競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第55回。今回は、51レースも走った鉄の女にして夏女「イクノディクタス」について熱く語ります。
鉄の女
51戦のキャリア
2歳の7月にデビューしてから、6歳いっぱいまで大きな怪我もなく元気に走り続けて積み重ねた出走レース数は51。その牝馬はいつしか敬意を込めて"鉄の女"と呼ばれた。
鉄の女・イクノディクタス。彼女の凄いところは好不調の波をいくつも乗り越えながら毎年コンスタントにレースに出走し続け、最終的にキャリアを通してもっとも輝いたのが5歳~6歳にかけてというところではないだろうか。
夏女
引用元:JRA日本中央競馬会
そしてイクノディクタスにつけられたもう一つの有名な異名が「夏女」というもの。全9勝のうち8勝を5月~9月に挙げたことから、夏に強いというイメージがついた。
そんな夏にも強いタフな牝馬、イクノディクタスの史実を追っていく。
2歳時
デビュー前
現役時代は大きな怪我をすることもなく走り続けたイクノディクタスは、意外なことに2歳のデビュー前に屈腱炎を患いデビューが危ぶまれるほどだった。競走馬生命に関わる重いものだったが、「馬の神様」と呼ばれた装蹄師の福永守氏の手によって完治に至った。
メイクデビュー
2歳の7月、小倉の芝1000m新馬戦でデビューを迎える。3番人気のイクノディクタスは2番手から抜け出して快勝。デビュー戦を勝利で飾った。
連勝
2戦目は小倉の2歳オープン戦フェニックス賞(芝1200m)に出走。3番手追走からあっさり前をかわして4馬身差の圧勝。2戦2勝とした。
初黒星
初重賞挑戦となったG3小倉3歳ステークスではデビュー2連勝の内容を評価されて断然の1番人気だったが9着と大敗。初の黒星を喫した。
連敗
以後、連勝時の走りを再現することが出来ず萩ステークス(1200m)6着,デイリー杯3歳ステークス(1400m)5着と連敗。12月のラジオたんぱ3歳牝馬ステークス(1600m)で3着とようやく復活の兆しを見せたが、2歳時は6戦して最初の2勝のみにとどまった。
3歳時
低迷の春
3歳となり牝馬クラシック戦線に進んだイクノディクタスだったが、トライアルから本番までパッとせず桜花賞11着、オークス9着。桜花賞などは18頭中の18番人気であった。
秋に向けて
ここまですでに10戦。2歳の早い時期にデビューして連勝して期待されたものの、その後低迷してそのまま終わってしまうという成績はよく見る早熟タイプのパターンだったが、イクノディクタスは違った。
オークスのあとひと息入れて9月のG3サファイアステークスで復帰すると、不良馬場の中を逃げて3着に粘った。
復調
そしてエリザベス女王杯トライアルのローズステークス。いまだ10番人気の低評価だったが、クビ差の2着と完全に復調した走りを見せて本番に期待を抱かせた。
エリザベス女王杯
秋2戦で安定した走りを見せたイクノディクタスは9番人気。混戦模様のメンバーの中で人気以上の走りを見せて4着。秋2戦がフロックでないことを証明してみせた。
この年はけっきょく勝ち星なく終わったが、後半の内容は今後の飛躍を期待させるものだった。
4歳時
1年半ぶりの
4歳になって初戦のG3京都牝馬特別こそ7着に終わったが、その後はオープン特別で4着,G2マイラーズカップ3着と徐々に調子を上げていく。
そしてついに待望の3勝目を挙げたのが2月のオープン特別コーラルステークス(芝1400m)だった。2000mのローズステークスや2400mのエリザベス女王杯でも好走していたが、ふたたび距離を短縮して嬉しい3勝目をもぎ取った。2歳の夏以来、約1年半ぶりの勝利だった。
初重賞制覇
京阪杯
マイル路線に活路を見出してG2京王杯スプリングカップに出走したものの11着とあとが続かず。安田記念には進まず挑んだのは中距離2000mのG3京阪杯だった。
これまで18レースも出走して得意な距離もはっきりしない状況だったが、力を発揮できれば短距離~中距離まで幅広くこなせることは分かっていた。
7番人気の伏兵だったが、中団から伸び脚よく追い込んで差し切り勝ち。今度は2ヶ月と開けずに4勝目を挙げると同時に重賞ウィナーの仲間入りを果たした。
夏に好調をキープ
重賞勝ちのあとの2戦は凡走するが、その後7月から9月にかけて4レースに出走して小倉日経賞(OP)3着,北九州記念(G3)2着,小倉記念(G3)3着,朝日チャレンジカップ(G3)2着と好調をキープ。この頃から2000m前後の中距離を中心に使われることが多くなった。
連戦の疲れ
9月の朝日チャレンジカップの時点でこの年すでに12レースを消化。さすがに連戦の疲れが出たのか秋は休養に入って4歳のシーズンを終えた。
5歳時
復帰
5歳の2月に約5ヶ月ぶりに復帰。初戦の関門橋ステークス(オープン特別)で2着と健在ぶりを見せたが、なかなか勝ち星をあがることができず5月の新潟大賞典まで6連敗。前年の5月に京阪杯で勝利してから未勝利(12連敗)のまま1年が経過した。
好調の夏、到来
新潟大賞典のあと、中一週続きの過密スケジュールではあったがエメラルドステークス(オープン特別)に出走して久々の勝利。通算5勝目を挙げると前年に続いて夏場に調子を上げていく。
重賞2勝目
6月にG3金鯱賞(中京芝1800m)に出走すると、小倉3歳ステークス以来となる1番人気を背負い、見事にこれに応えて快勝。デビュー2連勝以来となる連勝で重賞2勝目をあげた。
重賞を連勝
7月の高松宮杯(G2)12着を挟んで、G3小倉記念でハナ差の接戦をものにして重賞3勝目。
そして夏競馬が終わり9月に入ってからも好調をキープして、秋のG1戦線を睨む実力馬達を相手にG3オールカマーを快勝。しかも、オグリキャップのもつ従来レコードを更新する好タイムだった。
サマーシリーズ優勝?
いつからか「夏女」と呼ばれるほど夏場の活躍が目立ったイクノディクタスだったが、2006年から夏競馬開催中に行われているサマーシリーズのようなタイトル争いは当時はなかった。もしも行われていれば、この年のイクノディクタスだったらサマー2000のタイトル争いを演じていたに違いない。
毎日王冠
連勝の勢いのまま秋のG1戦線を目指すイクノディクタスは、G2毎日王冠で重賞3連勝に挑んだが惜しくも2着。ダイタクヘリオスに敗れたものの、1番人気のナイスネイチャに先着するなど好調をキープした。
秋シニア3冠にフル参戦
そして秋のG1が開幕。イクノディクタスは天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有馬記念の秋古馬三冠レースにフル参戦し、その合間にマイルチャンピオンシップにまで出走した。
さすがに相手強化が著しかったが、それでも天皇賞9着、マイルチャンピオンシップ9着、ジャパンカップ9着、有馬記念7着とすべて一桁着順で踏ん張った。勝ち馬の名前を見ると、ダイタクヘリオスにトウカイテイオーやメジロパーマーといったウマ娘でもおなじみの顔ぶれが並んでいる。
最優秀5歳以上牝馬
特にこの時代は中長距離路線での牡馬の壁は厚く、その中で牡馬混合の重賞を3勝し、秋のG1での奮闘は高く評価された。この年イクノディクタスはJRA賞最優秀5歳以上牝馬に選出された。
6歳時
最大級の輝きを放つ
5歳の夏から秋にかけてピークとも思える充実ぶりを見せたイクノディクタスだったが、6歳になってさらなる輝きを放ってみせるのだ。
年明け初戦からの3戦を6,6,9着と低調な出だしだったが、得意の夏が近づくにつれて調子を上げていく。
安田記念
天皇賞(春)9着のあと、一気に距離を短縮して安田記念に出走。5歳の夏に重賞を連勝した頃の印象もすっかり薄れて16頭立ての14番人気にまで人気を落としていた。
連覇を狙うヤマニンゼファーをはじめ、ニシノフラワーやシンコウラブリイ、シスタートウショウといった年下の牝馬勢も強力なメンバー構成。
3枠6番からスタートして後方に控えると、先行グループの有力各馬を中団後方から虎視眈々と見据える。インコースでじっと脚をためて府中の長い直線に入る。
混戦の中からヤマニンゼファーが抜け出す。先行勢からシンコウラブリイや外国馬のロータスプールも食い下がるが、いつの間にか馬群の中に突っ込んだイクノディクタスも追い込んでくる。
勝ったのはヤマニンゼファー。そして際どい2着争いの中を上がり最速の末脚で力強く抜け出したイクノディクタスが2着を確保。14番人気の低評価を覆して馬連68,970円の大波乱を演出してみせた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
牝馬の最多獲得賞金
安田記念での2着によって、ダイイチルビーを抜いて牝馬としての歴代最多獲得賞金に到達した。
宝塚記念
アッと言わせた安田記念から1ヶ月後の宝塚記念、衰えを知らないイクノディクタスが再度輝く。
メジロマックイーン、メジロパーマー、ニシノフラワーら豪華メンバーの中、11頭中8番人気のイクノディクタス。使い込まれた夏の阪神競馬場の芝は荒れており、逃げるメジロパーマー以下各馬はインコースを避けて大きく外を周回する。内の2番枠からスタートしたイクノディクタスも馬群の最後方につけ、コースの外目を大きく周る。
そして最後の直線、荒れた馬場も難なく抜け出したメジロマックイーンの2着争い。またしても上がり最速の豪脚を繰り出したイクノディクタスが2着に食い込む激走を見せたのだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ベテランの域に達した牝馬によるG1レースでの2連続2着には驚かされたが、これによってイクノディクタスの獲得賞金は牝馬として史上初めて5億円を超えた。
まさかのオープン特別
普通なら宝塚記念のあとは放牧に出されて夏休みに入るところだが、得意の夏に休んでなどいられない。中一週で出走したのはG2でもG3でもなく、オープン特別のテレビ愛知オープン。
夏のハンデ重賞では重い斤量が見込まれるための選択だったのだろう。負担重量54キロのイクノディクタスはさすがの貫禄勝ちで通算9勝目をマークした。
引退
このオープン特別の1勝を最後に秋は勝つことが出来ず10勝の大台には届かなかったが、この年も最後まで大きな怪我もなく走りきって引退した。
51レースを走り抜いて、キャリアの後半に差し掛かった5歳の夏に重賞3勝の固め打ち。そして晩年の6歳になってからG1レースで2度の2着は名牝と呼ぶにふさわしい。
「鉄の女」のイメージとは真逆の美しい栗毛の牝馬だったことも付け加えておきたい。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、イクノディクタス。
史実のイクノディクタス
基本情報 | 1987年4月16日生 牝 栗毛 |
---|---|
血統 | 父 ディクタス 母 ダイナランディング(父ノーザンテースト) |
馬主 | 勝野憲明 |
調教師 | 福島信晴(栗東) |
生産牧場 | 高田栄治(浦河町) |
通算成績 | 51戦9勝 |
主な勝ち鞍 | ’91京阪杯(G3)、’92オールカマー(G3)、小倉記念(G3)、金鯱賞(G3)、’93安田記念(2着)、宝塚記念(2着) |
エピソード① マックイーンも惚れた
繁殖牝馬となった初年度の交配相手は、2着だった宝塚記念の優勝馬メジロマックイーン。マックイーンがイクノディクタスに気があったのではという逸話は有名で、このロマンあふれる夢の配合は大変話題になった。
そのマックイーンとの仔キソジクイーンをはじめ、産駒から目立った活躍馬は出なかったが、繁殖牝馬としてもタフに10頭の仔を競走馬として送り出した。
エピソード② イクノ姉さん
イクノディクタスは繁殖牝馬を引退したあとも功労馬として余生を過ごし、2019年に32歳で大往生するまでファンに愛された。よく知るファンからは「イクノ姉さん」と呼ばれて慕われていたそうだ。
エピソード③ ライバル
よく同じレースで一緒に走って互いに勝ったり敗けたりを繰り返していた同世代の牝馬にヌエボトウショウという馬がいた。
3歳時にイクノディクタスが3着だったG3サファイアステークスの勝ち馬で、その頃から互いに研鑽を重ね、ヌエボトウショウも引退までに重賞5勝を挙げるなど活躍した。
いつか育成ウマ娘としてイクノディクタスが実装される際には何らかのかたちで登場することを期待したいところだ。
今週の一枚
眼鏡クイッが素敵なパドックの1シーン。まだ育成ウマ娘実装前のため、イクノの勝負服姿が見られるレースは貴重だ。凛々しいパンツスタイルの勝負服もよく似合っている。
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