競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第45回。今回は、完全無欠のお嬢様「ファインモーション」について熱く語ります。
世界的な良血
血統も馬体も戦績も一流
ファインモーションはアイルランド産の外国産馬だ。ウマ娘では「殿下」と呼ばれ、まるで王女の身分で庶民の暮らしを楽しむあの名作映画のようなストーリーが展開されるが、その華麗なる出自は正真正銘の世界的良血なのであった。
血統も戦績も一流
引用元:JRA日本中央競馬会
ファインモーションの華麗なところは血統だけでなく、戦績も一流。牝馬クラシック戦線の終盤に彗星の如く現れたかと思うと無敗のまま秋華賞とエリザベス女王杯を制覇。そして鞍上には先日6度目の日本ダービーを制したスタージョッキー武豊騎手。そんな非の打ち所のない完全無欠のスーパー牝馬・ファインモーションの史実を追っていく。
デビュー前
名馬を兄に持つ超良血
ファインモーションの兄は、欧米などでG1競争6勝のピルサドスキー。97年のジャパンカップではエアグルーヴを敗って優勝し、その後日本で種牡馬入りした名馬である。
ファインモーションの父は名種牡馬デインヒル。兄と同様にヨーロッパでデビューする予定だったが、まだ仔馬の頃に日本の伊藤雄二調教師(ウイニングチケットやエアグルーヴを育成した)に見出され、浦河町の伏木田牧場によって購入された。ゆくゆくは牧場を担う繁殖牝馬になることが期待されていた。
2歳時
デビュー前
アイルランドから来日したファインモーションは、調教を開始するとすぐに目立った動きを披露。他の2歳馬よりハードな調教を難なくこなす心肺機能と、何より雄大でバランスの取れた馬体から繰り出されるダイナミックな走りはたちまち評判となった。
メイクデビュー
デビューは2歳の暮れ、12月の阪神開催が選ばれた。この時期の芝2000m新馬戦はクラシックを意識した期待の若駒が集まることが多いのだが、すでに話題の良血馬ファインモーションの単勝オッズは1.1倍。デビュー戦から破格の支持を集めた。
武豊騎手を背に、スピードの違いで先頭に立つとそのまま後続を全く寄せ付けずに逃げ切り勝ち。余裕の手応えのまま2着に4馬身差をつけての圧勝は、噂に違わぬ走りだった。
放牧
伊藤雄二厩舎は馬の成長に合わせた育成方針が特徴的で、特に牝馬の育成に長けた厩舎。高い素質を見せつけた新馬勝ち後には、武豊騎手から早くも海外挑戦に意欲的な発言が飛び出すなど期待を集めたが、まだ体質に弱いところがあったこともあり、じっくりと成長を促すために放牧に出された。
3歳時
復帰
ファインモーションの休養は長くなった。外国産馬のために春のクラシックへの出走権がなかったこともあり、焦ってレースに使うことはせずに成長を待った結果だろう。
ファインモーションが再び姿を見せるのは3歳の夏、8月の北海道開催だった。函館競馬場の芝2000m、1勝クラスのレースに登場。松永幹夫騎手に乗り替わりとなった2戦目も1番人気に応えてみせる。
2番手追走から馬なりのまま抜け出し、5馬身差の楽勝でブランクを挟んでの2連勝を決めた。
連勝
続いて札幌の芝2600m阿寒湖特別も3番手からあっさり抜け出してまたしても5馬身差圧勝。無傷の3連勝で秋を迎えることとなった。2勝クラスの条件戦とは言え、古馬の牡馬をまったく寄せ付けないレースぶりは秋の飛躍を感じさせるには十分だった。
秋華賞へ向けて
ファインモーションがいよいよ重賞の舞台に登場する。牝馬三冠路線のラスト、秋華賞には外国産馬も出走可能。秋華賞出走をかけて、トライアルのローズステークスに出走した。
ここまで3戦で2着につけた着差は合計14馬身差。初の重賞レースでも断然の1番人気はこの馬だった。単勝オッズは1.2倍。桜花賞馬アローキャリー、オークス3着馬ユウキャラット、前走クイーンステークス3着から参戦のサクラヴィクトリアなどの実績馬を差し置いて圧倒的評価だった。
そして、やはりこのローズステークスもファインモーションにとっては1つのステップに過ぎなかった。3,4番手追走から楽な手応えで抜け出し、ほとんど馬なりのまま3馬身差をつけて先頭でゴール。無傷の4連勝で重賞ウィナーとなった。
秋華賞
記録的な支持率
夏に戦列復帰後、瞬く間に秋華賞の最有力候補に上り詰めたファインモーション。まだ4戦というキャリアながら、すべてのレースが余裕残しの大楽勝。5年前のジャパンカップでエアグルーヴを負かしたピルサドスキーの妹は、牝馬三冠路線の終盤に彗星の如く現れてたちまちスター候補に名乗り出た。
秋華賞での単勝支持率は70%を超え、当時G1レースの最高記録となった。ファインモーションの単勝オッズ1.1倍に対し、2番人気は18.7倍という異常なほどの一本かぶりだ。
デビュー戦以来のコンビとなった武豊騎手を背に12番枠から好スタートを決めると、5,6番手につける。終始楽な手応えのまま最終コーナーを迎えると、軽く促されただけでスーッと先頭に並びかける。
直線に入るとファインモーションの独壇場だった。あっという間に抜け出すと、武豊騎手のアクションはG1レースとは思えないほど軽い。2着につけた3馬身半の差は、追えばもっと開いただろう。それでいてタイムも秋華賞レコードタイの好記録。ステッキどころかサーッと流した程度という感じでこの勝ち方は衝撃的だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
エリザベス女王杯
5連勝でG1制覇したファインモーション。そのレースぶりは紛うことなき怪物牝馬だった。そしてそれは古馬に混じっても変わることはなかった。
年上のトップ級牝馬も参戦するエリザベス女王杯。新旧オークス馬も顔を揃えた最強牝馬決定戦はまたしてもファインモーションの強さだけが際立つレースとなった。
好スタートから先行して2,3番手につけると、あとは今までと同じ横綱相撲。最終コーナーで先頭に並び直線で突き放す。前につけて上がりの3ハロン(ラスト600m)で最速の脚を使うのだから後ろから届くわけがないのである。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
これで6戦全勝。キャリア6戦目での古馬G1勝利は史上最短、無敗で古馬G1を勝利したのも史上初という記録ずくめの勝利だった。あの皇帝シンボリルドルフですら3歳時のジャパンカップで3着に敗れている。牝馬限定戦とは言え歴史に残る偉業達成だった。
初めての黒星
有馬記念
ここまでの完全無欠ぶりから、史上最強の牝馬との評価も囁かれた。そして年末のグランプリレース有馬記念で強力牡馬勢とどんな戦いを見せてくれるのか、この最強牝馬に一番の注目が集まる。
1番人気はファインモーション。同世代の牡馬で3歳にして秋の天皇賞馬に輝いたシンボリクリスエス、年上のダービー馬ジャングルポケット、歴戦の雄ナリタトップロードらを抑えて3歳牝馬が1番人気だ。この底知れないお嬢様ならば、厩舎の先輩エアグルーヴも成し得なかった有馬記念制覇もあっさりとやってのけそうな期待を抱かせた。
しかし、これが数々の名牝の挑戦を退けてきた歴史の重みと言わんばかりにファインモーションにとって初めての試練となってしまった。
好スタートから果敢に先頭に躍り出たファインモーションだったが、伏兵のタップダンスシチーに前に出られるとテンションが上りかかり気味になってしまう。武豊騎手も抑えきれず先頭を奪い返すなど、最後までペースを緩めることができず消耗。
タップダンスシチーに引き離されて直線に入ると、いつもの伸びはなく5着に敗れた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
勝ったのは3歳牡馬のシンボリクリスエス。粘りに粘ったタップダンスシチーが大金星かというゴール直前で急襲して差し切った。
4歳時
長期休養明け
有馬記念後は休養に入り、温泉療養施設などで激戦の疲れを癒やす。4歳春のシーズンを全休したファインモーションは8月の札幌開催で姿を見せる。牝馬限定戦のG3クイーンステークスに出走すると、長期休養明けでも当然の1番人気。
しかし、3歳の伏兵オースミハルカの逃げ切りを許して2着。初めて牝馬に先着を許した。
毎日王冠
秋は目標を天皇賞に定め、外国産馬の出走可能枠2頭に入るために必勝を期してG2毎日王冠へ出走。しかしながらよもやの7着と掲示板を外す大敗を喫してしまい、天皇賞出走は叶わなかった。
マイルチャンピオンシップ
そしてファインモーションは矛先をマイルチャンピオンシップに定めて仕切り直し。エリザベス女王杯という選択肢もあったが、こちらには武豊騎手騎乗のアドマイヤグルーヴが出走して勝ちを収めている。
中距離レース中心に使われてきたファインモーションにとって初めてのマイル戦となった。また、デビュー以来初めての2番人気。
大外18番から好スタートを切ると、マイルのペースに惑わされることなく中団につける。そして7,8番手の位置取りで最終コーナーを回って直線へ。
逃げ込みを図るギャラントアローめがけて馬場の外目をついて追い込むファインモーションと武豊騎手。久しぶりにこの馬らしい切れ味を見せて差し切るかと思われた直後、さらに外から追い込んだデュランダルの末脚に屈して2着となった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
阪神牝馬ステークス
敗けはしたものの復活の兆しを見せたファインモーションは、マイル路線を継続。続けてマイルのG2阪神牝馬ステークスに出走した。
道中は中団につけ、徐々に進出して直線で抜け出すと、後続の追撃を凌いで勝利。エリザベス女王杯以来久しぶりとなる7勝目を挙げた。
5歳時
安田記念
5歳になっても現役続行が決まったファインモーションはぶっつけで安田記念へ出走。最内1番からスタートしたファインモーションは武豊騎手が制することに苦労するほど折り合いを欠いてしまい、見せ場なく13着と大敗。
夏の北海道
夏場は恒例となった北海道へ遠征。G3函館記念、G2札幌記念と2000mの距離を連戦。久しぶりの中距離レースとなった函館記念で2着とすると、好メンバーが揃った札幌記念では後方待機策から鋭く追い込んで勝利。これで通算8勝目、重賞レース5勝目をマークした。
マイルチャンピオンシップ
ファインモーションの現役最後のレースとなったのは前年2着のマイルチャンピオンシップ。1番人気はその時の勝ち馬デュランダルで、あれから短距離マイル界トップの位置をキープしていた。
最後のレースは、中団馬群の中につけたファインモーションは序盤から折り合いに苦労して消耗し、直線では内に潜り込んで追い込むが馬群の中から抜け出す脚はなく9着でなだれ込んだ。一方でデュランダルが見事な直線一気で連覇を達成した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
引退
マイルチャンピオンシップ9着を最後に現役を引退。通算成績は15戦8勝だった。牡馬に混じっての戦いとなってからは、徐々にレースで抑えが効かなくなり自分との戦いにもなってしまったファインモーション。しかし彼女の印象として残っているのは、6連勝でエリザベス女王杯を勝った頃の絶対王女と言える圧倒的な存在感だ。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ファインモーション。
史実のファインモーション
基本情報 | 1999年1月27日生 牝 鹿毛 |
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血統 | 父 デインヒル 母 Cocotte(父Troy) |
馬主 | 伏木田達男 |
調教師 | 伊藤雄二(栗東) |
生産牧場 | Barronstown Stud and Orpendale(アイルランド) |
通算成績 | 15戦8勝 |
主な勝ち鞍 | ’02秋華賞、’02エリザベス女王杯 |
生涯獲得賞金 | 4億9451万円 |
エピソード① 繁殖牝馬として
もともとは将来の牧場を支える繁殖牝馬として期待されて輸入されたファインモーションだったが、繁殖入り後は残念ながら一頭も仔馬を出産することがなかった。引退後に毎年種付けが行われたものの、何年か連続で不受胎に終わり、後になって医学的に受胎不可能な身体であることが判明した。
その後は功労馬として穏やかに牧場で余生を過ごしている。現在23歳だ。
今週の一枚
今週も撮影機能で激写した一枚を選んでみた。
新衣装のファインモーションが走っている姿。どのシーンを切り取っても王女が結婚式から逃げ出して疾走しているようにしか見えなかった。なんにせよ気品があって可愛い殿下である。
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