GameWithでは東京ゲームショウ2024の取材や試遊レポートをお届けしてきましたが、そうした記事とは一風変わった、興味深いインタビューが実現しました。
取材に応じてくれたのはLiquid Advertising社。アメリカ・ロサンゼルスに本社を置く、ゲーム専門のマーケティング企業です。
「日本のゲーム会社がアメリカに進出時に越えなければならない壁とは何なのか?」「アメリカの最新ゲームトレンドはどうなっているのか?」など、普段はなかなかできないマーケットに関する質問をぶつけてみました。
ゲームクリエイターの方も必見!
対応してくれたのは、東京ゲームショウ2024の開催タイミングで来日した、同社VP Global MediaのNikki DePaola (ニッキ・デパオラ)さんです。
いまゲームを作っていたり、日本国外にも配信していきたいと考えているゲームクリエイターの方々は必見の内容ですよ!
そもそも「ゲーム専門のマーケティング会社」とは?
本題に入る前にLiquid Advertising(以下、Liquid社)について簡単に触れておきます。同社は、世界8か国に拠点がある“ゲーム専門のマーケティング”会社で設立は2000年。
最初にプロモーションを担当した作品は、現在も圧倒的な人気を誇るMMORPG「World of Warcraft」です。
(▲Liquid Advertisingのサイトに掲載されている実績。名だたるメーカーが並んでいます。引用元:Liquid Advertising公式サイト)
“ゲーム専門のマーケティング会社”と言われてもイメージが湧きにくいかもしれません。
Nikkiさんによると「Liquid社はペイド(※)だったり、イベントだったり、あらゆるマーケティング手段を通して、ゲームをお客さんにお届けするためのすべてやっている会社」だと言います。
※:企業がお金を払って広告を掲載するマーケティング手法
ゲームを広めるプロ集団
こうした企業は「アメリカにもそこまであるわけではない」(Nikkiさん)とのこと。そのうえでLiquid社は “ワンストップ”かつ“スペシャリスト”である点が強みだと語ります。
さらに、他社はアメリカのメインストリームゲームを専門とする企業がほとんどなのに対し、Liquid社は日中韓のゲームを欧米はもちろん、世界のオーディエンスに届けるサポートをしてきたことが他にないポイントのこと。
内容が固くなってしまいましたが、ゲームを世の中に広めるためのプロ集団と捉えてもらい、次のパートから日米のマーケットやトレンドを掘り下げていきます。
日本のゲームがアメリカ進出時に出合う「2つの壁」
Liquid社はこれまで数多くのゲームプロモーション実績があり、海外版を展開した作品の成功例や失敗例もたくさん見てきました。日本のゲーム会社がアメリカ進出する時に、立ちはだかる「2つの壁」があるといいます。
ひとつ目の壁は 「ターゲット選定」
まずは、マスに広くリーチさせるのか、コアなファンにしっかりと届けるのが良いのか、ターゲットの選定のバランスにつぶかると言います。“当たり前じゃないか!”と思う方も多いので、同社の事例を挙げながら説明していきましょう。
Liquid社では2017年にFINAL FANTASY XIV: Stormblood(ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター)のプロモーションを担当。このとき、同作の課題のひとつとして、新規ユーザーへのアプローチがありました。
そこでLiquid社独自のインサイトから導き出したのが、 アメリカ赤十字社とのコラボレーション。特別なラッピングを施した献血車が南カリフォルニアのいくつかの大学をまわり、献血を促しながら新作の宣伝も行うというものです。
“新規ユーザーの獲得”が狙いにも関わらず“地域を絞った献血活動”という一見すると矛盾する施策ですが、ユニークな取り組みでソーシャルグッドな側面もあり、 インターネット上で広く拡散され、結果は成功。
マスとニッチの二元論ではなく、ローカルに根ざしながらこれらを両立するアプローチがアメリカ進出には必要だと言えそうです。
ふたつめの壁は 「新しい世代」。
Nikkiさんは「日本のゲーム会社は素晴らしいレガシーを持っていますが、1990年代から2000年代の名作で育った人は、大人になり高齢化が始まっています。
新しい世代を、新しいファンを呼び込まなくてはなりません」と語り、若い世代を獲得するためのチャレンジが必要と力説。 他国に比べて遅れている企業がなかにはあるといいます。
アメリカゲーム市場では大きな波はないが…
続いて、アメリカ市場自体の最新トレンドはどうなっているのでしょう?「大きい波はない」(Nikkiさん)としながらも、 ゆっくりとしたカルチャーシフトが起こっていることを指摘します。
「ゲームのやり方だったり、ゲームをプレイする層が変わってきたり、どういうユーザーに向けて作られているのかが変わってきています。そしてそれらが多様化してきています。
1人でコンソールのゲームをやるのか、オンラインでマルチプレイヤーで遊ぶのかという二極化ではなく、その中間のような作品が出てきたり、遊び方があったりと複雑化しています」(Nikkiさん)
これまでとは異なる楽しみが広がっている
やや抽象的な回答なため、そのあとに象徴的な例として挙げてくれた「Animal Crossing: New Horizons(あつまれ どうぶつの森)」と合わせて補足していきます。
同作は2020年3月に発売され、コロナ禍における人と人とのコミュニケーションをつないだ存在として知られていますが、 アメリカにおいても“cozy(居心地の良い)な作品”として大ヒット。
ゲームをプレイする層を大幅に変えつつ、ゲームのやりかた(ソロ/マルチ)、ターゲットするユーザー(ライト層/マニア層)といった伝統的な区分けだけでは語りきれない新しい楽しみ方を生み出しました。
コロナ以降もこうした変化は加速しており、より複雑化しているのがアメリカの現状だといいます。
現地の空気感を感じてほしい
取材では、 日本市場や日本のゲームメーカーに対するリスペクトを多く語ってくれたNikkiさん。
日本の開発者やクリエイターに対しては、「実際にアメリカに行って、イベントやエキスポなどに参加して、いろんなゲーム業界の人やユーザーと話してみたり、雰囲気を感じてみたり、そこにいる人たちがこういう人たちなんだというのを持ち帰って、仕事を進めることでより良い作品が生まれるはずです。もちろん、我が社がサポートすることも可能ですよ」というメッセージをいただきました。
まとめ
世界で作品がヒットするには作品自体に魅力があることに加えて、 Liquid社のような現地に根差したパートナーの存在も重要であることがわかる取材となりました。
普段はなかなか知ることのできないゲーム業界の最新事情はいかがでしたでしょうか。そして、本記事を読んだゲームクリエイターの皆さんの参考になれば幸いです。
(通訳:首藤賢吾)