競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第59回。今回は、地方競馬の岩手から中央入りしたアイドルホース「ユキノビジン」について熱く語ります。
岩手から中央へ移籍したアイドルホース
移籍後、瞬く間に人気に
シチーガールに憧れる、岩手出身の純朴なウマ娘・ユキノビジン。そのプロフィールの元となるモデル馬のユキノビジンは、地方競馬・岩手の盛岡でデビューしたのちに中央へ移籍し、瞬く間に人気を集めたアイドルホースである。
栗毛の美少女
地方のダート競馬から中央の芝に変わっても活躍し牝馬クラシック戦線を賑わせた実力に加えて、なんとも心地の良い響きの名前とそれに見合った綺麗な栗毛の馬体から「栗毛の美少女」と形容されるほどのグッドルッキングホースだった。
今回はそんな岩手出身のアイドル、ユキノビジンの史実を追っていく。
競馬ブームに産まれる
オグリら地方出身馬が活躍
地方出身のアイドルホースと言えば、芦毛の怪物・オグリキャップ。地方競馬の笠松で連勝を重ねたのちに中央へ移籍した競馬ブームの火付け役である。
オグリキャップやイナリワンら地方出身勢が躍動した競馬ブームのさなか、1990年にユキノビジンは産まれた。オグリキャップの現役最後の年がまさに1990年だった。
もともと中央に入厩予定だった
仔馬時代から父サクラユタカオー譲りの美しい栗毛が目を引く好馬体の持ち主だったユキノビジン。もともと中央の久保田敏夫厩舎(美浦)に入厩する予定だったが馬房に空きがなかったために、しばらくは地方のダートで走らせて、厩舎に空きが出たら移籍ということになった。
そう、中央移籍は初めから予定通りだったということだ。
2歳時
メイクデビュー
岩手競馬の水沢に所属し、迎えた2歳の8月に盛岡競馬場でデビュー。ダートの850mという短距離の新馬戦を1番人気に応えて楽勝した。
盛岡で連勝
盛岡での2戦目、3戦目は菅原勲騎手が騎乗。岩手を代表するトップジョッキーを背に危なげなく連勝を飾り3戦3勝とした。
初黒星
重賞初挑戦となった水沢競馬場の南部駒賞(ダート1600m)では、その菅原勲騎手のエビスサクラに1番人気を譲りデビュー以来初めて2番人気となる。ユキノビジンはエビスサクラの5着に終わり、初黒星を喫した。
3歳時
中央デビュー
予定通り中央の久保田敏夫厩舎へ移籍し、迎えた3歳シーズンの初戦。中山競馬場のオープン特別クロッカスステークス(芝1600m)に登場したユキノビジン。このときはまだ地方のダートで4戦3勝という実績もそれほど評価されず、これが初めての芝レースということもあり10頭立ての9番人気という低評価だった。
ところがレースが始まると、初めての芝を難なくこなして持ち前のスピードで先行。そのまま押し切って2着に3馬身差をつけて快勝した。華々しくデビューを飾った岩手出身の栗毛馬は、早くも牝馬クラシック戦線の有力候補に名乗りを挙げたのだ。
牝馬クラシックの戦い
桜花賞
股関節が弱くあまり使い詰めできなかったこともあり、トライアルを使わず桜花賞へ直行。中央の一線級との初対戦がクラシック本番となった。
1番人気はベガ。のちにアドマイヤベガの母となる同馬は前哨戦のチューリップ賞を圧勝して桜花賞へと駒を進めてきた。2番人気には牝馬2冠のマックスビューティを母に持つ超良血マックスジョリー。シチーガールと呼ばれていたかどうかは定かではないが、いずれもキラ星のごとく輝く中央の精鋭たちだった。
ユキノビジンは5番人気。中央でのキャリアはたったの1レースだったが、クロッカスステークスの快勝は未知の魅力に溢れていた。
ゲートが開くと、有力各馬は揃って好スタートを決め好位置につける。2,3番手につけた武豊騎手鞍上のベガを見るように、マックスジョリー、ユキノビジンと続く。
いい手応えで最終コーナーを回るベガに、マックスジョリーが並びかけていく。さらに外からユキノビジンも上がっていき最後の直線へ。
早めに抜け出したベガに、追いすがるマックスジョリー。そして白いメンコのユキノビジンの伸び脚もいい。最後は押し切りを図るベガにユキノビジンがクビ差まで迫ったところがゴールだった。さらにクビ差でマックスジョリーが続き、見応えのあるゴール前の追い比べとなった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
惜しくも2着に敗れはしたものの、レース最速の上がりでベガを追い詰めたユキノビジンの実力は疑いようもないものとなった。
オークス
牝馬クラシックの二冠目、オークス。桜花賞の上位3頭が揃って出走し、桜花賞馬のベガが1番人気、2番人気マックスジョリー、3番人気にユキノビジンとなった。
そしてレースは再びこの3頭による優勝争いとなる。好スタートを決めたユキノビジンが先行して3番手につけると、ベガがその直後をマークするように進み、マックスジョリーはやや後ろの中団を追走。
最終コーナーで徐々にペースが上がり最後の直線へ。先に抜け出したのはユキノビジン。馬場の真ん中を駆け上がり、一気に突き放すかに見えたが桜花賞馬ベガがそれを許さない。坂を登り切ったあたりで先頭が入れ替わると、必死に食い下がるユキノビジンに後ろから追い込んできたマックスジョリーが迫る。
ベガが見事に二冠を達成し、2着を死守したユキノビジン、鋭く伸びたマックスジョリーが3着に入り、終わってみれば桜花賞の1~3着馬がそのままの着順に収まった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
飛躍の秋へ
初重賞制覇
夏場を休養にあて、秋はエリザベス女王杯を目標にG3クイーンステークス(中山芝2000m)から始動。
春二冠はあと一歩届かなかったユキノビジンが中央移籍後初めて1番人気に支持された。2番人気には桜花賞5着、オークス6着といずれも上位に入ったホクトベガ。どちらも秋に飛躍が期待される一頭だ。
結果は、ユキノビジンが2番手から早めに先頭に立ってそのまま押し切り、ホクトベガに2馬身差をつける完勝。1番人気に応えて重賞初制覇を飾った。
エリザベス女王杯
順調なスタートを切ったユキノビジンは、名手・岡部幸雄騎手との初コンビで大一番へ挑む。対する春の二冠馬ベガはオークス後に順調さを欠いてぶっつけでエリザベス女王杯にどうにか間に合ったという状況。そして3強の一角マックスジョリーは怪我の治療で戦線を離脱していた。
混沌とした状況の中、1番人気に推されたのは3連勝でトライアルのローズステークスを勝った上がり馬スターバレリーナだった。
しかし勝ったのはそのいずれでもなく、ユキノビジンがクイーンステークスで下したホクトベガ。9番人気の伏兵が大仕事をやってのけ「ベガはベガでもホクトベガ」の実況(関西テレビ)は有名なフレーズとなった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
牝馬三冠のかかったベガは3着に敗れ、ユキノビジンは好位先行から伸びずに10着と初めて掲示板外に沈んだ。
ターコイズステークス
年内最終戦に出走したターコイズステークス(中山芝1800m)にはホクトベガも参戦。ユキノビジンとホクトベガが人気を分け合ったが、ここは1番人気でトップハンデのユキノビジンがエリザベス女王杯の借りを返して中央3勝目を挙げた。
怪我との戦い、そして引退
復帰叶わず
古馬になってからの活躍が期待されたが、骨折により長期の休養。4歳秋になってもついに復帰は叶わずターコイズステークスを最後に引退となってしまった。
地方4戦3勝、中央6戦3勝。雪国・岩手からやってきた可憐な少女はまだシチーガールへの階段を登る途中だったかも知れないが、中央のライバル達と争った牝馬クラシックの熱戦で確かな足跡を残していった。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ユキノビジン。
史実のユキノビジン
基本情報 | 1990年3月10日生 牝 栗毛 |
---|---|
血統 | 父 サクラユタカオー 母 ファティマ(父ロイヤルスキー) |
馬主 | 荒井幸勝 |
調教師 | 阿部時男(水沢)→久保田敏夫(美浦) |
生産牧場 | 村田牧場(新冠町) |
通算成績 | 10戦6勝(盛岡4戦3勝、JRA6戦3勝) |
主な勝ち鞍 | ’93桜花賞(2着)、’93オークス(2着)、’93クイーンステークス(G3) |
エピソード① 可憐な容姿
栗毛の美少女と呼ばれたユキノビジン。栗毛に輝く馬体に鼻筋の流星はそれだけで華やかな見た目だったが、レース時に装着した白いメンコとリボンのような白い紐で結われた鬣(たてがみ)が可憐さを際立たせていた。
牝馬クラシックで善戦したのちに、重賞未勝利の段階でぬいぐるみが発売されるほどのアイドル的な人気を集めた。
エピソード② 母として
ユキノビジンは引退後に繁殖牝馬として12頭の仔を産んだ。中央の重賞を勝つような活躍こそできなかったが、人気のあった母の血を継ぐ仔たちは中央・地方を問わず在籍した各地で走りファンを喜ばせた。
今週の一枚
アオハル杯で画像集めをしていたところ、憧れのシチーガールことゴールドシチーさんと、元祖アイドルホースのオグリキャップと一緒の画像が撮れた。
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