競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第91回。今回は、ついに動き出したメインストーリー第2部から、主人公の「ラインクラフト」について熱く語ります。
メインストーリー第2部スタート
ついに動き出した新たな物語
ウマ娘プリティーダービーのメインストーリー第2部がついに始動。すでにプレイして新たな物語を堪能したトレーナーも多いことだろう。今回は、そのメインストーリー第2部・前編「ヒカリ射し、芽吹くとき!」のシーンも交えつつ、物語の中心となるウマ娘「ラインクラフト」の史実を追っていく。
舞台は2005年の牝馬三冠路線
さて、物語の舞台となるのはトリプルティアラ路線。史実ではラインクラフトやシーザリオらが活躍した2005年クラシック世代の牝馬三冠路線である。
同年の牡馬クラシック路線はかの有名な無敗の三冠馬ディープインパクトが席巻。新たなスターホースの登場に競馬界が湧いたシーズンだった。
対して、牝馬三冠路線では三つの冠を巡って一戦ごとに白熱のレースが繰り広げられた。ラインクラフトは、その中でも2歳時から頭角を現してこの年の主役を演じた一頭である。
血統
社台ファームゆかりの牝系
ラインクラフトの父はエンドスウィープ。ウマ娘のトレーナーにもお馴染みスイープトウショウの父としても有名な種牡馬だ。
母マストビーラヴド(父サンデーサイレンス)は未勝利馬だが、その血筋には社台ファームゆかりの血が脈々と流れている。その母ダイナシュート(ラインクラフトの祖母)は現役時代に重賞3勝の活躍馬で、社台ファームの礎を築いた牝系のひとつであるファンシミンに遡る名牝系の一族。
ラインクラフトが3歳となった2005年には、叔父にあたるアドマイヤマックス(母ダイナシュート、父サンデーサイレンス)がG1高松宮記念を勝ち、活気があるファミリーになりつつあった。
2歳時
メイクデビュー
牧場時代は脚元の不安を抱えながらも慎重に育成を重ねられ、素直な気性も相まって関係者からの期待も高まっていった。やがて2歳になると栗東の瀬戸口勉厩舎へ入厩し、10月の京都開催でデビュー戦を迎える。
京都芝1400mの新馬戦、ラインクラフトは福永祐一騎手を背にゲートイン。好スタートから3番手につけたラインクラフトは、直線に向くと楽々と抜け出し2着に5馬身差をつけて圧勝。3番人気ながら先々に期待を抱かせる内容でデビュー戦を飾った。
連勝で一躍注目
続く2戦目は新馬戦と同じ舞台で行われるG3ファンタジーステークスに挑戦。良血馬のライラプスや連勝中のリヴァプール、モンローブロンドなど素質馬が揃った。
キャリア1戦ながら新馬戦の内容を評価されたラインクラフトは2番人気の支持を集めた。
新馬戦と同じように好スタートから好位3番手につけるラインクラフトと福永騎手。楽な手応えで直線に差し掛かると、抜群の決め手を発揮してあっという間に後続を突き放し、4馬身差をつけて快勝。デビューから2連勝で一躍世代トップクラスの評価を獲得した。
阪神ジュベナイルフィリーズ
無傷の2連勝でG1阪神ジュベナイルフィリーズへと駒を進めたラインクラフトは2戦の圧倒的な勝ち方から圧倒的な1番人気に支持される。
2枠3番の絶好枠に入ったラインクラフトは好スタートを切ると、前に行きたい馬の後ろに控えて6,7番手あたりにつける。やや行きたがる素振りを見せるラインクラフトと手綱を抑える福永騎手。力みからか躓きそうになる場面もあり、これまでの2戦とは違う厳しいレース展開を強いられる。
それでも勝負どころで仕掛けて上がっていくと、4コーナーで外へ膨れそうになりながら前を射程圏に捉える。
ここから自慢の末脚を繰り出して一気に突き抜けるかに見えたが、先に抜け出したアンブロワーズと、一緒に差してきたショウナンパントルをなかなか交わすことができない。
最後は、差し切ったショウナンパントルと粘ったアンブロワーズにわずかに遅れを取り、3着でゴールした。着差はアタマ+ハナ差という大接戦であった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
なお、この時まだ未勝利を勝ったばかりのデアリングハートは11番人気の人気薄で5着と善戦。後々まで牝馬路線を争うライバルの一頭となる。
3歳時
桜花賞へ向けて
年が明けていよいよクラシックシーズンへ向けての戦いが本格化。ラインクラフトも2歳女王のタイトルこそ逃したものの、依然有力馬の一頭に変わりはない。注目の始動戦は桜花賞トライアルのG2フィリーズレビュー(阪神1400m)となった。
桜花賞を目指す大事な一戦には、ここまで3戦2勝の良血馬エアメサイアも武豊騎手とのコンビで参戦。阪神ジュベナイルフィリーズ後勝ちあぐねているデアリングハートらとともに桜花賞への切符をかける。
ラインクラフトにとって1400mは2戦2勝の得意な距離。レースでは中団につけて流れに乗ると、直線この馬らしい末脚を繰り出して差し切り勝ちをおさめた。
2着にデアリングハート、3着にエアメサイアが入りこの上位三頭が桜花賞の優先出走権を手にした。
桜花賞
シーザリオ登場
迎えた桜花賞本番。ラインクラフトの鞍上にはデビュー戦から変わらないパートナーの福永騎手。そして、ラインクラフトの前に現れた新たなライバルが、同じく福永騎手とのコンビでここまで3戦3勝の無敗で進んできたシーザリオだった。
1番人気は福永騎手から吉田稔騎手に乗り替わりとなったシーザリオ。デビューから1600~2000mまでの異なる距離でパーフェクトな成績をおさめており、安定したレースぶりも軸に相応しい。対するラインクラフトは1600mに一抹の不安を残すこともあり僅差の2番人気。そしてエアメサイアが3番人気に続いた。
ゲートが開くと、ラインクラフトは外枠17番から内へポジションを取りに行って5番手あたりで折り合いをつける。シーザリオは中団馬群の後方につけた。
レースを引っ張るモンローブロンドが快調に飛ばし、3,4コーナーに差し掛かる。好位からデアリングハートが先頭に並びかけていくと、その直後からラインクラフトも続く。最後の直線に入ると、先に抜け出そうとするデアリングハートに、ラインクラフトが迫る。
そして、さらに外から猛然と追ってくるシーザリオが加わり3頭のデッドヒート。
最後はデアリングハートを交わしたラインクラフトがシーザリオの追撃もわずかに凌ぎ切って先頭でゴールを駆け抜けた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
2着シーザリオとはアタマ差。さらにクビ差の3着にデアリングハートが入る大接戦となり、そこから1馬身3/4遅れたエアメサイアが4着という結果であった。
NHKマイルカップ
変則二冠へ
桜花賞馬となったラインクラフトは距離適性を考慮してオークスには進まず、NHKマイルカップで変則二冠を目指す。同じく桜花賞3着馬のデアリングハートもこちらを選択して参戦きた。
1番人気は牡馬勢からペールギュント。ここまで重賞2勝、G1でも朝日杯3着、皐月賞6着と上位争いを演じてきた。ラインクラフトは2番人気でこれに続く支持を集めた。
ゲートが開いてスタートすると、ラインクラフトはすぐさま4番手の好位に取り付いて折り合う。これといった逃げ馬もおらず落ち着いたペースでレースが進み、勝負は最後の直線へ。
好位で脚をためていたラインクラフトが最内から抜け出し、直後からデアリングハートも追いすがる。しかしその差は詰まらず、逆にラインクラフトが再びデアリングハートを突き放して快勝。1馬身3/4差をつけて見事に桜花賞との変則二冠を達成した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
追い込んだペールギュントは4着まで、デアリングハートが10番人気の低評価を覆す力走で2着に入り、桜花賞から参戦した牝馬によるワンツー決着となった。
それぞれの秋
春の3歳マイルG1を連勝して変則二冠を達成したラインクラフトは、夏場を休養して秋に備える。秋は距離の壁を突破して2000mの秋華賞を目指すのか、マイル路線を歩むかローテーションが注目された。
一方で、桜花賞2着のあとにオークスを勝ったシーザリオは、その後アメリカに渡ってG1アメリカンオークスを圧勝。一躍世界にその名を轟かせることとなったが、帰国後の放牧先で繋靱帯炎を発症して戦線を離脱してしまった。
秋華賞に向けて
ローズステークス
ラインクラフトの秋初戦は秋華賞トライアルのローズステークス。初の2000mの距離を克服できるか、その結果によって秋華賞の勢力図が変わってくる注目の一戦。オークス2着から同じく秋初戦となるエアメサイアとの一騎打ちが予想された。
レースは予想通り二頭のマッチレースとなり、二番手から早めに抜け出して押し切りをはかったラインクラフトを、中団追走から末脚を伸ばしてゴール手前で差し切ったエアメサイアが待望の重賞初制覇。善戦止まりだった春からひと皮むけた姿を見せつけた。
秋華賞
エアメサイアに敗れたとは言え2000mの距離に目処が立ったラインクラフトは秋華賞でも有力視された。
このローズステークス1,2着馬がそのまま本番でも二強と目され、人気は二頭に集中。単勝オッズは1番人気ラインクラフトが1.8倍、2番人気エアメサイアが2.5倍、そしてクイーンステークス4着から参戦の3番人気デアリングハートは大きく離れた20倍台のオッズとなっていた。
ゲートが開くと、ラインクラフトはやや行きたがる面を見せたものの福永騎手がなだめてどうにか5,6番手で折り合いをつける。一方、エアメサイアと武豊騎手は中団より後方で虎視眈々と脚を溜める。
最終コーナーに差し掛かると、ラインクラフトが抑えきれない手応えで進出を開始。最後の直線に入ると早々と先頭に立って一気に後続を突き放しにかかる。2馬身、3馬身と差を広げるが、後方からただ一頭エアメサイアが目の覚めるような末脚で猛追。一完歩ごとに差を縮めると、ゴール寸前でラインクラフトを捉えてゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
春は惜敗続きだったエアメサイアが、2連勝で最後のティアラを手に入れた。
マイル路線へ
マイルチャンピオンシップ
牝馬三冠の戦いを終えたラインクラフトは、以降は得意のマイル路線へ。まずはマイルチャンピオンシップで初の一線級古馬との対戦に挑む。
このレース3連覇を目指すデュランダルを筆頭に、皐月賞馬ダイワメジャー、1歳上の桜花賞馬ダンスインザムードなど錚々たる顔ぶれが揃う中、3歳マイル女王のラインクラフトが2番人気の支持を受けた。
中団からレースを進めたラインクラフトは、先行策から早めに抜け出していたダイワメジャーに迫ったが1馬身届かず、最後は外から驚異的な切れ味で追い込んだハットトリックに差されて3着でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
初の馬券圏外
マイルチャンピオンシップのあとは必勝を期してG2阪神牝馬ステークスに出走。しかし、ここで生涯初の馬券圏外となる4着に敗戦して年内ラストのレースを締めくくることができなかった。
なおこのレースでは、女帝の娘であり、のちのドゥラメンテの母であるアドマイヤグルーヴが引退レースを勝利で飾った。
JRA賞の行方は
この年のJRA賞の最優秀3歳牝馬選考においては、国内G1を2勝したラインクラフトか日米G1制覇のシーザリオかで票が割れ、結果的に僅差でシーザリオが受賞した。
4歳時
高松宮記念
濃密な3歳シーズンが終わり、4歳になったラインクラフト。1400m~1600mでは牡馬相手でもまったくヒケを取らないことはすでに実証済みだったが、ここで初の1200mスプリント戦であるG1高松宮記念に参戦することとなった。
絶対的な中心馬は見当たらず、初距離のラインクラフトにも十分にチャンスがあると見られて2番人気。
外枠からスタートを決めて5、6番手を追走すると、直線では外に持ち出して鋭い末脚を発揮し、先に抜け出したオレハマッテルゼに襲いかかる。最後は差しきるかという勢いだったが、惜しくもクビ差及ばず2着でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
阪神牝馬Sで雪辱
この年に新設されたG1ヴィクトリアマイルに伴い見直された牝馬重賞路線。前年の12月に出走して4着に終わった阪神牝馬Sが4月に移動し、距離も1400mに短縮された。
ヴィクトリアマイルの初代女王を目指して阪神牝馬Sに出走すると、秋華賞以来の対戦となったエアメサイアに3馬身の差をつけて快勝。NHKマイルカップ以来となる勝利を挙げるとともに、これで1400mでは4戦全勝。自身の最も得意とする条件で雪辱を果たした。
ヴィクトリアマイル
5月の東京競馬場開幕週、第1回ヴィクトリアマイルには、同世代のライバルたちや各年代から選りすぐりの牝馬が集った。ラインクラフトは堂々の1番人気。前走で重賞5勝目の勢いに乗って、狙うは初代女王だ。
3枠6番から珍しく出遅れ気味のスタート。すぐにスピードに乗って中団につけるも、口を割って行きたがるラインクラフトと必死になだめる福永騎手。これが影響したのか直線でいつものような伸びは見られず、中団のまま9着に終わった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
1つ上の桜花賞馬ダンスインザムードがヴィクトリアマイルの初代女王に輝き、2着にエアメサイア、3着にディアデラノビアと同世代の4歳勢が続いた。ラインクラフトにとっては13戦目にして初めて掲示板を外す苦いレースとなってしまった。
突然の別れ
放牧先からの悲報
ヴィクトリアマイル後は故郷の北海道に放牧に出され、秋に備えていたラインクラフト。秋はスプリンターズステークスからマイルチャンピオンシップを目指すローテーションでの活躍が期待されていたが、帰厩を控えた8月下旬の某日、思いもよらぬ知らせが届く。
急性心不全によりラインクラフトが亡くなったと。現役トップホースの突然の悲報に、ただただ信じられないという思いだった。
ウマ娘として
そして現在。ウマ娘としてのラインクラフトの物語は始まったばかりだ。ピンクの勝負服を身にまとい、トリプルティアラをかけてあの日のライバルたちと競い躍動するラインクラフトの姿は、どこをとっても主人公に相応しい。
ライバルであり物語の語り部でもあるシーザリオと、トレーナーに投影された唯一無二のパートナーが紡いでいく輝かしい未来とともに、ラインクラフトのIFの物語はウマ娘の世界で続いていくことだろう。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ラインクラフト。
史実のラインクラフト
基本情報 | 2002年4月4日生 牝馬 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父エンドスウィープ 母マストビーラヴド(父サンデーサイレンス) |
馬主 | 大澤繁昌 |
調教師 | 瀬戸口勉(栗東) |
生産者 | ノーザンファーム(北海道早来町) |
通算成績 | 13戦6勝 |
主な勝ち鞍 | 05’桜花賞、NHKマイルカップ |
生涯獲得賞金 | 5億563万円 |
エピソード①唯一無二のパートナー
ラインクラフトのデビュー戦から全レースに騎乗した唯一無二のパートナーが福永祐一騎手(現調教師)。同じく福永騎手が主戦を務めたシーザリオとただ一度の対戦となった桜花賞でも、先約のあったラインクラフトに騎乗してシーザリオに唯一土をつけたことは語り草だ。
メインストーリー第2部でラインクラフトとシーザリオが所属するチームアスケラには先輩ウマ娘であるキングヘイローが。キングヘイローと言えば、まだデビューして間もない新人ジョッキーの福永騎手が苦楽をともにしたことで有名である。
トレーナーに福永騎手をダブらさざるを得ないチームアスケラには、これからも多くの名馬が加入していくに違いない。
エピソード②どこまでも繋がる物語
メインストーリー第2部の前編は、シーザリオと彼女の子供らしきウマ娘の会話から始まる。
第1話冒頭映像
引用元:ぱかチューブっ!
ラインクラフトが生きることができなかった未来には、ライバルたちやパートナーが描いた物語がどこまでも続いている。ウマ娘でどこまで繋がっていくのか想像もつかないが、すでにそのヒントとなるピースは随所に仕込まれているのだろう。
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