競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第103回。今回は、メインストーリー第2部でも活躍した秋華賞馬、「エアメサイア」について熱く語ります。
母の無念を晴らしティアラ載冠
ラインクラフト世代の一角
先日、ラインクラフト、シーザリオらの活躍を描いたメインストーリー第2部の中編が追加。今回は、前編・中編を通じてラインクラフトやシーザリオのライバルとして幾度も立ちはだかり、ついには牝馬三冠最後のティアラを勝ち取ったウマ娘「エアメサイア」の史実を追っていく。
メインストーリー2部でも活躍
2005年の牝馬三冠路線がモデルとなっているメインストーリー第2部。中編のラストまで未プレイだというトレーナーは、まずはそのストーリーを視聴することをおすすめする。
ラインクラフト、シーザリオらの前に惜敗続きだった春を越え、エアメサイアが真の主役となるのは第2部中編で描かれた秋になってから。彼女が苦しんだ血の宿命とそれを乗り越えていく成長の物語はメインストーリー中編をプレイしたトレーナーの関心を集めたことだろう。
血統
牝馬三冠で活躍した母
エアメサイアの母はエアデジャヴーという。現役時代は桜花賞3着、オークス2着、秋華賞3着。1998年の牝馬三冠路線すべてで善戦したものの、優勝にはあと一歩のところで涙をのんだ。
弟には2冠馬エアシャカールがおり、エアメサイアからみたら叔父にあたる。
現役時代に無冠に終わった母が大種牡馬サンデーサイレンスとの間に産んだ初仔の牡馬はエアシェイディといい、のちに重賞ウィナーとなったが母に似て2,3着の多い善戦マンとしても有名だった。
そして続けてサンデーサイレンスとの間に産まれた二番仔の牝馬が、のちのエアメサイアである。
2歳時
メイクデビュー
2歳になると、エアメサイア(冠名+救世主)と名付けられ栗東の伊藤雄二厩舎に入厩した。
エアグルーヴやファインモーションといった数多くの名牝を育て上げた名伯楽のもとでじっくり育成が進められ、11月21日の京都競馬場でデビューを迎える。
京都の芝1600m新馬戦。武豊騎手を鞍上に迎え断然の1番人気に支持される。
ゲートが開くと、難なく2番手につけてそのままスムーズなレース運びで抜け出して快勝。デビュー戦を勝利で飾った。
なお、伊藤雄二厩舎、エアの冠名、主戦・武豊騎手というのはエアグルーヴと同じ。血統的な繋がりはないが、エアメサイアの物語にエアグルーヴが関わってくる所以であろう。
3歳時
牝馬三冠路線へ向けて
続く2戦目は年が明けた1月の白梅賞。新馬戦と同条件の1勝クラスのレースで連勝を目指したが、1番人気の切れ者ディアデラノビアに差されて2着だった。
デアリングハート登場
3戦目はオープン特別のエルフィンステークスに格上挑戦で出走。ここも前2走と同じく京都のマイル戦。さすがに牝馬クラシックを目指すオープンクラスの一戦。阪神ジュベナイルフィリーズ5着のデアリングハートや良血馬レースパイロット(兄に名馬キングカメハメハ)、2勝馬ジェダイトら将来有望な牝馬たちが顔を揃えた。
スタートして3番手につけたエアメサイアは、直線に入ると前にいるジェダイトとの叩き合いをアタマ差制して先頭でゴール。3着以下は2馬身離してタイムも大幅に詰める内容の濃いレースで、オープン入りを果たした。
ラインクラフト登場!
桜花賞へ向けてトライアルに出走。これまで一貫して1600mを使ってきたが、初めて距離を短縮して1400mのG2フィリーズレビュー(阪神芝1400m)で桜花賞の切符を目指す。
桜花賞を目指すライバル達も精鋭揃い。中でも阪神ジュベナイルフィリーズ3着馬のラインクラフトは1400mではここまで2戦2勝の実績。白梅賞で敗れた相手のディアデラノビアも前走チューリップ賞で黒星を喫していたが連闘で桜花賞の切符を掴みにきており侮れない。
レースでは好位から抜け出しを図るデアリングハートに、直線でエアメサイアが差を詰めたところを外からラインクラフトがまとめて差し切って混戦をものにした。
桜花賞の優先出走権をかけたレースは、4着ディアデラノビアを加えた4頭がゴール前で競り合う大熱戦となった。
この結果、勝ったラインクラフトと2着デアリングハート、3着エアメサイアが桜花賞の切符を掴み取った。
桜花賞
主役にはなれず
ここまで4戦2勝2着と3着が1回ずつと堅実な走りで桜花賞へと駒を進めたエアメサイア。いよいよ、母エアデジャヴーが惜敗した牝馬三冠の戦いが始まる。
人気はラインクラフトとシーザリオ。いずれもここまで福永祐一騎手とのコンビで勝ち進んできた二頭が人気を分け合っていた。ウマ娘においてはチームアスケラで同じチームの二頭である。
母と同じく安定感のある走りで大崩れのないエアメサイアは離れた3番人気に支持されていた。
ゲートが開くと、モンローブロンドがハナに立って軽快にレースを引っ張る。エアメサイアと武豊騎手は中団につけた。
3,4コーナーに差し掛かると、好位につけていた人気薄のデアリングハートが早めに先頭に並びかけ、ラインクラフトがそれに続いた。最後の直線に入ると、ラインクラフトがデアリングハートに襲いかかる。さらに外からはシーザリオが強襲。
3頭のデッドヒートは、ラインクラフトがわずかに抜け出して先頭でゴール。2着にはアタマ差でシーザリオ、さらにクビ差でデアリングハートが続き、上位争いからはやや離されてエアメサイアは4着でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
オークス
シーザリオに惜敗
桜花賞馬ラインクラフトと3着馬デアリングハートが距離適性を考慮してNHKマイルカップに進んだため、二冠目のオークスはシーザリオやエアメサイアらほかの桜花賞上位勢が中心となる。別路線からは桜花賞への出走を逃してオークストライアルを快勝してきたディアデラノビアも人気を集めた。
ゲートが開くと、3枠5番からスタートしたエアメサイアと武豊騎手は中団の内で折り合う。武幸四郎騎手騎乗のエイシンテンダーが逃げるゆったりとした展開の中、エアメサイアは8番手あたりに控えてスムーズなレース運び。
中盤を過ぎて3、4コーナーにかけての勝負どころから進出を開始すると、最終コーナーで外へ持ち出して前を射程圏に捉える。
最後の直線に入ると、内で粘るエイシンテンダーに馬体を併せにいく。エイシンテンダーを交わして先頭に立とうかというのも束の間、外からディアデラノビアとともに伸びてきたシーザリオに一瞬で抜き去られてしまった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
あと一歩のところでシーザリオの末脚に屈して2着。母エアデジャヴーと同じく、春二冠は惜敗続きで終戦となった。
秋華賞に向けて
ローズステークス
日米オークス馬となったシーザリオは、秋シーズンを前に故障により戦線離脱。これにより秋華賞戦線の主役は再び牝馬三冠路線に戻ってきた変則二冠馬ラインクラフトと、逆転を目指すエアメサイアやディアデラノビアが有力視された。
エアメサイアの秋初戦は秋華賞トライアルのローズステークス。変則二冠のラインクラフトも秋華賞と同じ2000mの距離を克服すべく出走してきた。
レースは戦前の予想通りにラインクラフトとエアメサイアの一騎打ち。ラインクラフトが二番手追走から抜け出して押し切ろうかというところで、中団で脚を溜めていたエアメサイアが直線で鋭く末脚を伸ばして差し切り勝ち。
惜敗続きにピリオドを打つ通算3勝目が待望の重賞初制覇となった。
最後のティアラをかけて
秋華賞
牝馬三冠最後を飾る秋華賞。ひと夏を越して勝ち切る力を見せたエアメサイアと、敗れたとは言え2000mの距離を一度経験して上積みも見込めるラインクラフト。この二強対決の構図となった。
単勝1.8倍の1番人気にラインクラフト、2番人気エアメサイアが2.5倍と僅差で二頭が抜けた人気。3番人気のデアリングハートで20倍台だから相当に偏っていた。
ゲートが開くと、好スタートをきったエアメサイアと武豊騎手は無理にポジションを取りに行くこともなく馬群の後方につける。一方のラインクラフトはやや行きたがる様子で先行集団に取り付き5,6番手の位置取りで折り合いをつける。
3コーナーから最終コーナーに差し掛かるとラインクラフトが早めに進出を開始。エアメサイアも鞍上のゴーサインに応えて馬群の中からロスのないコース取りでラストスパートをかける。
最後の直線に入ると、あっという間に抜け出して一気にリードを広げるラインクラフト。そのままラインクラフトの圧勝かと思われた刹那、エアメサイアが素晴らしい切れ味を発揮して追い込んでくる。そしてゴール直前でラインクラフトを図ったように差し切って先頭でゴールを駆け抜けた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ついに母から続くG1での惜敗を打ち破り、エアメサイアが念願のティアラを手に入れた。
エリザベス女王杯
牝馬三冠も終わり、これからは世代を越えた戦いが始まる。秋2連勝の勢いのままエリザベス女王杯に出走した秋華賞馬エアメサイアは、道中最後方付近からの厳しい展開を強いられる中、直線だけで5着まで追い込んで3歳世代では意地の最先着を果たした。
勝ったのは一つ上の世代の秋華賞馬スイープトウショウ。目の覚めるような末脚で、逃げ切り濃厚だったオースミハルカを差し切ってみせた。
4歳時
中山記念
エリザベス女王杯後は休養を挟んで4歳春の初戦。G2の中山記念に出走したエアメサイアは、皐月賞馬ダイワメジャーやマイルCS、香港マイル連勝中のハットトリック、1800m巧者のカンパニー、バランスオブゲームといった、G1級の強力牡馬勢に混じって紅一点ながら3着。
ハイレベルと言われた世代の秋華賞馬として確かな地力があるところを見せた。
阪神牝馬ステークス
この年、春のG1シリーズには牝馬限定G1としてヴィクトリアマイルが新設。そこへ向かうステップレースとしてG2阪神牝馬ステークス(阪神芝1400m)に出走した。
そこには同世代のライバルであるラインクラフトも出走しており、秋華賞以来の対戦となった。この前哨戦の戦いでは、1400mではここまで負け無しのラインクラフトに軍配があがり、エアメサイアは3馬身差をつけられての2着に完敗した。
ヴィクトリアマイル
そして迎えた第1回ヴィクトリアマイル。初代女王を目指す各世代の牝馬たちが集まった。
1番人気は前走快勝のラインクラフト。2番人気に1つ上の桜花賞馬ダンスインザムード、3番人気にエアメサイアとなった。
エアメサイアは大外8枠18番からスタートすると、中団後方の外につける。ラインクラフトは馬群の真ん中7,8番手といったところ。
府中の長い直線、内からスルスルと抜けてきたのはダンスインザムード。エアメサイアも外から追い出しにかかってディアデラノビアと一緒に伸びてくる。しかし最後までダンスインザムードの脚色が衰えず1馬身1/4差の2着までだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
初代女王に輝いたのは桜花賞以来久々の勝利となったダンスインザムード。2着エアメサイア、3着ディアデラノビアと4歳勢が続いたが、世代の主役ラインクラフトは初めて掲示板を外す9着に終わった。
引退
結果的にこのヴィクトリアマイルがエアメサイアにとって最後のレースとなった。休養中に爪を痛めて長期の離脱を余儀なくされ、最後は名伯楽の伊藤雄二調教師の勇退と時を同じくして引退繁殖入りが決まった。
3歳春までは母と同じように牝馬三冠路線で惜敗を重ねたエアメサイアだったが、夏に成長して力をつけると一気に頂点へと上り詰めた。古馬になってからはより高いレベルで持ち前の堅実な走りを見せていただけに、早期の引退が惜しまれた。
ラインクラフト、シーザリオ、そしてエアメサイア。ティアラを分け合った同期のライバルたちはそれぞれの理由で早々にターフを去ったが、当時見ることが叶わなかった彼女たちの続きの物語は、ウマ娘のIFの物語としてこれからも繋がっていくだろう。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、エアメサイア。
史実のエアメサイア
基本情報 | 2002年2月4日生 牝馬 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父サンデーサイレンス 母エアデジャヴー(父ノーザンテースト) |
馬主 | ラッキーフィールド |
調教師 | 伊藤雄二(栗東) |
生産者 | 社台ファーム(北海道千歳市) |
通算成績 | 12戦4勝 |
主な勝ち鞍 | 05’秋華賞 |
生涯獲得賞金 | 3億3553万円 |
エピソード①母として
繁殖牝馬となったエアメサイアは、母エアデジャヴーから受け継いだ堅実な走りをその仔へと継承する。
4番仔のエアスピネル(父キングカメハメハ)がデイリー杯2歳Sや富士ステークスなどマイルの重賞を3勝、G1戦線でも3度の2着を記録するなど芝・ダートの二刀流で活躍。続く5番仔のエアウィンザー(父キングカメハメハ)もG3チャレンジカップを勝って兄弟で重賞ウィナーとなった。
母として順調に活躍馬を出していたエアメサイアだったが、残念ながら12歳で早逝したためターフへ送り出した産駒は5頭のみである。
エピソード②次世代へ繋がる物語
前述のエアスピネルは、サトノダイヤモンドらと同じ世代で2歳から9歳まで長く活躍し、引退するまで非常に人気も高かった。
一族の特徴を受け継いだのかG1にはあと一歩のところで手が届かず、朝日杯、マイルチャンピオンシップ、フェブラリーSでの2着が最高だった。
そのうちのひとつが2015年の朝日杯フューチュリティステークス。シーザリオの仔リオンディーズと1,2番人気を分け合い一騎打ちの熱戦を演じたレースである。
2005年の牝馬三冠をかけて競い合った名牝たちが母となり、10年後また次の世代がG1の舞台でぶつかる。これぞ競馬のロマン。ウマ娘でも次世代の物語としてこれから先も繋がっていくことだろう。
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