競馬好きのライターが送るウマ娘コラム。今回は秋競馬の開幕に合わせて、ひと夏を越して大きく成長した『夏の上がり馬』を特集する。
夏の上がり馬
秋競馬開幕で注目
9月になると夏競馬の開催が終わり、大レースが目白押しの秋競馬が開幕する。例年、春に活躍した多くの有力馬たちが夏場を放牧や休養にあてて秋に備える一方で、夏競馬のレースに使いながらメキメキと力をつける『夏の上がり馬』たちが現れる。
今回は秋競馬の開幕に合わせて、ウマ娘のモデル馬の中でも『夏の上がり馬』としてこの時期に台頭した馬たちを特集する。
上がり馬から菊花賞馬へ
『夏の上がり馬』で真っ先に連想させるレースと言えば、菊花賞だろう。毎年のように、春のクラシックに不出走もしくはまったく歯が立たなかった馬たちが、夏競馬からトライアルレースで結果を残してクラシック最後の一冠・菊花賞に挑んでくる。そして上がり馬の勢いそのままに菊花賞の栄冠を掴んで名馬の仲間入りを果たすというパターンは少なくない。
同様に、牝馬の場合は秋華賞やエリザベス女王杯がそれにあたる。夏の上がり馬から菊花賞馬、秋華賞馬へと上り詰めたウマ娘たちをピックアップして紹介していく。
メジロマックイーン
メジロを代表する遅咲きステイヤー
ご存知のトレーナーが多いと思うが、メジロマックイーンはメジロを代表する遅咲きの長距離ランナーである。まだ菊花賞が11月開催だった頃のため、夏と言ってもマックイーンが力をつけたのは9月の函館開催だった。
函館から菊花賞へ
脚元の不安で春のクラシックは不出走に終わったマックイーンだったが、代々続く長距離血統で兄も菊花賞馬というメジロマックイーンにとって、菊花賞はどうしても出走させたいレース。9月の函館開催で復帰すると1勝クラスの渡島特別(ダート1700m)で痛恨の2着。菊花賞出走のためにはもう負けられない。
続く木古内特別(ダート1700m)で1勝クラスを突破すると、連闘で臨んだ昇級初戦の大沼ステークス(芝2000m)を勝って2連勝。夏の終わりの函館で3戦という強行軍だったが、しっかりと結果を残してみせた。
そして陣営は、菊花賞の優先出走権を争うトライアルではなく、菊花賞と同じ舞台(京都芝3000m)で行われる嵐山ステークスから菊花賞を目指した。勝って賞金を加算することが絶対条件となったが、これは菊花賞馬の兄メジロデュレンと同じローテーションだった。
ところが、嵐山ステークスで2着に敗れて菊花賞への出走が危ぶまれる立場となってしまう。フルゲート18頭を超える出走馬がいれば除外になってしまうところだったが、出走権利上位の馬から次々と回避馬が出て滑り込みで出走が叶った。
見事に大願成就
菊花賞では、血統的な背景もあって4番人気という穴人気の支持を集めたマックイーンは、春のクラシックで実績上位のメジロライアン(皐月賞3着、ダービー2着)やホワイトストーン(ダービー3着)らを破って見事に優勝。9月の函館で1勝クラスを勝ってから2ヶ月足らずで頂点へと駆け上がった。
その後の活躍は改めて言うまでもないが、父子三代の天皇賞制覇や史上初の獲得賞金10億円を達成して顕彰馬にも選ばれた。
史実のメジロマックイーン
基本情報 | 1987年4月3日生 牡 芦毛 |
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血統 | 父メジロティターン 母メジロオーロラ(父リマンド) |
通算成績 | 21戦12勝 |
主な勝ち鞍 | ’90菊花賞、’91,’92天皇賞(春)、’93宝塚記念 |
メジロマックイーンのコラム
マヤノトップガン
芝の長距離で素質が開花
変幻自在の走りで4つのG1タイトルを獲得したマヤノトップガンも、春のクラシック不出走から菊花賞で初G1制覇を成し遂げた一頭だ。
芝でガラリ
3歳1月という遅めのデビューから6月までの成績は、8戦2勝、そして3着が5回。脚元の弱さからダート戦を中心に使われていたこともあってか、善戦続きでなかなか勝ちきれないレースぶりだった。ダートで2勝目をあげ、ようやく芝に使えるようになった頃に夏の中京開催に突入していた。
7月の中京、2勝クラスのやまゆりステークス(中京芝1800m)ではサンデーサイレンス産駒の素質馬スリリングアワーを下して快勝。芝のレースで決め手を発揮して3勝目を挙げると、その後は秋に備えて充電。
菊花賞トライアル連続参戦
秋初戦、菊花賞トライアルの神戸新聞杯(京都芝2000m)では、ダービー馬タヤスツヨシが5着に敗れる波乱の中で2着と健闘。これにより菊花賞の優先出走権を獲得した。
菊花賞の切符を手に入れたマヤノトップガンは、もう一つのトライアル京都新聞杯(京都芝2200m)にも出走。これまでの先行策から中団待機策を取り、神戸新聞杯に続き再び2着に入った。1番人気のダービー馬タヤスツヨシは末脚不発で7着に沈み評価を落とした。
混戦の菊花賞を斬る
本番の菊花賞は、皐月賞馬ジェニュインが天皇賞へ向かい、ダービー馬タヤスツヨシは大不振。そしてオークス馬ダンスパートナーの参戦によってますます混戦模様となった。トライアルで2戦続けて2着と好調を保っていたマヤノトップガンは3番人気と上位人気の一角を担った。
マヤノトップガンは4番手の位置取りにつける先行策。前を走る先行勢がハイペースで早々に後退する中、早めに先頭に立ったマヤノトップガンは最後まで衰えることなく後続を完封。1馬身1/4差をつけて1着でゴールした。前年の三冠馬ナリタブライアンがつくったレースレコードを破る好時計でG1初勝利。秘めていた長距離ランナーとしての才能を一気に花開かせた。
脅威の成長力で古馬も撃破
菊花賞制覇の勢いそのままに臨んだ有馬記念では、ナリタブライアンやヒシアマゾンら古馬勢を退け、驚異的な成長力を見せつけた。
古馬になってからも、ナリタブライアンとの伝説の名勝負や、サクラローレル、マーベラスサンデーとの三強時代など、変幻自在の走りでファンを魅了し続けた。
史実のマヤノトップガン
基本情報 | 1992年3月24日生 牡 栗毛 |
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血統 | 父ブライアンズタイム 母アルプミープリーズ(父 Blushing Groom) |
通算成績 | 21戦8勝 |
主な勝ち鞍 | ’95菊花賞,’95有馬記念,’96宝塚記念,’97天皇賞(春) |
マヤノトップガンのコラム
マチカネフクキタル
ピーク時の強さは本物
マチカネフクキタルも、トライアルで結果を残したのちに菊花賞を制した1頭。前記の2頭と異なるのはダービーに出走していたという点だが、ひと夏の成長度という意味では歴代菊花賞馬の中でもひと際目を引くものがある。
春はトライアルからダービー出走
春のクラシックでは、プリンシパルステークスでサイレンススズカの2着に入ってダービーの優先出走権を獲得。ダービーでも3着のメジロブライトから0.2秒差の7着と素質の一端を見せていた。
そしてダービー後に出走した福島の2勝クラス、さくらんぼステークス(福島芝1700m)を楽勝して秋に備えた。
トライアル快勝
秋は、菊花賞トライアルの神戸新聞杯から始動。後方待機策から直線一気の末脚を繰り出し、逃げ切り濃厚と思われた1番人気サイレンススズカを捕らえて重賞初制覇を飾った。
菊花賞の優先出走権を獲得したマチカネフクキタルは、さらにもう一つのトライアルである京都新聞杯に出走。前走の快勝から1番人気に支持されると、春の実績馬メジロブライトらを逆転してトライアルレース連勝を決めた。
菊花賞
夏の福島から破竹の3連勝で堂々菊花賞へ駒を進めたマチカネフクキタルは、距離を不安視する声も跳ね返して菊花賞も制覇。4連勝で一気に世代の頂点へ上り詰めた。
菊花賞後は勝ち星に恵まれなかったが、3歳夏から菊花賞までの短期間で見せた成長力とピーク時の強さは本物だった。
史実のマチカネフクキタル
基本情報 | 1994年5月22日生 牡 栗毛 |
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血統 | 父クリスタルグリッターズ 母アテナトウショウ(父 トウショウボーイ) |
通算成績 | 22戦6勝 |
主な勝ち鞍 | ’97菊花賞,’97京都新聞杯(G2),’97神戸新聞杯(G2) |
マチカネフクキタルのコラムは
マンハッタンカフェ
遅れてきた主役
アグネスタキオン、ジャングルポケットといった大物揃いの世代にあって、春のクラシック不出走からひと夏を越して大きく飛躍したのがマンハッタンカフェだ。
成長途上の春
3歳の1月にデビューしたマンハッタンカフェは、2戦目で未勝利を脱出したあと格上挑戦で皐月賞トライアルの弥生賞に挑戦するも、優先出走権にわずかに届かず4着。そして続く1勝クラスでは馬体重を大きく減らしてしまい惨敗。成長途上のうえに体質の弱さもあって春のクラシックには間に合わなかった。
夏の札幌で軌道に乗る
状態を立て直して夏の札幌開催で復帰すると、減ってしまった馬体重を一気に46キロも戻して帰ってきたマンハッタンカフェ。そして1勝クラスの富良野特別と昇級初戦の阿寒湖特別を連勝。いずれも芝2600mのレースで、長距離戦への適性を示した。
夏の北海道で成長を見せたマンハッタンカフェは、菊花賞出走をかけてトライアルのセントライト記念に出走。しかしまたしても4着となり優先出走権を掴み取ることができなかった。
菊花賞で大輪
幸い、菊花賞への出走頭数がフルゲート割れとなり出走することができた。無敗の皐月賞馬アグネスタキオンは屈腱炎で戦線離脱し、ダービー馬ジャングルポケットが1番人気。皐月賞、ダービーともに2着の実績馬ダンツフレームが2番人気。そして、マンハッタンカフェを凌ぐ夏の上がり馬エアエミネムが3番人気に支持された。
レースは、人気薄のマイネルデスポットがスローペースの逃げに持ち込み、ジャングルポケットやエアエミネムは折り合いに苦労してスタミナを消耗。そんな中、後方のインで虎視眈々と脚を溜めていたマンハッタンカフェだけが直線で鋭い末脚を繰り出し、逃げ込みを図るマイネルデスポットを差し切って勝利した。
菊花賞のあとは短期放牧でさらなる成長を促し、年末の有馬記念に挑んだマンハッタンカフェ。テイエムオペラオー、メイショウドトウやナリタトップロードといった歴戦の古馬との対戦で真価が問われる一戦となったが、ここも完勝して世代のトップから一躍現役トップの座に君臨した。
そして翌年には天皇賞(春)も勝ってG1を3連勝。秋には国内最強馬として凱旋門賞にも挑戦した。大種牡馬サンデーサイレンス産駒の中でも、3歳夏を越して大きく成長した大器晩成型の代表格だった。
史実のマンハッタンカフェ
基本情報 | 1998年3月5日生 牡 青鹿毛 |
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血統 | 父サンデーサイレンス 母 サトルチェンジ(父 Law Society) |
通算成績 | 12戦6勝(うち海外1戦0勝) |
主な勝ち鞍 | ’01菊花賞,01’有馬記念,’02天皇賞(春) |
マンハッタンカフェのコラムはこちら
第16回:伝説世代の遅れてきた大物 マンハッタンカフェの物語
ファインモーション
無敗のまま秋に実った世界の良血
ここまで菊花賞馬となった牡馬たちをピックアップしたが、もちろん牝馬にも3歳夏を境に成長して実りの秋を迎える上がり馬が現れる。世界的な良血馬としてデビュー前から注目の存在だったファインモーションも、デビューは遅く本格化したのは秋だった。
2歳の12月のデビュー戦で単勝オッズ1.1倍の人気に応えて楽勝したファインモーションは、成長を促すため放牧に出されて3歳春のクラシックには不参加だった。
夏の北海道で復帰
長い休養を経て3歳夏の函館開催で満を持して復帰すると、1勝クラスを持ったままで圧勝。続く2勝クラスの阿寒湖特別(札幌芝2600m)も5馬身差で楽勝して素質の違いを見せつけた。
9月になると、秋華賞トライアルのG2ローズステークスに出走。ファインモーションがいよいよ3歳牝馬の主戦場に登場する。ここまで3戦全勝、そのいずれも強く追われることなく楽勝してきたファインモーションがどんなパフォーマンスを見せるか注目が集まった。
結果はここも余裕たっぷりに3馬身差をつけて楽勝。難なく重賞初制覇を達成した。
秋華賞
もはや夏の上がり馬という枠を超えて、牝馬戦線の最注目馬となったファインモーション。G1初挑戦の秋華賞で単勝オッズ1.1倍という記録的な支持を集める。
そして、見事に期待に応えて圧巻のパフォーマンスで圧勝。ほとんど持ったままで後続を突き放してしまったため、未だ全力の走りを見せずに無敗の秋華賞馬に輝いた。
エリザベス女王杯
続けてエリザベス女王杯に出走したファインモーションは、古馬牝馬すら寄せ付けず快勝。6戦6勝の負け知らずのまま牝馬の頂点に立ってみせた。
その後は有馬記念で1番人気5着と初めての黒星を喫するなど、牡馬や古馬との戦いでは無敗というわけにいかなかったものの、夏の北海道から瞬く間に牝馬の頂点に立った絶頂期のファインモーションの強さは底知れない能力を証明するものだった。
史実のファインモーション
基本情報 | 1999年1月27日生 牝 鹿毛 |
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血統 | 父 デインヒル 母 Cocotte(父Troy) |
通算成績 | 15戦8勝 |
主な勝ち鞍 | ’02秋華賞、’02エリザベス女王杯 |
ファインモーションのコラム
競馬の秋
3歳夏の上がり馬は他にもスーパークリークやヒシミラクルなども該当するし、古馬になって本格化してG1馬に上り詰めたマーベラスサンデーやサイレンススズカのような例もある。短期間で力をつけた上がり馬と実績馬が対戦するのはワクワクするし、そんな対戦が多く見られるのが秋競馬である。
l'Arcで推しのウマ娘を凱旋門賞馬に育てる合間に『夏の上がり馬』に注目して秋競馬を観戦する。今年も『競馬の秋』がやってくる。
ありがとう、ウマ娘。
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