競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第13回。今回は奇跡の名馬「トウカイテイオー」について熱く語ります。
奇跡の名馬 トウカイテイオー
競馬のロマンが詰まったスター
引用元:JRA日本中央競馬会
トウカイテイオーにまつわるエピソードと言えば、皇帝の息子、父子二代の無敗二冠馬、度重なる骨折、奇跡の復活。パッと並べてみてもこれほどドラマチックな競走馬はなかなかいない。
競馬のロマンと過酷な試練、すべてが凝縮された奇跡の名馬トウカイテイオーの史実を振り返る。
皇帝の仔
テイオー
トウカイテイオーの父は、言わずとしれた七冠馬シンボリルドルフである。史上初の無敗の三冠馬であり、数々の記録を打ち立てた名馬中の名馬シンボリルドルフの、種牡馬入りして初年度の仔の一頭がトウカイテイオーだ。
2歳時
デビュー前
牧場時代からバネのある柔軟な身体から繰り出される大きなフットワークは関係者の期待を集め、育成牧場に移って本格的な調教が開始されるとさらにその評価は高まっていった。トウカイテイオーを管理することになった松元調教師も早くからその素質を高く評価し、デビュー前から翌年のダービーを意識したローテーションを計画するほどだった。
メイクデビュー
デビューは12月の中京競馬場、芝1800m戦。ダービーが行われる東京競馬場と同じく左回りのコースを経験させたいということで中京が選ばれた。不良馬場で行われた新馬戦を、中団から徐々にポジションを上げると、直線で4馬身突き放す圧勝。評判通りの走りでメイクデビューを勝利で飾った。
2連勝
2戦目は12月23日、京都競馬場の芝2000mで行われたシクラメンステークス。3番人気のトウカイテイオーが、レース経験で勝る上位人気馬を相手にあっさり勝利。またしても余裕たっぷりの2馬身差。2連勝でその実力を証明した。
ちなみに同じ日、中山競馬場で行われた有馬記念では芦毛の怪物オグリキャップが劇的なラストランを魅せ、引退の花道を飾った。
3歳時
4連勝でクラシックへ
年が明けて3歳になったトウカイテイオー。2連勝でクラシック路線に乗ったトウカイテイオー陣営は、そこからいわゆる裏街道でクラシックを目指すことを決める。クラシック有力馬が揃う重賞レースや前哨戦での消耗を避けるための選択だった。
そして京都2000mの若駒ステークスで3連勝、初の関東での競馬となった中山2000mの若葉ステークスも難なく制して4連勝。無敗でクラシック本番を迎えることとなった。
皐月賞
そしてクラシック初戦の皐月賞。ここまで4戦して、一度も鞭を使わずに楽勝してきたトウカイテイオーは、重賞戦線を戦い抜いてきた馬たちを差し置いて1番人気に支持された。前哨戦の弥生賞を勝ったイブキマイカグラが続く2番人気。3番人気のシンホリスキーには若駒ステークスですでに勝っていたため、トウカイテイオーにとって初対戦となる有力馬はほかには見当たらなかった。
曇天の中山競馬場、馬場状態は稍重。荒れた馬場状態だった。大外18番枠からスタートしたトウカイテイオーは、中団につける。終始外側を周りながら、3~4コーナーでスーッと先行集団まで位置取りを上げていく。抜群の手応えで直線に向くと、芝が剥げた馬場をものともせずに抜け出す。外から猛然と追い上げる伏兵のシャコーグレイドが迫ると、グッと加速してそれを突き放してゴール。1馬身差の着差以上に余裕のある勝利だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
クラシック1冠目を制したトウカイテイオーの鞍上で安田隆行騎手は、天に向けて指を1本掲げた。父シンボリルドルフと岡部幸雄騎手が三冠レースで見せたのと同じパフォーマンスだった。
日本ダービー
5戦5勝の無敗で皐月賞を制し、父シンボリルドルフと同じ無敗の三冠制覇へと道を歩みだしたトウカイテイオー。二冠目となる日本ダービーでは更に支持率を上げて単勝オッズ1.6倍と断然の1番人気。青葉賞を勝って駒を進めてきたレオダーバンが離れた2番人気となった。
皐月賞に続いて大外20番枠に入ったトウカイテイオーは、好スタートから先行集団のやや後ろ6〜7番手につける。いつでも仕掛けられるという絶好位のまま最終コーナーを周って直線に差し掛かると、馬場の外を楽な手応えで先頭に並びかける。
あとは独壇場だった。広い東京競馬場の直線の真ん中を楽々と突き抜けると、そのまま後続を寄せ付けず余裕たっぷりでゴール。2着レオダーバンに3馬身差をつけての二冠達成は、もはや同世代に敵なしを印象づける圧勝だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
レース後、安田騎手は2本指を掲げてみせた。
日本ダービー後
ここまで6戦6勝でダービーを制し、無敗の二冠馬となったトウカイテイオー。皐月賞、ダービーの余裕のある勝ち方からは、父シンボリルドルフと比較しても引けを取らない、むしろこの時点で上回っているとの評価まで出ていた。そして無敗での三冠達成は間違いないと目されていたのだが…
アニメを観たトレーナーにはご承知のとおり、ダービーのレース後に骨折が判明。全治六ヶ月の診断により、菊花賞は断念せざるを得なかった。トウカイテイオーはこの時すでに、前年末の有馬記念をもって引退したオグリキャップに代わるスターとなっていた。この競馬界を牽引するスターの骨折はNHKでも報じられ、全国のファンが大きく落胆する出来事となった。
4歳時
ケガからの復活
ダービー後は治療に専念し、年内を休養。そしてトウカイテイオー4歳の春、長いブランクからの復帰戦はG2産経大阪杯に決まった。ダービーから10ヶ月以上の長期休養明けにも関わらず、ファンはトウカイテイオーを単勝オッズ1.3倍の一番人気に支持。同世代のイブキマイカグラは菊花賞2着以来で2番人気となった。ちなみにその菊花賞を勝ったのはダービー2着のレオダーバン。この結果からも、休み明けとは言え同世代に敵なしという評価は変わっていなかった。
トウカイテイオーはその期待に見事に応えた。好スタートから3番手につけると、まったく危なげなく復帰戦を勝利で飾り、健在ぶりをアピールしてみせた。このレースから手綱を握ったのは父とコンビを組んだ岡部幸雄騎手だった。
世紀の対決
待っていたトウカイテイオーの復帰。そして早くも次なる戦いが注目を集めていた。古馬の一線級との対戦である。向かう先、天皇賞(春)の舞台で待ち受けるのは、古馬の最強馬メジロマックイーン。ウマ娘プリティーダービーのアニメ第2期でも描かれた、最強はどちらか!?を決める対決である。
無敗の二冠馬トウカイテイオーは、骨折休養明けの産経大阪杯を勝って7戦7勝と無敗を継続中。産経大阪杯時のインタビューで岡部騎手が「地の果てまでも走れそう」とコメントしたことで、未知の長距離に対する不安もないものと捉えられていた。
対するメジロマックイーンは前年の同レース覇者。前年秋の不振から抜け出し、G2阪神大賞典を勝ってここにきていた。マックイーンの鞍上、武豊騎手が「あっちが地の果てなら、こっちは天まで昇りますよ」とコメントしたことは有名である。
ゲーム内の育成ストーリーでもこのエピソードを元にしたテイオーとマックイーンの掛け合いが再現されている。
天皇賞(春)
いよいよ世紀の対決当日、最強はトウカイテイオーかメジロマックイーンか。人気では1番人気トウカイテイオー1.5倍、2番人気メジロマックイーン2.2倍となり、3番人気のイブキマイカグラは18.2倍という完全なる2強ムードだった。
レースは、メジロパーマーが逃げてペースを握る展開。5,6番手付近で追走するメジロマックイーンと、それを直後でマークするトウカイテイオーという形。スローな流れの中メジロマックイーンはジワジワと位置を上げ、4番手で落ち着く。
そして3,4コーナーで早くも先頭に並びかけると、ピッタリとマークするように外からトウカイテイオーも上がっていく。直線で2頭のマッチレースになる予感がしたが、直後に裏切られることになった。荒れた馬場を力強く抜け出すメジロマックイーンに対し、伸びあぐねるトウカイテイオー。2強対決を制したメジロマックイーンが、史上初の天皇賞(春)連覇を果たした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
直線で伸びを欠いたトウカイテイオーは5着。8戦目にして初めての敗北を喫した。
2度目の骨折
レースの約10日後、トウカイテイオーの骨折が判明。右前脚の剥離骨折で程度は比較的軽かったが、春シーズンの予定は白紙となり、再び休養期間に入った。夏の間、育成牧場で治療しながらリフレッシュし、秋の復帰を目指していたが、熱を出して調教を休むなど思うように調子が上がらない。G1シーズンに入る前に一度レースに使いたいところだったが、復帰戦は秋の天皇賞にぶっつけ本番で挑戦することが決まった。
天皇賞(秋)
迎えた復帰戦、秋の天皇賞当日。トウカイテイオーの調子はどうか。2度目の骨折休養明け、春の天皇賞での敗戦以来という不安要素があったが、それでもファンはトウカイテイオーを1番人気に支持した。最強のライバル、メジロマックイーンはこちらも骨折で戦線離脱。確固たるライバルが不在の中、レースは意外な展開となる。
メジロパーマーとダイタクヘリオス、曲者の逃げ馬2頭がスタート直後から激しい主導権争いを繰り広げる。そして珍しくかかってしまったトウカイテイオーがそれを追いかけて3番手という位置取り。ペースは息をつけないハイペースとなり、最終コーナー手前で早くもメジロパーマーが脱落。最後の直線で内からしぶとく伸びてきそうなトウカイテイオーも手応えはいっぱいいっぱいとなり、残り100mで一気に後続に交わされて7着。先行勢は総崩れとなる消耗戦で惨敗してしまった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ジャパンカップ
無敵の連勝街道から一転しての連敗。ケガの影響で以前のような走りはもう見られないのか。そんな憶測もささやかれる中、トウカイテイオーは父シンボリルドルフも制したジャパンカップに向かう。この年から国際G1に認定されたジャパンカップには、当時最強クラスの海外勢が来日し「史上最強メンバー」と言われるほどの豪華な海外勢が揃った。
強豪海外勢に人気を譲って5番人気というトウカイテイオー。日本馬の中では最上位の支持だったが、初めて気楽な立場とも言える人気での出走となった。スタート後、先行集団を見る5番手あたりに落ち着き、ジッと脚を溜めるトウカイテイオーと岡部騎手。最終コーナーでペースが上がると、外からいい手応えでスーッと先頭集団に並びかける。ダービーで見たような、抜群の手応えに見える。そして大歓声の中直線で抜け出し、海外勢との激しい叩き合いを制して先頭でゴール。ダービー以来となるG1勝利、そして父子でのジャパンカップ制覇を成し遂げた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
有馬記念
輝きを取り戻したトウカイテイオーは、ファン投票1位で年末のグランプリレース有馬記念に出走する。ジャパンカップ後の調整も万全。しかし、このレースで生涯最低となる11着と大敗。しかも序盤から後方のまま見せ場もなかったレースぶりからケガの心配がされた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
結果的に、トウカイテイオーはレース中に筋肉を痛めていたことが判明。有馬記念後に放牧に出された。
5歳時
三度目の長期休養
筋肉のトラブルも癒え、復帰レースとして宝塚記念を目指していたトウカイテイオーだったが、直前にまたしても剥離骨折が判明。メジロマックイーンとの再戦が期待されていたがそれも叶わなかった。これで三度目の骨折。前年はジャパンカップこそ勝利したものの、不安定な成績に終始した。さすがにトウカイテイオーも復活は難しいのではないか、という雰囲気は否めなかった。
364日ぶり
トウカイテイオーの復帰レースは、前年の有馬記念からちょうど一年後の有馬記念。じつに364日ぶりのレースである。さすがに三度目の骨折明け、364日ぶりという長いブランクを考えると厳しい戦いになるのは目に見えている。そしてこの年は活きの良い3歳世代、BNW世代のビワハヤヒデやウィニングチケットに、古馬勢では同年のジャパンカップを制したレガシーワールドやライスシャワーなどハイレベルなメンバー構成だった。
有馬記念
1年ぶりの有馬記念、トウカイテイオーはビワハヤヒデ、ウィニングチケットらに続く4番人気。トウカイテイオーは内目の4番枠からスタートすると、中団のインで先行勢を見る位置取り。1番人気のビワハヤヒデは先行集団、3,4番手につける。インコースで虎視眈々と構えるトウカイテイオーは、向こう正面から最終コーナーにかけて徐々に順位を上げ、直線の入り口ではインコースから先行集団を射程圏に捉えた。
先に抜け出すビワハヤヒデに、馬体を併せて並びかけるトウカイテイオー。2頭の追い比べになったが、勢いはトウカイテイオーが勝っていた。ビワハヤヒデを半馬身差で退けて先頭でゴールを駆け抜けた時、日本中の競馬ファンが感動に震えた。実況を担当したアナウンサーの興奮も伝わってくる。こんな劇的な物語は、信じていたファンですら思い描けなかったかもしれない。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
364日というレース間隔でのG1勝利はJRAでの最長記録であり、現在も塗り替えられていない。
奇跡の馬
競馬のドラマは終わらない
奇跡の復活を遂げたトウカイテイオーは、翌年も現役を続行したが、未出走で引退している。筋肉のケガ、4度目の骨折と度重なる故障で結局最後までレースに戻ることができなかったためだ。結果的にラストランとなった有馬記念はまさに奇跡の勝利だった。
三度も骨折した馬が最後の最後、1年ぶりに出てきた有馬記念を勝って引退。そんなことが成し得るのか。トウカイテイオーの人気や評価の裏付けは、その強さだけでなくドラマチックな生い立ちや競争生活、トウカイテイオーの人生(馬生?)そのものにある。
この年、トウカイテイオーと入れ替わるようにビワハヤヒデは最強の座につき、その弟ナリタブライアンが三冠馬となる。世代交代を繰り返しながらも、競馬のドラマが終わることはない。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、トウカイテイオー。
史実のトウカイテイオー
基本情報 | 1988年4月20日生 牡 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 シンボリルドルフ 母 トウカイナチュラル(父 ナイスダンサー) |
馬主 | 内村正則 |
調教師 | 松元省一(栗東) |
生産牧場 | 長浜牧場(北海道・新冠町) |
通算成績 | 12戦9勝 |
主な勝ち鞍 | ’93有馬記念(GI),’92ジャパンC(GI),’91日本ダービー(GI),’91皐月賞(GI) |
生涯獲得賞金 | 6億2,563万円 |
エピソード①
帝王は、皇帝を超えたか。
久しぶりにJRAのポスターシリーズ、ヒーロー列伝を紹介しよう。
帝王は、皇帝を超えたか。
引用元:JRAポスター ヒーロー列伝(No.36)
トウカイテイオーと父シンボリルドルフが比較されることは必然だが、JRAの公式ポスターで馬同士の比較をするというのは珍しい。そこは父子ならではということか。
エピソード②
テイオーステップ
トウカイテイオーに騎乗したことのある騎手をはじめ厩舎、牧場関係者などが口を揃えて言うのが、身体の柔軟性と、そこからくる乗り心地の良さである。関節の柔らかさ、柔らかくて全身がバネのような筋肉を持ち合わせたトウカイテイオーの乗り心地について、すべての関係者が絶賛しているのだ。また、関節の柔軟性とも関係しているのがテイオーステップとも呼ばれる独特の歩き方。
鶏跛(けいは)という歩き方で、鶏のように脚を跳ね上げながらリズミカルに歩くことからこのように呼ばれる。トウカイテイオーはパドックや馬場入り後にもこの独特の歩き方を披露していた。最後の有馬記念ではレース前、364日ぶりの芝コースをルンルンでステップしているようにも見え、1年休んだトウカイテイオーは気力がみなぎり、絶好調だったのではという意見もある。
エピソード③
奇跡の血
トウカイテイオーの母トウカイナチュラルの祖先をたどると、ヒサトモという牝馬にたどり着く。戦前、はじめて牝馬として日本ダービーを制した名牝である。トウカイテイオーの馬主である内村氏が、すでに消滅寸前であったこのヒサトモの血を継ぐトウカイクインという繁殖牝馬を購入。トウカイテイオーの3代母(母の母の母)だ。内村氏はこのヒサトモの血を残すためにトウカイクインの仔、そのまた仔と代々自身の所有馬として大切にその血筋を繋ぎ止めた。
やがてトウカイローマンというオークス馬が生まれる。その妹トウカイナチュラルは脚元が弱く未出走で繁殖牝馬となった。シンボリルドルフが引退して種牡馬となり、その種付け権を手に入れた内村氏は当初、オークスを勝ったトウカイローマンとルドルフを交配するつもりだったが、トウカイローマンが現役続行したために妹のトウカイナチュラルと交配された。そして産まれたのがのちのトウカイテイオーなのである。
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