競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第99回。今回は新潟千直をレコードで駆け抜けた短距離王、カルストンライトオについて熱く語ります。
稀代の韋駄天
超個性派ウマ娘は直線大好き
今回は、新潟1000m(通称・千直)コースのレコードホルダーで稀代の韋駄天として知られ、育成ウマ娘として実装されるやいなや瞬く間に人気者になったカルストンライトオを取り上げる。黒髪ストレートの正統派クール系を思わせるビジュアルからは想像もできなかった超個性派ウマ娘、カルストンライトオの史実を追っていく。
幼少期
血統
カルストンライトオは父ウォーニング、母オオシマルチア(父クリスタルグリッターズ)という血統。マイナーなゴドルフィンバルブ(またはゴドルフィンアラビアン)を始祖とする父は、現役時代は英国で走りマイルのG1を2勝。種牡馬としても日欧でG1馬を出し、その貴重な血脈を繋ぐことに成功した。
産駒にはスピード豊かな短距離馬が多く、日本ではカルストンライトオとともに同時期に短距離路線で活躍したサニングデールなど立て続けに活躍馬を輩出。しかし、ウォーニング自身は残念ながら2000年に急逝しており、それは彼らが短距離戦線で躍動する少し前のことであった。
2歳時
馬名の由来
冠名のカルストン+ライト(光)+王でカルストンライトオと名付けられた。オーと伸びない理由は、JRAの馬名はカタカナ9文字以内という制限があるためである。
98年生まれのカルストンライトオの同期にはアグネスタキオンがおり、ともに『光』に関連する馬名(タキオン=光速を超える速さの仮想粒子)を持つ関係からかウマ娘の育成シナリオでもたびたびタキオンが登場する。
どうやらウマ娘の世界では、光の速さを追い求めると常人ではいられなくなるようだ。
メイクデビュー
カルストンライトオは、11月の京都競馬場・芝1200mでデビュー。天性のスピードでハナに立つとそのまま後続を寄せ付けず4馬身差の大楽勝。見事デビュー戦を勝利で飾った。
連勝
続いて同じ舞台で行われる1勝クラスのかえで賞に出走。新馬戦と同様にスタート直後から先頭を譲らず6馬身差の逃げ切りV。ここでもスピードの違いを見せつけた。
距離延長でG1挑戦も
1200mの距離で2戦2勝としたカルストンライトオは、G1朝日杯3歳ステークス(現朝日杯フューチュリティステークス)に出走。1600mへの距離延長に対応できるかが疑問視されたため8番人気の低評価。結果は逃げて早々に失速してしまい10着に沈んだ。
3歳時
1400mで連敗
3歳シーズンの初戦、京都ダート1400mのオープン特別・バイオレットステークスに出走。初のダート戦は1番人気を裏切って10着に惨敗。ダートは生涯これきりとなった。
芝に戻りマーガレットステークス(阪神芝1400m)に出走すると、本来のスピードを発揮して逃げて粘り込みを図ったもののゴール直前で差されて2着。この馬にとって1400mでは最後のもう一踏ん張りがきかず1ハロン長いという印象を与えた。
京都で3勝目
続いてオープン特別の葵ステークス(現在はG3に昇格)に出走。京都の1200mはデビュー2連勝を飾った相性の良い舞台設定だ。
1番人気の支持を集めたカルストンライトオは、いつも通りスタートから加速していき先頭に立つと、そのまま最後まで譲ることなく先頭でゴールした。得意のコースで待望の3勝目を挙げた。
平坦コースが得意
その後、初重賞制覇を狙ったG3ファルコンステークス(中京芝1200m)では惜しくも差されて3着。右にもたれる癖があるカルストンライトオは、左回りはあまり上手ではなかった。
続く1600mの菩提樹ステークス4着を経て、小倉のオープン特別・北九州短距離ステークス(小倉芝1200m)を逃げ切って京都以外での初勝利を挙げた。これで通算4勝目とし、いずれも直線に坂のないコースでの勝利であった。
第1回アイビスサマーダッシュ
この年、リニューアルを迎えた新潟競馬場では直線1000mのコースが新設されていた。そしてのちに千直(せんちょく)の愛称で親しまれるこのコースで行われる唯一の重賞がアイビスサマーダッシュである。
その記念すべき第1回開催にスピード自慢が集まった。
ゴール板から1キロ先に見えるゲートが開くと、12頭が横一線に並ぶ。5枠の2頭、カルストンライトオとシンボリスウォードがレースを引っ張る。まだ同コースでの施行回数が少なかったこともあり、外ラチ沿いに集結することもなく各馬が真っ直ぐに最短距離を進む様子はさながら陸上の短距離走のようであった。
残り400mを切る。カルストンライトオとシンボリスウォードが併せ馬状態で互いに譲らぬ中、内からメジロダーリングが伸びてそのまま2頭を交わし突き抜けた。シンボリスウォード2着、わずかに遅れてカルストンライトオが3着でゴールした。
タイムは53.9秒。芝1000mのJRAレコードを記録して夏の新潟競馬場を大いに沸かせた。
勝ち星から遠ざかる
秋はG3セントウルステークス(阪神芝1200m)3着、福島民友カップ2着と勝ちきれず、必勝を期して臨んだ得意の京都1200m戦のアンドロメダステークスでも6着とリズムに乗れないまま1番人気で4連敗。暮れのCBC賞9着で3歳シーズンを締めくくり休養に入った。
4歳時
復帰
年が明けて古馬になると、約半年の休養を経て6月の中京で復帰戦を迎えるも初戦は13着と大敗。久々に苦手の左回りと条件も向かなかった。
ここでオープンクラスから格下げとなったが、福島のTUF杯(福島芝1200m)に出走しさすがに3勝クラスでは力が違うとばかりにスピードの違いを見せつけて一発回答。5勝目を挙げて再びオープン入りを果たした。
因みに後に名コンビとなる大西直宏騎手はこのレースがカルストンライトオへの初騎乗であった。
オープン入り後は2戦して7,3着。前年惜しくも3着に終わったアイビスサマーダッシュへと向かった。
今も残るレコードV
第2回アイビスサマーダッシュ
2年連続での参戦となるアイビスサマーダッシュも本年で2回目の開催。新潟1000mの直線レースも回数を重ねてきて見る方もだいぶ馴染んできていた。しかし各馬が最短距離を走るためにスタートからゴールを目指してなるべく真っ直ぐに走る点は前年とさほど変わっていないようである。
そんな中、ゲートが開くと8枠12番から好スタートを切ったカルストンライトオと大西直宏騎手は右へ右へと向かって外ラチ沿いへ。
横に広がった馬群を捉える画面一番手前の外ラチ沿い一杯、ファンの眼の前を疾走するカルストンライトオが矢の如く駆け抜ける。
トップスピードを維持したまま先頭を譲らずカルストンライトオが先頭でゴールイン。悲願の重賞初制覇を達成するとともに、前年の記録を上回る53.7秒のJRAレコードを樹立した。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ビリーヴ登場
新潟千直で最速のスピードを示したカルストンライトオが一気に短距離界の主役に躍り出たかというとそうはならなかった。
セントウルステークスでは夏に連勝で台頭してきた牝馬ビリーヴの前に圧倒され3着、そして福島民報杯3着、スワンステークスで大敗と1年前と同じような下降線をたどる。
この年、変則開催によって新潟で行われた秋の短距離王決定戦であるG1スプリンターズステークスには出走することすら叶わなかった。
この新潟のスプリンターズステークスを制して一気に短距離界のトップへと駆け上がったのはビリーヴのほうであった。
5歳時
低迷期
4歳の秋から長期休養に入ったカルストンライトオは、復帰に時間がかかり夏のアイビスサマーダッシュにも出走することができなかった。
9月、セントウルステークスでようやく復帰したものの12着と大敗。続くG1スプリンターズステークスでは朝日杯以来のG1挑戦となったが、万全とはほど遠く13着。
デュランダルが女王ビリーヴを下して新たな主役に名乗りを挙げた一方で、カルストンライトオは低迷から抜け出すことはできなかった。
不良馬場の京都で復活
1000mのJRA記録を出したカルストンライトオのスピードはもう戻らないのか。オープン特別の福島民友カップでも5着と粘りきれず、もはや1200mでも距離が長いのではと囁かれ始めた。
しかし、不良馬場に見舞われた京都1200mの舞台で光明が見える。2年前に取りこぼしたアンドロメダステークスを逃げ切って、アイビスサマーダッシュ以来となる6勝目を挙げた。芝の重馬場はこれまで経験がなかったが、どうやら不得手ではなかったようだ。
6歳時
充実のシーズンへ
スランプを脱却したカルストンライトオは冬から春にかけて休養に入り、その後6歳夏に復帰して以降は調子を上げていく。
バーデンバーデンカップ(福島1200m)2着、G3函館スプリントステークス3着と勝ちきれないまでもまずまずの着順で調子をキープしたまま新潟へ。目指すは2年ぶりの参戦となるアイビスサマーダッシュである。
千直の王
アイビスサマーダッシュ
迎えた第4回アイビスサマーダッシュ。もはや夏の新潟の風物詩となった名物レースはこの年も好タイムが期待できる絶好の良馬場で行われた。
自身久しぶりの1番人気に支持されたカルストンライトオは5枠5番からのスタート。ゲートが開き勢いよく飛び出すと、真ん中より内にも関わらず迷わず外ラチの方へ進路を向ける。カルストンライトオも顔ごと右を向きながら進んで外へと進んでいくようだ。馬場のいい所という理由もあるが、右へもたれるカルストンライトオの癖を解消するために、新潟の長い直線コースで外ラチに頼って走る作戦は理にかなっていた。
絶好の外ラチ沿いを確保して気持ちよく先頭を疾走するカルストンライトオは止まらなかった。終始2,3馬身のリードを保ったまま、まったく危なげなく逃げ切って先頭でゴール。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
走破タイムはレコードに迫る53.9秒。同レース出走機会2連覇を達成し、千直の王であることを証明してみせた。
スプリンターズステークス
不良馬場の歳冠
好調をキープしてG1スプリンターズステークスに挑むカルストンライトオ。立ちはだかる相手は戦績では一枚も二枚も格上となる。
まずは前年の覇者デュランダル。驚異的な切れ味を誇る追い込み馬だ。そして、高松宮記念でそのデュランダルを封じてG1馬となったのが、カルストンライトオと同じウォーニングを父に持つサニングデール。これら5歳馬勢が強力なライバルだった。
降り続いた雨であいにくの不良馬場となった中山競馬場。スタートすると、内から加速して先頭に立つカルストンライトオと大西騎手。後続を引き連れてレースの主導権を握る。
デュランダル、サニングデールはいずれも後方待機策で脚をためている。カルストンライトオ先頭のまま、最終コーナーに差し掛かると、大西騎手が手を動かして早めのスパート。カルストンライトオがそれに応えて加速すると、直線入口であっという間に先行馬を突き放す。
4馬身、5馬身と大きくリードを広げながら中山の坂も力強く駆け上がる。カルストンライトオが悠々とゴールをした後方で、ようやくデュランダルが2番手に上がっていた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
完璧と言えるレース運びでの圧勝劇でカルストンライトオがG1馬の仲間入りを果たした。不良馬場で水を得た魚のごとく鮮やかに逃げ切ったカルストンライトオ。ウマ娘では水上を走れるようになるほどに雨で濡れた馬場が得意だったようだ。
香港遠征も経験
ついに短距離路線の頂点に立ったカルストンライトオは、G1香港スプリントの招待を受けてサニングデールとともに海外遠征も経験。結果は香港の英雄サイレントウィットネスの前にシンガリの14着と苦杯をなめたが、充実のシーズンを締めくくった。
7歳時
一線級で活躍
これまで冬場から春にかけては調子が安定しないこともあり休養することが多かったが、歳を重ねるごとに体質も安定し、7歳にして阪急杯2着を経てG1高松宮記念にも初参戦。苦手な左回りでも大崩れすることなく4着と地力の高さを見せた。
アイビスSD、スプリンターズS連覇目指し
夏は恒例の新潟遠征。アイビスサマーダッシュ連覇を目指したが、59キロの斤量がさすがに堪えたかいつものように先手を取ることができずに4着まで。
その後は秋のスプリンターズステークスに直行し、ここでも連覇を目指し果敢に逃げたが失速して10着。これを最後に現役を引退し種牡馬入りした。
個性派の千直王はウマ娘でも存在感
歴代の名スプリンターの中でも個性派でファンが多かったカルストンライトオ。得意の条件ではめっぽう強く、とくに新潟の直線1000mという新しいカテゴリが生まれた初期に現れた天才的(変態的?)スプリンターであったと言える。
アイビスサマーダッシュも今年で第24回を迎えたが、今なお破られていない新潟の直線1000mのレコードはカルストンライトオが樹立した53.7秒。記録にも記憶にも残る千直の王は、ウマ娘となってもただひたすらに真っ直ぐに光を追い求めていくのである。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、カルストンライトオ。
史実のカルストンライトオ
基本情報 | 1998年5月3日生 牡 黒鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 ウォーニング 母 オオシマルチア(父 クリスタルグリッターズ) |
馬主 | 清水貞光 |
調教師 | 大根田裕之(栗東) |
生産牧場 | 大島牧場(北海道浦河町) |
通算成績 | 36戦9勝(JRA35戦9勝、香港1戦0勝) |
主な勝ち鞍 | 04’スプリンターズステークス、02’04’アイビスサマーダッシュ |
生涯獲得賞金 | 4億2,204万円 |
エピソード①三女神との関係
カルストンライトオの育成ストーリーには、三女神の一人であるゴドルフィンバルブが深く関わってくる。これについては本文中でも少し触れたが、史実のカルストンライトオの血統を遡ることでその理由がわかる。
サラブレッドの三大始祖として知られるダーレーアラビアン、バイアリーターク、ゴドルフィンバルブ(またはゴドルフィンアラビアン)のうち、現在の主流は世界的にダーレーアラビアンを祖とする血統がほとんどを占めており、バイアリータークとゴドルフィンバルブの系統は衰退の一途をたどっている。
現役時代にその類まれなるスピード能力を示したカルストンライトオは、日本においても数少なくなったゴドルフィンバルブの血脈を継ぐ希望の光でもあったのだ。
エピソード②種牡馬として
自身のスピード能力を受け継ぐ産駒というのはもちろんのことながら、ゴドルフィンバルブの血脈を残すという使命も背負って種牡馬入りしたカルストンライトオは、少ないながらもその血を継ぐ産駒を毎年送り出してその役目を全うした。
父と同じように中央で芝の短距離重賞を勝つような産駒は現れなかったものの、地方で100戦以上を走りファンも多かったブレイヴコール(兵庫ダービー勝ち)など三頭の地方重賞勝ち馬(三頭は同じ母馬の産駒、すなわち全兄弟だった)を出した。
産駒の活躍が少し遅かったこともあり、徐々に種付け数が減少し2016年に種馬を引退。しかしながら先述のブレイヴコールが兵庫ダービーを勝った翌年の2018年に種牡馬復帰して年に数頭ずつだが産駒を残している。2024年2月に亡くなったため、晩年に残した産駒たちの走りを見られるのもあとわずかとなっている。
今週の一枚
今回もNumber表紙風の一枚。新潟千直らしい構図をバッチリ再現できるウマ娘のレースシーンが素晴らしい!
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