競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第94回。今回は波乱万丈の馬生を通してファンに愛された、ノーリーズンについて熱く語ります。
追悼:ありがとう、ノーリーズン
波乱万丈の愛されホース
今回、ウマ娘で開催されていたイベントストーリーでの活躍に合わせてノーリーズンの史実を執筆中に、思いも寄らなかった訃報が飛び込んできた。追悼を込めて、波乱に満ちた25年の馬生をとおして愛され続けた名馬、ノーリーズンの史実を追っていく。
遅生まれの良血
6月生まれ
ノーリーズンは父ブライアンズタイム、母アンブロジン(父Mr. Prospector)という血統。父はナリタブライアンやマヤノトップガンといった大物を輩出し、サンデーサイレンス、トニービンと並んで一時代を築いた名種牡馬。
米国産の繁殖牝馬として輸入された母アンブロジンは近親に種牡馬や活躍馬が多数いる良血馬。日本に来て最初にサンデーサイレンス産駒の牝馬を産み、その下がブライアンズタイムとの間に産まれた牧場期待の牡馬、のちのノーリーズンだった。しかし誕生日が6月生まれと遅く、クラシックを目指すうえでは大きなハンデとなった。実際、牧場時代は同世代のほかの仔馬と比べて成長が遅く、華奢で目立たない存在だったという。
なお6月以降生まれのクラシックホースは歴史上でも非常に少なく、近年ではナリタタイシンやカワカミプリンセスが有名だ。
3歳時
メイクデビュー
成長にあわせて入厩したのが2歳の10月。栗東の池江泰郎厩舎に入厩したノーリーズンは、細くて頼りなかった馬体もグングンと成長し、3歳の1月にデビューを迎える頃には470キロ台の立派な体躯の持ち主になっていた。
1月5日、正月開催の京都芝1800m新馬戦、鞍上に武豊騎手を迎えたノーリーズンは2番人気の支持を集める。スタートを出て好位につけると、直線で先行馬をかわして先頭に躍り出る。そのまま後続を振り切って、1番人気の良血馬アグネスプラネットに2馬身差をつけて見事デビュー勝ちを決めた。
ちなみにこの日のメインレースであるG3京都金杯を連覇したダイタクリーヴァは、2年前にノーリーズンの姉ロスマリヌス(先述の父サンデーサイレンス牝馬)が新馬戦から臨んだ白菊賞で破った相手だった。(その後ロスマリヌスは故障により2戦2勝のまま引退して繁殖牝馬となった)
連勝
デビュー戦から約1ヶ月後の2月9日、1勝クラスのこぶし賞(京都芝1600m)に出走。再び武豊騎手が手綱をとり、2番人気で勝利。姉と同じようにデビューから2連勝でオープン入りを果たした。
いざ、クラシック戦線へ
皐月賞の出走権をかけて若葉ステークス(阪神芝2000m)に挑む。ここまでトントン拍子で勝ち上がったノーリーズンだったが、デビュー2戦で騎乗した武豊騎手が2月末に落馬負傷して戦線を離脱していたため福永祐一騎手に乗り替わりでの一戦となった。
そして、さすがにクラシックの本番を見据えた強敵との対戦が待ち受けていた。2歳時に3戦全勝で朝日杯フューチュリティSを制したアドマイヤドン(アドマイヤベガの弟)が人気を集め、こちらも無敗のノーリーズンは2番人気で続いた。
しかしながら、2歳チャンピオンもノーリーズンも無敗を守ることができず、アドマイヤドン3着、ノーリーズンは7着という結果に終わった。ノーリーズンにとっては道中で受けた不利があってのものではあったが、痛恨の敗戦となってしまった。
抽選で皐月賞へ
トライアルで皐月賞の優先出走権を得ることができなかったノーリーズンは、賞金順で2/7の抽選にかけることとなったが、無事に抽選を突破。これにより滑り込みで皐月賞への出走が叶った。
下剋上、成る!
史上に残る大波乱
牡馬クラシック一冠目の皐月賞。ノーリーズンは若葉ステークスの着順で大きく人気を落とし15番人気の低評価。短期免許で来日していたブレット・ドイル騎手への乗り替わりも、未知数な部分があり敬遠された要因だっただろう。
1番人気は重賞3連勝で皐月賞に駒を進めてきたタニノギムレット。ノーリーズンと同じブライアンズタイム産駒、そして主戦騎手も同じく武豊騎手で、こちらは前走から四位洋文騎手が負傷中の主戦に代わって手綱を握っていた。
ゲートが開くと、好スタートを決めたタニノギムレットを含めた人気馬が揃って後方に控える中、1枠2番のノーリーズンは内枠からのコース取りをうまく活かして中団馬群に潜り込み折り合いをつける。
中盤から最終コーナーにかけて徐々に順位を上げていくと、直線入口でいつの間にか外に持ち出して抜け出しを図る。人気のタニノギムレットはまだ離れた後方でようやくエンジンがかかったところだった。
抜群の手応えで抜け出したノーリーズンはそのまま2番手以下を突き放し、坂を登りきったところではもはやセーフティーリード。豪脚を繰り出したタニノギムレットも時すでに遅し、3着までがやっとだった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
勝ちタイムはなんと、ナリタブライアンの従来記録を0秒5も更新する1分58秒5の皐月賞レコード。15番人気の超伏兵ノーリーズンが史上稀に見る下剋上を成し遂げたのだった。
記録的な単勝万馬券
ノーリーズンの単勝は11,590円(115.9倍)の万馬券となり、これは皐月賞史上1位の単勝高額配当記録として今も残っている。
日本ダービー
3強を形成も
大波乱を演出した皐月賞のあとは二冠をかけて日本ダービーに臨む。
1番人気には前走のNHKマイルCから武豊騎手が鞍上に復帰したタニノギムレット、皐月賞馬ノーリーズンは2番人気、青葉賞を快勝してきたシンボリクリスエスが3番人気で続き、この3頭による3強ムードとなっていた。なおノーリーズンとともに皐月賞で大仕事をやってのけたB.ドイル騎手が私的なトラブルにより帰国したため、蛯名正義騎手へと乗り替わりで二冠制覇に挑んだ。
注目の3強対決の結果は、1着タニノギムレット、2着シンボリクリスエスが優勝争いを演じた一方でノーリーズンは8着。今度は3強の一角として人気を裏切る形となってしまったが、レース後に軽度の骨折が判明した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
2月に負った大怪我からカムバックした武豊騎手が、皐月賞、NHKマイルカップともに3着と涙をのんだタニノギムレットを見事ダービー馬に導いた。
菊花賞へ向けて
夏場を療養にあてて順調に回復したノーリーズンは、G2神戸新聞杯で秋緒戦を迎える。菊花賞へ向けて大事な一戦、鞍上にはこぶし賞以来となる武豊騎手の姿が。タニノギムレットが怪我で戦線離脱したため、かつてのパートナーが戻ってきたのだ。
ここをステップに天皇賞・秋へ向かうシンボリクリスエスに2馬身半差をつけられ完敗したものの、3着以下を離しての2着。後方から上がり最速で追い込んだ脚は、皐月賞馬復活をアピールする狼煙として十分だった。
波乱の菊花賞
スタート直後のアクシデント
ダービー馬も前哨戦で完敗を喫した相手も不在。となれば、菊花賞の主役を務めるのは皐月賞をレコードで勝ったノーリーズンしかいない。単勝オッズ2.5倍はデビュー以来初めて背負う一番人気。頼もしい鞍上とともに二冠制覇に挑む。
競馬史に残る大アクシデントは、スタート直後に起こった。ゲートが開いて各馬が飛び出したその瞬間、ノーリーズンが躓いて体勢を崩して武豊騎手が落馬。ノーリーズン落馬を伝える実況のアナウンスに騒然となる京都競馬場。全国のウインズや家庭のテレビ前でも悲鳴が上がったに違いない。着地した名手はしばらく手綱を離さず慌てて再び騎乗しようと試みたものの、さすがに走り始めた皐月賞馬に飛び乗ることは諦めて手綱を離した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
終始騒然とした中で続行された菊花賞を制したのが10番人気のヒシミラクル、2着に16番人気のファストタテヤマが突っ込んで大荒れとなったレース結果も重なり、伝説的な菊花賞として記憶されることとなった。
菊花賞以降
菊花賞での競走中止が影響したかどうか分からないが、これ以降のレースではジャパンカップ8着、有馬記念6着と今ひとつ精彩を欠いて勝ち星をあげることはできなかった。
翌年、4歳時は皐月賞馬としての輝きを取り戻すことが期待されたが、天皇賞・春を目指す半ばで屈腱炎を発症。長期休養を経て5歳の秋に一度は復帰したものの、屈腱炎を再発して引退が決まった。
引退後
種牡馬として
皐月賞後の成績が思わしくなかったこともあり、種牡馬としてあまり恵まれなかったと言える。数少ない産駒からは、地方競馬の南関東のダート重賞戦線で活躍したキスミープリンスのほかに目立った活躍馬は出てこずわずか5年で種牡馬を引退。功労馬として福島県南相馬市で余生を過ごすこととなった。
ノーリーズンの物語は終わらない
南相馬市で転機
南相馬市の乗馬施設で余生を過ごしていたノーリーズンは、2011年3月に起こった東日本大震災に見舞われ乗馬センターからの一時避難や移動を繰り返すなど苦難を経験した。
やがて南相馬市の伝統行事である相馬野馬追(そうまのまおい)に参加するようになると、さすがにG1馬としての知名度を発揮して話題を集めることに。
相馬野馬追とは
1000年続く伝統行事
ここで、筆者もあまり詳しく知らない相馬野馬追とはどんなものか、公式サイトから引用させていただきながら紹介していく。
※以下引用
歴史
甲冑に身をかためた約400騎の騎馬武者が、腰に太刀、背に旗指物をつけて野原を疾走する、力強く勇壮な様は時代絵巻さながら。伝説によれば、相馬野馬追は今から一千年以上もの昔、相馬氏の遠祖とされる平将門が下総国小金ヶ原(現在の千葉県北西部)に放した野馬を敵兵に見立てて軍事演習に応用したことにはじまったと伝えられています。そして捕らえた馬を神馬として、氏神である妙見に奉納したのです。概要
相馬野馬追は、福島県の相馬地方で3日間にわたって行われる祭典で、国の重要無形民俗文化財に指定されています。 約400騎の騎馬武者が甲冑をまとい、太刀を帯し、先祖伝来の旗指物を風になびかせながらの威風堂々にして豪華絢爛な時代絵巻を繰り広げる様子は、まさに天下無比。見どころ
相馬野馬追のハイライトは2日目。400騎あまりの騎馬武者が、神輿を擁し市中を進軍する「お行列」。 土ぼこりが舞う中を、人馬が一体になって駆け抜ける「甲冑競馬」。 舞い降りる御神旗を数百の騎馬武者が奪いあう「神旗争奪戦」。 騎馬武者の勇猛果敢な戦国絵巻が甦ります。引用元:相馬野馬追 公式サイト
ノーリーズンは神旗争奪戦などに参加
400騎もの騎馬武者に混じってこの伝統行事に参加したノーリーズン。ウマ娘のノーリーズンが戦国武将のようなキャラクターである由来であろうし、行事のひとつである「神旗争奪戦」は、まさにウマ娘のイベントストーリーで描かれた「チャンバラ陣取り合戦」のモチーフになっているのだろう。
現役時代は、15番人気でレコード勝ちした皐月賞、110億円を一瞬で紙くずにしたと言われる伝説の菊花賞で記録にも記憶にも残る競走馬生を送り、引退後には1000年続く伝統行事を世に広めるのにひと役買った。そしてウマ娘に姿を変えてこれからもトレーナーとともに歩んでいくノーリーズン。波乱万丈の馬生を全うした異才の名馬よ安らかに。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ノーリーズン。
史実のノーリーズン
基本情報 | 1999年6月4日生 牡 鹿毛 |
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血統 | 父 ブライアンズタイム 母 アンブロジン(父 Mr. Prospector) |
馬主 | 前田晋二 |
調教師 | 池江泰郎(栗東) |
生産牧場 | ノースヒルズマネジメント(北海道新冠町) |
通算成績 | 12戦3勝 |
主な勝ち鞍 | 02’皐月賞 |
生涯獲得賞金 | 1億8,601万円 |
エピソード 南相馬市の顔に
抜群の知名度と人気を誇っていたノーリーズンは、南相馬市の魅力を発信する市の会報誌「ミナミソウマガジン」の創刊号(平成31年発行)でなんと表紙を飾った。
その後もミナミソウマガジンの表紙には元競走馬が多く採用され、中身についても馬との関わりを大切にしていることが伺える内容となっている。現在もバックナンバーを含めてWEB版を閲覧することができるため、興味のある方は検索してみてはいかがだろうか。
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