ナツノカナタ
無料とは思えぬクオリティに引き込まれる。ノベルADVゲーム『ナツノカナタ』
一時の夏の猛烈な暑さも過ぎ去り、残暑続くこの季節。段々と涼しくなっていく気温に、少し寂しさも覚えることもあるだろうか。
そんな季節の過ぎ去りを感じる中、『ナツノカナタ』が8月18日にSteamでリリース。全編無料で遊べることに加え、ゲーム自体が持つ季節感も今の時期にピッタリだった。
筆者が実際に遊んでみると、ゲームの織り成す切なさと愛しさあふれる世界観、少し懐かしさを感じる探索面、旅先で出会うキャラクターたちの魅力などにすっかり虜にされてしまった。
今回は、エンディングまで駆け抜けた筆者による、ネタバレ無しのプレイレビューをご紹介させていただこう。
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夏の暑さに何を思う。現実ともリンクする寂寥感あふれるシナリオに引き込まれる
祖母の遺品であるPCのデータを見てみたら、人々を怪物へと変えてしまうパンデミックによって崩壊した世界を旅する少女「ナツノ」と偶然つながったところから始まる本作。
出だしはSF風味があるが、ナツノたちの描写ではポストアポカリプス物としての側面も持ちつつ、そこで生きる少女たちの想いや葛藤を描く青春群像劇としての魅力も感じるシナリオとなっている。
少し踏み込んで解釈すると、「パンデミック」という部分は昨今の情勢と少しダブるところもある。ナツノがこぼす「話し相手が欲しい」という一種の寂しさは、対面しにくくなった私たちの世界でも共通しており、より感じ入る描写だった。
そういった「寂しさ」にフォーカスした話として本作を見ると、夏の終わりから秋にかけての寂寥感と重なってくる部分がある。作品の季節性と現実の私たちがリンクする不思議な感覚を味わうことができた。
TRPGともFlashとも取れる懐かしい手触り。自分だけの物語が生まれていく探索面
本作の探索パートでは、廃墟や海岸、誰もいなくなった学校など、さまざまな場所で生きるための物資を探していくことになる。時折、感染者と出くわすこともあるので、そうなったら武器で戦わないとならない。
昨今のアドベンチャーとしてはシンプル過ぎて単調な印象もあったが、やっているうちにどこかTRPGや往年のFlashゲームを思わせる懐かしさがあると感じた。テキスト入力し、世界へ直接関わるような体験がそう感じさせたのだろう。
特に、場所を提示して探索結果が表示され、次の探索へ……という流れはTRPGにかなり近い。だからこそ、偶然起こる「物語性」とゲーム性でしかない空白部分に大きく想像の余地が残されていた。
大事なところで武器を落としてしまったり、空腹ギリギリのところで食料が見つかったりという結果は偶然でしかないのだが、不思議とそこに自分だけのドラマを見出してしまう。シンプルだからこそ、そういった魅力が隠れているように感じた。
寂しさを埋めるように人は引かれ合う。旅先で出会う少女たちとの一期一会
ナツノは「北の方へなんとなく向かう」という目的で旅をしており、ストーリーが進むと旅の道中でさまざまなキャラクターたちと出会うことになる。
偶然出会うと外伝シナリオ的な立ち位置である「キャラエピソード」が始まる。探索中も同行してくれるので、普段よりも多く荷物を持てるなど楽に探索できるほか、各々の個性もより掘り下げられていく。
出会う人々にもそれぞれ思うところはあり、マイペースに過ごす「アカネ」、はぐれた飼い犬を探す「キコ」、写真に写った景色を探して旅する「シノ」などこちらも個性豊か。誰かしらに感情移入してしまうだろう。
基本彼女たちとは一期一会となるのだが、出会いと別れを繰り返し「寂しさ」とはなんだろうとつい考えてしまう。そして、別れた後何をしているのか思いを馳せたくなるシステムとなっている。
総評
今の時節ともリンクし、丁寧に美しく描かれた世界観へと一気に引き込まれた『ナツノカナタ』。SF、ポストアポカリプス、そこに生きる少女の青春と、さまざまな要素が絡み合うシナリオは間違いなく魅力の1つだろう。
単調に見える探索など始めは気になる面もあったが、すぐにそれを忘れ去ってしまうほど本作で描写される夏の憧憬は色鮮やかなものだった。
夏の終わりというこの時期にこそ、少女たちの旅路へ思いを馳せてみてはいかがだろうか。
ナツノカナタ
『ナツノカナタ』の基本情報
ゲームジャンル | ノベルゲーム |
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プレイ人数 | 1人 |
価格 | 無料 |
プラットフォーム | Steam |
リリース日 | 2022年8月18日 |
会社 | Kazuhide Oka |
ナツノカナタ
GameWith編集者情報
幼少期に難病を患うも、ゲームを心の支えとして完治。その後、竹馬の友のごとく歩んできたゲームへの恩返しとしてゲームライターに。 「パワプロ」シリーズで野球の楽しさを知り、「逆転裁判」シリーズで法律の勉強を志すなど、ほぼ全てでゲームの影響を受けながら人生を歩んでいます。 あらゆるゲームの楽しさを伝えたいので、ジャンル問わず幅広くプレイしています。特に「ポケモン」「FE」「世界樹の迷宮」といったシミュレーション・RPG系が好み。 |