角満のゲー漫 第12回更新!今回は角満さんが『十三騎兵防衛圏』を語ります。じわじわと販売本数を伸ばし、ついには傑作とまで言われ売り切れ続出となった『十三騎兵防衛圏』の魅力とは。
化けたゲーム
昨年の秋に発売されて以降、じわじわじわじわ……と販売本数を伸ばしていき、いつしか「これは……とんでもない傑作では……?」と口コミで評価が広まって、気が付けば全国の販売店で品切れとなってしまった、近年稀に見る売れ方をしたタイトルがある。
しかも、“買えない”という事実がさらに需要を喚起して、
「俺もやりたい!! 買えないとわかったら、余計にやりたい!!」
と、評価の爆上げに加担したという……。
こんな広まり方をしたゲームって、俺の20数年に及ぶゲーム記者生活の中でもほんのわずかしか見たことがない。
古くは、初代の『バイオハザード』、近年(でもないけど)では『Demon's Souls』(デモンズソウル)のような……。
こういったタイトルを、
“化けた”
って言うんだろうな。
ここまで書いたら、おそらく多くのゲームファンがピンと来るはず。
この“化けたタイトル”とは……そう、アトラスから2019年11月28日に発売されて以降、カルト的な人気でファンを増やし続けているプレイステーション4用ソフト『十三機兵防衛圏』のことだ。
ルックスがいいだけじゃない
『十三機兵防衛圏』については……すでにあらゆるゲームメディアが掘り下げた記事を作っているので、「ナゼいま、角満が語ってんだ?」と思われる向きも少なくなかろう
俺も、そう思わないでもない。
でも、いまだ続く新型コロナ禍で在宅期間が長くなっている人も多いし、「この時間を使って見られる、良質な作品はないだろうか……?」とさまよう“コンテンツ迷子”も続出していると思うので、「ならば、コレしかない!!」と満を持して書かせてもらうというわけだ。
いまさら書くまでもないが、『十三機兵防衛圏』は、“あの”ヴァニラウェアが開発し、アトラスから発売されたドラマチックアドベンチャーゲームである。
“あの”と強調した通りヴァニラウェアは、『オーディンスフィア』や『朧村正』、『ドラゴンズクラウン』などなど、絵画がそのまま動き出したかのような超美麗2Dグラフィックが世界的に評価されている開発会社で、そういう意味では『十三機兵防衛圏』に対する期待度も決して低くはなかった。
新たなビジュアルが公開されるたびにネットを中心にお祭り騒ぎとなっていたので、現在の高評価は“約束された結末”という気がしなくもない。
でも誤解を恐れずに言えば、『十三機兵防衛圏』の発売前評価は圧倒的に“ビジュアルのよさ”に付随するもので、それは現在の“ゲームとして、最高の出来”という総合的な判断とは一線を画すものがあったと思う。
俺はファミ通時代に『ドラゴンズクラウン』の単行本を作ってしまったほどヴァニラウェアの作品には目がないので、『十三機兵防衛圏』についても、第1報が出たときから心が湧きたって仕方がなかった。
でもそれはやはり、「絵がすばらしすぎる」、「ビジュアルを見ただけでこれほどワクワクしたことがない」という“ルックス重視”の判定で、それは言わば“顔しか見ていない典型的な面食い状態”だったんだと思う。
薄っぺらな面食い男は、実際に『十三機兵防衛圏』をプレイするまで存在し続けた。
しかし、なかなか買えなかったソフトを購入し(パッケージ版、品切れで手に入らなかったんよ)、1時間ほどプレイしたその瞬間、
「あ……。い、いま、俺の中の浅はかな性根が……明らかに天に召されたわ……」
という実感があった。完全に、“ゲームそのもの”に魅せられてしまったのだ。
求道者のゲーム
『十三機兵防衛圏』は、ジャンル的には“ドラマチックアドベンチャー”となっている。
確かにドラマチックでアドベンチャーなゲームなので間違いではないのだが、これは『十三機兵防衛圏』のゲーム性をカチッと表せる表現がないために苦肉の策で付けられた文言って気がする。
いや、絶対にそうだ。
ゲームは、アドベンチャーパートの“追想編”、バトルパートの“崩壊編”、アーカイブパートの“究明編”という3つのカテゴリーに分けられていて、それぞれを細かく紐解きながらジワジワと進行させていく作りになっている。
主人公は、13人。
もうこの段階で、「なんか……とんでもないことになりそうだな……」と戦々恐々としたプレイヤーも少なくないと思うが、13人それぞれの物語が複雑に絡み合いながら柱のストーリーを構築していく……という多重構造になっているので、誰のお話も、そしてどのパートも疎かにすることはできない。
「大木の枝なんて、1本くらい折れても影響ないだろ」なんて安い気持ちで臨むと、途中で絶対に、
「……あれ? 薬師寺(主人公のひとり)のこのセリフって……どっかと絡んでたような……!? すげえ引っ掛かるんだけど!」
なんて混乱を来すので気を抜いてはいけない(まあ、だからこそアーカイブがあるわけだが)。
『十三機兵防衛圏』は、すべての枝葉が意思を持った幹であり、ひとつでも欠けると齟齬と空白を生み出す。
長編小説に挑むときと同じ覚悟で向き合い、腰を据えて世界観を見つめてほしい。
と言っても、決して堅苦しくならないところがゲームと言うコンテンツのすばらしいところだ。
『十三機兵防衛圏』は確かに、時を跨いだ複雑極まりない物語展開が“妙”な作品だが、美麗なキャラクターがつねに動き回って話を展開し、プレイヤーに提示してくれるので、長編小説を読んでいるときのような疲れを感じることはほとんどない。
これ、何かに似てるんだよなぁ……と考えていて「はっ!」と気づいてしまったのだが、『十三機兵防衛圏』は舞台……それも、歌舞伎を観劇しているときと同じ感情をもたらしてくれるんだよな。
しかも、舞台や歌舞伎はあくまでも傍観者として楽しむけど、『十三機兵防衛圏』はプレイヤーがそこに介入して、作り込まれた物語を動かしている感じ。
そう、このゲームは“インタラクティブゲームブック”なのだ。いや、“インタラクティブ群像劇”のほうが合致するかもしれない。
13人の主人公のストーリーはどこから読んでもいいし、どこを進めてもかまわない。でもいつしかそれらがすべて絡まって、気付けば巨木になっている--。
よくぞまあ、これほどの物語と、それを表現する映像を作り上げたものだな……。もう、あきれるレベルで感心するしかないわ。
『十三機兵防衛圏』を遊んでみて、確信したことがひとつある。それは、
ヴァニラウェアは、求道者である。
その意味は、このゲームをプレイしたら、きっとわかると思う。
(おおつかかどまん)
20年以上にわたりファミ通で記者、編集長などを務めつつ、自ら著者としてゲームプレイ日記の単行本、『逆鱗日和』シリーズ、『熱血パズドラ部』シリーズなどを上梓。ベストセラーとなる。2019年より独立し、パズドラのストーリーダンジョンのシナリオ担当を務めるなど、活動の幅を広げている。 |