績 | 18戦7勝 |
主な勝ち鞍 | 13’,14’天皇賞(春) |
エピソード①愛称はまめちん
フェノーメノの愛称は「まめちん」。黒光りする雄大な馬体と怪物を意味する馬名とはおよそ似つかわしくない可愛らしい呼び名である。
由来は、仔馬の頃にフェノーメノを見た戸田調教師が「真っ黒で黒豆みたい」という印象からそう呼ぶようになったそうだ。

ウマ娘でも、おもにゴールドシップから「マメちん」と呼ばれており、一見強面な外見とのギャップが一層可愛らしい。長らく史実の同期(牡馬)がいなかったゴールドシップが、事あるごとにまめちんに絡んで生き生きとしているのがまた微笑ましくてほっこりする。

エピソード②父として
引退後はステイゴールドの後継種牡馬として期待されたフェノーメノ。産駒はJpn1ジャパンダートダービー3着のキタノオクトパスや大井の重賞・東京記念を勝ったナッジなど、どちらかというとダートでの活躍が目立つ。
すでに種牡馬を引退し、生まれ故郷の追分ファームでリードホース(仔馬の教育係)として余生を過ごしているフェノーメノだが、ニクソンテソーロが今年の3月に地方競馬高知で重賞の御厨人窟賞を1着同着で勝利。現役で活躍中の産駒たちに注目したい。
エピソード③リードホースとして
フェノーメノのリードホースぶりは追分ファームさんの公式Xなどで見ることができる。仔馬たちを引き連れて放牧地を駆ける姿は、実に凛々しく頼もしく映る。
この現在のフェノーメノの姿も、正義感が強くて子どもにも優しいキャラクターに反映されているのだろう。

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