競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第35回。今回は、黄金世代のオールラウンダー「キングヘイロー」について熱く語ります。
黄金世代の主役の一角
世代屈指のオールラウンダー
引用元:JRA日本中央競馬会
今年も春のG1シーズンが開幕する。春の短距離王決定戦として定着している高松宮記念がG1に昇格したのは1996年で、それまでは中距離2000mのG2レース高松宮杯として夏に行われていた。
短距離G1として生まれ変わった高松宮記念の歴代優勝馬の中でも印象深い馬の一頭がキングヘイローだ。黄金世代の一角として挑んだクラシックシーズンには主役級の期待をかけられて三冠レースにフル参戦し、その後は幅広い距離のレースをオールラウンドにこなした。苦労の末に高松宮記念でG1勝利を掴み取ったキングヘイローの史実を追っていく。
血統
世界的な良血
キングヘイローは、ウマ娘のご令嬢たちの中でも際立つお嬢様ぶりからわかるとおり、筋金入りの世界的な良血馬である。
父ダンシングブレーヴは80年代に凱旋門賞などを制し、欧州最強馬と謳われた名馬。母グッバイヘイローもまたアメリカでG1レース7勝という成績を挙げた名牝である。この父母を持つキングヘイローは、それはもう超一流の血統なのである。デビュー前から注目される存在だったことは言うまでもない。
2歳時
メイクデビュー
デビューは2歳の10月。京都レース場の芝1600m新馬戦にエントリーしたが、騎乗依頼をしていた武豊騎手が東京競馬場で有力馬に乗ることになったためキングヘイローの騎乗をキャンセル。デビュー戦で手綱を取ることになったのは2年目の若武者、福永祐一騎手だった。
福永祐一騎手
福永祐一騎手と言えば、今や押しも押されぬトップジョッキーだが、当時はまだ2年目ということで、期待の若手の一人という立場だった。
ちなみに同期にはウマ娘や競馬解説でお馴染みの元祖女性ジョッキー細江純子さんや、JRA初の双子ジョッキー・柴田兄弟らがおり、実に多彩な顔ぶれの年だった。のちにテイエムオペラオーと名コンビを組んだ和田竜二騎手も同期生だ。
デビュー戦初勝利
さて、そのデビュー戦では日本の名牝ダイナアクトレスの仔に1番人気を譲ったものの、レースでは2番手から危なげなく抜け出して勝利。まずは注目の良血対決を制して1勝を手にした。
2勝目
続く2戦目は京都の芝1800m、1勝クラスの黄菊賞。今度は最後方から豪快に差し切って2連勝を決めた。
重賞挑戦
2連勝でオープン入りを果たすと、G3東京スポーツ杯3歳ステークス(東京芝1800m)に出走。1番人気に支持される。差のない2番人気はマイネルラヴ。のちにスプリンターズステークスを勝つことになる期待の外国産馬だ。
キングヘイローは中団からレースを運び、府中の長い直線で前走と同様に鋭い末脚を繰り出す。ライバルと目されたマイネルラヴを捉えて突き放すと、2馬身半差をつけて快勝。破壊力抜群の末脚で、重賞タイトルを勝ち取った。
福永祐一騎手はこの勝利がJRA重賞初制覇のメモリアルレースとなった。
ラジオたんぱ杯3歳ステークス
レースを重ねるごとに強い勝ち方でここまで3戦3勝。朝日杯3歳ステークス(現在の朝日杯フューチュリティステークス)をパスして中距離2000mのラジオたんぱ杯3歳ステークスに出走し、来年のクラシックを睨む。
ところが、ここで初の黒星を喫することになる。2戦2勝でこちらも大物と呼び声高いロードアックスに完敗という内容で2着に敗れた。
3歳時
ライバル激突、弥生賞
4戦3勝という成績で2歳戦を終え、3歳を迎えるキングヘイローは王道のローテーションでクラシックを目指す。その3歳初戦、皐月賞トライアルの弥生賞から始動すると、早速クラシックを争うライバル達と激突した。
1番人気はキングヘイロー。きさらぎ賞を圧勝してきたスペシャルウィークが2番人気、3番人気に2戦2勝のセイウンスカイが続く。
レースは、マイペースで逃げたセイウンスカイが直線で後続を引き離し、そのまま逃げ切り濃厚かと思われたところ、中団から伸びたスペシャルウィークが素晴らしい決め手を発揮して差し切り勝ち。キングヘイローはセイウンスカイから4馬身遅れての3着となり、2頭に大きく水を開けられてしまった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
皐月賞
クラシック1冠目の皐月賞。弥生賞の結果から、スペシャルウィークが頭一つ抜けた存在と見られ1番人気。離れた2,3番人気でセイウンスカイ、キングヘイローが続く。
スタートすると、セイウンスカイは逃げ馬を先に行かせて2番手からレースを進める。好スタートのキングヘイローはセイウンスカイのすぐ後ろ先行集団につけた。1番人気スペシャルウィークは大外18番枠から後方集団の外につけ、末脚にかける。
最終コーナーで先頭にたったセイウンスカイ、並びかけていくキングヘイロー、そしてスペシャルウィークも順位を上げて先行勢を射程圏内に捉えたか。
最後の直線、先に抜け出したセイウンスカイを追うキングヘイローは鞍上福永騎手の激しいアクションに応えて追いすがる。さらに外から迫るスペシャルウィークは弥生賞時ほどの切れ味はない。
最後までその差が逆転することなくセイウンスカイがそのまま押し切った。キングヘイローは半馬身遅れて2着、さらに1馬身差3着にスペシャルウィークという結果になった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
日本ダービー
終わってみれば皐月賞は弥生賞の上位3頭の順番が入れ替わる結果となり、より3強の構図が鮮明となった。そしてダービーでも三つ巴の勝負が期待された。
しかし、キングヘイローにとってこのダービーは苦い経験となってしまう。絶好のスタートをきると、そのままかかり気味に前へ。抑えが効かずまさかの逃げに打って出たのだ。この時のことをのちに福永騎手は「頭が真っ白になった」と語るように意図した作戦ではなかったのだろう。
暴走気味のハイペースで飛ばすキングヘイローを見るようにセイウンスカイが2番手に控える。スペシャルウィークは中団の内の位置取り。
直線に入ると、キングヘイローは自身が刻んだハイペースがたたって早々に脱落。2番手にいたセイウンスカイにも余力は残っていなかった。直線半ばからはスペシャルウィークと武豊騎手の独壇場。馬場の真ん中から堂々と抜け出すと2着に5馬身差をつける圧勝でスペシャルウィークが世代の頂点に輝いた。武豊騎手にとっては悲願のダービー初制覇だった。
セイウンスカイは4着、キングヘイローは14着に沈み3度めの3強対決は大きく明暗が分かれる結果となった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
秋、菊花賞へ向けて
失意のダービーの後は休養して秋に備える。復帰戦は菊花賞トライアルのG2神戸新聞杯。皐月賞馬セイウンスカイもダービー馬スペシャルウィークもいないここは勝っておきたいキングヘイローだったが、1番人気に応えることができず3着。このレースではデビュー以来初めて福永騎手から名手・岡部幸雄騎手に乗り代わったが久しぶりの勝利を収めることはできなかった。
そして再び福永騎手に戻り、スペシャルウィークの秋初戦となったG2京都新聞杯に出走。単勝1.2倍の断然人気スペシャルウィークに対し、あわやという場面を作ったものの最後に交わされて2着惜敗。
菊花賞
クラシック最後の三冠目、菊花賞。ついに3強の構図は崩れ、順調に秋初戦を突破してきたスペシャルウィーク、セイウンスカイの2強対決という見方が強かった。
長距離3000mに対する適性は他の馬も未知数ではあったが、ダービーで気性面の課題を露呈したキングヘイローに関しては距離延長を疑問視する声も少なくなかった。
スタートすると、セイウンスカイが先手を奪いレースの主導権を握る。キングヘイローは5番手あたりで折り合いがついた。スペシャルウィークは中団後ろ寄りの外目を追走。セイウンスカイと横山典弘騎手が小気味いいペースで逃げる。縦長の展開となった隊列は3、4コーナーでも縮まらず、セイウンスカイが大きくリードを保ったまま直線へ。
これはさすがに届かない。セーフティーリードをキープして失速する様子もないセイウンスカイがほぼ勝利を手中に収めた直線半ば、2着争いは熾烈になっていた。キングヘイローは道中5番手付近でじっと我慢し、直線でもしぶとく2着争いに残っていたものの、最後は後ろから脚を伸ばしたスペシャルウィークらに競り負けて5着に終わった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
有馬記念
クラシック3冠レースでの激闘を終え、無冠に終わったキングヘイローは年末のグランプリ有馬記念に出走。同世代からは菊花賞圧勝でここでも1番人気のセイウンスカイと、骨折から復帰して2戦勝利のないグラスワンダーも出走。そしてメジロブライトやエアグルーヴら強力な古馬勢との初対戦であった。
キングヘイローはセイウンスカイの逃げるペースのなか後方に控える競馬で追い込むも6着まで。勝ったのは、骨折で春シーズンを棒に振ったグラスワンダーだった。こうしてキングヘイローは3歳シーズンを未勝利で終えた。
4歳
路線変更で連勝
3歳時は血統的にも期待されたクラシック制覇を目指して王道を歩んだキングヘイローだったが、4歳になると距離適性を重視してマイル路線に主戦場を移し活路を見出す。
古馬となった初戦はマイルのG3東京新聞杯。騎手は福永祐一騎手から柴田善臣騎手に乗り替わり、新たなスタートを切る。これが見事にハマり、前年の苦戦を吹き飛ばすような3馬身差快勝。続く1800mのG2中山記念も1番人気に応えて連勝し、距離短縮と柴田善臣騎手とのコンビで完全に軌道に乗った。
G1で苦戦
しかし、有力視されたG1安田記念でまさかの11着と大敗を喫してしまうと、中距離に戻した宝塚記念でもいいところなくグラスワンダーの8着。G1レースでは好走すらできずに春シーズンを終えた。
秋、福永騎手との再コンビ
連敗スタート
秋になってもG2毎日王冠5着、天皇賞(秋)7着とふるわず。勝ったグラスワンダー、スペシャルウィークら同世代の主役たちにまったく敵わなかった。
マイルチャンピオンシップ
連敗から抜け出せなかったことで、福永祐一騎手にキングヘイローの手綱が戻ってくる。坊主頭で気合いを入れた福永騎手に導かれ、マイルチャンピオンシップではG1制覇まであと一歩というレースを見せる。
同じダンシングブレーヴ産駒の快速牝馬キョウエイマーチが逃げる展開、中団外目につけたキングヘイロー。直線で外に持ち出すとエアジハード、ブラックホークといった有力馬と一緒に伸びてくる。突き抜けるか、という手応えだったがエアジハードに届かずの2着だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
スプリンターズステークス
負けはしたものの、G1での好走は皐月賞以来。この勢いを維持したまま、陣営は短距離G1スプリンターズステークスへの参戦を決める。マイルへの適性は疑いようがなかったが、短距離スプリント戦に関してはまったくの未知数だった。
スタートすると、経験したことのない電撃スプリント戦の速い流れについて行けず最後方の位置取りとなる。そのままおっつけ通しで追走がやっとという感じで最後の直線を迎える。熾烈な優勝争いとはまったく離れたところで、キングヘイローは鬼のような末脚を発揮していた。
レース映像にもほとんど映っていない。しかし、到底届かないという最後方から大外を回って直線に向いたキングヘイローは、エンジンがかかると加速を続け、残り100mでもカメラには映らないが最後の最後で3着に飛び込んだ。どこから来たんだ?と思うほどの切れ味だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
5歳
初ダート挑戦
5歳になると、ダートG1フェブラリーステークスに挑戦。初ダートがいきなりG1ということで賛否両論あったが、パワーのある欧米血統という背景もあり1番人気と期待を集めた。しかし、内に包まれたまま砂にまみれて嫌気が差したか、本来の力を発揮できず13着と大敗に終わる。
ついに掴んだ栄冠
高松宮記念
3歳の年には3強の一角としてクラシック3冠にフル参戦し、翌年マイル路線ではあと一歩というところで手が届かなかったG1タイトル。たびたびの路線変更、ダート挑戦など紆余曲折を経たキングヘイローについにその時が訪れる。
春の短距離王決定戦、G1高松宮記念。前年のスプリンターズステークスで見せた豪脚は本物だった。
スタートすると、2度めのスプリント戦となるキングヘイローは今度はすんなりと流れに乗り中団からレースを進める。ブラックホークとアグネスワールドのスプリンターズS1,2着馬を含む大混戦となった直線の追い比べ。直線で大外に持ち出したキングヘイローは、しっかりと画面に映るところから豪快に末脚を伸ばしゴール直前で差し切った。
レース映像
この勝利には、キングヘイローのこれまでの道のりを知るファンがスタンド前で大歓声で出迎え、柴田善臣騎手は喜びを爆発させた。
皮肉なことに、クビ差の2着馬ディヴァインライトの鞍上は福永祐一騎手だった。
G1制覇後
悲願のG1制覇を達成したキングヘイローは、この後はマイル・短距離路線に専念。安田記念では福永祐一騎手と再コンビを組み、海外勢には負けてしまったものの日本馬最先着の3着と意地を見せた。
しかしこれを最後に秋の成績が奮わず、春秋短距離王を狙ったスプリンターズステークスも7着。秋はここからいいところなく3連敗を喫した。
引退レースは有馬記念
キングヘイローの引退レースとして有馬記念への出走が決まった。前年の天皇賞(秋)以降はマイル、スプリント路線に完全に転向していたが、最後にキングらしく王道に戻ってきた。そして、覇王テイエムオペラオーがメイショウドトウとの死闘を制した陰で、9番人気の低評価ながら後方から追い込んで4着という結果にはキングのプライドを見た気がした。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、キングヘイロー。
史実のキングヘイロー
基本情報 | 1995年4月28日生 牡 鹿毛 |
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血統 | 父 ダンシングブレーヴ 母 グッバイヘイロー(父 Halo) |
馬主 | 浅川吉男 |
調教師 | 坂口正大(栗東) |
生産牧場 | 協和牧場(新冠町) |
通算成績 | 27戦6勝 |
主な勝ち鞍 | 00’高松宮記念 |
生涯獲得賞金 | 5億26万円 |
エピソード①キングの血を引く者たち
種牡馬として
キングヘイローはクラシックこそ勝てなかったが、その血統的な魅力は大きく、種牡馬としても期待を集めた。
キングヘイローは初年度産駒から順調に活躍馬を排出したことで自らの種牡馬としての評価を高めていった。
そして早くも2年目の産駒からG1馬が誕生する。カワカミプリンセスだ。
デビューから無敗でオークス、秋華賞を制しあっという間に世代最強の牝馬に上り詰めた。父のなし得なかったクラシック制覇を達成。距離適性やローテーションで悩んだ父に代わって堂々たる王女ぶりを見せてくれた。
そしてもう一頭、3年目の産駒からローレルゲレイロという牡馬がG1馬の仲間入りを果たしたのが2009年の第39回高松宮記念。父が現役時代に唯一制したG1に勝利し、父子同一G1制覇を成し遂げた。
2022年の現在、最後の世代がまだ現役で走っている。地方船橋所属のギガキングという馬が2月に勝ち星を挙げ目下3連勝中と頑張っている。
エピソード②相棒に捧げる勝利
福永祐一騎手からキングへ
キングヘイローは2019年に老衰で亡くなった。その5日後、かつてキングヘイローとコンビを組んだ福永祐一騎手は中京競馬場にいた。
第49回高松宮記念、福永祐一騎手はミスターメロディーという馬でこのレースを勝利。自身の手でキングヘイローをG1勝利に導くことはできなかったが、成長しトップジョッキーとなった姿を報告するかのような勝利に、当時を知るファンは胸を打たれた。
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