競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第109回。今回はJRAの強者たちと真っ向勝負で競い合った地方競馬・船橋の雄、フリオーソについて熱く語ります。
目次
船橋の雄
JRA勢とダート界の覇権を競った
時はダート戦国時代。ダート界にはJRA勢を中心に次々と強者たちが現れた。そんな中で、地方競馬最強の看板を背負って真っ向から覇権争いに挑んだ船橋の雄、フリオーソの史実を追っていく。
ダートのライバルたち
ウマ娘の育成ストーリー
2025年に入って新たに育成ウマ娘として実装されたフリオーソ。気づけばウマ娘でも随分ダートを主戦場とするキャラクターが増えたものだ。
そんなフリオーソの育成ストーリーでは、ダートを舞台に地方vs中央の熱い戦いが繰り広げられる。それもそのはず、史実のフリオーソが活躍した2010年前後のダート界はまさに戦国時代。登場するライバルたちはいずれもダート競走の歴史に名を残すような名馬ばかりである。
クリムゾンノヴァとは?
育成ストーリー上の主軸となる存在としてクリムゾンノヴァというウマ娘が登場するが、所謂モブウマ娘としては強すぎるステータスからして、尋常ではない強者がモチーフとなっていることがわかる。
ずばり言ってしまうが、モデルとなっているのはヴァーミリアンでほぼ間違いないだろう。
育成ストーリーをこれから楽しむトレーナーのために詳しい考察は差し控えるが、ヴァーミリアンとは「朱」という意味を持つ馬名ということがキーワードの一つである。いずれにしても、史実上で幾度となく立ちはだかる最強のライバル馬ヴァーミリアン抜きにしてフリオーソは語れない。
今回は、そのヴァーミリアンを中心とした中央勢との勝負を軸にフリオーソの史実を見ていこう。
血統
砂でも強いブライアンズタイム産駒
フリオーソの父はブライアンズタイム。ナリタブライアン、マヤノトップガンなど芝で活躍した名馬を多数輩出した一方で、栃木の怪物として知られたブライアンズロマンなどダートで活躍する産駒も多い。
フリオーソは、父が晩年に送り出したダートの代表産駒と言える。
2歳時
地方船橋からデビュー
船橋競馬の川島正行厩舎へ入厩したフリオーソは、7月末の新馬戦(船橋ダ1400m)で地元の名手・石崎隆之騎手を背にデビュー。
道中2番手追走から直線で前を交わして抜け出すと、2馬身差をつけて勝利。3着以下を大きく引き離して素質の高さを見せつけた。
連勝
つづいてオープン特別のナドアルシバ競馬場カップ(船橋ダ1600m)に出走すると、ここでも他馬を寄せ付けず5馬身差で楽勝。2歳重賞戦線へと駒を進める。
初重賞となった平和賞(船橋ダ1600m)は惜しくもハナ差2着に敗れるが、初めての不良馬場の中で後方から追い込んだ脚は見せ場十分の内容だった。
全日本2歳優駿
12月の川崎競馬場、ダート2歳チャンピオン決定戦である全日本2歳優駿(川崎ダ1600m)に出走。フリオーソにとって初の交流重賞で中央勢を迎え撃つ。
上位人気を占める中央勢に対して5番人気に甘んじていたが、好位から進めたフリオーソが1番人気のJRA所属トロピカルライトを振り切って優勝。
内田博幸騎手に乗り替わってテン乗りだったが初重賞制覇とともに2歳チャンピオンに輝き、この年のNAR2歳最優秀馬に選出された。
3歳時
芝に挑戦
年が明けて3歳になると、フリオーソ陣営は中央への挑戦を表明。芝での走りいかんによってはクラシックを目指すこととなった。
しかし、共同通信杯7着、スプリングステークス11着と結果は振るわず断念。地元船橋へ戻って南関東のクラシック三冠路線(すべて大井競馬場)へと舵を切った。
二冠は惜敗
5月~7月にかけて行われる南関東三冠路線の一冠目と二冠目にあたる羽田盃と東京ダービーではともに1番人気に支持されたものの3着、2着と惜敗。
南関東三冠路線で唯一交流重賞だったジャパンダートダービーでJRA勢を迎え撃ち、最後の一冠奪取なるか。
ジャパンダートダービー
迎えた7月の大井競馬場。JRA勢の大将格は4連勝でJRA重賞ユニコーンステークス(G3)を勝ってきた武豊騎手騎乗のロングプライド。1.5倍の抜けた1番人気に支持され、これにフリオーソら南関の有力馬が挑むという構図となった。3番人気フリオーソの鞍上は今野忠成騎手に乗り替わりで臨む。
レースでは、途中からハナに立って主導権を握ったフリオーソが直線に入っても衰えず、追いすがるロングプライドや東京ダービー馬アンパサンドら後続の追撃を振り切って先頭でゴール。
二冠の雪辱を晴らすとともに、これで全日本2歳優駿につづいてJpn1では2連勝。見事に中央勢を返り討ちにしてみせた。
ヴァーミリアン登場
いよいよ始まるvs中央勢
秋になると、クラシックを戦い終えた3歳馬たちにとって初めての古馬との対戦が待ち受ける。そして交流重賞のビッグタイトルを主戦場とするならば同時に中央の強豪たちとの戦いを意味する。
フリオーソは秋初戦としてJBCクラシック(Jpn1)に出走。ここでJRAのトップクラス、1番人気のブルーコンコルドやフェブラリーステークスの覇者サンライズバッカスらとの初対戦となる。そしてフリオーソにとって宿敵となる馬、ヴァーミリアンの姿もあった。
ここでフリオーソは3番人気と高い支持を集め、地方の期待を背負ってスタートをきった。道中4,5番手でレースを進め、手応え良く最後の直線を迎えると堂々と抜け出し先頭に立つ。そのまま押し切るかに思われたのもつかの間、内を突いて伸びてきたヴァーミリアンがあっという間に交わしてさらにリードを広げていく。
ドバイワールドカップ4着からの帰国初戦だったヴァーミリアンが、4馬身差をつけて圧勝。その力をまざまざと見せつける結果となった。フリオーソはサンライズバッカスやブルーコンコルドを抑えて2着を守りきり、もちろん地方馬最先着。また唯一の3歳馬として強力な古馬を相手に存分に力を発揮した。
レース映像
引用元:NAR公式チャンネル
立ちはだかるヴァーミリアン
続いて、今度はフリオーソが地方代表としてJRAのダートG1ジャパンカップダート(現チャンピオンズカップ)に乗り込んだが、東京競馬場でこの馬らしい走りを見せることはできず10着に敗れた。
年末の大井競馬場で行われた地方競馬のグランプリレース東京大賞典でもヴァーミリアンに4馬身差をつけられての2着。他のJRA勢、地方馬には先着を許さなかったものの、またしても力の違いを見せつけられた。
これにより、秋の三戦すべてでヴァーミリアンが立ちはだかる結果となった。
ちなみに筆者のトレーナー力では、ウマ娘のフリオーソの前にはクリムゾンノヴァさんという高い壁が立ちはだかるのである。
戸崎騎手との出会い
ダイオライト記念
年が明けて4歳になったフリオーソは、川崎記念(Jpn1)から始動し、JRAのフィールドルージュの2着に敗れる。
続くダイオライト記念(Jpn2)で久しぶりに地元船橋のレースに出走。のちの主戦ジョッキーとなる戸崎圭太騎手が初騎乗することとなった。ウマ娘ではフリオーソの担当トレーナーのモデルと言われているジョッキーである。
現在ではJRAのトップジョッキーの一人として有名だが、当時は大井競馬所属の若手であった。
フリオーソと戸崎騎手のコンビは、船橋のファンが1.7倍の圧倒的な支持で見守る中、2着に5馬身差をつける圧勝でこれに応えてみせた。
帝王賞
そして南関東の上半期を締めくくる大舞台、帝王賞に出走。中央のトップクラスの参戦がなかったこともあり、ここでも1番人気に推された。
ゲートが開くと、好スタートから果敢にハナに立ってレースを引っ張る。先頭のまま直線に入ると、後方から追い込むボンネビルレコードを振り切り、セーフティリードを保って逃げ切り勝ちを決めた。
コンビ2連勝で戸崎騎手は嬉しいJpn1初勝利。フリオーソにとっては3つ目のJpn1タイトルとなった。
砂のディープインパクト
ダートの怪物が復活
充実の春を締めくくったフリオーソ陣営。秋初戦の日本テレビ盃(Jpn2)は、直前に戸崎騎手の落馬負傷で乗り替わりとなるアクシデント。ここは春に完封したボンネビルレコードに先着を許し2着。
戸崎騎手の手に戻って参戦したJBCクラシックでは前年に続いてヴァーミリアンの後塵を拝して4着。さらに、前年と同じローテーションで雪辱に挑んだジャパンカップダートでは7着、東京大賞典5着。どちらも勝ったのはカネヒキリ。かつて「砂のディープインパクト」と言われたダートの怪物が、ケガによる2年半近いブランクを乗り越えて復活を遂げたシーズンとなった。
ダイオライト記念連覇
5歳の初戦、川崎記念で三たびカネヒキリに敗れたものの、0秒1差の2着に粘る上々の内容。1年前に戸崎騎手とのコンビが誕生したダイオライト記念で連覇に挑む。
単勝1.1倍という圧倒的な人気を背負って発走。スタートから先手を取って逃げると、あとは影も踏ませない走りで悠々と逃げ切って連覇を達成した。
次々現れる強者たち
エスポワールシチー登場
ここまで1800m以上の中距離戦を中心に使われてきたフリオーソだったが、地元船橋競馬場のビッグタイトル獲得を目指してマイルに参戦。船橋で唯一のJpn1タイトルかしわ記念である。
カネヒキリを筆頭に中央勢も豪華な顔ぶれ。そしてこのレースを制したのは、下の世代からこの春台頭してきたエスポワールシチー。2着にはカネヒキリが入り、フリオーソは地方馬最先着ながら5着に敗れた。
エスポワールシチーは前走JRA重賞のマーチステークスから連勝を飾り、このあと破竹の勢いで突き進むことになる。
反対に、フリオーソはここから中央の強者たちの前に長らく勝ち星に恵まれない時期を過ごすこととなる。
スマートファルコン登場
連覇を狙った帝王賞では、王者ヴァーミリアンの前に2着。戦前にカネヒキリがふたたび故障によって戦線離脱したが、王者ヴァーミリアンは相変わらず健在であったし、何よりこの頃のダート界には次から次へとスターホースが現れた。
夏場の適鞍を求めて門別のブリーダーズゴールドカップ(Jpn2)に出走すると、これまで主に地方競馬各地のローカル重賞で名を挙げてきたスマートファルコンがフリオーソの前に立ちはだかる。
この後に迎える黄金期の手前にも関わらず、地方競馬を代表する実力の持ち主であるフリオーソに早めに競りかける強気の競馬で、そのまま押し切ったのだった。この結果、北の大地でフリオーソは無念の4着に終わった。
歯車が噛み合わず
秋は予定していた日本テレビ盃、JBCクラシックを立て続けに回避。久々の出走となった東京大賞典でも本来の走りは見られず7着に終わり5歳のシーズンを終えた。
6歳時
ヴァーミリアン接近
2010年、フリオーソ6歳、ヴァーミリアンは8歳を迎えたシーズンの初戦。始動戦としてともに川崎記念に出走した。フリオーソには乗り替わりでミルコ・デムーロ騎手が初騎乗。
レースは二頭のマッチレースとなり、逃げたフリオーソと2番手から追うヴァーミリアンが直線まで競り合い、激しい追い比べの末わずかにクビ差でヴァーミリアンに軍配が上がった。
3連覇ならず
戸崎騎手とのコンビに戻り、3連覇を狙ったダイオライト記念は5着。続くかしわ記念はエスポワールシチーの2着と前年のダイオライト記念勝ちから実に1年3ヶ月ほど勝ち星から遠ざかっていた。
宿敵制して頂点へ
帝王賞
春の総決算、帝王賞。この年の帝王賞にはケガから再び舞い戻ったカネヒキリ(4番人気)に、王者ヴァーミリアン(2番人気)、実力馬サクセスブロッケン(1番人気)、目下成長著しいスマートファルコン(3番人気)と頂点を競うにふさわしい豪華なメンバーが揃った。
中央勢に続く5番人気で迎え撃つフリオーソと戸崎騎手。スタートを決めると、サクセスブロッケンの後ろにつけて2番手を追走。並んでスマートファルコン、少し後ろからカネヒキリとヴァーミリアンが続く。
フリオーソが抜群の手応えで最終コーナーに差し掛かると、前のサクセスブロッケンを射程に捉えて直線へ。満を持して先頭に立つと、伸びあぐねるヴァーミリアンやスマートファルコンを尻目にリードを拡げる。中団からカネヒキリが休み明けとは思えない末脚で差を詰めたが、2馬身半差をつけてフリオーソが1着でゴールした。
宿敵ヴァーミリアン、そして中央の強者たちを制しての帝王賞制覇。これまでのJpn1勝ちの中でもひと際価値のある勝利となった。
絶頂期とスマートファルコンの時代到来
帝王賞で久しぶりの勝利を飾ったフリオーソは、その後キャリアのピークと言える活躍を続ける。日本テレビ盃でJRAの新鋭トランセンドに完勝して連勝。完全にトンネルを抜けて充実期に入った。
しかし、時を同じくしてスマートファルコンが進化を遂げて快進撃を開始する。秋に対戦したJBCクラシックと東京大賞典では、ハイペースで逃げて直線でまた伸びるという驚異的な走りを身につけ、砂のサイレンススズカと呼ばれるようになっていた。
JBCクラシック レース映像
引用元:NAR公式チャンネル
東京大賞典 レース映像
引用元:NAR公式チャンネル
中央でG1を
単勝1倍の川崎記念
スマートファルコンに立て続けに完敗を喫したとは言え、7歳を迎えたフリオーソはまだまだ充実期にあった。
年明け初戦の川崎記念はこれまで3年連続で2着と勝てていないレースだったが、中央の強豪が不在だったこともあって単勝は1.0倍の元返し。絶対に負けられないプレッシャーをものともせずに1秒以上の差をつける大楽勝で同レース初優勝を飾った。
フェブラリーステークス
万全の態勢で、満を持して向かうのはフェブラリーステークスでの中央G1獲り。3度目の中央G1挑戦でダートの頂点を狙う。鞍上には二度目のコンビとなるミルコ・デムーロ騎手を迎えた。
相手筆頭は昨秋のジャパンカップダートを制した新時代のチャンピオン、トランセンド。以前に対戦した時とは比べ物にならない力をつけている。
スタートすると、ポンと好スタートをきったトランセンドがハナに立つ。一方、フリオーソは最初の芝コースでダッシュがつかなかったのか後方のポジションへ。これまでのレースとは異なる展開となった。
トランセンドのペースで直線へ向くと、後続との差が縮まる。2番手以下をギリギリまで引き付けて追い出されたトランセンドが再び突き放しにかかる。
トランセンドがリードを拡げ、2番手争いの大勢が決したかと思われた最後の100メートル。フリオーソがこんな脚が使えるのかと思うほどの末脚で追い込んで2着に飛び込んだ。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
船橋で凱歌
震災復興支援競走かしわ記念
この年の3月11日、東日本大震災に見舞われた日本。中央、地方を問わず競馬界にも大きな爪痕を残していた。
復興途上の中、震災復興支援競走として行われることとなった5月の第23回かしわ記念。先のフェブラリーステークスでは7歳にして新たな可能性を示したフリオーソが、地元船橋でその走りを見せる。
船橋では、ダイオライト記念や日本テレビ盃で重賞は勝っていたものの、船橋唯一のJpn1(開催地持ち回りのJBCは除いて)であるかしわ記念は未勝利だった。
1番人気はエスポワールシチー。主戦の戸崎騎手に戻ったフリオーソは2番人気。
スタートすると、JRAのラヴェリータの2番手に控えてレースを進め、直線で満を持して抜け出して先頭に立つ。食い下がるラヴェリータを振り切り、エスポワールシチーの追撃をかわして勝利をおさめた。
地方競馬史上に残した功績
この震災復興支援競走のかしわ記念で自身6つ目のJpn1タイトルを獲得。フリオーソが中央の強者たちとの真っ向勝負で勝ち取った数々のタイトルの中でも、このかしわ記念は多くの人の記憶に残るものになったに違いない。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、フリオーソ。
史実のフリオーソ
基本情報 | 2004年5月1日生 牡 栗毛 |
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血統 | 父 ブライアンズタイム 母ファーザ(父Mr. Prospector) |
馬主 | ダーレー・ジャパン・ファーム |
調教師 | 川島正行(船橋) |
生産牧場 | ハシモトファーム(北海道新冠町) |
通算成績 | 39戦11勝(地方34戦11勝、中央5戦0勝) |
主な勝ち鞍 | 06全日本2歳優駿,07ジャパンダートダービー,08,10帝王賞,11川崎記念,かしわ記念 |
エピソード①数々の大記録
フリオーソは、地方競馬において数々の偉大な記録を樹立した。地方版JRA賞に値するNARグランプリでは7年連続での受賞、うち年度代表馬4回はいずれも史上最多、さらに生涯獲得賞金8億4544万6000円は地方競馬の最多獲得賞金記録である。
エピソード②ブライアンズタイム産駒勢揃い
フリオーソの育成ストーリーには、ブライアンズタイムを父に持つ繋がりのウマ娘たちが次々に登場する。
新しいウマ娘を育成する際には、キャラクター同士の繋がりを紐解いてみると新たな発見があるかもしれない。
ウマ娘のコラム記事一覧
キャラクター関連コラム
番外編コラム
ディープインパクト | 緑スキル持ちの競走馬たち |
名牝達の競演 | 一時代を築いた名門・メジロ家 |
本格参戦が待ち遠しいウマ娘① | 本格参戦が待ち遠しいウマ娘② |
凱旋門賞に挑んだウマ娘たち | 『夏の上がり馬』たち |
愛すべき『善戦ホース』たち | アニメ3期ウマ娘予習特集 |
アニメ3期世代の産駒たち |
レース関連コラム
宝塚記念 | 秋華賞 |
菊花賞 | 天皇賞(秋) |
エリザベス女王杯 | マイルチャンピオンシップ |
ジャパンカップ | 有馬記念 |
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