競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第85回。今回は史上初の牝馬三冠を達成したメジロの至宝「メジロラモーヌ」について熱く語ります。
目次
JRA史上初の牝馬三冠
完璧なタイミングで実装
先日、JRA史上七頭目となる牝馬三冠をドゥラメンテの仔であるリバティアイランドが達成した。そしてそれを見越していたかのようなタイミングで育成ウマ娘実装となったのが、史上初の牝馬三冠を達成したメジロラモーヌである。
今回は、唯一無二の完全三冠牝馬・メジロラモーヌの史実を追っていく。
完全三冠
唯一無二の記録
牝馬三冠を達成したのはメジロラモーヌから直近のリバティアイランドまでで全7頭(2023年現在)。いずれも歴史に名を刻んだ名馬に違いないが、それでもメジロラモーヌが唯一無二と言えるのには理由がある。
理由その1:旧・牝馬三冠レース
牝馬三冠の最後の1冠がエリザベス女王杯(75年までのビクトリアカップ時代を含む)だった頃に三冠を達成したのはメジロラモーヌただ一頭である。
当時のエリザベス女王杯は京都の芝2400mで行われていた3歳牝馬限定戦。メジロラモーヌ以前も以降も、この条件で牝馬三冠を達成する馬はついに現れなかった。
理由その2:完全三冠
メジロラモーヌは、牝馬三冠の桜花賞、オークス、エリザベス女王杯に加え、それぞれのトライアルレースもすべて勝っている。この偉業は当時、完全三冠と称された。
調教施設や調整方法が進化した現在においては、たとえ休養明けだとしても目標のG1レースに直行することも珍しくなくなったため、この先もメジロラモーヌの完全三冠に並ぶ馬が出現する可能性は限りなく低いと言える。
デビュー前
生まれと血統
メジロラモーヌは父モガミ、母メジロヒリュウという血統。母メジロヒリュウは、メジロ牧場の基礎繁殖牝馬の一頭であるアマゾンウォリアーを母に持つ良血で、自身も6勝をあげた活躍馬。メジロラモーヌ、弟のメジロアルダンを産み、繁殖牝馬として多大な功績を残した。
父モガミはメジロ牧場の北野豊吉氏とシンボリ牧場の和田共弘氏が共同所有していた競走馬。現役時代はフランスで走り、さほど目立った成績をあげなかったものの日本で種牡馬となってから成功。初年度産駒のシリウスシンボリがいきなりダービーを制し、その翌年にメジロラモーヌが牝馬三冠を達成したのだから、当初の期待を大きく上回る大成功だったと言えよう。
幼少期はそれほど期待されず
幼少期は飛節(後脚の関節の一部)に難を抱えていたこともあって、ほとんど期待されていなかったというから分からないものだ。歴史的名馬にまつわるこの手の逸話は珍しくなく、かの大種牡馬サンデーサイレンス(現役時代は米二冠馬)も幼少期は見栄えのしない馬で買い手がつかなかったというのは有名な話である。
ようやく美浦の奥平真治厩舎に委託先が決まると、「メジロラモーヌ」と命名される。ラモーヌとは、フランスとイタリアにまたがる名峰モンブラン山系にある尖った峰の名前「Aiguille de l'Amone」から取られた。
メジロラモーヌの成長を妨げていた飛節の状態も徐々に改善していき、デビューを控える2歳の秋頃には見違えるほど馬体のバランスも走りも良化した。
2歳時
圧巻のメイクデビュー
10月の東京競馬場芝1400m新馬戦でデビューが決まると、直前の追い切りで抜群の動きを披露したメジロラモーヌの前評判は瞬く間に高まった。デビュー戦から単勝オッズ1倍台という支持を得たメジロラモーヌは、芝からダートに変更になったことなど関係ないという圧巻の走りを見せる。
スタートからスピードの違いで先手を取ると、2番手以下をまったく寄せ付けず後続に3秒以上もの差をつけて大差の圧勝。華々しくデビューを飾った。
初黒星
2戦目の京成杯3歳ステークス(東京芝1400m)では一転。内に秘めた激しい気性にスイッチが入って終始かかり気味のレースとなってしまい自滅。5頭立ての4着に終わった。
連勝で重賞制覇
立て直して臨んだ1勝クラスの寒菊賞(中山芝1600m)を順当に勝ち上がると、暮れの中山開催で行われた牝馬限定のG3・テレビ東京賞3歳牝馬(中山芝1600m)に出走。
クラシックを睨む素質馬が揃った一戦だったが、直線で良血ダイナフェアリー(のちに重賞5勝をあげた活躍馬)を競り落として快勝。当時としては破格の好タイムでの勝利だったこともあり、年明けには優駿賞最優秀3歳牝馬(現・JRA賞最優秀2歳牝馬に相当)に選出された。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
3歳時
気性の激しさ再び
年が明けてクラシックに向けた大事な3歳の初戦、G3クイーンカップ(東京芝1600m)に出走したメジロラモーヌは再び気難しさを覗かせる。
パドックから終始イレ込んでいたメジロラモーヌは、レースでは先行策から悪くない手応えで最終コーナーを回ったものの末脚不発のまま4着でゴール。1.2倍の人気を裏切るクラシックシーズンの幕開けとなった。
完全三冠への歩み
桜花賞トライアル
牝馬クラシックの一冠目・桜花賞へ向けてトライアルの報知杯4歳牝馬特別に出走。このレースから前年のリーディングジョッキー河内洋騎手に乗り替わりとなったが、これはもともと予定通りの乗り替わりであったという。のちに「牝馬の河内」として名を馳せた名手との出会いは必然だった。
レースでは、中団を追走していたところ先行勢から下がってきた馬のあおりを受けて後方までポジションを下げる大きな不利を被ったものの、これを見事に跳ね返す直線一気で勝利をもぎ取った。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
この鮮やかなトライアル快勝によって、再びクラシック戦線の中心となったメジロラモーヌが、いよいよ桜花賞へと歩みを進める。
桜花賞
まずは一冠
迎えた桜花賞。単勝オッズ1.6倍の圧倒的人気を背負ったメジロラモーヌ。2番人気のダイナフェアリーとはここまで2度対戦していずれもメジロラモーヌが勝っていた。
22頭立ての多頭数、13番枠からスタートすると、中団の外目に折り合いをつける。パドックから多少イレ込み気味だったため不安は折り合い面と思われたが、鞍上の河内騎手と息のあった走りを見せる。
3コーナー手前から早めに進出を開始したメジロラモーヌは、直線入り口では早々と3番手につけて前を射程圏に捉える。あとは馬場の外目を気持ちよく伸びて抜け出すと、セーフティリードを保ってゴールを駆け抜けた。盤石のレース内容でまずは一冠を制した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
桜花賞男の初制覇
なお、引退までに桜花賞で通算4勝をあげて「桜花賞男」と呼ばれた河内洋騎手にとって、これが同レース初制覇であった。
異例の参戦
オークストライアル
通常、桜花賞を勝った馬は二冠目のオークスには直行することが多い。レース間隔の点でも、出走権の点でも出走する理由があまりないためだが、メジロラモーヌはトライアルのサンスポ4歳牝馬特別(東京芝1800m)に出走。これまでに喫した2敗が、ともに東京コースだったことが出走した理由として挙げられる。
そして相手には桜花賞2着のマヤノジョウオもおり桜花賞の1,2着馬が揃って出走する注目のレースとなった。
中団で脚をためて直線で外に持ち出したメジロラモーヌが荒れ気味の馬場を苦にもせず力強く抜け出し、ここまで未対戦だった素質馬ダイナアクトレスに1馬身半差をつけて快勝。不安要素だった東京コース、距離などを本番前にクリアしてみせた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
オークス
余裕の二冠
牝馬クラシック二冠目のオークス。トライアルで不安を払拭したメジロラモーヌに負ける要素はほとんど見当たらなかった。
強いて懸念材料をあげるとすれば22頭立ての多頭数による不利や展開の紛れくらいか。スタートを無難に決めて中団馬群の中で折り合うと、そんな懸念もなくなった。
そして、河内騎手に導かれてスムーズにレースを運んだメジロラモーヌは抜群の手応えで府中の長い直線に差し掛かる。荒れた内側を避けるように大きく横に広がった馬群の真ん中から、黒い流線型と化したメジロラモーヌが堂々と抜け出す。
最後は2着馬に2馬身半の差をつけ、先頭でゴールを駆け抜けた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
メジロラモーヌが桜花賞よりもさらに完勝と言える強い内容でいとも軽々と二冠を達成したのだった。
夏負けで状態不安
オークス後は故郷のメジロ牧場での休養に入ったが、夏負けや脚部不安を発症して完調とは程遠い状態で美浦に帰厩。不安の残る状態で秋競馬の開幕を迎えることとなってしまった。
秋、三冠へ
エリザベス女王杯トライアル
調整が遅れ体調が思うように良化しないメジロラモーヌだったが、牝馬三冠へ向けてトライアルから始動する。三冠達成は己との戦いとなった。
当初、エリザベス女王杯へのステップとして中山のクイーンステークスを目指していたが、状態面を考慮してG2ローズステークス(京都芝2000m)へ回った。
春の好調時と比べると自慢の青鹿毛の毛ヅヤも物足りなく映る中、出るからには負けられない立場のメジロラモーヌ。レースでは5,6番手から抜け出しを図るもののいつもの切れ味はない。先に抜け出していたポットテスコレディをどうにかクビ差だけ交わしたところがゴールだった。
それでも3着以下には3馬身の差をつけて力を示しており、この一戦でさらに体調が上向くことが期待された。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
エリザベス女王杯
史上初の牝馬三冠へ
ここまで二冠のメジロラモーヌが、いよいよ前人未到の牝馬三冠をかけてエリザベス女王杯に挑む。状態は万全とまでは戻っていないが、ファンは単勝オッズ1.3倍という破格の支持で偉業達成に期待をかけた。
スタートを決めて5番手の好位につけたメジロラモーヌと河内騎手。ピタリと折り合いをつけて追走していく。3,4コーナー中間地点から坂の下りで徐々に加速していくと、最終コーナーで早くも先頭に並びかける。ゆっくり下りるのが定石とされた京都の下り坂での仕掛けである。
直線入り口で先頭に躍り出たメジロラモーヌは、抜け出して1馬身、2馬身と差を広げていく。しかしオークスほどの余裕はなく、一度は完全に突き放したスーパーショットに詰め寄られる。そして、馬体が重なり半馬身差まで迫ったところでゴール。メジロラモーヌがリードを守り切って三冠を達成した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
史上初の牝馬三冠を達成
メジロラモーヌ以前に桜花賞、オークスの春二冠を達成した馬の中には、史上最強牝馬との評価もある1975年のテスコガビーなども含まれていたが、だれも三冠には到達できなかった。(テスコガビーは怪我で不出走)
春の激戦を戦い抜いた若い牝馬が順調に夏を越して秋を迎えることの難しさに加えて、再び2400mのクラシックディスタンスで争うエリザベス女王杯の壁は高く、メジロラモーヌ以降も二度と現れないのである。先述の通り、トライアルを含めたローテーションを全勝で戦い抜く「完全三冠」なんていう馬が現れることはまずないだろう。
有馬記念
最強をかけて
同世代の牝馬同士の戦いを完全に制したメジロラモーヌ。次なる舞台は、牡馬、そして古馬との最強をかけた戦いである。だが、最強を証明するチャンスはわずか1レースに限られた。
メジロラモーヌは当年の有馬記念をもって引退することがすでに発表されていた。競走馬としての使命を十分に果たし、今後はメジロ牧場で自身の血を継いだ仔を残していくことが最も大切な役割となったのだろう。
ラストランとなった有馬記念では、前年のクラシック二冠馬ミホシンザンや、天皇賞馬サクラユタカオー、同世代のダービー馬ダイナガリバーなど錚々たるメンバーの中で2番人気に支持された。引退レースを前に本来の調子を取り戻して体調は万全。暮れの中山のパドックで青鹿毛が輝いていた。
結論としては、メジロラモーヌの有馬記念は残念ながら不完全燃焼で終わってしまったと言える。中団馬群の中を追走していたメジロラモーヌは、最後の直線に入り加速して馬群の中から抜け出しを図ろうというところで進路が詰まってしまい、本来の力を発揮することができず9着でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
牡馬との対決?続きはウマ娘で
引退
有馬記念を勝った同世代のダービー馬ダイナガリバーがこの年の年度代表馬に選出され、メジロラモーヌは予定通り故郷のメジロ牧場で無事に繁殖入りした。
この三冠牝馬は、けっきょく牡馬や古馬に対してどこまで通用したのか?という競馬ファンが気になってしまう謎を残したまま引退したため、けっこう長いこと議論の対象になったりしてきたものだ。
史実では見ることができなかったメジロラモーヌの三冠ロードの続きは、ウマ娘がまた見せてくれる。さあ、牝馬三冠をとって凱旋門賞へ行こう。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、メジロラモーヌ。
史実のメジロラモーヌ
基本情報 | 1983年4月9日生 牝 青鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 モガミ 母 メジロヒリュウ(父ネヴァービート) |
馬主 | (有)メジロ牧場 |
調教師 | 奥平真治(美浦) |
生産牧場 | メジロ牧場(北海道伊達市) |
通算成績 | 12戦9勝 |
主な勝ち鞍 | 86’桜花賞、オークス、エリザベス女王杯 |
生涯獲得賞金 | 3億1192万円 |
エピソード①:繁殖牝馬として
引退後は、故郷のメジロ牧場で繁殖入りしたメジロラモーヌ。まずはメジロ牧場の結晶とも言える配合、メジロティターンと種付けされた。初年度は不受胎、二年目の産駒が待望の初仔として誕生した。メジロリュウモンと名付けられた牡馬は、残念ながら振るわず9戦0勝という成績に終わった。
その後も、シンボリルドルフとの三冠馬同士の夢の配合や、サンデーサイレンスなど時代を代表する種牡馬と種付けされたものの、体質の弱い仔も多く繁殖生活は順風満帆とはいかなかった。
けっきょく直仔から期待されたような活躍馬は出なかったが、メジロラモーヌを3代母(曾祖母)に持つグローリーヴェイズ(父ディープインパクト、母メジロツボネ)が香港ヴァーズ(G1)を勝つなど、偉大な三冠牝馬の血脈は今なお受け継がれ続けている。
エピソード②:ウマ娘に登場する三冠牝馬たち
牝馬三冠を達成した7頭のうち、メジロラモーヌの他にウマ娘に登場している馬について触れておこう。まずは現役中にウマ娘化が発表されて話題となったデアリングタクト。
デアリングタクトは史上初めて無敗で牝馬三冠を達成した後、大きな怪我に悩まされながらも不屈の走りで復活を目指して現役を続けたファンの多い馬。無事に引退・繁殖入りが発表された際には、惜しむ声と安堵の声が多く聞かれたことが彼女の人気を物語っている。
今後、デアリングタクトの波乱万丈の史実がウマ娘でどのように描かれるか楽しみに待ちたい。
そして、アニメウマ娘プリティーダービーseason3の第3話で突然ゴールドシップに名前を呼ばれてトレーナーを驚かせたのが、ジェンティルドンナである。
まだ今後どのような形でウマ娘に登場するのか謎に包まれているが、一緒に実名が使われた三冠馬オルフェーヴルともども続報が待たれるところだ。それにしても、アニメ3期の放送では第1話のドゥラメンテ登場から相次ぐ大物のサプライズ参戦。今後もアニメウマ娘から目が離せない。
エピソード③:魔性の青鹿毛
妖艶なメジロラモーヌの魅力を存分に表現している固有演出。
この演出にはある実際のCM映像のオマージュが込められていると思われる。それが、2012年のJRA公式CM「The WINNER 桜花賞 メジロラモーヌ」。
「86年桜花賞。その美しき黒い流線型に、嫉妬すら追いつかない。憧れすら届かない。その馬が史上初の三冠牝馬になることをまだ誰も知らなかった。魔性の青鹿毛。その馬の名は、メジロラモーヌ。」
2012年のJRA年間プロモーションとして展開された「The WINNER」シリーズからは、ライスシャワーの固有演出なども明確に影響を受けていることがファンの間では知られている。
このシリーズ、メジロラモーヌやライスシャワー以外にも印象的なものが多く、歴代のJRA公式CMの中でも評価が高いものだ。興味がある方は、是非Youtubeなどで検索して視聴してみてほしい。
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