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【黒い砂漠モバイル】冒険日誌の物語まとめ

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【黒い砂漠モバイル】冒険日誌の物語まとめ

黒い砂漠モバイルの冒険日誌に書かれている物語をまとめています。黒モバの物語を知りたい方は参考にしてください。

目次

▲地域名をタップすると該当の物語に移動します!

バレノス自治領

バレノス自治領の達成度
第1章旅の始まり
第2章アグリス地域のボス
第3章西部警備キャンプの指揮官
第4章封印された力の解放
第5章騒ぐベリア
バレノス自治領の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
バレノス出身と言えば、今では田舎者だと無視されがちだが、以前のバレノスは楽園に例えられたほどであった。

溢れる黄金と豊かな大自然、何を植えてもよく育つ豊かな土地、そして海と接しているため海産物も豊富だった。無理に働かなくても豊かに暮らせたため、農業と釣りが些細な趣味のようなものだった。

周辺が高い山脈で囲まれており、他の国からの侵略に恐れることもなく、腹を空かす者もいない。扉に施錠をせずとも物を盗まれる恐れさえなかったバレノスの話は、もう色あせた本棚でしか見ることができない。

しかし、ある日を境にベリアの海で異変が起きた。村長のイゴール・バルタリは、これもクロン城の呪いかもしれないとつぶやいた。どこからともなくやってきた者たちが、記憶を失ったままさまよった。それぞれが独特な力の持ち主たち。闇の精霊という古代の存在とともに行動する者たち。人々はそのような者たちのことを冒険者と呼んだ。
第2章の物語はこちら
ベリアとセレンディアを行き来する貿易商人マティアスは、ガタガタする馬車を運転しながら鼻歌を歌っていた。ベリアの子どもたちが遊ぶたびにいつも歌っている歌だった。

「暗い夜にも光る真っ赤なお鼻。
赤すぎて火が付いたかと思ったよ!

草むらの中でも目立つ真っ赤なお鼻。
赤すぎてミニトマトかと思ったよ!

その途中、本当に草むらの中で光っている赤い丸が見え、マティアスは徐々に馬車の速度を落とした。さっと草むらに身を隠すインプの赤い鼻が見えた。しかし、その鼻は隠そうとしても隠せる鼻ではない。マティアスは腹の中で笑いながら、何かくれてやれる物はないかと馬車の中を探った。

その日は他の日よりも売り上げが良かった。豊穣の神アグリスの祝福のお陰か、載せておいた物が全部売れて財布がいっぱいになった。嬉しくておのずと出てくる歌に合わせてマティアスは踊った。歌いながらしばらく探してみたが、あまりいい物が見つからなかった。その時、隅にあったほこりだらけの小さな箱に目がいった。飴の箱だった。売ろうとしていたが、荷物の中で飴が割れてしまい結局売れず、隅に投げておいたのだ。

「だいぶ時間が経ってしまったから悪くなっていないかな。まあ、インプだから別にいいか。もしかしたら、インプには古い飴のほうが美味しく感じるかもしれ ない。」そんなことを考えながら、中から一番まともな飴を選んで、草むらに向かって差し出した。

「さあ、お食べ。すごく貴重なカルフェオン産の飴だ!ベリアの子どもたちも食べたことないはずだ。」

すると、草むらからもじもじしながら小さなインプが近づいてきた。マティアスの 腰にも届かないくらい小さなインプだった。歌のように、どこにいても目立ちそうな赤い鼻をしていた。村の若者たちにいじめられていたのを助けて以来、赤鼻のインプはマティアスの馬車が通る度にそっと顔を出した。

たまにあげる菓子が目当てだったかもしれないが、マティアスは彼にレッドノーズという名を付けた。レッドノーズは、マティアスも自分をからかうのではないかと最初は疑っていたが、そんなレッドノーズにマティアスはこう言った。

「自信を持て。堂々とするんだ!毎日運動して大きくなれば、お前の名前がレッドノーズだとしても、誰も笑う奴なんていなくなるさ。」

少しでも自分と違うと、最初は好奇心を持って近づくが、すぐからかう子どもたちのいたずらに傷ついた一人の小さなインプがいた。今ではアグリス地域を恐怖に追い込む凶暴なボスになったレッドノーズの話だ。
第3章の物語はこちら
慎重さ、頼もしさ、正義感、決断力、不屈の意志と言えばクリフだろう。セレンディアでもっとも尊敬される人物のうちの一人である彼は、カルフェオンとの戦争で輝かしい手柄を立てた英雄だ。だからこそ、彼がバレノスの辺境地域である西部警備キャンプへ派遣されたとき、みんなが不思議に思ったのは当然のことだった。

威嚇的な外勢の攻撃からセレンディアを守ったのも、燃え上がる城の中からジャレット姫を救ったのも、中立地帯で橋を壊し、カルフェオン軍を分断することで大勝を収めたのも、大将軍クリフがいたからできたことだった。戦争が終わると、人々は彼がハイデルで昔の王を助け、セレンディアを再整備して率いてくれると思っていた。

「なぜだ。なぜ行かなければならないんだ。どうして!」

その質問をしたのはクリフではなく、彼と長い間戦場を駆けまわっていた旧友ザビエロ・ヴィッテロだった。彼はクリフがバレノスに発つために用意した荷物を見た。大将軍の荷物と言うにはみすぼらしく、その荷物を持つ付き人さえもいなかった。彼は平然としているクリフのかわりに地団駄を踏んだあげく、疲れて座り込んだ。

ザビエロ・ヴィッテロの口から苦痛と怒りが混ざった泣き声が出た。クリフは追い出されるような者ではなかった。1日も楽な日はなかった。誰のものか分からない血と涙を被り、国のために戦場を駆けまわった。しかし、返ってきたのはたかがこんな扱い。

家に帰ったばかりの彼を、何事もなかったかのように再び戦場に向かわせたのだ。クリフの歳はもう引退に近かった。それにもかかわらず、クリフは文句も言わずに若い執権者ジョルダインが出した剣を受けた。

クリフはジョルダインに初めて会った時を思い出した。志願入隊した少年の顔はまだ幼く見えたが、目つきだけは違った。親が戦争に巻き込まれ、孤児になったと言った。誰もがそんな時代を生きていたため、特に気の毒な話ではなかった。

少年はしばらく何も食べていなかったのか痩せていた。手首も細く、武器もちゃんと握れず、訓練の時もよく倒れた。しかし、誰よりも粘り強かった。ついに彼は訓練兵の中で最も優秀な兵士として認められ、騎士の座に就いた。彼を祝いながら、国を守る軍人として何をしたいか彼に聞いた。

「カルフェオンへの復讐です。」

若い騎士は日増しに手柄を上げて中央に進出した。情勢を見極める力、突発的な状況に対処する機知、人を率いる話術など、彼の能力に目を付けていたクリフが王に彼を推奨したおかげだった。

彼はまるで待っていたかのように、恐ろしい速度で成長した。ついにかつての上官より高い地位と権力を持った彼が、クリフにバレノス西部警備キャンプへ向かうようクリフに剣を出した時、クリフは聞いた。

「何をするつもりだ。」
カルフェオンへの復讐です。

前と全く同じ返事だった。しかし、本当にあの時と同じなのか?それを知ることはできなかった。
第4章の物語はこちら
隠遁の森にはいつも霧がかかっていた。どこが始まりか分からない霧が、いつも森の中に立ち込めていた。霧の向こうからたまに聞こえてくるドシドシという音以外には、物音は聞こえないところだった。

ところが、ある日雷のような悲鳴が森の中に響いた。人間の声にしては大きく、獣よりも人間に近い悲鳴。しかし、人だと断定もできない、そんな悲鳴だった。近くにいた西部警備キャンプ兵士たちが派遣された。長く続いているロープに頼らなければならないほど、いつもより霧が深い日だった。

まもなく兵士たちは気づいた。キャンプで聞いた大きい音は近くから聞こえてきたと思っていたが、それは間違いだったということを。近づけば近づくほど、大きくなる悲鳴に兵士たちは耳を塞ぐしかなかった。ついにその声の正体が分かった時、兵士たちは逃げる事すら忘れるほど呆気にとられた。

カルフェオン南西部で生息すると言われているオーガ木の精霊たちに囲まれて殴られていた。兵士たちがキャンプで聞いた音の正体は、殴られているオーガの悲鳴だった。

オーガの肌は鎧のように堅いと言われていたが、木の精霊たちはそんなオーガを負かしていた。オーガが避けようとすると、木の精霊の枝が鋭い鞭のようにオーガの背中を叩きつけ、オーガがその枝を掴もうとすると別の木の精霊がオーガの頭を叩いていた。

ついにオーガが抵抗をあきらめて逃げると、木の精霊たちはオーガを追わなかった。かわりに木の精霊たちが集まって、とんでもない大きさの枝でオーガが塞いでいた絶壁の下を叩き始めた。叩くたびに恐ろしい音とともに石が四方に飛び散ったが、兵士たちは誰一人として逃げられなかった。息をすることさえ忘れてしまうくらい恐ろしい光景だったからだ。

ついに絶壁の中から何かが現れると、最も大きい木の精霊が枝で叩き、その何かさえ壊れて、後ろに巨大な通路が現れた。それが終わりだった。木の精霊たちは、大きい音を出しながらどこかへ向かって消えた。

これまでとは違うレベルの文明を築いたと言われている古代人、彼らが何かを守るために作った石室が、こうして世に現れた。古代の石室を調査するために、セレンディアから派遣されたジャレット・ドモンガットは木の精霊たちが壊した破片を調べた。石室を封印したの役割をしていたように見えた。これまで見たことのない文字と、見慣れない絵が描かれていた。

ジャレットは考古学者たちを集めた。それなりに名を知られている考古学者たちを呼び集めたが、誰も破片に込められた意味を解読することはできなかった。そしてエダンという者が訪ねてきた。彼はガネル、ドワーフ、シャイ族で構成された奇妙な一行に古代の石室調査権を単独委任すれば、石室内にあるものを解釈すると約束した。

古代の石室にある遺物は値段のつけられないほど貴重なものだった。特に一番奥の部屋で未知の力で浮いている遺物は、遺物に何の知識もないジャレットが見ても驚異的なものだった。

そんな遺物をおいて自分と取引をするなんて。ジャレットはエダンの話を鼻で笑って扉の破片を出した。解読できなかったら、セレンディアの姫である自分に無礼を犯したと侮辱してやるつもりだった。しかし、ジャレットの予想とは違って、エダンは迷わず破片を組み合わせてそこに書かれた内容を読み始めた。

ついに扉が開かれる。私たちはそれを食い止めることができない。予言は繰り返されるだろう。いつものように。
第5章の物語はこちら
ベリア村近くにある森に、略奪の森という名が付けられたのには理由があった。そこにはいつからかゴブリンが住みついていた。ゴブリンたちは自分たちの住まいから離れようとせず、勝手に入ってきた者を見逃さなかった。しかし足を踏み入れなければ平和だったため、みんなが適当な距離を保ちながら共存していた。不便なこともあったが追い出すわけにもいかず、我慢して暮らしていた。しかし、いつからかゴブリンたちが真っ赤な目をして、武器を手に持ち略奪の森から出始めた。

真っ先に被害を受けたのは略奪の森近くにあるエワズ農場だった。ゴブリンたちは謎の言語で叫びながらベリア農場地帯まで押し寄せてきた。被害が続くと村の住民たちは労働者として雇ったゴブリンまで疑い始めた。労働者ゴブリンたちの中でも動揺が広がった。労働者ゴブリンたちは、必死に手に入れた仕事を奪われるのではないかと心配する群れと、追い出されるのではないかと人間の顔色を伺いながらも略奪の森のゴブリンたちを誇らしく思う群れに分かれた。

しかし、いずれの群れの誰も略奪の森のゴブリンたちが何を言っているのかについて話すゴブリンはいなかった。村の自警団ハンスがいくら聞いても、住民たちに労働者ゴブリンを勧めたサント・マンジが脅しても変わらなかった。村の雰囲気がますます物騒になり、誰も家から出ようとしなかった。

ゴブリン労働者の一人であるナティシャは、自分の主人であるマリアーノのことが心配だった。マリアーノの親はナティシャに子どもを預けたまま海に出て行ったところだった。一度海に出ると1、2か月は帰ってこなかったため、この状況から幼い主人を守る者は自分しかいなかった。

街の子猫と子犬が腹を空かせているといい、自分の食べ物をあげるようなやさしい主人だった。ナティシャは幼い主人の無事を願った。ゴブリンたちの攻撃も収まり、静かな波に月光の輝く夜、ベッドで横になったマリアーノを寝かせながらナティシャは静かにささやいた。

ゴブリンの王が長い眠りから目覚めたそうです。ギアスは悪夢から生まれた者です。黒い力の持ち主を、ギ、ギアスが探しているそうです。ギアスがその者の力を手に入れるまで、誰もバレノスから出られません。もし王の口約を破って、人間に、は、話したら必ず報復を…。」

翌朝、マリアーノが目覚めたときナティシャの姿はなかった。開いた窓からカーテンだけがなびいていた。

セレンディア自治領

セレンディア自治領の達成度
第1章セレンディア北部採石場
第2章黄金ヒキガエル旅館
第3章侍従長、ジョルダイン・デュカス
第4章奪われたリンチ農場
第5章魔法使いの祭壇
第6章捨てられた廃城跡
第7章憂鬱な村、グリッシー
第8章黒結晶抽出場
第9章砂漠を渡ってきたフォガン
第10章廃墟になった双子村
第11章狂信徒の神
セレンディア自治領の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
俺の兄は、のように思えと言っていたよ!それが正解だ。木材の建物?もう昔の話だ!洪水になったら?火事でも起きたら?よく腐る性質はどうする?

あの高いハイデル城壁をみろ。純白の石で作られた城はどうだ!クハハ、全部この北部採石場から出た石で作られたんだ!仕事はきついけど、ハイデルを見ていると疲れが吹っ飛ぶんだ!

兄はまさにそういうことが生きがいだと言ったよ。ところが…。俺に悲劇が起きたんだ!

急にどこからか鉱山インプ達が押し寄せてきたんだ!押し寄せてきた上に、俺たちの採石道具を全部盗んで採石場を占拠してしまったんだよ!

今や採石場を我が物顔で扱っている。石を積み上げて防御塔を作る技はどこで学んできたのか。まったく!

馬車にいっぱい載せたはどこに持っていくのか。もう採石場で働く労働者達より鉱山インプ達に会う方が多くなっている。

兄は苦労の末には幸せがあると言っていた。しかしこの苦難がいつまで続くのか、考えるだけで恐ろしいんだ!

ハイデルに要請したが、派遣された兵士達も手が出せないんだ。このまま採石場を諦めると家族が飢え死にするかもしれない。

ああ、エリアン様よ!憐れなしもべを救いたまえ!

-ジャムカス・ウィルムスペインの友達への手紙より
第2章の物語はこちら
大抵、地域に一つは必ず話題のスポットがある。セレンディアのハイデルにある黄金ヒキガエル旅館がまさにそうだ。ハイデル最高の旅館として知られている黄金ヒキガエル旅館は噴水広場の下にある交差点にある。ハイデルのどこに行こうとあの道を通らなければならないため、黄金ヒキガエル旅館は自然と名所になった。

旅館の前には名前通りヒキガエルの置物が一つあったが、そのヒキガエルが旅館の主人であるボニー・ローレンに福をもたらしているという話もあった。さらには大事な物事の前にヒキガエルの置物を触ると物事がうまくいくという噂もできた。ヒキガエルの置物の下に、本当に願いを叶えてくれる黄金のヒキガエルがいるとも言われていた。

その噂を聞いた人々は表では子供だましだと鼻で笑っていたが、夜が更けるとこっそり旅館の前にあるヒキガエルの置物を触る人が増え始めた。

一人、二人と噂が広まると、出産を目前にした妊婦、戦争に出る軍人、豊作を祈る農夫まで、夜明けに旅館の前に集まって切に祈る人々が増えた。

ヒキガエルを触る時間が夜明けになったことにも理由があり、人々がヒキガエルの置物を触りすぎたあげく、夜明けには光が反射して本当に黄金のように輝くようになったからだ。

しかしセレンディアがカルフェオンとの戦争で降伏宣言をした後、黄金ヒキガエル旅館に悲劇が起きた。それはハイデルの街を偉ぶりながら歩き回るカルフェオンシアン商団が現れてからだった。支部長として派遣されたイソベル・エンカロシャーが真っ先に狙ったのは黄金ヒキガエル旅館だった。

イソベルはやさしいふりをしてポニー・ローレンに近づき、貿易で大儲けできると誘った。シアン商団ならメディアのシェン商団にすぐに紹介できると言い、足りないはシアン商団が貸すとも言った。一種の投資という名目のもとに…。ポニー・ローレンが貿易で大儲けすると互いに利益になるということだった。

丁度、ジョルダインがセレンディアのための資金が必要だと、ポニー・ローレンに隠密に頼んでいたこともあり、貿易商人としても成功して侍従長の信任を得る自分の未来を想像したボニー・ローレンは浮かれてその提案を受け入れた。

少額だった金額が次第に屋敷一軒くらいの金額に膨らんだが、ボニー・ローレンは大した心配はしなかった。黄金ヒキガエル旅館は相変わらず繁盛していたからだ。しかし、いつの間にか利子雪だるまのように借りた元金の2、3倍にも膨れ上がり、やさしかったイソベルが冷たい姿でボニー・ローレンに借金の返済を急き立てると、やっと彼は過ちに気づいた。

しかし、担保としてかけておいた黄金ヒキガエル旅館はシアン商団に渡されることになってしまった。旅館を引き受けると、イソベルは真っ先に旅館の象徴だったヒキガエルの置物を捨てた。うるさい人々、金もないのに時間つぶしにくる客はイソベルにはいらなかった。

不幸なことに、旅館を渡してもボニー・ローレンの借金は山積みだった。イソベルはボニー・ローレンが逃げないよう、だからと言ってどこか仕事をしに行くこともできないように旅館に座らせていつも叱りつけた。落ち込んだ顔で頭を抱えたまま、イソベルに苦しめられるボニー・ローレンはもう一つの黄金ヒキガエル旅館の象徴となった。
第3章の物語はこちら
セレンディアの首都、ハイデルではある時間になると奇妙な光景が広がる。これはジョルダイン・デュカスが宰相だったころから、カルフェオンとの戦争で負けた後に侍従長に格下げされた時までずっと続いた。

ジョルダイン・デュカスは午後4時になると急務を終わらせてしばらく散歩に出たが、その時間に合わせて彼を見るために街には老若男女問わず人々が押し寄せた。

ジョルダイン・デュカス、子どもの頃から国のために入隊して戦い大人になってからはセレンディア内外の財政と外交を担う若くて顔のいい政治家の登場に、セレンディアの人々は熱狂した。複雑な政治話に興味がない人もみんなジョルダイン・デュカスの名前は知っていた。

人々の視線などは気にせず、ジョルダインは一定の速度で急ぐことなくゆっくりとハイデルの街を歩いた。いつも最後に訪れるのは噴水広場だった。そこからはハイデルの街が一目で見えた。

もちろん彼がみんなに好かれているわけではなかった。カルフェオンとの戦争敗北した後、まだ戦争の苦痛を抱えている人々から無理に税金を徴収したためだ。

戦争の余波のせいで、まだ安定していない住民たちにあまりにも過酷ではないかというドモンガット領主の主張にも耳を貸さず、ジョルダインは戦争のせいで混乱しているのはカルフェオンも同様だという意見を曲げなかった。侍従長がもう一度戦争を準備するという噂が広がった。

夜になって太陽が沈み、夕焼けがジョルダインの壁に当たり輝いた。灰色が混ざった金髪はセレンディアの人ならありふれた髪色だったが、彼だからこそ特別に見えた。画家が描いたようなジョルダインの眉毛と筋の通った鼻をこっそり見ていた少女たちは、一度でいいから言染を交わしてみたいと口にした。

夕焼けにそって頬にできた影も、思索にふける冷たい青色の瞳も、まるで誰も近づけさせない彫像のように素敵に見えた。

ジョルダインは自分を見ている他人の視線は全く気にしていないようだった。それがまた魅力的で、ジャレット・ドモンガットは焦った。できれば大きく[ジャレット・ドモンガット]と書いてジョルダインにつけておきたいくらいだった。ジャレットがまだ幼いだったら、きっとやっていただろう。ジョルダインと婚約までしたにもかかわらず、ジャレットはいつも彼の前では消極的だった。そんな悩みを旧友のグリッシー村貿易商人、ラークに打ち明けると、彼女はこうアドバイスをした。

「侍従長は最近古代遺物に興味をお持ちのようですよ。古代の石室魔法使いの祭壇について調べているけど、うまく進んでいないみたいです。最近セレンディアのあちこちでモンスターが現れて困っているそうですよ。古代の石室の近くにはクリフ隊長もいるから、そちらに行って侍従長の力になってあげるのはいかがですか?」

ジャレット・ドモンガットは想像した。仕事を解決して、ジョルダインが喜ぶ姿を。その時は今のように後ろから彼を見るだけではなく、隣で一緒にハイデルの街を歩くかもしれない…。幸せな想像だった。
第4章の物語はこちら
マティアスがベリアの貿易商人になる前、セレンディアのリンチ農場管理人をしていた頃のことだ。

農場主はムラーナ・リンチザラ・リンチで、二人は夫婦だった。リンチ家はもともと爆弾製造として名を知られていた。しかし、戦争などで使われる爆弾などで儲かりたくないといい、ムラーナ・リンチの祖父が稼いだお金でハイデル近くにある平野をすべて買い入れた。その後リンチ大農場として有名になった。

マティアスが覚えている限り、ムラーナ・リンチはいつも疲れていた。もともと体力がなく人に会うのを避け、農場の仕事には興味がなかった。しかし彼はリンチ家の血を継いだだけあり爆弾製造が上手で、試しに作った爆弾が驚くほどの性能を誇り、ムラーナ・リンチの名声も高くなった。

一方、ザラ・リンチは農場の仕事に驚くほどの才能をみせた。彼女は体が休むことを許せない人だった。ザラ・リンチに怠慢などはなかった。その年の農事計画が決まると彼女は計画通りに動いた。もちろん大農場の作物が育つのはエリアン神の加護と自然環境の恵みがなければできないことだったが、彼女は少なくとも異変に対処する89個の方法を知っていた。

その分ややこしい雇用主だったが、マティアスはいつもザラ・リンチを尊敬した。マティアスは貿易商人になって夜明けに品物を確認し、長い旅に立つ前には必ず情報を先に入手して流行りを把握する習慣を身に着けた。これはすべてザラ・リンチのおかげだった。

そのため彼は、リンチ夫婦に対してこそこそ文句を言う人が理解できなかった。人々はザラ・リンチの気が強いためムラーナの気がくじけていると言った。その話を聞いて落ち込んだムラーナは作業室にこもり、ザラ・リンチは一泡吹かせてやると、文句を言った者の胸ぐらをつかんだ。マティアスは隣でザラ・リンチを止めるふりをしながら、一緒にその人を足で蹴った。それからは彼女にとって平和な日々が続いた。

マティアスから見るにザラ・リンチはたかが農場一つに縛られるような器ではなかった。むしろ彼女の足かせになるのはムラーナ・リンチの方だった。彼女がその気になれば、カルフェオン北部大農場のようにセレンディア北部農場をまとめて運営する、いわゆる専門経営者にもなれるはずだった。マティアスはザラ・リンチを称賛したが、かかしに吊るされそうになってからは口に出さなくなった。

その事件から四日後、ムラーナは作業室から出て、夜中に人を集めた。いつも落ち込んでいた時とは違い自ら出向いて呼び出した上に、何をしているのかと怒る人まで引っ張ってきた。そうしてみんなが集まるとムラーナは空をよく見ろと上を指さした。その時、爆竹が弾けて様々な色の花火が美しく夜空を飾った。

花火は一見人の顔のように見え、ザラ・リンチだろうと思われた。当の本人であるザラ・リンチは感動して涙をながした。その後、人々はザラ・リンチに悪く言ったことを謝り、二人の愛を疑わないと一人一人から聞いたのち、やっとうちに帰ることができた。

ザラ・リンチはいくら忙しくてもムラーナ・リンチと一緒にする夕食の時間は外したことがなかった。おそらく、ムラーナ・リンチが新しい爆弾実験をするのにが必要だと言ったら、ちょうど焼畑農業をしてみようか悩んでいたところだ、と言うくらいの人だった。

そのため、マティアスはベリア貿易商人として働いていた途中、リンチ農場が祭壇インプ達の襲撃を受けたという話を聞いて心配し、手紙を書き始めた。

[クルムホルン・ウィルムスベイン教官へ。所定の支援金をお送りします。

ザラ・リンチ夫人はきっと農場を取り戻そうとするはずです。決めたことは必ず成し遂げる方ですので、どうか避難を強いて夫人から怒られることなく心強い支援をしてくださるようお願いいたします…。]
第5章の物語はこちら
セレンディア北部平原には魔法使いの祭壇と呼ばれる謎の建物がある。固く閉ざされており誰も入ったことはなかったが、その建物が尋常ではないことは遠くからも感じられた。噂では昔、ある魔法使いが何かを封印したところだと知られていた。そこに封印されたのは古代の記録でだけ確認することができる、既に絶滅したと言われているだという話があった。

しかし、ある日祭壇インプ族が北部平原を占拠して魔法使いの祭壇が開かれたという噂が立った。魔法使いの祭壇が開かれたため、祭壇インプが出たという主張もあった。真実がどうであろうが、祭壇インプが北部農場の脅威となっていることや、魔法使いの祭壇が物騒なオーラを放っているということは事実だった。

ジョルダインはクルムホルン教官の推奨を受けた軍人を集め、調査隊を派遣した。カルフェオンに勝つためには普通の力だけでは時間がかかり過ぎてしまうため、ジョルダインはもっと早くて効果的な方法を求めていた。古代の石室はぐずぐずしているうちに先を越されてしまった。石室の遺物の力を持って行ったあの者ならきっと魔法使いの祭壇の力も求めて来るはずだ。自分が知らない何かを知っているに違いない。あの者を捕まえなければならない。
第6章の物語はこちら
モレッティ農場近くにある東部関所エルバーノ・ティト隊長が新しく赴任した。やさしいモレッティ夫人が焼き立てのパンを作って東部関所に訪れると、エルバーノ・ティトはあきれた。

「たるんでいる!民間人をこうも簡単に出入りさせて、何をしているんだ。」

東部関所のもっとも大きなイベントがモレッティ農場の収穫を手伝うことだということを知らなかったティト。彼は自分のことを前途有望な軍人だと思っていた。特にクリフがバレノスに派遣されてからは、自分の時代が来ると信じていた。戦争が終わって前より活躍する機会が減って惜しかったのだ。しかし、ハイデル近くの関所に配置されたため機会さえあれば活躍できると信じていた。

しかし、時間が経てば経つほどエルバーノ・ティトは何かが間違っていると感じた。平和すぎた。ここの東部関所での仕事は周辺の偵察を言い訳にふらふらとしながら農場の労働者たちと雑談したり、兵器を手入れするついでに農具を手入れしてあげるのがすべてだった。戦争が終わったばかりだからと自分をなだめたが、ティトと幼馴染だったアル・ルンディ昇進したという噂が聞こえてきた。次期クリフの後継者にふさわしい人物だという評価だった。結局エルバーノ・ティトは発狂した。

ある日黒い覆面を被った者たちが現れ、自分に怪しい液体が入った瓶をくれたことを思い出した。これならティトに気に入られることが起きるはずだと言われた。これは自分が飲まなければならないのかと悩んだが、飲むには怪しすぎるため先に東部関所近くにあるに数滴を落とした。すると湖はすぐ汚染された物でいっぱいになった。それは生物の形をして、信じられないほどの力を持った攻撃性のある何かに変わっていた。

エルバーノ・ティトは頭を働かせた。彼は廃城跡を何回か回った。再建のためにハイデルから何回も労働者たちを送ったが幽霊が出ると言ってみんな逃げてしまった。その後、ここは幽霊とほこりだけの物騒なところになった。エルバーノ・ティトはここが愛しくてたまらなかった。

物騒なモンスターがあふれて住民たちを脅かすとき、かっこよく登場して事件を解決する自分の姿を想像した。それには、この田舎より先にあるハイデル、特に侍従長の耳に入るくらいの強力な何かが必要だった。

ティトがしばらく悩んでいた時、アル・ルンディが東部関所に立ち寄った。彼は湖の変わった生き物を見てティトに忠告した。

「余計なことするな。」

鼻につく奴だ。貧しい農家出身で昔は自分のことを若旦那と呼んでいた奴だった。「余計なことするなって?お前こそ余計なことをやらかしてしまったんだ。その対価を払ってもらおう。」エルバーノ・ティトはアル・ルンディに「廃城跡に行ってみないか」と誘った。

入ったのは二人だったのに、帰ってきたのは一人だった。その後、ずっとアル・ルンディの傍を離れなかったタカが廃城跡周辺をぐるぐると回った。エルバーノ・ティトは自分が成し遂げた結果に満足した。
第7章の物語はこちら
今日も空は暗かった。相変わらず地面はどろどろし、四方からはフォガンとナーガの鳴き声が聞こえた。グリッシー村より哀れな村はないだろうと住民たちは嘆いた。

以前のグリッシー村はいつも日差しが暖かくてきれいな川が流れる住みやすい村だった。その時もナーガ族が近くに住んでいたが、自ら文明を築くほど賢い種族だったため、いい関係を保っていた。村の特産品がナーガの彫像であるくらいだった。

そんなグリッシー村がいつから人々に避けられる村になったのだろう。

カルフェオンとの戦争で敗北してからか、それともその後カルフェオンによって強引に抽出場を建てられてからか。それとも、ある日突然砂漠を渡ってきたフォガン族がナーガ族を追い出してからか、村で急に爆発事件が起きたからか。血眼になってフォガン族を追い出すために奮闘した元村長のドナトが急に消えたからか…。

もうこんな暮らしは嫌だ、これは人の生き方ではないと新しく赴任したフレハラウ村長に文句を言っていた人も、教会に行ってエリアン神に切に祈っていた人も、いつの間にか何もかもあきらめたように無表情で黙々と自分の仕事をやるようになった。

グリッシー村は泥だらけの地面を踏む音と抽出場労働者たちの苦しそうな咳の音だけが響いていた。
第8章の物語はこちら
戦後セレンディアがカルフェオンと結んだ屈辱的な条約には黒結晶抽出場に関する項目も含まれていた。セレンディアから出る黒結晶をすべてカルフェオンに捧げるという内容だった。カルフェオンはグリッシー村周辺に抽出場を建てて黒結品専門家ドーソンを派遣した。彼は貪欲な者だったが、カルフェオンで黒結晶専門家としてそれなりに高い地位を持っていたため、じきに議会や高い地位をもらえるのではないかと期待した。

しかし予想とは違ってカルフェオンからはるか遠く、ハイデルからも近くないセレンディア南部のグリッシー村に派遣され、彼の機嫌が悪くなった。そこで彼は内密にハイデルのジョルダイン侍従長と連絡する方法を探した。カルフェオンに関する役に立つ情報を渡すと流したのだ。そうして出会ったジョルダインは予想より優れた者だった。噂とは大げさに伝わるものだが、ただの見かけ倒しだと思っていたのに名ばかりの者ではないようだった。

しかしジョルダインが一つだけ見逃したことがあった。ドーソンは骨の髄までカルフェオン人で、出世のためには信念を捨てることなどは全くためらうことのない者だった。もちろん、ジョルダインは自分の計画をすべて彼に公開してはいなかったが、断片的な情報から全体像は見えた。ドーソンは速やかに動き出した。

彼はまず、ドモンガット領主に手紙を送った。

内容は「ジョルダインが怪しいことを企んでいるようだが、それがセレンディアとカルフェオンの平和を破るのではないかと心配だ」ということだった。「もしもジョルダインの行動によって、カルフェオンに誤解を招き、それが領主様の意志だと受け入れられるとどうなるか分からない」とも付け加えた。「辛うじて生き残ったジャレット姫のことを考えるべきだ。自分はカルフェオンの者ではあるが、住み慣れたセレンディアを第2の故郷のように思っているので気にかかる」と言った。

さすがに効果があった。長い人質生活で肉体も精神も衰弱したドモンガットはその話に怯え、ドーソンに助言を求めた。ドーソンは自分のせいで、侍従長と領主の仲が悪くなるのではないかと困ったふりをした。ドモンガットは焦ってドーソンに言った。自分もジョルダインが物事を強行しすぎているようで不安だ、自分は何の関係もない、と何もかも打ち明けた。

ドーソンは、「それなら自分がカルフェオンにうまく話しておくから、正式告発状を用意してほしい」と言った。ジョルダインを食い止めなければならないということは既に明らかなものであり、これを機にドモンガット領主の意見も伝えておけばこの先安全だろうという理由からだった。ドモンガッドは喜んでその話に同意し、すぐカルフェオンからも伝令がきた。不穏な勢力を排除したことに対する称賛と、すぐ兵士たちが到着するという話も一緒に。ジョルダインが抽出場に訪問すると、約束した日もちょうどその頃だった。

「何が起きているのかも知らずに普段のように顔を合わせ、自分の計画が水の泡になったことに気づいたときどんな表情をするだろうか?信じていた者裏切られた気分は?事が終わりに近づいていると思っていたのに、基盤から徐々に崩れ落ちる絶望がその顔に染まる…傑作だ!」

ドーソンは久しぶりに心が騒いで眠れなかった。
第9章の物語はこちら
悲劇はいつも突然に訪れる。バレンシア砂漠に生息すると知られていたフォガン族がフォガンの王子ティティウムを先頭にセレンディアまで入り込み、ナーガ族を追い出した。

清い水が流れた川が泥だらけの湿地に変わった。怪しい緑色の霧がグリッシー村まで入ってきた。それでなくても近くにできた抽出場のせいで、村の雰囲気があまりよくない時だった。

ナーガ族は強く対抗したが、フォガンの力には敵わなかった。ナーガ族はフォガンを避けて沼地まで逃げてきた。清い水でのみ暮らしてきたナーガ族は、苦しくて悲鳴をあげた。ナーガ族とフォガン族の戦いの音が絶えなかった。

どうしてフォガンたちが砂漠とは全く違う気候条件であるここまで流れ込んだのかは明らかにされていない。フォガン語が上手なマウルが話かけてみたが、彼らはひたすら「ナーガ族が嫌い」という言葉だけを繰り返しているという。
第10章の物語はこちら
グリッシー村は一度移住したことがあり、以前村があったところは、現在グリッシー廃墟と呼ばれている。今のグリッシー村と構造が似ていたため、かつては双子村と呼ばれていた。

グリッシー村の移住はセレンディア内でも大事件だった。周りの村でも揺れを感じるくらい巨大な爆発が一回あったが、幸いなことに爆発がある前に村の住民たちは移住していたため、事故を免れた。

しかし、妙なことに当時村長だったドナトが姿を消してしまったのだ。彼の旧友である錬金術師フレハラウと自警隊が昼夜を問わず周辺を探し回ったが、何の手がかりも見つけられなかった。

グリッシー村の爆発は、禁じられた錬金術によるものだという推測が錬金術を扱う者たちから出ると、ジョルダインはセレミオ調査官として派遣した。
第11章の物語はこちら
ダニエラ、お願いだ。父さんの話をよく聞け。絶対あの橋の向こうにある修道院に近づいてはいけない。仕事はしなくてもいいから、しばらくは家でじっとしてなさい。もうここから離れる時が来たようだ。妻の墓をここに置いて行きたくないが…。お前のことを考えたら今すぐにでもここから離れなければならない。

昼間だからと安心してはならない。大げさだって?ダニエラ、父さんは見てしまったんだ。夜中に修道院から来た狂信徒が、雷のような大きい音を出すアックスを打ち下ろして人々をむやみに連れ去っていくところを。本当に恐ろしかったんだ。

知っているだろうが、デルニールはこの農場の主だが、農場のことなんてそっちのけだ…。そんな者にいつまでも頼ることはできない。

荷物をまとめて、いつでもここから離れられるように用意しておくんだ。まだどこに行くか決めてはないが、どこに行ってもここよりはましなはずだ。狂信徒に連れ去られた人々は誰も帰ってこなかったということを君も聞いただろう。あいつらはきっと人間じゃない

あいつらを率いる者はマスカンという奴だそうだが、狂信徒を率いるくらいの者だ。どれほど極悪非道な者かなんて見なくても分かる。彼らが仕える神もきっといい神ではないはずだ。

ダニエラ、俺にはもう君しかいない。君に何か起きたら、俺はもう…。そうか、君が理解してくれてなによりだ。」

-デルニール農場、カルロ・デローズダニエラ・デローズの会話より

中立国境地帯

中立国境地帯の達成度
第1章監視塔の秘密
第2章中立地帯のオークたち
第3章デルペ騎士団とハーピー
第4章目には目を歯には歯を
中立国境地帯の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
中立国境地帯にはクリフがカルフェオンとの戦争時に切ったがある。高くそびえ立つ監視塔には占領国によって騎士団が駐屯することもあったが、戦争が終わった今はカルフェオン騎士団が監視塔を守っている。ザビエロ・ヴィッテロは監視塔に接しているセレンディア南西部関所の責任者をしていた。親友クリフがバレノスに左遷されると中央に幻滅して、もっとも辺境にある地域に志願した。

戦争は終わったが、国境地域は警戒を緩めることができなかった。しかし、監視塔にカルフェオン騎士団が駐屯してから、怪しいことが起きた。

最初は中立地帯に生息していたオークたちの数がどんどん増えた。ついには監視塔を越えてザビエロがいる南西部関所までもオークたちが現れた。問題児のアノンがオークを人だと勘違いして近づき、怪我を負いそうになった事件以来、警備も2倍に増やした。

どうもカルフェオンから来たと言われている騎士団が疑わしかった。カルフェオンにある騎士団はデルペ騎士団とトリーナ騎士団の二つだったが、監視塔にいる騎士団は服装が全く違った。物知りの兵士と一緒に途絶えた橋まで行って、遠くから監視塔の入り口を守っている者をこっそり見張った。兵士はその者を見て首をかしげ、影の騎士団のようだと言った。

「影の騎士団?」
「カルフェオンで誰にも気づかれずに事件を処理する時、影の騎士団が動くそうです。ほら、国でおおやけにできないこともあるじゃないですか。」

後ろ暗い、汚い仕事のことだった。しかし、隠密に動いている騎士団だというのに、まるで自分の存在を知らせようとしているかのように堂々としていた。その瞬間、ザビエロは影の騎士と目が合った気がした。

影の騎士と自分の距離は離れていたのに、顔まで隠すヘルムに真っ黒な服を着ているにも関わらず、ヘルムの中の真っ赤な目がまるでザビエロを貫こうとしているようだった。兵士が説明を加えた。

「あっ、影の騎士団の名前を使うところがもう一つあります。闇の君主ベルモルンの名を聞いたことがありますか?間の君主に仕える者たちも影の騎士団と呼ばれていました。まあ、彼らが実存していたかさえ不明ですが…。」

兵士は話の途中で顔をしかめて、をふさいだ。

「ところで、監視塔からずっと変な煙が出ていますが、ひどい匂いですね…。」
第2章の物語はこちら
偵察隊員のデルフィーノ、クリス、カル、アルレックは中立国境地帯で任務を遂行していた。最近、オークたちが妙な行動をしているとの報告を受けていた。自称オーク専門家だと主張するバーディー隊長が何かの異変が起こっているに違いないと言い、4人を偵察に送った。

彼らはブレディー砦に入る前、近くの森で休んでいた。既に遅くなってしまい一晩露営をすることにした。

「クリス、風が強いようだな。一雨降りそうじゃないか?」
「今日もジャーキーとジャガイモのスープですか?もう…。」
「石でちゃんと塞いでおいたから、火は問題ないけど。煙たいのも困るからな。」
「そっちの皿くれよ、カル。草の根を食べたくないなら、これでも感謝しろよ。」
「くんくん、ところで変な匂いがしないか?なんの匂いだ?」

互いに自分が言いたいことだけを言っているのに、長い間一緒に暮らしたせいか妙に話が進んでいた。適当に食事を済ませるとみんなそれぞれ座って持っている装備の手入れをした。剣がまだ鋭いか確認して、弓弦が弛んでいないか手入れした。そうしてそれぞれの仕事をしていた時、アルレックがこっそり持ってきたウクレレを取り出すと、みんなが驚愕した。

「おい!遊びに来てるんじゃないぞ!」
「俺もそこまでバカじゃない。音楽は俺の運命ってもんだから、仕方ないだろ?ひと時も離れられないんだよ。」
「まさか、本当に演奏するつもりじゃないですよね?」

アルレックはいつも楽団に入りたがっていた。しかし、音楽に専念するには金が必要だったし、何より楽器の値段が高かった。彼が持ってきたウクレレも、おいてきたギターも楽器をまねして作った物だった。だから、アルレックは金を稼ぐために志願入隊した。

「俺を信じろって。」

アルレックはウィンクをして演奏を始めた。ささやくようなとても小さな音が出た。すると、むしろアルレックを叱っていた3人が困ってしまった。今すぐにでも謡いだしそうなくらいの旋律だったからだ。デルフィーノが笑いながら言った。

バーディー隊長がいたら、そのウクレレは楽器じゃなくて、武器になって俺たちを殴っていたはずだ。」

円になり座っている4人、ぱちぱちと燃える焚き火、そしてウクレレの音とアルレックの鼻歌が周りを温かく包み込んだ。それぞれ違う胸騒ぎが心をよぎった。

クリス、また両親のこと思い出して泣くんじゃないよな?」
「な、泣かねぇよ!」
デルフィーノ、弟の調子はどうだ?」
「結構よくなったみたいだ。たまに歩いたりもしてるみたいだし。カルは今回の仕事が終わったら冒険に出るんだって?」
「ふふ、はい。メディアから行ってみようと思ってるんです。」
「そうか、もう明日で終わりだしな。皆、ゆっくりしてろ。オークがおかしいという噂もキノコを食べすぎたからじゃないか?」

アルレックが演奏を終わらせながら答えた。
「そう、大したことじゃないよ。」

-

楽しかった時間は終わった。

カルは極力下の方を見ないようにした。そこにはクリスの体が奇妙に折られていた。喀血も完全に止まった。カルは震える体を止めようとした。彼の前には巨大なオークが憤怒した姿で立っていた。

真っ赤な目に見るからに威嚇的な武器を持って、開いた口から見える黄色で大きい歯から唾が流れた。夜が開けてブレディー砦に進入したが、そこにはオークたちが待ち構えていた。まるで誰かの命令を待っているように整列している姿は息が止まるほど恐ろしい姿だった。攻撃は一瞬だった。

確かにバーディー隊長は、オークは自分が武器を持っていることさえ忘れて拳を食らわせたり、キノコの食べ放題が一生の目標だというくらいだから、オークの前で怯えなければ問題ないと言ったのに。カルは自分も知らない間にしり込みをしてしまった。一歩ずつ後ろへ動くたびにオークがもっと近くまで近づいてきた。もう一歩動いた。すると後ろに硬い何かが引っかかった。行き止まりだった。もう逃げ場はない。オークの武器が高く振り上げられた。カルは目をつぶった。

「カル!逃げろ!

向こうの上の方からアルレックの切羽詰まった声が聞こえた。目を開けるとアルレックが放った矢に撃たれたオークが怒りの悲鳴をあげていた。

正確に首を狙ったのに致命傷どころかオークを怒らせただけだった。しかし、おかげでカルに向かっていたオークの目を引くことができた。カルは動けなくなった足を無理に動かしてアルレックのいるところに走った。アルレックが上から綱を下ろした。追ってきたオークに足を引っ張られる寸前に彼の手を掴むことができた。

「はあ、はあ。」

カルは息を切らした。しかし安心できない。二人を逃したオークたちが探し回るドシンドシンとする音が聞こえた。オークは確かに変異した。オークたちが攻撃性を持っているなんて噂は可愛いものだった。どこから来たのか正体の分からないオークたちがみんな中立地帯に集結していた。まるで何かを守るかのように監視塔周辺を囲んでいた。アルレックが急いでカルに聞いた。

「カル、カル。どこだ、信号弾はどこにある?」
「ク、クリスが…。」
「しっかりしろ。どんな手を使ってでもここが危険だということを知らせなければならない。わかったな?おい!しっかりしろよ!」

アルレックがカルの顔を強く殴った。するとカルが正気を取り戻した。両手で彼の頭を掴み、目を合わせてアルレックが言った。

「俺がオークたちの目を引く。その隙にお前はこっそり下に下りて信号弾を撃つんだ。わかったな?セレンディアまで見えるようにだ。」
「は、はい!」
「お前はただ信号弾を撃つだけだ。簡単だろう?そしてバーディー隊長に帰って言え。監視塔から出る変な煙がオークたちを操っているんだと。監視塔で何か危ないことを企んでいると。お前は俺たちの中で一番足が速いだろう?お前ならできる。」

カルが何回も首を縦に振った。彼の顔から涙が止めどなく流れた。一番若い者だった。昨日までは、この仕事が終わったら冒険に出るんだとウキウキしていたのに。アルレックはカルを起こした。カルが少しもじもじした。アルレックは彼が何を言おうとするのかに気づいて悲しそうに笑った。俺たち、もう一度会えるかな?

アルレックが彼の背中を押した。カルはふらふらしたが、すぐに走り始めた。後ろからオークたちがものすごい勢いで迫ってくるのが感じられた。カルが信号弾を撃つまで、そして彼が安全に遠くへ逃げるまでできるだけ長くを引かなければならなかった。

矢は既に使いきった。剣はとっくにオークの手で壊されてしまった。残っているのは木を削って形だけをやっとまねしただけのウクレレだけだった。アルレックはウクレレを持って深呼吸した。最後の演奏だ。

-

中立地帯から赤い信号弾が撃たれた。それは戦争またはそれに準ずる緊急事態を意味した。バーディーが偵察隊員たちを送ったところでもあった。ブレディー砦でオークとの大戦闘が起きた。しかしオークたちは引こうとしなかった。軍の被害が大きくなると、セレンディアではオークがセレンディアまで来ないのなら応戦しないようにとの指令が出された。

その後、オークキャンプバーディーというものが訪ねてきた。本来セレンディアのある部隊で隊長をしていた者だったが、オークとの戦闘後、突然その職を捨てて一人でここに訪ねてきたという。帰ってこられなかった自分の仲間たちと彼らが見つけた何かを探すために。
第3章の物語はこちら
中立地帯とカルフェオン北部の境界には天恵の要塞と呼ばれるデルペ騎士団城がある。デルペ騎士団はカルフェオンが王政だったころ、王の直属護衛軍でガイ・セリック王の名前をとってセリック騎士団という名称を使っていた。

いつも戦争の最前線で王のため戦っていた騎士団は、30年間続いたバレンシアとの戦争が敗北に終わり、その際に貴族たちの主導で共和政府が立てられたため存続が危うくなったりもした。

そんな彼らを救ったのはエリアン教の修道院長のレハード聖人だった。彼は指揮権を失ったデルペ騎士団をエリアン教団に編入させ神聖騎士団として改めた。もちろん、教団は私的財産や軍隊を持つことができないため、エリアンの小羊を保護して神に仕えるという名目のもとだった。

しかし、議会は教団の力が強くなりすぎることをけん制したがった。そのため議会は、デルペ騎士団の多くをカルフェオン最大の穀倉地帯である北部大農場の守護と、カルフェオンへの密入国者を防ぐためだといい、国境地帯に送った。

そうして設けられたデルペ騎士団城の近くには、昔からハーピーたちが住んでいた。ハーピーのボスは代々カランダという名前が付けられた。中でも一番優れている雌だけがなれるカランダは、ボスの在任期間が10年くらいだと知られていた。しかし最近カランダ交代する事件があった。前力ランダのボスの在任期間が5年も経っていなかった。規則が破られたということは変化を意味する。

それからハーピーたちは突然デルペ騎士団城を攻撃し始めた。尾根に沿って高い地帯に建てられたデルペ騎士団城は視野が広く下からくる敵を食い止めるには適していたが、飛行する敵を食い止めるには不向きだった。騎士団では手に負えず、セレンディアからカルフェオンへ行くためにはデルペ騎士団城を通るしかなかったため、人も物資も行き来できなくなった。

ハーピーはもとから知能が高い種族ではあったが、最近の攻撃ぶりを見るとよく訓練された軍隊のようにも見えた。まるで兵法に詳しい者から指示を受けているかのようだった。デルペ騎士団内では新しいカランダ反乱を起こしたのではないかと推測したが、彼らのうち何人かが、あるものを見たという。

ハーピーを連れてきた謎の男が、警告とともにブレゴ・ウィリアー軍団長を脅す姿を。
第4章の物語はこちら
会議室には沈黙だけが漂った。会議室に置かれた長いテーブルの両端にはマーガレットエルグリフィンが座って互いをじっと見つめていた。

二人はデルペ騎士団城の中で犬猿の仲だと言われていた。もちろんエルグリフィンの一方的なマーガレットに対する悪感情に近かった。マーガレットはいつも自分の意見にことあるごとに反対するエルグリフィンにエリアン神の話に耳を傾けるようゆっくり説教し、エルグリフィンはそんなマーガレットの髪をすべてむしり取ってやりたかった。そして二人の間に座っているジャロンは居ても立っても居られずに二人の顔色をうかがっていた。

自分はどうしてこの会議に参加することになったのだろう。どうりでハーピーに連れ去られる夢を見たと思ったら、こんな有様か。ジャロンはこっそりここから抜け出そうとしていた。恐るおそる椅子から少し体を動かした。

「座れ。」
「はいっ!」

視線は相変わらずマーガレットに固定したままのエルグリフィンが冷たく言うと、ジャロンはさっと姿勢を整えた。そして目の前に置かれた会議室のテーブルにある木の年輪をすべて数えるかのように集中した。今日ここで会議が召集された理由はクルト族誘拐された住民の救出作戦が目的だった。しかしマーガレットとエルグリフィンの相変わらずの対立により会議の進歩は全くなかった。

マーガレットはクルトに何か事情があったに違いないと言い、救助隊を派遣した後話してみようという入場だった。エルグリフィンはクルトの事情などどうでもいい、先に攻撃したのは奴らだから今すぐ討伐隊を派遣して、二度と逆らえないように討伐するべきだと主張した。エルグリフィンは机を軽く叩いて口を開いた。

「ジャロン作戦兵。誰の話が正しいと思う?」

その瞬間、ジャロンは世の中で最も不幸なシャイ族は自分だと思った。エリアン様よ、これまで何度か礼拝をさぼったからこんな試練を与えるのですか。早朝祈祷の際に居眠りをしたから罰を与えるのなら、懺悔してこれから献金もちゃんと出します。ジャロンが一瞬この世で一番信実な信徒となっていた時、会議室の扉が開いてブレゴ・ウィリアー軍団長が入ってきた。

氷河期のように寒かった雰囲気が一瞬で暖かくなった。エリアン神がまだ自分を捨てていないことに感謝しながら、ジャロンは尊敬の目でブレゴ軍団長を見つめた。戦場から戻り整えられていない長い金髪は、まるで神が送った使者のように後光がさして輝いていた。

結論は?」
討伐隊を送らなければなりません。」

会議の結果を聞く軍団長の話にエルグリフィンはずうずうしく答えた。マーガレットは慣れているように落ち着いて話した。

「しかしまずは会話です。彼らもエリアンの小羊、それなりの理由があったからでしょう。」

エルグリフィンがもううんざりだという顔でマーガレットを見つめた。デルペ騎士団の所属が教団に移されてから、自分の実力と冷静な判断ではなく神への祈り信仰を基準とする者たちが一気に増えた。

一体それが戦場でなんの役に立つんだ?戦闘が起きるのも神の意志、生き残るのも神の意志、負傷したり死んでしまうことも全部神の意志ならすべてのことは個人の努力とは関係なく、どうせ起こることだということか?以前マーガレット質問した時、彼女は堂々と答えた。

「エリアン様はすべてを見て、すべてを知っています。私たちが成してきたことは、結局エリアン様の立派な子孫になるための過程なのです。」

嫌なことを思い出したエルグリフィンは軍団長に向かって口を開いた。

「軍団長、ハーピークルトも尋常ではありません。彼らは話が通じる状態ではないし、これ以上時間が過ぎると人質が危険です。」
「討伐隊はもっと大きな紛争を引き起こすだけです。それとも救助隊を送って…。」
「救助隊?連れ去られた人質たちの中には戦闘ができない者も多い。何の摩擦なしに救出するとしても無事帰ってこられると思っているのか?どうせ戦闘は避けられない。」
「しかしまだ彼らがなぜこんな行動をしたのか理由が分かっていません。私たちに伝えたいことや要求があるかもしれないのに、討伐隊を送ってしまったら取り返しがつかなくなります。」

二人の会話を聞いていたブレゴ・ウィリアー軍団長がもうやめろと言わんばかりに手を振った。エルグリフィンは荒くなった息を落ち着かせてゆっくり話した。

「先に攻撃したのは奴らの方です。私たちが奴らの事情を構う必要はありません。」

ブルゴ・ウィリアー軍団長はしばらく悩んでからうなずいた。やっと長引いた会議の結論がでた。軍団長はエルグリフィン討伐隊の編成とともに人質救出を最優先するように指示を出した。しばらくデルペ騎士団城を攻撃するハーピーたちはマーガレットが担当することになった。マーガレットはエルグリフィンに言った。

「エリアン様のご加護がありますように。」

エルグリフィンは何も言わずに会議室から出た。その姿をみたブルゴ・ウィリアー軍団長はジャロンに言った。

「活発な議論は戦友愛とともにいい結果を導き出すものだ。マーガレットエルグリフィン、二人の気はよく合ってるな?」

一体どこか?危うく軍団長に呆れた顔をするところだったジャロンは、辛うじて笑ってみせた。満足げに笑っているブレゴ・ウィリアー軍団長をみて、もしかしたらデルペ騎士団城が平和でいられた理由は、ブレゴ・ウィリアー軍団長の無関心が役に立ったかもしれないとジャロンは思った。

カルフェオン北部

カルフェオン北部の達成度
第1章崩れた北部大農場
第2章シャイ族の村、フローリン
第3章ブリの木遺跡に隠された
第4章大都市カルフェオン
第5章エリアン教団と捨てられた地
第6章トリーナ騎士団
カルフェオン北部直轄領の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
善意とやさしさは豊かさから出るというが、まさにカルフェオン北部大農場のことではないだろうか。カルフェオン最大の穀倉地帯として選ばれるカルフェオン北部大農場は収穫量が多いことでも有名だが、季節ごとに見事に咲きほこるを見に来る観光客も後を絶たない。

肥沃な土地は何を植えてもよく育ち、ここの住民たちは大した心配事もなく1年を過ごした。熾烈な競争をせずとも豊かだったため、商人たちも互いを助け合いながら暮らしていた。北部大農場がこうして平和で豊かにいられたのは肥沃な土質も大きな役割を果たしていたが、大農場の所有者ノーマン・レートの手柄が大きいと言える。

彼女はカルフェオンでも指折りの名門レート家貴族出身なのにも関わらず、農場の仕事も自らこなしながら隣人を尊重して質素な生活を送っていた。多忙なときでも住民たちにいつも細かく気を使い、特に大農場に若い家族が増えることは彼女の些細な喜びでもあった。住民たちはいつもノーマン・レート尊敬し、成長期の子どもたちには人生の模範になる人物だった。

しかし、そんな住民たちの中でも悪い関係というのは生まれるものだが、その中心には雑貨商人マリクがいた。間抜けなマリクとも呼ばれる彼は、名前以上に間抜けなことが多く、何人かは彼の名前が本当にマヌケだと思っている。人より2倍は大きいジャイアント族として生まれたが、尻が重くて他人との社交よりは一人で空想し、何か変わった物を作ることが好きだった。

ノーマン・レートはマリクの薬作りの腕が優れていることに気づき、働く歳になると商人なら誰もがうらやむ雑貨商店を彼に任せた。一部の人はそれが気に食わなかったようだが、ノーマン・レートの決定事項にはむやみに文句を言うことはなかった。そのため、マリクに対する公然とした争いが増えた。

もちろんノーマン・レートがいない時を狙って巧妙にいじめていたが、マリクは辛くてもノーマン・レートに告げ口はしなかった。これ以上彼女に迷惑を掛けたくなかったからだった。いじめに気付いた装備商人ラキアとプレゼント商人パセニアが、時々マリクをいじめる人を叱ったが、二人まで背を向けた事件があった。

マリクは自分のことを信じてくれるノーマン・レートのになり、誇らしい存在になりたかった。ある日突然、北部農場地帯の一箇所が崩れ落ち、その中にあるワラゴンの洞窟が現れたとき、真っ先に良いチャンスだと思った。ワラゴンたちの堅い皮大きい口農業の役に立つと思ったからだ。普段なら舌打ちするだけの人々も、この時ばかりは怒りをあらわにした。敷地が崩れ、多くの住民たちが洞窟の中に閉じ込められたり行方不明になったためだ。

救助隊が立ち上げられ、カルフェオンからも急いで兵士が派遣されている中、マリクがついにワラゴンの卵を大農場の中に持ち込んでしまった。怒った住民たちがマリクを追い出すため詰めかけた。ノーマン・レートが止めなければ危険な状態に陥るところだった。災害が起きたのに、救助を手伝うどころかワラゴンの卵を持ってきたマリクを、人々は理解できなかった。マリクと北部大農場の住民たちによる葛藤が深まっていた。
第2章の物語はこちら
カルフェオン北部にはシャイ族の村フローリンがある。シャイ族は自分たちの村を行き来する者を制限したことはないが、フローリンはなぜか未知の村のイメージを持っていた。その理由として、まるで緑豊かできれいな森の一部のような、フローリン村ならではの不思議な雰囲気もあったが、もっとも大きな理由はこれほど多くのシャイ族が集まるところは、ここでしか見られないということだ。シャイ族は他の種族に比べて体が小さくて細いが、実際の年齢とは関係なく9才から10才くらいの子どものように見えた。

そのため実際シャイ族はいじめにあうなどして、昔から森の奥に住んでいた。しかし時代が変わり、隠れて暮らすことに限界を感じたシャイ族は、カルフェオンで行った他種族の帰化政策により、安全を保障するという約束の下でカルフェオン領に帰属された。

今やどこに行っても1人や2人シャイ族を見かけるが、見た目通りの可愛い性格ではない。彼らは一度決めたことは何があっても必ずやり遂げる、よく言えばひたむきな、悪く言えば意地っ張りなところがあり、一匹狼のように、ストレートな性格のため大勢でする仕事にすぐ飽きた。

他の種族と長く暮らしたシャイ族ならまだしも、彼らは基本的に敬語ができないため、よく誤解を招いた。(逆に年上のシャイ族なのにも関わらず、見た目では分からないため他の種族から無礼を受けることもあった)

彼らは薬草を見つける才能があり、その薬草をどう活用するかもよく知っていた。そして薬草の効能を試すという口実でさりげなくいたずらもした。このようなシャイ族の特性からできたことわざも多い。

人間社会でシャイ族に関する最も代表的な格言は「シャイ族が親切に施す好意はまず疑うべし。それが薬草に関するものなら尚更。」で、

ジャイアント族の中では「小さなシャイ族を無視するべからず。」があり、獣人族には「我らが良き友、シャイ族は必ず借りを返す。」という格言がある。

シャイ族の薬草に対する実験は種族を選ばない。もしフローリン村に行く機会があったら、シャイ族がタダでくれる物は5回くらい疑うべきである。
第3章の物語はこちら
フローリン村の近くにはカルフェオンで出入りを統制しているブリの木遺跡がある。そこはブリの森と洞窟でつながった巨大な遺跡だが、驚くことにブリの木にある一部の遺跡はまるで古代兵器のように動くという。彼らは発掘調査が活発に行われている洞窟を守っているようで、考古学者たちの間では番人と呼ばれている。

普段は本当に遺跡のように固まっているが、侵入者を見つけると猛烈に攻撃するため注意が必要だ。ここを研究しようとした考古学者たちは番人のせいで調査が難航して撤収したが、最近話題の考古学者マルタ・キーンは常住しながら研究している。

ただし、そんなマルタ・キーンもいまだブリの木洞窟には入れていない。それは力ルフェオン軍が厳重に守っているからである。そこで見つけられたのが何かさえもまだ知られていない。

記録によると、ブリの木洞窟カプラス洞窟はもともと一つにつながっていたという。しかし、雷のような轟音とともに地震が起きて、二つの洞窟が分離された。その理由として、今、カプラス洞窟を埋め尽くす闇の精霊のせいだという説がある。

ある力から生まれた闇の精霊たちが、ブリの木の下にある隠された遺物の力を手に入れようとしたとき、それを守るために洞窟が分離されたという話だ。遺物を守護する力がどれほど堅固なのだろうか。悪名高い錬金術師力プラスもブリの木の遺物を狙ったが失敗したくらいだ。
第4章の物語はこちら
カルフェオンは光の神エリアンに仕える一神教の国だ。エリアン教の創始は、王国ができるずっと前までさかのぼる。創始者や正確な由来は見当たらないが、字が発明され、その教えが書かれた教理書が伝えられている。教理書によると、地を見守っていたエリアン神が自分の力が込められた黒い石を送り、この世を創造したという。黒い石の力はとても強く、古代人たちは輝かしい文明を成したが、謎の理由によって滅亡したと記録されている。

エリアン教では滅亡の理由を、神から授かった力の恩も知らずに神の権威挑んだためだと言う。そのため入門書の最初のページにこう書かれている。「常に謙遜で質素に暮らさなければならない。」

もともと教理書に書かれていた黒い石とは神の息吹もしくは加護だったが、大陸を襲った伝染病を研究していた途中に黒い石の驚くべき能力が発見され、いつの間にか教理書の内容もこっそり修正された。エリアン教を信じている多くのカルフェオン国民は教理書よりは司教や司祭の説教を聞いているため、変更された内容に気づかずに疑問にも思わなかった。

そしてエリアン教はバレンシアが当たり前のように持っている神の証、黒い石を取り戻すと主張した。エリアン神は、カルフェオンのために授けた贈り物をバレンシアが強奪したように話を作り変えた。少し考えてみれば神の贈り物である黒い石がなぜカルフェオンから遠く離れているバレンシア大砂漠に落ちたのか、どうしてエリアン神に仕えるカルフェオンには黒い石の欠片も出ないのか、など疑う余地がいくらでもあったが、そういうものは巧妙に隠された。

黒い死と呼ばれる伝染病が人々の理性を麻痺させた。貴族たちにはそんな人々の怒りをぶつける場所が必要だった。エリアン教の主張はいい口実だった。若き王、ガイ・セリックを筆頭にバレンシアとの長い戦争が始まった。しかし30年間の戦争は砂嵐による自然の偉大さを思い知っただけで、うやむやに終わった。カルフェオンの損失が大きい戦争だった。

しかしその長い戦争が終わるとカルフェオンはさらに黒い石を欲しがった。エリアン教も、貴族たちも、王も戦争で黒い石のすさまじい力を見たからである。

そして再び、周辺国を対象にした戦争が始まった。今回は欲心が理由だった。カルフェオンともっとも近いケプランが最初の犠牲だった。採鉱で有名だったケプランはカルフェオンとの戦争が始まると城門を開いて降伏した。

しかしセレンディアはそう簡単な相手ではなかった。そこには大将軍クリフがいた。カルフェオンに比べてセレンディアは遥かに兵力が小さかったが、クリフの戦略によってセレンディアはいつも優位に立っていた。そこでカルフェオンは、一部兵力をこっそりハイデル城に向かわせて奇襲し、騒ぎに紛れてドモンガット王を拉致した。カルフェオンはセレンディア王を人質に捕らえ条約書をつきつけた。

そうしてカルフェオンは他の国の黒結晶をかき集めた。彼らが手に入れた盛大な富と権力は醜い欲心戦争で築き上げられたが、歴史は勝者に寛大なもの、カルフェオンの華やかな繁栄は美しく飾られた。
第5章の物語はこちら
バレンシア遠征が失敗に終わり、王政が共和政府に変わってから、エリアン教の政治的地位は瞬く間に崩れ去った。議席が貴族と新興商人、市民代表で埋められるとエリアン教が出る幕がなくなってしまった。もちろん国の大多数がエリアン教の信者で、彼らには神の使者と言われているヴァルキリーがいたため、相当な影響力を駆使することができた。しかし議会はエリアン教団が宗教的活動のみを望んでいたため、彼らの政治的干渉に線を引いた。

するとレハード・メルテナン大司祭が議会にある提案をした。ディアス農場地帯近くの土地を教団の所有地にしたいと言ったのだ。そこで戦争のせいで行き場を失った者たちの面倒を見るという趣旨だった。その地は農業にも採石にも適していなかったため、議会にとっても損ではなかった。

教団は最初に提案したように小さな村を建て、教会を建てた。行き場や家族を失った者たちがそこに集まった。皆はエリアン教団の恩恵に感謝し、その地を祝福の地と称えた。

しかし突然、原因不明の伝染病が流行り始めた。カルフェオンは伝染病が拡散されないように城門を閉ざし、出入りを固く禁止した。エリアン教司祭たちは住民たちの信仰が足りないためだと言った。そのころ、その地で不可解な事件が次々と起きた。妙な力を使う人形たちが動きだし、人々を無差別に攻撃した。

いつも笑い声が絶えなかった祝福の地は次第に忘れられ、忘却の地捨てられた地と呼ばれた。一つ理解できないのは、北部大農場のノーマン・レート支援物資を送っても、エリアン教は無駄なことだといいながら、いつも妨害していることだ。
第6章の物語はこちら
あの有名なデルパード・カスティリオン軍長と彼の腹心ヴォルクストリーナ騎士団所属だ。陸軍以外にも海上騎士団がある。子どもたちに将来なりたい職業を聞くと10人中4人はトリーナ騎士団だと答えるほど人気だ。カルフェオン騎士団のうち、長い伝統を誇り、そのぶん体系的で位階秩序が厳しい。

しかし身分とは関係なく戦場で手柄を立てれば、富や爵位を公平にもらえるため、戦争の時多くの若者が志願した。他の騎士団よりトリーナ騎士団に有名な英雄が多いのもまさにそのためだ。戦争が終わった今はカルフェオンの各地域に部隊が派遣されている。トロルをはじめ、サウニール、ジャイアント族など、住民たちを脅かす存在を食い止めるためだ。

トリーナ騎士団を総括しているデルパード・カスティリオン軍長は現在軍事代表として議会にも参加しているが、人のよさそうな顔とは違って、腹の中が分からないため最も相手しづらい人物だと言われている。退屈そうな顔をしてなかなか終わらない議会の机上の空論を見ているが、いち早くカルフェオンで起きている異常事態を把握し、特にエリアン教団を睨んでいる。

トロル防御基地トリーナ要塞の戦闘結果の報告を受けたが、大した心配はしていない。その理由は二つある。一つ目は物資の支援が難しいと言われているが、代々軍長を輩出した心強いカスティリオン家の支援があること。二つ目はたかがトロルとサウニールに苦戦するほどの無能な指揮官たちが自分の部下であるはずがないと思っているからだ。

カルフェオン南東部

カルフェオン南東部の達成度
第1章消えたオージェ
第2章マッドサイエンティストの実験室
第3章狼煙台に置かれた遺物
第4章トリーナ要塞の新武器
第5章ジャイアント族の黒結晶
カルフェオン南東部直轄領の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
があまりにも治らなかった。
オージェは自分の右腕を見下ろした。どこでできたか分からない真っ赤な傷が腕に長くできていた。

大きな怪我じゃないし、すぐ治ると思っていたのにまだヒリヒリしていて、気が付けばもう二週間も経っている。医者に見せようかと思ったが、からだらしないと怒られるかと思ってやめた。

オージェは肘のところまで覆う長いグローブをしていた。真っ白だったグローブがいつの間にか汚れてしまい、本来の色ではなくなっていた。昔は同じグローブを二回使うことがないくらいグローブをたくさん持っていたのに。ケプランにある派手で貴重な物、きれいで大切な物はすべてオージェのものだった時があった。今は昔のことを思い出すと涙と悲痛ではなく、ため息で忘れられるくらいの時間が経った。

かつてケプラン王国と呼ばれていたこの場所は、あちこちから聞こえる鉱夫たちのツルハシの音と、鉱石をいっぱい乗せたカートが休まず通っていたところだったが、戦争はすべてを変えてしまった。オージェは窓の外を見つめた。空には何日も暗い黒雲がいっぱいだった。道を通る人々はみんな体をすくめて地面を見て歩いた。

オージェは窓の枠にもたれかかっていた。すると下から何か切れる音が聞こえた。一瞬古い窓枠が壊れたのかと思い、窓枠から少し離れたオージェの目に信じられない光景が見えた。木でできていた窓枠がになっていたのだ。窓枠を支えていたレンガさえ灰色の石に変わっていた。まるで最初から岩を削って作った物のように粗くてゴツゴツした姿だった。

オージェは目を瞬いて自分の腕を見下ろした。赤い傷があったところがいつの間にか硬い石のようになっていた。一瞬、腕の奥にあったが皮膚の上に現れたようにも見えた。オージェはそわそわしながらに軽く触れてみた。本当に岩のように硬かった。今回は震える手で近くの花瓶にあるに手を伸ばした。花は一瞬で色を失い硬い石ころに変わった。オージェは辛うじて悲鳴を堪えた。

-

いつだっただろうか。オージェは人目に付かぬよう素早く移動しながら考えた。それは以前、鉱夫たちが鉱山から謎の石を持ってきた時のことだった。黒い鉱石の中でかすかに光っているのが不思議で手を出したときに腕をかすった。きっとその石に怪しい何かがあるに違いない。カルフェオンから司祭たちがその石を見るために訪問したと鉱夫たちが言った。そういえば司祭たちはどこから情報を得てきたのだろうか?

やっと父親である領主の部屋の前にたどり着いた。オージェはノックをする前に息を整えようとした。深呼吸して何を言おうか頭の中で整理してノックしようとした瞬間、扉の隙から父の怒鳴り声が聞こえた。

「約束が違うじゃないか!黒結晶抽出場を建てれば、前のように暮らせるようにしてくれると言ったはずだ!」
「だからガイ・セリック王に娘を後宮に入れようとしたら、議会から目を付けられたじゃないですか。」

細くて皮肉な口ぶり。オージェはその声を聞いた瞬間彼がカルフェオンから来た老いた司祭であることに気づいた。オージェは息を吸いながら耳を傾けた。その時はそれが最善だと思ったという父の話はすぐオージェの縁談の話に移った。年頃が過ぎる前に婿がねを探さなければならないと言う話から、ある年寄りの貴族に関する話、最近は司祭も秘密裏に結婚をするという話などを聞いて、オージェは吐き気に耐えながらその場から去った。
第2章の物語はこちら
カルフェオンのマルニ博士マッドサイエンティストという名が付く前に、彼は天才として名を知られていた。カルフェオン近くで代々農場を営んでいたマルニは、様々な化学物質機械装置を作ることに長けていた。カルフェオン軍はそんなマルニの才能を高く評価し、長引いている戦争を終わらせるためマルニを軍に投入した。

彼は当時画期的ともいえる提案を出した。それは人間の代わりに戦う機械装置を作って戦わせるという案だった。彼は実際キメラを作って人々に披露すると、で作られたものが動き、相当な攻撃力も兼ね備えていることに人々は驚いた。

しかし、で作った物は戦争では使えない。そこでマルニは色々なものを混ぜてみることにした。ハーピー、サウニール、オークが実験体として使われた。幸いなことにその地域には騎士団が駐屯しており、実験体の供給はそう難しくなかった。

しかし、一つ問題があった。口のところを飾るものがなく、ラッパを付けたところ、一晩中プププー、コケコッコーとうるさく騒いでコントロールができなかった。奇妙な大声のせいで、敵より先に味方が気絶してしまうと、天才もたかが知れていると見放された。

どうしてオークをつけたのか理解できないという文句と一緒に…。マルニは科学の偉大さとレベルの高い美的センスが分からない下等どもに舌打ちした。しかし、結果が惜しかったのはマルニも同じだったのでもっと使えそうな実験体が欲しかった。

ついにマルニが望んでいた実験実行する時が来た…。それは人間の魂を自分が作ったキメラの中に閉じ込めることだった。いくら戦争で勝たなければならないとはいえ、あまりにも非人道的ではないかという意見と、まずは戦争に勝たなければならないという意見が激しく対立している中、戦争があっけなく終わってしまった。

戦争が終わると、もうマルニは必要のない者となった。人々は彼の作品が世の中に出て指弾を受けるのではないかと心配し始めた。そこで彼らは、実験場を提供すると言ってマルニと実験体を閉じ込め、彼のことをマッドサイエンティストと呼ぶようになった。
第3章の物語はこちら
サウニールとの長い戦いは勇猛なトリーナ騎士団をも疲れさせた。カルフェオン南東部にあるトリーナ要塞は、騎士団よりサウニールの数が上回ってしまった。疲れるだけでなんの得もない戦いだった。

そんな中、偵察兵たちが帰還して指揮官のフリードリヒ・タウパリクソンにある報告をした。それは、サウニールキャンプでサウニールたちがなにか守っているようだという内容だった。

指揮官は作戦を立てた。数日間なんの意味もない攻防戦が続けられた。6日目、その日も同じくサウニールたちを攻撃するふりをして突進したが、サウニールたちと剣を交える前にもう一度後退した。数日間の戦闘で学習したのか、サウニールたちも初日のようにむやみに騎士団を追ってくることはなかった。

トリーナのエリート部隊が闇に紛れてサウニールキャンプ潜入した。これまでの戦闘から油断していたせいか、警戒は緩く、偵察兵の報告があった場所に侵入できた。

そこには宙に浮かぶ遺物があった。見てすぐに尋常ではないと分かるほどで、直感的にこの遺物がサウニールたちに力を与えていると感じた。部隊は遺物をトリーナ要塞に持ち帰った。

フリードリヒ・タウパリクソンは遺物を狼煙台に置いて、隠密に考古学者たちを探して遺物の秘密を暴こうとしたが、そう簡単に解決できそうにない。
第4章の物語はこちら
トリーナ騎士団のは手ごわかった。サウニールたちは頭もよく投石器を使うことができ、彼らのボスである攻城隊長は実にその名の通り攻城の専門家だった。トリーナ要塞の城壁は菓子のように砕けた。

トリーナ要塞内部にもそれぞれ装備が備えられていたが、サウニールたちの硬い皮を破るには力不足だった。そして砲弾と矢もすぐ底を突いてしまった。資源の消費が少なく、かつ効果的に攻撃する方法が必要だった。

そのとき、トレント村からエントの木でバリスタを製作するという話があがった。指揮官フリードリヒ・タウパリクソンは、直接トレント村に出向いてバリスタを調べてみた。どの木よりも質のいいと知られているエントの木で作ったバリスタは、すさまじい威力と精巧な調整能力を誇った。

指揮官は即決して要塞にバリスタを配置した。サウニールは簡単に倒れた。なぜこれまで苦労したのかと思うくらいだった。バリスタの一撃であらゆるものを貫通できそうだった。

どんな敵が来ようとも…。
第5章の物語はこちら
ジャイアント族は遠い昔からカルフェオン南東部で暮らしていた。彼らは最も強い者ボスになるという伝統を持っていたが、ボスになりたいと思ったらいつでも決闘申請をして勝敗を決め、ボスの座に就くことができた。長い間、ジャイアント族のボスの座はタンツのものだった。

彼が強いのは当然のことで、知識も多く賢明だったため彼に従う者が多かった。その時は近くにあるケプランの住民ともいい関係を築いていた。

しかし、ケプラン村の近くに黒結晶抽出場が設置されてから環境が急に汚染されると、ジャイアント族も暮らしづらくなり分裂した。先祖が成してきた場所から離れられないというゲハクと、手遅れになる前に他の居場所を探そうとするタンツが激しく対立したのだ。

ゲハクは最後まで諦めなかったため、タンツはやむを得ず自分に従う群れを率いて遠いメディアの地へ向かった。ゲハクはしばらく群れをよく率いた。

しかし、時間が経つにつれておかしくなるジャイアント族が続出した。彼らは理性を失ったように目に見えるすべてを破壊しようとして、何かを追い払うようにに向かって手を振ったりした。しかし、ジャイアント族が変わったのはゲハクのせいだと言う噂があった。

ゲハクがジャイアント族駐屯地の奥に身を隠してから、物騒なオーラを放っているという。

カルフェオン南西部

カルフェオン南西部の達成度
第1章ジョルダインの復讐
第2章ナマズマン帰化作業
第3章生まれつきの喧嘩師、ルツム族
第4章マンシャの森からの帰還者
第5章木こりの村
第6章エリアンの祝福
第7章初代ヴァルキリー、エンスラー
第8章サイクロプスとクリオ村
第9章カーマスリブ司祭たち
第10章ベア村ハンティング大会
第11章最後の戦闘
第12章次の旅にむけた準備
カルフェオン南西部直轄領の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
皆、よくなるだろうと言った。戦争はそういうもの、仕方がないと言った。それはきれいごとなどではなく、彼らが自らに言い聞かせる言葉でもあった。友だち、子ども、親を失った者たちにも、よくなるだろうという言葉が祈祷のように繰り返された。

軍隊が通ったところには慟哭嘆き、そして生き残った人々の安堵などが入り乱れていた。理由や名分など忘れてしまうほど戦争は長く続いた。

戦争で親を失ったジョルダインはしばらく遠い親戚の家で暮らすことになった。そこはすでに5人の子どもがいる上に、祖父母まで一緒に暮らしている大家族だった。親戚は行く当てのないジョルダインを温かく迎えたが、家族みんなが同意したわけではなかった。温かな好意とは裏腹に厳しい懐事情は人の心を暗くした。

子どもたちは居候のジョルダインに向かってその暗い心をあらわにした。このまま追い出されたら、ジョルダインには帰る場所がなかった。そのため、ジョルダインは子どもたちにいじわるをされたり、食事を奪われて二日間何も食べられなかった時も告げ口をせず我慢した。そうすればするほど、ジョルダインは心や肩に何かずっしりとしたものが積もっていく気がした。

その中を除いて見ることができたなら、無理やり引き裂かれた布の先にぶら下がっている糸くずのように醜くボロボロになった感情が複雑に絡み合っていただろう。しかし、そうすればするほど我慢しなければならない日も増えた。

「うちの事情もよくないってのにあんたを引き取っただけでも私たちは十分やってあげたんだよ。あんたもそう思うだろう?せめておとなしく、礼儀正しくしてくれないと。子どもたちのいたずらにそこまで怒ることはないだろう。人はを知らないとね。残っている財産があるかと思って引き取ったら…。あんた、本当に何も知らないの?」

そのうちジョルダインの寝床は物置小屋に移された。まともに風も防げない、で適当に作られた場所にわらを布団にして夜を明かした。ジョルダインはあの日のことを思い出した。

兵士たちが押し寄せ…がその前に立ちふさがり…が慌てて私を隠し…目の前が赤くなった。

ジョルダインは目をつむった。すると、より鮮明にその時の光景が浮かび上がった。助けてくれと叫ぶ父の震えた声、母が倒れながら何かを伝えようとぱくぱくしていた口、その光景が怖くて手で口を塞ぎ、をつむっている自分の姿が、まるで呪いにでもかかったかのように鮮明に、そして絶え間なく繰り返されていた。

月の光が板の隙間からジョルダインを照らした。カルフェオンの方に行けば行くほど、セレンディアより日没が遅いと聞いたが。

ジョルダインは想像した。カルフェオンの方へ行けば、今日という日から逃げられるだろうか?もっと先に行けば…。もう一度あの時に戻って、あの日のことを防ぐことができるだろうか?

月日は流れ志願入隊できる歳になると、ジョルダインは訓練兵として入隊した。その後は簡単だった。剣を振り、矛先をカルフェオンに向けるほど、確実になった。

クリフは彼に何をしたいかを聞いた。ジョルダインはいつも喉のところで止めていたものを吐き出した。

「カルフェオンへの復讐です。」

それはジョルダインの人生で一番明快な答えであると同時に必ずやり遂げなければならないことであった。
第2章の物語はこちら
カルフェオンでは様々な種族を見ることができる。力を入れていた他種族の帰化政策のおかげだ。表からは差別せずにみんなが和合しようという友好政策のように見えたが、実は不要な戦争をせずに領土を増やすという目的がより大きかった。とにかく優雅に表現された帰化政策でカルフェオンは他の国より多くの種族と調和して暮らしていた。

最初は難しかったが、段々と帰化する種族が多くなると他の種族を説得するのはより簡単になった。カルフェオンは次第に種族の包摂を拡大した。その例として現在カルフェオン南西部にはカイア湖を中心に分布しいているナマズマンとルツム族、マンシャ族を相手にした帰化作業の真っ最中だ。

ナマズマン巨大な魚のような外見をしていて、水の外ではどこかのろくてぼやっととしているが、水中では最強の捕食者だった。

ナマズマン帰化作業は大した問題もなく進められた。たまたま渡した一杯のブドウジュースがナマズマンたちのにあったおかげだ。

愉快なババオ水腹ナマズマンを筆頭に多くのナマズマンがカルフェオンへ帰化を志願した。ナマズマン帰化担当者であるブルーノはこの勢いだと1年以内に帰化作業が終わると予想したが、ボスのクベが現れてからナマズマンたちが急に兵士たちを攻撃し始めたのだった。
第3章の物語はこちら
戦う!壊す!食べて楽しむ!この三つが人生の大きな部分を占めている種族がある。それはルツム族だ。

生まれつき楽天家で、好戦的な彼らは一日に3回、違う相手に挑戦しないと臆病者扱いされる。

戦うために食べて、楽しむために壊す。過激だがその分戦闘能力が他の種族より高い彼らを帰化させるために、カルフェオンは相当なを入れた。

敵に回してしまうと相手しづらい種族である上に、彼らが占めている地域は質のいい木材が多かったため、諦めることができなかった。カルフェオンは老熟した経験豊富なエリンケー・ビサミンを送り、ルツム監視警戒所を立ててルツム族と対立することにした。

しかし、大人三人を軽々と持ち上げられるようなルツム族を相手するには、警戒所に配置されたばかりの新米兵士たちには容易ではなかった。エリンケー・ビサミンはそんな兵士たちを見て腹が立っている。
第4章の物語はこちら
マンシャ族はゴブリン種族の中でも最も鋭敏だと知られている。彼らはマンシャの森で群れを成して暮らしていたが、警戒心が強く奇襲に長けているため、マンシャの森一帯は危険地域に分類されている。

彼らはそれぞれ変わったお面を被っているが、地位役割によってお面の見た目が異なると推測される。マンシャ族にとって森は単なる暮らしの基盤となるだけではなく、守るべき使命のようなものでもある。森が人間によって傷つけられることを嫌うため森の守護者と呼ばれたりした。

もし、昼間でも木が多く暗い森でマンシャ族に遭遇したら、その場に立ち止まって彼らが危険ではないと十分認識するまでじっとしていた方がいい。むやみに動くとあちこちに仕掛けられたのせいで、逆に危険な目に遭うかもしれない。

カルフェオンでもマンシャ族を挑発せず、近くにキャンプを立ててじっくり近づいて行く方法をとっている。

しかし、突然マンシャ族に異常が見られた。カルフェオン全域で広まっていると報告された狂暴化現象と似ていた。

マンシャ族はいつも森の影に潜んで静かに侵入者を観察している。以前は気に入らないことがあっても警告するだけだったが、今となっては姿を現して武器を振り回し、怒鳴り声をあげて周りを脅かす。

まるで一夜にして山崩れが起きたようにキャンプー帯が崩れてからか、それとも闇からなっている怪しい異邦人がマンシャの森を通ってからか、もしかすると…。オーガたちが森を破壊した時点から予想できたことなのかもしれない。
第5章の物語はこちら
木こりの村と呼ばれるトレント村には昔から伝わるがある。

あるところに小さな新芽があった。新芽の前には小さながあった。村のある子どもが芽を植えて立てておいたものだった。その子は毎日新芽を見に来てその日あったことを話して、新芽をやさしく撫でてあげた。新芽はその手がとても好きだった。しかし、ある日から子どもは新芽を見に来なくなった。

新芽は子どもがなぜ来ないのか、ひょっとして自分が返事をしないから嫌になって行ってしまったのではないかと心配した。「私もあれこれ話してあげればよかった。それともものすごく素敵な何かに変身するとか?ところで私は大きくなったら何になるんだろう?」すると通りがかりの風傍に咲いた野花がこう言った。

「君の葉を触ってみたけど、君はたぶんジャガイモニンジンになる気がする。」
「いいえ。私がこの子のを触ってみたけど、しっかりしていなかったもの。私のような野花に違いないわ!」
「ぱっとしない新芽から予測すると、雑草かもしれない!大きくなったら家を作るのに君の葉を使ってもいい?」

新芽はときめいた。風の言う通りにジャガイモになっても格好いいし、カラフルな野花になっても、丈夫な雑草になってもいい。子どもに自慢したかった。「私はジャガイモにも、野花にも、雑草にもなれるんだよ!」しかし時間が経っても子どもが来ることはなく新芽は相変わらず小さかった。

ある日、新芽は通りがかったリスを見た。皆で忙しく動いているアリの群れも見た。そういえば、あの子もここまで歩いて来たのに。新芽は気になって野花に聞いた。

「私たちは何で動けないの?
「どういうこと?」
「風も、烏も、リスも動いているのに。何で私たちは毎日ここにいるの?」
「私たちは元々そうなんだよ。彼らにとってはあれが普通なの。」

野花は新芽のおかしな質問にぶつぶつ文句を言いながら花びらの手入れに集中した。新芽は元々とは何かと聞きたかったが、野花に怒られそうでぐっと我慢した。新芽はを少しずつ動かした。土に包まれた根はその気になれば少しくらいは動かすことができたが、根を地の外に出そうとするとすごく痛かった。野花は地が揺れると新芽にじっとしていろとを立てた。

「あんた、一体何しているの?根でをたっぷり吸い込んで、どうすれば葉を思いっきり広げて日差しをいっぱい浴びられるかだけを考えなさいよ!」

新芽はその話を聞いて悲しくなった。それを近くで聞いていたミミズが、どうしたのかと地に上がってきて新芽に聞いた。

「私を訪ねてきた子どもを探しに行きたいんだけど動けないの。
「あ!そういえば聞いたことある。妖精に会うと願いが叶うんだって。」
妖精にはどうしたら会えるの?」
「さあ…。実は私も見たことがないんだ。長寿の木に聞いてみたら?」

しかし、その木までどうすれば行けるんだろう…。新芽は根を少しずつ動かした。まずは大きくならないと。ミミズは新芽をみて助言した。

ずっと動かしてみるのはどう?運動を続けてたら歩けるようになるかもしれない。」

まあ、本当に君が歩けるかどうかはわからないけど…。ミミズはあえてその話はしなかった。新芽はミミズの話にを得た。新芽は先に野花の話通り葉を大きくして日差しをたくさん浴び、で水をたっぷり吸い込んだ後、夜になると一生懸命運動した。それを見ていたが近づいてきて新芽に話した。

「何をそんなに頑張っているの?よかったら君を引っこ抜いて長寿の木に連れて行ってあげるよ。」
「引っこ抜いて?」
「そう。ちょっと痛いかもしれないけど、こっちの方がずっと早いよ?

新芽は想像してみた。烏とともにを飛ぶ姿を。確かに楽だろうな。こんなに一生懸命運動しなくてもいいし。根がずいぶん丈夫になったが、それでもまだ地を歩くには無理だった。

新芽はさらに想像してみた。鳥のくちばしにぶら下がって揺れる自分の姿が見えた。烏がに迷ったらどうしよう?烏が高く飛びすぎて長寿の木を見つけられなかったら?

「ありがとう。でも私は自分の力でやりたい!できるだけやってみる。」

烏が新芽の話を聞いて笑いながら言った。

「はは。そういえばもう新芽と呼んじゃいけないな。苗木と呼ばないと。いつの間にこんなに大きくなったんだ?」

ついに苗木は地の上に立つことに成功した。不思議な気分だった。細い根はいつの間にか地の上を歩いても痛くないくらい丈夫になり、前より背もぐんと伸びた。が苗木の横を素通りしたが、苗木の声に振り向いて驚いた。

「君だったのか!本当に気づかなかったよ。あんなに小さな新芽だったのに。えっ!地に立っているのか?」

苗木は頑張って歩きだした。とても遅かった。一緒にいたミミズがあくびをして、退屈そうに昼寝をして起きても、ミミズが5歩動いたくらいの距離をやっと動いただけだった。ミミズはすぐ嫌気がさして帰ってしまった。風はずっと苗木と一緒だった。苗木が疲れて倒れようとすると後ろから支えてあげて、暇になったときはあちこちにある木の間を優雅に走り回った。そのたびにが風に合わせて揺れた。苗木は風に聞いた。

「それは何ていうの?」
「これはダンスっていうんだ!」
「とっても素敵だね!」

風はその話にもっと浮かれて、森の中をぐるぐる回った。ひたすら歩いて二人はついに長寿の木にたどり着いた。長寿の木が聞いた。

「おはよう。小さな木。どうしてここまで来たんだい?」
「妖精に会いたいんです!」
「妖精?どうして?」
願いを叶えてくれるから!」
「何の願いを?」
「私のところに来てくれた子どもに会いに行きたいです。」

苗木の話を聞いた木が笑った。笑うたびに風が吹くようにさやさやと葉擦れの音がした。

「しかし、君はもう立派に歩いているじゃないか。自分の力で十分探していけるさ。」
「あ、本当だ!もう歩いても痛くない!
「君は自らを叶えたんだ。」

長く生きた木がまたさやさやと笑うと、葉が落ちて小さな木の体を覆った。小さな木はくすぐったくてキャッキャと笑った。そして目を開けるとある家の前に立っていた。ここはどこだろう?家を覗いてみると窓の中には小さな木が探していた子どもがベッドに横たわっている姿が見えた。

小さな木は窓をコンコンと叩いた。子どもがベッドから起きてきょろきょろしながらに近づいてきた。小さな木は嬉しくて話した。

「会いに来たよ!君に会いに来たんだよ!やっと会えたね!」
「おはよう。かわいい友達さん。私に会いに来てくれたの?」
「本当に会いたかったよ!

小さな木はそれまであったことを子どもに話した。昔、新芽だったころ子どもが会いに来てくれた時のこと、その時聞いたのこと、撫でてくれたがどれほど暖かかったのかを。

子どもも小さな木に話した。「私も本当に会いたかったよ。行きたかったのに病気で行けなかったの。私はこれから歩けなくなるかもしれないんだ。

子どもは悲しくて泣いた。小さな木は悲しむ子どもを見て泣いた。私は君のおかげでここまで来られたのに。

「今度は私が君を助けてあげたい。

小さな木は子どもが転ばないように支えてあげたかった。するとがぐんと伸びた。小さな木は子どもがいつでも頼れるように丈夫になりたかった。すると細い根が集まって厚くなり、もっと歩きやすくなった。小さな木は子どもの両手を握ってゆっくり歩いた。

「私たち、ダンスをしよう!」

小さな木は風が見せてくれたようにそよそよと動いた。どこかぎこちなく、くるくる回るだけのダンスだったが子どもは楽しくて大声で笑った。小さな木はとても幸せだった。小さな木の動きに合わせてが舞い散った。

「私たち一緒にダンスをしよう!」

すると小さな木のが明るく光り始めた。小さな木の葉が落ちたところから木々が動き始めた。多くの木々と一緒に小さな木と子どもが楽しく歌いながら踊った。いつの間にか子どもの足も痛みが感じられなくなった。子どもは小さな木を抱きしめた。

その後、小さな木はエントの精霊と呼ばれた。今も時々、月光が美しい夜になるとエントの木たちと踊っているそうだ。

時折、皆が寝静まった夜に村に遊びに来たりもするが、その時エントの精霊からをもらうと願いが叶うと言う。
第6章の物語はこちら
これは約束に関する話である。ついにやってくるその日、覆いつくす混沌の中で唯一エリアンの子孫のみが栄光の地を踏むだろう。

ヴァルキリー部隊はエリアンの加護を受けて創設された。その歴史は長くはないが、彼女たちはどのような戦争においても常に目立つ存在として活躍してきた。

始まりは闇からだった、やがてすべての者に光が届いた。

最初のヴァルキリーはエンスラーの伝説から始まる。カルフェオン騎士団所属だったエンスラーは長くて豊かな赤毛を持った騎士だった。

敵を倒す聖なる騎士の姿を見て、すべての者が改めてエリアン様とたたえたとき、その時やっと彼女を送ったエリアン様の真意に気づいた。

彼女はどこに行っても目立つ存在だった。それは自分の体の大きさほどある槍と盾を軽々と持ち歩いたからだ。

人々は明るい光の後ろにいつも闇が潜んでいることが分からない。すべてがまとまるとついに栄光の日が訪れるだろう。

-隠されたエリアンの祝福
第7章の物語はこちら
カルフェオン神聖大学にいる学生たちの真っ赤な髪はエリアンの神聖力を象徴する。本当に赤髪が神聖力と関係があるのかについては意見が分かれているが、エンスラーの力は疑う余地がなく、彼女がエリアンの名の下でスキルを使うときに真っ赤な髪が神の加護を受けたように輝いたため、定説として固まった。

彼女が一振りしたランスで敵は次から次へと倒れ、神聖な力が込められたランスが打ち下ろされるときは驚異という表現しか口にすることができなかった。エンスラーの能力に驚いたエリアン教はエンスラーの芸名であるヴァルキリスに因んで、ヴァルキリー教本を編纂しヴァルキリー養成に集中した神聖大学を創立した。神聖大学はエリアン教傘下の機関でひたすら完璧なヴァルキリーを養成することに焦点を当てた。

エンスラーは自分の能力で国を守ることに資して、よい影響力が他の人々にも与えられることにとても感動した。そのため、どんな無理な要求でも最善を尽くしてエリアン教とカルフェオンのためにいつも先頭に立って寄与してきた。

エンスラーがおかしいと思ったのは忙しい日程を終え、ようやく初めて大学に訪問した時だった。全員真っ赤な髪をした学生たちが自分を見ていた。エンスラーは何か違和感を抱いた。

大学で養成される少女たちを輩出する過程でエリアン教はとても厳しい基本素養を求め、その素養を少しでも満たせなかった者たちは容赦なく突き放していた。しかしそれはエンスラーが求めたものではなかった。エンスラーは学ぶ機会が少ない子どもたちが大学で平等に勉強する機会を得て、エリアンの名の下で保護されるのを求めていただけだった。

しかし神聖大学が描いている未来は多くのエンスラーだった。子どもの頃からしっかりと教育を受けて、教団のことを疑わずに従う神の名を取った軍隊。

エンスラーは教団を食い止めようとしたが、できることは何もなかった。神聖大学の建立後に授かった指揮官の職も名ばかりであった。

こうして養成されたヴァルキリー部隊に、ある日命令が下された。それはカルフIオン寺院で不完全に召喚されたクザ力を封印しろという内容だった。
第8章の物語はこちら
カルフェオン南西部の森に隠れた川辺。そこにはラッコ族が暮らすクリオ村がある。名前だけでもかわいいイメージのこの村はよそ者が入るには少し厳しいようだ。

まず、ラッコ族は外部との接触を避けるためクリオ村に行く入り口を偶然探し出したとしても、その前にいる多くのサイクロプスたちを倒さなければならない。

サイクロプスとクリオ村は奇妙な共生関係を成しているが、あの凶暴なサイクロプスもなぜかラッコ族にだけは攻撃をしない。

ラッコ族は戦闘能力が低いため、最近の異常現象に対応できずにいた。そのため、彼らを安全に移住させるためにカーマスリブ司祭たちが急きょ訪れた。

しかし、焦っているカーマスリブ司祭たちとは違いクリオ村の村長ヘリオはのんびりとしていた。有能な戦闘教官を連れてきたから心配することはないとカーマスリブ司祭を安心させた。
第9章の物語はこちら
カーマスリビア。そこは未知の地とも呼ばれている。あそこについて知られていることはあまりない。しかし、いくつかの事実によってカーマスリビアがどれほど尊く、特別なのかが分かる。

聖なる木、カーマスリブがあるところ。自然と交感しながら森を保護する存在たち。

カーマスリビアはこれまで外部と交流を堅く閉ざしていたが、その間、内部の葛藤と外部の変化を見て悟り、カーマスリビアへ通じるすべての道と関所を開放した。

大陸で彼らに会いたければ、が茂っているところ、またはが澄んでいるところに行けばいいという話がある。彼らは自然の守護者を自任しているため、彼らの領土でなくても土と水があるところなら保護しようとするからだ。

もっとも代表的なところにはカルフェオン南西部の黒いオーラを浄化するために設けられたロングリーフの木偵察警戒所がある。
第10章の物語はこちら
もし自分が並みならぬ狩りの実力を備えたと自負するなら、ベア村のハンティング大会を狙ってみるのもいいだろう。ハンターの村と呼ばれるベア村は伝説のハンターリック・ベアが村長を務めている。村の人の大多数もハンターであるため、素人が学ぶにもいいところだ。

彼らはハンターなだけあってどんな武器でも上手に扱うのだが、最近は対立しているのせいで頭を悩ましている。ベア村の近くにあるヘッサ聖域魔女の礼拝堂のせいだ。

そこにはヘッサ・マリーと彼女を守っている騎士団が駐屯しているが、最近露骨に周りを脅かしているのだ。

寛大で悲しい魔女、ヘッサ・マリーに関する話はいつも子どもたちと吟遊詩人にいいインスピレーションを与えたが、特に冒険者とハンターたちにとっては魅力的な存在だ。

ヘッサ・マリーを倒せば、彼女の力を手にすることができるという噂がある。そのため、狩りのシーズンでなくても各地からヘッサ・マリーに挑むために人々が集まった。

するとベア村のジェンセンがある提案をした。それはベア村のハンティング大会のテーマを魔女の騎士団に変更するということだった。ヘッサ聖域から魔女の礼拝堂まで続く10個の試験を最後まで通過した人が優勝するというルールだった。

リック・ベアはジェンセンの提案が気に入らなかったが、を聞いて押し寄せてくる人々でベア村がにぎやかになると満面の笑みを浮かべて喜んだ。
第11章の物語はこちら
ジョルダインの体が徐々に倒れて行った。彼は自分の体の中でベルモルンが叫んでいるのを感じた。すべてが終わった。ゆっくりと瞬きをするたびに近づいてくる気配が感じられた。指一本動かす力さえなかった。

べったりと未練がましく離れなかったが手から音をたてて落ちた。とても疲れていた。

誰かがジョルダインの目の前に残像のようにふと現れた。橙色…いや、それよりも真っ赤な、燃え上がる炎よりも赤い、きれいな糸だけを選んで作ったような髪をした者。

失笑した。人間というものはここまで狡猾なものなのか。今更…許しを請うには遅いが、それでももう一度会えるなら。

誰かがジョルダインを起こした。考えは再びばらばらに散った。
第12章の物語はこちら
ベルモルンは完全に消滅したわけではなく、ジョルダインの奥深くに封印されているだけだった。勝ったのか?と思えるくらいどこか割り切れない終幕だった。再会したジョルダインには疲れが見えた。

オーウェンはベルモルンを完全に封印する方法を探すため、先にメディアに行くと言った。

習慣というのは恐ろしいものだと。一区切りついたにも関わらず、何かを追っていないと落ち着かないようだ。久しぶりにベリアに帰った時、突然辺りが暗くなった。

錬金術師アルスティンはクロン城より遠くのメディアから来る闇のようだと言った。とても深く恐ろしいだった。

メディア南部

メディア南部の達成度
第1章メディアの首都、アルティノ
第2章連れ去られる人々
第3章黒い涙とマルニ
第4章メディア最後の王子
第5章ソーサレスの村、タリフ
第6章イレズラの手下
第7章自然災害の兆し
第8章オマル鍛冶屋
第9章バリーズ3世の意思
メディア南部地域の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
アルティノ建設の話が人々に知れ渡ると、様々な期待とともにネルダ・シェンにつきまとったのは、他でもなく皮肉交じりの嘲笑だった。彼らがネルダ・シェンを嘲笑う理由は簡単だった。いくら巨大な資金で大都市を建設したとて、所詮は商人が手掛けた都市だというのだ。

バレンシアとカルフェオンの戦争で大きな手柄を立て、巷ではバリーズ2世より人々の信任を得ているネルダ・シェンだったが、当時メディア城はまだ健在だった。バリーズ王家シュラウド騎士団は住民たちの忠誠を得られなかったものの、それなりに信頼されていた。むしろ大した都市が他になかったせいか、メディアの中心はメディア城だという認識が住民たちの根底にあったと言えよう。

「大きいと言っても貿易の拠点としての町か、商人の町程度だろう?」

見るからにその程度の規模の工事ではないのは明らかだったが、誰かが大声でそう叫びながら、これ見よがしにネルダ・シェンの傍を通り過ぎた。その者の仲間はそれを受け、返事代わりにくすくすと笑った。まだ荒地だらけの工事現場に、軽薄な笑い声が響いた。

シェン商団の人々は視線を交わしながら様子をうかがった。シェン商団の内部でも反対の声がなかったわけではなかったからだ。しかし誰もネルダ・シェンの我を折ることはできなかった。

周りの人々は懸命に顔色を伺っている反面、当のネルダ・シェンは何事もなかったかのように全く動じなかった。彼は人の嘲笑や、嫌味、冷やかしなど全く気にしなかった。

ネルダ・シェンの静かな目が見ているのは現在ではない。最初から壮大なものなど、この世にそう多くない。彼が見ているのは時代の流れだった。彼は、自分の膝ほどの高さに積まれた塀を触りながら、低い声でつぶやいた。「時代の流れを上手く読み取りさえすれば…。

この小さく些細なレンガの塀も、いずれ巨大な城壁に思われるだろう。」

時が過ぎ、ついにアルティノ完成した。都市が完成したという話がメディア全域に広まった時、真っ先に集まったのはあちこちに散っていた多くの商人だった。彼らはネルダ・シェンの名声、そして商団が集結することで得られる様々な利益を追ってアルティノに定着した。自然と大きな市場が成り立った。

すると住民たちが徐々に城壁の中に集まり始めた。野蛮族の脅威から身を守ることもでき、安定した暮らしのある城壁内は、彼らにとってまるで祝福だった。老いも若きも、そして様々な種族の住民たちまでもが、荒地のように土色をしたアルティノに賑わいと活気をもたらせた。

次にやってきたのは、仕事を求めてきた労働者たちで、そしてその次は多くの冒険者旅人だった。

いつしかアルティノはメディアを訪れる際、真っ先に立ち寄るべき代表的な都市になった。そしてメディアの首都と呼ばれるまでに至った。その名声と偉容が力ルフェオンの首都と肩を並べるほどという噂が広まり始めた頃になると、アルティノとネルダ・シェンを皮肉に嘲笑う者はもう誰もいなかった。
第2章の物語はこちら
公平に訪れてきたが、闇が晴れてからの絶望的な状況は異なる形で人々を苦しめた。アブン村の人々がメディア住民の中でも最も不幸だと言われる理由も、三日間の間よりそれ以降の状況によるものだった。

彼らには、大切な家族を失った悲しみで泣き叫んだり、恐怖に震える身を落ち着かせたりする余裕すらなかった。闇がれるや否や、武装した恐ろしく巨大な野蛮族の群れがアブン村に押し寄せてきたためだった。野蛮族は意味不明な言葉を交わしながらアブン鉄鉱山に足を踏み入れると、すぐさまメディアを去ろうと荷造りをしていた住民たちを一堂に集めた。そして働けそうな男衆をひとり残らずアブン鉄鉱山に連れて行った。その対象は怪我人や一家の家長、まだ幼い少年など、見境なかった。

住民たちは勇気を出して反発したが、彼らの鋭い武器と頑丈な防具には歯が立たなかった。鉄鉱山に連れ去られた人々は、ツルハシを手に握らされた。野蛮族が手振りをして下した命令ただひとつ

「黒い涙を掘る」ことだった。

目標とする数量期間が定められている命令ではなかった。ある者はツルハシを武器に野蛮族を襲撃しようとしたが、野蛮族の厳しい監視と圧力により、毎回失敗に終わった。

人間たちの反発が強まっているという噂が野蛮族の中でも広まったのか、巨躯の管理者が現れることもあった。管理者は人間たちに慈悲を施すことはなかった。逃げようとする人間がいれば、何としてでも見つけ出し恐ろしい刑罰を下した。その野蛮族には処刑人という呼び名がついた。

アブン鉄鉱山はいつの間にか廃鉄鉱山と呼ばれるようになった。残された人々は次々と村を去り、廃鉄鉱山に連れ去られた家族がいる住民たちだけが村に残り、ぼんやりと家族を待ち続けた。アブン村の苦しみに終わりは見えなかった。
第3章の物語はこちら
「なんと、夫人!この腕輪は…!」

アルティノの広場に集まってメディアの悲惨な将来について熱く語る貴族たちの会話に、何者かが横から割り込んだ。みすぼらしい姿の老人だった。彼は三日間の闇の直後、アルティノに押し寄せてきたメディアの避難民のような格好をしていたが、どこで何を浴びたのか鼻が曲がりそうな薬品の匂いを体中から漂わせていた。貴族たちは身を引きながら、あからさまに不快な目つきで彼を睨んだ。ただでさえ彼らは避難民の汚れた姿を忌み嫌っていたのだ。

「身なりは粗末でも見る目はあるようね?」

少しずつ後ずさりする貴族たちの間から、老人の目を引いたブレスレットを身に着けた夫人だけが得意げな表情で老人の前に立った。夫人はそっと袖をまくり、煌めく宝石を見せつけた。メディアの熱い陽ざしを受け、黒い宝石が輝いた。

「身に余るお言葉!近くで拝見しても?」
「よろしくてよ。これを手に入れるのにどれほど苦労したことか。バレンシア産の黒曜石が埋め込まれた…。」
「はい?何をおっしゃるのですか、夫人。」

老人が、鼻高々に笑いながら自慢し始めた夫人の言葉を遮った。夫人はきょとんとした顔をした。

「これは黒い涙です!」

にわかに、夫人の周りにいる人々が騒めいた。黒い涙。黒真珠のような形をした鉱石の一種で、アブン村の鉄鉱山でのみ採掘され、あまり高価ではない手頃な値段のアクセサリーに使われるありふれた鉱物として有名だった。

いつの間にか怒りで顔色が変わった夫人が、カルフェオン産のフラミンゴの羽根扇をバタつかせながら激しく扇ぎはじめた。名のある貿易商人から高値で手に入れたブレスレットだった。苦労して手に入れたのだと、周りにあんなに自慢したのに!自分の機嫌を取っていた人々が顔をそむけてくすくす笑っているのを目にした夫人は、もう我慢できなかった。夫人は老人を鋭く睨みつけて怒鳴った。

「宝石の鑑定でもできるのかと思ったら、完全に気の触れた老いぼれじゃない!戯言ならアルティノの予言家だけで十分よ!」

すると老人が手を横に振りながら否定した。

「おっと、誤解があったようですね。私は今、黒曜石よりずっと貴重なものを拝見させていただいたのです!夫人の腕輪を飾る黒い涙は、とても丹念に精製された純度の高いもの…。あえて申し上げますと、夫人が三日間の闇から身を守れたのは、この黒い涙のおかげです!」

騒々しかった雰囲気が一瞬で静まり、沈黙が漂った。メディアの住民にとって三日間の闇は大きな傷だった。老人は間髪入れず、唾を飛ばしながら喋り続けた。

「夫人、夫人は他の人よりあまり被害を受けていらっしゃらないのでは?」
「…い、言われてみればそうかしら…。」
「やはり!私も聞いた話ですが、純度の高い黒い涙を持っていると、三日間の闇が避けていくそうなのです。」

人々の目が老人に向けられた。

「考えてみてください!バリーズ王家は闇の中で消えてしまったではありませんか。彼らは王族です。安い宝石とみなされていた黒い涙など、ひとつも持っていなかったのです。それにアルティノに居座っているあの野蛮族をご覧なさい。彼らがアブン鉄鉱山を奪った理由が、黒い涙を独占して闇が再び訪れた時に生き残り、メディアを手に入れるためだとすれば…ご理解いただけましたかな?」

いつの間にか、その場にいた人々の目は、大人の手首にある腕輪、正確には黒い涙に釘付けになっていた。老人は追い打ちをかけた。

「もし私がこの黒い涙のネックレスを持っていなかったら、闇の中ですべてを失っていたでしょう。私に残された最後のもの、私自身さえ…。」

荷物ひとつ持っていない老人の首には、大きな黒い涙が埋め込まれたネックレスがあった。人々は家のどこかにあるはずの、安っぽい黒い涙のアクセサリーを思い出していた。メディア人なら誰もがひとつくらいは持っているはずのものだったが、なぜかこの三日間の闇で生き残られた理由が、その黒い涙のおかげのように思えてきたのだ。騒がしくなる一方の人波に紛れて、老人は無礼な振る舞いを詫び、アブン村の方角へと消えた。

その後、メディア全域で黒い涙が飛ぶように売れ始めた。謎の老人がアルティノに訪れてから、わずか1週間も経っていなかった。
第4章の物語はこちら
バリーズ王家不幸な結末を迎えたが…彼らの物語は常に悲しい話ばかりではない。」

男がそう話すと同時に誰かが舌打ちした。

「そう、ちょうどこんな海辺だった。淡く青い海水が波打つ音が、言葉の端々に響く…。真っ白に光る砂浜とのんびりと空を飛ぶカモメは、心を落ち着かせてくれた。メディア北東地域に行ったら、ぜひ行ってみてくれ。」

「またその話か。耳にタコができるほど聞いたぜ!」

「今やメディア海岸だが、当時はバリーズ海岸と呼ばれていたんだ。亡くなった先代王バリーズ2世が、バリーズ3世王子と良く散歩を楽しんだ場所だ。国の将来について語る姿がどれほど美しかったことか。王族の後ろを歩いていると、どんな不安も吹き飛んだものさ。ああ、話したことはあったかな?私は王家に仕えていた…。」

「はいはい、プライドだかシュラウドだか、だろう?」

シュラウド騎士団出身なんだ。生涯をメディアで暮らしてきた。剣と盾を手に、国と王家を守ってきたんだ!君たちは知らないだろうな。俺の盾の後ろに国王が、前にはメディアの日光を浴びた砂が輝く。その使命感ってものは、経験してみないとわからないものだ。
…そのせいか、今一人残されたバリーズ3世を見ると心が痛むんだ。メディアの未来を担っていくはずだった王子殿下が、メディア住民の怒りの矢面に立たされているなんてさ。あの幼い王子様は何も知らないんだ。そうでなくても、王家の人々が闇の中に消えてしまってお辛いだろうに、愚か者たちは王子に闇雲に怒りをぶつけている。誰か王子を助けるべきなのに、一体どうすれば…。」

「ふざけるな!闇が晴れた途端メディアを捨てて、ここにあたふたと逃げてきたのは、そのお偉い騎士様だったあんただろう?さあ、お喋りはそこまでだ。海に網を投げろ!バレノスではバレノスのやり方に従え!最近はアジがよく獲れるから、休む暇などないぞ。さっさと動け、さあ早く!
第5章の物語はこちら
格闘家レトゥサの枝の先にまだ月がかかっている夜明け頃。タリフ村の貿易商人ブロルムは、いきなり目を覚ました。全身に鳥肌が立っていた。まるで細長い一匹のが足の先から全身を這って首筋を絞めているような感じだった。驚いて首に手をやったが、触れるものは何もなかった。原因不明の不安がブロルムをよぎった。

「朝になったらアーホン・キルスに呪符でも書いてもらうか。」

普段から神経質だと言われてはいるが、今日のようにいきなり目を覚ますほどではなかった。まだ鳥肌が立っている腕を触ってみた。得体の知れない不安は、まるで威嚇されているような感覚だった。それからブロルムはなかなか寝付けなかった。いつものタリフ村のを、これほど不安に感じたのは初めてだった。いっそ寝床を出て、妻のベイアと暖かいお茶でも飲んだ方が良さそうだった。彼は寝床の隣を手で探った。

「ベイア?」

隣に誰もいないことに気づいたのは、少し時間が経ってからだった。家中を探しても、妻のベイアの姿はなかった。こんな時間に、何も言わずに。ブロルムはそのまま外に飛び出した。

「ベイア、どこだ!ベイア!」

靴を片方しか履いていないことに気付かないほど慌てて走っていた。村の住民たちを起こしてしまう事など、ブロルムにとってはまったく問題にならなかった。彼はベイアの名前を叫びながら、あちこち駆けまわった。不安が現実にならないように祈るばかりだった。しかし不幸にも、不安は現実となった。

「だめよ、やめて!」

広場の方から聞こえる鋭い声は妻ベイアのものだった。ブロルムは慌てて広場に走って行った。広場には格闘家レトゥサを背にしているイレズラベイアがいた。奇妙な雰囲気だった。しかも白い月光を浴びているイレズラは見慣れない本を抱えていたのだが、そのせいか一層奇妙な光景に見えた。イレズラはあんな本を持っていただろうか?彼女は次期村長として指名されるほど知的好奇心が強かったが、彼女の手にある本はまるで…普通の魔法書ではなく、深くて純粋なのように感じられた。

不安がもう一度ブロルムをよぎった。彼は手遅れになる前にベイアに近づこうとした。しかし、イレズラの方が早かった。彼女は釈然と笑いながらを向けた。その先から黒いオーラが噴き出した瞬間だった。

カルティアンの書を下ろしなさい、イレズラ!」

光るはずのない黒色が、どうもまぶしいと思っていた時だった。アーホン・キルスの緊迫した叫びがタリフ村の小さな広場に響いた。カルティアンの書とは、格闘家レトゥサの根本に何百年も眠っていたと言われている村の禁書。普通の人間なら耐えられないほど強い力が眠っていると言われる魔法書が、どうしてイレズラの手にあるのか理解できなかった。

しかし、些細なつじつまを合わせている暇はなかった。ブロルムの目の前でベイアの体がゆっくりと消されていた。

「カルティアンの書の力を使ってはなりません!イレズラ、魔法を収めなさい!」
「そんな…駄目だ、ベイア!」

アーホン・キルスは痛々しく叫び、ブロルムはこの世の終わりを迎えたかのように絶叫した。

タリフ村の全ソーサレスがその日の夜明けにイレズラを食い止めようとしたが、結局カルティアンの書の力を手に入れたイレズラを止めることはできなかった。タリフ村は悲痛の中に沈んだ。数えきれないほど多くのものを失い、再び取り戻す術もなかった。タリフ村の人々が失ったものはカルティアンの書だけではなかった。捨てられたイレズラを連れてきた日の記憶と、彼女と共に過ごした日々、そして思い出もすべて失った。

しかしタリフ村の悲惨さに理解を寄せる者は誰もいなかった。三日間の闇以降、タリフ村はソーサレスの村ではなくイレズラを生んだ村と呼ばれるようになった。
第6章の物語はこちら
自らを放浪盗賊と名乗っているのは、どこかに居座る気がないのだろう。

放浪盗賊は浮き草のような暮らしを清算したくなかった。メディア南部をさすらいながら他人から物を奪い、その戦利品で食いつないでいた。これは善と悪、正義と不正義の境目など存在しないメディアならではのやり方であると同時に、彼らの生き方だった。

奪い奪われ、あてもなく彷徨っていた彼らの暮らしが変わったのは最近のことだった。正確には、三日間の闇がメディアを襲った直後だった。彼らは拠点を設け、そこに居座った。タリフ村にほど近い、とある高原だった。タリフ村はただでさえイレズラの悪行で騒がしい頃だった。これに不安を抱いたある住民が武装して、独りで放浪盗賊の拠点近くまで偵察に行ったが帰ってくることはなかった。

タリフ村の村長アーホン・キルスは急いでソーサレスと住民たちで警備隊を構成した。騒ぎに紛れて放浪盗賊が村を襲撃するのを恐れたためだった。警備隊の偵察で放浪盗賊の動きをうかがった結果、幸い彼らはすぐに村を襲撃する気はないように見えたが、警備隊は首をかしげながら放浪盗賊について別の情報を報告した。

人間のように見えませんでした。真っ黒な肌と真っ赤に光る目を持っていました。まるで黒いオーラに蝕まれているように…。」

翌日、偵察から戻らなくなった住民のがタリフ村に姿を現した。主を失った馬はくしゃくしゃの紙を持っていたのだが、それは放浪盗賊団が呪術を行ったときに書いたであろう呪文書のようだった。呪文書には以下のように書かれていた。

[我らの肌はを宿し、我らの目は女神の怒りを宿すであろう。

巡る三日月を見よ!生まれ変わりし我らの力は、束縛ではなく忠誠の証なり…]
第7章の物語はこちら
タリフ村がひときわ暗く謎めいた雰囲気であることはよく知られている。そのためか、時折私のメディア旅行記を耳にした者たちは、こう問う。タリフ村で最も恐ろしい存在は何なのかと。

私はすぐに答えず、しばし沈黙する。すると気になるのか皆勝手に推測を始めるのだが、中でも多く挙げられるのが次の二つである。影が生きているような黒魔法、または結界と護符の封印に囲まれている大きな木格闘家レトゥサだ。

私はわざとふた息ほど間を置く。緊張した人々が固唾を飲むと、鋭い目で周りを見渡し声を低めてこう答える。

「最も恐ろしいのは、魔法を覚えたての見習いソーサレスだ。」

すると全員大笑いしながら私の話を冗談と受け止める。「冗談がうまくなったな!」彼らは楽しげに杯を交わす。しかし残念ながら冗談などではない。この本を読んでいる読者の多くも、彼らのように思うだろう。「大げさだな!」と。

しかし私ははっきり言いたい。もしあなたがタリフ村を訪れる機会があれば、半日だけでもいいから見習いソーサレスと一緒にメイン族の巣窟に行ってみてほしい。

メイン族は非常に凶暴な野蛮族で、私がメディアを旅している時に見た種族の中で、最も気性が荒く野生的な種族だった。彼らの鋭いと鍛えられた、雄々しく盛り上がったたてがみと、目の前にあるすべてを破壊する攻撃性を想像してみろ!兵士も冒険家も、誰もが怯えて逃げ出してしまうだろう。

しかし、背丈が私の腰くらいしかない小さな見習いソーサレスが新たに学んだ黒魔法を練習するためにメイン族の巣窟に入ったその瞬間、私は見習いソーサレスと遭遇したメイン族のが未だに忘れられない。それはまるで悪魔にでも出会ったかのような、極限の恐怖に怯えてた目だったからだ。」

-メディア紀行「荒地の美」より抜粋
第8章の物語はこちら
カン、カン、カン

ハカン・デルクの槌の音が溶岩洞窟の夜明けを裂く。

槌の音は朝を知らせる鐘の音のようだった。夜明けの空気を裂く規則的な響きは、常に同じ時間に聞こえるからだ。燃え上がる熱い溶岩とは対照的に、彼の槌のは清らかだった。

しかし冷静な槌の音とは違い、鍛冶屋のハカン・デルクの心は煩悩に満ちていた。おそらくそれは、波立つ煩悩と燃え盛る苦悩を鎮めるための金槌なのだろう。鍛冶屋火鉢の揺れるを見つめ、槌打ちと焼き入れを繰り返していると、周囲の景色が遠ざかり、やがて自分の存在まで遠くなる気がした。

物と自分がひとつになる物我一如の境地とは、このようなものなのだろうか。まるで自分が、またはになったようで、その瞬間だけはあらゆる雑念を振り払うことができた。

しかしその匠の境地は、そう長くは続かなかった。遠く離れていた周りの風景が近づいてきて、ハカン・デルクは再び自分に戻ってきた。そしてその時を逃すことなく槌の音の隙間を裂く悪夢のような記憶、そして雑念などが煩悩を率いて首をもたげる。三日間の闇、その最悪の災いはすべてを一転させてしまった。

長かった闇がやっと晴れたとき、ハカン・デルクを含めたオマルの鍛冶屋たちは、、悲鳴ひとつあげることができなかった。起きたことを認識するには現実はあまりにもかけ離れており、同時に圧倒された。もしかすると認めたくない現実だったからかもしれない。自分たちの存在理由が消えたからだ。

メディア王家は消滅した。そしてファーストメディアとしてオマル鍛冶屋らがメティア王家と結んだ王家とメディアのため共にする誓いも、三日間の闇に飲み込まれてしまった。そのうえ、オマル溶岩洞窟の災いのせいでモンスターまで現れるようになり、ネルダ・シェンはアルティノを建てた後、メディアのために武器を作るよう命じた。それに従えないと主張するハカン・デルク以外の鍛冶屋は全員洞窟を後にし散り散りになった。もうそこにいる理由がないというのもあった。

それでもハカン・デルクは希望を失っていなかった。バリーズ3世というメディアの王族の生き残りがいたからだ。その知らせを聞いた時、ハカン・デルクの心の中に小さな火花が散った。灰の中から見つけた小さく大切な火種のようだった。しかしその火種を燃え盛る炉の炎にするには、状況が良くなかった。まず王子にはあまりにも力がなかった。自分も独りだったが、王子もまた独りだった。ハカン・デルクは下手に動くことができなかった。

しかし存在する理由ができたことが、何よりも幸いだった。彼の槌の音を響かせ続けた。いつか主に出会えるであろう武器を次々と作りだした。約束を守るその日のために。

カン、カン、カン

今日も彼の槌の音は、溶岩洞窟の夕暮れを裂く。
第9章の物語はこちら
バリーズ3世は住民たちに歓迎されようとは期待していなかったが、怒り交じりの敵対心に見舞われようとは想像すらしていなかった。

慌てふためいた王子はサルマ・アニンに保護されながら急いで席を立ったが、未だに恐怖不安、そして憎悪に満ちた人々の瞳を忘れることができなかった。それと同時にバリーズ3世のプライドは傷ついた。彼は自分に対する住民たちの怒りが理解できなかった。

住民たちの怒りはある意味、当然のことだった。空虚だけの闇は三日間も続き、不安の中で拠り所となる指導者を求め駆け付けたメディア城は、痕跡もなく消えていたのだ。王家は住民たちに安心どころか、極限の恐怖と不安を抱かせただけだった。

しかも住民たちは混乱に陥っている感情をありのままぶつけることができなかったのだが、それはすべての元凶であるイレズラに矛先を向けるのを恐れたからだ。もしまた彼女の怒りを買って、再び闇が訪れたら…。次は誰が、どれほど、どこに消えるかわからない。

矛先を向ける対象を失った住民たちの怒りは、迷いの末に新しい標的を見つけた。メディアで起きた悲劇を聞きつけ、慌てて戻ってきたバリーズ3世だった。

彼は与しやすい相手だった。バリーズ3世以外の王族はひとり残らず痕跡もなく消え、彼らの守るべきシュラウド騎士団はすでに散り散りになっていた。何の力も持たない若き王子は、怒りを向けるに相応しい存在だった。

「なぜ三日間の闇が朕のせいだと言うのだ?」

バリーズ3世本人はこのような事実を認めなかった。なぜ王族にそのような仕打ちをするのか理解ができなかった。かつてメディア城があった場所を見た時、彼が平然といられた理由は薄情で冷静だからではなく、あまりにも非現実的な状況だったからだ。しかし自分に向かって食ってかかる住民たちを見たときの羞恥心だけは、生々しく脳裏に焼き付いていた。バリーズ3世は怒りが収まらなかった。そして彼の怒りの矛先も新しい標的を見つけた。

ネルダ・シェン…あの者のせいだ!」

彼にとってネルダ・シェンは、アルティノの片隅に住まいを設けてくれた人物だったが、それと同時に自分に向けられるはずだった正当な信頼と尊敬を奪い取った反逆者でもあった。バリーズ3世は今の状況でメディア住民たちに指導者として押し立てられるべきなのは、ネルダ・シェンではなく最後の王族である自分だと思っていた。

ネルダ・シェンがアルティノ、ひいてはメディア全体の復興を導き三日間の闇が差し迫った際に起きた騒ぎの数々を収めたという事実は重要ではなかった。バリーズ3世にとっては、ただ自分がいるべき場所になぜネルダ・シェンがいるのかが重要だった。

「必ずもう一度、朕の居場所を取り戻す。」

アルティノの片隅にある粗末な部屋で、気を引き締めたバリーズ3世の瞳が輝いた。しかしその輝きを見る者も、理解してくれる者もいなかった。扉をかじっている薄汚れたネズミが彼を見ているだけだった。

メディア北部

メディア北部の達成度
第1章ゴーレムの地
第2章荒らされた古代遺跡
第3章破壊されたバウト結界
第4章腐臭を漂わす者たち
第5章メディアの災い、イレズラ
第6章岩穴グモ
第7章クシャ村の村長
第8章サルマ前線基地
第9章ソサンとアルティノ
第10章黒い力の覚醒
メディア北部地域の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
ゴーレムの足音が遠くまで聞こえてくる響きの地。そこにはすべてのゴーレムを統べるゴーレムの王、モグリスがいた。響きの地に住むゴーレムは他のゴーレムとは異なって誰かが意図的に作り出したものではなく、大地に自然と流れる魔力に岩や草が絡み合い生まれた存在である。遠い昔、響きの地にいた一部の古代人は、モグリスを大自然の君主として崇めたりもした。

長い年月が経つにつれ、体中の魔力が尽きたゴーレムの大半はやがて一切の動きを止めて深い眠りについたと言われている。今までならむやみにゴーレムに触れない限り、めったに目を覚ますことはなかった彼らだったが、

それはある日、不意に起こった。ゴーレムたちが自ら目を覚ましたのだ。黒いオーラを全身にまとい凶暴さを増したモグリスは、無慈悲にも他のゴーレムたちとともに住民たちを襲いつつ、自然への破壊行為を繰り返した。そして今、彼はまるで何かを探るかのように響きの地を隅々まで彷徨っているという。
第2章の物語はこちら
遠い昔、メディア北部には古代人によって建てられた古代文明の都市があったという。

古代文明の産物である古代ジャイアントと、彼らを突き動かす古代人の心臓、そしてそれらをコントロールする光原石が一か所に集まれていることは君もよく知っているだろう。

我々秘密守護団は古代遺物と遺跡を守り抜くという使命を帯びている。ゆえに先祖代々のバウト石板製作法を用いたバウト結界を張り続けることで、古代の遺産を隠し通してきたのだ。

ところが…。つい先日、許しがたい出来事が起こった。どういうわけかイレズラがそのバウト石板を見つけ出し、結界を壊したのだ。

バウト石板が壊された瞬間、すさまじい古代の力が噴出されたのだ。その影響で古代ジャイアントの居場所に至るまで大きな亀裂ができてしまった。しかし、幸いなことにイレズラはその力に耐えられず逃げ出した。

再びイレズラがその姿を見せる前に、さらに堅固に結界を修復し、遺跡を守らねばならない。だが、最近ゴーレムとカブト族が不穏な動きを見せている。エダン、君には一刻も早くここへ戻り、古代の核を守ってもらいたい。その間、我が古代ドワーフの末裔の中で最も強力なバウト石板の作り手だと目される鍛冶屋、バラタン・ランソーの行方を急いで訪ねるとしよう。

-アイン・グレードがエダンに送った手紙より
第3章の物語はこちら
カルフェオン平野で暮らす古代ジャイアントの末裔タンツは、自分に従う一族とともにメディアを目指した。長い旅路の末、メディア北部に燦爛たる響きが満ちる古代の地にて彼らを迎えたのは、他でもない古代ドワーフの末裔だった。彼らの族長であるアイン・グレードはタンツにこう語る。

「ジャイアントとドワーフの仲は兄弟同様。かつてドワーフがジャイアントに大いに借りた恩を、ついに返す時が来たのだ。」

そのあと、族長は自分たちの地からそう遠くない、古代ジャイアントが眠る大族長の霊廟まで彼を導いた。大族長の霊廟に刻まれた古代文字はまだドワーフには解読できなかったものの、タンツはまるで最初から文字が分かっていたかのように読みあげた。

古代の記録を読み終えた後、タンツにもある変化が起こった。ジャイアントとしては小柄だった彼の肉体は、他のジャイアントのように大きく膨れあがった。まるで止まっていた成長が再び始まったかのように、より賢くてより強い姿に変貌していくと同時に、響きの地に残されていた遺物から強いオーラが放たれた。

それからというもの、古代の力を守らんとした古代ジャイアントの末裔と古代ドワーフの末裔は、互いに手を取りバウト結界を用いることで各自の拠点から遺物と遺跡を守ってきたのであった。

しかし、強い力を追い求めていたイレズラは、古代遺物に込めらた力を吸収するためにゴーレムやカブト族に黒いオーラを吹き込もうと動き出した。やがて彼女はゴーレムとカブト族を狂わせて響きの地を混沌に陥れ、古代ドワーフのバウト結界を破壊することに成功した。
第4章の物語はこちら
バウト結界を破ったイレズラは、古代の力を手に入れたも同然だと思っていた。すべては、自分の思惑通りだと…。

しかし、響きの地で実際に目の当たりにした遺物と遺跡から放たれる古代の力は想像以上に強力だったため、全身が引きちぎられそうな感覚だった。初めての屈辱だった。立ちはだかる者すべてをねじ伏せ、古代の力を手に入れる直前だったのに、この場を逃れるのに精いっぱいだなんて…。認めたくはなかったが、歓喜に酔いしれるどころか下手をすればそのまま古代の力に飲み込まれ、今までの苦労がすべて水の泡と化してしまいそうな気がした。

「このまま粘って力尽き、漆黒の追跡者に囲まれたら、もう二度とここを襲撃することは叶わないかもしれない。秘密守護団が結界を修復する前に、そして古代の力を狙いに他のやつらがやって来る前に、早く力を取り戻さねば。」

イレズラは漆黒の追跡者たちに見つかる前に悪神クザカの崇拝者がいるという、東のエルリック寺院に身を寄せた。そこはまともに息もできないほどの腐臭が漂うところだった。それはクザカを召喚する儀式で邪悪な呪術を行うたび、徐々に体と精神を蝕まれた信徒たちの腐敗した匂いであった。

エルリック寺院にいるだけで力が回復するような気がしたのは、呪術の力によってエルリック寺院の近くまで黒いオーラが流れていたからであった。だが、イレズラにはそれでも足りなかった。クザカが本当に召喚されたら?そしてクザカの力を手にできたら?響きの地に集う古代の力はもちろん、この世界を支配することだってできるだろう。

クザカを召喚するためにはより大きい力が必要だ。うまくいけば信徒たちを利用できるかも知れない。クザカ召喚に協力し、欲するだけの力が与えられるとそそのかされたら断るまい。彼らのを源に悪神が召喚できれば、まったく不可能な話ではないはず。

イレズラは笑みを浮かべ、ゆっくりと信徒たちに近づくのであった。
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「古代の神クザカの力をもうじき我が物にできるはず。」

メディアだけではなく、この世のすべてに闇をもたらそうとするイレズラ。彼女はカルティアンの書から得た力に心を奪われていた。一振りでメディア城を燃やし、すべてを闇に葬り去った偉大な力。これまで誰も手に入れることのなかったその力を、完璧に自分のものにしたという喜悦。体中を貫かれるような強烈な達成感。もうすぐこの世界を自分のものにできるという期待感で胸がいっぱいだった。

エルリック寺院にはちょうどクザカを崇める狂信徒たちが集っていた。この機会を逃がすつもりはなかったイレズラは、エルリック寺院でクザカを祀る儀式を取り仕切る祭司長を訪ねた。

祭司長はエルリック寺院で唯一クザカと半分の契約を交わしている存在だった。彼は半分の契約では満足できず、自分の身も心も全部クザ力に捧げようと考え、クザカの残り半分の降臨も早めたいと躍起になっていた。もう十分なほどの腐臭を漂わす祭司長に、イレズラは進んで自分の力を分け与え、こうささやいた。

「自分もクザカの降臨を渇望している。祭司長こそ、クザカをこの地に降臨させるに足りる、唯一の存在だ。」と…。祭司長は喜びに身を震わせながら、そのままイレズラの力を受け入れた。

だが、それは決して嘘ではなかった。祭司長による召喚儀式がクザ力降臨に繋がる最も有効な手段であることは明確だった。クザカの召喚には数えきれないほどの犠牲の波を引き起こさなければならない。祭司長はクザカの降臨のためなら自分の地位を利用し、多くのエルリック信徒たちを捨て駒にすることも厭わない人間だった。これほどの適任者は他にいないだろう。イレスラは他人を盾にして降り注ぐ火の粉を振り払う術をよく知っていた。

クザカの力、自分が分け与えた力、それに邪悪な黒いオーラまで取り込んだエルリック祭司長によるクザカ召喚儀式が行われる数日前。イレズラは残り半分のクザ力が召喚される瞬間、カルティアンの書の禁呪を使い、その力を飲み込もうと画策した。もし成功すれば荒地のメディアだけではなく、この大陸全土にが訪れ、誰もがこのイレズラのことを忘れられまい。また、現存するすべての国の歴史に黒い女神のイレズラの名が刻まれるに違いない。

しかし、ある冒険者が儀式を前にした祭司長を制圧した。イレスラはガラスにヒビが走るような感覚に襲われた。遠大な計画が水の泡と化した瞬間だった。祭司長の魂は黒いオーラに蝕まれて不完全な存在になり、召喚儀式が執り行われることは二度となかった。
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メディア北部の荒地には変わった生物がいます。それは岩穴グモと名づけられた生き物です。

岩穴グモはその名のとおり、フックのような前脚で岩に穴を掘ってその中で暮らします。このような習性から想像すると、一見臆病な生き物のように思えますが、実は厳しい環境で生活している岩穴グモは、とても獰猛な生き物なんです。岩穴グモは穴の中で獲物が通りかかるのを待ち続ける我慢強いハンターであり、毒を用いて獲物を捕らえる悪魔のような存在です。

岩穴グモの皮は、生まれたときは濃い茶色の樹皮のような色をしていますが、大きくなるにつれ灰色を帯びた岩のような外殻に変わります。擬態に長けているこの生物は、成体になると単独で狩りを行います。あそこの子牛が見えますか?岩穴グモが作った真っ白な繭に興味があるのか、少しずつ岩穴グモの巣の方に近づいていますね。どうやら子牛が今日の獲物になりそうです。残念ですが、これが自然の摂理というものなのです。

メディアの住民たちは、木にぶら下がっている白い歯を見るだけで岩穴グモだと気づき避けていきますが、この土地に詳しくない人々はクモの襲撃を受けてしまうこともあります。まるであの子牛のようにです。岩穴グモは致命的な神経毒を持っているのでとても危険です。その毒に触れるだけでも全身が麻痺し、すぐ岩穴グモの糸で縛られてしまうでしょう。

-子どものための生態調査書、メディア編より
第7章の物語はこちら
気性の荒いハンター集団として有名なセゼークハンターたちは、もともと響きの地の近くで暮らしていたが三日間の闇以降、アルティノに進出した。彼らは自らアスラ神の息子と名乗り、響きの地で生まれたことに高いプライドを持っていた。

彼らの中にはルツム族出身のアドルフ・バニーという優れた狩りの実力を備えた者がいた。アドルフがセゼークハンター集団に身を寄せた当時、緑色のジャイアントにはセゼークでの居場所はないとのけ者にされたこともあったが、アドルフはただ黙々と狩りを続けた。

どれほど獰猛で巨体の獣が襲い掛かってきても、結局アドルフの手で一匹残らず仕留められてしまった。当初、セゼークハンターたちは彼を妬んでいたが、少しずつジャイアントを仲間として受け入れるようになった。一方、アドルフの能力について、武器を自在に操る彼の器用さだけではなく、様々な生物たちの習性と特徴をよく把握できる鋭い目を備えていることが彼の秘訣だと語る者もいた。

そのおかげなのか、いつの間にかアドルフはセゼークハンターの第一人者として認められるようになった。その後、三日間の闇に数人のセゼークハンターたちがアルティノに向かって発たれた後も、頑なに響きの地に残って他のハンターたちと共に狩りを継続していた。

しかし、三日間の闇以来、狩りを行うことは著しく厳しくなっていた。生態系に何らかの変化が生じたせいなのか、なぜか周辺の生き物たちがいきなり凶暴さを増していくのであった。ただ、三日間で世界がに覆われただけで、大地の環境が大きく変わったわけでもなさそうだった。

理由はともあれ、ますます狩りができなくなっているのは確かだった。アドルフと肩を並べていたセゼークハンターたちにも数人、数十人と背を向ける者たちが出始めた。このままだとセゼークハンターの命脈は潰えてしまう…4。そう考えたアドルフは皆を定住させると決めた。一旦、村という一定の場所に留まること自体が、すでにセゼークを諦めることだと反対する者たちもいた。また、セゼークハンターの名を汚すくらいなら、ここを抜けると不満を口にする者たちも出た。

それでもアドルフは己の意志を曲げることはなかった。セゼークハンターの名を残すためにも、まずは生存することが最優先だという考えに揺るぎはなかった。彼は残った者たちを束ねて東へ移動し、ついに不毛の荒地の真ん中にたどり着いた。

彼らが足を止めたのはそこが住むに適した場所だからではなく、冒険者たちが岩穴グモという妙な生き物に襲われていたからであった。一方、一団の人たちがその傍らで岩穴グモのクモの糸をこっそりと漁っているのが見えた。灰色の硬い外殻に、重たくて鋭い爪。しきりに噴き出る強力な毒、真っ白に輝くクモの糸…。アドルフには他の者が襲われようともクモの糸に執着している者たちが憎く見えた。しかし、岩穴グモの襲撃を止めるのが先だと判断した彼は、すぐに他のセゼークハンターたちと共に岩穴グモを狩り始めた。

だが、岩穴グモは思ったよりも手強い相手だった。手慣れていた武器はほとんど岩穴グモの硬い外殻に通用せず、接戦になると岩穴グモが吐き出す猛毒に全身の神経が麻痺するばかりだった。これではセゼークハンター第一人者としてのプライドが許さない。アドルフは狩りを中止し、岩沢グモの弱点を見つけ出すために岩穴グモを観察した。

そしてある日、アドルフは驚くべき事実を発見した。凶暴な岩穴グモたちもストーンライノという動物には全く歯が立たないと言うことだった。鋭い爪も、致命的な毒もストーンライノには無用だった。岩穴グモはストーンライノに踏みにじられ、逃げることで精いっぱいだった。また、面白いことにストーンライノは人間には従順だった。その瞬間、アドルフは閃いた。

「ストーンライノを手懐けられたら…。」

ストーンライノを飼育することができれば、岩穴グモを追い払うことはもちろん、岩穴グモから何かを得られるはずだ。例えば、つやつやしたクモの糸や硬い外殻の活用法などだ。岩穴グモさえいなくなれば、残りのセゼークハンターたちがここに定着することも、一族の名声を受け継ぐこともできるはずだ。アドルフは目の前に見えるストーンライノを眺めつつ、荒地に小さな村を作る未来を描いてみた。
第8章の物語はこちら
前方には猛毒を持っている岩穴グモが構えており、後方には凶暴さで悪名高いソサンに囲まれている。ここはサルマ前線基地である。サルマ・アニンを筆頭としたシュラウド別働隊がこの危険なところに赴いた理由は、褒美や出世などを求めたからではない。それはバリーズ王家を守護するシュラウド騎士団が、この地の平定のためにメディア北部でソサンと対峙していると知れれば、住民たちもバリーズ3世王子を追い出そうとせず、王子の地位が固まればシェン商団も勝手な行 動をとらないと考えたためだ。

幼いバリーズ3世はメディアを統べるバリーズ王家の最後の末裔だった。そして、シュラウド別働隊と言えば、バリーズ王家を守護する部隊だ。つまりシュラウド別働隊を創設した理由も、その存在意義も王家の血を守るためであった。ゆえにサルマ・アニンはナラーバ・ラクムをはじめとする優れた兵士だけを選んで別働隊を作り、ソサン討伐に名乗り出た。

その後、三日間の闇の時に姿をくらませていたバリーズ3世への非難も次第に収まるようになった。

考えてみれば、三日間の闇で起こったことだけでバリーズ3世を非難したのではなかったかもしれない。ますます力を増すシェン商団にとって、メディアの支配者とも呼ばれていたバリーズ王家は邪魔者だったであろう。希望溢れるメディアの未来のことを考えると、名ばかりの王家よりは有力な商団の方が役に立ちそうだった。しかし、バリーズ王家に仕える護衛隊がメディア北部の安全を確保すると言うと、王子を非難する理由がなくなった。まさにバリーズ王家なくして、シュラウド別働隊もなかったであろう。
第9章の物語はこちら
メディア北部は、我々ソサンの土地なのだ。一つの大陸には一人の王が君臨することが絶対なる理なのだから。誰かと共にこの地を治めるというのは、ソサンの名誉に泥を塗ることと同然である。

ところで君、あの話を聞いたか?俺たちのシュルツ隊長がソサンの未来のためだからって、小利口なアルティノの商人どもと慣れ合おうとしてる話さ。アルティノと手を組めば、ソサンがもっと楽な暮らしができるとか言ってな。長い歳月をかけてみんなの手で耕してきたこの地を、ついこの前まで俺たちのことを野蛮人呼ばわりしたよそ者に明け渡すなんてあり得ない話だろう?自ら進んで屈服するなんて、偉大なソサンの歴史に汚点を残すような話だ。

そう、そうだよ。結局シュルツ隊長も年を取って臆病になってしまったんだ!だからそんな戯言を口にするようになったんだ。牙を抜いたトラは力を失うと、自ら森を去るらしい。しかし、哀れなことにシュルツ隊長はまだ自分が健在だと信じているようだな。

このままだと、我々の土地はあっという間によそ者の手に渡ってしまう。よし、君もそれは快く思ってないようだな!俺たちに力を失った老いぼれの王などいらない。くく…じゃあ、ここで問題だ。俺たちがソサンの未来のためにやるべきことは何かね?

-ゴンクラッドがシュルツを毒殺する前に仲間に聞かせた話
第10章の物語はこちら
遠い昔、太古の大陸にある森の一番高いところに不思議な力を持つ神木が根を張り、女神シルビアが自然の精霊たちと降臨した。そして、その木に「カーマスリブ」という名を付けた。ある日、世界に闇が訪れるとシルビアの子孫ガネルに従う群れがメディアに広まるを払うために、響きの地の最南端にある丘のふもとに神木の枝を植えた地に定住したという。そこがカーマスリブ寺院である。響きの地の南、南部山脈のはずれにあるという伝説上の寺院だ。

様々な物語の中でカーマスリブ寺院は、あらゆる花や木々が咲き誇る中を精霊たちが踊り、他では手に入らない貴重な薬草がたくさん生えていて、病や傷などで苦しまない楽園そのものだと言われている。しかし、寺院は司祭たちによる精霊の力を込めた結界が張られているため、誰も入ることができず見つかることはなかったという。ゆえにある者は寺院の存在を否定し、寺院が存在すると主張する者たちを馬鹿にした。

実は私も同様、この前まではカーマスリブ寺院というのは、ありふれた昔話に登場する空想上の場所であると信じていた。しかし昨日、とある冒険者に会ってから前の考えは完全に捨てた。

彼は南部山脈まで物売りに行く途中に出会ったんだが、訳も分からない変な話をし始めたので最初はおかしいやつだと思っていた。商売もうまく行かず、落ち込んでいた時だった。その者の口からカーマスリブ寺院という単語が飛び出してきたのだ。ふと好奇心が湧いてくるのを感じた。

カーマスリブ寺院…。子どもの頃に読んだ本に登場した地上楽園ではないか。ちょうど私とその者がいた場所は、寺院が存在すると言われた南部山脈だった。もしかすると、という気持ちで一旦彼を落ち着かせ、ゆっくり話を聞かせてほしいと言った。

冒険者は今まで闇の精霊というものと一緒に過ごしたらしい。

闇の精霊と行動を共にして人より強い力を手に入れたが、闇の精霊がより強力な力を欲しがるせいで鬱陶しいと思う時期もあったそうだ。すると偶然、南部山脈を通ったときに白い枝を胸に抱き、左腰にダガーを付けている女性が近づいてきて、こう言ったらしい。闇の精霊が冒険者の体を縛り付け、いずれ冒険者の魂が黒いオーラに飲み込まれるのは時間の問題だ、と。

助けてくれるという女性の話を聞いて、何かに憑りつかれたかのように女性の後をついて行くと、今すぐ戻れと怒鳴り声をあげる闇の精霊のせいで気を失ったと言った。

その後、さわやかな草と花がいっぱい咲いている寺院で目が覚め、まるでハッカの匂いのような爽快な気分がしたそうだ。そこが伝説の中で登場するカーマスリブ寺院であることに気づいて喜んだが、隣でぶつぶつと文句を言っていた闇の精霊が静かになったことに気づき、何かが間違っていると感じたそうだ。力を与え、夢見ていた冒険の道に導いてくれた闇の精霊がいきなり消えてしまったのだ。

彼は寺院の司祭のような女性たちに闇の精霊を返してくれと泣きついたが、彼女たちはそんな彼を変に思うように、邪悪な闇は浄化しなければならないと繰り返すだけだった。追い出されたように寺院を後にして消えてしまった闇の精霊を探して南部山脈を探し回ったが、寺院はどこにも見つからなかったそうだ。

話はここまで。冒険者がたわごとを並べるようには見えなかった。彼はずっと真剣な眼差しで、何かを訴えるように言った。面倒くさく、いつか命まで奪うかもしれない闇の精霊という存在が、あいにく彼にとってたった一人の人生のパートナーだったのだろう。

彼は話を聞いてくれたことにお礼をしつつ、私の持っていた純白の軟膏を見てこう言った。寺院に似たようなものがあったことを思い出して、カーマスリブ寺院を知っている者だと勘違いしたと謝った。どうせ勘違いだったから、あえてその軟膏がただ安物の熱さましであることを言う必要もなかった。もう一度寺院を探しに行くといって、とぼとぼと去っていく冒険者の後ろ姿を見た時、私は子どもの頃のように伝説上の楽園のことを想像してみた。

-とある商人の日記より

バレンシア西部

バレンシア西部の達成度
第1章バレンシアへの道
第2章鍵の行方
第3章疑い、バシム族
第4章力への切望
第5章バレンシアの第二王子
第6章ケンタウロスの霊物
第7章岩石地帯へ向かう探究心
第8章ハルナン商団の最後
バレンシア西部地域の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
アルティノの東方にある海の中の砂道は、メディアバレンシアを隔てる国境の役割も担っている。バレンシアに初めて訪問する人々が驚くことの一つである。すべての秩序が無意味と化すメディアと、強力なネセル王政の下ですべてが治められるバレンシア。対立している二つの国が、砂道だけを境に接しているという事実!

私もアルティノ関所の警備を任された時は驚いた。すれ違う冒険者たちにあの砂道が国境だと何度説明したことか。しかし、真のバレンシアに辿り着くためには一層険しい道を渡らなければならない。そのため、あの国境は大して意味のないものである。果てしなく続く峡谷を渡れば、大砂漠があなたを待っているはずだ。首都、バレンシアはこの大砂漠を渡らずには辿り着けない。バレンシアは砂漠という厚く、広々とした城壁に守られているのである。

さあ、バレンシアに向かうべく、砂漠を渡るためにはどうするべきなのか?まず、用意すべきものについて調べよう。多くの人々が砂漠は暑いばかりだと勘違いしている。大砂漠のは太陽を抱えるかのごとく強烈な暑さだが、は心まで冷えるほど過酷な寒さだ…。(以下省略)

-アリバー著、「砂漠を旅したいあなたに必要な案内書」から抜粋
第2章の物語はこちら
大バレンシア王国の王子であり、関所の守護者バルハン・ネセルの名において告げる。

数日前、我のを運んでいたハルナン商団が盗賊に襲撃され、その鍵を盗難される事件が発生した。

どこの盗賊なのかは明らかになっていないが、我の物に手を出したということは、つまりバレンシア王国に対する侮辱陵侮だと判断する。

我はバレンシア西部全地域の軍を動員し、盗賊どもに罪を償ってもらう。そして、盗賊どもは自らの血で償うことになる。

今すぐに罪を悔悟して、を返すと言うならば、だけは助けてやろう。

我の鍵を見つけた者には、バレンシア王家から莫大な報酬を与える。

-バレンシア西部地域に発送されたバルハン王子の公文
第3章の物語はこちら
以前はバシム族が疑われることなどなかった。彼らは「名誉ある生」のみが真だと信じる種族だからだ。すべての生き物は自分が生きていくことを意識している、していないに関わらず、ある方向に向かっていく。誰かは富のために生き、また誰かは愛する人のために生きていく。

バシム族にとってはそれが名誉である。名誉は彼らにとって生きる目的であり、理由でもある。名誉なきことは汚れであり、生のすべての瞬間が名誉で満たされなければ、ただの汚れた生であった。

戦闘は常に双方に公表すべきであり、正当な方法で相手と自分たちのすべてをぶつけ合って勝敗を争わなければならなかった。暗殺、毒殺、罠のような卑怯な手は哀れで汚らわしいものとし、このような手を使うと重い処罰を受けた。そして、死ぬまで同族たちの蔑視と非難に耐えなければならない。

そんなバシム族が卑怯な方法で他の種族を襲撃するなど有り得ないことである。これはまるで西から日が昇るのと同じだ。しかし、最近バシム族の襲撃による被害が続いている。信じがたい状況だった。バシム族が襲撃するなんて!彼らに一体何があったのだろうか。誰かがバシム族に成りすまして、盗賊まがいの事でもしているのか?

しかし、襲撃の現場からはいつもバシム族のたてがみと足跡が見つかった。すべての証拠がバシム族を示している。黒くて長いたてがみ…黒いたてがみは初めて見たような気がするが、バシム族のものに間違いなかった。一体、ここで何が起きているのだろうか?
第4章の物語はこちら
名誉というものは生死が行き交う戦場の悲鳴を隠すラッパの音であり、敵の刃に倒れた数多くの犠牲者を辱めるものでもある。

戦争で勝てないということは敵に屈服することを意味し、これはつまり我々の家族と友人たちが敵に踏みにじられるということでもある。戦争で勝利したとしても、圧倒的な力で敵を制圧しない限り、戦友と家族たちの血が染み込んだ故地に勝利の旗を刺すこととなる。このような勝利が何の足しになると言うのか。

しかし、族長になった者は名誉に充実した生こそがバシム族が進むべき道だと言い、若者たちを惑わすのだ!もし私が監獄の中で何かを口にしていたなら、吐き気がしただろう。

、圧倒的な力の差こそが家族と友を守れる手段であり、戦争で倒れていく若者たちを救える。敵が手も足も出ないくらいの力を持つことで、戦うことなく屈服させることができる。

トレナンドゥ、お前は間違った。族長になる資格などない。お前が望んでいる名誉だけでは我がバシム族は守れない。俺が守る。力を得るためなら、すべてを諦めてもよい。たとえそれが自分自身だとしても!

-バシム族駐屯地祭壇に閉じ込められたカーティムブルの独白
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「お母様、兄上が王家の鍵を持っていないということですか?」

一瞬、バルハンは母の言葉が理解できなかった。一番上の兄であるシャハザード・ネセルが鍵を持っていないという話に、「一体鍵というのは何だ?」と。しかし、それが「王家の鍵」を示すということにすぐ気が付いた。千年の歴史の間、受け継がれてきたバレンシア王家の鍵は、バレンシアの初代国王の生まれし土地へと導く鍵であったのだ。代々バレンシアの国王のみ手にすることが許され、王が持つべきもの。つまり、それなくしては正統なる王として認められることはないもの。真の王の証とも言えるだろう。

「しかし、一体どうやって兄上は鍵なくして王位につくことができたんでしょうか?それは不可能だったはずです。」

先代国王のトルメ・ネセル第三の妃、バルハンの母親は詳しい事情は知らないが、シャハザードは鍵を持っておらず、その事実を隠蔽しようとしているとしか言わなかった。

事実なら、それは国の一大事だ。最悪の場合、大バレンシア王国が崩壊するかもしれない。この事実を外に漏らしてはいけない。もし口外されたら、ネセル王家の統治が終わり、国が覆るかもしれない。バルハンは焦りだした。しかし、一瞬、頭によぎるひとつの考えが、彼の不安な気持ちを鎮めてくれた。

「兄上が鍵を持っていないということは、そもそも父が王家の鍵を持っていなかったからだ。」

バルハンは自分の仮説を検証しようと思った。まるで何かに取りつかれたように、バレンシア王家に纏わるあらゆる書物を調べつくしたのだ。そして、彼の考えは確信へと変わり始めた。王家の鍵が言及されたのは、初代国王に関する資料では何度も見られるが、次の代からはほとんど言及されることはなかった。いや、まるで鍵に触れることを極力避けようとしているようだった。

その瞬間、彼は長い間心に秘めてきたが王位継承序列が2位であったために諦めかけていた、心の中のが、再びバルハンを取り巻き燃え上がり始めた。
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「はあ~ん!」

今日もちょうど良いくらいに気だるい1日になりそうだ。体は雲の上を歩くように軽く、そっと自然に瞼が閉じられるのは、何よりも熟睡できそうな証拠なのだから!今日もぐっすり眠れるだろう。

「早めにこうしておけばよかったのに!」

数日前、ジョニーヤはアール巡礼者の聖所を訪ねることにしたが、途中でなぜか面倒くさくなり、タフタルの丘の近くに足を止めた。そして、ケンタウロスの群れに溶け込み、一日中寝てばかりいた。ケンタウロスと言えばとても物騒な連中ばかりだが、とりあえずバレてなければ、彼らほど熟睡を守ってくれる頼もしい番人は他にいないからである。聖所って何だったっけ!例えこの身が遠く離れていても、いつもアール様を敬る気持ちさえあればそこが聖所じゃないか?

再びジョニーヤはそんな言い訳を自分に言い聞かせながらすぐ眠りに落ちた。どれだけの時間が経ったのだろう。鈴虫の夜の歌が聞こえる頃に昼寝から目が覚めた。寝ぼけたまま目を開けるジョニーヤは、遠くからある人がケンタウロスたちの洞窟に入るところを目にした。ここで長く留まっていたが、両足で歩く生き物を見かけたのは久しぶりだった。再び眠ろうとしたジョニーヤは、騒がしいつま音に起こされる羽目になった。そして、それは死の危機を意味することでもあった。

血眼になったケンタウロスたちがあちこちを踏み荒らしていたのだ。物陰に身を隠しつつ、ジョニーヤは騒ぎが収まった頃に周りを調べ始めた。ケンタウロスたちが皆、どこかへ行ったようだった。ふと、正体不明の人が洞窟へ入ったことを思い出した彼は、すぐケンタウロスたちが拝んでいる霊物がおいてある洞窟に入ってみた。やはり、奴らはこの霊物に絡む事件でもない限り、ここまで躍起になったりしないだろう。いつも明るく燃え続ける光でケンタウロスたちを保護するという、霊物の炎が消えていたのではないか。一瞬、ジョニーヤは寝る場所を変えるべきかなと悩んでみたが、それは杞憂に過ぎなかった。戻ってきたケンタウロスたちがバシム族のことについて何か話しているようだった。

「バシム族?騒ぎの原因はバシム族だったのか?」

正直どうでもよかった。場所を変える必要がなければ、変わらずにここでぐっすり熟睡できるはずだから。そして、再び眠りに落ちるジョニーヤであった。
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「どうしてだろう?」

知性の発展は常に疑問から始まる。当たり前のことを当たり前と捉えず、疑問を投げかけることで新たな観点を得られる。そしてそういった新たな観点は、事象の裏側をも洞察させ、さらに根源への探究に繋がる。つまり、疑問にただ答えるのではなく、疑問を疑問で返すことで、より深く高い境地へと人間は進めるのだ。これが学問のはじまりである。

疑問を抱かないこと、問いを投げかけないこと、そして当たり前のことを当たり前と捉えることは、歩みを止めているに等しい。万物は常に移ろうものであり、その場に立ち止まるということは、後戻りに他ならない。もしかすると、問いかけるべき疑問を抱かなくなった時こそ、人間の知性が幕を下ろす瞬間であり、人間という種の終焉なのではないだろうか。

バレンシアのシーラーズは、このような理由から、絶えず疑問を抱き探究することが、己の責務だと思う女性だった。

しかしシーラーズにとって、己に課した全人類のための責務は、全くの重荷ではなかった。彼女からすると、この世は不思議なもので溢れているからである。世界の起源に関する伝説や古代人が暮らした痕跡、謎の終わりを迎えた古代文明とそれにまつわる物騒な噂は、シーラーズの探究心を激しく刺激し、彼女は自ら確認せずにはいられなかった。

バルハン王子の鍵の噂が収まりかけた頃、彼女の好奇心は行く先を定められずにいた。シーラーズは徐々に焦り始めた。

「うう…退屈だわ。何か目新しいことはないかしら?」

歯がゆさを感じた彼女は気晴らしに町へ出かけた。その時、とあるカタン軍の隣を通りかかったのだが、軍人たちの話を耳にした彼女は、再び好奇心を向ける先を見つけることができた。

「ゴルゴ峡谷で馬が石化する事件があった。どうやら、バジリスクの仕業のようだが、真相を調べるため、バロムを派遣したらしい。」

シーラーズはその足で図書館へ向かった。そして、バジリスクに関する書籍を読み始めた。ゴルゴ岩石地帯の恐ろしい伝説、目にしただけで石になってしまう石化の呪い、そしてその呪いをものともせず、バジリスクを掃討した後、悠々と去っていった冒険者。

「もっと早く知りたかったのに!」

まるで、人生を無駄に過ごしたとでも言いたげな表情で嘆きながら、彼女はまっすぐ家に戻り荷物をまとめた後、市場でラクダ一匹を借りた。しばらく穏やかだった心が動き始め、その興奮とときめきを我慢できなかったのだ。

活気を取り戻した彼女の瞳は降り注ぐ星よりも明るく輝いているようだった。そしてその光は、静寂な砂漠の夜を素早く横切っていった。
第8章の物語はこちら
どこから間違っていたのだろう。

ラヒムは、浮かれた表情を隠せずにいた商団頭の顔を覚えている。そんな表情を見るのは実に久しぶりだった。既に大型商団と呼ばれているハルナン商団だったが、近頃は他の商団との競争が激しく、商団頭はこのままではいけないと焦っていたのだ。その彼がこんなにも喜んでいるとは。その姿につられ一緒に浮かれていたラヒムは、商団頭と一晩中盃を交わした。

質素な宴会は月が沈むまで続いた。ラヒムはその雰囲気に紛れて依頼人が誰なのか、何を頼まれたのか、こっそりと問いかけた。商団頭は答えそうにはなるものの、肝心な所で口を閉ざしてしまう。ラヒムはその固い口をほぐすかのように、商団頭の盃に酒を注ぎ続けた。そしてついに商団頭は、決して誰にも言うなと何度も念を押しながら、ろれつの回らない声で耳打ちをした。そして、懐から手紙のような物を取り出してラヒムに手渡した。

それは依頼書で、中身を見たラヒムは驚きの余りのけぞってしまいそうになった。依頼人が、かのバルハン・ネセル王子だったからだ。商団頭が浮かれた表情を隠せなかったことも納得できる。しかし次の瞬間、とある一文がラヒムの目に飛び込んできた。ただならぬ違和感が漂う文章だった。

「王室への報告は無用。バルハン王子に納品すること。」

今思うに、あの違和感は見過ごすべきではなかった。しかしあの時、ラヒムは酔いが回っていたせいか、はたまた商団頭の気持ちに同化されたのか、ハルナン商団がこの先手にするであろう信頼や名声ばかりに思いを馳せ、違和感を感じたことなどすぐに忘れてしまったのだ。この依頼を通じて王室と直接繋がれば、他の商団よりも絶対的優位な立場を手にすることができるからだ。

翌日の早朝、ラヒムは一番丈夫な馬と足の速いラクダ、そして経験豊富な商団員を選んで隊列を組んだ。任された依頼の重みに比べれば、いくら準備しても足りない気がした。程なくしてハルナン商団の隊列は首都バレンシアを後にした。砂漠を横切り、バレンシアの国境を越え、メディアの物静かな鍛治屋までの道のりは、ひたすら順調だった。目的地に到着するや否や、商団頭は鍛治屋に品物の製作を依頼した。商団頭を補佐していたラヒムは、その時王子に届ける物が黄金の鍵であることを知り、奇妙に思った。なぜ錠前もないただの鍵を作って届けろと言うのだろう?

鍵の製作が終わり、バレンシアへ発つ前日の夜。ラヒムは同行者の人数や積荷を確認し、その報告のため商団頭の部屋を訪れた。商団頭は手紙に目を通していたのだが、その表情が徐々に強張って行くのが分かった。内容を聞いてみたが、商団頭は大したことではないと言いながら、出発の準備は終わったかと問い返してきた。ラヒムは報告を終えて、寝床に戻った。

翌日、岩石警戒所を通りかかっていた時、ハルナン商団は襲撃を受けた。天地を揺るがすような騒ぎの中で、なんとか辺りを見回すと、赤い目が邪悪に輝く黒いバシムたちに隊列を囲まれていた。そして連中は、ハルナン商団をバジリスク祭壇の真ん中まで引き連れていった。バジリスクが?なぜ俺たちを?ラヒムは、バシム族が自分たちをバジリスクの元へ連れてきた理由が全く分からなかった。噂では、バシム族はバジリスクを毛嫌いしているはずだ。バジリスクは悲鳴を上げるラヒムをあざ笑いながら、商団頭をはじめとする全商団員に石化の呪いをかけた。

狡猾なバジリスクたちは、商団頭には特に強力な石化の呪いをかけた。一歩も踏み出せないほど石化した時、商団頭はメディアで受け取った手紙の内容を話してくれた。バレンシア国王のシャハザードの弟、マンメハン・ネセル王子からのもので、バルハン・ネセルを信じるなという内容だったこと。そして自分たちはバルハン王子の計画に乗じたが、一商団が担える計画ではないと言う。

商団頭は、自分たちは散々利用されたあげくこのザマだと、後悔と嘆きの言葉を吐き出し、バルハン・ネセルの提案を受け入れなければよかったと泣き叫んだ。しかし、こうなることを誰が予測できただろう。もしあの時、バルハン・ネセルの提案を断っていたら、今よりもっと早く最期を迎えたかもしれないのだ。

バレンシア大砂漠

大砂漠

バレンシア大砂漠地域は家門依頼で物語が進む地域です。冒険日誌の対象に大砂漠地域は含まれていません。

バレンシア大砂漠の依頼と報酬一覧

バレンシア北部

バレンシア北部の達成度
第1章荒地の真ん中の避難所
第2章間違った信仰、カドリー神殿
第3章何でも取り揃えているシャカトゥ商団
第4章盗賊団のリーダー、ガハーズ・トゥバル
バレンシア北部地域の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
「あなたにとって避難所ってどんなところですか?

柔らかく流れる水の流れを見つめながら、心身を安定させるところであり、人々と共に焼き魚を食べながら話し合うところでもあります。また、ただ気楽に横になったまま、流れていを一つ、二つ数えながら疲れを取るところであるかもしれません。

あなたが今、どんな休息を思い浮かべたとしても、クニドの避難所ではその全てを味わうことができます。

冒険に疲れたあなた、こちらへ足を運んでみてください。」

-老兵の渓谷に貼ってあるチラシ、「クニドの避難所へ!」より
第2章の物語はこちら
黄金の地、バレンシア。他のどの地よりもアールが長く留まっている場所である。太陽神アールは広い懐で全てを抱き、陽炎の姿で祝福を与える。そのため、バレンシアの実直なアールランたちは、足元が燃えそうな苦しみに耐えながらも砂漠を歩き、神の呼びかけを求めて苦行をするのだ。

しかし、この黄金の地にもアールの恩寵届かない場所があった。その場所は、一時は祈りと賛美が旋律となり流れる所だったが、全てのものに背き墜落してしまった。その場所とは、バレンシア西部と北部の間にあるカドリー神殿だ。

「…思ったより深刻ね…。」

廃墟の柱に触れると、指先に黒い粉がついた。それは、瓦礫やホコリとは確実に異なる粉だった。エン・レイカは細長く差し込む日差しの下に指を当ててみた。細かい砂のように小さな粒子の粉は、光を浴びるほど、より濃い色に変わった。

「アールの寵愛を拒否するのね…。」

まるで光を拒むような、もしくは光に潜むような姿だった。短いため息が峡谷の間に広がった。

カドリー信徒たちが、黒い石の粉を体に取り入れながら永生を願っているという事実だった。

この頃、奇妙なことが続いていた。バレンシア北部と西部の間を通った商人や住民たちが、次々と失踪していたのだ。一度姿を消した人々は、決して戻ってくることはなかった。状況は次第に深刻になっていったが、カタン軍は、バシム族とケンタウロス、そしてバジリスクの三つの種族が領域を巡って争っているバレンシア西部に軍事力を集中させるしかなかった。失踪者の家族だけが不安と焦りを募らせた。彼らは結局、自費で捜索のために懸賞金を懸けることにした。そのため、エン・レイカのような賞金稼ぎがバレンシア北部に集まるようになる。

失踪の噂は事実だったが、カドリー信徒が本当に住民たちを拉致しているのか、明確な証拠が必要だった。床に散らばっている黒い粉だけでは証拠としては不十分だった。

エン・レイカがカドリー廃墟の方向に一歩踏み出そうとした瞬間、ばさっと音がして、同時に後ろから人の気配を感じた。凄腕の実力者でなければ、この周辺を無謀に冒険する者などいなかった。また、エン・レイカが知る賞金稼ぎたちも皆、この場所を去った後だった。エン・レイカは迷うことなく武器を取り出した。ちょっとした騒動が起きたとしても、受け入れる覚悟はできていた。

「あ!あなたがエン・レイカ…ですか?」

声が聞こえた方に武器を構えながら振り向くと、そこにはちょっと間抜けそうなが立っていた。男は目の前まで迫ってきた刃にずいぶん戸惑ったようで、ゆっくりと両手を頭の上に上げた。

「誰?」
「ト、トニー・ベンガッツです。」
「目的は?」
力ドリー信徒について聞きたいことがありまして…。それより、一旦、その武器を、お、収めてくれませんか?」
「さあ、まずは私の疑いから晴らしてくれないとね。」

男の手にたこはほぼ見当たらなかった。武器の使い方を知らないか、もしくはまだ未熟なのか、どちらかであることに間違いはなかった。好奇心で力ドリー峡谷まで入ってきて道に迷った冒険者かもしれないし、この周辺をさまよう流民かもしれない。相変わらず、エン・レイカの表情は強ばったままだったが、取るに足らない人間だと思っていた。

ルーン出身です。」
「……。」

ルーン出身、その言葉を聞くまでは。エン・レイカは静かに武器を下ろした。トニー・ベンガッツの一言にはいろんな意味が含まれていた

「村を離れてからだいぶ経っていて、知るのが遅くなってしまいました。学問の研究に邁進していたんです。何も知らないまま…。急いで来てみたら、生き残った住民たちはバラバラになり、探すことも容易ではなくなっていました。」
「分かったことは?」
「特にありません…。あなたを早く見つけられたのも、高台から奴らを観察しているだろうという推測が当たったからです。」
「バカではないようね。じゃ、これは何だと思う?」

エン・レイカはまだ黒い粉がついている指を差し出した。しばらくそれをじっと見つめていたトニー・ベンガッツの表情が、暗くなった。

黒い石…。
「勘がいいのね…。」
「…力ドリー信徒たちは、いつからこうなったんですか?」
「ここが襲撃された時。」

力ドリー神殿とルーンが一日で廃墟になったのは、数年前のことだった。

今は誰にも想像できないだろうが、当時カドリー神殿は、バレンシアの中でもとても情熱的で実直なアールランたちが集まっている所だった。祈りの声やアール神の讃美歌が絶えず、バレンシア全域を横断するアールランが巡礼のために訪ねて」きていた。

何があったのかは知らないが、結局、信仰を破って堕落してしまった。

トニー・ベンガッツは憂いに沈んだ顔で廃墟の床を掃いた。黒い粉が土埃と混ざって舞い上がった。峡谷の入り口からこんな状態ということは、村の中心部だった所に向かうほど、より悲惨な姿になっているだろう。

「あなたはなぜここに来たの?
「僕ですか?」
「何か理由があるんでしょ?」

荒涼とした風の中、トニー・ベンガッツは峡谷の向こう、ルーンがある方向を見つめた。そして、思い浮かべた。廃墟になってしまった故郷、痕跡すら探すことができない家族と友だち、たくさんの故郷の人々…。そして、彼は心に決めた。決心するのは思ったより簡単だった。

「故郷を取り戻します。」

エン・レイカは、何も言わずに彼を見つめた。

「僕と同じ目に遭った住民たちを集めて、カドリー信徒たちを追い出し、故郷を取り戻します。」
「……。」
「簡単ではないと思いますが。何でもやるつもりです。戦術も練って、人の助けも恥じらわずに受けます。」

「悪くないね。」

エン・レイカは短く評価した。

そしてトニー・ベンガッツは、峡谷の上で力ドリー信徒たちをしばらく観察してからルーン出身の住民を探してみると言い、老兵の渓谷の方向へと消えた。エン・レイカはぼんやりと思った。廃墟になった村を取り戻すのは、立派な将軍でも腕のいい賞金稼ぎでもない。もしかしたら、挫けることのない強い意志を持った普通の住民かもしれないと。
第3章の物語はこちら
普段のタフタルは、とても冷静でどんな状況にも余裕を持って器用に対応する。だが、稀に慌てることもあり、そういう時は話が長くなる癖がある。例えば、こんな感じだ。

「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?これは急すぎます。僕に一言も相談なしに、どういうことですか?最近、ずっと姿が見えないと思っていたら、こんなことを企んでいたんですか?なかったことにしてください!誰ですか?誰が親方をそそのかしたんですか?もしかして、僕がさぼっていると思って、わざとこんなことを仕組んだんですか?僕は時間も惜しんで一生懸命仕事してるんです。こんな配慮は要りません!」

シャカトゥは普段、自分が大事にしている者たちには、優しく礼儀を持って接し、ゴブリンらしくない威厳を持つことで有名だが、稀に幼稚なことを言って相手の機嫌を損ねることがある。それは、「俺の勝手だ!」と理不尽な言い方をする時だ。

その瞬間、タフタルは思わず「親方だけ、わがままを言っていいんですか?僕も言いたいですよ!」と幼稚に言い返したかったが、もしかしたら誰かの耳に入るのではないかと思い、何とか言葉を飲み込んだ。ここの気候は暑くて乾燥しており、多くの人々は仕切りのない空間で生活しているため声が通りやすいのだ。

続けて「僕はこんなに親方の顔を立ててるのに、ひどいです!あとのことはまた、僕がやらなきゃいけないじゃないですか。」と喉まで出かかった言葉をやっとのことで堪えると、タフタルは一層、気力が衰えた顔をした。

もしシャカトゥが欲深かったなら、小国一つくらい買うのは難しくないという話は冗談ではない。実際、彼は長い間共に過ごしたタフタルのために、彼の名前をつけたタフタル平野プレゼントしたところだった。

第三者からすると、心温まる羨ましい話だが、タフタルにとっては相当のプレッシャーであった。

まず、タフタル平野が位置する場所が問題だった。バレンシアのどこに行っても、国を守護する軍隊に出会うことは大したことではなかったが、平野の位置はネセル王族の第二王子、バルハン王子が自ら管理するバルハン関所の近くだった。

王家の権力争いを巡る噂が流れている時期に、余計に注目を浴びるのではないかと心配だった。

今でこそ、表面上は王家と良い仲を保っているシャカトゥ商団だが、一時、商団が大きくなっていく過程で王家からの圧迫をたくさん受けたりもした。急速に増えていくシャカトゥの財産と彼に従う者たちが、多くのものを警戒させたのだ。しかし、タフタルの悩みはすぐに消えた。バジリスクと対立しているケンタウロスたちが平野を占領したため、妬まれるどころか同情されることになると思ったからだ。

そのおかげで、シャカトゥだけが一人で暴れ、今すぐあいつらをやっつけてくれと軍部に要請を出した。もしかすると、これを機に国の状況をより身近で知ることができるかもしれないと思ったタフタルは、どちらに投資するのが得か、頭の中で素早くいろんな利益について計算していた。
第4章の物語はこちら
ガハーズ・トゥバル。誰かは彼について、卑劣で臆病なため王の命令から逃げたと話した。また、誰かは彼が異心を抱いてバレンシアを裏切ったとひそひそと話した。

どちらにせよ、時間が経つにつれて、ガハーズ・トゥバルは以前将軍だったという事実さえ知らない人も増えていった。ただ、彼の悪名は高くなる一方で、バレンシアでは「泣いてばかりいると、ガハーズ・トゥバルに連れ去られるよ!」と子供たちを脅かすほどになった。

そのため、「トゥバル」という苗字を持っているローハン・トゥバルがどこにも定着できず、ゴブリンたちの王国と呼ばれるシャカトゥキャンプにだけ留まるのは、ゴブリンたちの立場からすると悲劇的なことだったが、ローハン・トゥバルの立場からすると、腹が立つことだった。

彼はキャンプにあるお酒というお酒に、全部飲み干す勢いで飛びついたが、問題は一つ目に、彼にはお金がなく、二つ目に、ゴブリンたちはそもそもガハーズ・トゥバルの名声をさほど怖がっておらず(そのおかげで、ローハン・トゥバルはシャカトゥキャンプに留まることができたのだろうが)、三つ目に、シャカトゥキャンプのゴブリンたちは皆、プライドの高い商人であるため、一文無しのローハン・トゥバルに誰が最も高くお酒を売ることができるか、という変な挑戦が始まったことだった。

ゴブリンたちが集まり、そんな企みをしようがしまいが、ローハン・トゥバルは突如直面した危機と闘っていた。彼は飛びかかってくる敵が突きつけた鋭い何かを、体を後ろに反らして辛うじて避けた。

後ろに倒れそうになったが、横に二回転がって再び起き上がり、姿勢を整えようとした瞬間、しまった!はいつの間にか、ローハン・トゥハルの足元まで来ていた。

敵は魔法を使える者だったのか、地が襲いかかってくるかのように揺れた。敵は今すぐにでもローハン・トゥバルを捕まえて、地に叩きつけそうだった。ローハン・トゥバルは千鳥足で歩きながら、できる限り相手の企みから逃れようとした。

しかし、相手はもうローハン・トゥバルの周辺までも、まるで空間を折り畳んだかのようにしわくちゃにしていた。周辺が波立つように揺れ、天はまるでローハン・トゥバルを押さえつけるかのように近づいてきた。

とうとう、ローハン・トゥバルは耐えきれずに座り込み、思いっきり吐き出した。

「ウエ!どこのゴブリン野郎だ!こんな酒を売りつけやがって!別の酒を持ってこい!」

ひとしきり、地と遭遇したローハン・トゥバルは、酔っぱらって酒瓶を探した。

その姿を見ていたシャビが、すぐローハン・トゥハルに近づいた。ジャビはローハン・トゥバルが気づくくらいの、しかし、彼に酒瓶を奪われない適当な距離に立ち、彼の目の前で酒瓶を振って見せた。

揺れている瓶の透き通った音が、泥酔したローハン・トゥバルにも聞こえた。ローハン・トゥバルがすぐにでも胸ぐらをつかむ勢いでジャビを見つめて叫んだ。

「酒!」
「ちょ、ちょっと待ってください!もちろん、お酒はさ、差し上げます。その前にぼ、僕の質問に、ひ、一つだけ答えてください。」
「何だ!」
「ガ、ガハーズ・トゥバルくらいの、と、盗賊団なら、すごい宝を持っているでしょう?」
「ガハーズ?お前、今、俺に奴の話を切り出したのか?」

ローハン・トゥバルが怒り出すと、ちょっと怖くなったジャビは急いで酒瓶の蓋を開けて、酒の匂いを広めた。ローハン・トゥバルの視線が再び、酒瓶へと移った。

「め、召し上がってください。もし、ガ、ガハーズ、と、盗賊団ので僕がお、美味しいお酒を持ってきたら、ロ、ローハントゥバル様に差し上げることができると思いませんか?」
「酒?」
「はい!ガハーズ、と、盗賊団の訓練地の奥まで、は、入れる近道だけ、お、教えていただきたいです!」
「そりゃ知ってる!知ってるぞ!

商売は最小限のもので、最大限の利益を出すのだ。ジャビは楽しく鼻歌を歌いながら、ガハーズ盗賊団の訓練地に向かうための支度を始めた。

バレンシア南部

バレンシア南部の達成度
第1章闇が染み込んだ三日月
第2章無法者たちの王
バレンシア南部地域の依頼と報酬一覧第1章の物語はこちら
女性が聞いた。「何のために一人で砂丘を掘っているの?」

サウニールは女性を見つめて、すぐさま足の爪の形に掘られた砂の上に大きな絵を描いた。それは三日月だった。

女性は再び聞いた。「三日月神殿…。一日にして災難に見舞われたという所ね。そう。なぜ、この場所を取り戻そうとしてるの?」

サウニールは砂を掘り続けた。大きな図体にはそぐわない、かなり切羽詰まった様子の身振りだった。このでかい山脈と神殿が姿を現すためには、その程度の行為では何年を費やしても無駄であるにも関わらず。

女性は返事がなくても構わなかった。何かを信じるために生きていく種族はみんな一緒だったから。女性はサウニールに近づいて囁いた。

メディアを覆った黒い闇について知ってる?そこには太陽、混沌、そして影さえなかったの。全て私の権能だった。」

サウニールが砂を掘る手を止めて、女性を見つめた。その時、濃い雲が太陽を覆いをもたらした。

こんな砂、私にとっては何でもない。私があなたの力になってあげるから、あなたも私に信頼を分けてくれない?」

女性が足元にスタッフを近づけると、ほこりのように小さくて細かい砂粒さえ、一粒ずつ浮かび上がり始めた

砂が取り除かれたら、この黒い女神に仕えて。」

まもなく、風に乗って雲が去り、日差しが差し込んだ。そして、女性はまるでくり抜いたかのようにその姿を消した。

三日月神殿が魔法のように姿を現したという噂が広まったのは、次の日のことだった。
第2章の物語はこちら
アールランたちは血を吐きながら倒れる時もアールの慈悲を求めた。アールよ、祝福を、救援を。

傷口から息が漏れるせいで声は枯れ、言葉には力が込もっていなかった。なめらかな白い布が徐々に真紅色に染まっていった。とうとう衣服が全て赤く染まると、布に染み込み切れなかった血を吐き出した。

カヤル・ネセルは死にかけている彼らを静かに見下ろした。最後まで生きていた信徒が最後の息をついた時、彼は視線を上げて自分に刀を構えているを見つめた。

「カヤル・ネセル!国王からの神の使者たちを無残に殺すなんて!厳罰に処されるべきだ!」

カヤルはバルハン・ネセルの鋭い刀の先を見つめた。一滴の血もついていない刃が真っ青に輝いていた。バルハンの言葉には怒りが込められていたが、その声は、そうではなかった。怒りに満ちた人にしてはあまりにも落ち着いていて迷いがなかった。

バルハンが連れてきた三人の兵士たちがアールランを斬った刃を持ち上げ、カヤルに向けた。刃の曲線に乗ってべったりと流れていた血は柄の周辺にぽたりと落ちた。カヤルはバルハンの瞳を見つめながら沈んだ声で話し始めた。

「王子の住処に入ってくるのに、礼儀も知らないのか。無礼だ。

一瞬にして兵士たちが肩をすくめたが、バルハンの声がムチのように兵士たちを集中させた。

「お前は王子でも何でもない!この恩知らずめ。享楽にふけて自分の恥も分からなくなってきたのか!」
お兄様は、このことについて知っていますか?」

脅すかのように怒鳴るバルハンの話が終わるや否や、カヤルが鋭く投げつけた。バルハンは沈黙した。カヤルはバルハンが口を開くのを待っていた。しばらく静寂が流れ、バルハンがまた、少し低い声で言った。

俺が直接報告する。」
「分かりました。バルハンお兄様、行きましょう。」

兵士たちが武器を収めてカヤルの両腕を掴んだ瞬間、カヤルは驚いて体を震わせながらベットから起き上がった。冷や汗がべったりと肌に滲んでいた。体から少し酸っぱい匂いがした。

カヤル・ネセルはムイクンに定着してから、たまにあの日の夢を見た。いや、かなりの頻度だった。その度にカヤルは驚いて夢から目覚めた。彼はベッドに腰かけたまま、掌で濡れた髪をかきあげた。深いため息が掌から指の間へと抜けていった。

寝ぼけた目でテントの外を見つめた。目が覚めると、次第に声が近くで聞こえ始めた。熱い太陽が降り注ぐムイクンで、彼は見えないものを睨むように見つめていた。

バレンシア東部

バレンシア東部の達成度
第1章謎の爆発、フィラ・ク監獄
第2章首都バレンシア
第3章硫黄鉱山の溶岩族
第4章バレンシア王家の黄金の鍵
第1章の物語はこちら
たった一人を閉じ込めるために遠い砂漠を越えて、数多くの兵力を投入して、国庫に眠っていた金銀財貨を手放し、監獄を建てた。

それに対してバレンシアの国民は何の不満も口にできなかった。それだけカプラスは悪名高かったのだ。都市の住民たちは一日でも早く彼を砂漠の奥深くに閉じ込めることを望んだ。

カプラスが監獄に移送された日、都市の人々は窓を閉めて息を潜めた。太陽が眩しく降り注ぐ真昼にも関わらず、真夜中より静かだった。

バレンシアの老人たちはフィラ・ク監獄について話す時、よく錬金術師力プラスのことを口にした。老人たちが直接見たわけではないが、フィラ・ク監獄について聞いたところによると、カプラスたった一人を閉じ込めるための監獄だということだ。

建国神話のごとく神秘的に聞こえるこの話をかなり多くの人が信じているが、それが真実かどうか知っている人はいない。

しかし、砂漠の向こうのひっそりとしたところに城砦よりも物々しいフィラ・ク監獄があるということは事実だ。よく訓練されたカタン軍が監獄を守っていることも事実で、その中に各種の凶悪犯と過去のカプラスの教えに従う追従者たちがいることも事実だ。

フィラ・ク監獄は大砂漠の東側を包むようにそびえ立っている岩山を削り、穴を開けて作られた。堅い岩に穴を開けて地下へ奥深く入る構造で、が重いほどより奥深い地下に収監された。

砂漠に降り注ぐ太陽の祝福は奥深い地下監獄には届かず、監獄の中はいつも陰湿で肌寒かった。夜になると初冬のように冷え込み、囚人たちは怒鳴ったり謎の呪文を呟き続けたりして常に不吉な騒乱で満ち溢れていた。

砂漠の一番下であり、何の希望もないフィラ・ク監獄はそれ自体がこの世の底のように見えた。囚人たちはこれ以上悪くなることはないから、かえって良いとくすくす笑った。

人間であることを諦めた凶暴な犯罪者も、カプラスの一番弟子と自任していた追従者も、フィラ・ク監獄がより深い闇の中に沈むことはないと信じていた。

しかし、邪悪なソーサレスイレズラがフィラ・クに到達した頃、フィラ・クにいた全ての人々は暗黒より濃い間を迎えざるを得なかった。
第2章の物語はこちら
久々に首都バレンシアに足を踏み入れた時、そこは世界を飲み込んだ黒い死と30年間の戦争を経験した国家の首都のようには見えなかった。

城壁は相変わらず堅固で城門を守護する兵士たちの姿勢は揺るぎなく、訓練する兵士たちの力強い叫び声が城壁に乗り鳴り響いた。百姓たちは親切で落ち着いていて余裕があった。飢えて痩せこけた者はおらず皆、綺麗な服を着ていた。

首都バレンシアはわずか数年で、以前の輝かしい強大国の姿を大分回復させた様子だった。数年前は道端に黒く腐った死体が転がり、傷ついた軍人たちは物乞いをし、百姓たちは不安に怯えていたことが信じられないほどに!

私は孤高さを取り戻したバレンシアの姿に溢れ出す感嘆を飲み込み王宮に入った。バレンシアの天文学者たちは、まずバルハン王子に謁見するべきだと言った。

王子は柔らかい話し方をしつつも真っすぐな姿勢を維持し、度々動く体の線には気品があった。さすがバレンシア王族である。

私を案内したバレンシアの天文学者は再び夜空を見上げられるように努力した王子の業績を称賛し、王子は私に王国の天文学者と共にバレンシアの夜空を見上げることを許した。

しかし、感謝の意を伝えてその場を引き下がろうとした瞬間、バルハン王子の目を見た私は謎の違和感に包まれた。

彼は私と隣の天文学者を見ていなかった。なぜか、彼の眼差しは空っぽのようだった。まるで遠いところを見つめるための望遠鏡のような視線は、向こうの何かを探し彷徨っているように見えた。

目は私の方を向いていたが、視線は私に向けられていなかった。私の考え過ぎかもしれない。

…(中略)あの夜、天文学者の提案によりバレンシアの夜市に寄って一杯することにした。夕方なのにかなり多くの人が集まって料理とお酒を嗜んでいた。

騒々しい雰囲気の中で何杯か飲んでいたら、周辺の人たちのが聞こえてきた。ケンタウロス、ムイクン、追放された王子力ヤル・ネセル、フィラ・ク監獄の物騒な噂のようなものだった。

そんな話を聞きながら、ふとあることに気づいた。住民たちは、希望のある前向きな話を一切していなかった。

-バレンシアに旅立ったカルフェオンの天文学者の日記より
第3章の物語はこちら
首都バレンシアの北側に位置したルード硫黄鉱山は周辺のガビニャ火山の影響によりいつも熱い硫黄やガスでいっぱいだ。

人が住めないほど劣悪な条件の硫黄鉱山だが、錬金術師たちが常に必要とする良質の硫黄が採れることで有名だ。ルード硫黄鉱山の硫黄は真っ黄色で純度が高いため、腕の良い錬金術師はルード硫黄鉱山の硫黄のみ取り扱うほどだ。

そのためバレンシアはルード硫黄鉱山との地理的な利点を活かし大々的な採掘事業を推進し、それにより大きな経済的利益を得ることができた。

人間が作業できない環境で硫黄を採るために雇われたのが溶岩族だった。彼らは熱い場所を好み、硫黄のガスを物ともせず不満を口にしなかった。

ルード硫黄鉱山で採鉱された硫黄はバレンシアに渡り、錬金術師たちに販売できるよう小分けされた。きれいに包まれた硫黄は大砂漠を横断したり、シャカトゥ商団を経てメディアのアルティノに流れ込んでいった。

砂漠を渡ってきた硫黄はタリフ村のソーサレスたちと錬金術師、セレンディアとカルフェオンへ向かう商人たちに高値で売られた。ソーサレスと錬金術師は自分の成果を、商人たちは自分たちの利益を最大限に引き上げるために硫黄を利用した。

結局バレンシアから出発した硫黄がカルフェオンに着く頃には、硫黄の値段は既存の数十、数百倍以上に上がったりもした。裕福な者はその値段で硫黄を買い、貧しい者は自ら歩き回り硫黄を供給するので、バレンシアからカルフェオンにかけての広大な地域の経済が溶岩族の手にかかっていると言える。

しかし最近、高かった硫黄の値段が天井知らずに上がった。溶岩族を管理する作業班長ウストゥオーバンはその原因が溶岩族のストライキにあると指摘した。彼の話によると黙々と自分の仕事をしていた溶岩族たちが仕事を怠り始め、挙句の果てに怪しい装置をつけて人を攻撃し始めたというのだ。

その余波で硫黄と関連のある物資の値段の変動が激しくなり、巨大な資金が動いたことによって多くの人々がそれぞれの意見を出した。

ある者は溶岩族が知らずにいた硫黄の価値にやっと気づいたと話し、ある者は我慢強かった溶岩族さえ反乱を起こすほどの過重な労働のせいだと話した。また、黒幕が溶岩族を動かし、経済の覇権を握ろうとしていると話す者もいた。

学者たちの異なる意見にも共通点があった。大砂漠を覆った混沌がやがてルード硫黄鉱山にも影響を与えたということだ。

カーマスリビア北東部

カーマスリビア北東部の達成度
第1章カーマスリビア国境開放
第2章ミルの木遺跡
第3章広大な草原、傾いた古木
第4章最後の決戦

ドリガン

ドリガン

ドリガン地域はストーリーを軸に物語が進む地域です。冒険日誌の対象にドリガン地域は含まれていません。

ストーリー1ドラゴンの地、ドリガン
ストーリー2ドリガン:目覚めたシェレカン
ストーリーまとめ
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