競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第124回。今回は、牝馬クラシックの夢を世代を超えて叶えた、「デアリングハート」について熱く語ります。
ティアラの夢は時を超え
ラインクラフト世代の名脇役

すでに完結を迎えているメインストーリー第2部。そこで描かれたティアラをかけた戦いの中でラインクラフト、シーザリオ、エアメサイアら冠を分け合った名牝たちに僅かに及ばなかったのがデアリングハート。今回は、自身が届かなかった牝馬三冠路線の夢を、世代を超え、時を超えて叶えた「デアリングハート」の史実を追っていく。
メインストーリー第2部とは

前後編に渡って描かれたウマ娘のメインストーリー第2部は、2005年の牝馬三冠路線とその後の史実がモデルとなっている。
ラインクラフト、シーザリオ、エアメサイア、そしてデアリングハートの4人がティアラをかけて熱い戦いを繰り広げる壮大なこの物語を未視聴だというトレーナーには、一度は全編観ることをお勧めする。
特に、フサイチパンドラが加わってくる後編は、世代を超えて継承されていくことの尊さを伝える感動的なストーリーであり、今後登場する可能性のあるウマ娘にも繋がっていきそうな伏線もあり見応え十分だ。
ウマ娘のデアリングハート
ウマ娘のデアリングハートは、同世代の強力なライバルたちを前に、時に挫折を味わいながらも臆することなく向かっていく「勇敢な心(デアリングハート)」の持ち主である。
メインストーリーの中でも十分な存在感を放っているが、意外なことに現時点(2025年11月現在)で育成ウマ娘としては実装されておらず、静かにその時を待っている。
公式プロフィール

アメリカ育ちのリーダー気質なウマ娘。目立つことが好きで、いつも人に囲まれている。自分に確固たる自信を持っており、そのプライドの高さゆえ、人に弱みを見せたがらない。強いハートを武器にして、目指すはトリプルティアラのクイーン。
史実のデアリングハート
血統
アメリカ産の繁殖牝馬として社台ファームで繋養されていた母デアリングダンジグ(父Danzig)は、サクラシーキング(父Seeking the Gold、中央4勝)やピットファイター(父Pulpit、武蔵野Sほか重賞3勝)といった活躍馬を出し、2002年にその母と大種牡馬サンデーサイレンスとの間に産まれた栃栗毛の牝馬が、のちのデアリングハートである。
2歳時
メイクデビュー
2歳になると、母から馬名の一部を受け継いだデアリングハート(馬名の意味:勇敢な心)は栗東の藤原英昭厩舎に入厩。
10月に京都競馬場の芝1400m新馬戦でデビューし、武幸四郎騎手を背に2番人気で初出走を迎えた。レースでは2番手から抜け出しを図ったが、兄武豊騎手騎乗の1番人気馬マヤノスターダムに差されて惜しくも2着。因みに勝ち馬はのちに平地で4勝ののちに障害に転向してJGⅢを勝つなど長く活躍した。
初勝利
その後、2戦目の2歳未勝利戦(京都芝1600m)に出走。好スタートから3番手につけ、直線では危なげなく2馬身半抜け出して快勝。1番人気の支持に応えて初勝利を挙げた。
阪神ジュベナイルフィリーズ
続いて、1勝馬ながらG1阪神ジュベナイルフィリーズに挑戦。早くも同世代の主役候補たちと相まみえることとなった。

1番人気は2戦2勝で駒を進めてきたラインクラフト。キャリアは同じ2戦でも未勝利を勝ったばかりのデアリングハートは11番人気にとどまった。

7枠14番から好スタートを決めると、中団の外で折り合いをつける。内のラインクラフトを見ながらレースを進め、最終コーナーではラインクラフトをマークするように連れて上がっていく。
直線に入ると、先に抜け出したアンブロワーズに襲いかかるラインクラフトとショウナンパントル。やや遅れを取りながらも懸命に追い込むデアリングハート。
大接戦となった上位3頭の争いはショウナンパントルが頭一つ前に出て、アンブロワーズとラインクラフトはハナ差の激戦。デアリングハートはそこから2馬身ほど後ろ、5番手でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
3歳時:牝馬三冠をかけた戦い
牝馬三冠路線へ向けて
年が明けて3歳になると、牝馬三冠路線へ向けて再スタート。勝って賞金を上積みしたいデアリングハートだったが、オープン特別の紅梅ステークス3着、エルフィンステークスではエアメサイアに完敗の6着と足踏み状態が続いてしまう。
桜花賞トライアル
そして桜花賞トライアルのフィリーズレビューに出走。ここで3着以内に入り優先出走権を取らないと桜花賞出走は絶望的となるが、相手も世代上位の実力馬が顔を揃えた。

阪神ジュベナイルフィリーズ3着のラインクラフトを筆頭に、前走エルフィンステークス快勝のエアメサイア、白梅賞でエアメサイアを敗った実績があるディアデラノビアらを相手に熾烈な権利争いを勝ち抜けるか。
レースでは好スタートから好位4,5番手につけて追走。直後にエアメサイア、中団からラインクラフトといった隊列でレースが進む。
最終コーナーを回って直線に入ると、早め抜け出しを図るデアリングハート。エアメサイアがじわじわ詰め寄ってくるが抜かせない。そこへラインクラフトとディアデラノビアが末脚を発揮して襲いかかり、4頭大混戦のままゴール。

勝ったのはラインクラフト。デアリングハートはエアメサイアとディアデラノビアを抑えて2着に残り、7番人気ながら激走を見せて桜花賞の切符を手にした。
桜花賞

いよいよ牝馬三冠の一冠目、桜花賞を迎える。デアリングハートの戦績はここまで6戦1勝。トライアルでは主役候補のラインクラフトと接戦の2着だったとは言え、ここでは10番人気の伏兵である。前走までコンビを組んだ武幸四郎騎手からM.デムーロ騎手に乗り替わりで桜の舞台に挑む。
一方、ラインクラフトと人気を分け合うのが、別路線から3戦3勝とここまで負け無しで来ていたシーザリオ。どちらも福永祐一騎手とのコンビで歩みを進め、ウマ娘では同じチームアスケラに所属する二頭の初対戦に注目が集まる。

桜花賞のゲートが開くと、人気薄のモンローブロンドとテイエムチュラサンが互いにハナを主張して引っ張る展開。デアリングハートは好スタートからスッと控えて3番手で追走する。
3,4コーナーに差し掛かると、逃げるモンローブロンドを追ってデアリングハートがいい手応えのまま上がってくる。直後からラインクラフトも馬なりのまま進出を開始して直線へ。

そして最後の直線に入ると、モンローブロンドを抜いて一旦先頭に立ったデアリングハートに、外からラインクラフトが迫る。
さらに外から、遅れてエンジンが掛かったシーザリオが猛追。

ゴール前は3頭の叩き合いになり、デアリングハートを交わしたラインクラフトが僅かにシーザリオも振り切って先頭でゴール。

アタマ差で2着にシーザリオ、さらにクビ差3着にデアリングハートが入線した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
デアリングハートが積極的な競馬で3着に入り、人気の一角だったエアメサイア(4着)に先着。10番人気の低評価を覆してみせた。
NHKマイルカップ
桜花賞後は距離適性を考慮してNHKマイルカップを選択。桜花賞馬ラインクラフトもオークスへは向かわず変則二冠を目指して参戦。桜花賞の1,3着馬がオークスに向かわないというのは異例の選択であった。
そんな中、1番人気に推されたのは牡馬勢から重賞2勝の実績馬ペールギュント。桜花賞馬ラインクラフトが2番人気、デアリングハートはまたしても10番人気にとどまった。鞍上には新たに後藤浩輝騎手を迎え一発を狙う。
ゲートが開いてスタートすると、デアリングハートは内のラインクラフトを見るように5番手の外で折り合う。飛ばす逃げ馬はおらず落ち着いたペースでレースが進み、馬群が固まったまま勝負は最後の直線へ。

好位のインで脚をためていたラインクラフトが最内を突いてあっという間に抜け出し、馬場の真ん中に持ち出されたデアリングハートがそれを追う。後藤騎手の叱咤に応えて最後まで懸命に追ったが、ついにその差は縮まらずラインクラフトが変則二冠を決めるゴールに先頭で飛び込んだ。

1馬身¾差の2着にデアリングハートが入り、後ろから追い込んだペールギュントら牡馬勢に対して桜花賞上位2頭が力を示した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル

10番人気デアリングハートの激走により、三連単は6万円を超える高配当。桜花賞に続いてデアリングハートが波乱の立役者となった。終わってみれば、デアリングハートがなぜこんなにも人気がなかったのかと不思議に思うが、人気にならない馬、人気の盲点というのはそういうものなのだろう。
オークス後
デアリングハートが不出走だったオークスは、桜花賞2着から巻き返してシーザリオが勝利。その後シーザリオは渡米して日米オークス制覇という偉業を達成した。

NHKマイルカップでの桜花賞組ワンツー決着、シーザリオの快挙。この年の桜花賞、そして牝馬クラシック戦線がいかにハイレベルな戦いだったかを証明する春シーズンが終わった。
クイーンステークス
デアリングハートは、夏の札幌で行われる牝馬限定G3クイーンステークスに出走。未勝利戦以来の1番人気に支持されたが、古馬勢に跳ね返されて4着。人気に応えることはできなかった。
秋華賞
この年の牝馬三冠最終戦、秋華賞にはデアリングハートのほか、ラインクラフト、エアメサイアらが集結。怪我で戦線離脱したシーザリオを除く実績上位馬が顔を揃えた。

1番人気にラインクラフト、2番人気にローズステークスでラインクラフトを下して最後の冠を狙うエアメサイア、そして春の実績からデアリングハートが3番人気で続いた。
そして最後の冠を射止めたのはエアメサイア。ラインクラフトとのマッチレースを制し、桜花賞4着、オークス2着とあと一歩のところで涙をのんだ春二冠の雪辱を果たした。

デアリングハートは12着と大敗。デビュー以来堅実に走り続けてきたが、ここにきて初めて二桁着順に沈んでしまった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
不振続き
その後、マイル路線を見据えて距離短縮で臨んだスワンステークスでも15着。飛躍が期待された秋シーズンは不振続きのまま終えて休養に入った。
4歳時:トンネルを抜け本格化
長いトンネル
4歳になると、ヴィクトリアマイルを目標にG2阪神牝馬ステークスから始動。その阪神牝馬Sでは、ラインクラフトとエアメサイアの同期によるワンツー決着を尻目に、デアリングハートは最下位12着と惨敗。
秋華賞から3戦続けての二桁着順となり、この長いトンネルから抜け出すのはまだ先と思わせる不振ぶりだった。
徐々に上向き

本番のヴィクトリアマイルでは藤田伸二騎手との初コンビが結成され、近走の不振から流石に人気も落ちて11番人気。ここからどこまで復調できるかといったところだったが、レースでは好位4番手追走から6着に粘り込み、久しぶりにこの馬らしい渋とい走りを垣間見ることができた。
その後、G3エプソムカップでも重馬場の中で4着と復調を伺わせる走り。まだ終わったわけではないことを印象付けた。
待望の瞬間
そして、前年にも出走して4着だった夏の札幌G3クイーンステークス。これまで14戦して未だ1勝馬のデアリングハートにとって、ようやくと言っていい待望の瞬間が訪れる。
スタートすると5,6番手あたりにつけて追走。レース中盤から徐々に進出を開始して順位を上げていき、最終コーナーでは早くも先頭に並びかける。
直線に入っても脚色は衰えず後続を突き放し、そのまま悠々と振り切って先頭でゴール。2歳未勝利以来となる、待望の2勝目をあげた。
コンビ3戦目の藤田伸二騎手のエスコートによる、復活の重賞初制覇であった。
府中牝馬ステークス
クイーンステークス後はひと息入れて秋の始動戦、府中牝馬ステークスへ。藤田伸二騎手が同日京都で行われる秋華賞に騎乗するため、後藤浩輝騎手が騎乗することとなった。
好スタートを決めると、逃げ馬を見ながら2番手でレースを進める。最後の直線に入ると、内ラチ沿いを手応えよく通って直線半ばで先頭に躍り出る。
そのままサンレイジャスパー、ディアデラノビアら後続の追い込みをギリギリ凌ぎきり、先頭でゴールした。
これで重賞2連勝。先に引退したシーザリオや、この夏に突然の悲運に見舞われたラインクラフトと冠を競い合った精鋭・デアリングハートがスランプを乗り越えて完全に本格化を迎えた。
マイルチャンピオンシップ
重賞2連勝の勢いのまま、目指すはG1制覇。藤田伸二騎手とのコンビに戻り、マイルチャンピオンシップに挑んだが結果は13着と振るわなかった。
5歳以降:G1制覇目指して
ヴィクトリアマイル
5歳シーズンも現役続行のデアリングハートはダービー卿CT6着をステップにヴィクトリアマイルに出走。

一つ歳下の二冠馬カワカミプリンセス、一つ上のスイープトウショウといったトップクラスの牝馬たちを相手に頂点を狙う。
8枠16番の外枠に入ったデアリングハートはスタートすると、内のアサヒライジング、キストゥヘヴンら先行勢を行かせて中団の外で折り合う。

最終コーナーを6,7番手で通過して最後の直線に差し掛かる。逃げたアサヒライジングを目掛けて各馬仕掛けていく。デアリングハートも内にコースを取って馬群を抜けてくるが、アサヒライジングがなかなか止まらない。
後ろの人気馬が揃って伸びあぐねる中、粘るアサヒライジングに迫るデアリングハート、そして最内を突いて伏兵のコイウタが強襲。コイウタがアサヒライジングを差し切って優勝し、デアリングハートはクビ+ハナ差の3着。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
12番人気→9番人気→8番人気。人気薄の伏兵同士の大激戦となったレースは、3連単の配当が228万3,960円という史上に残る大波乱となった。
府中牝馬ステークス連覇へ
その後、エプソムカップ9着を経て、前年に勝ったG3クイーンステークスで連覇を狙ったがアサヒライジングが逃げ切る展開の中、先行して伸びを欠き7着。
そして去年と同じローテーションでこちらも連覇がかかる府中牝馬ステークスへ向かった。
近走好調な4歳馬アサヒライジングはカワカミプリンセスと同じ世代。もともと3歳時にオークス3着から米アメリカンオークス2着、秋華賞2着という実績のある実力馬で、人気の落ちたヴィクトリアマイル2着をきっかけに完全に復調していた。
レースでは、2番手に控えたアサヒライジングをマークするように4番手を追走。最後の直線に入ると先に抜け出しを図るアサヒライジングを交わして先頭に立ち、そのまま突き放して完勝。
府中牝馬ステークスの2連覇を果たし、重賞3勝目をマークした。
エリザベス女王杯
その後、マイルCSではなくエリザベス女王杯に挑戦。2000m以上のレースは秋華賞以来久しぶりの出走だったが、やはり距離が長かったのか3番手追走から伸びを欠いて12着に敗れた。
ダート路線へ
エリザベス女王杯のあとは、ダートへの挑戦が発表された。12月の交流重賞JpnⅢクイーン賞(船橋1800m)で3着に好走すると、年明けには同じく地方大井の交流重賞JpnⅢTCK女王杯(大井1800m)に出走。1番人気に支持されるも惜しくも2着。
そしてラストランとなったのはJRAのダートG1フェブラリーステークス。ダートの猛者の中で7着という結果を残し、現役生活を無事に終えた。
引退、そして次代へ
時を超え昇華
ラインクラフト、シーザリオ、エアメサイアらとティアラをかけてしのぎを削り、挫折を乗り越えて重賞3勝という立派な成績を残したデアリングハートが、繁殖牝馬として第二の馬生を迎える。
結論から言うと、デアリングハートの産駒たちから重賞を勝つような活躍馬は現れなかった。しかしデアリングハートの物語はこれで終わりではない
初年度産駒のデアリングバード(父キングカメハメハ)は遅生まれでデビューも遅れ、1戦0勝の戦績で引退して繁殖入り。そして、そのデアリングバードが2017年に産んだ牝馬こそ、のちの三冠牝馬デアリングタクトである。

2005世代の結晶

デアリングタクトの父はエピファネイア。そのエピファネイアの母はデアリングハートと同期でラインクラフトやエアメサイアとともに2005年の桜花賞で激戦を演じたあのシーザリオである。
2005年の桜花賞から15年後、2020年の桜花賞からデアリングタクトの三冠物語は始まる。これぞ時を超えて紡がれた血のロマン。競馬の奥深さを知るには5年や10年では足りないということを教えてくれるのである。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、デアリングハート。
史実のデアリングハート概要
| 基本情報 | 2002年3月9日生 牝馬 栃栗毛 |
|---|---|
| 血統 | 父サンデーサイレンス 母デアリングダンジグ(父Danzig) |
| 馬主 | 社台レースホース |
| 調教師 | 藤原英昭(栗東) |
| 生産者 | 社台ファーム(北海道千歳市) |
| 通算成績 | 26戦4勝(JRA24戦4勝,地方2戦0勝) |
| 主な勝ち鞍 | 06’クイーンステークス,06’07’府中牝馬ステークス |
| 生涯獲得賞金 | 2億7,486万円(JRA2億5,836万円,地方1,650万円) |
エピソード①終わらない物語
2022年に繁殖牝馬を引退したデアリングハート。孫の三冠牝馬デアリングタクトも今では母となり、デアリング一族の期待を集める仔馬が2025年に誕生(初仔は父ベンバトルの牡馬)し、来たるべきデビューの日を待っている。
さらにデアリングハート自身、ウマ娘での活躍はまだまだこれから。孫のデアリングタクトや、シーザリオやシンボリクリスエスとの関係性がどのように描かれるか本当に楽しみである。

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