競馬好きのライターが送るウマ娘コラム第95回。今回は劇場版ウマ娘の公開を祝して、主役のジャングルポケットについて熱く語ります。
目次
東京最強の主人公ウマ娘
祝・劇場版公開
ついに公開となった劇場版『ウマ娘プリティーダービー 新時代の扉』から、堂々主役を演じる東京最強のウマ娘、ジャングルポケットの史実を追っていく。
もちろん、元ネタを知らずに映画を楽しみたい場合は劇場で鑑賞後にお読みいただくことをお勧めする。
東京巧者が多いトニービン産駒
血統
ジャングルポケットの父は産駒に東京巧者が多いトニービン。何しろ、トニービン産駒のG1馬9頭が揃いも揃ってみな東京競馬場のG1を勝っているのだ。そのうちベガ(桜花賞)とノースフライト(マイルチャンピオンシップ)だけが東京以外でもG1を勝っているが、エアグルーヴ(オークス、天皇賞・秋)やウイニングチケット(ダービー)といった代表的産駒たちが東京競馬場でここ一番の強さを発揮した。
そんなトニービン産駒の中でもジャングルポケットは筋金入りの東京巧者であり、のちには府中の鬼と呼ばれるほどである。
父トニービン母ダンスチャーマーの間に産まれた鹿毛の牡馬は、童謡のタイトルからとってジャングルポケットと名付けられ、同じオーナーの所有馬で6年前に「幻の三冠馬」と呼ばれたフジキセキと同じ栗東の渡辺栄厩舎に入厩した。
2歳時
メイクデビュー
9月の札幌でデビューを迎える。まだ調教でも幼い面をのぞかせるなど成長途上と見られていたジャングルポケットは8頭立ての5番人気。タガノテイオー、メジロベイリー、ダイイチダンヒルといったサンデーサイレンス産駒の良血馬が人気上位に名を連ねた一戦は、のちにハイレベルの新馬戦と言われた。
この好メンバーの新馬戦で、2番手追走からしぶとく伸びて先頭に立ち1着でゴールしたのはジャングルポケットだった。
このとき1番人気で2着だったタガノテイオーと5着のメジロベイリーは、のちにG1朝日杯の1,2着馬となる。(1着メジロベイリー、2着タガノテイオー)
重賞制覇
ジャングルポケットは中2週で札幌開催を締めくくるG3札幌3歳ステークス(現・札幌2歳ステークス)に出走。鞍上は新馬戦から継続となる千田輝彦騎手。人気はさほど上がらず新馬戦と同じく5番人気だったが、またしても人気に反してジャングルポケットが直線で抜け出し、レコードタイムで勝利して重賞ウィナーとなった。
2着は2戦目で勝ち上がってきたタガノテイオー、3着はのちに阪神3歳牝馬S、桜花賞、秋華賞を勝つ名牝テイエムオーシャンだったのだからこれまた価値のある勝利だった。
のちの名馬3頭が激突!
デビューから2連勝をおさめたジャングルポケットが次に向かったのは暮れのラジオたんぱ杯3歳ステークス。現在のホープフルステークスが2歳G1として新設される以前には、翌年のクラシックを見据えて中距離を使いたい素質馬が集う名物レースだった。
そしてこの年のラジオたんぱ杯3歳Sは、今も語り継がれるレースとなる。
1番人気に支持されたのは芦毛の外国産馬クロフネ。2番人気にはデビュー戦の勝ち方が圧巻だったアグネスタキオン。はじめて外国馬にダービーが開放されるこの世代に襲来した文字通りの外国産馬と、同年のダービー馬アグネスフライトの全弟という注目の2頭にジャングルポケットが挑む。渡辺栄厩舎所属の角田晃一ジョッキーが騎乗し、フジキセキと同じ師弟コンビが実現したのもこのレースからである。
この翌年のクラシックを占う一戦を制したのはアグネスタキオン。抜群の瞬発力を発揮して2着以下を圧倒してみせた。そして2馬身半差の2着にジャングルポケット、3着にクロフネが続いた。この上位3頭が揃ってのちのG1馬になるのだが、その中でもアグネスタキオンの強さが際立つレースであった。
3歳時
東京初見参
年が明けて3歳の初戦は共同通信杯。満を持して東京競馬場にジャングルポケットが初見参する。
トニービン産駒にとって庭のような府中で、ジャングルポケットもまるで遺伝子に刻まれたかのように躍動。5番手追走から早めに仕掛けられて抜け出すと、最後はソラを使ってヨレるところを見せながらも2着に2馬身差をつけて快勝。圧倒的な1番人気に応えてクラシック候補に相応しい力を示した。
皐月賞
タキオン再び
牡馬クラシック一冠目の皐月賞は、抜けた人気のアグネスタキオンと2番手ジャングルポケットの一騎打ちムードとなる。実はこの年はもう一頭のアグネス、タキオンと同じ長浜厩舎の僚馬でアグネスゴールドという有力馬がいたのだが、前哨戦のスプリングステークスで4戦4勝とした後に骨折が明らかになり無念の戦線離脱していた。
ゲートが開くと、ジャングルポケットが躓いて角田騎手があわや落馬というアクシデント。対するアグネスタキオンはすんなり好位につける。
レースは淀みないペースで進み、5、6番手の外をロスなく進むアグネスタキオンは徐々に進出を開始して盤石の構え。後方からのレースを余儀なくされたジャングルポケットも、4コーナーで果敢に大外を回して勝負に出た。
中山の直線、先に抜け出したアグネスタキオンに外から並びかけようとするジャングルポケットだったが、前半のロスが響いたか脚色が鈍くなり力尽きて3着まで。最後はアグネスタキオンが1馬身半抜け出して先頭でゴールした。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
離れた3番人気に支持されていたダンツフレームが2頭の間に割って入り、サンデーサイレンス、ブライアンズタイム、トニービンという当時の競馬界を席巻していた三大種牡馬の決着となった。
東京最強
日本ダービー
知っての通り、アグネスタキオンは皐月賞を勝ったあとに屈腱炎が判明して戦線を離脱。そのままターフに戻ることなく引退することとなる。
タキオン不在となった中で迎えた日本ダービー。頂点を競うのは、皐月賞では負けてなお強しの印象だったジャングルポケットと、NHKマイルカップを勝ってダービーに出走してきた外国産馬クロフネ、そして皐月賞2着馬のダンツフレームの三つ巴の様相を呈した。
あいにくの重馬場の中スタートすると、今度はスムーズに中団のポジションをとるジャングルポケットと角田晃一騎手。前後にダンツフレームとクロフネもつけて有力馬が中団に固まった。
テイエムサウスポーが大逃げを打って縦長の隊列を形成したまま最後の直線へ向かう。逃げ・先行馬の脚色が鈍ると、渋った府中の直線を力強く伸びてくるジャングルポケット。その外からダンツフレームも食らいついてくるが、差は縮まらないままジャングルポケットが先頭でゴール。
さすがはトニービン産駒、東京競馬場でこそという走りで21世紀最初のダービー馬となった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ゴール後のウイニングランでは、スタンド前に戻ってきたジャングルポケットが猛々しく雄叫びをあげる姿が話題となり、象徴的なシーンとしてファンに記憶されている。
ウマ娘でもサポートカードの絵柄として再現されている。
菊花賞へ向けて
ダービー馬となったジャングルポケットは、夏はデビューの地札幌で過ごしG2札幌記念に出走。古馬との初対戦でどのような走りを見せるか注目を集めたが、圧倒的な1番人気に応えることができず3着に敗れた。
菊花賞
マンハッタンカフェ登場
その後ステップレースには使わずクラシック最後の菊花賞を迎える。1番人気のジャングルポケットに、春二冠でともに2着のダンツフレーム、札幌記念でジャングルポケットに勝ったエアエミネムが続く。
しかし菊花賞を制したのは伏兵のマンハッタンカフェだった。
春までは体質の弱さもあってクラシック出走は断念し、夏に自己条件を一つずつ勝ち上がってきた。トライアルのセントライト記念でも4着と優先出走権に手が届かなかったが菊花賞はフルゲートにならず出走が叶った。そしてこの菊の舞台で大きく花開いた結果だった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
折り合いに苦労したジャングルポケットは、最後までしぶとく食い下がったが4着に終わった。
府中の鬼となる
ジャパンカップ
ダービー馬として不本意なレースが続いたジャングルポケットは、ジャパンカップに出走。短期免許で来日していたフランスの名手オリビエ・ペリエ騎手に乗り替わったジャングルポケットが、得意の東京で巻き返しを図る。
迎え撃つのは世紀末覇王テイエムオペラオーにメイショウドトウ、そしてナリタトップロード、ステイゴールドといった歴戦の古馬たち。それに外国馬を加えた強豪相手に3歳馬のジャングルポケットがどんな走りを見せるのか。
4枠6番からスタートしたO.ペリエ駆るジャングルポケットは、中団後方でピタリと折り合いをつける。ゆったりとした流れから途中でトゥザヴィクトリーが動いてペースが上がっても慌てず騒がず虎視眈々と末脚を溜める。
最後の直線、先に抜け出したのは道中5,6番手でレースを進めていたテイエムオペラオー。覇王の風格すら感じる横綱相撲で一気に後続を引き離し、勝負あったかと思ったその直後、外から馬体を併せにいったのが3歳馬ジャングルポケットだ。
東京では誰であろうと好きにはさせない、そんなセリフすら聞こえてきそうな気迫の追い込みで一完歩ごとに差を詰めると、ゴール直前できっちりと差し切ってみせた。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
ジャングルポケットはこれで東京競馬場では3戦3勝。改めて「府中の鬼」を印象付ける結果となった。
また奇しくもこの春に現役引退を決めたフランスの名手が、ただ一度のジャングルポケットとのコンビで見せた人馬一体の走りだったと言える。
年度代表馬に選出
3歳でジャパンカップを勝った日本調教馬は、歴史上でエルコンドルパサーとジャングルポケットの2頭。さらにダービー馬がその年にジャパンカップを勝ったのはいまだにジャングルポケットただ一頭である。もちろん相手が違うのは承知の上だが、無敗の三冠馬シンボリルドルフ(3着)やコントレイル(2着)ですら3歳時に参戦したジャパンカップで初黒星を喫している。
長く頂点に君臨していた世紀末覇王テイエムオペラオーやメイショウドトウらに世代交代を告げ、新時代の扉を開いた21世紀最初のダービー馬ジャングルポケットは、この年の年度代表馬に選出された。
4歳時
新時代を引っ張る存在に
年が明けて4歳になったジャングルポケット。テイエムオペラオーやメイショウドトウが引退したあとの古馬戦線を引っ張るのは、ジャングルポケットとマンハッタンカフェ(菊花賞のあと有馬記念も勝利)らこの世代で間違いないと見られた。
ところが2頭はともに春の天皇賞に向けた初戦を取りこぼしてしまう。ジャングルポケットは阪神大賞典でオペラオー世代の菊花賞馬ナリタトップロードに先着を許して2着。マンハッタンカフェは日経賞でまさかの6着からの天皇賞参戦となった。
三強対決
天皇賞(春)
迎えた大一番、天皇賞(春)。覇権を握るのはジャングルポケットかマンハッタンカフェか、それとも古豪ナリタトップロードか。11頭立てと寂しい頭数となったが、この三強対決は見ものだった。
三頭ともに無難なスタートを決めると互いの動きを見るように中団を追走。スローな流れのまま終盤に差し掛かると、最終コーナーで内を回ったマンハッタンカフェが先に抜け出しを図る。外からナリタトップロードが並びかけ、やや進路取りで遅れを取ったジャングルポケットも武豊騎手の激に応えて2頭を追う。
最後はジャングルポケットの猛追をマンハッタンカフェがクビ差で凌ぎきり先頭でゴール。ジャングルポケットにとってはスローペースと最終コーナーでのわずかなロスも響いて悔しい2着、さらに半馬身差でナリタトップロードが続き三強の決着となった。
レース映像
引用元:JRA公式チャンネル
最強世代それぞれの幕引き
脚部不安で休養
その後、脚元の不安で宝塚記念および海外遠征プランは白紙となり休養に入った。秋は連覇を目指してジャパンカップから始動することとなった。
府中ではないジャパンカップ
休み明けぶっつけで臨んだジャパンカップ。本来であればジャングルポケットにとって大得意の東京2400mで行われる絶好の舞台であるはずだったが、この年は違った。東京競馬場の改修のため、中山競馬場の2200mという変則的な条件で行われたのである。
東京最強のジャングルポケットにとってこれは不運としか言いようがなく、休み明けで体調も万全ではなかったことも影響してか5着に終わった。
引退
暮れの有馬記念でもジャングルポケットらしい走りは戻らず7着。これを最後に引退種牡馬入りとなった。
歴代でも稀に見るハイレベルな世代として挙げられるジャングルポケットらの世代だが、残念ながら次々にエース達が離脱していってしまった世代でもある。
競馬にタラレバは禁物だが、ジャングルポケットが東京競馬場を疾走する姿をもう一度と言わず何度でも見たかった。3戦3勝。たったの3レースで「府中の鬼」と呼ばれたジャングルポケットの東京最強伝説の続きはウマ娘のIFのストーリーで見せてもらおう。
ありがとう、ウマ娘。
ありがとう、ジャングルポケット。
史実のジャングルポケット
基本情報 | 1998年5月7日生 牡 鹿毛 |
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血統 | 父 トニービン 母 ダンスチャーマー(父 Nureyev) |
馬主 | 齊藤四方司→吉田勝己 |
調教師 | 渡辺栄(栗東) |
生産牧場 | ノーザンファーム(北海道早来町) |
通算成績 | 13戦5勝 |
主な勝ち鞍 | 01’日本ダービー、01’ジャパンカップ |
生涯獲得賞金 | 7億425万円 |
エピソード①種牡馬として
トニービンの後継種牡馬として大きな期待をかけられたジャングルポケットは、初年度産駒から活躍馬を輩出してその期待に応えた。
無傷の4連勝でクラシック戦線を賑わせたフサイチホウオー(ウオッカが勝ったダービーでも1番人気だった)をはじめとして順調に産駒たちが活躍し、翌年にはフサイチホウオーの全妹であるトールポピーがオークスを勝って父と同じく府中で世代の頂点に立った。
ほかに代表的な産駒としては、古馬になってから力をつけて天皇賞・春を制したジャガーメイルや11番人気でエリザベス女王杯を勝ったクイーンスプマンテ、菊花賞馬オウケンブルースリなどが東京コースに限らない活躍を見せた。
父と同じく府中でG1を勝ったのは、先述のオークス馬トールポピーと天皇賞(秋)を勝ったトーセンジョーダンだったが、どちらも東京以外のコースでも力を発揮するタイプだった。
エピソード②フジキセキと同じチームで
ウマ娘でジャングルポケットが慕っているフジキセキとは、史実において同一の馬主、厩舎、担当厩務員、主戦騎手という浅からぬ関係性。幻の三冠馬と言われたフジキセキがクラシックを前に怪我で引退した1995年から6年後、同じ勝負服を纏った角田晃一騎手を背にジャングルポケットがダービーを制覇した際には「フジキセキの無念を晴らした」と言われたものだ。
エピソード③有名過ぎる同名トリオ
ジャングルポケットと言えば、同名のお笑いトリオのグループ名の由来となっていることがあまりにも有名である。
劇場版ウマ娘には、ジャンポケ産駒・オマタセシマシタ(地方所属)のオーナーとしても知られる斉藤さんが声優デビューをされていたり、そのオマタセシマシタをモデルにしていると思しき「シマ」というウマ娘の姿も見られるようだ。
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