競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第96回。今回は日米二つの国の女王にして、偉大な母でもあるシーザリオについて熱く語ります。
目次
史上稀に見る名牝
競走馬としても母としても
メインストーリー第2部・前編「ヒカリ射し、芽吹くとき!」において主人公ウマ娘であるラインクラフトのよきライバルとして描かれるシーザリオ。2005年の牝馬三冠路線、そして海外で躍動した現役時代。さらには母としても日本競馬史上にその蹄跡を残す名牝、シーザリオの史実を追っていく。
注目の新種牡馬に関連して
リアル競馬では、日本ダービーが終わった翌週から2歳戦がスタートする。今年も本稿執筆時点で世代最初の新馬戦が終わったばかりだ。各地で行われた新馬戦には注目の新種牡馬の産駒も続々と出走しているのだが、今年の新種牡馬の一頭サートゥルナーリアはシーザリオの仔である。そこで今回のコラムをシーザリオにしようと思い至った。
父はスペシャルウィーク
血統
シーザリオは父スペシャルウィーク母キロフプリミエール(父Sadler's Wells)という血統。サンデーサイレンスの後継種牡馬として注目されていたスペシャルウィークの二世代目の産駒である。
母馬のキロフプリミエールは、欧州の大種牡馬サドラーズウェルズ産駒で近親にも活躍馬が多く筋の通った良血馬。自身も現役時代にアメリカで重賞を勝つなど活躍し、繁殖牝馬としてもコンスタントに勝ち上がる産駒を送り出していた。
名前の由来と勝負服
2002年に産まれたスペシャルウィーク産駒の青毛の牝馬は、のちにシーザリオと名付けられた。名前の由来は、シェイクスピアの喜劇「十二夜」に登場するヒロインが男装時に名乗る名(Cesario:シーザリオまたはシザーリオ)。このことが、ウマ娘のシーザリオの衣装に反映されているのだろう。
2歳時
メイクデビュー
2歳になったシーザリオは脚部不安などで順調ではなかったものの11月に栗東の角居勝彦厩舎に入厩。タニノギムレットなどのマツクニローテで有名な松田国英厩舎で調教助手を務めたのちに2001年に開業した新進気鋭の厩舎だった。
デビューは年の瀬も迫る12月25日の阪神競馬場。フルゲート16頭で争われた芝1600mの新馬戦に登場。2番人気でスタートを迎えると、福永祐一騎手に導かれ4,5番手から抜け出しデビュー戦を勝利で飾った。
3歳時
連勝
年が明けて3歳。中一週で中山の1勝クラス寒竹賞(芝2000m)に出走すると、1番人気アドマイヤフジをクビ差で退けて勝利。のちに重賞3勝を記録する良血の牡馬を相手に連勝を飾り、オープン入りを果たした。
フラワーカップ
順調に勝ち上がったことでシーザリオは、間隔をあけて春のクラシック戦線を目指す。桜花賞にもオークスにもつながる1800mのG3フラワーカップ(中山芝1800m)で復帰すると、単勝オッズ1.4倍と抜けた1番人気に支持された。
好スタートから2,3番手の好位につけ、直線に入ると前の馬をあっさりと交わし先頭でゴール。危なげのないレース運び、それも好タイムで3連勝を決めたことで桜花賞の有力候補に名乗りを上げた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
桜花賞
ラインクラフト登場
迎えた桜花賞当日。ここまで3戦全勝のシーザリオの鞍上に福永祐一騎手の姿はなく、地方の愛知競馬所属の名手・吉田稔騎手に乗り替わりで挑んだ。そしてここまで福永祐一騎手をパートナーに歩みを進めてきたもう一頭の有力馬・ラインクラフトが福永騎手を背に登場する。
1番人気シーザリオ、2番人気ラインクラフト。3番人気にはエアメサイアが続く。
時折風が強く吹く阪神競馬場。満開の桜が揺れる中ゲートが開くと、7番枠から好スタートで出たシーザリオは前に行く馬を見ながら好位を狙う。ところが激しいポジション争いのアオリを受けて中団の内に押し込められてしまう。逆にラインクラフトは外から4番手につけ絶好のポジション。
逃げるモンローブロンドがいいペースで引っ張り、レースは3,4コーナーに差し掛かる。2番手につけていたデアリングハートが先頭に並びかける。外からラインクラフトもそれに続いて最後の直線へ。
デアリングハートとラインクラフトの激しい叩き合い。この2頭で勝負あったかと思われたが、ようやく真ん中から馬群を割ってきたシーザリオが猛然と追い上げる。
さらに外からはエアメサイアも差を詰め4頭の上位争い。
最後はラインクラフトがシーザリオをアタマ差で凌ぎきって桜の女王の称号を手にした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
地方所属ジョッキーによる乗り替わりでの栄冠にはあと一歩届かず、吉田稔騎手にとっては大きなアタマ差だった。
オークス
頂点へ
桜花賞後、桜の女王ラインクラフトは距離適性を考慮してNHKマイルカップへ進み見事に変則二冠を達成。シーザリオにとって最大のライバル不在の舞台となったオークス。主戦の福永祐一騎手とのコンビも復活し、ここで負けるわけにはいかないとばかりに単勝1.5倍で抜けた1番人気の支持を集めた。
ゲートが開くと、いつもよりダッシュがつかないのか徐々にポジションを下げていき、後方から4,5頭目での競馬となったシーザリオ。馬群の後方インコースでじっくり構えて直線に備える。
依然後方のまま最後の直線に入ると、進路を求めて外へと持ち出す。前が開くと、エンジンが掛かったシーザリオが僚馬のディアデラノビアと一緒に上がっていく。逃げ込みを図って粘りに粘るエイシンテンダーに迫るのは桜花賞4着のエアメサイア。その外からディアデラノビアとシーザリオ。
逃げ・差し・追い込みの4頭が横に並ぶ好レースは、最後の末脚が際立ったシーザリオがまとめて差し切って先頭でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
シーザリオ自身にとってのG1初勝利とともに、父スペシャルウィークに産駒G1初勝利を届けた。
マイル路線に進んだラインクラフトと、距離延長を苦にもせずオークスで改めて力を示したシーザリオ。二頭の主役が生まれた春の牝馬クラシック戦線であった。
アメリカへ
アメリカンオークス参戦
オークス制覇後、角居調教師によってシーザリオのアメリカ遠征が発表された。目標は、アメリカンオークスでの日米オークス制覇。ダートが主流のアメリカのレース体系において、当時まだ4回目と歴史は浅いものの芝の3歳牝馬チャンピオンを決める位置づけのレース。前年には日本馬のダンスインザムードが挑戦して2着になっていた。
同厩のディアデラノビアとともに渡米する計画だったが、ディアデラノビアの骨折によって単独でアメリカへ渡った。現地ではポニーを誘導馬とするなど日本とは異なる環境にも手を尽くして順応させ、7月3日のレース当日を迎えた。
日米オークス制覇
アメリカンオークス
カリフォルニア州のハリウッドパーク競馬場の10ハロン=2000m(実際には約2012mほどとされる)で行われるアメリカンオークス。国際招待レースのため各国から同世代の強豪牝馬が集結した。
東京競馬場と同じ左回りだが、小回りで直線の短いコース形態。「スタートだけを気をつけた」という福永祐一騎手の言葉どおり、好スタートを決めると絶好の3番手のポジションをキープ。スローペースも我慢していつでも抜け出せるという抜群の手応えのまま最終コーナーを周る。
短い直線で早くも抜け出すと、みるみるうちに後続を引き離し独走体勢。シーザリオがほかの有力馬の追撃を寄せ付けず4馬身差をつけてレコードタイムで圧勝した。
現地の実況では「Japanese Superstar」と表現され、驚きをもってその強さを称えられた。
帰国後に判明した怪我により引退
アメリカンオークスの勝利後は帰国して秋のプランが練られ、米ブリーダーズカップへの挑戦など様々な選択肢が考えられたが、繋靱帯炎を発症していることが判明し長期休養へ。復帰を目指して療養したものの翌年春のG1シーズンを目前に症状が再発し、引退繁殖入りが決定された。
繁殖牝馬として
シーザリオ名牝への第二章
通算6戦5勝。わずか8カ月足らずというあっという間の競争生活を終えたシーザリオだったが、日米女王の物語はこれで終わりではない。いや、むしろ引退して繁殖牝馬となった彼女はさらに輝きを増していった。
次々に名馬を輩出
シーザリオの仔は、初年度産駒から体質の弱さを受け継いでしまうことが続き、満足に走ることすら困難な状況であった。しかし、頑強な体質のシンボリクリスエスとの間に産まれた牡馬がついに大成。そこからシーザリオ自身も徐々に体質が強化されていったのか、徐々に産駒の体質も安定していく。
エピファネイア(父シンボリクリスエス)
そのシンボリクリスエス産駒の名はエピファネイア。母と同じくシェイクスピアの「十二夜」からちなんで命名された(ギリシャ語で公現祭の意)。2010年生まれのエピファネイアは、やはり母と同じ角居勝彦厩舎でキャロットファームの勝負服に身を包んだ福永祐一騎手とのコンビで菊花賞を制覇。母仔クラシック制覇の偉業を成し遂げたのである。その後はジャパンカップも勝って種牡馬としても大成功を収めている。
リオンディーズ(父キングカメハメハ)
2013年の産駒リオンディーズは、新馬戦を勝って挑んだ朝日杯フューチュリティステークスを見事に勝利。最小キャリアとなる2戦目でのJRAG1制覇を成し遂げた。この時の2着馬はエアスピネルで、母はシーザリオと牝馬クラシックを競ったエアメサイア。10年の時を経て再び巡り合う血の物語でもあった。
サートゥルナーリア(父ロードカナロア)
リオンディーズからさらに3年後の2016年生まれでロードカナロアを父に持つサートゥルナーリア。2歳G1のホープフルステークスを含めて皐月賞まで連勝を重ね、4戦全勝でクラシックを制覇した。こちらは冒頭で述べたとおり今年2024年に産駒がデビューする注目の新種牡馬である。
後進の育成は続く
競走馬として日米の同世代牝馬の頂点に立ち、母としては3頭のG1馬を世に送り出した。そのいずれもが種牡馬としても活躍中で、日本競馬において有数の血脈になったと言って過言はないシーザリオ。
彼女がウマ娘として実装されたことが、今後どれだけの広がりを見せていくのか。それと同時に、シーザリオとともに桜の女王を競ったウマ娘たちとの物語もどこまでも紡がれていくことだろう。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、シーザリオ。
史実のシーザリオ
基本情報 | 2002年3月31日生 牝 青毛 |
---|---|
血統 | 父 スペシャルウィーク 母 キロフプリミエール(父 Sadler's Wells) |
馬主 | キャロットファーム |
調教師 | 角居勝彦(栗東) |
生産牧場 | ノーザンファーム(北海道早来町) |
通算成績 | 6戦5勝(JRA5戦4勝、米1戦1勝) |
主な勝ち鞍 | 05’オークス、アメリカンオークス(米G1) |
生涯獲得賞金 | 2億2,829万円(JRA)、45万ドル(米) |
エピソード①ヒーロー列伝
久しぶりにJRAポスター「ヒーロー列伝」のキャッチコピーを見てみよう。(ポスター画像はリンク先で見られる)
引用元:JRAポスター ヒーロー列伝(No.61)
「その日、彼女は二つの国の女王になった。」
国内G1は1勝だが、日米でのG1制覇という快挙によってその年の最優秀3歳牝馬に選出され、翌年のヒーロー列伝でこのポスターが制作された。
遡ってみると、No.46には父スペシャルウィークの姿がある。ジャパンカップで日本の総大将として世界の強豪を迎え撃った父と、世界に飛び出してその力を示した娘。壮大な血のロマンを感じさせる父娘である。
エピソード②スペシャルウィークの孝行娘
父の窮地を救った
シーザリオはスペシャルウィークの二世代目の産駒で、父に産駒初のG1勝利をプレゼントした孝行娘である。初年度産駒があまり振るわなかったスペシャルウィークにとって、シーザリオの出現は待望の大物産駒であった。
シーザリオや同世代のダービー2着馬インティライミの活躍もあって種牡馬としての地位を回復したスペシャルウィークは、のちに名牝ブエナビスタや菊花賞馬トーホウジャッカル、ダートで活躍したローマンレジェンド、ダービー2着のリーチザクラウンら色々なタイプの一流馬を輩出し長く種牡馬として活躍することとなった。
エピソード③後進の育成はどこまで続くか
シーザリオの公式プロフィールにはこうある。
名トレーナーの父と教育熱心な母の影響で、後進の育成に興味を持つ。 ティアラウマ娘は引退後に後進育成に注力することが多いと知り、自分の理想そのものだと憧れている。
現役時代は角居厩舎で日米オークスを制したシーザリオは、繁殖牝馬としてリオンディーズ、エピファネイア、サートゥルナーリアといったG1馬を輩出した。
この3頭はいずれも同じ角居厩舎に入り、キャロットファームの勝負服で走った。さらにその仔(シーザリオの孫世代)からも名馬が誕生。
エピファネイアの初年度産駒からはいきなり三冠牝馬のデアリングタクトが誕生。二世代目からは3歳時に皐月賞、天皇賞・秋、有馬記念を勝って年度代表馬に輝いたエフフォーリアが現れた。そして今年のダービー馬ダノンデサイルも記憶に新しく、現役トップ種牡馬の地位を確立している。
すでにウマ娘に登場しているデアリングタクトをはじめ、シーザリオが言う「後進の育成」候補は増えるばかりで、血統表に母の名を持つ名馬たちがウマ娘に登場する日を考えるだけでもワクワクしてしまうというものだ。
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