競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第34回。今回は、驚異のスタミナを武器にメジロ牧場最後の天皇賞馬となった「メジロブライト」について熱く語ります。
メジロ牧場最後の天皇賞馬
スタミナと持続するスピードが武器
以前から予告されていたとおり、メジロ家のお嬢様からまた一人魅力的なウマ娘が本格参戦だ。やたらとおっとりのんびりな雰囲気のメジロブライトは、史実を知れば「なるほど」となるかも知れない。
無尽蔵のスタミナと持続するスピードを武器に長距離で活躍した、ファンの多い魅力的な競走馬だった。メジロ牧場にマックイーン以来にして最後となる天皇賞のタイトルをもたらした、メジロブライトの史実を追っていく。
黄金世代のひとつ上
引用元:JRA日本中央競馬会
メジロブライトはスペシャルウィークやセイウンスカイ、グラスワンダーらの黄金世代よりひとつ上の世代にあたる。つまりサイレンススズカと同じ世代だ。ほかに同世代にはマチカネフクキタルやゴルシパパことステイゴールドなど個性派が揃う。そして同じメジロ家のメジロドーベルも同世代でこちらは牝馬クラシック戦線の中心的存在だった。
ライアンの仔
メジロブライトの父はメジロライアン。ゲーム内ではライアンのことを「お姉さま」と呼んでいるが、実際には「お父さま」である。
ライアンの初年度産駒として、メジロドーベルと共に父の種牡馬としての名声を高めた孝行息子だ。
2歳時
メイクデビュー
デビューは2歳の夏、函館競馬場の芝1800m新馬戦だった。これがインパクト抜群で、ある意味では伝説の新馬戦である。
メジロブライトは6頭立ての最低人気。この低評価を覆して見事勝利をおさめたのだが、タイムがすごかった。「2分01秒6」という勝ちタイムは2000mであれば違和感のない数字なのだが、芝1800mでは平均的な新馬戦のタイムより約10秒は遅い。いくら6頭立ての少頭数とは言え、記録的な遅いタイムでのデビュー勝ちだった。
タイム短縮
2戦目に同じ1800mの1勝クラスすずらん賞に出走すると、1分51秒5という普通のタイムを叩き出し2着。新馬戦よりも10秒も記録を縮めて本来の力をアピールした。
重賞戦線で善戦
オープン入りした3走目はG2デイリー杯3歳ステークス。このレースから松永幹夫騎手に乗り替わり、以降翌年のクラシック戦線を共に歩むこととなる。
1400mへの距離短縮はメジロブライトにとって決して得意な条件ではなかったが、ここでも7番人気ながら追い込んで2着と善戦。ただし勝ったシーキングザパールには5馬身の差をつけられた。
重賞初制覇
連続2着のあとは、2歳最終戦としてラジオたんぱ杯3歳ステークスに出走。2000mの距離で本領を発揮して快勝。重賞初制覇で2歳シーズンを締めくくった。
3歳時
クラシック路線へ
ラジオたんぱ杯の勝利により、俄然クラシック戦線の中心的存在として認められるようになったメジロブライト。3歳の初戦はG3共同通信杯4歳ステークス。初めて1番人気の支持を集め、それに応えて重賞連勝。最後方から府中の長い直線でまとめて差し切った。
スプリングステークス
本番の皐月賞へ向けて、前哨戦としてG2スプリングステークスに出走。重賞2連勝を含めここまでほとんど最後方付近からの追い込みで崩れず結果を出してきた。
今回も1.4倍の一番人気に支持されるが追い込み届かず2着で重賞3連勝はならなかった。
皐月賞
1番人気に支持された皐月賞では、18頭フルゲートのほぼ最後方から追い込みにかけたものの、粘る人気薄の先行勢を捉えることができず4着。
11番人気のサニーブライアンが優勝し、2着3着にも10番人気と12番人気の馬がそれぞれ入り大荒れのレースとなった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
日本ダービー
皐月賞では人気を裏切った形となってしまったが、上位勢がまぐれ視されたこともありダービーでも1番人気に押し上げられる。
しかし、勝ったのはまぐれ視されて6番人気と低評価だった皐月賞馬サニーブライアン。人気をあざ笑うかのような見事な逃げ切り勝ちだった。2着争いを演じた差し・追い込み勢の争いの中、メジロブライトは3着だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
新星マチカネフクキタル登場
菊花賞へ向けて弾みをつけたい秋初戦。菊花賞トライアルの京都新聞杯には夏に力をつけてきた新星・マチカネフクキタルが参戦してきた。神戸新聞杯を制した勢いでトライアル連勝を狙っている。
1番人気はマチカネフクキタル。休み明けのメジロブライトは2番人気。そして、いつものように最後方から追い込みにかけるメジロブライトはまたしても届かず3着まで。マチカネフクキタルが3連勝で1番人気に応えてみせた。
菊花賞
クラシック最後の一冠、菊花賞。春の2冠を制したサニーブライアンは戦線を離脱して混沌としていた。春2冠につづき、菊花賞トライアルでも勝ちきれなかったメジロブライトは人気を下げて2番人気。1番人気は京都大賞典で古馬を撃破してきたダービー2着馬シルクジャスティス。もっとも勢いのあるマチカネフクキタルが3番人気だ。
メジロブライトは中団より後ろの集団からいつものように末脚勝負。そして3,4コーナーにかけて早めにスパートをかけるといい手応えで先行集団を捉えにかかる。直線に向くと一瞬突き抜けるかという勢いで馬場の中央を伸びてくるが、さらに内から伸びたマチカネフクキタルが抜け出し、1馬身及ばず3着に敗れた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
メジロブライトとともにクラシックを戦った主戦騎手の松永幹夫騎手はこのレースを最後に乗り替わりとなった。スプリングS以降は、常に最後方から追い込んでくるものの勝ちきれない歯がゆいレースが続いたが、そこも含めて応援しがいのある名コンビだった。
覚醒
ステイヤーズステークス
クラシック三冠は4,3,3着とあと少しというところで手が届かなかったメジロブライト。菊花賞のあとに出走したG2ステイヤーズステークスで悔しさを晴らすような快勝を見せる。
重馬場でドロドロとなった中山の芝をものともせず、中団から早めにスパートすると後続を突き放す一方の大差勝ち。類稀なスタミナとパワー、持続力のあるスピード能力をいかんなく発揮した会心のレースだった。
4歳時
AJCC
ステイヤーズステークスで鮮烈な大差勝ちをおさめたメジロブライトにとって、4歳は飛躍の年になると思われた。その予想通り、年が明けて4歳になった初戦のアメリカジョッキークラブカップを2馬身半差で快勝。クラシックでのもどかしいレースぶりから完全に脱却したところを見せ、最高のスタートを切る。
阪神大賞典
G2レースを連勝し、メジロ家伝統のG1レース天皇賞(春)制覇がいよいよ現実的な目標として視界に見えてきた。その前に、前哨戦の阪神大賞典を勝ってさらに勢いをつけたいところ。
ダービー2着馬シルクジャスティスとの一騎打ちと見られ、そのとおりのレースとなる。互いに末脚に自信のあるタイプだが、この日はシルクジャスティスが3,4番手あたりに位置する積極的なレース運び。メジロブライトは中団に控えてこれを見る。
最後の直線は互いに一歩も譲らぬマッチレースを繰り広げ、最後はわずかにメジロブライトが鼻先を前に出してゴール。ハナ差の大接戦を制して3連勝を達成した。
メジロ伝統のG1で悲願達成
天皇賞(春)
いよいよ大一番の天皇賞(春)。天皇賞はメジロの馬にとって特別なレース。マックイーンが2連覇を成し遂げてから6年後に、ライアンの仔ブライトが挑む。
1番人気は阪神大賞典で競り落とした相手シルクジャスティスに譲ったが、レースでは完成したメジロブライトの姿を見せつける。スローペースを見越してか、いつもより前につけて5,6番手の位置取り。そして終始手応えよく直線に入ると、力強く抜け出して危なげなく1着でゴール。悲願のG1制覇を達成した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
宝塚記念
4連勝で天皇賞馬の栄冠に輝いたメジロブライトだったが、つづく宝塚記念ではアクシデントに見舞われてしまう。
スタートを待つゲート内で暴れてしまい外枠発走となり、レース中にも最終コーナーで前から下がってきた馬の影響を受けて大きく体勢を崩すなどまったく競馬にならなかった。サイレンススズカのG1初制覇の陰でメジロブライトは不完全燃焼に終わった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
秋初戦
宝塚記念のあとは夏場を休養に当て、秋の中長距離G1に向けて京都大賞典から復帰。ここから、黄金世代の台頭に行く手を阻まれることになる。
菊花賞を目指すセイウンスカイの大逃げからの粘りを捉えることができず2着。しかし、ブライト自身は最後までしっかりと伸びており宝塚記念敗戦の影響を払拭した。
天皇賞(秋)
春秋連覇をかけて臨んだ天皇賞(秋)は、サイレンススズカの最後となったあのレースである。故障を発生してコース外へ向かうサイレンススズカを避けるのに大きなロスを強いられたメジロブライトはまたしても力を発揮することができず5着。天皇賞春秋連覇は夢と消えた。
有馬記念
天皇賞のあとはジャパンカップをパスして有馬記念へ。そして黄金世代から今度はグラスワンダーが登場。中山の短い直線で猛然と追い込んでセイウンスカイは交わしたものの、先に抜け出したグラスワンダーには届かず2着に敗れた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
メジロブライトの4歳シーズンは春の天皇賞までの快進撃から一転、その後はツキにも見放された感もあり未勝利に終わった。
5歳時
久しぶりの勝利
年が明けて5歳になったメジロブライトは春の天皇賞連覇を大目標に早々に始動。G2日経新春杯では59.5キロのトップハンデを背負いながらきっちりと勝ち切り、前年の天皇賞(春)以来久しぶりとなる1着を勝ち取った。
次々現れる黄金世代の刺客たち
阪神大賞典
つづいては天皇賞の前哨戦、重馬場となった阪神大賞典。3000m超の長距離レースで重馬場と言えば前年に大差勝ちを収めたステイヤーズステークスが思い起こされる。しかし前年のダービー馬スペシャルウィークが立ちはだかった。
スペシャルウィークをマークして3,4コーナーで早めに動いたが、最後までスペシャルウィークを捕まえることができず2着。3着には7馬身の差がついていた。
天皇賞(春)
天皇賞(春)連覇を目指すメジロブライトにとって、強敵はやはりスペシャルウィークとセイウンスカイ。完全に3強ムードの戦いとなった。
大逃げではなく抑えの効いた逃げでペースをつくるセイウンスカイに、4番手で折り合うスペシャルウィーク。そして中団から前を見据えるメジロブライト。
3,4コーナーでペースが上がるとスペシャルウィーク、メジロブライトも仕掛けて上がっていく。粘り込みを図るセイウンスカイを交わしてスペシャルウィークが先頭に躍り出ると、外から追いすがるメジロブライト。しかし、またしてもスペシャルウィークを捉えることはできず2着と惜敗した。
レース映像
京都大賞典
宝塚記念には出走せず秋に備えたメジロブライトは天皇賞(秋)を目指して京都大賞典で復帰。ここでは宿敵スペシャルウィークが大崩れして先着するが、もう1頭前にいたのが遅れてきた黄金世代の秘密兵器ツルマルツヨシだった。
徐々に失速
そしてここからメジロブライトは徐々に本来の走りから遠ざかってしまう。天皇賞(秋)で返り咲いたスペシャルウィークとは対照的に11着と大敗を喫すると、暮れの有馬記念でもグラスワンダー、スペシャルウィークの死闘から遅れて5着。4着ツルマルツヨシにも再び先着を許した。
引退
有馬記念後、屈腱炎を発症し長期休養に入ったメジロブライト。復帰した翌年秋の京都大賞典で8着とすると、さらに重症の屈腱炎を患い引退が決まった。
2着、3着が多く、ズブいとかジリ脚(いずれも末脚の切れが足りない馬を指して使われる用語)などと揶揄されることもあったが、おそらくこのあたりがウマ娘でのおっとりふんわりした雰囲気のモチーフとなっているのだろう。
とは言え、持ち前のスタミナと一度スピードに乗ると持続力のある末脚はハマった時の破壊力も十分に備えていた。天皇賞(春)後はツキもなかったが、次々に現れる新世代の強豪を相手にいつも見ごたえのある競り合いを演じてくれた。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、メジロブライト。
史実のメジロブライト
基本情報 | 1994年4月19日生 牡 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 メジロライアン 母 レールデュタン(父 マルゼンスキー) |
馬主 | (有)メジロ牧場 |
調教師 | 浅見国一(栗東)→浅見秀一(栗東) |
生産牧場 | メジロ牧場(伊達市) |
通算成績 | 25戦8勝 |
主な勝ち鞍 | ’98天皇賞(春) |
① 黄金世代は目の上のたんこぶ?
黄金世代は目の上のたんこぶ?
メジロブライトは4歳の秋以降、スペシャルウィークら黄金世代の台頭によって大変厳しい戦いを強いられた。黄金世代全体が目の上のたんこぶ的な存在と言っていい。
何しろ4歳の秋にセイウンスカイが京都大賞典(2着)に出走してきて以降、有馬記念のグラスワンダー(2着)、翌春には阪神大賞典→天皇賞(春)でスペシャルウィークに連敗(2着)、そして秋には京都大賞典で遅れてやってきた未完の大器ツルマルツヨシにまでやられる(2着)など、とにかくひとつ下の黄金世代の2着が非常に多かった。
こんなにも2着の山を築き上げたおかげで、勝ちきれない善戦マンのイメージがついてしまったが、裏を返せば、黄金世代の誰が相手でもいつも自慢のスタミナと末脚を駆使して接戦に持ち込んでいたのがこの馬の凄いところだった。
② 種牡馬として
ぬいぐるみのマキちゃんとは?
メジロブライトのストーリーに出てくる、ぬいぐるみのマキちゃんとはおそらく産駒のマキハタサイボーグのことだろう。
メジロブライトは種牡馬入り後、初年度から受胎率がよくなかったために産駒数自体が少なかったうえ、わずか4世代を残して急逝してしまったのだが、限られた産駒の中から誕生した重賞ウィナーがマキハタサイボーグだ。父が大差勝ちしたステイヤーズステークスを、父を彷彿とさせるまくり戦法で制して父子同一重賞制覇を達成した。
もう少し長く種牡馬生活を続けて多くの仔を残せたなら、あるいは天皇賞父子制覇の夢を託せるようなスタミナ自慢が誕生したのではないかと思うと残念でならない。
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