競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第23回。今回は、白い稲妻「タマモクロス」について熱く語ります。
ウマ娘でも大人気のタマモクロス
満を持して登場!
全トレーナー達が待ち侘びていたウマ娘、タマモクロスをついに育成できる時がきた。ウマ娘プリティーダービーのアプリ開始当初からサポートカードでは実装済み。またオグリキャップのツッコミ役としてもたびたび登場するシーンはあった。
しかし、育成ウマ娘として実装されるまでにこれほど待つことになるとは。もはや毎月の新キャラ発表時にはTwitterトレンド入りがお約束になるほどの人気者が、満を持して登場したのである。
ウマ娘のタマモクロスと言えば、アプリのほかにもコミック「シンデレラグレイ」での活躍ぶりにも注目が集まっている。コミック5巻の発売に合わせて実装された感もあるが、こちらも非常に熱い展開となっているので今回の実装は納得のタイミングだった。
そして今年最後の更新となる当コラムでタマモクロスの史実を紹介できることが筆者にとっては嬉しくもある。
白い稲妻
芦毛伝説の先駆者
引用元:JRA日本中央競馬会
タマモクロスは、オグリキャップとともに「芦毛は走らない」という競馬界の通説を覆した先駆者である。サラブレッドの毛色は鹿毛、栗毛など全部で8種類が認定されている。その中でも極端に数の少ないのが白毛、青毛、栃栗毛であるが、鹿毛や栗毛に比べると芦毛も多くはない。そもそも毛色が競争能力に影響するという医学的根拠などはないようだが、なぜか競馬界では「芦毛は走らない」と囁かれた時期があった。
それを同時期に出現した2頭の芦毛馬が完全に覆してみせたのである。
父シービークロス
タマモクロスの父シービークロスは、G1では3着が最高着順だったが、重賞レースを3勝。芦毛の白い馬体と鋭い末脚を武器とした追い込み脚質から「白い稲妻」の愛称でファンの多い馬だった。
小柄で目立たない馬
幼駒時代は、小柄で痩せ型。小柄な割に脚がスラリと長いこと以外には特に目立つ馬ではなかったそうだ。また繊細で食も細かったため、デビューするまでには時間がかかった。やがて冠名「タマモ」と父シービークロスから「クロス」を受け継ぎ「タマモクロス」と名付けられた。
3歳時
メイクデビュー
デビューは遅く、3歳の3月。阪神競馬場の芝2000m新馬戦でデビューを迎えたが、2番人気で7着。逃げて直線で失速。見せ場なく敗退している。その後2戦目のダート1800m戦で4着のあと、3戦目のダート1700m未勝利戦で初勝利をあげた。
落馬に巻き込まれるトラブル
芝に戻った4戦目、京都の芝2000m戦でレース中に他馬の落馬事故に巻き込まれてしまう。自身も落馬してしまったタマモクロスは、興奮状態のまま騎手のいない状態でコースを走ってしまう。怪我は打撲で済んだものの、もともと繊細なタマモクロスにとってはこの出来事がトラウマとなり、しばらくの間は他の馬を怖がったり、レースに集中できない状態が続いたという。
タマモクロスの育成中のギミック「バ群を怖がる期間」は、この史実が元となっている。
力を出せずに連敗
その後はダートで4連敗。1勝クラスの最下級条件戦である。この時点でのちのタマモクロスの活躍を誰が予見できただろうか?時はすでにクラシック最後の一冠・菊花賞が行われる10月に差し掛かっていた。
再び芝へ
ところが再び芝のレースに挑戦することになり、ここから風向きが一変。タマモクロスが出走したのは10/18の京都競馬場芝2200m。連敗中のタマモクロスは5番人気。これをまったくの楽な手応えで2着に7馬身差をつけて圧勝する。勝ちタイムは同日・同距離で行われた菊花賞トライアルの京都新聞杯より速いタイムだった。
2連勝
そして11/1に行われた藤森特別で、今度は1番人気に応えて8馬身差の大楽勝。2戦続けての圧勝劇のインパクトは、「関西の秘密兵器」として翌週に行われる菊花賞への出走が期待されるほどだった。この時点でタマモクロスの真の実力が世間に知られることとなったのである。
3連勝 G3鳴尾記念
将来性を考えて菊花賞への出走は見送られたが、陣営は一気の格上挑戦で重賞への参戦を決める。それが12/6阪神競馬場で行われる芝2500mのG3鳴尾記念。クラシック三冠すべてに出走し、皐月賞2着、ダービー4着、菊花賞2着と好成績を残していたゴールドシチーを筆頭に相手は一線級の馬たちだ。
3番人気のタマモクロスはスタートで出遅れ最後方からのレースとなるが、直線一気の末脚で2着に6馬身差をつけ圧勝。稍重馬場にも関わらず、コースレコードを記録した。ゴールドシチーは6着。2番人気で10着に敗れたメジロデュレン(マックイーンの兄)は前年の菊花賞馬で、このあと有馬記念を勝つ馬である。
この日は降雪により中山競馬場の開催がなく、関東のテレビ中継でもこの鳴尾記念がメインレース扱いで放送されたことでタマモクロスは全国にその名を轟かせることとなった。
4歳
4連勝 G3金杯
鳴尾記念での鮮やかな勝利により、暮れの有馬記念への出走も取り沙汰されたが、関東への輸送で馬体重が減ることを懸念して回避させた。もともとタマモクロスは食が細く、レース後はさらに馬体重を減らしてしまうような繊細な馬だったそうだ。
4歳となったタマモクロスの初戦は金杯。東西で行われる年始の名物重賞で、勝つと縁起がいいからという理由で馬主が出走を希望した。1番人気に推されたタマモクロスは、スタート後は出脚が悪くまたしても最後方から。そして終始後方のまま最後の直線へ向くと、インコースの狭いところを突いて直線一気のごぼう抜き。馬群の隙間を縫うようにして15頭を交わす衝撃の勝ち方だった。
2戦連続で見せた父シービークロスを彷彿とさせる追い込みにより、「稲妻2世」「白い稲妻」と父の異名を受け継いで呼ばれるようになった。
5連勝 阪神大賞典
重賞2連勝を飾ったタマモクロスは春の目標レースを天皇賞に定め、その前哨戦としてG2阪神大賞典へ出走。7頭立ての少頭数となったが有馬記念優勝馬メジロデュレンを抑えて単勝1.7倍の1番人気に支持される。
レースはスローペースとなり、タマモクロスは折り合いに苦労しながら3番手の位置取り。直線では前を行く2頭が止まらず間を割ったタマモクロスを加えた3頭による熾烈な追い比べとなる。最後は3頭が鼻面を並べてゴールし、写真判定の結果、タマモクロスとダイナカーペンターが1着同着。ハナ差の3着にマルブツファーストとなった。
重賞レースでの同着は9年ぶりという珍事だったが、勝負強さを発揮したタマモクロスはこれで重賞3連勝。連勝を5に伸ばした。
いざG1へ
天皇賞(春)
春の天皇賞。ついにG1の大舞台までたどり着いたタマモクロス。5連勝の勢いに乗る小柄な芦毛馬はすっかり人気馬となり、G1初挑戦にも関わらず1番人気。
まずまずのスタートから、中団後方につけたタマモクロス。3200mの長丁場の1周目は10番手付近で通過。2周めの向こう正面から有力各馬が仕掛け始めると、タマモクロスも徐々に進出。最終コーナーで4,5番手まで押し上げると直線でインコースへ潜り込む。馬場の最内を力強く伸びたタマモクロスが、そのまま後続を突き放してゴール。3馬身差をつけての完勝でG1初制覇を果たした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
宝塚記念
6連勝でG1ホースにまで登り詰めたタマモクロスは、ファン投票1位で春のグランプリレース宝塚記念に出走。しかしここで初対決の相手に1番人気を譲ることになる。ニッポーテイオー。前走で安田記念を制し、天皇賞(秋)、マイルチャンピオンシップにつづくG13勝目をあげた現役最強のマイラーである。
しかしそのニッポーテイオーですら、覚醒したタマモクロスの敵ではなかった。先行したニッポーテイオーが先に抜け出すと、中団から直線入り口で前を射程圏に捉えたタマモクロスが一気に抜き去りニッポーテイオーに2馬身半差をつけて優勝。天皇賞に続いてG1を2連勝、古馬最強の座を勝ち取った。
引用元:JRA公式チャンネル
芦毛対決
天皇賞(秋)
秋になると、タマモクロスの前に新たなライバルが現れる。芦毛の怪物オグリキャップだ。地方競馬の笠松で8連勝の後中央競馬に転入。前走のG2毎日王冠まで破竹の6連勝を記録してきたもう一頭の芦毛のスターである。古馬最強のタマモクロスvs怪物オグリキャップ。芦毛馬2頭の対決により、天皇賞(秋)はかつてないほどの盛り上がりを見せた。
1番人気はオグリキャップ。無論、タマモクロスがこれに続く2番人気。芦毛対決の第1戦が幕を開けた。
スタートすると、レースを引っ張るのは逃げ馬レジェンドテイオー。前年の2着馬である。タマモクロスは好スタートから早々と2番手集団につけ、これまでの勝ちパターンとは異なる位置取り。対するオグリキャップは中団待機。府中の長い直線に入ると、2番手からレジェンドテイオーを捕まえて先頭に躍り出るタマモクロス。するとオグリキャップは外に進路を取り、みるみるうちに前との差を詰めてくる。
しかし、後ろから猛追するオグリキャップに並ばれようかというところから、再び加速したタマモクロスとオグリキャップとの差は縮まることなくそのままゴール。1馬身1/4差でタマモクロスが勝ち、8連勝。史上初となる天皇賞春・秋連覇という偉業を成し遂げた。オグリキャップはゴール板手前で苦しくなり内側へもたれるほどの死闘であった。
引用元:JRA公式チャンネル
ジャパンカップ
芦毛対決2戦目はジャパンカップ。まだ外国馬のレベルが大きく日本馬を上回っていた時代である。その年の凱旋門賞勝ち馬であるイタリアのトニービンを筆頭に強力な海外勢に対し、日本勢は2頭の芦毛が迎え撃つ。
1番人気は日本の最強馬タマモクロス。凱旋門賞馬トニービン、オグリキャップと続く。タマモクロスは天皇賞とは打って変わって、本来の後方待機策。前にトニービンを見るような位置取りで進む。オグリキャップは3,4番手の先行策。
スローペースでほとんど馬群が一団となったまま最終コーナーを迎えると、横いっぱいに広がって直線へ。府中の広い直線の外目を突いてタマモクロスが先頭に立つ。内側から並んできたのはアメリカのペイザバトラー。9番人気の伏兵だった。ペイザバトラーは内側へ切れ込むような進路を取りながらタマモクロスの前へ出ると、食い下がるタマモクロスを退けゴール。並ぶとタマモクロスの勝負根性に勝てないと読んだジョッキーの好判断で接戦をものにした。
引用元:JRA公式チャンネル
ついにタマモクロスの連勝は8で途切れ、年末の有馬記念を最後に引退することが発表された。オグリキャップは、一旦は馬群に飲み込まれるように見えたが、意地を見せて盛り返し3着だった。
有馬記念の前に
残すは引退レースの有馬記念のみ。ところがジャパンカップの激闘後にタマモクロスは体調に不安を生じてしまう。もともと食が細かったが、滞在していた美浦トレーニングセンターの水が合わなかったらしく、さらに食欲を落とし痩せてしまったのだ。同じ境遇にいたオグリキャップは自身の寝藁(寝床に敷いてあるワラ)を食べるほど食欲旺盛だったそうだが。。。
タマモクロス陣営は必死に体調の回復に努め、有馬記念への出走にこぎつける。対してオグリキャップは初見参となる中山競馬場へ下見(スクーリング)に行くほど元気いっぱいだった。
有馬記念
そして迎えた有馬記念。1番人気タマモクロス、2番人気オグリキャップ。ほかにもオグリキャップの同世代から、3歳馬ながらマイルチャンピオンシップを制したサッカーボーイや菊花賞馬スーパークリークが参戦。ハイレベルの一戦が予想された。
タマモクロスはサッカーボーイとともに出遅れ気味のスタートから最後方待機。中団の好位置につけたのはオグリキャップ。道中、タマモクロスは終始折り合いに苦労していたそうだが、なんとかなだめながらレースは終盤に差し掛かる。最終コーナーで膨らみ気味に外を回って一気に5,6番手まで押し上げると、最後の直線。
馬場の真ん中から鋭く抜け出すオグリキャップに、外からタマモクロスが襲いかかる。芦毛2頭の一騎打ちに、スーパークリークが加わってくる。最後はオグリキャップがタマモクロスの猛追を凌いで悲願のG1初制覇を果たした。
引用元:JRA公式チャンネル
芦毛のスター対決は最後にオグリキャップが一矢報いて1勝をもぎ取った。
引退
タマモクロスは有馬記念を最後に現役を引退。種牡馬入りしてからはコンスタントに活躍馬を出し、この点においては種牡馬としては大成しなかったオグリキャップとは対象的だった。ただし、産駒によるJRAのG1は未勝利に終わった。三代目「白い稲妻」を襲名するほどの産駒を見たかったものである。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、タマモクロス。
史実のタマモクロス
基本情報 | 1984年5月23日生 牡 芦毛 |
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血統 | 父 シービークロス 母 グリーンシャトー(父 シャトーゲイ) |
馬主 | タマモ |
調教師 | 小原伊佐美(栗東) |
生産牧場 | 錦野牧場(新冠町) |
通算成績 | 18戦9勝 |
主な勝ち鞍 | ’88天皇賞(春),’88宝塚記念,’88天皇賞(秋) |
生涯獲得賞金 | 4億9,061万円 |
エピソード① 風か光か
JRAポスター「ヒーロー列伝」のキャッチコピー。(ポスター画像はリンク先で見られる)
引用元:JRAポスター ヒーロー列伝(No.25)
このキャッチコピーは、ウマ娘の中でも引用されている場面が出てくるので気づいた方もいるだろう。
エピソード② 錦野牧場
タマモクロスを生産した錦野牧場は、タマモクロスがデビューした1987年に経営難で閉鎖している。覚醒したタマモクロスが連勝を伸ばし、3つのG1タイトルを含む破竹の8連勝をするほんの少し前の出来事であった。
ウマ娘におけるタマモクロスの貧乏設定や切ないストーリー展開の元となっているのは、厳しい中小の牧場経営の現実を反映したものなのだ。
エピソード③ 大型犬のような
破竹の8連勝の前と後でタマモクロスに何か変化があったのか?こんな証言がある。以前は頭の位置が高い走法だったが、ある時から首を低く下げてグッと沈み込むような走法に変わった。また、大きなの犬のようなフォームと形容されたこともある。
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