競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第1回。今回は6/10に育成ウマ娘として実装された「セイウンスカイ」について熱く語ります。
[uma_column_header]セイウンスカイという競走馬
黄金世代の隠れたエース
ウマ娘アニメ第一期の主役、スペちゃんことスペシャルウィーク。そのライバルとして登場し、銀髪ショートヘアに黄色いお花の髪飾りがトレードマーク、マイペースで何を考えているのかわからない。彼女の名前はセイウンスカイ。(※ウマ娘に合わせて彼女と書いたが史実だと牡馬:オス)
引用元:JRA日本中央競馬会
ともに1998年のクラシック戦線を争ったライバルであるスペシャルウィーク、キングヘイローらに加え、当時クラシック出走権がなかった二頭の外国産馬※グラスワンダーとエルコンドルパサーが名を連ねる黄金世代の一頭である。
日本国外で生産された競走馬のこと。当時、三冠レースを含む一部のレースは外国産馬の出走権がなかった。(現在は緩和済)
デビュー~ジュニアC
6馬身差の圧勝でデビュー
デビューは遅く、初出走は年明け1月の中山開催だった。5番人気の低評価だった新馬戦を6馬身差で圧勝すると、続くジュニアカップでも3番人気ながら5馬身差の逃げ切り圧勝。普通なら、この二戦の勝ちっぷりからクラシック三冠※最有力候補として見られるところなのだが、少し様子が違った。そう、同期のライバル達の存在である。
三歳馬限定のG1競争「皐月賞」「日本ダービー」「菊花賞」の総称。その世代の新人最強決定戦のような意味合いを持っており、全て制すと「三冠馬」と言われる。
牝馬限定の三冠レースも存在し、こちらは「牝馬三冠」等と呼ばれる。
弥生賞
ライバルとの邂逅
三戦目の弥生賞でもセイウンスカイは3番人気。1番人気のキングヘイローは、欧米の最強馬同士が配合された超がつく良血馬でデビュー前から話題となり、成績もここまで4戦3勝(2着1回)と順調。
2番人気のスペシャルウィークも、当時猛威を振るっていた種牡馬サンデーサイレンスの子でこちらもデビュー前から評判の馬。天才ジョッキー武豊騎手とのコンビで新馬戦から断然の1番人気を背負ってここまで3戦2勝(2着1回)で来ており、特に前走のG3きさらぎ賞を強い勝ち方で勝利しさらに評価を上げてきていた。
セイウンスカイの3番人気も頷けるメンバー構成だった。
スペシャルウィークに敗れる
その弥生賞は、セイウンスカイが逃げ切るかに思われたが直線で豪脚を繰り出したスペシャルウィークにかわされて1/2馬身差の2着、キングヘイローはさらに4馬身離された3着となった。
実はこのときのセイウンスカイは脚元に不安(ソエ※)があり調教不足だったと言われているのだが、その様子はウマ娘のアニメ内でも描かれているので、興味のある方は確認してみてほしい。
管骨骨膜炎のこと。調教初期の若馬に多く見られる。骨が完全に化骨していない若馬に強い調教を行うと、管骨(第3中手骨)の前面で炎症を起こすことがある。
皐月賞
迎えた一冠目
そして迎えたクラシック三冠レースの一つ目、皐月賞。弥生賞での直接対決の結果どおり、人気順はスペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイローと続く。前哨戦を鮮やかに勝利した1番人気スペシャルウィーク単勝オッズは1.8倍と断然の支持を得ていたが、今度はセイウンスカイが2番手から早めに抜け出してそのまま押し切りクラシック一冠目を手中におさめた。1/2馬身差の2着にキングヘイロー、スペシャルウィークは追い込み届かず3着まで。
初物づくしの勝利
乗り替わりでセイウンスカイの新たなパートナーとなった横山典弘騎手はクラシック初優勝。セイウンスカイの引退レースまで手綱を握ることになる名コンビが誕生した瞬間だ。ちなみに開業二年目の保田厩舎は初G1、生産者の西山牧場にとっても初の牡馬クラシックと初物づくしの勝利であった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
日本ダービー
続く二冠目は3番人気で迎える
続くクラシック二冠目は、世代の最高峰を競う日本ダービー。セイウンスカイは、皐月賞を勝ってもなお1番人気ではなくスペシャルウィーク、キングヘイローに次ぐ3番手評価。しかしこの日ファンが1番人気に推したスペシャルウィークは、間違いなくこの日の主役だった。
スペシャルウィークが歴史に名を刻む
かかって暴走気味に逃げるキングヘイローと競り合う展開で消耗したセイウンスカイは直線半ばまで粘りを見せたものの、勝ったスペシャルウィークに5馬身以上離された4着に終わった。この年のダービーは、天才ジョッキー武豊騎手が悲願の初ダービー制覇をスペシャルウィークとともに果たしたレースとして競馬ファンの記憶に刻まれた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
京都大賞典
前哨戦は京都大賞典を選択
ダービーを終えて故郷の西山牧場で夏を過ごしたセイウンスカイは、充実の秋を迎える。セイウンスカイの評価を決定づけることになる秋初戦は、G2京都大賞典。
菊花賞を目指す馬のほとんどは、3歳馬同士で争うステップレース※に出走することが多い。しかしセイウンスカイ陣営はあえて歴戦の古馬※との戦いとなる京都大賞典を選んだ。実はこれには事情があったのだが、後述するゲート難エピソードで紹介する。
G1レースの前哨戦として位置づけられているレース。菊花賞への主なステップレースとしてはセントライト記念や京都新聞杯が該当する。
【用語解説】古馬
4歳以上の競走馬の総称。まだ身体が育ち切っていないことが多い三歳までと区別してこう呼ばれる。三歳馬限定/古馬限定のレースも複数存在する。
強豪古馬が集う豪華レースを制する
その京都大賞典は、7頭立ての少頭数ながら秋の天皇賞を目指す強豪古馬勢が顔を揃えた。メジロブライト(その年の春の天皇賞優勝)、シルクジャスティス(前年の有馬記念優勝)、ステイゴールド(ゴルシパパ)などいずれも強力な面々に続き、セイウンスカイは4番人気。
結果的にセイウンスカイは悠々と逃げ切り勝ちをおさめるのだが、オーナーはこのレースを観て菊花賞の勝利をほとんど確信したという。(連載していたコラムで5馬身差圧勝宣言をしたほど)
菊花賞
固有スキルが炸裂!?
迎えた菊花賞、スペシャルウィークに次いで2番人気。大逃げから影をも踏ませず2着のスペシャルウィークに3馬身半差をつけて圧勝したレース振りは、まさしく先日ウマ娘に実装されたセイウンスカイの固有スキルのモデルとなったものかも知れない。”これ幸い”と思っていたかどうかはともかく、実に気持ちのいい勝ちっぷりだった。
当時の世界レコードでの圧勝
ちなみにタイムは当時の菊花賞のレコードタイムを1秒以上も上回る記録であり、芝3000mの日本レコード、さらに世界レコードであった。逃げ切ること自体が難しい3000mのレース(菊花賞の逃げ切り勝ちも38年ぶり)でその衝撃のレコードタイムを叩き出したわけだから、セイウンスカイの強さを自ら証明した会心のレースと言っていいだろう。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
有馬記念
1番人気に推されたが結果は4着
二冠馬となったセイウンスカイは、その後の有馬記念でついに自身初の1番人気になるが、結果は4着。人気に応えることができなかった。
勝ったのはグラスワンダー。怪我からの復活を遂げた同期のライバルだった。
またこの有馬記念で5着だったエアグルーヴは引退レースだったり、ウマ娘的にもエモいレースだったのではないだろうか。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
その後
怪我もありその後G1勝利は叶わず
こうして幕を閉じた1998年のクラシック戦線。当初は、圧倒的な強さを見せていた2頭の外国産馬グラスワンダーとエルコンドルパサーが出走できないこともあり、主役不在のクラシックとさえ言われていたが、古馬になってからもこの世代は強かった。
セイウンスカイは、1番人気に応えてG2レースを2勝。これからという時期に怪我をして長期休養を余儀なくされてしまったが、無事ならまだまだG1レースでも活躍できたはずだ。
輝いていた「黄金世代」
海を渡って世界最強まであと一歩まで迫ったエルコンドルパサー、そのエルコンドルパサーを凱旋門賞で負かした海外勢をジャパンカップで迎え撃ったスペシャルウィーク、そしてグランプリレース(有馬記念、宝塚記念)3連覇と大舞台で無類の強さを誇ったグラスワンダー。キングヘイローも短距離マイルを中心に活躍し、5歳になった高松宮記念でついにG1勝利をおさめた。
20年以上も経った今、アニメの主役として描かれるほどに輝いていた黄金世代。そのクラシック二冠馬は、人気の面でもライバル達に劣らない魅力的なキャラクターとして活躍している。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、セイウンスカイ。
史実のセイウンスカイ
基本情報 | 1995年4月26日生/牡/芦毛 |
---|---|
血統 | 父:シェリフズスター 母:シスターミル(父:ミルジョージ) |
馬主/牧場 | 西山正行氏 西山牧場(北海道・鵡川町) |
調教師 | 保田一隆(美浦) |
通算成績 | 13戦7勝 |
主な勝ち鞍 | 98皐月賞(GI),98菊花賞(GI) |
エピソード①
父馬は行方知れず
セイウンスカイの父シェリフズスターは、産駒の成績が振るわなかったためにセイウンスカイが産まれた1995年時点で種牡馬失格の烙印を押されて廃用、行方知れずになっていたという。セイウンスカイと同じ年に産まれた約30頭のほとんどが格安で地方競馬の馬主に売り払われ、残ったのはたったの3頭。そのうちの1頭がセイウンスカイだった。
引き取り予定の調教師も現れず
そのセイウンスカイをもともと預ける予定だった調教師は一向に牧場に現れず、セイウンスカイが2歳になる1997年に厩舎を開業予定だった保田一隆氏に引き取られることになったそうだ。そんな扱いだった馬がのちにクラシック二冠馬になるとは、誰が予想できただろうか。
参考書籍:名馬を読む 2 /江面弘也著・三賢社
エピソード②
大のゲート嫌い
セイウンスカイは大のゲート嫌いであった。もともとすんなりとゲート入りしないタイプではあったが、皐月賞のゲート入りの際にステッキで叩かれたことがトラウマとなって益々ゲート入りを嫌がるようになったという。
レース選択にも影響を及ぼした
この後、ダービーを迎える前にゲート再審査※が課されたことが、秋のローテーションに影響を与えている。秋初戦は菊花賞の前哨戦、京都新聞杯という選択肢もあったが、再びゲート入りを嫌がり再審査となった場合に菊花賞に間に合わなくなるため、1週早い京都大賞典への出走となった。
ゲート入り等に不安が見られた馬に課せられるテスト。これを通過しないとレースに出走できない。
エピソード③
種牡馬としてはあまり注目されなかった
引退後のセイウンスカイは、その血統的な背景からか種付け頭数もさほど集まらず、残念ながら産駒の活躍も目立ったものはなかった。
ニシノフラワーとの夢の配合
そんな中、西山牧場の看板娘であり、ウマ娘にも登場するG1馬ニシノフラワーとの夢の配合は当時も話題となった。そうして産まれた牝馬の名前はニシノミライと名付けられた。ニシノミライ自身は未勝利で引退し、アグネスタキオンとの間に牝馬が産まれる。ニシノヒナギクと名付けられたが、未勝利のまま引退。
子孫ニシノデイジーが現役で出走中
現在、そのニシノヒナギクの子どもであるニシノデイジー(牡馬、父ハービンジャー)が現役のオープン馬として走っている。先日6/13に行われたG3エプソムカップに出走したばかりだ。そのまた妹に現3歳のニシノリース(父ロードアルティマ)がいる。
アニメから見るセイウンスカイ
アニメ『ウマ娘 プリティーダービー』には、史実をもとにしたと思われるセイウンスカイの様子が描かれているので、そのうちの1シーンをご紹介する。
弥生賞の不調は史実通り
1期第3話にあたるシーン。弥生賞前、スペちゃんとの会話の中で「なんか調子わるいんだよねー」というセリフがあるが、実際にこの時期ソエ(骨膜炎:脚元の病気の一種)で調教不足だったと言われている。
レースでは、飄々とした表情とセリフ、調子が悪いと言いながらも軽快に逃げるが、最後にスペちゃんにかわされ2着。喜ぶスペちゃんを横目に見ながら「ふーん、なるほどねえ」の意味深なセリフに余裕の微笑み。これも、最後の直線で気を抜いてしまったため余力を残して負けたというレースの再現か。
こういう細かいエピソードをアニメやゲーム内でうまく描いているのもウマ娘の魅力だろう。リアル競馬、モデルとなった競走馬、関係者に対する愛とリスペクトを感じる部分である。
小ネタ:セイウンスカイは釣りがお好き?
釣り好き設定はどこから?
ゲーム内のセイウンスカイの釣り好き設定はどこからきたのか?その由来をご存じの方がいたら是非とも教えていただきたいのだが、「もしかしたら…」というエピソードを発見したのでご紹介する。
元ネタは「釣りバカ日誌」?
そのヒントは、セイウンスカイのオーナーである西山茂行氏のブログにあった。とある中華料理屋の餃子にまつわるエピソードにて、西山氏とやまさき十三さん(釣りバカ日誌原作者)との深い親交がうかがえる。セイウンスカイが「釣りバカ」なのはここがルーツなのかもしれない。
西山氏のブログ
▶大好きだったオッサン…(ノ-_-)▶「あさひるばん」試写会
この記事を書いたライター
ライターE | |
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BNW世代(93年~)から競馬を追いかけているガチガチの競馬ファン。最近は少し離れ気味だったが、ウマ娘をきっかけに競馬への情熱を取り戻す。 持ち前の競馬知識を活かして、ウマ娘ファンと競馬の間の橋渡しに少しでも貢献したいと思っている。 |
余談、ライターEについて
ライターEと申します。ウマ娘に登場するモデル馬たちの現役時代を知る根っからの競馬ファンです。当時、BNW世代で初めて競馬に触れ、ナリタブライアンの3冠達成に熱狂しました。
大種牡馬サンデーサイレンスの日本導入から一気に加速した日本の競走馬のレベルアップとともに競馬ライフを過ごし、愛読書は「週刊Gallop」、毎週末にはウインズで1日分の馬券を購入し、グリーンチャンネルで競馬中継を観戦というサイクルでした。
ゲームがリリースされてからの、ウマ娘からリアル競馬ファンへ、という流れや引退馬ドネーションへの多額な寄付金の話題には大変驚かされていますが、そんなウマ娘世代の新しい競馬ファンに、リアル競馬をより楽しむための橋渡しになるような手助けができればいいなと思い、その一環としてこの記事を書かせて頂きました。
今後もこの記事のように、競馬知識を活かしたコンテンツで少しでも貢献できればと思っています。これからよろしくお願いします。
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