競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第106回。今回は、カミソリの如き切れ味を持つ末脚が魅力の、「ナリタタイシン」について熱く語ります。
三強随一の末脚
カミソリの切れ味
前回のビワハヤヒデに引き続き、平成の三強BNWからナリタタイシンを取り上げる。三強の中でも末脚の切れではピカイチ。カミソリの切れ味と例えられた末脚の持ち主「ナリタタイシン」の史実を追っていく。
生まれと血統
名牝ダリアの血
ナリタタイシンの父リヴリアは、G1級レース10勝という伝説的名牝のダリアを母に持つ良血。現役時代はアメリカとフランスでタフに走り、3つのG1タイトルを獲得。引退後に種牡馬として日本に輸入された。
日本で送り出した代表産駒はナリタタイシンのほかにもワコーチカコ、マイヨジョンヌといった活躍馬がおり、二冠牝馬テイエムオーシャンの母父としても知られる。11歳の若さで早逝したため、産駒はわずか5世代だったが名牝ダリアの血を日本に伝えた名種牡馬と言える。
母のタイシンリリィは現役時代は2勝を挙げ、繁殖牝馬として初仔のユーセイフェアリーがG3阪神牝馬特別を勝つなど活躍。そしてリヴリアの初年度産駒として生まれたタイシンリリィの4番仔がのちのナリタタイシンである。
2歳時
メイクデビュー
栗東の大久保正陽厩舎に入厩したナリタタイシンは、7月の札幌でデビューを迎える。420キロ台の小柄な馬体ながらバネのある動きを見せており、芝1000mの新馬戦に出走すると堂々1番人気に支持される。しかしデビュー戦は6着に敗れた。
間隔を開けて10月の福島開催で未勝利戦(芝1700m)に出走すると、5頭立ての少頭数ながら上がり最速の末脚を繰り出して順当に勝ち上がった。
2勝目は遠く
その後は福島に滞在して2戦するが、きんもくせい特別(芝1700m)6着、福島3歳ステークス(芝1200m)2着。栗東に戻り阪神の千両賞(芝1600m)でも2着と2勝目にあと一歩届かず。加えて、もともと小さな馬体は徐々に減ってしまい、千両賞の時点ではキャリア最小馬体重の416キロだった。
初重賞制覇
それでもなお連闘で暮れの中距離重賞、G3ラジオたんぱ杯3歳ステークス(阪神芝2000m)に挑む。デビュー戦と同じ422キロまで馬体を戻し気配は悪くなかった。そして、5番人気の伏兵評価を覆す走りを見せる。
スタートしてから道中は最後方待機で脚をためると、直線一気の追い込みを決めて会心の勝利。惜敗続きを脱して見事に重賞初制覇を果たした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
3歳時
BNW三強へ
年が明けてクラシックへ向けた勢力図が徐々に固まってくる頃。暮れの2歳戦線では朝日杯上位組から2着のビワハヤヒデ(勝ったエルウェーウィンは外国産馬)、そしてホープフルステークス(当時はオープン特別)まで3連勝中のウイニングチケット、ラジオたんぱ杯を勝ったナリタタイシンらが有力候補に名乗りを挙げていた。
ウイニングチケット登場
弥生賞
ナリタタイシンは年明け初戦のシンザン記念2着のあと、皐月賞トライアルのG2弥生賞へ出走。ここでウイニングチケットとの初対戦となる。
ウイニングチケットはここまで4戦3勝という成績。未勝利から前走のOP特別ホープフルステークスまで3連勝中で、特に同じ舞台の中山2000mでの内容が高く評価され重賞初挑戦の弥生賞でも1番人気となっていた。
ナリタタイシンも2000mの重賞ウィナーとして負けられない。鞍上が若き天才ジョッキー武豊騎手に乗り替わり、差のない2番人気に支持された。
スタートすると、2頭はともに後ろに下げて11頭立ての最後方からレースを進める。3番人気のドージマムテキが引っ張る流れをお互いを意識しながら虎視眈々と末脚を溜める。
最終コーナー手前から仕掛けてほぼ同時のタイミングで上がっていく。
そして最後の直線勝負になると、2頭が馬体を併せながら鋭い末脚を繰り出して先頭に躍り出る。そして最後まで突き抜けたのはウイニングチケット。ナリタタイシンは2馬身離され2着でゴールした。
クラシック開幕
皐月賞
いよいよ春のクラシックが幕を開ける。まずは一冠目の皐月賞。弥生賞を勝ったウイニングチケット(1番人気・2.0倍)、同じくトライアルの若葉ステークスを勝ったビワハヤヒデ(2番人気・3.5倍)の2強と、少し離れた3番手評価にナリタタイシン(3番人気・9.2倍)といった人気順となっていた。
ゲートが開くと7枠14番からスタートのナリタタイシンと武豊騎手は最後方につけて追い込み策。中団後方あたりにウイニングチケット、そしてビワハヤヒデは好位から。
3,4コーナーからペースが上がると、ナリタタイシンも仕掛けて徐々に上がっていく。直線では大外ではなく馬群の中に突っ込んで縫うように順位を上げていく。
先行策から早めに抜け出したビワハヤヒデの脚色がいい。2番手争いではウイニングチケットが今ひとつ伸びあぐねているところを、馬群から抜け出たナリタタイシンが矢のように伸びてきた。ウイニングチケットを交わし、勝利目前だったビワハヤヒデもゴール直前で並ぶ間もなく差し切り先頭でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
馬群を縫うようにすり抜けて直線一気の爽快な追い込みを決めたナリタタイシンの末脚は「カミソリの切れ味」と評され、一気に世代のトップへと立ったのだった。
2着ビワハヤヒデ、4着ウイニングチケット(5位入線後、3位入線のガレオンが降着のため繰り上がり)も負けて強しといった内容でダービーでの巻き返しが期待された。
日本ダービー
皐月賞馬ナリタタイシンが二冠馬を目指して第60回日本ダービーに挑む。
皐月賞後に世代の三強という見方が強くなり、人気順もBNWが拮抗。1番人気ウイニングチケット3.6倍、2番人気ビワハヤヒデ3.9倍、3番人気ナリタタイシン4.0倍という差のないオッズとなっていた。
いざ世代の頂点を争ってダービーのゲートが開く。ナリタタイシンは最内1番枠から下げて定位置の最後方へ。ビワハヤヒデは6,7番手、ウイニングチケットは中団のイン11,2番手のポジションにつけてスタンド前を通過して1コーナーを回る。
逃げるアンバーライオンが軽快に飛ばして馬群は縦長に。ナリタタイシンはギリギリまで仕掛けを我慢して府中の長い直線で自慢の末脚にかける。
最後の直線に入ると、早めに仕掛けてポジションを上げたウイニングチケットが先頭に躍り出る。ビワハヤヒデも馬群の中から内へ進路を取って食い下がる。そしてワンテンポ遅れて、馬場の真ん中からナリタタイシンが追い込んでくる。
最後はBNW三頭の追い比べ。ウイニングチケットを目掛けて内からビワハヤヒデ、外からナリタタイシン。そして、悲願のダービー制覇がかかる柴田政人騎手の思いをのせたウイニングチケットが2頭の猛追を振り切ってダービーのゴールを先頭で駆け抜けた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
皐月賞から2戦連続の2着にビワハヤヒデが入り、皐月賞馬ナリタタイシンは3着。三強のワンツースリーでの決着となった。
高松宮杯
ダービー後は夏の名物重賞だったG2高松宮杯に出走。この年は中京競馬場の改修に伴い変則的に京都での開催だった。
初の古馬との対戦だったが、春の実績からナリタタイシンが1番人気。後方から持ち前の末脚でよく追い込んだが、伏兵ロンシャンボーイの逃げを捕まえきれず2着に終わった。
不完全燃焼の秋
菊花賞
秋は菊花賞へ向けてトライアルのG2京都新聞杯から始動する予定だったが、直前に肺出血を発症して出走回避。不安を抱えたままぶっつけで菊花賞へ向かうこととなった。
ウマ娘のナリタタイシンの育成ストーリーではお馴染みの強制イベントの由来である。
そしてどうにか間に合わせて挑んだ菊花賞は、やはり体調が万全でなかったのかまったく見せ場をつくることができず17着と大敗を喫してしまう。勝ったのはビワハヤヒデ。三強が三つの冠を分け合う結果となった。
ナリタタイシンにとっては、夏を越して大きく飛躍したビワハヤヒデと対象的に不完全燃焼となってしまった。
4歳時
復活
菊花賞後は立て直しが図られ、年が明けて4歳のシーズンを迎える。
復帰戦には東京競馬場で行われる伝統のハンデ重賞G2目黒記念。現在と施行時期が異なり2月の開催であり、春の天皇賞へ向けての選択肢の一つという位置づけだった。
馬体重を+14キロ増の446キロとデビュー以来最大で出走したナリタタイシンは、59.5キロのトップハンデを背負いながらも躍動。直線で自慢の末脚を発揮して鮮やかな差し切り勝ちを収め、皐月賞以来となる勝ち星をあげた。
天皇賞(春)
復活ののろしを上げたナリタタイシンが春の天皇賞でビワハヤヒデと相まみえる。
断然の1番人気はレースぶりに安定味を増したビワハヤヒデ。ナリタタイシンが離れた2番人気から逆転を狙う。
ゲートが開くと、ビワハヤヒデは道中2番手を追走。阪神のコーナリングもうまく制して手応え十分に最後の直線へ。ナリタタイシンも後方待機策から徐々に仕掛けて最終コーナーでは大外を回って上がってくる。
ビワハヤヒデがほぼ馬なりのまま先頭に立つと、外からナリタタイシンが一気に差し切る勢いで末脚を繰り出す。
しかし、勝利の方程式を会得したライバルは手強かった。最後は脚色が一緒になり、なかなか差が詰まらない。そのままビワハヤヒデが1馬身¼のリードを保って先頭でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ナリタタイシンも上がり最速の末脚で存分にらしさを発揮。完全復活を印象付けた。
故障に悩む
引退まで
宝塚記念を目指していたナリタタイシンだったが、骨折が判明。これは程度としては比較的軽いものだったが、さらなる飛躍が期待された矢先だっただけに残念なニュースだった。
そして復帰を目指していた秋には屈腱炎を発症して休養は1年を超えた。
翌年、5歳になったナリタタイシンが久しぶりに勇姿を見せてくれたのは宝塚記念。ビワハヤヒデと熱戦を繰り広げた前年の天皇賞・春からおよそ1年2ヶ月が経ち、そのビワハヤヒデともう一頭のライバルであるウイニングチケットはともに昨秋の天皇賞で発症した怪我により引退していた。
復帰戦の第36回宝塚記念は16着に終わり、結果的にこれがナリタタイシンのラストランとなった。またこのレースは、ライスシャワーが悲劇に見舞われたレースとしても記憶されている。
平成の三強BNWはそれぞれ怪我が原因で休養や引退を余儀なくされたが、それでも幸いなことに三頭は引退後の馬生を長く謳歌した。ウマ娘での仲良し三人娘を見ると、そのことを思い出して穏やかな気持になるのだ。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ナリタタイシン。
史実のナリタタイシン
基本情報 | 1990年6月10日生 牡馬 鹿毛 |
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血統 | 父リヴリア 母タイシンリリィ(父ラディガ) |
馬主 | 山路秀則 |
調教師 | 大久保正(栗東) |
生産者 | 川上悦夫(北海道新冠町) |
通算成績 | 15戦4勝 |
主な勝ち鞍 | 93’皐月賞 |
生涯獲得賞金 | 3億5,170万円 |
エピソード①BNWは揃って長寿!
BNWの愛称で親しまれた平成の三強は、三頭ともそれぞれ引退後の余生を長く全うしたことでも知られる。1990年生まれの三頭は、ナリタタイシンとビワハヤヒデは30歳(2020年没)、ウイニングチケットは33歳(2023年没)まで長寿を全うしてファンに愛され続けた。
クラシック三冠を分け合った三頭が揃って元気に30歳を迎えた例というのは非常に稀であろう。
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