競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第81回。今回は、度重なる怪我を乗り越えてグランプリホースに登り詰めた「マーベラスサンデー」について熱く語ります。
度重なる怪我を乗り越えて
悲願のG1制覇へ
先日、待望の育成ウマ娘実装となったマーベラスサンデー。リリース初期からの古参メンバーがついに育成ウマ娘として本格参戦を果たした。デビュー前からの度重なる怪我によって出世が遅れた史実を反映してか、ウマ娘でも待ちに待たされたマーベラスサンデー。怪我を乗り越えて悲願を成就させたマーベラスサンデーの史実を追っていく。
コミックでも活躍中
ローレル、マヤのライバル
連載中のコミック「ウマ娘 プリティーダービー スターブロッサム」(2023年6月30日現在で第7話まで公開)のメインビジュアルにも描かれているとおり、サクラローレルやマヤノトップガンと熱戦を繰り広げた。コミックでの活躍はもう少し先になりそうだが、ライバルたちとの対決がどのように描かれるか楽しみである。
【ウマ娘】コミカライズ続報!「ウマ娘 プリティーダービー スターブロッサム」PV
引用元:ぱかチューブっ!
仔馬時代
血統
マーベラスサンデーは、ビワハヤヒデやナリタブライアンらを生産した早田牧場で産まれた。同牧場ゆかりの繁殖牝馬モミジを祖母に持ち、のちの大種牡馬サンデーサイレンスの初年度産駒だった栃栗毛の仔馬は、幼少の頃は体質が弱く馬体も貧弱で見栄えのする馬ではなかった。
2歳時
デビュー前
同牧場生まれのジャパンカップ優勝馬マーベラスクラウンと同じ大沢厩舎所属となったマーベラスサンデーは、2歳秋のデビューに向けて調教を積まれると徐々にその素質の片鱗を見せ始める。
栗東トレセンで他厩舎の先輩良血馬をあおるほどの動きを見せて期待を抱かせた。この時の調教相手オースミタイクーン(英ダービー馬の半弟で、のちに重賞2勝)を管理していた武邦彦調教師の目に留まり、デビューする際には息子の武豊騎手を乗せるよう依頼があったという逸話からもその評判の高さがうかがえる。
生死をさまよう
しかし右膝の骨折が判明してデビューを前に放牧。さらに放牧先で疝痛(せんつう)を発症し、一時は生死をさまようほどの重症に陥った。馬体はやせ細り、480キロを超えていた雄大な馬体は400キロを切るほどに減ってしまったという。
幸いにも一命を取り留め、時間をかけて回復していった。
3歳時
メイクデビュー
骨折も癒え、馬体も回復して帰厩すると、当初の予定より大幅に遅れて3歳の2月にデビューを迎える。
京都競馬場の新馬戦。脚元への負担も考慮されダート1800mに出走。鞍上はかねてより予約のあった武豊騎手だ。
1番人気に支持されたマーベラスサンデーは期待に違わぬ走りを見せ2着に1馬身3/4差をつけて快勝。3着以下には大差をつけていた。
連勝
2戦目は芝2000mの1勝クラス、ゆきやなぎ賞。のちにオープンクラスで活躍したダイタクサージャンやエリザベス女王杯2着などを記録するフェアダンスらを下してデビュー2連勝を決めた。
再び骨折休養
連勝でオープン入りを果たし、これからクラシックを目指そうかという時だったが、再び右膝を骨折。長期休養を余儀なくされる。
3度めの骨折
秋に帰厩して復帰を目指して調教が再開されたが、今度は左後脚の骨折が判明して牧場へ逆戻り。結局3歳のシーズンを丸々棒に振ることとなってしまった。
4歳時
13ヶ月ぶりに復帰
年が明けて4歳の4月。1年以上の長期休養を経てマーベラスサンデーが戦列に復帰する。2勝クラスの明石特別(阪神芝2000m)で久しぶりに姿を見せたマーベラスサンデーは、プラス20キロの馬体重もそれほど太め感もなく仕上がりは上々。
しかしレースではスタートひと息で後方から進み、勝負どころでの不利も響いて4着。休み明け初戦で初黒星を喫した。
快進撃開始
休み明けを一戦したマーベラスサンデーの状態は上向き、中3週の間隔をとって鴨川特別(京都芝1800m)に出走。単勝1.3倍の断然人気に応えて5馬身差で圧勝。1年2ヶ月ぶりの勝利で3勝目を挙げると、ここからマーベラスサンデーの快進撃が始まる。
中1週で臨んだ準オープン桶狭間ステークス(中京芝1800m)ではトップハンデを背負いながらも単勝1.2倍の支持に応えて難なく突破。オープン入りを果たした。
重賞挑戦
続けて中1週のローテーションでG3エプソムカップ(東京芝1800m)に登録。6月1日、翌日に日本ダービーの開催を控えた府中に、マーベラスサンデーと武豊騎手のコンビが関東初見参となった。
初めての重賞挑戦、相手は一気に強化されて重賞で実績のある好メンバーが揃った。旋風を巻き起こした同世代のサンデーサイレンス産駒からは、牝馬戦線を盛り上げたサイレントハピネスやプライムステージら切れ味自慢の牝馬勢。そして近走で長距離重賞2勝と頭角を表していた同世代の牡馬ユウセンショウは府中巧者で侮れない存在。
そんな中、マーベラスサンデーはオープンの壁などまるで感じさせず、2着ユウセンショウに半馬身差をつけていともあっさりと重賞初制覇を達成した。3着のサイレントハピネスには4馬身の差をつけていた。これで3連勝。
札幌記念
エプソムカップから4週後の6月30日には札幌記念に登場。現在はスーパーG2と言われ夏の名物重賞として定着しているが、G2に昇格するのはこの翌年であり、この年は札幌記念がG3として行なわれた最後の開催だった。
復帰してから休みなく連戦を続けてきたマーベラスサンデーにとって夏休み前の最後のレースとなったが、ここも断然の1番人気に応えて連勝を4に伸ばし休養に入った。
秋も止まらない連勝街道
秋はいよいよG1戦線への挑戦を見据えてG3朝日チャレンジカップ(阪神芝2000m)から始動。重賞3勝の実力馬スターマンを下して優勝し、休養を挟んで5連勝。重賞3連勝で視界良好な滑り出しを見せた。
京都大賞典
天皇賞のステップレースに選んだのはG2京都大賞典。2400mは初めての距離だったが、今後のローテーションを占う上でも試金石の一戦。単勝オッズは1.2倍と圧倒的な支持を集めた。
天皇賞に向けて負けられないマーベラスサンデーは、中団追走から直線で抜け出して優勝。同世代のオークス馬ダンスパートナーらを退けて6連勝を飾った。重賞4連勝で堂々G1戦線へと駒を進める。
G1戦線へ
天皇賞(秋)
マーベラスサンデーの成績は、ここまで9戦8勝。骨折による長期休養を余儀なくされながらも、それを感じさせない抜群の安定感で確実に勝利を積み重ねてきた。
しかし、さすがにG1天皇賞。これまでとはひと味もふた味も違う強敵が待ち受けていた。
1番人気は春の天皇賞馬サクラローレル。こちらも大怪我を乗り越えて大輪の花を咲かせた不屈の名馬。同じ栃栗毛というのも共通点だった。そしてスピード・スタミナを兼備した栗毛のステイヤー、マヤノトップガンはここまでG1レース3勝と実績最上位の存在。マーベラスサンデーはそのマヤノトップガンを上回る2番人気とファンの期待を集めた。
スタートすると、マーベラスサンデーは中団につける。少し前を走るマヤノトップガンと後方に構えたサクラローレルの動きを意識するような位置取りでレースが進んだ。
直線に入ると、3番手で折り合っていた3歳馬バブルガムフェローが抜群の手応えで抜け出す。マヤノトップガンが追いすがり、直線勝負にかけるマーベラスサンデーとサクラローレルはまだ来ない。押し切りを図るバブルガムフェローにマヤノトップガンが半馬身まで迫り、続いてサクラローレル、マーベラスサンデーが猛然と差を詰めてきたところがゴールだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
並み居る古馬勢を相手に、バブルガムフェローが史上初めて3歳馬として天皇賞を制した。
有馬記念
初のG1挑戦となった天皇賞は4着と惜しくも届かなかったが、差はわずか。激戦の疲れを考慮してジャパンカップをスキップして年末のグランプリ有馬記念で改めてG1獲りに挑む。
天皇賞馬バブルガムフェローは有馬記念を回避したため、サクラローレル、マヤノトップガン、マーベラスサンデーの3強の構図となった。ただしオッズの上ではサクラローレルが抜けた1番人気になり、三つ巴という様相ではなかった。
スタートすると、先行2番手のマヤノトップガンを射程に入れて4,5番手を追走。後ろから行って届かなかった天皇賞とは打って変わって積極的な位置取りでレースを進めるマーベラスサンデーと武豊騎手。
最終コーナーで早くも先頭に立とうかというマヤノトップガンと、並びかけていくマーベラスサンデー。直線に入るとマヤノトップガンを競り落として先頭に躍り出たのもつかの間、直後からサクラローレルが余裕たっぷりの手応えで並ぶ間もなく抜き去っていった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
必死に食い下がって2着は死守したものの、サクラローレルにつけられた2馬身半差は大きかった。
5歳時
悲願のG1制覇へ向けて
有馬記念後は休養を挟み、中長距離路線で悲願のG1制覇に挑む。
初戦はG2産経大阪杯(阪神芝2000m)から始動。ここでは昨秋に凌ぎを削ったライバルたちの姿はなく、危なげなく快勝。3レースぶりの勝利を味わった。
天皇賞(春)
再びサクラローレル、マヤノトップガンらが集結した天皇賞(春)。単勝オッズはサクラローレル2.1倍、マヤノトップガン3.7倍、マーベラスサンデー4.1倍と僅差で並び、正真正銘の3強対決の様相となった。
上がり馬ビッグシンボルが果敢に逃げる展開の中、サクラローレル、マーベラスサンデーは中団に待機。マヤノトップガンは前走の阪神大賞典で新境地を見せた後ろからの競馬で追い込みにかける。
向正面からレースが動き出すと、サクラローレル、マーベラスサンデーはともに3,4コーナーにかけて早めに進出を開始。直線の入り口では2頭が並んでマッチレースになる。
最後の直線、内サクラローレル、外マーベラスサンデーの激しい叩き合いのさらに外を突いてマヤノトップガンが追い込んでくる。
鋭い末脚を発揮したマヤノトップガンが、先に抜け出した二頭の叩き合いを制したサクラローレルを交わして先頭でゴールを駆け抜けた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
マーベラスサンデーはまたしても頂点に手が届かず3着。早めに先頭に立つとソラを使う(気を抜いてしまうこと)クセがG1制覇には大きな課題となっていた。
悲願達成
宝塚記念
春のグランプリ宝塚記念。マヤノトップガンは出走回避し、サクラローレルは凱旋門賞挑戦のため海外遠征へ渡った。
強力なライバル不在のこのレース、マーベラスサンデーにとってはこれまで涙を飲んできたG1制覇に手が届くチャンスだった。とは言え天皇賞馬バブルガムフェローや女傑ダンスパートナー、安田記念でG1初制覇を果たしたタイキブリザードなど気を抜ける相手ではない。
スタートすると、マーベラスサンデーは控えて後ろから3番手の後方待機策。他の有力馬の動きを見て仕掛けどころを待つ。
レース終盤、2番手を追走していたタイキブリザードが抑えきれない手応えで先頭に躍り出ると、後ろの各馬も動き出す。中団からバブルガムフェローも先団に取り付き、その後方からはマーベラスサンデーとダンスパートナーも続いて上がっていく。
直線に入ると、タイキブリザードを捉えて早めに先頭に立ったバブルガムフェロー。進路を外に切り替えながら仕掛けをワンテンポ送らせたマーベラスサンデーが、ダンスパートナーと併せ馬となって襲いかかる。
ゴールの寸前、マーベラスサンデーは最後まで気を抜かずにバブルガムフェローを差し切った。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
これまでG1では4,2,3着と善戦止まりだったマーベラスサンデーが、ついに悲願のG1制覇を達成した。
4度目の骨折
しかし、G1制覇の喜びも束の間。レース後に骨折が判明。デビュー前から数えると実に4度目の骨折だった。
長期休養に入ったマーベラスサンデーは、秋の天皇賞とジャパンカップには間に合わず、有馬記念での復帰を目指して治療に専念した。
有馬記念
5ヶ月の休養を経て、年末のグランプリ有馬記念で復帰。マヤノトップガン、サクラローレルの両雄もそれぞれ故障を発症してすでに引退が決まっていた。
何度骨折してもマーベラスサンデーは武豊騎手を背にターフに戻ってきた。そんなマーベラスサンデーをファンはグランプリ有馬記念で1番人気で迎えた。
2番人気はエアグルーヴ。こちらも武豊騎手との名コンビでオークス、天皇賞を制した女帝。フランスの名手O.ペリエ騎手は二度目の騎乗で不安はない。
スタートすると、後ろから4,5番手の後方待機策。エアグルーヴは5、6番手で折り合う。3,4コーナーにかけてレースが動き出すと、早めに仕掛けたタイキブリザードに内からスルスルとエアグルーヴが並んで先頭に立つ。マーベラスサンデーも手応えよく5,6番手まで順位を上げている。
先に抜け出したエアグルーヴの後ろから、ワンテンポ遅れてマーベラスサンデーが迫る。宝塚記念でバブルガムフェローを交わしたように、ゴール直前でエアグルーヴを捉えて優勝は目前というところで、追い込んできた3歳馬シルクジャスティスが切れ味を発揮してわずかに差し切った。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
骨折休養明けなど感じさせず、宝塚記念と同じく完璧とも言えるレース運びを見せたマーベラスサンデーと武豊騎手だったが、わずかアタマ差で春秋グランプリ連覇を逃す悔しい結果となった。
引退
翌年も現役続行の予定だったが、調整中に屈腱炎を発症して引退が決まる。通算15戦10勝。最低着順は4着と一度も掲示板を外したことがなく、強力なライバルたちの中でも抜群の安定感を誇った。
何度怪我で戦線離脱しようとも、名手武豊騎手がデビューから引退まで一度も手綱を譲ることがなかった。そしてトレードマークの赤いメンコの下に隠された闘志で、何度でも不死鳥のごとく復活した不屈の名馬だった。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、マーベラスサンデー。
史実のマーベラスサンデー
基本情報 | 1992年5月31日生 牡馬 栃栗毛 |
---|---|
血統 | 父 サンデーサイレンス 母 モミジダンサー(父ヴァイスリーガル) |
馬主 | 笹原貞生 |
調教師 | 大沢真(栗東) |
生産者 | 早田牧場新冠支場(北海道新冠町) |
通算成績 | 15戦10勝 |
主な勝ち鞍 | 97’宝塚記念 |
生涯獲得賞金 | 6億686万円 |
エピソード①変わったクセ
マーベラスサンデーのちょっと変わったクセとして知られているのが、レース前のお花摘み(オシッコ)だ。パドックから本馬場へ向かう地下馬道やレース直前の輪乗り中などにするのがクセだったというが、武豊騎手によると3歳時からではなくマーベラスサンデーが本格化を迎えたエプソムカップの頃からするようになったとのこと。
悲願のG1制覇を成し遂げた宝塚記念のときには、輪乗り中に2回していたという武騎手の証言もあり、マーベラスサンデーにとって大事なルーティーンだったのだろうか?
エピソード②種牡馬として
サンデーサイレンス産駒の種牡馬の中ではそれほど多くの活躍馬を量産したわけではなかったが、G2レースを3勝したシルクフェイマスやネヴァブションらを送り出した。
また、中山大障害(J.G1)を連覇した名ジャンパーのキングジョイ、同じく中山大障害の勝ち馬で、赤いメンコが父を彷彿させたマーベラスカイザーなど障害レースでの活躍馬も多く輩出した。
今週の一枚
史実では敵わなかったサクラローレルの追撃を振り切れるか…?
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