競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第19回。今回は、黄金世代から世界へ羽ばたいた「エルコンドルパサー」について熱く語ります
黄金世代から世界へ
底知れぬ強さ
引用元:JRA日本中央競馬会
これまでの当コラムではセイウンスカイ、スペシャルウィークの回などにグラスワンダーとともにたびたび登場してきた、この黄金世代においてもっとも底知れない強さを持っていたと思うのがエルコンドルパサーである。国内で7戦6勝、唯一の敗戦は伝説のG2毎日王冠で相手は全盛期のサイレンススズカだった。今回はそのエルコンドルパサーの史実を追っていく。
2歳時
デビュー前
エルコンドルパサーはアメリカ産まれの外国産馬である。父キングマンボはフランスでG1を3勝している名マイラー。もちろんメキシコの覆面レスラーではない。デビュー前のエルコンドルパサーは、さほど秀でた特徴のない普通の馬という評価が大方だったが、レースで騎手を乗せて走らせるとその評価が一変した。
メイクデビューで見せた非凡な能力
エルコンドルパサーのデビュー戦は2歳の11月、東京のダート1600m新馬戦。ジョッキーは的場均騎手。デビュー前の調教で跨った際にエルコンドルパサーの素質を感じ取った的場騎手のほうから騎乗を志願したという経緯だった。これがのちに究極の選択を迫られることになる。
9頭立ての1番人気に支持されたものの、出遅れ気味のスタートから終始離れた最後方を進むエルコンドルパサー。最後方のまま直線を迎え、いいところなく終わるかに見えたその直後だった。突如目が覚めたかのようにエンジンがかかると、一頭だけ次元が違う末脚であっさりと8頭ごぼう抜き。そのまま更にリードを広げて7馬身もの差をつけて圧勝してしまった。
3歳時
ダートで連勝
伝説的な勝ち上がりを果たした新馬戦から2ヶ月。3歳となったエルコンドルパサーは中山のダート1800m戦に出走。デビュー戦と同じようにスタートで出遅れて後方待機から、今度は早めにスパートをかけて直線では独走状態となる。9馬身差の圧勝だった。
芝の重賞レースへ
ダートで2連勝後、満を持して芝の重賞レースG3共同通信杯へ登録。ところが、降雪によりダートへ変更。すでに抜群のダート適性を示していたエルコンドルパサーは、今度は出遅れることなくスタートを決めて危なげなく無傷の3連勝をおさめた。
臆病な性格
ここまで文句のつけようのない力を見せつけてきたエルコンドルパサーだったが、デビュー戦の時から的場騎手が同馬のウィークポイントを指摘していた。それが、他馬を極端に気にする繊細で臆病な性格だった。
この性格面の課題は、レースを経験するにしたがって徐々に解消していったが、ウマ娘のゲーム内で垣間見えるマスクの下の繊細な一面はここからきているのだろう。
エルとグラス
この頃、同じ的場騎手を背に無敗の2歳チャンピオンに君臨していた怪物グラスワンダーが骨折。本来であれば的場騎手はエルかグラスかの究極の選択をしなければならなかったが、グラスワンダーが復帰するまでその悩みは棚上げとなった。
芝レース初登場
外国産馬のためクラシック出走権のないエルコンドルパサーは、目標をNHKマイルカップに定める。そして今度こそ、初の芝レースとなるG2ニュージーランドトロフィー4歳ステークスに出走。相手は朝日杯フューチュリティステークスでグラスワンダーの2着だったマイネルラヴなど、芝のレースで実績を挙げてきた馬たちだ。
出遅れ気味のスタートから中団の位置取りで追走し、最終コーナーで外を回って好位置へ押し上げるとあとは難なく抜け出して先頭でゴール。2着に2馬身差をつけ初の芝レースも問題なくこなしてみせた。
NHKマイルカップ
いよいよ春の目標レースNHKマイルカップ。ここまで4戦全勝のエルコンドルパサーは、単勝1.8倍の1番人気。馬場状態は稍重。エルコンドルパサーにとって死角らしきものは、スタートがあまりよくないことぐらいだ。
課題のスタートをポンと出て今までで一番上手に決めると、4番手の好位置をキープ。最終コーナーで勢い余って外に膨れていくがそれを立て直して直線へ。余裕を持って早めに抜け出すと、そのままセーフティーリードを保ったままゴールまで駆け抜けG1初制覇を果たした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ジャパンカップを目指して
NHKマイルカップを無敗のまま制したエルコンドルパサーは夏場を休養に当て、秋は未知の中距離となるジャパンカップを目指す。そして約5ヶ月の充電を経て復帰戦に選ばれたのは、毎日王冠。そう、あの伝説のG2である。
伝説の毎日王冠
この年の毎日王冠には、覚醒を果たした異次元の逃亡者サイレンススズカに加え、朝日杯フューチュリティステークス以来の復帰戦となる同世代の怪物グラスワンダーも出走し、エルコンドルパサーと3強を形成。G1レース並みの注目を集める好カードとなった。
ここで究極の選択を迫られたのはエルコンドルパサーとグラスワンダー2頭の主戦ジョッキーを務めてきた的場騎手。いずれも無敗。そのすべてのレースで両馬を勝利に導いてきた。3週間にわたり悩んだという的場騎手はグラスワンダーに乗ることを決断。エルコンドルパサーの後任には蛯名正義騎手が選ばれた。
サイレンススズカに挑む2頭の無敗3歳馬という構図のレース。レース展開としてはサイレンススズカがハイペースで逃げるということが大方決まっていた。スタートが切られると、早くも先頭に立つサイレンススズカに続いて、好スタートを決めたエルコンドルパサーは3,4番手を追走。グラスワンダーがそれを見るような位置取りで続く。
軽快に逃げるサイレンススズカをめぐり、先に仕掛けたのは的場騎手とグラスワンダー。最終コーナーで果敢に上がっていくと、先頭サイレンススズカ、2番手グラスワンダー、その直後にエルコンドルパサーという隊列で直線へ。
直線に入るとサイレンススズカがリードを広げ、先に仕掛けたグラスワンダーは脱落。代わって外からエルコンドルパサーが追い上げる。しかし、サイレンススズカとの差はなかなか縮まらないままゴール。サイレンススズカに2馬身半差をつけられエルコンドルパサーは2着。グラスワンダーは5着となりともに初めての敗戦を味わった。
ジャパンカップ
サイレンススズカに敗れはしたものの、中距離レースへの目処は立った。予定通り目標レースのジャパンカップへ向かうエルコンドルパサー。そして、次なる相手は女帝エアグルーヴと、同世代のダービー馬スペシャルウィーク。伝説の毎日王冠を制したサイレンススズカはその後の天皇賞のレース中に故障発生。出走を予定していたジャパンカップを前に帰らぬ馬となってしまった。
1番人気はダービー馬スペシャルウィーク。エアグルーヴが2番人気、エルコンドルパサーが3番人気と続いた。レースは人気3頭が3~6番手にかたまり、互いの出方を伺う展開のまま直線へ。エルコンドルパサーとエアグルーブが並んで逃げ馬を捉えると、外からスペシャルウィークも加わってくる。しかしエアグルーヴを競り落としたエルコンドルパサーがリードを広げ、そのまま追撃を許さず先頭でゴール。エアグルーヴに2馬身半差をつける快勝だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
4歳時
フランス遠征
3歳にしてジャパンカップを制し、7戦6勝としたエルコンドルパサーは、翌年4歳になる年に海外遠征を敢行することを表明。発表されたプランは最終目標の凱旋門賞へ向けてフランスで計4レースを戦うという前例のない長期遠征計画だった。
G1イスパーン賞
4月に渡仏し、現地で約1ヶ月間調整されたのちの5月23日、初戦となるG1イスパーンを迎える。日本からの初参戦にも関わらず8頭立ての1番人気と高評価を得たエルコンドルパサーは、直線で一度は先頭に立つものの地元のG1馬クロコルージュに差されて惜しくも2着となった。
G1サンクルー大賞
フランス遠征2戦目となるG1サンクルー大賞。この芝2400mの大レースには、前年の凱旋門賞勝ち馬や年度代表馬などヨーロッパ各国からハイレベルな強豪が揃った。そんな中、2番人気の評価を受けたエルコンドルパサーと蛯名騎手は好スタートから小細工なしの先行策から堂々と抜け出し、2着に2馬身差をつけてゴール。王道の2400mという距離で一線級メンバーを破っての勝利は快挙だった。
G2フォワ賞
凱旋門賞に弾みをつけたいエルコンドルパサーは、その前哨戦として同じロンシャン競馬場の2400mで行われるG2フォワ賞に出走。3頭立てという少頭数のレースとなったが、イスパーン賞で先着を許したクロコルージュらを競り落として勝利。これ以上ない臨戦過程で本番の凱旋門賞を迎えることとなった。
凱旋門賞
このフランス遠征をもって種牡馬入りが決まっていたエルコンドルパサーにとって、引退レースとなる凱旋門賞。前日まで降り続いた雨により馬場状態は日本の不良馬場相当にまで悪化。
しかしこれまでダートでも芝の重馬場でも変わらず力を発揮してきたエルコンドルパサーならばこなせるはず。。。多くの日本人ファンの期待を背負ってスタートを切った。
好スタートを切ったエルコンドルパサーがそのまま先頭でレースを引っ張る。3頭立ての前走フォワ賞での経験が生き、ペースを乱すこともなく落ち着いてレースを進めるエルコンドルパサーと蛯名騎手。
リードを保ったまま直線に入ると、更にリードを広げにかかる。勝てる。そう思った刹那、1番人気のモンジューが外から襲いかかってくる。激しい追い比べの末、モンジューにわずか半馬身遅れをとったところでゴール。世界最高峰にあと一歩及ばすの2着だった。
年度代表馬に
フランスでの長きにわたる激闘を終えて帰国後、エルコンドルパサーはその年の年度代表馬に選出される。この選出は異例中の異例で、JRAのレースに一度も出走していないのだから無理もない。
国内のG1戦線で活躍したスペシャルウィークやグラスワンダーのほうがふさわしいという異論も多数あったし、3頭ともが年度代表馬に値するという意見も出ていた。
もしもこの同世代の3頭が同時に年度代表馬を受賞するというシナリオが用意されていたら、それは作り話のようで出来すぎだっただろうか。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、エルコンドルパサー。
史実のエルコンドルパサー
基本情報 | 1995年3月17日生 牡 黒鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 Kingmambo 母 サドラーズギャル(父 Sadler's Wells) |
馬主 | 渡邊隆 |
調教師 | 二ノ宮敬(美浦) |
生産牧場 | Takashi Watanabe(米国) |
通算成績 | 11戦8勝(うち海外4戦2勝) |
主な勝ち鞍 | ’98NHKマイルC,’98ジャパンカップ,’99サンクルー大賞(フランス) |
生涯獲得賞金 | 3億7607万(JRA)380万フラン(フランス) |
エピソード
凱旋門賞馬モンジュー
凱旋門賞でエルコンドルパサーを破ったモンジューは、アニメ版ウマ娘に登場するブロワイエのモデルとされる馬だ。凱旋門賞後に来日し、参戦したジャパンカップでは日本の総大将スペシャルウィークがこれを迎え撃ったのは、史実のとおりである。
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