競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第28回。今回は、全国のダートを舞台に交流重賞を勝ちまくった「スマートファルコン」について熱く語ります。
地方競馬で輝いた
トップウマドル目指して全国ツアー?
ダートのレースを主戦場とした名馬は過去に多くいるが、ウマ娘として実装されている中では数少ない生粋のダート馬。それが今回の主役スマートファルコンである。
ウマ娘での「ファル子」ことスマートファルコンは、トップウマドルを目指してダートの世界で輝こうとひたむきに頑張る健気なウマ娘だ。この設定がまたウマ娘の天才的なキャラクターづくりの好例だなぁと思うので、そのあたりにも触れつつ史実を追っていこう。
時はダート戦国時代
地方競馬の重賞レースを総ナメ
引用元:JRA日本中央競馬会
スマートファルコンの戦績を見ると、ウマ娘では見ることができない競馬場名が連なっていることに気付く。これらはすべて地方競馬の競馬場である。大井競馬場だけはウマ娘でも実装されているが、それ以外に川崎(神奈川県)、浦和(埼玉県)、船橋(千葉県)といった関東の競馬場から、金沢(石川県)、園田(兵庫県)、名古屋(愛知県)、佐賀(佐賀県)、盛岡(岩手県)、門別(北海道)と全国津々浦々の地方競馬を巡っているのだ。
交流重賞について
そう、スマートファルコンという競走馬を語る上で外せないのが、地方競馬で開催される交流重賞というレース体系である。中央競馬(JRA)では主流の芝レースに比べてダートのグレード競争は歴史が浅く、大きなレースも少ない。
1997年に初めてG1に昇格したフェブラリーステークスと、2000年に新設されたジャパンカップダート(現在のチャンピオンズカップ)、この2つのG1レースを頂点としたレース体系が組まれている。因みに次回のチャンピオンズミーティング・アクエリアス杯の舞台設定がそのうちの一つ、フェブラリーSであることはご承知のとおり。
対して、全国の地方競馬はダートレースのみで行われている競馬場がほとんどで、それぞれ独自のレース体系で開催されている。その全国の地方競馬の中でも重賞級の大きなレースを、統一したグレードレース(G1~3、Jpn1~3)として格付けし、なおかつ地方と中央の垣根をなくして相互に参加できるようにしたのが交流重賞である。だいぶ大ざっぱな説明だが、このようにダート路線というのはJRAにとどまらず全国の地方競馬を舞台に広がりがあるのが特徴なのだ。
時はダート戦国時代
その交流重賞に活躍の場を見出してことごとく勝ったのがスマートファルコンである。当時のダート界は群雄割拠、かつてないほどに強豪がひしめく戦国時代だった。その中でスマートファルコン陣営が選択したのが交流重賞だったということだろう。ファル子がトップウマドル目指して地方にも目を向けてアイドル活動をしているという設定はこのような史実が元になっている。
2歳時
メイクデビュー
10月の東京競馬場、ダート1600m新馬戦でデビューしたスマートファルコンは、1番人気に支持される。レースでは4,5番手の好位追走から抜け出して勝利。デビュー勝ちを飾った。
ダートで2勝目
2戦目は同じ東京ダート1600mの1勝クラスで逃げて2着。続く3戦目は中山に替わり、1勝クラスのダート1800m戦で中団から追い込んで2勝目を挙げた。この頃はまだ逃げの脚質が定着する前で、むしろ差し脚を活かす競馬で勝っていた。
3歳時
芝に挑戦
3歳になると、やはり一度はクラシック路線に目を向けるために芝の適性を確かめようということになる。そして出走したのが中山芝1600mのオープン戦、ジュニアカップだった。ダートで2勝のスマートファルコンは伏兵評価の5番人気。しかしながら初めての芝レースでスマートファルコンは適性を見せる。後方待機から直線一気の末脚を繰り出して差し切り勝ち。一躍、クラシックの有力候補に名乗りを挙げたのだった。
皐月賞へ向けて
初めての芝レースを見事にこなしてみせたスマートファルコンだったが、後が続かず。初重賞挑戦となったG3共同通信杯は2番人気と期待を集めたが、最後方から追い込んで7着まで。続くアーリントンカップでは後方のままいいところなく10着に敗れた。
皐月賞
そして迎えた皐月賞。2戦連続の大敗で人気は急落し、18頭立ての17番人気。レースでも一旦は中団ににつけたもののずるずると後退してしまい最終コーナーでは最後方。そのまま大きく離された最下位に終わった。これで芝レースには完全に見切りをつける結果となった。あのジュニアカップでの快走はなんだったのか。
ダート路線へ
ジャパンダートダービー
芝で散々な結果に終わったスマートファルコンは、心機一転ダート路線に戻る。所属厩舎の転厩もあり、皐月賞後は放牧に出されてリフレッシュして態勢を立て直した。そして3歳のダートチャンピオン決定戦に位置づけられる交流重賞・ジャパンダートダービーで戦線復帰する。
ダートでは安定した成績を残していたスマートファルコンは3番人気。断然の1番人気は前走日本ダービーに挑戦して最下位18着だったサクセスブロッケン。この馬もまた、芝で大敗してダート路線に戻ってきた口だったが、ダートでは4戦4勝。いずれも圧勝でダートでは怪物級の強さを見せていた。
レースはサクセスブロッケンの独壇場。2番手から難なく抜け出して楽々と優勝した。3馬身半離された2着に入ったのがスマートファルコン。サクセスブロッケンには完敗だったが、やはりダートでは走るというところを確認するには十分な結果だった。
4勝目
中央の夏競馬に戻り、小倉競馬場のオープン戦KBC杯(ダート1700m)に出走。これを逃げ切って4勝目を挙げると、ここからスマートファルコンの地方競馬巡りがスタートする。結果的に、このレースを最後にスマートファルコンがJRAのレースに出走することはなかった。
交流重賞を転戦
重賞初制覇
KBC杯のあと一息入れたスマートファルコンがまず最初に赴いた先は金沢競馬場。交流重賞Jpn3の白山大賞典(ダート2100m)は単勝1.5倍の断然人気に応えて鮮やかに逃げ切り勝ち。重賞初制覇を果たした。
JBCスプリント
続いては園田競馬場で行われたJBCスプリントに参戦。開催場所が持ち回り制で毎年変わるレースで、この年は兵庫県の園田で行われた。スマートファルコンにとっては距離が未経験の1400mだったこともあり3番人気。ほかの人気馬はやはりJRA所属の実績馬たち。ここではJRA所属の2番人気バンブーエールに逃げきりを許し2着に惜敗した。
連勝
ここから、スマートファルコンの快進撃が始まる。浦和競馬場のJpn2彩の国浦和記念を7馬身差圧勝すると、年末の園田競馬場で行われたJpn3兵庫ゴールドトロフィーでは単勝1.0倍の圧倒的支持を集める。これも人気に応えて楽勝。3歳シーズンを締めくくった。
4歳時
交流重賞6連勝
年をまたいでもスマートファルコンの勢いは止まらず、佐賀記念(佐賀)、名古屋大賞典(名古屋)、かきつばた記念(名古屋)、さきたま杯(浦和)まで交流重賞6連勝。4歳シーズンはここまで4戦すべて交流重賞のJpn3に出走して負け無しだった。
連勝ストップ
地方交流重賞では敵なし状態だったが、夏の盛岡で連勝はストップする。Jpn3マーキュリーカップでJRA所属のマコトスパルビエロに4馬身差をつけられての2着。7連勝はならなかった。
巻き返し
久しぶりの敗戦を経験したスマートファルコンだったがすぐさま巻き返す。門別(北海道)のJpn2ブリーダーズゴールドカップではジャパンカップダート勝ち馬のアロンダイトや船橋所属の強豪フリオーソらを相手にレコードタイムで勝利してみせた。
ローテーションについての批判
この頃になると、スマートファルコンのローテーションに少なからず批判的な意見も散見されていた。地方交流重賞の勝てるレースばかりを狙い撃ちにしている。。。ダート最高峰のフェブラリーステークスや、交流重賞の中でもグレードの高いJpn1川崎記念、帝王賞といった大レースに出走していなかったことが原因だろう。
ダートで初の大敗
そんなスマートファルコンが4歳の締めくくりに選んだのは、中央のG1ジャパンカップダートではなく連覇を狙って出走した浦和記念だった。断然の1番人気に支持されたスマートファルコンだったが、逃げて主導権を握ったかに思われた展開で失速。よもやの7着とダートでは初めて掲示板を外す大敗を喫する。4歳シーズンの最後をいい形で締めくくることができなかった。
5歳時
復帰
5歳になると、調子を戻すのに半年ほどの間隔を開けて復帰。名古屋のJpn3かきつばた記念で連覇を狙う。久しぶりのレースとなったが軽快に逃げてそのまま粘りきって連覇を達成。復帰戦を勝利で飾ると、つづくJpn3さきたま杯も楽勝で連覇。これが区切りの交流重賞10勝目だった。
ついに大レースに登場
そして、スマートファルコンが3歳のJBCスプリント以来久しぶりにダートの大舞台に立つ日がやってきた。大井競馬場の春を締めくくる名物レースJpn1帝王賞。出走メンバーにはずらりとダートの強豪馬が揃った。
砂のディープインパクトと言われたカネヒキリはキャリアの終盤とは言え自力は最上位。3歳時にジャパンダートダービーで敗けた相手サクセスブロッケンはその後フェブラリーステークスを勝って中央のG1馬になっていた。そして長くダート界を牽引してきた名馬ヴァーミリアンという豪華メンバーで争われる。
スマートファルコンにとっては真価が試されるレースだったが、先行策から伸びることができず6着。カネヒキリらJRA勢を抑えて勝ったのは船橋の雄フリオーソだった。
武豊騎手と新パートナー
初のビッグタイトル
帝王賞まで主戦を務めた岩田騎手から武豊騎手に乗り代わった初戦のJpn2日本テレビ盃(船橋)では再びフリオーソの後塵を拝して3着だったが、武豊騎手と出会って2戦目のJBCクラシックで念願のビッグタイトルを手にする。
大外13番から好スタートで先手を奪うと、気持ちよく逃げてそのまま後続を寄せ付けずに楽勝。連敗中だったフリオーソに7馬身差をつける快勝だった。
レース映像
引用元:NAR公式チャンネル
快進撃再び
初のJpn1タイトルを手にしたスマートファルコンは、浦和記念でまたもや逃げて大楽勝。前年7着のリベンジを果たし、暮れの大一番Jpn1東京大賞典で2つ目のビッグタイトル獲得を目指す。
東京大賞典
武豊騎手とのコンビ、そして逃げの脚質で新しい境地を見出したスマートファルコンは大井競馬場で行われる年末の祭典・Jpn1東京大賞典で堂々の1番人気。JRAの強豪は見当たらず、ライバルはやはりフリオーソだ。
スタートすると、フリオーソと果敢に競り合って先頭を奪う。そしてそのままペースを緩めることなく逃げて、追いすがるフリオーソを振り切って逃げ切り勝ちを収めた。勝ちタイムはなんとダート2000mの日本レコードを樹立。大井のコースレコードを1.7秒も更新する驚くべきものだった。
レース映像
6歳時
逃げて4連勝
休養をはさんで復帰戦は5月の船橋競馬場・ダイオライト記念。引き続き武豊騎手とコンビを継続。スマートファルコンは休み明けを感じさせない貫禄の逃げで8馬身差をつけて楽勝。これで4連勝。すべて逃げ切り勝ちだった。そして春の大目標を前年6着に敗れた帝王賞に定めた。
帝王賞
帝王賞では、JRAのダートG1フェブラリーステークスとジャパンカップダートの覇者エスポワールシチーと人気を二分。ダートの帝王を決するにふさわしい対決となった。
好スタートから先手を奪うと、エスポワールシチーに影をも踏ませぬ逃走劇。終わってみれば2着エスポワールシチーに9馬身差をつける圧勝だった。
武豊騎手とのコンビ、異次元の逃げ切りは砂のサイレンススズカと言われるほどの強さだった。
連覇を狙い
秋はJpn2日本テレビ盃をステップに、JBCクラシックと東京大賞典の連覇を狙うローテーション。中央のダートG1であるジャパンカップダートで走る姿を見たいという声も当然あったが、もはや交流重賞こそこの馬の歩む道だった。
JBCクラシック
前年のジャパンカップダートと同年フェブラリーステークスで中央のダートG1を連覇したトランセンドは、その後挑んだドバイワールドカップでも同じ日本馬ヴィクトワールピサの2着に入り、名実ともにダート界のエースと言える存在。しかしそれを人気で上回るのが、ここまで交流重賞15勝のスマートファルコンと武豊騎手のコンビだ。完全な2強対決の様相となる。
スマートファルコンは好スタートからすんなりと先手を奪うと、さすがのトランセンドも下手に競りかけたりはしない。付かず離れずの2番手で追走する。スマートファルコンの淀みない逃げについてこられる馬は少なく、縦長の展開となる。
そのままの隊列で直線に差し掛かると、一旦はリードを大きく開くスマートファルコン。圧勝かと思われたがそこはさすがのトランセンドも食い下がり、最後は1馬身差まで詰め寄ったところでゴール。スマートファルコンが連覇を達成した。
レース映像
引用元:NAR公式チャンネル
なお、トランセンドはこのあとジャパンカップダートを連覇。JRAダートG13連覇を達成した。
東京大賞典
トランセンドとの激闘を制したスマートファルコンは、王者として東京大賞典の連覇、そしてこの大きく飛躍した1年の完璧な締めくくりを狙う。
ジャパンカップダートでトランセンドの2着だったワンダーアキュートが相手筆頭。しかしスマートファルコンに対する圧倒的な信頼は凄まじく、この交流重賞最高峰の舞台で単勝1.0倍の元返しを記録した。
レースはオッズに反して激戦となる。いつもどおり軽快に逃げたスマートファルコンに対し、最後までワンダーアキュートが食い下がり、勝負は写真判定にもつれ込む。ハナ差で凌いだスマートファルコンが辛くも連覇を飾り、前年からの連勝を8に伸ばすとともに2011年を5戦負け無しで締めくくった。
7歳時
海外へ
7歳となったスマートファルコンは初出走となるJpn1川崎記念を難なく制し交流重賞9連勝。ヴァーミリアンの従来レコードを2秒更新する驚異のコースレコードを叩き出した。そして、トランセンド、エイシンフラッシュとともに招待されたドバイワールドカップへの出走を受諾。自身の真価を世界の舞台で見せる時がやって来た。
ドバイワールドカップ
前年に日本馬として初めて勝利したヴィクトワールピサに続く日本馬による勝利が期待されたドバイワールドカップ挑戦だったが、スマートファルコンにとっては不本意な結果に終わってしまう。スタートを待つゲート内で勢い余ってゲートに顔を強打。怯んだタイミングでゲートが開き、出遅れと不利を被る不運が続き、力を発揮できないまま10着に敗れた。
引退
帰国後は復帰を目指して調整されていたがケガを発症してそのまま引退となった。3歳の夏を最後にJRAのレースに出走することなく、交流重賞という自身が輝ける舞台をひたすらに走り続けたスマートファルコン。トップウマドル目指して地道に地方巡業をするウマ娘のファル子は、どこか悲壮な決意すら滲んで見える。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、スマートファルコン。
史実のスマートファルコン
基本情報 | 2005年4月4日生 牡 栗毛 |
---|---|
血統 | 父 ゴールドアリュール 母 ケイシュウハーブ(父 ミシシッピアン) |
馬主 | 大川徹 |
調教師 | 畠山吉宏(美浦)→小崎憲(栗東) |
生産牧場 | 岡田スタッド(静内町) |
通算成績 | 34戦23勝(中央8戦4勝、地方25戦19勝、海外1戦0勝) |
主な勝ち鞍 | ’10,’11東京大賞典、’10,’11JBCクラシック、’11帝王賞、’12川崎記念ほか |
生涯獲得賞金 | 9億9073万円(中央)6,048万円/(地方)9億3,025万円 |
エピソード①引っ越し
厩舎を移籍
スマートファルコンは、3歳時の皐月賞後に所属厩舎を美浦の畠山厩舎から栗東の小崎厩舎へ移籍している。競馬の世界では調教師の定年や馬主の意向など様々な理由で厩舎間の移籍が時々見られる。ファル子をホーム画面にしておくと、下のようなセリフでこのような細かいエピソードをしっかりと拾っている。
エピソード②大井競馬場
再現度高し!
ウマ娘のアプリに登場する大井競馬場は、かなり再現度が高い。もちろん他の中央競馬の各競馬場の作り込みも当然ながら高次元なのだが、筆者としてはより身近な大井競馬場をリアルに再現してくれていることが嬉しい。
大井競馬場で行われるレース、帝王賞や東京大賞典のスタート前に映るアングルには近くを走る首都高速も見える。
そしてスタンド前から1コーナーにかけて・・・その奥には実際には画面内に映っていないがモノレールの大井競馬場前駅が見えるような気がしてくる。
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