ゲーム界を代表するクリエイター、セガ「龍が如くスタジオ」を率いる名越稔洋総合監督の特別インタビューをGameWithが独自に敢行!
9/24発売の最新作『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』(以下「ロストジャッジメント」と表記)の制作秘話、本シリーズで木村拓哉起用に至った経緯、「うっせぇわ」で話題のAdoが歌う主題歌の誕生秘話、そして名越監督の今後に至るまで、トップクリエイターの生の言葉、意思をお伝えします!
取材/文/構成:GameWith 編集部 岡﨑康介
目次
『ロストジャッジメント』とは
『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』は、「龍が如くスタジオ」が手掛けるリーガルサスペンスアクション。
本作は同スタジオが手掛けた『JUDGE EYES:死神の遺言』の続編にあたる作品だ。
前作に続き、主人公八神を演じるのは木村拓哉。メインの横浜を舞台にサスペンスフルなストーリーが展開する。
「前作と違う雰囲気」を目指した『ロストジャッジメント』
1000分以上のドラマパートがある『ロストジャッジメント』注目のポイントは?
名越稔洋監督(以下、名越監督):
今回は高校が舞台の一部として登場しつつ、サスペンスフルなシナリオが展開されます。この2つが大きなポイントですね。
シナリオでは、痴漢で逮捕された都内の現役警察官が、同じ時間帯に横浜で起きていた殺人の犯行をほのめかします。痴漢と殺人という2つの事件がお互いのアリバイになっている状況で、実際には何が起きていたのか?その謎を解き明かしていきます。
そういった謎解きと並行して、八神が若い世代と人間関係を構築しながらどんどん物語が進んでいく。その雰囲気が前作との大きな違いだと思っていて、僕は割と好きなところです。また、目指していた部分でもありますね。
八神もいい大人ですから、やっぱり今の若い子の考えていることを隅々まで共感できるわけではない。だから高校の外部指導員という立場で、部活なんかに顔出しながら少しずつ彼らに近づいていくこと。その辺りは特に楽しんでもらえると思います。
“キムタクのゲーム”と言われることの是非
『ジャッジアイズ』に続き木村拓哉主演2作目となりますが、シリーズ化を前提として作ったものだったのでしょうか?
名越監督:
(前作で)木村拓哉っていう役者を採用するに当たっては、賛否両論ありました。「“キムタクのゲーム”って絶対言われるよね」っていう。
これはキャッチーな良さと、変に色がついて失うものもあるパターンの両面を考えて、最後の最後まで悩みましたよ。
ただハードもPS5まで進化して、俳優を見た目そのままに表現できる様になった。その時にアイコンとしての強さを考えたらこの人しかいないと思って起用に踏み込みました。だれの頭の中にも木村拓哉って刷り込まれているはずですからね。
次にシリーズ化についてですが、初めから狙っていたわけではないですね。1作目『ジャッジアイズ』は『龍が如く』と違うアプローチをした実験的な作品であり、そして今作は前作の手応えや反省を踏まえて新しい挑戦もしているので。
木村拓哉さんに対して演技指示などはされましたか?
今回の作品ではこうしてほしい、みたいな指示はしなかったですね。それよりも、木村拓哉さんが八神を演じるのがしばらくぶりだったので、キャラに戻るのに時間かかるかも?という点が心配でした。
GameWith(以下GW):
ーー実際どうでしたか?
名越監督:
スッと戻ってくれましたね。それには理由があって。彼と話したことがあるんですけど八神が意外と木村拓哉という人間に近いんです。
言いたいことは言う。気になったものはどうしても知りたい、みたいなところは似ていたんじゃないのかなと。そういう意味ではやりやすいのかもしれません。
(『龍が如く』の)桐生もそうでしたけど、シリーズ化で演技がどんどん熟成されていくんですよね。だから2回目の方がいいし、2回目より3回目がもっといい。同じ人を起用していくメリットって、それに尽きると思います。
“イジメ”というテーマはものすごいチャレンジ
イジメという重いテーマを選んだ理由は?
名越監督:
まず、今回のシナリオでは逮捕された警官、江原の息子が昔イジメで自殺を図っています。そして主人公の八神(木村拓哉)はイジメ調査の依頼を受け高校に潜入する、という形でイジメ問題が大きな扱いになっています。
僕は、イジメはなくなる方向に持っていきたいと思ってる1人ではあります。今はSNSが流行って、イジメの具合っていうのも結構陰湿になってる部分も感じていて。
イジメられた人だけじゃなく、イジメた人も含めて、自分たちも絶対に身近だった何かなわけです。でもこれほど触ると怪我しそうなテーマもないなと。
そこをどういうふうに伝えられるのか?というのはものすごいチャレンジだと思って(テーマに)選びましたね。
打ち合わせで一触即発!熱すぎる制作秘話
制作でもっともこだわった部分を教えてください
名越監督:
今回のエンディング手前の表現ではスタッフの間で怒鳴り合いの喧嘩の様なこともありましたね(笑)。前作に続き古田(※)っていうのがシナリオ、脚本担当なんですが彼とシナリオの方針についてバトルがありまして。
僕もなんですが、彼も彼で一歩も引かない。会社の帰り道でも電話して、「やっぱりあれさ…」って話になって、やり合ってるうちに家に着いちゃって。
家の中に持ち帰りたくなくて、家の外で話してたんですが決着がつかず、充電が切れて。家で再充電して、またそっからバトルをして、ダメで。翌日会社でさらに…みたいなのは、ありましたね(笑)。
※…古田剛志氏。『龍が如く0』『ジャッジアイズ』でもシナリオを担当。
GW:
ーーものすごい熱量で作られていますね。
名越監督:
そういうのはユーザーの目に見えないとこです。言葉一つとってもみんな言いたいことは一緒だけど、伝え方が一味違う。その一言に恐ろしくこだわりが強い人たちが多い。
そういう熱さがひょっとして作品に伝わって、ユーザーがおもしろいなって言ってくれてるんだとしたら、無駄な努力じゃないし、いい仕事だなと思います。やってるときは大変ですけど(笑)。
主題歌は『うっせぇわ』ヒット前からAdoに依頼
主題歌を最初に聴いた感想は?
名越監督:
提出された楽曲は1発OKでした。それを最初に聞いた時は天才だと思いましたね。音楽的な意味での読解力の高い人なんでしょうね。
依頼はしたものの最初は心配もありました。依頼させていただいた当初は、プロになってから浅かったというのもありましたので。だけど、彼女なりに探って、僕らが思っていた以上のモノを作品に込めてくれたのは驚きでしかなかった。
GW:
ーー「プロフェッショナル」の一言ですね。
名越監督
実際に主題歌の「蝸旋」を聴いていただくとわかると思いますが、メッセージ性が強い歌詞です。そこに彼女の声、歌い方が載せられることでこのゲームに込められた、さまざまな感情を増幅させてくれている。
これを聞いた時はしばらく呆然でしたね。頼んでよかったと思いました。
GW:
ーー『うっせえわ』のヒットより前に依頼されたのは偶然ですか?
名越監督:
スタッフから「名越さん(ヒットするの)知ってたんでしょ。」って言われますね。ただ僕からすると「うっせぇわ」より先に『ロストジャッジメント』の主題歌として注目を浴びてもらう予定だったんです。
こんなすごいアーティストが世の中にいるんだよ、今の高校生すごいよねっていうノリで。なのである意味で予想より上っていうか、予定がずれたというか。
結果的に僕たちが彼らに乗っかったみたいになっちゃいました(笑)。
jon-YAKITORY feat. Adoに主題歌を依頼することにした決定打は?
名越監督:
僕が元々はjon-YAKITORY君の曲を聴いていまして。その中で「シカバネーゼ」とかの楽曲がすごく良くて、そこからこのボーカルの子は誰だ?って話になって。
それで、チャレンジだけどこの2人だったらやっても面白いかも?と思って。今回は高校が舞台っていうのもありましたし。
今までレジェンドクラスのアーティストともいろいろをやってきましたけど、どちらかというと、もっと身近な人たちが歌って欲しいという思いで。
GW:
ーー依頼の時点ではまだ無名だったのでは?
名越監督:
そうですね。スタッフや木村拓哉さんサイドなど、ほとんどの人はだれこれ?状態でした。ただ、彼らの様なZ世代(※)付近の人たちが作るものは面白いですよ。
細かい話は色々ありますが、かなり密に連絡も取り合って。YAKITORYくんも何か変更などしたらすぐにリアクションくれるのでそれは嬉しかったし楽しかったですね。
※…デジタルネイティブ、SNSネイティブな、1990年後半から2012年生まれくらいの世代を指す言葉。期間の定義に関しては諸説あり。
『龍が如く』ヒットはあくまで結果論
今世界で評価を受けているポイントは?
これはもう嘘じゃなく一言で「結果論」です。ただ、神室町での街遊びとバトル、そしてシナリオの3つが噛み合えば日本ではウケるだろうなと思ってました。
ただ、日本人と同じように欧米の方々も受け取ってくれているか、と言ったらちょっと違うとは思います。
海外から見ると僕らの作品は一風変わったもので、アカデミー賞で言ったら外国語映画賞みたいなのを僕らは取れるかどうかっていう戦いだと思ってるし、それでいいと思うんですよ。
今後売り上げの比重が海外中心になっていく流れの中で、海外からの意見を組むべきじゃないかっていう話もあります。でもそれをやっちゃうと、だれが得するかよくわからないボケた中身になると思うんですよね。それは避けたい。
日本やアジアで強烈なファンがいる作品があれば、その形をキープした状態で欧米に届ける。それをどこまで正確に届けられるかの勝負と思っていて、その順序は絶対変えたくない。
『龍が如く』でも『ジャッジアイズ』もそう。ビジネスマンとしては微妙な言い方なのかもしれないけど、欲をかくとコンテンツが壊れる。
80点だったらもう20点は当然取っていける可能性があるわけだし目指していいと思います。でも100点が取れたのに120点を目指すのはリスクもたくさん生まれてくるよ。っていう話なんです。
『ジャッジアイズ』以後と以前で変わったことは?
ありますね。結構どのタイトルでもあるんですが、『ジャッジアイズ』でも発売前までは木村拓哉起用についても懸念をいろいろいただいてましたが、発売後は肯定的な意見になりましたね。
それこそ『龍が如く』でも、なんであえて裏社会モノなんだ?とかテーマ選定も含めて、いろいろな意見がでたりしました。ちょっと長くなるので割愛しますが(笑)。
ゲーム作りで限界を決めたくない
今後どういうゲームを作るつもりですか?
名越監督:
僕は映画や小説でしか体験できないといった、他のメディアの専売特許のように言われることもうまくゲームというエンターテイメントとして具現化したいんですよ。
ゲームにはゲームの限界が、みたいに言われるのはもったいないし、悔しいと感じていて。でも他のメディアの作法をわきまえて臨めばゲームってもっと幅広い世代に、幅広い形で伝えることができる。
ちょっと言い過ぎかもしれないけど、ゲームは最強のメディアなんだよということを証明したい。キャスティングにせよ音楽にせよ、ゲームの遊び方にせよです。
なのでこれからもいろんなものに手を出していきたいなと思います。そこに限界を勝手に作る気は起こらない。
ネクストステップは?
名越監督:
日本のエンタメはもっとブレイクスルーしなきゃいけない。ましてや最近は、韓国のBTSや映画の『パラサイト』、中国発の『原神』なんか見てると、やっぱ日本が差をつけられ始めたと感じるものも出てきた。
そんな中で個人的にはせめてゲームでは意地張ろうよみたいなことは思っていますね。もっと日本ってチャレンジしていいんじゃないのって、と思ってる1人でもあるし。
そういうこと言うと、まず「お前がなんかやれよ」って言われるだけだから、じゃあ頑張るよっていう話なんですよね(笑)。
GW:
ーー世界を狙ったゲームづくりをするつもりは?
名越監督:
最後にやらなきゃいけないことはそこかなとは思います。この話はもっと別でガッツリやりたいですね。なのでまたおいおいっていうことで。
巣ごもり需要などでゲームユーザーが増加しているが、新規ユーザーにゲームの良さを伝えるとしたら?
1人で過ごす時間の豊かさみたいなものをもっと楽しんでもらえられればと思っています。これは僕が1人の人間としての興味の中心にある原点が映画というのも影響していると思うんですが。
だから1人の時間の使い方のきっかけになるようなコンテンツが、自分の作品だったりしたら最高だなと思ってます。
もちろん野球したりカラオケ行ったり、オンラインゲームしたりみんなと遊ぶのも楽しい。でも友達の前では泣けなかったりするけど、1人じゃ泣ける人もいるし。本読んだり。そういう1人の良さがあることを伝えたいですね。
明日生きていくことを頑張れるような作品を必ず作りたい
『ロストジャッジメント』発売を心待ちにするユーザーに一言
今回もシナリオはすごくこだわりましたし、ゲームとして探偵ライフが満喫できる、他のゲームにない体験ができるコンテンツに仕上がったと思います。
特に今の若い方々は、今の自分の生活、将来とか考えるきっかけになればいいなと。大人の方々にとっては過去の自分、そしてこれから、いろいろ振り返るきっかけになるようなネタになっています。
それから、これは毎回言っているんですが今回も言います。明日生きていくことを頑張れるような作品を必ず作りたいので、今回もそれは感じてもらえるんじゃないかな。
今元気のある方々はより元気に、元気のない人はきっと元気を取り戻せるようになってますから。触ってみてください。
GW:
ありがとうございました!『ロストジャッジメント』発売を1ファンとしても心待ちにしております。
©︎SEGA