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※本記事では核心的なネタバレは含んでいませんが、一部エピソードやキャラの紹介などのネタバレを含みます。またゲームの性質上、過激な表現を含みます。
残念なお知らせですが…

このゲームのルールは「引いたカードに書かれた命令を、7日以内にこなさなければあなたは死ぬ」というもの。あなたはひとまず生き残るため、この悪夢みたいなゲームへ挑むことになる。
「どうしよ…とりあえず命令をこなして生き残ることを最優先しよ…」となった方、あなたはスルタンのゲームに向いてます。
「そんなふざけたゲームやってられるか!革命起こすなり、盤面めちゃくちゃにしたるわ!」と憤った方、あなたもスルタンのゲームに向いてます。

何が言いたいかというと、このゲーム、滅茶苦茶自由なのだ。
人命を弄ぶ外道になる。カルトを立ち上げて邪神召喚を目指す。いるかも分からないドラゴン討伐に挑む。この国家の変革を求める。あるいは全部を捨ててガチ逃げする。
本作ではこれら全てを体験できてしまう。
どんな道筋で本作を歩むのかはあなたのプレイ次第。百面相のごとく移り変わる物語を体験できるのが本作の大きな特徴だ。

筆者はそんな本作の、ほぼ無限にも思える物語的拡がりに「物語的オープンワールド」という言葉を大胆に名付けてみた。当然、本作はオープンワールド作品ではない。
ではなぜそんな突飛な表現を採用したのかを理解してもらうため、本稿の流れとしては前半でゲームの魅力を紹介して、後半では筆者独自の観点である「物語的オープンワールド」という切り口で本作の面白さに迫りたい。
GameWith編集者情報

| 作家性が大爆発しているゲームに食指が伸びる雑食性。 BGMやサントラなど背景音楽も大好物なので、音楽からゲームを買うこともしばしば。 |
【New】毎日投稿!年末年始ゲームレビュー祭
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- 12月31日(水)
『スルタンのゲーム』
邪神召喚もドラゴン討伐も、"夜逃げ"も目指せる"物語的オープンワールド"だ。
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年末年始ゲームレビュー祭まとめ2025
あらすじ「退屈する残虐王がはじめた最悪のゲーム」

▲乳首ピアスが一部界隈では話題だが、中身は残酷無比な王だ。
舞台は遠いどこかの国。偉大なる王「スルタン」は強大な権力と莫大な富を持て余しあらゆる遊びを愉しみ、同時に退屈していた。そんな王の前に怪しげな女魔術師が現れ、告げる。「王の退屈を晴らすゲームを持ってきた」。
彼女が紹介したゲームこそ、「スルタンのゲーム」だ。
ゲームのルールは簡単。箱から「スルタンカード」を引いて、その「スルタンカード」に書かれた命令を7日以内にこなす、これを箱からカードが無くなるまで繰り返すというもの。
しかし「スルタンカード」に書かれている命令は殺しや性的な交わりなどを求める残虐なものばかり。だが、あらゆる遊びに飽きていたスルタンにとっては、むしろ残酷さが刺激となったらしくこれを喜んでプレイ。結果として王宮は日夜、人の叫びに溢れる地獄と化す。

そんなスルタンの暴虐を許せないと立ち向かったのがあなた、主人公だ。
無謀にも立ち向かってきた主人公を面白がったスルタンは、「そんなに言うならお前がやればいい」と主人公に「スルタンのゲーム」のプレイを命じる。
そうして主人公は命がけのゲームに挑むことになる、というのがあらすじだ。
システム「どんどん生えてくる予測不能な物語」

このゲームの進行は至ってシンプル。「誰に何をさせるか」を決める。その後、1日を終えて行動の結果を確認する。これだけだ。
具体的な例だと、スルタンのご機嫌を取りに行って貰うため、王宮に妻のカードを置く。そして1日を終えると、妻の王宮での振る舞いが確認できる、といった感じ。
イベントによっては、成功の可否をTRPG的にダイスを振って決める。
決まった数だけ表にならないと失敗になる仕組みで、ダイスの数はその人の能力値に依存する。しっかりイベント毎に適した人材を派遣するのが重要だ。

そして面白いのは、イベントに置く人物によって思いも寄らない展開が生まれる点だ。
例えば、主人公がカルトを布教するイベントがあるのだが、ここでは妻や家来などには問題なく布教できる。一方で正教を固く信じる人物を置くと主人公の元を離れてしまうことがあるのだ。

▲人物には「体力」「社交」など能力値が設定されている。
それだけでなく、とある好奇心旺盛な少女を置くと、その少女が踏み込んではいけない部分まで踏み込んでしまい命を落としてしまう、なんてことも。
しかし、その少女が魔術的な知見を有する場合、また別の結果を招くかもしれない。

本作をプレイしていて「ここはイベント消化するだけで良かったのに、変な方に話が転がり始めたぞ…」となることは多い。キャラ達によって物語が勝手に転がっていく感触はユニークだ。
逆にイベントのテキストを読み込んで関係のありそうな人物を置いて、特殊イベントを狙って発生させた時は結構気持ちいい。「こいつを置いてみたらどうなるんだろう?」という好奇心を持ってプレイを楽しめるだろう。
悪魔的ドラマを量産する「スルタンのカード」

全部最悪!4つの命令の種類

▲スルタンのゲームを終えるには28枚のカードの命令をこなさなければならない。
箱から引く命令が書かれたカードは「スルタンカード」と呼ばれ、命令は4種類ある。「色欲」「散財」「殺戮」「征服」だ。
物騒な文字が並んでいるが、ご安心を。内容も全くもってその通りなので。
▲命令を実行できればカードを割る。厳しい命令を乗り越えたときの達成感は確かなものだ。
「色欲」は他者との肉体的な交わりが必要となり、「散財」は金の浪費を要求する。
「殺戮」は誰かの命を奪わなければならず、「征服」は危険な冒険や武力制圧を求める。
個人的に印象深いのは「色欲」と「殺戮」の2つ。
「色欲」はそのカードを使ったが最後、相手が妻でもない限り十中八九、関係が変な方向にこじれるし、「殺戮」は命を奪うのだから当然後味は悪い。やむを得ず仲間や家族を手にかけた時なんかはめちゃくちゃ引きずる。
全てのカードは4つのランクに分けられる

カードにはランクがあり、上から「金」「銀」「銅」「岩」の4つに分かれる。金ランクにある人物は銅ランクの人物より総合的に優れていると判断される。
そしてスルタンカードにもこのランクがあり、もし「銀の殺戮」を引けばあなたは銀ランク以上の人物を殺さなければいけない。

金のスルタンカードを割るのはかなり骨が折れる。
さてここで問題だが「金の色欲」を引いてしまった場合、あなたは誰を対象に選ぶ?金ランクの人物はごく一握りだし、ほぼ国の中枢を担う人物ばかりだ。国の重要人物が集まる場所といえば…そう王宮だ。

そこで王宮を覗いてみると、↑こんな感じだった。金ランクにいるのは、宰相と王妃、そして…スルタンだ。誰がいけるのかはあなたの想像にお任せするが、全員ややこしいことになりそうなのは間違いない。
無限の物語が一つの世界に「物語的オープンワールド」

オープンワールドと同じ感動

本作をプレイ中、筆者は感動を覚えた。自分の選択で無限に物語が生まれていく体験に。
そしてその感動は体験した覚えがあった。具体的に言えば「オープンワールドを最初にプレイしたときの感動」と同じだったのだ。
ただし本作はオープンワールドとはシステムがまるっきり異なる。かなり悩んだ末、筆者は本作を「物語的オープンワールド」なのではないか、と直観した。というか自分の中で本作を「物語的オープンワールド」と称することにしっくり来たのだ。
以降は、より筆者の主観が強くなることを留記しておき、本作が持つ「物語的オープンワールド」の面白さに迫りたい。
広大な物語空間

オープンワールドの定義をまず確認しよう。デジタル大辞泉では「コンピューターゲームの舞台となる仮想空間を、プレーヤー自身の操作するキャラクターが自由に行動・探索できるよう設計したもの」とされている。
簡単に言えば「広大な空間を自由に探索できるシステム」を指すだろう。また暗黙の了解として、オープンワールドはもっぱらアクションゲームであることも大事だ。
さて『スルタンのゲーム』には広大な空間がない。アクションゲームですらない。その点で本作をオープンワールドと称するのには明確に無理がある。

しかし、本作には広大な「物語空間」がある。
あるイベントから発展して無数のイベントが発生し、その先のイベントも無数に発展していく。本作は物語が枝分かれし広がっていくのだ。
そして個々のイベントや物語は大抵の場合、独立して存在しない。地下茎のように繋がることもある。

とある戦闘狂の少女は、「白サイを討伐するイベント」と「決闘イベント」を経て仲間になる。イベントが結びつくことで戦闘狂の少女の物語は描かれるのだ。
更に、それ以降、戦闘狂の少女を手伝っていたら、何の関係も無さそうな冒険好きの貴族の物語と合流し、話がドラゴン討伐の方へ進展する、なんてことも。
イベントという点と点が結びつくことで物語という線となり、その物語も結びつくことでより大きな立体的な物語群となり、うねりを生んでいくわけだ。

その立体的な物語群は様々な形をとる。
魔法や神の話になったり、革命や政治の話になったり、人道救助の話になったり、愛憎入り混じるラブロマンスの話になったり。あるいは全てがごちゃ混ぜになったり。
辿る結末、対峙する敵、肩を並べる仲間はあなたの自由な選択でほぼ無限通りに変わる。先の戦闘狂の少女は仲間にせずスルタンカードで殺すこともできるし、冒険好きの貴族と喧嘩別れする可能性もある。
本作には「広大な物理空間」こそないものの、「広大な物語空間」が存在する、と言えるのではないだろうか。
好奇心をくすぐる物語シミュレーション

またオープンワールドには多くの場合、物理シミュレーション的な楽しみ方がつきものだ。ゲーマーなら誰しもグラセフで特に理由もなく、自動車で歩道を爆走し街人を吹き飛ばした経験はあるだろう。
物理シミュレーションはプレイヤーが起こした行動で世界が反応する手触りを伝えてくれる重要な要素だ。
『スルタンのゲーム』には物理シミュレーションは存在しない。物理演算するための空間がないから当然だ。しかし、「物語シミュレーター」はあるのではないだろうか。

先述したように本作はイベント1つとっても、そこに配置する人物を変えれば予測不能な反応を見せてくれることがある。
不気味な鏡が引き起こすイベントは分かりやすい例だ。作中、主人公はある古びた鏡を発見するのだが、その鏡の前に連れていく人物によって、その後の展開は大きく様相を変える。
『スルタンのゲーム』では、誰を配置するかで変化する物語を一種のシミュレーションとして楽しむことができるのだ。
「物語的オープンワールド」

本作においてプレイヤーは、無限の可能性を秘める物語空間を自由に漂ってイベントを観測する。それが連続することで、プレイヤーごとに独自の物語が紡がれていく。
加えて物語に参加させる人物を自由に置き換えることでシミュレーター的な楽しみ方もできる。
思えばその挙動は「オープンワールド」のゲームと同じではないだろうか?筆者はここに「物語的オープンワールド」を見た。

『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』が「オープンエア」と公称したように、本作を「オープンストーリー」と呼ぶのもいいかもしれない。
本作の物語は可能性に開かれている。
オープンワールドの面白さの肝は「一直線じゃないプレイが楽しめる自由度の高さ」や、「自分の行動で世界が応答する楽しさ」だと筆者は考える。
その点、本作の持つ面白さはそれと全く同じだ。
『千夜一夜物語』が持つ物語的拡がり

本作がベースにしている『千夜一夜物語』(アラビアンナイト)は皆さんも名前くらいは聞いたことがあるだろう。アリババやアラジン、シンドバッドが出てくる物語だ。
『千夜一夜物語』の大まかなあらすじとしては、暴虐な王からの処刑を逃れるため、賢い娘シャハラザードが毎夜、物語を語っていく形で話が進んでいく。『スルタンのゲーム』では、美術や世界観をはじめとした骨格部分が共通している。

『千夜一夜物語』の成立の過程にも注目したい。『千夜一夜物語』は民話集であり、様々な作者の手によりニュアンスを変化させながら、各地の民話などを吸収しつつ、現在の形として成立したとされている。
そうした成立過程もあって『千夜一夜物語』にはいわゆる「バージョン違い」が多く存在する。恐らくシャハラザードが語ったという器があれば、書き手の裁量で多様な話を盛りこめたのであろう。つまり語り手の数だけ『千夜一夜物語』は存在しうるのだ。
これは『スルタンのゲーム』でプレイヤーの数だけ物語があるのと重なる。『スルタンのゲーム』の基礎となった『千夜一夜物語』もまた物語的に開かれていたと言える。

加えて本作は、MOD管理画面をゲーム内に採用するなど、ユーザー制作コンテンツにも寛容な態度を持つ。導入するMODでニュアンスを微妙に変えながら、新たなストーリーラインが追加される様は正しく『千夜一夜物語』さながらの在り方だ。
グダグダ語ったけど、このゲーム面白いです

本作は言ってしまえば「読むたびに物語が変わる魔法の小説」だ。
プレイの度に、敵も仲間も最終目標もガラリと変わり、前回は大親友と呼べるまでに仲良くなったアイツが、今回は憎しみの籠った目で殺しにくるこ…なんてのはザラにある。
だから面白い。少なくとも筆者は自分の選択で物語を捻じ曲げる楽しさを確かに感じた。

「物語的オープンワールド」という大味な切り口で見る本作はどうだっただろうか。ボードゲーム的なプレイ感と表現しても良かったのだが、デジタルゲームという要素も拾いたく「オープンワールド」の文言を入れ、このようになった。
ぐちゃぐちゃ御託を並べたが、このゲーム、間違いなく面白い。
魅力は物語だけでなく、秘術めいたアートワークの完成度も抜群だ。またイベントは深刻な話だけでなく、主人公が局部を人体改造したせいで厄介なことに巻き込まれるなど、笑えるものもかなり存在する。
もしあなたがスルタンのように退屈しているのなら、告げたい。「王よ非常に面白いゲームを持ってきました」。
■参考文献
『完訳 千一夜物語 全13冊セット』,2004,豊島与志雄・渡辺一夫・佐藤正彰・岡部正孝訳、岩波書店.
発売日など基本情報
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