競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第63回。今回は、天性のスピードで駆け抜けた快速少女「アストンマーチャン」について熱く語ります。
目次
かわいくて切ないストーリーも話題
早逝の快速少女
育成ウマ娘として実装されて間もなく、かわいさと同時にその切ないストーリーが話題となったアストンマーチャン。筆者も、無料で見られるウマ娘ストーリーの4話分を見ただけで胸を締め付けられるような気持ちになった。
気になって史実を調べたというトレーナーも多くいることと思う。そう、彼女は天性のスピードで短距離界の頂点に立ったにも関わらず、現役中に患った病気が原因で早逝した悲運の馬である。
世代屈指のスピード
アストンマーチャンは、ウオッカとダイワスカーレットという偉大な2頭の牝馬と同じ世代で頂点を競い合った実力馬だ。悲しい結末に目が行きがちだが、スピード勝負なら同世代のスターホース達に一歩も引けを取らないほどの快速ぶりで駆け抜けたアストンマーチャンの史実を追っていく。
仔馬時代
未知数の血統
アストンマーチャンの父アドマイヤコジーンは、現役時代に朝日杯3歳ステークス(現・朝日杯フューチュリティステークス)と安田記念を勝ったスピード豊かな芦毛の持込馬だった。母のラスリングカプス(父Woodman)も米国血統のスピードタイプの馬で、現役時代は短距離で勝ち星を挙げていた。母父のWoodmanはヒシアケボノの父としても知られる。
アストンマーチャンはアドマイヤコジーンの初年度産駒で、種牡馬としてはまだ未知数だったためにセレクトセールでの買い手はつかなかったものの、医師の戸佐眞弓オーナーに見初められた。
命名
馬名はアストンマーチャンと名付けられた。英国の高級車ブランドのアストンマーティンが由来の一つであることは明らかだが、馬名申請の際には「サーキット名(アストンヒル)+馬主の愛称(マーちゃん)」という理由で申請されたそうだ。
2歳時
メイクデビュー
2歳7月の夏競馬。小倉の芝1200m新馬戦に鞍上武豊騎手でデビュー。良血馬シャルマンレーヌと人気を分け合い2番人気だった。
レースはシャルマンレーヌとの一騎打ちとなったが、直線でターフビジョンに驚いたアストンマーチャンは斜行してしまい、わずかクビ差でデビュー勝ちを逃した。
2戦目で勝ち上がり
デビュー戦から中一週で臨んだ2戦目、同じく小倉の芝1200m未勝利戦で断然の1番人気に応えて順当に勝ち上がった。
小倉2歳ステークス
デビューから2戦続けての小倉1200m戦をともに好タイムで走ったアストンマーチャンは、同じ舞台で行われる2歳重賞の小倉2歳ステークスに出走。3番人気の支持を集めた。
鞍上にはデビュー2年目の若武者・鮫島良太騎手を迎え、2番手追走から早めに抜け出してそのまま危なげなく快勝。鮫島騎手ともども重賞初制覇を達成した。父アドマイヤコジーンにも産駒重賞初勝利を届けた。
ファンタジーステークス
小倉2歳ステークス後は放牧に出されてリフレッシュ。そして距離を1ハロン伸ばして挑戦したG3ファンタジーステークス(京都芝1400m)では、さらに成長した走りを見せつけた。
スタート後は5番手あたりで折り合って追走。3コーナー過ぎから徐々にペースを上げて進出し、最終コーナーを周って3番手で最後の直線を迎えた。余裕たっぷりの手応えで抜け出すと、後続を突き放して独走。2着に5馬身差をつけて圧勝した。
勝ちタイムの1:20.3は、芝1400mのJRA2歳レコードを大幅に更新する好記録だった。
ウオッカ登場
阪神ジュベナイルフィリーズ
4戦3勝で迎えたG1阪神ジュベナイルフィリーズ。桜花賞と同じ阪神1600mの舞台。距離はさらに1ハロン延長されるが、前走の走りからアストンマーチャンは単勝1.6倍の1番人気を集める。
世代の初タイトルを狙うメンバーにはウオッカの姿もあり、この頃はまだ2戦1勝の身だったため4番人気と伏兵の一頭だった。
アストンマーチャンと武豊騎手は、好スタートからすんなり3番手集団につけてレースを進める。2番人気のルミナスハーバーが逃げ、中団の内にはウオッカ。
最終コーナーを周って直線に入る。インコースでぎりぎりまで追い出しを我慢したアストンマーチャンが、内を突いて抜け出しを図る。
先頭に立ってそのまま引き離しにかかったが、外から一頭豪快な末脚を繰り出して追い込んできた馬こそ、のちのダービー馬ウオッカだった。
アストンマーチャンも最後まで食い下がったが、ウオッカがわずかに差し切ったところでゴール。ウオッカがクビ差で2歳女王に輝いた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
惜しくも2歳女王の座を逃したアストンマーチャンだったが、世代トップクラスのスピードを存分に印象付けた2歳シーズンだった。
3歳時
桜花賞へ向けて
3歳春の大目標はもちろん桜花賞。アストンマーチャンは前哨戦のG2フィリーズレビューから始動した。
単勝オッズ1.1倍の圧倒的な人気に応えて快勝。本番に向けて上々のスタートを切った。
ダイワスカーレット登場
桜花賞
春のG1シーズンの幕を開ける牝馬クラシック第1弾、桜花賞。前哨戦のチューリップ賞を制して順調に進んできたウオッカが1番人気。アストンマーチャンが2番人気、チューリップ賞でウオッカに敗れたダイワスカーレットが3番人気で続いた。
同世代のこの三頭が集ったの唯一のレースがスタート。スタート後ほどなくスーっと2番手にあがったアストンマーチャンと武豊騎手。ダイワスカーレットが直後につけ、ウオッカはやや後ろから前を見る位置取りで追走。
最終コーナーを抜けて直線に入ると、アストンマーチャンは阪神ジュベナイルフィリーズやフィリーズレビューの時のように一瞬で抜け出す脚はなく、外からダイワスカーレットが抜け出した。さらに外を突いて追い込んだウオッカと2頭のマッチレースに。アストンマーチャンは直線半ばで力尽きて上位争いから後退した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ウオッカの追撃を凌いでダイワスカーレットが桜花賞馬となった。そして7着に敗れたアストンマーチャンはこれ以降、マイル以上の距離は長いと判断されて短距離路線へと進んでいく。
短距離路線へ
スプリンターズステークスへ向けて
桜花賞後は放牧に出されて休養。秋はスプリンターズステークスを目標に立て直しがはかられた。
そして復帰戦のG3北九州記念。2歳時以来となる1200mのスプリント戦だ。鞍上は武豊騎手から岩田騎手に乗り替わりとなった。
アストンマーチャンにとって小倉の1200mは未勝利戦と小倉2歳ステークスを勝った得意の舞台。復活が期待され断然の1番人気に支持されたが、期待に応えることができず6着に終わった。
スプリンターズステークス
不良馬場で躍動
早熟のスピード馬だったのか。桜花賞と北九州記念の敗戦から、そんな見方もされ始めたアストンマーチャンだったが、G1スプリンターズステークスの大舞台で真価を発揮する。
降り続いた雨により、中山競馬場の芝コースは不良馬場にまで悪化した最悪のコンディション。鞍上に逃げ馬を得意とする中舘騎手を新たなパートナーに迎えたアストンマーチャンは、スタートから気合をつけて先手を奪い逃げの一手に出た。
回転の早いピッチ走法を活かし、不良馬場をものともせずに軽快に逃げるアストンマーチャン。3~4馬身のリードを保ったまま最後の直線へ。急坂を擁する中山の直線でも後続との差はなかなか縮まらず、最後は1番人気のサンアディユに詰め寄られたものの振り切って先頭でゴール。見事な逃げ切り勝ちで短距離界の頂点に立った。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
3歳牝馬によるG1スプリンターズステークス優勝は、天才少女ニシノフラワー以来となる史上二頭目の快挙。アストンマーチャンが歴史にその名を刻んだ瞬間だった。
謎の大敗
スプリンターズステークス後は、スワンステークスから香港スプリントというローテーションが描かれたが、スワンステークス(京都芝1400m)では逃げて直線失速。14着と大敗を喫してしまう。
さらに当時流行していた馬インフルエンザの影響も考慮して香港遠征は取りやめとなり、年内休養となった。
4歳時
復帰戦も大敗
年が明けて4歳となり、休養明け初戦のシルクロードステークスでは武豊騎手とのコンビが復活。復調が期待されたが、いいところなく10着に終わる。得意の1200mでもG1馬らしい走りを取り戻すことができなかった。
突然の別れ
難病に冒され
春のスプリントG1高松宮記念を目指していたアストンマーチャンは体調を崩してしまう。高松宮記念を回避した後、さらに深刻な病がアストンマーチャンを襲う。X大腸炎という難病にかかり、激しい腹痛と下痢の症状に苦しんだアストンマーチャンは、ついに回復することなくこの世を去ってしまった。最期は心不全を発症してのものだった。
ウマ娘となって現れる
忘れない
アストンマーチャンが亡くなって14年が経った2022年の春。ウマ娘となったアストンマーチャンが私達の前に突然姿を現した。キタサンブラックとサトノダイヤモンド達の後ろでやたらとカメラ目線で見切れる彼女。そのカメラ目線の理由も、このたびの育成ウマ娘実装で明らかになった。
忘れられないためにウマ娘となって戻ってきたアストンマーチャンを、当時のファンは鮮明に思い出し、そして当時を知らなかった新しいファンも彼女のことを知ることとなった。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、アストンマーチャン。もう君を忘れない。
史実のアストンマーチャン
基本情報 | 2004年3月5日生 牝 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 アドマイヤコジーン 母 ラスリングカプス(父Woodman) |
馬主 | 戸佐眞弓 |
調教師 | 石坂正(栗東) |
生産者 | 社台ファーム(北海道千歳市) |
通算成績 | 11戦5勝 |
主な勝ち鞍 | 07’スプリンターズステークス |
生涯獲得賞金 | 2億4899万円 |
エピソード① 回転の早いピッチ走法
アストンマーチャンの走りは、回転の早いピッチ走法が特徴だった。本文中でも紹介した阪神ジュベナイルフィリーズのレース動画などでもよく分かるので、その走り方にも注目して観てほしい。ダイナミックな走りのウオッカとは対照的である。
今週の一枚
阪神ジュベナイルフィリーズを彷彿とさせるウオッカとの一騎打ちシーン。
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