競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第67回。今回は、世界に勝負を挑んだ「ナカヤマフェスタ」について熱く語ります。
凱旋門賞2着
日本馬初まであと一歩
凱旋門賞。今年のリアル競馬でも日本馬の挑戦で大変話題になったヨーロッパ最高峰のレースである。日本からの挑戦を幾度となく跳ね返してきた難関レースだが、凱旋門賞制覇まであと一歩と迫った馬も過去に何頭かいる。今回は、日本馬の過去最高着順である2着を記録した一頭、ナカヤマフェスタの史実を追っていく。
血統と仔馬時代
個性派の血筋
ナカヤマフェスタの父ステイゴールドは、ウマ娘でもおなじみゴールドシップの父としても有名で、ほかにも三冠馬オルフェーヴルなど唯一無二の個性と実力を兼ね備えた名馬を多く排出した。
自身も現役時代から非常にファンの多い個性派だったステイゴールド。なかなかG1タイトルに手が届かないもどかしいシルバーコレクターから、ついに海外で初G1制覇を成し遂げるなど意外性と海外向きのタフさを備えていた。
セレクトセールでの出会い
ステイゴールドの4世代目にあたる2006年産まれのナカヤマフェスタは、セレクトセールで1000万円で落札された。美浦の二ノ宮敬調教師の推薦により、「ナカヤマ」の冠名の馬主・和泉信一氏が購入。娘の信子氏の所有馬となった。
2歳時
メイクデビュー
二ノ宮敬厩舎に入厩したナカヤマフェスタは、11月の東京競馬場でデビューを迎える。芝1600m新馬戦、3番人気で出走したナカヤマフェスタは中団からしぶとく脚を伸ばして勝利。上位入線馬が降着するなどゴチャつく場面もあったが、巻き込まれなかった勝負運も発揮してデビュー勝ちを収めた。
重賞制覇
2戦目はG3東京スポーツ杯2歳ステークス(芝1800m)。デビュー戦で手綱を取った内田博幸騎手から蛯名正義騎手に乗り代わり、9番人気の低評価ながら好位から抜け出して1番人気のブレイクランアウトを抑え込んで先頭でゴール。無傷の2連勝で重賞初制覇を成し遂げた。
出世レースらしく下した相手のレベルも高かった。2着ブレイクランアウトは朝日杯3着、共同通信杯勝ちなどの活躍。3着サンカルロも重賞4勝、G1高松宮記念でも2着など短距離路線で長く活躍した。
3歳時
クラシックへ向けて
2歳G1には出走せず、年明け1月のG3京成杯で3歳シーズンの初戦を迎える。中山競馬場の芝2000mといえば皐月賞と同じ舞台だ。
前走とはうってかわって1番人気に支持されたが、他馬の落馬の影響を受けてしまったことも響いて惜しくもクビ差の2着に敗れて3連勝とはならなかった。
皐月賞
京成杯のあとはクラシック一冠目の皐月賞へ直行。その皐月賞では6番人気とダークホースと見られていたが、初めて経験する早い流れも影響したか直線で伸びずに8着に終わり、はじめて掲示板をはずす完敗を喫した。
日本ダービー
降り続く雨によって不良馬場となったダービー当日の東京競馬場。ナカヤマフェスタは皐月賞での大敗で大幅に人気を下げて9番人気。皐月賞馬アンライバルドが抜けた1番人気、その皐月賞で1番人気を裏切って大敗したロジユニヴァースが離れた2番人気で続いた。
スタートすると、ナカヤマフェスタと蛯名騎手は最後方付近までポジションを下げる。道悪の不良馬場はほとんどの馬が初経験で未知数だった。後方で折り合いがついて脚を溜めて最後の直線へ向くと、2,3番手でレースを進めたリーチザクラウンとロジユニヴァースら先行勢の争いとなる。
ロジユニヴァースがインから抜け出すと、粘るリーチザクラウンら後続を突き放す。不良馬場で伸びを欠く中、2着争いも前の馬で決まりそうという状況で大外から一頭伸びてきたのが、ナカヤマフェスタだった。不良馬場の中を力強く伸びたナカヤマフェスタは、絶望的な位置からあわや2着に届くかというところまで追い込んで4着でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
皐月賞9着から巻き返して、底力のあるところを示した結果だった。
菊花賞に向けて
ダービー後は夏場を休養に当てて秋に備える。秋初戦は菊花賞トライアルのG2セントライト記念から始動。ナカヤマフェスタは中団から徐々に進出し、直線できっちりと前を捉えて差し切り勝ち。東スポ杯以来となる3勝目を挙げた。
菊花賞
本番の菊花賞に向けて順調なスタートをきったかに思われたナカヤマフェスタだったが、元来からの激しい気性が調教にも支障を来すようになっており、セントライト記念後は思うような調教メニューをこなすことが難しくなっていた。
気難しさはステイゴールド産駒の特徴だったが、ナカヤマフェスタもしっかりと受け継いでいた。
順調さを欠いた臨戦過程が響いたか、菊花賞では中団のまま伸びず12着と馬群に沈んだ。不本意なレース内容に終わり、結局クラシック三冠レースには手が届かなかった。
連敗
菊花賞後は巻き返しを図ったG3中日新聞杯でもいいところなく13着と惨敗。課題を抱えたまま3歳シーズンを終えた。
4歳時
休養を経て
年が明けて4歳を迎えたナカヤマフェスタ陣営は、気性難の改善を図る意味もあり、復帰を焦らずじっくりと調整を続けた。その甲斐あって順調に調教もこなせるようになり、4月のオープン戦メトロポリタンステークスで復帰が決まる。
快勝で復活
メトロポリタンステークスが行われるのは東京競馬場の芝2400m。ダービーと同じ舞台で5ヶ月半ぶりのレースに臨んだナカヤマフェスタは、乗り替わりで騎乗した柴田善臣騎手との折り合いも問題なく、先行抜け出しの安定したレースぶりで快勝。4勝目を挙げた。
宝塚記念
人気薄を覆して
オープン特別で復活の狼煙をあげたナカヤマフェスタは春のグランプリ・宝塚記念に出走。これまで重賞2勝の実績はあるものの、G1での好走は不良馬場のダービー4着が最高着順。前走オープン特別で久々の勝利を挙げたばかりのナカヤマフェスタは穴馬の一頭という存在でしかなかった。
1番人気は同期の牝馬ブエナビスタ。この時点ですでに4つのG1タイトルを手にし、現役最強の女傑だった。ほかにも前年の春秋グランプリ覇者のドリームジャーニーや天皇賞馬ジャガーメイル、重賞連勝中のアーネストリーなど強豪が揃った。
馬場は稍重。ナカヤマフェスタと柴田善臣騎手は8枠17番から中団の外につける。3コーナーから4コーナーにかけて外を周って進出を開始すると、抜群の手応えで最後の直線へ。
先に先頭に立ったアーネストリーに、インから抜け出そうとするブエナビスタ、そこへ外から迫ったナカヤマフェスタが一気に交わした。そのままブエナビスタに半馬身差をつけて先頭でゴール。並み居る強豪を退けてナカヤマフェスタが春のグランプリ宝塚記念を制しG1馬の仲間入りを果たした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
凱旋門賞挑戦へ
そして、G1馬となったばかりのナカヤマフェスタ陣営から、凱旋門賞への挑戦プランが表明された。
チームすみれの花
馬主の交代
実は前年の暮れに、大病を患っていた馬主の和泉信子氏が亡くなり、実父の信一氏が馬主を引き継いでいた。そして、かねてより陣営で話の出ていた海外遠征、凱旋門賞への挑戦プランが始動する。
二ノ宮調教師といえば、かつてエルコンドルパサーで凱旋門賞に挑戦して2着。異例の現地長期滞在でエルコンドルパサーのフランス遠征を成功させた経験の持ち主だ。その師が、ナカヤマフェスタの海外遠征を進言したのは3歳の春、ダービーの頃だったという。海外で花開いたステイゴールドの仔ということや、不良馬場を苦にせず追い込んだダービーでのパワフルな走りもその見立てを後押ししたのだろう。
宝塚記念の勝ち負けとは関係なく、すでに凱旋門賞の1次登録を済ませていた。そして宝塚記念の勝利によって遠征が決まったのだ。
エルコンドルパサーとのコンビで凱旋門賞2着の実績がある蛯名正義騎手も加わり、ナカヤマフェスタの凱旋門賞挑戦チームは、前馬主の信子氏が好きだった宝塚歌劇団にちなんで「チームすみれの花」と名付けられた。
※宝塚歌劇団を象徴する歌として有名な「すみれの花咲く頃」から
凱旋門賞に向けて
フォワ賞
秋、凱旋門賞挑戦に向けてフランスへ渡ったチームすみれの花。かつてエルコンドルパサーが歩んだステップと同じく前哨戦のフォワ賞から凱旋門賞というローテーションが組まれた。
フランス初戦のG2フォワ賞。6頭立ての少頭数のレースで僅差の2着となる。積極的に前につけて最後までバテずにしぶとく伸びたレースぶりからは、確かな適性を感じさせるレース内容だった。
凱旋門賞
人気に反する激走
迎えた本番の凱旋門賞。日本から参戦したナカヤマフェスタともう一頭、3歳馬のヴィクトワールピサはともに二桁人気と戦前の評価は低い。雨で重馬場まで悪化したため、ただでさえ重いロンシャンの芝はさらに力のいる馬場となっており、日本馬がそれをこなせるかは未知数だった。
ゲートが開くと、ナカヤマフェスタと蛯名騎手は中団の外目につける。トリッキーな形状で有名なロンシャンの最終コーナー、ナカヤマフェスタは他馬とのコース取りの際に何度も窮屈になり蛯名騎手が立ち上がるような場面も見られた。
しかし直線に入るとパワーのいる馬場をものともせずに先頭に躍り出る。英ダービー馬のワークフォースと併せ馬となり、一旦は前に出たものの相手も食い下がり熾烈な追い比べとなった。最後は、交わされたナカヤマフェスタが再び差し返す根性を見せて差を詰めたところでゴール。
わずか、アタマ差及ばずの2着となった。
エルコンドルパサーの2着以来、着差ではそれ以上に、日本馬による凱旋門賞制覇にもっとも近づいた瞬間だった。
後方から追い込んで7着だったヴィクトワールピサとともに、挑戦を終えたナカヤマフェスタは帰国の途についた。
帰国後
帰国後はジャパンカップで14着と大敗を喫したものの、宝塚記念制覇と凱旋門賞2着が評価されてJRA賞最優秀4歳以上牡馬に選出された。
5歳時
2年連続で凱旋門賞へ
ジャパンカップ後はさすがに疲労が見られ、有馬記念を回避して休養に入る。5歳になったナカヤマフェスタは、春シーズンを全休したのちに再び凱旋門賞挑戦プランが発表された。
前年と同じフォワ賞から凱旋門賞のローテーションで挑んだが、フォワ賞4着(4頭立て)凱旋門賞11着と前年以上の結果を出すことはできなかった。
引退
2度めの凱旋門賞を最後に現役引退、種牡馬入りが発表された。
日本とフランスを通じて15戦5勝。2着、3着の多かった父とは違って、負けるときは大きく負けることも多かったナカヤマフェスタ。そのため人気も安定せず1番人気は3歳時の京成杯1度きりだった。
人気のない大舞台で秘められた本当の力を発揮し、並み居る強豪を撃破した宝塚記念制覇を経て世界の頂にあと一歩というところまで上り詰めた。その意外性と爆発力は特筆すべきもので、いまだに掴みどころのない不思議な魅力を持つ名馬である。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ナカヤマフェスタ。
史実のナカヤマフェスタ
基本情報 | 2006年4月5日生 牡馬 鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 ステイゴールド 母 ディアウィンク(父タイトスポット) |
馬主 | 和泉信子→和泉信一 |
調教師 | 二ノ宮敬宇(美浦) |
生産者 | 新井牧場(北海道むかわ町) |
通算成績 | 15戦5勝(JRA11戦5勝、海外4戦0勝) |
主な勝ち鞍 | 10’宝塚記念、10’凱旋門賞(2着) |
生涯獲得賞金 | 4億1979万円(国内2億9324万円、仏1億2655万円) |
エピソード①種牡馬として
ステイゴールドの後継種牡馬の一頭として期待され、初年度から100頭を超える多くの繁殖牝馬を集めたナカヤマフェスタ。なかなか産駒の成績が上がらず種牡馬として5年が過ぎたころにシンジケートが解散。
ところがこのまま終わらないのがナカヤマフェスタという馬である。初年度産駒のガンコが5歳の春に本格化を迎え、G2日経賞を勝って産駒の重賞初勝利を記録した。
その後も現5歳のバビットが3歳時にG3ラジオNIKKEI賞で重賞制覇を果たし、G2セントライト記念で父仔同一重賞制覇を達成。
ギリギリのタイミングで活躍しだした産駒たちの活躍によって、再び種牡馬に復帰したナカヤマフェスタは現在もヒリつく勝負の世界に産駒を送り出している。
今週の一枚
今回は撮影機能からの一枚ではなくサポカ絵を挙げてみた。
この闘志を燃やすようなナカヤマフェスタのイラストがかっこよくて好きだ。因みにこのミニスカートにスカジャンバージョンの衣装がどこかでまた見られる日がくることを願っている。
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