競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第78回。今回は、異例のローテーションでダービー馬となった「タニノギムレット」について熱く語ります。
変則ローテのダービー馬
悲運のダービー馬
2023年の今年で90回目を迎える日本ダービー。その歴代勝ち馬はいずれも世代の頂点に相応しい名馬ばかりだが、それと同時にダービーという過酷な頂上決戦を戦い抜いたあと勝てなくなってしまったり、故障により早期引退を余儀なくされた馬も少なくない。
今回は、そんな悲運のダービー馬の一頭、第69回ダービー馬タニノギムレットの史実を追っていく。
異例の変則ローテーションが結実
育成ウマ娘として実装されたばかりのウマ娘、タニノギムレット。
彼女の公式プロフィールにもあるとおり、マイルと中距離どちらも重要視するのは、史実のタニノギムレットが歩んだローテーション、ひいてはタニノギムレットを管理した調教師が貫いたこだわりのローテーションを反映してのものだろう。
同期はシンボリクリスエス
タニノギムレットと同世代にいるシンボリクリスエスとは実は史実では一度しか対戦していないが、それはタニノギムレットが早くに引退してしまったためで、無事であればシンボリクリスエスが活躍した秋のG1戦線でも一緒に名勝負を繰り広げてくれたはずだ。
Youtubeで展開されていたショートアニメ「うまゆる」で人気だった二人の掛け合いも記憶に新しい。
血統
父ブライアンズタイム
タニノギムレットの母タニノクリスタルは、現役時代40戦3勝と長くタフに走った。父は三冠馬ナリタブライアンの父として有名だが、サンデーサイレンス、トニービンと共に長きにわたりトップ種牡馬として君臨した名種牡馬だ。
ナリタブライアンやマヤノトップガンのように芝の中長距離で活躍するタイプからダートのチャンピオンホースまで幅広く排出した万能種牡馬だった。
2歳時
メイクデビュー
栗東の松田国英厩舎に入厩したタニノギムレット。仕上がりは早く、8月の札幌競馬場ダート1000m新馬戦でデビューを迎える。デビュー戦の鞍上は横山典弘騎手で、1番人気に推されたが中団から差して届かず2着に敗れた。
その後、尻尾の骨折という珍しい部位の怪我を負っていることがわかり治療のため休養に入る。
復帰
怪我が癒えて戦列に復帰したのは12月の阪神芝1600m未勝利戦。四位洋文騎手を背にしたタニノギムレットは、3番人気ながら2着に7馬身差をつける圧勝で初勝利を挙げた。
芝ダート問わず活躍馬を出すブライアンズタイム産駒だったが、芝に変わって素質の片鱗を伺わせた。
3歳時
シンザン記念
年が明けて3歳になると、G3シンザン記念(京都芝1600m)で重賞に挑戦。武豊騎手に乗り替わり、単勝2.2倍の1番人気となる。
道中3,4番手につけて直線で抜け出すと、2着馬を半馬身差しのいで先頭でゴール。重賞初制覇を達成した。
アーリントンカップ
重賞ウィナーとなったタニノギムレットは、2月の阪神で行われるG3アーリントンカップでマイル重賞連勝を狙う。武豊騎手とのコンビ継続で単勝オッズは1.3倍と断然の1番人気だ。
スタートすると、中団待機で脚を溜める。直線に向くと鋭い末脚を繰り出してあっという間に抜け出して快勝。2着に3馬身半差をつける圧勝、勝ち時計も好タイムでマイル適性の高さを印象付けた。
スプリングステークス
1戦ごとにレースぶりが良くなり、ここまで芝のマイル戦で3連勝。しかしクラシックへ向かうには距離が延びてどうかという課題もあった。
タニノギムレット陣営は皐月賞トライアルのG2スプリングステークスに中2週で出走。この時、主戦の武豊騎手は先の中山開催中のレースで落馬負傷を負って療養中のため未勝利戦でタニノギムレットを勝利に導いた四位騎手に乗り替わりとなった。
スタートすると後方につけて追い込み策。これが今まで以上にタニノギムレットの切れ味を引き出し、直線一気の末脚で4連勝を果たした。距離がもう1ハロン延びる皐月賞もこれなら、と思わせるレースぶりだった。
皐月賞
迎えるクラシック一冠目の皐月賞。ここまで重賞3連勝中のタニノギムレットは四位騎手とのコンビ継続で堂々の1番人気に支持される。2番人気以下が混沌とした混戦模様だった。
ゲートが開くと、ポーンと好スタートをきったタニノギムレット。手綱を抑えて後ろに下げると、後方から4,5番手で折り合いをつける。スプリングステークスと同様に後方で脚を溜める展開だ。
淀みのないペースで進み、縦長の馬群は3,4コーナーに差し掛かる。徐々に仕掛けられた各馬が横に大きく広がって最終コーナーを周る。大外を回ったタニノギムレットが直線に差し掛かったころ、前との差は依然大きく、とても届かないという位置取りに見えた。
中団からロスなく進出してきた伏兵ノーリーズンが先行勢を捉えて力強く抜け出すと、独走態勢に。大外から猛然と追い上げてくるタニノギムレットが、ようやく熾烈な2番手争いに加わったところがゴールだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
勝ったノーリーズンは同じブライアンズタイム産駒で、15番人気の大穴だった。2着に粘ったタイガーカフェも8番人気の人気薄で、馬連配当は5万円を超える大荒れでの決着となった。タイガーカフェとハナ差の3着となった1番人気タニノギムレットは、位置取りの差が大きく響いた印象で負けて強しのレース内容だった。最後の直線での伸びは際立っており、直線の長い東京コースに替わるダービーでの雪辱が期待された。
変則ローテーション
NHKマイルカップ参戦へ
ダービーに進むと思われたタニノギムレット陣営は、中2週でNHKマイルカップへの参戦を発表。マイル適性は重賞3勝の実績が証明済みで疑う余地もなく、武豊騎手が怪我から復帰したこともこの選択を後押ししたのだろう。
皐月賞までにすでに4戦を消化していたこともあり、厳しいローテーションとなるが、もとより松田国英調教師はレースを使って馬を強くするというスタイルを貫いてきた。そして、「マイルと2400mでG1を勝てば種牡馬としての価値が高くなる」という持論で、前年にも管理馬のクロフネでNHKマイルカップ(1着)→日本ダービー(5着)のローテーションを実行済みだった。
NHKマイルカップ
そして迎えたNHKマイルカップ。タニノギムレットと武豊騎手は単勝オッズ1.5倍と抜けた1番人気を背負って出走。
後方待機策から府中の長い直線で末脚にかけたが、直線の仕掛けどころで進路が狭くなる不利が響いてまたしても3着。
レース終了後、1位入線したテレグノシスの斜行・進路妨害を巡って20分にもおよぶ長い審議が行われた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ウマ娘のタニノギムレットはこんなセリフで当時の議論をサラリと受け流してみせる。
悲願成就
日本ダービー
不完全燃焼の記憶もまだ新しいまま、悲願のG1制覇をかけてNHKマイルカップから再び中2週のローテーションで日本ダービーに出走する。1番人気のタニノギムレットと、皐月賞馬ノーリーズン、そして青葉賞を快勝してきた外国産馬シンボリクリスエスの3頭に注目が集まった。
2枠3番から好スタートを決めると、いつも通り控えて後方待機策。内に包まれることを避けるように慎重なコース取りで、シンボリクリスエスをマークするポジションで折り合いをつけた。
そのままスムーズなレース運びで府中の長い直線を迎えると、馬場の外目から手応えよく上がっていくのはシンボリクリスエス。
さらに外に出したタニノギムレットと武豊騎手は、前方の進路が開くと一気にギアを上げてシンボリクリスエスを捉えるとそのまま先頭へ突き抜けた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
この馬が一番強いと信じて支持し続けたファンの期待に応え、世代の頂点を決めるダービーの舞台で最高の結果を出してみせた。怪我からカムバックして間もない武豊騎手は史上最多のダービー3勝目という偉業を達成した。
秋に向けて
怪我で引退
ダービー後は連戦の疲れを癒やしながら秋に備える。そして秋の始動に向けて本格的な調教を再開した矢先に脚元に違和感を発症。検査の結果、左前浅屈腱炎との診断が下った。
全治6ヶ月の診断で復帰への道は険しく、関係者による協議の結果種牡馬入りが決まった。タニノギムレットにはブライアンズタイムの後継種牡馬としての期待も大きかった。そして、この決断は種牡馬としてのタニノギムレット最初の年に実を結ぶことになるのである。
続きはウマ娘で
現役時代で唯一の対戦となったダービーで二着に下したシンボリクリスエスは、その年の秋に天皇賞と有馬記念を勝ち、さらにその翌年には秋の天皇賞と有馬記念のダブル連覇を達成した。
タニノギムレットが無事であれば、いくつの名勝負が見られただろうかと思いふけってしまうのだが、それを叶えてくれるのがウマ娘。実装されたばかりのタニノギムレットの育成ストーリーを筆者はまだ体験していないが、共にシニア級になった二人の対決を見るのが楽しみである。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、タニノギムレット。
史実のタニノギムレット
基本情報 | 1999年5月4日生 牡馬 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 ブライアンズタイム 母 タニノクリスタル(父クリスタルパレス) |
馬主 | 谷水雄三 |
調教師 | 松田国英(栗東) |
生産者 | カントリー牧場(北海道静内町) |
通算成績 | 8戦5勝 |
主な勝ち鞍 | 02’日本ダービー |
生涯獲得賞金 | 3億8601万円 |
エピソード①種牡馬として
故障による早期の引退は残念だったが、それによって一頭の歴史的名馬が誕生することになる。タニノギムレットの初年度産駒の一頭、ウオッカだ。
64年ぶりに牝馬としてダービーを制して父娘ダービー制覇という偉業を達成したほか、G1を7勝して顕彰馬にも選出された。
得意の東京競馬場であればマイルから2400mまでこなしたウオッカの活躍ぶりは、タニノギムレットが挑んだNHKマイルカップからダービーという変則ローテーションの歩みとも重なって見える。願わくばタニノギムレット、ウオッカの血を継ぐ馬が府中の大舞台で躍動する姿をまたこの目で見たいものだ。
エピソード②破壊王誕生
種牡馬引退後はYogiboヴェルサイユリゾートファームで功労馬として余生を送っているタニノギムレット。そこで放牧地の牧柵を後ろ蹴りで破壊しまくったタニノギムレットは破壊王という新たな称号を獲得し、人気者に。
このイメージもあってか、ウマ娘でのタニノギムレットのキャラクターはかなりイカレ…個性的であり、無料で4話まで視聴可能なストーリー内でも存分に楽しむことができる。
声優さんの振り切った演技も相まって筆者も思わず笑ってしまった。
破壊された牧柵で作られたグッズも大人気のタニノギムレットは、先日24歳の誕生日を迎えたばかりだ。公式サイトではバースデードネーションも募集され年を経るたびに話題となっている。
2023年5月現在、存命のダービー馬としては最高齢のタニノギムレット。緑内障を患っているとの情報もあるが、まだまだ元気な姿をファンに見せて欲しいものだ。
何を隠そう筆者の家にも昨夏ヴェルサイユリゾートファームへ行った際に買ってきたタニノギムレットのグッズがいくつかある。
※ここで改めて牧場見学の9箇条を掲載する。牧場見学の際は見学のルールを守って見学を。
今週の一枚
シンボリクリスエスと有馬記念で対戦。そんなIFのレースが見られるのもウマ娘ならでは。
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