競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第61回。今回は巨漢で名を馳せた超大型スプリンター「ヒシアケボノ」について熱く語ります。
目次
巨漢にして一流のスプリンター
歴代1位のG1最高馬体重
いよいよリアル競馬では秋競馬が本番を迎える。短距離王決定戦・スプリンターズステークスで秋のG1シリーズの幕開けだ。かつてそのスプリンターズステークスで、JRA史上最高馬体重のG1勝利馬となった馬がいた。それが今回の主役となるヒシアケボノである。
巨漢から繰り出す迫力満点のスピード
サラブレッドの標準的な馬体重は460~480kg程度とされるが、ヒシアケボノは平均を遥かに超える550kg超の馬体重でレースに勝利。ピーク時は582kgを記録しており、一緒にレースに出る他馬より明らかに大きな馬体を誇っていた。ウマ娘で実装された際には、極端に大きな身体が話題になった。レース中にスクショを撮ると、大きすぎて画面に収まっておらず頭が切れてしまうほどのデカさだ。
体重が重いと聞くと太いのではないかと思いがちだが、デカくて骨太でムキムキという感じのスケールの大きな馬体の持ち主だった。その巨漢から繰り出される迫力満点の走りと、短距離戦でレコードタイムを叩き出すほどのスピードが唯一無二の魅力だったヒシアケボノの史実を追っていく。
良血の外国産馬
血統背景
ヒシアケボノの父Woodman(ウッドマン)は豊かなスピードを多くの産駒に伝えた米国の名種牡馬。母父のSeattle Slew(シアトルスルー)はアメリカで無敗の三冠を達成し、種牡馬としても成功を収めた名馬である。
のちのヒシアケボノは、1992年のキーンランドセール(セリ市)に上場され、52,000ドルで落札されて日本へやってきた外国産馬だ。
デビュー前
雄大な馬体
仔馬時代から大きな馬体を有しており、2歳にして500キロをゆうに超える雄大な馬体に成長した。馬名登録は、冠名のヒシ+ハワイ出身で外国人力士として初めて横綱となった曙関から連想(というかそのまんま)して「ヒシアケボノ」と命名された。
2歳時
メイクデビュー
デビューは2歳の11月。東京競馬場の芝1600m新馬戦でデビューを迎えたヒシアケボノの馬体重は552kgで、名前に違わぬ巨漢が注目を集めた。2番人気に支持されたヒシアケボノは中団から追い込み届かず4着に敗れた。
因みにこの時の勝ち馬コクトジュリアンは、その後連勝で挑んだ朝日杯でフジキセキの3着に入るなど活躍し、3歳以降も短距離路線で長く活躍した。
中一週で臨んだ2戦目は逃げて2着とし、初勝利はおあずけとなった。
3歳時
6戦目で初勝利
休養を挟んで3歳の5月に再び登場したヒシアケボノは、デビュー時から大きく馬体重を減らして518kg。この復帰戦から3戦連続でダートのレースに出走したが、いずれも1番人気で3、4、5着と勝ちきれないレースが続いた。
そして7月の中京競馬場の未勝利戦で芝に戻るとレースぶりが一変。1200mのスプリント戦で2秒以上の差をつける大差勝ちで待望の初勝利を挙げた。初勝利時の馬体重は530kgだった。
夏の小倉で連勝
新馬勝ち後は夏の小倉競馬場に舞台を移し、1200mのスプリント戦を選んで連勝を重ねる。スピードに乗った逃げでそのまま押し切るという強い内容で4連勝を記録した。馬体も530キロ台をキープし、4連勝目を挙げたやまなみステークスで540kgを突破してオープン入りを果たした。
飛躍の秋
破竹の勢いでオープン入りしたヒシアケボノは、秋初戦のG3京王杯オータムハンデで重賞初挑戦。同世代の皐月賞馬ジェニュインに次ぐ2番人気に支持されたが、勝ったドージマムテキからアタマ+ハナ差の3着に惜敗した。
ダートはイマイチ
交流重賞のG3東京杯(大井競馬場ダート1200m)で重賞制覇を狙ったが6着に終わる。ダートが主流のアメリカ血統で、パワフルな走りからはダートも得意かと思われたが結果は案外だった。これ以降ダートのレースには出走していない。
レコードで重賞初制覇
スワンステークス
舞台を中央の芝に戻し、10月の京都競馬場で行われるG2スワンステークス(芝1400m)に出走したヒシアケボノは本領を発揮。4番手の好位追走から抜け出すと、後続を寄せ付けず4馬身差をつける圧勝で重賞初制覇を果たした。
勝ちタイムは芝1400mの日本レコードを記録。長く短距離路線を引っ張ってきた歴戦の快速馬エイシンワシントンや、前走好タイム勝ちで勢いのあるニホンピロスタディらを相手に、圧巻の横綱相撲を披露した。
馬体重もデビュー戦以来となる550kg台の大台に乗せて556kgと充実の秋を迎えていた。コンビを組んだ角田晃一騎手は、これまで騎乗機会3戦3勝と相性の良さは抜群で、これ以降ヒシアケボノの主戦騎手に定着した。
マイルチャンピオンシップ
いよいよG1の舞台にまで辿り着いたヒシアケボノ。550kgを超える超大型スプリンターは、出走のたびに馬体重の数字も注目を集め始めていた。
この日の馬体重は微増の558kg。前走556kgで記録したレコード勝ちからも理想の数字に近い。2番人気と期待を集めた。
1番人気は前走のセントウルステークスで重賞2勝目を挙げたビコーペガサス。前年のスプリンターズステークスではサクラバクシンオーの2着など実績十分の実力馬だ。
スタートすると、エイシンワシントンが軽快に飛ばしてレースを引っ張る。ヒシアケボノは1枠1番からインコースの2番手につけた。
淀みのないペースを刻んだエイシンワシントン先頭のまま直線を迎えると、ヒシアケボノがまだ楽な手応えで並びかける。490キロ台と立派な馬格のエイシンワシントンと並んでも馬体の大きさが際立つ。
抜け出したヒシアケボノが単独先頭でゴールを目指すが、そこへ差し・追い込み勢が強襲。後方待機から目の覚めるような末脚で追い込んできたのは古豪トロットサンダー。ゴール寸前でヒシアケボノを抜き去って先頭でゴールした。さらに2着には16番人気の伏兵メイショウテゾロが食い込んで大波乱となった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ヒシアケボノは3着に粘ったが、マイルは距離がわずかに1ハロン(200メートル)長いという印象が残った。レース映像では、迫力満点の走りに注目してみて欲しい。大きな馬体と白いシャドーロールが目印だ。
最重量G1馬誕生
スプリンターズステークス
マイルチャンピオンシップの走りから、適距離のスプリンターズステークスでは1番人気に支持された。馬体重は過去最高の560kg。完成の域に達した黒光りする馬体は迫力も十分だった。
2番人気にはマイルチャンピオンシップで4着まで追い込んだビコーペガサス。海外から参戦のソーファクチュアルが3番人気に続く。
ゲートが開くと、ヒシアケボノはそれほどよくないスタートで中団の外につけた。中盤から加速してスピードに乗ったヒシアケボノが先行馬群の外をついて上がっていく。
最後の直線に入ると、ひときわ大きなヒシアケボノと小柄なビコーペガサスの叩き合い。力強く前に出て最後までバテなかったヒシアケボノに軍配が上がった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
560kgでのG1勝利はJRA史上最高馬体重によるG1制覇記録として現在も破られていない。ヒシアケボノはこの年のJRA賞で最優秀短距離馬に選出され、名実ともに横綱昇進を決めた。
4歳時
新星登場
ヒシアケボノが横綱として迎え撃つ4歳シーズンが幕を開けると、短距離界に突如として新たなライバルが登場する。それが始動戦のシルクロードステークスで初対戦となったフラワーパークという牝馬だった。
シルクロードステークスで重賞初制覇を飾ったフラワーパークが、この年の高松宮杯(現高松宮記念)とスプリンターズステークスの春秋スプリントG1を連覇することになるのだ。
ヒシアケボノは1番人気に応えることが出来ず3着だった。
高松宮杯
休み明け初戦を落としたヒシアケボノだったが、春の大一番であるG1高松宮杯では再び1番人気に支持される。馬体重もスプリンターズステークスと同じ560kgとベスト体重で期待された。なお、このレースには三冠馬ナリタブライアンが参戦したことでも注目を集めた。
スタートすると、2番手につけたフラワーパークを直後でマークするヒシアケボノ。前走で先着を許した相手に離されまいと追走する。
しかし直線に入っても手応えよく抜け出したのはフラワーパークだった。ヒシアケボノも食らいつくが、最後は差してきたビコーペガサスにも交わされて3着でゴール。秋・春の短距離G1連覇は成らなかった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
安田記念
意地を見せる
惜敗続きの春、ヒシアケボノはマイルの安田記念に参戦。距離の限界を不安視されたこともあって一気に人気を落として12番人気の低評価だった。
1枠2番に入ったヒシアケボノは、好スタートを決めると果敢にハナを切って逃げる展開。軽快にレースを引っ張り、2馬身ほどのリードを保ったまま府中の長い直線へ入る。
直線に入っても先頭を譲らないヒシアケボノが逃げ切るかに思われたが、残り200mを過ぎて後方から追い込んできたのはまたしても古豪トロットサンダーだった。マイルチャンピオンシップの再現のような鬼脚で差し切ったトロットサンダーがマイル王に輝いた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
低評価を覆す意地の走りを見せたヒシアケボノはタイキブリザードに続く3着に踏ん張り力を示した。
引退まで
増える馬体とともに下降線
4歳の秋以降は、復帰戦で+30kgの馬体増で580kgに達するなど増えやすい馬体重との戦いとなった。レースのたびに馬体重が注目されることとなったが、成績は急激に下降していき連覇を狙ったスプリンターズステークスの4着が最高着順となる。
5歳いっぱいまで現役を続けたが、3歳秋のスプリンターズステークスから16連敗と勝ち星を増やすことができずに引退。
ピークの期間こそ短かったが、稀に見る巨体から繰り出される加速力と持続するトップスピードは今なお強烈な印象として残っている。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ヒシアケボノ。
史実のヒシアケボノ
基本情報 | 1992年2月27日生 牡 黒鹿毛 |
---|---|
血統 | 父 Woodman 母 Mysteries(父Seattle Slew) |
馬主 | 阿部雅一郎 |
調教師 | 佐山優(栗東) |
生産牧場 | 米国産 |
通算成績 | 30戦6勝(JRA29戦6勝、地方1戦0勝) |
主な勝ち鞍 | 95’スプリンターズステークス |
生涯獲得賞金 | 3億2426万円 |
エピソード① 代表的な大型馬たち
ヒシアケボノの他に大きな馬として有名なのは、ご存知キタサンブラックだろう。
自身のキャリア最高馬体重542kgで天皇賞(秋)を勝ち、通算7つのG1勝利と歴代最多獲得賞金など数々の記録を樹立した。キタサンブラックの場合は、とにかく背が高く馬体重もそれに比例する雄大な馬体が特徴だ。
また、G1勝ち馬に限らず記録的な馬体重ということで挙げると、JRAの最高馬体重で勝利した記録はなんと626kg!!その名もショーグンというその馬が2014年に3勝クラスのレースを勝った時の馬体重が現在も記録として残っている。
エピソード② 弟は海外G1制覇の快速馬
ヒシアケボノの半弟に、海外の短距離G1を2勝した快速馬アグネスワールドがいる。スプリンターズステークスは2年連続の2着で惜しくも兄弟制覇はならなかった。
アグネスの冠名ではアグネスタキオンが実装済みということもあり、いずれはボーノの弟(妹)の登場も期待したいところだ。
今週の一枚
つい先日行われていたレジェンドレース時のゲート・イン映像より。ヒシアケボノとビコーペガサスの体格差が凄い。。。
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