
※当記事のリンクはアフィリエイト広告を含みます。

真夜中のラーメンは美味しいけど、健康に悪い─
アニメをもう1話観たいけど、次の日が辛い─
ビアンカもいいけど、フローラも気になる─
日常は「ジレンマ」の連続だ。一挙両得なんて都合のいい選択肢は夢物語。選ばなければ享受できない。特に進学や就職、結婚などの大きな選択に迫られると、なんだかモヤる…なんてことも。
ところがこのジレンマは、ゲームを強烈に面白くする最強のエッセンスでもある。一方で、プレイヤーの心にずかずかと入り込んで、底なし沼の深淵に叩き込むとんでもない劇薬でもあるのだ。
今回はボードゲーム的な手触りのターン制シミュレーション『スルタンのゲーム』を紹介したい。大量の選択肢を鍋に放り込んで、欲望の業火でグツグツ煮込んだジレンマの闇鍋みたいな作品だ。

インディゲーム100選!

スルタンのゲーム
■プレイヤーの人間性を洗い出す、ジレンマの洪水

▲7日以内にカードの無茶ぶりを実行しなくてはならない。
『スルタンのゲーム』は、中国のインディーデベロッパーDouble Crossが開発し、2P Gamesが販売を手掛けるPC(Steam)用のタイトル。
あなたは邪智暴虐なスルタン(※)とゲームをすることとなる。
(※イスラム世界における君主の称号。「力」や「権力」を意味する。)
ルールは単純。カードが入った箱から1枚をランダムで引き、7日以内に実行するだけ。カードは「色欲」「殺戮」「散財」「征服」の4つ。プレイヤーはこれらを何らかの方法で「文字通り」に実行しつつ、全カードのプレイを目指す。実行できずに期日を過ぎたらプレイヤーは処刑され、即刻ゲームオーバーだ。
例えば─
色欲なら、男女を問わず誰かとムフフなことをする。プレイヤーには妻がいてたやすいが、同じ行動は何度もできない。街には娼館もあるし、自身の配下を無理やり手込めにすることもできる。臣下を森に連れ込んで凌辱しても構わない。
殺戮なら誰かを殺す。自身の政敵を消し去れば一石二鳥だが、都合よく行かない場合も多い。やむを得ず、苦楽を共にした妻や仲間を手に掛ける苦渋の決断が必要なことも。あるいは、いっそのこと暴君スルタンの胸にナイフを突き立てて、悪夢を終わらせるべきか。

▲ゲームそのものから逃れられる選択肢も。ただし条件は厳しい。
プレイヤーはカードをプレイするための免罪符を得ている。すべてはあなたの選択次第なのだ。一方で、周囲がそれを許すとは限らない。浮気された妻は不満を持つし、敵を作れば宮殿内で孤立する。選択が次第に足かせとなって顕在化するメカニクスは圧巻だ。
こんなにジレンマが大集合したゲームは見たことない。さまざまな感情が洪水のように押し寄せてプレイヤーの人間性をあらわにする。まるで倫理観という皮膚を1枚ずつはがして作り上げた解剖標本のようだ。
本作は、ゲームプレイそのものもプレイヤーの選択に委ねている点が巧妙で、ゲームを放棄して逃避行する選択肢まで用意されている。寄せては返すジレンマの波に抗えずプレイヤーは、知らないうちにどハマりの岸辺に打ち上げられてしまう。
そう。人間はけっして感情に逆らうことはできないのだ。

スルタンのゲーム
■システムそのものがジレンマ。ワーカープレイスメントとは

▲マップ上のイベントに手持ちのワーカーを配置し資源を得る、を繰り返してプレイを進める。
本作のジャンルはちょっとややこしい。
Steamのストアページの説明文に本作は「カード要素を取り入れたシミュレーション+ストーリーゲーム」と表記されている。もちろん公式なので間違いはないのだが、もっと適切に形容できそうに感じてしまう。
もっともしっくりくるジャンルは、ボードゲームに明るい人ならお馴染みの「ワーカープレイスメント」だろう。Steamのタグでは「資源管理」が一番近いが、タグのページをのぞいてみると拡大再生産系のシミュレーションが大半を占めるので、やっぱり違う。

▲配下やプレイヤーキャラにもステータスが割り振られる。アイテムや読書で強化することも可能。
ワーカープレイスメントとは、プレイヤーが所有する「ワーカー」を資源やイベントなどのマスに配置し、そこから生産物や見返りを得て、自分のテリトリーを拡大していくゲームメカニクスだ。『アグリコラ』や、最近だと『エバーデール』などが有名。
本作も自身の勢力を拡大するまでは同じだが、目的は着実にカードを実行すること。
ただ面白いことに本作のワーカには個別のステータスが割り振られていて、各々に個性がある。つまりワーカーに向き不向きがあるのだ。上手に人員を配置しなければ良い結果が得られないばかりか、ワーカーが命を落としてしまうこともある。
プレイヤーはリソース管理だけではなく、歴史シミュレーション顔負けの適材適所も考慮しなくてはならない。まさに「あちらを立てれば、こちらが立たず」の中間管理職的なジレンマが悩ましくも楽しい。

▲ゲームに失敗しても無駄にはならない。ポイントを使ってバフ効果をアンロックすれば、次回は有利に進められる。
そもそもワーカープレイスメントは、ジレンマを利用してゲームを巧みにドライブさせる代表的なジャンルの1つ。1度には選べない大量の選択肢をちりばめて、プレイヤーを永続的に満足させないのがキモだ。
たとえ失敗に終わっても「次こそは」という渇望がプレイヤーを強烈に支配する。メカニクスなんて関係ない。感情が車輪のように回り始めると、人は容易にその輪廻からは抜け出せないのだ。

スルタンのゲーム
■ファンタジーと現実が混在するアラビアンナイト

▲リッチなテキストがプレイヤーの好奇心を掻き立てる。
筆者はビデオゲームだけでなく、テーブルゲームも大好物なので、本作のアナログっぽい手触りが純粋に嬉しい。プレイフィールはまさにボードゲーム。これに加えてもうひとつ驚いたことがある。
それは読み物としても一級品だということ。プレイヤーの選択で流動的にストーリー構成が変化するあたり、往年のゲームブックにも似た印象を持った。開発者によるとテキスト量は200万字にもなるそう。ざっくりだが、300ページの文庫本で30万字程度だから、かなりのボリュームだ。日本語訳も丁寧で抜かりがない。

▲きらびやかな演出でゲームプレイを盛り上げる。
『千夜一夜物語』をテーマにしたアートワークやフォントは豪華絢爛。アラビアンな雰囲気の音楽も、きらびやかで出色の出来。ゲームを取り巻くすべてのデザインが、一分の隙もなくちりばめられた、きら星のごとく残酷で血塗られた、それでいて美しい世界を醸し出している。
その上で膨大な数のマルチエンディングを収録しているという。正直、開発元が本作に掛ける本気度が一番ヤバい気がする充実っぷりだ。
本稿の執筆中にもお構いなしにアップデートが配信されていて、ゲームをプレーするべきか、原稿を校了させるべきか悩んだ。筆者にとっての一番のジレンマはこれだったのか。

スルタンのゲーム
■「ジレンマ」=「リスクとリターン」

▲イベントの成否はダイスロールが握る。配置するワーカーのステ-タスでダイスの数が増減する。適材適所が重要なのだ。
ゲームにおいての「ジレンマ」は「リスクとリターン」に言い換えることもできる。ソラの桜井政博さんが自身のYouTubeチャンネルで『インベーダー』を例に解説していたアレだ。
ボードゲームには、こうした人の心理に深く切り込んで、ゲームプレイのエンジンにする名作が数多くある。ビデオゲームのような派手な演出がない分、よりプリミティブな感情を揺さぶってくる場合があって侮れない。

スルタンのゲーム
その他の新作ゲームもチェック!
発売日など基本情報
今後発売の注目作をピックアップ!
2025/5/30 発売

/Xbox
ELDEN RING NIGHTREIGN
5,200円(税抜) 2
2025/5/30 発売

Lost Soul Aside
7,254円(税抜) 3
2025/5/22 発売

/PC/Xbox
ファンタジーライフi グルグルの竜と時をぬすむ少女
6,980円(税抜)