競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第87回。今回は、脈々と継がれてきた女傑の血を後世に継ぐ二冠馬「ドゥラメンテ」について熱く語ります。
偉大な血はウマ娘でも競馬でも
アニメ3期最強のライバル
2023年秋は、ウマ娘でもリアル競馬でもキタサンブラックとともに常に話題の中心にいたのはドゥラメンテだった。
ウマ娘のアニメ3期では、開始直後に主人公キタサンブラックに立ちはだかる最強のライバルとしてサプライズ登場して瞬く間に話題をさらい、リアル競馬ではアニメ3期世代の産駒たちが大活躍。中でもドゥラメンテの存在感は際立っていた。
2024年最初の当コラムでは、偉大な女傑の血を継ぐ宿命の二冠馬・ドゥラメンテの史実を追っていく。
アニメ2話場面カットより
血統
祖母は女傑エアグルーヴ
ドゥラメンテの母アドマイヤグルーヴは、現役時代にG1エリザベス女王杯2連覇をはじめ重賞5勝の実績を残した。何より、その母はウマ娘でもよく知られる女傑エアグルーヴ。ダイナカールとの母娘オークス制覇や、牝馬として17年ぶりの天皇賞制覇、同じく牝馬として26年ぶりの年度代表馬選出など数々の記録を残したうえに、繁殖牝馬としても多くの活躍馬を輩出し今なお発展を続ける有数の名牝系を築いた。
そんな偉大な母の後継者アドマイヤグルーヴは、名種牡馬キングカメハメハとの間に6頭目の産駒となる牡馬を産んだその年の秋に12歳の若さで急逝。のちにドゥラメンテと名付けられた牡馬が母の忘れ形見となった。
2歳時
メイクデビュー
10月12日の東京競馬場、芝1800mの新馬戦でデビュー。例年、G2毎日王冠が行われる同日の同条件(芝1800m)ということで、新馬戦とは言え注目の一戦。育成時代から目を引く動きを見せていたドゥラメンテは、その血統背景も手伝ってファンの期待を集め、単勝オッズは1.4倍となった。
そんなドゥラメンテの注目のデビュー戦は、出遅れ気味のスタートで後手を踏んだことも響き、上がり3ハロン最速の末脚で追い込んだもののわずかに届かず2着となった。
初勝利
2戦目は、中2週で11月8日の未勝利戦(東京芝1800m)に出走。鞍上には短期免許で来日中の名手ムーア騎手を迎え必勝の構えだ。
ゲートでは落ち着かない動きを見せたものの五分のスタートを切って、好位で折り合う。そして直線に入ると楽に抜け出して後続を突き放し、6馬身差をつけて快勝した。
単勝オッズ1.2倍に応えて初勝利をあげたものの、ゲート内で暴れて立ち上がったことでゲート再審査を課されることとなった。
3歳時
2勝目
ゲート再審査をパスして臨んだ年明け初戦は、1勝クラスのセントポーリア賞(東京芝1800m)。3ヶ月の休み明けで馬体重は+14キロと増加し、心身ともに成長が伺えた。
レースでは課題のゲートをスムーズに出ると、中団から難なく先頭に躍り出て5馬身差の圧勝。血統に違わぬスケールの大きさを感じさせる2連勝でクラシック戦線へと歩みを進めた。
皐月賞へ向けて
クラシック出走のためには、さらに賞金を加算するかトライアルで優先出走権を獲得する必要がある。陣営は、中1週で共同通信杯への出走を選択。これまで結果を残している府中1800mの舞台で賞金加算を目指すこととなった。
前走から継続騎乗となった石橋脩騎手を背に初重賞の舞台に登場したドゥラメンテ。ここでも単勝1倍台の圧倒的な1番人気を背負ったドゥラメンテだったが、新たな課題を露呈してしまうレースとなった。
好スタートを決めると、先行する前二頭をかかり気味に追走。どうにかなだめて中団まで下げると、迎えた最後の直線。外から豪快に末脚を繰り出して突き抜けるかと思われたが、最後に甘くなりインを突いたリアルスティールに先着を許した。序盤のロスが響いた格好の敗戦だった。
勝ったリアルスティールはデビューから2連勝で、一躍クラシックの有力候補に名乗りを上げた。
これほどまでに強いのか
皐月賞
クラシック一冠目の皐月賞へは、トライアルを使わず直行。賞金順で除外の可能性もあったが、無事に出走が叶うと、新たなパートナーに迎えたのはこの年にJRA騎手免許を取得して移籍したミルコ・デムーロ騎手。
1番人気は無傷の3連勝でトライアルの弥生賞を勝ったサトノクラウン。差のない2番人気にリアルスティール、続く3番人気にドゥラメンテ。前哨戦のスプリングステークスでリアルスティールに黒星をつけてここまで無敗のキタサンブラックが4番人気と混戦模様となっていた。
皐月賞のレース展開と結果は御存知の通り。内枠の2枠2番からスタートしたドゥラメンテとデムーロ騎手。序盤から後方のインにつけていたドゥラメンテは、勝負どころから内を突いて徐々に進出を開始すると、最終コーナーを回り切ったところで大きく外へ飛び跳ねるように斜行。
サトノクラウンら他馬と接触しそうになりながらも態勢を立て直して一気に加速すると、ただ一頭ケタ違いの末脚を繰り出してまとめて前を差し切ったのだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
斜行によってデムーロ騎手が騎乗停止処分を受けることとなったが、自ら作り出した絶望的な状況からの圧勝劇は、強烈な印象を残した。ウマ娘アニメ3期の1話冒頭でこのシーンが描かれたことは記憶に新しい。ちなみにウマ娘のアニメやアプリではフジテレビ版(カンテレ版のレース動画を参照)の実況を再現したセリフが使われている。
4代G1制覇
皐月賞制覇により、母アドマイヤグルーヴ、祖母エアグルーヴ、曾祖母ダイナカールまで遡っての母子4代G1制覇という偉業を達成した。また、活躍馬に牝馬が多かった同一族にとって待望の牡馬クラシック制覇でもあった。
二冠達成
日本ダービー
続く日本ダービー。皐月賞馬ドゥラメンテの単勝オッズは1.9倍と断然の1番人気となった。皐月賞では惜しくもドゥラメンテに差されて2着だったリアルスティールが2番人気、サトノクラウンが3番人気と続いた。皐月賞でも3着に粘ったキタサンブラックは6番人気とやや人気を下げてしまった。
ここまでの戦いではゲート難や折り合い面と、何かしら課題を残しつつも有り余る能力でそれを補ってきた。今回は、走り慣れた府中でドゥラメンテがその集大成ともいえる走りを見せる。
7枠14番と外めの枠に入ったドゥラメンテ。折り合いを欠いた共同通信杯を思い出させ不安視されたが、好スタートからそれほど力むこともなくスムーズに中団で折り合いをつけた。
淀みのない流れを無理なく追走して最後の直線へ。鞍上のM.デムーロ騎手が満を持して仕掛けると、馬場の真ん中を力強く伸びるドゥラメンテ。
サトノクラウンとサトノラーゼンが追いすがるが、ドゥラメンテとの差は縮まらず1馬身3/4の差をつけて先頭でゴール。見事春のクラシック二冠を達成した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
勝ちタイムの2分23秒2は、父キングカメハメハと三冠馬ディープインパクトの従来記録を0.1秒上回り、日本ダービーのレースレコードを更新した。
ケガで戦線離脱
見る者を圧倒する走りで二冠馬となったドゥラメンテだったが、夏の放牧先で両橈(トウ)骨遠位端骨折というケガが発見され、手術のため長期休養を余儀なくされる。
秋は三冠か凱旋門賞かどちらに挑戦するにしても、大いに期待されていただけに残念なニュースとなった。
4歳時
復帰戦
ドゥラメンテの復帰は3歳秋には叶わず、4歳シーズンのもうすぐ春競馬を迎えようかという2月末のG2中山記念。
皐月賞以来となる中山競馬場。久しぶりにターフに姿を見せたドゥラメンテを、心待ちにしていたファンは1番人気に支持して出迎えた。相手には、同世代のリアルスティールやアンビシャス、G1馬のイスラボニータやロゴタイプら一筋縄ではいかない強豪が揃った。
久々の実戦だったが、スタートを出て5番手の好位置につけると、3~4コーナーにかけて前を射程圏に捉えて直線へ。手応えよく抜け出していったんは大きくリードを開くと、最後はアンビシャスに詰め寄られたもののクビ差しのいで勝利した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
海外制覇へ
ドバイシーマクラシック
中山記念後は、状態を見極めて海外への挑戦を表明。春はUAEで行われるドバイシーマクラシックに参戦し、年内の目標はフランス凱旋門賞であることも発表された。
1日で複数のビッグレースが行われる競馬の祭典ドバイミーティングの中でも、クラシックディスタンス(2410m)のシーマクラシックは各国から芝のチャンピオンホースが集まるレース。最近では2023年にイクイノックスが圧勝して世界最強馬の称号を確固たるものとしたレースだ。
レース前にアクシデント
日本最強馬としてどんなレースを見せてくれるか、ドゥラメンテに注目が集まる中、レース直前にアクシデントが起きてしまった。あろうことか馬場入場後に右前の蹄鉄を落鉄してしまったのだ。
不運なことに、慣れない海外の競馬場でのアクシデントということもあり蹄鉄の打ち直しができないままスタートを迎えた。それでもイギリスのポストポンドに食らいつき、2着。
片脚はだしでの2着激走は地力の高さを示したとも言えるが、陣営としては不完全燃焼に違いなかった。凱旋門賞での雪辱を誓い帰国した。
宝塚記念
帰国後は検疫を経てしばし休養。落鉄したまま走った疲れを癒やし、宝塚記念に出走した。
久しぶりに相まみえるのはひと回りもふた回りも成長した同世代のキタサンブラック。ドゥラメンテ不在の菊花賞と天皇賞春を制し、さしずめ暫定チャンピオンという立場に立っていた。
やや重に渋った馬場の中、雌雄を決する春のグランプリがスタート。逃げるキタサンブラックがレースの主導権を握ると、ドゥラメンテは後方待機で脚を溜める。
キタサンブラック先頭のまま最終コーナーに差し掛かる。ドゥラメンテもM.デムーロ騎手に促されて追い上げ態勢に入った。逃げるキタサンブラックに、迫るドゥラメンテ。内と外に馬体を併せる二頭の間にはもう一頭、牝馬のマリアライトが。
マリアライトがキタサンブラックを交わし、わずかに遅れて外ドゥラメンテと内キタサンブラックが並んでゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
アニメではキタサンが「誰~!?」と叫んでいたが、8番人気の伏兵マリアライトが二強を敗る大金星。クビ差2着にドゥラメンテ、ハナ差で3着キタサンブラックとなった。
引退
故障で引退
宝塚記念のゴール後、画面には芝コース内でドゥラメンテから下馬するデムーロ騎手の姿が映されていた。ゴール入線後に故障を発生してしまったドゥラメンテに後日下された診断結果は、靭帯・腱の損傷による競争能力喪失という重いものだった。
これにより凱旋門賞挑戦も、現役最強を証明することも叶わず引退・種牡馬入りが決まった。
荒々しく
ドゥラメンテの馬名の由来は、イタリア語の「Duramente」。音楽用語で「荒々しく、激しく」といったことを意味するそうだ。
圧倒的なパフォーマンスで同世代の頂点に立った3歳時の走りは、まさに名前を体現するような走りだった。全力のドゥラメンテの荒々しい走りをもう一度見てみたかったが、その分、種牡馬となって彼の中に脈々と流れる女傑の血脈と素晴らしい競争能力を繋いでくれたことに感謝したい。
そして、実名でウマ娘に登場することは難しいと半ば諦めかけていた我々トレーナー達の予想を裏切って、圧倒的強者の存在感を持って現れてくれたことも。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ドゥラメンテ。
史実のドゥラメンテ
基本情報 | 2012年3月22日生 牡馬 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 キングカメハメハ 母 アドマイヤグルーヴ(父サンデーサイレンス) |
馬主 | サンデーレーシング |
調教師 | 堀宣行(美浦) |
生産者 | ノーザンファーム(北海道安平町) |
通算成績 | 9戦5勝(JRA8戦5勝、海外1戦0勝) |
主な勝ち鞍 | 15’皐月賞、日本ダービー |
生涯獲得賞金 | 6億6106万円(JRA5億1660万円) |
エピソード①種牡馬として
ドゥラメンテが種牡馬入りすると、初年度から200頭を超える繁殖牝馬が集まった。有数の名牝系であるエアグルーヴ系の大物種牡馬としてかけられた期待の高さは相当なものだっただろう。
種牡馬入りして初めて種付けしたシーズンが2017年。2020年にその初年度産駒がデビューすると、その中からいきなりタイトルホルダーという大物が誕生。2021年の弥生賞を勝って産駒の重賞初勝利をあげると、皐月賞2着を経て秋に菊花賞を制覇。ドゥラメンテ産駒の初G1制覇を果たした。
しかしながら、その勝利を待たずしてドゥラメンテはこの年の8月、急性大腸炎を患い9歳の若さで急逝してしまった。
タイトルホルダーはG1を通算3勝し、ラストランとなった昨年の有馬記念の勇姿もまだ記憶に新しい。偉大な父の後継種牡馬として沢山の産駒を送り出してほしいものだ。
その後も次々に活躍馬を輩出。代表的産駒としては、2022年の牝馬二冠馬スターズオンアースに2023年の牝馬三冠馬リバティアイランド、菊花賞馬ドゥレッツァ、NHKマイルカップ馬シャンパンカラー。それからダートでもJBCを勝ったヴァレーデラルナやアイコンテーラー、芝ダート二刀流のドゥラエレーデなど。
産駒は実に幅広い適性を見せ、マイルから中長距離、芝ダートと条件を問わずオールマイティな活躍ぶりだ。
2023年には長年君臨してきたディープインパクトに替わってリーディングサイアーを獲得。
ドゥラメンテが残した産駒はわずか5世代。今年デビューを迎える最後の世代の活躍を見守りたい。
エピソード②パカパカ歩き
ドゥラメンテは現役時代、パドックなどで特徴的な歩き方を見せていたことで知られる。アニメでも再現されていたため、その独特の歩き方が気になって調べたという方もいるのではないだろうか?
いつからか通称「パカパカ歩き」とか「ドゥラステップ」と呼ばれたりしているようだが、ドゥラメンテがこの歩き方をするときは調子がいいとも言われていた。
同じ二冠馬でもあるトウカイテイオーのテイオーステップを彷彿とさせることもあり、パドックで軽快にステップを踏んでいる馬を見かけたら注目したい。
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