競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第65回。今回は、驚異のJRAレコードで天皇賞・秋を制した「トーセンジョーダン」について熱く語ります。
目次
天皇賞・秋をレコード勝ち
蹄の弱さを乗り越えて
数々の名勝負が生まれた秋の天皇賞。当然のことながら歴代の勝ち馬にはいずれも記憶に残る名馬が並ぶ。そして2011年の勝ち馬であるトーセンジョーダンが今回の当コラムの主役である。
ネイルのお手入れは必須
ウマ娘のトーセンジョーダンは、いつもネイルの手入れを忘れないイマドキの都会っ子という設定。
これは史実のトーセンジョーダンが現役時代に蹄の弱さに悩まされたことが元となっているのだろう。蹄が原因で休みがちだったが、苦労の末に天皇賞馬の栄冠に輝いた、トーセンジョーダンの史実を追っていく。
血統と仔馬時代
活躍馬多数の良血
トーセンジョーダンの父はジャングルポケット。ウイニングチケットやエアグルーヴの父として、ウマ娘ファンにもお馴染みの大種牡馬トニービンの仔としてダービーやジャパンカップを制覇した名馬である。
母エヴリウィスパーはトーセンジョーダンのほかにもコンスタントに活躍馬を出し、近親にも重賞勝ち馬など多数いる活気のある血統だった。
名前の由来
期待の血統ということもあり、セリ市では1億円を超える高額で落札された。冠名のトーセン+ジョーダンで「トーセンジョーダン」と名付けられた。ジョーダンは言わずと知れたNBAのスーパースターが由来でもあるが、もう一つの由来はワインの銘柄。オーナーがワインにハマるきっかけとなった、カリフォルニアワインの銘柄から取ったということだ。
2歳時
メイクデビュー
トーセンジョーダンのデビューは2歳の11月。京都競馬場の芝2000m新馬戦で武豊騎手を背に4番人気でデビューを果たしたものの、中団待機から6着という結果だった。
初勝利
中一週で迎えた2戦目は福島競馬場の芝2000m未勝利戦。デビュー戦から馬体も絞れて1番人気に支持されると、これに応えて初勝利を挙げた。騎手は乗り替わりで北村友一騎手だった。ちなみに福島の芝2000mという条件は2歳戦ではこれが初めてだったため、トーセンジョーダンの記録は基準タイムとして残ることとなった。
連勝
初勝利に続いて、1勝クラス葉牡丹賞とオープン特別のホープフルステークスを連勝。ともに中山競馬場の芝2000m戦で、短期免許で来日中のO.ペリエ騎手の手綱によるものだった。ここまで一貫して2000mのレースに使われ、翌年のクラシックを意識していることが伺われた。
3歳時
クラシックに向けて
3歳になると、春の牡馬クラシックに向けていよいよ重賞レースへと進出。年明け初戦のG3共同通信杯は武豊騎手のブレイクランアウトに次ぐ2番人気の支持を集めた。
ペリエ騎手から乗り替わりで手綱をとった松岡正海騎手とトーセンジョーダンは先行策から直線で抜け出して押し切りを図ったが、1番人気のブレイクランアウトに差されて惜しくも2着に敗れた。
クラシック目前で
まずまず順調なスタートを切ったかに見えたトーセンジョーダンだったが、懸念していた裂蹄(れってい:蹄の割れ、亀裂)を発症して春のクラシックを断念せざるを得なかった。
復帰
蹄の療養のためにクラシック三冠をすべて棒に振ってしまったトーセンジョーダン。復帰は同世代の戦いが終わった11月になった。
オープン特別のアンドロメダステークスで復帰すると2着と好走。続くG3中日新聞杯では4着と善戦止まりだったが、クラシックにフル参戦していた同期のナカヤマフェスタには先着した。トーセンジョーダンにとって3歳のシーズンは不完全燃焼に終わり、古馬になってからの戦いへと移っていく。
4歳時
休養を経て
4歳になると、裂蹄の悪化しやすい冬のシーズンから春にかけて再び長期休養。7月の函館でようやく再始動となった。
賞金の関係でオープンから1600万下(準オープンクラス)に降格して迎えた4歳初戦の五稜郭ステークスは5着。続く漁火ステークス(函館芝1800m)を1番人気に応えて快勝。通算4勝目を挙げてオープン入りを果たした。
順調な秋
秋は10月から始動。アイルランドトロフィー(東京芝2000m)では、歳下の良血馬トゥザグローリーに競り勝って2連勝。再び軌道に乗ったトーセンジョーダンが重賞の舞台に戻ってくる。
重賞初制覇
そしてG2アルゼンチン共和国杯。東京の芝2500mで行われるハンデ戦。これまで2000mまでしか経験はなかったが、血統的にも距離延長に大きな不安はなかった。鞍上には三浦皇成騎手。
トップハンデの57キロは重賞未勝利馬としては見込まれた印象もあったが、終わってみれば1馬身3/4差をつけて快勝。待望の重賞初制覇を達成した。
有馬記念
トーセンジョーダンにとって、いよいよG1初挑戦の機会が訪れる。年末のグランプリレース、有馬記念に引き続き三浦皇成騎手とのコンビで挑む。
同世代の女傑ブエナビスタが抜けた1番人気。勢いのある3歳勢からの参戦も多く2番手以下の評価は難解なメンバー構成となった。
そんな中、7番人気のトーセンジョーダンは好スタートから積極策を取って先頭に立ち、スローペースに落とし込んで逃げた。そして直線半ばまで見せ場たっぷりの走りを見せて5着に粘り込んだ。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ブエナビスタとの叩き合いを制したヴィクトワールピサが優勝。同馬はこの翌年3月、日本馬初のドバイワールドカップ制覇という快挙を達成する。
5歳時
AJCC
5歳になったトーセンジョーダンは1月のG2アメリカジョッキークラブカップに出走。ジョッキーは三浦皇成騎手から内田博幸騎手に乗り替わった。
ここは有馬記念5着の実力通り1番人気に応えて重賞2勝目。4,5番手追走から粘る逃げ馬をきっちり交わしてのものだった。
天皇賞は出走できず
春の目標は古馬中長距離路線の大レース。しかし次走の阪神大賞典を跛行(はこう)で出走取消となり、天皇賞(春)への出走も見送られた。
宝塚記念
仕切り直しの復帰戦となった宝塚記念では、短期免許で来日中のイタリア人ジョッキー、ニコラ・ピンナ騎手が騎乗。本国でもG1など大レースでの勝ちはないが、腕っぷしの強いいわゆる追えるタイプのジョッキーだった。
レースは、前年3着のアーネストリーが1番人気ブエナビスタを抑えて勝利した。休み明けのトーセンジョーダンは後方待機から伸びず、9着に終わる。
札幌記念
宝塚記念のあと、夏場は蹄と脚元の様子を見ながら北海道へ。夏の名物G2・札幌記念へ出走した。福永祐一騎手に乗り代わり、本来の先行策から接戦をモノにして勝利。重賞3勝目をマークした。
悲願のG1制覇へ
天皇賞(秋)
札幌記念のあとは間隔をとって天皇賞(秋)へ直行。再び短期免許で来日したピンナ騎手とのコンビを結成して大一番へ挑む。相手は、東京では特に強いブエナビスタや前年のダービー馬エイシンフラッシュ、そして重賞連勝中の上がり馬ダークシャドウといった面々。
やや外目の12番枠に入ったトーセンジョーダンは、スタート後ポジションを下げて馬群の中団より後方につける。前はシルポートが先手を奪って軽快なペースで飛ばしてハイペースになった。
1000mの通過ラップを見てどよめくほどの超ハイペースを、後方でじっとロスなく追走したトーセンジョーダンは、脚をためて府中の長い直線へ。ピンナ騎手は進路を外に出し、満を持して追い出した。前方では抜け出しを図るエイシンフラッシュに、後続から一気に馬群が押し寄せる。
その馬群の一番外を真っ直ぐに伸びたトーセンジョーダンが先頭に立つと、追いすがるトゥザグローリーや鋭く追い込むダークシャドウ、ペルーサらの追撃を凌ぎ切ってそのまま先頭でゴール。ピンナ騎手は高々と右手を突き上げて喜びを爆発させた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
勝ちタイムは1分56秒1。超ハイペースから生み出された時計は、ウオッカが記録した従来のレコードを1秒1も上回るスーパーレコード。トーセンジョーダンは、芝2000mのJRAレコードという大記録とともに天皇賞の歴史にその名を刻んだ。
イタリア人騎手のピンナ騎手にとってもG1初勝利。そして馬主歴15年目のオーナーにも初めてのG1タイトルをプレゼントした。
ジャパンカップ
悲願のG1制覇を成し遂げたトーセンジョーダンは、秋の古馬王道路線を歩む。充実の状態を保ったままジャパンカップに進むと、ブエナビスタらとともに海外勢を迎え撃つ。今度は鞍上にオーストラリア人ジョッキーのC・ウイリアムズ騎手を迎えた。
1番人気は、当年の凱旋門賞を制した3歳牝馬デインドリーム。ブエナビスタとの女傑対決として注目を集めた。
天皇賞とは打って変わって、逃げ馬の後ろ2番手につける積極策。最終コーナーから直線にかけて、先に仕掛けたウインバリアシオンに続いて3番手で直線へ。
直線半ば、残り200m付近でウインバリアシオンを捉えて先頭に立つと、追い込んできたブエナビスタと並んで一騎打ちの追い比べに。最後は切れ味で勝るブエナビスタにわずかに遅れてゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
G1連勝とはならなかったが、天皇賞馬の力を存分に示してみせた。
有馬記念
年末のグランプリ有馬記念では、牡馬クラシック三冠を制したオルフェーヴルと初対戦。ジャパンカップから引き続きウイリアムズ騎乗のトーセンジョーダンは、オルフェーヴル、ブエナビスタに続く3番人気に支持された。
トーセンジョーダンは3番手追走から抜け出しを図ったが、後ろからオルフェーヴルやエイシンフラッシュに交わされ、5着に終わった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
6歳時
天皇賞(春)
6歳の春は、前年に出走できなかった天皇賞で秋春連覇を目指す。初戦のG2産経大阪杯では岩田康誠騎手と新コンビを組み、逃げて3着。そして春の大一番を迎えた。
レースは逃げ・先行勢が後続を引き離して逃げる縦長の展開。トーセンジョーダンはちょうど真ん中あたりの位置取りにつけた。二周目の第三コーナーを過ぎても前と後ろの差は大きく開いたまま。最終コーナーでも前二頭と三番手以下の差は10馬身はついているだろうか。
場内がざわめく中、伏兵のビートブラックが先頭に立ち大きなリードを保ったまま最後の直線へ。ビートブラックがこのまま悠々と逃げ切り濃厚となると、後方の有力馬は到底届かないという状況の中からしぶとく伸びてきたトーセンジョーダンが2着に上がってゴールした。
圧倒的1番人気のオルフェーヴルが11着と大敗する波乱のレースとなった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
裂蹄再び
その後は宝塚記念をパスして札幌記念の連覇を目指したが、再び裂蹄を発症して夏場を療養と休養にあてられた。
復帰
秋の天皇賞で復帰したが、エイシンフラッシュの13着と大敗。つづくジャパンカップでは、3歳牝馬のジェンティルドンナとオルフェーヴルの三冠馬対決で盛り上がる中、優勝争いに加わることはできず6着までだった。
7歳以降
不振続き
7歳以降も間隔を開けて休み休みのローテーションを余儀なくされ、成績は徐々に不振続きとなっていく。7歳から8歳にかけてそれぞれ4戦ずつ、計8レースに出走したものの6レースが二桁着順と精彩を欠いた。
その中でも、7歳の秋に挑んだジャパンカップではあわやというレースぶりを見せてくれた。ジェンティルドンナが連覇を達成したレースで、11番人気ながらハナ+クビ差の3着という大接戦を演じてみせたのだ。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
引退
8歳のジャパンカップ14着を最後に引退・種牡馬入りが決まったトーセンジョーダン。常に蹄の状態との戦いでもあった。それと同時に、これだけ長く第一線で活躍したにも関わらず、主戦騎手が定まらなかったのも同馬の特徴かもしれない。8人の外国人ジョッキーを含む、延べ15人以上の騎手を背中に乗せ、6年にわたる現役生活を走りきった。
今なお破られないレコード
トーセンジョーダンが天皇賞・秋で記録した芝2000mのJRAレコードは、2022年現在でも破られていない。高速化が進む日本の芝レースにおいて、10年以上も更新されないレコードというのは驚くべきものである。しかも、各競馬場で行われる2000mという根幹距離でのものだから尚更偉大な記録と言える。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、トーセンジョーダン。
史実のトーセンジョーダン
基本情報 | 2006年2月4日生 牡馬 鹿毛 |
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血統 | 父 ジャングルポケット 母 エヴリウィスパー(父ノーザンテースト) |
馬主 | 島川隆哉 |
調教師 | 池江泰寿(栗東) |
生産者 | ノーザンファーム(北海道安平町) |
通算成績 | 30戦9勝 |
主な勝ち鞍 | 11’天皇賞(秋) |
生涯獲得賞金 | 7億506万円 |
エピソード① 栗東のボス
トーセンジョーダンと言えば、栗東トレセンのボス馬だったというエピソードが有名だ。同厩舎の先輩だったドリームジャーニー(三冠馬オルフェーヴルの兄)から厩舎のボスの座を引き継ぐと、次第に影響力を拡大して栗東全体のボスに君臨したとか。
群れで生活する習性があるお馬さんの社会では、群れを統率するボスが存在するという。これは野生でも、多くの馬が生活するトレセンでも同じこと。いつの時代にも群れをまとめるボス馬がいたのだ。
ボスと言っても、単に喧嘩が強いとかそういうことではないらしい。草食動物が生き抜くために必要な賢さを備え、群れを率いるリーダーシップに長けた、いわば「頼れる先輩」といったところか。
ウマ娘でのトーセンジョーダンは友だちが多く、面倒見が良くて仲間からの信頼も厚い。これは馬社会におけるボス像を反映したものなのだろう。
エピソード② トーセンジョーダンとゴールドシップ
ボス馬と関連してもうひとつ、トーセンジョーダンは3つ歳下のゴールドシップに目の敵にされていて、いつも蹴りを入れられそうになっていたという逸話がある。
きっかけはトーセンジョーダンがゴールドシップを威嚇したことではないかと言われている。トーセンジョーダンからしてみれば、トレセンの平和を守るボスとして「気が荒くて何をしでかすか分からないちょっとヤバい奴が来たらしい」と聞いて睨みを効かせただけかもしれないが、ゴールドシップにはそれが気に食わなかったのだろう。
威嚇された相手を蹴りたい衝動にかられて、近くにトーセンジョーダンがいると分かるといつも暴れていたらしい。
エピソード③ 種牡馬として
ジャングルポケットの後継種牡馬として大きな期待を集めたトーセンジョーダン。父父トニービン→父ジャングルポケットというサイアーラインは東京2400m(ダービーやジャパンカップ)を始めとした大舞台向きの血統。産駒からは大物が出ることが期待されたが、残念ながらこれまでの産駒成績は振るわず年々種付け数も減少の一途をたどっている。
そんな中、つい先日のメイクデビュー新馬戦で数少ないトーセンジョーダン産駒の中から久しぶりの勝ち馬が出た。バリアントバイオという2歳馬が阪神ダート1800mのデビュー戦で8馬身差の圧勝。トーセンジョーダンの種牡馬としての評価のためにも今後の活躍が期待されるところだ。
今週の一枚
今週もNumberコラボのフィルターを使用した一枚。
いつも絡まれているゴールドシップとの真剣勝負
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