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大塚角満のゲーム漫遊記 第6回「志村けんさんのおかげ」

大塚角満のゲーム漫遊記 第6回「志村けんさんのおかげ」

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先日新型コロナウイルスで亡くなった志村けんさん。実は志村さんのある言葉が過去の角満さんを救い、今の角満さんを支えていました。

大塚角満のゲーム漫遊記の画像

ゲームを遊んで、その感想やらレビューやら紹介やら、コンテンツの背中を押すことを主旨に書いているコラムですが……今回はちょっと、毛色の違う原稿になると思う。

2020年3月29日。昭和と平成、そして令和の時代においても“喜劇の王様”として我々を笑わせてくれていたコメディアン、志村けんさんが亡くなった。

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの陽性反応が出た……と報じられてから、わずか6日後の逝去--。

あまりにも突然で、あまりにも衝撃的な訃報に接して、いま日本中が悲しみと混迷の最中にある。

その信じがたい第1報が流れてから、何人もの知り合いとメールやチャットでやり取りをしたが、出てくるのは「信じたくない」、「デマだと思いたい」、「過去に接した訃報の中でいちばん悲しい」という、ショックを受け止めきれない言葉ばかりだ。

そして俺も……戸惑いの真っただ中にいる。というのも、俺がモノ書きとして歩んでいく上で、絶対に揺るがぬ信念を与えてくれたひとりが……他ならぬ志村けんさんだったから。

プレイ日記のマンネリ化

俺がカプコンの初代『モンスターハンター』に魅了され、「この楽しさを、ひとりでも多くの人に伝えていきたい!」と強く思って『本日も逆鱗日和』というプレイ日記を立ち上げたのは……いまから16年も昔の2004年のこと。

以来、モンハンシリーズの新作が発売されるたびに『逆鱗日和』は復活連載され、総話数は……おそらく1000話じゃきかないと思う。

そのプレイ日記をまとめた単行本も多数出版され、ありがたいことにベストセラーと言われるほど多くのハンターたちに手に取ってもらうことができた。

とくに、モンハンシリーズがPSPに進出し、社会現象と言われるほどのブームを巻き起こしたときは『逆鱗日和』の勢いもすさまじく、書いても書いても、「つぎの話、はよ!」、「もっと書いてほしい!」なんてメールや手紙が毎日のように届いていたものだ。

しかし。

それ以降も、俺は飽くことなくモンハンのプレイ日記を書き続けていたのだが、あるときネットで、つぎのような書き込みを見てしまった。

「『逆鱗日和』も、いい加減、マンネリだよなw 毎回毎回、イャンクックやリオレイアあたりにビビったりしねえだろww」

脳天にボカンと、竜撃砲を喰らったかのような衝撃を受けた。

「マ、マンネリか……」

こういった発言をひとつでも見てしまうと、以降はネガティブな言葉ばかりが目に飛び込んでくるようになる。

ヘコむのがわかっているので見たくないんだけど、まるで糸が付いているかのように、俺はそんな文言にばかり引っ張られてしまった。

俺はこの何気ない書き込みを……大いに気にした。ナゼなら……俺自身が、プレイ日記というものにマンネリ感を覚え始めていたから。

そこを読者にグッサリと突かれてしまい、

「もうこの方式の記事は……限界なのかもしれないなぁ」

そう思い始めてしまったのである。

志村けんさんの言葉

でも、そんなある日。

自宅の書棚を整理していたとき、ふいに1冊の本が目に飛び込んできた。その書籍の名は--。

志村けん著 『変なおじさん』

大塚角満のゲーム漫遊記

「あw この本www」

思わず、相好を崩した。志村けんさんが上梓した初の自伝的エッセイで、発売当初はベストセラーに名を連ねていた1冊だ。

あまりにもおもしろくて、何度もくり返して読んだんだよな。

俺は子どものころから大のザ・ドリフターズっ子で、志村けんさんも心から尊敬していたひとり。

コラムでもたびたび、「志村うしろ的な恐怖!」とか「ひとみばあさんみたいなフガフガの老婆が出てきて」なんて、志村さんのギャグを拝借した文章を書いたりしていたのだ。

「ひさびさだなぁ、この本を見るの」

つぶやきながら、パラパラとページをめくる。すると……まるで導かれたように、その文言が俺の目に飛び込んできたのだ。

そこには……事あるごとに「ドリフはマンネリ」、「志村けんのギャグはマンネリで飽きた」なんて言われることに対する、志村さんの決意のこもった言葉が綴られていた。

以下、引用させていただく。

“だからよくマンネリと言われたけど、僕は笑いにはマンネリは絶対に必要だと思う。

(中略)

「待ってました」とか「おなじみ」という笑いをバカにしちゃいけない。

それにマンネリになるまでやり続けられるというのは、実はすごいことだ。

今は歌でもなんでもマンネリまでいかないうちに終わっちゃう。

マンネリはやっぱりひとつの宝だ。”

腹の底から気持ちがこみ上げてくるあの感覚って……生涯で何度、体験することができるんだろう。

「そっか……! マンネリでいいんだ……!」

志村さんの言葉が、頭の中でくり返し反芻された。

「定番は……恥ずかしいことじゃないんだな……!!」

しつこく目の前にかかり続けていた霧が、驚くほどきれいに消滅した瞬間だった。

偉大なるマンネリズム

以来俺は、志村さんがマンネリについて言及する書籍やインタビュー記事をむさぼるように読むようになった。

その中でとくに、印象に残っているフレーズがこれだ。

“マンネリで大いに結構。ほかの人はマンネリまでいかないじゃないですか。定番があるのは全然恥ずかしいことじゃない。

ドリフも僕のバカ殿も変なおじさんも、必死でネタ作って、とことん何年もやり続けてきたわけだから。みんなマンネリの域まで達してみろって”

俺は志村さんの言葉を密かに胸に抱きながら、『逆鱗日和』シリーズはもとより、『パズドラ』のプレイ日記にいたっては8年も書き続けている。

おかげさまで“熱血パズドラ部”は連載1000回突破という前人未踏の境地に達したが、もしもあのとき、『変なおじさん』の一説に触れていなかったら、ここまで書き続けることができたかどうか……。

そういう意味で、いまの大塚角満を形作ってくれている大きな原料のひとつは、間違いなく志村けんさんの言葉なのである。

変なおじさんやバカ殿様のような“偉大なるマンネリズム”に1歩でも近づけるよう、生涯をかけてゲームのプレイ日記を書いていこうと思います。

角満さんの画像
大塚角満
(おおつかかどまん)
20年以上にわたりファミ通で記者、編集長などを務めつつ、自ら著者としてゲームプレイ日記の単行本、『逆鱗日和』シリーズ、『熱血パズドラ部』シリーズなどを上梓。ベストセラーとなる。2019年より独立し、パズドラのストーリーダンジョンのシナリオ担当を務めるなど、活動の幅を広げている。
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